PandoraPartyProject

シナリオ詳細

露命を繋ぎに

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●露命
 空も道も、とても暗かったように思う。
 おかあさん、と呼ぶ暇さえ少女には与えられず、気付けば薄暗いこの部屋にいた。
 少女が辺りを見回すと、同じ年頃の子たちが膝を抱えてうずくまっている。手足に生々しい縄の痕が刻まれている子ばかりだ。中には、殴られたらしく痣がある子もいる。自分も、彼らと同じように連れてこられたのだろうと、少女はようやく現実を理解した。
 穏やかなはずの夜の沈黙を破り、頭巾を深くかぶった大人が迫ってきた。その瞬間だけ、少女も覚えていた。
 怖かった。抱いた感情を思い出したが最後、歯止めが効かなくなり少女は啜り泣く。今にも叫びたいのに、周りの子と同じように泣くことしかできない。大声をあげれば、あの大人たちに何をされるか、彼女にも想像できた。
 縋り付きたい手も、呼びたい言葉も、行く宛てなく縮こまる。
 分厚い天井に覆われ、星影すら望めない地の底はいつまでも──いつまでも暗かった。

●情報屋
 鮮やかな色彩を纏う彼女の表情も、今日ばかりはやや沈んで見えた。
 嗚呼、と吐き出した息さえ暗鬱な色を含んでいる。
 おかげで『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は、イレギュラーズを視認しても、喉元で痞え、すぐには言葉を紡げなかった。
「子どもたちが浚われたの」
 だから端的に、あらましを述べる。
「うちの子を助けてほしいと、母親たちからローレットへ依頼があったわ」
 ひとりふたりではなく、まとめての切願だ。
「鉄帝に、モリブデンと呼ばれるスラム街があるの。そこが拉致事件の現場よ」
 軍や警察に頼ろうにも、彼らは偏見の眼差しを向けるだけで、まともに取り合わない。
 スラム街という環境が、事態を加速させていた。
「拉致、と称した通り。今回の犯人たちは随分と荒々しいのがお好きなよう」
 浮かばぬ顔のまま、プルーは息を吐く。
「先ず、事件発生時の状況について話すわね」
 母親たちの言によれば、ほんの少し目を離しただけ。あるいはちょっとそこまでのお使いだった。
 外で遊ぶ犬を家へ入れようとした子、向かいの家へおかずを分けて貰いに向かった子──相手は、そうした日常生活においての隙を狙った。夜陰に乗じて、かれらは犯行に及ぶ。
 連れ去り現場の目撃者は、家族のみだ。それも犯行の直前や瞬間ではなく、走り去る背を目撃してばかり。それでも、わかっていることは多い。
 闇の中で走り去った男は二人。いずれも足が速く、迷いなく細い路地も駆け抜けたことから、周辺の地理は仔細まで把握しているはずだ。
 男たちの服装は平凡だが、頭巾をかぶって逃走していたそうだ。
 プルーがそこで薄く瞼を伏せる。
「……該当するスラム街に、犯罪組織の拠点があるのを突き止めたわ」
 組織といっても少人数で、日頃は窃盗や強盗を主に繰り返していた集団だ。
 しかし今回は、ほんの数日の間に拉致事件を立て続けに起こした。よほど子どもたちが入用なのだろう。だが身代金の要求は今のところ無い、となると。
「誰かに依頼されたのでないなら、子どもたちを何処かに売るつもりかも」
 いずれにせよ、快いものではない。
 プルーはそこで、現場付近となるスラム街の地図を差し出す。複雑に入り組み、細い路地が多くまるで迷路のようだ。
 拉致が発生した一帯をプルーが指差し、そしてすうっと指先を滑らせた。
「この辺りは、スラム街の人たちが仕事に使う作業場や倉庫が多いの」
 職場が多ければ露店も多い。しかしそれも昼間の話で、暗くなると日中の喧騒が嘘のように静まり返る。
 そして地下への階段があるのは、この一帯でたった一軒。そこが犯罪組織のねぐらだ。
「出入口は階段を下りたところの一カ所だけ。窓は無いけど、換気用の孔はあるみたい」
 元々この拠点も作業場だったらしく、おおよその構造は判明している。
 扉を入ってすぐは通路だ。通路の先にある扉を抜けると、少し大きめの部屋に出る。
 大部屋には、更に奥へつながる扉が二つあった。二部屋のどちらかに、通風孔がある。
 一通りの情報を伝えたのち、悲しげにプルーは視線を床へ落とした。
「……ミルキーホワイトな子どもはいつだって、悪い大人の餌食になってしまうのね」
 そう呟いた彼女の双眸が、再びイレギュラーズへ傾く。
「悪党はともかく、子どもたちは皆、無事に帰してあげてちょうだい。……お願いよ」
 恭しく告げて、プルーは物憂げにきびすを返した。

GMコメント

 お世話になります。棟方ろかです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●成功条件
 浚われた子ども『6人』全員の無事と、敵『6体』以上の撃破。

●ロケーション
 到着は夜。スタート地点は、スラム街の路地または犯罪組織の拠点付近。
 スタート地点は皆様のプレイング(作戦)次第ですが、主戦場は拠点内です。
 なお、浚われた子どもたちの名前、年齢、見た目の特徴は、母親たちから得ています。

・拠点の入口は、地下階段を下りたところにある木の扉。
・拠点に入ってすぐは通路。外の様子を扉越しに窺い、異変を鐘で報せる見張りがいます。
・通路の先にも木の扉。テーブルを囲んで一味が屯する部屋に繋がっています。
 部屋はそこそこ広いものの、酒瓶などのゴミが床に散乱。
 異変などを察知しない限り、ここの敵はポーカーをしながら飲み食いしています。
・敵が屯する部屋の奥に、扉がふたつ。
 どちらかが、子どもたちが閉じ込められた部屋。もう片方は組織メンバーの寝床。
 寝床の奥には、地上へ通じる通風孔も。(一般的なネズミぐらいなら入れる大きさ)
・新たな子どもを浚うため、スラム街の路地に2体うろついています。

●敵
 拠点内外合わせて8体。ポーカー組のみ鉄騎種で、他は人間種。逃亡の可能性あり。
 ポーカー組が他より強敵。とはいえ他も難易度相応の強さです。

・見張り×1体
 ナイフ持ち。入口付近の見張り。異変を仲間へ知らせる役目。
・ポーカー組×3体
 2体は鉄甲装備。1体は短剣持ち。いずれも身軽で素早い。
・仮眠中×2体
 寝床にいる。寝ている間は武器なし。起きるとすぐに短剣を持ち出す。
・実行犯×2体
 ナイフ持ち。子どもを浚おうと物色しているため、拠点へ戻るのは少し後。

●NPC
 救出対象の子ども6人。齢6~10歳の男女。人間種。
 囚われている部屋の奥で、寄り添うように怯えています。
 殴打や拘束により負傷している子が殆どです。

 それでは、ご武運を。

  • 露命を繋ぎに完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
ヨハン=レーム(p3p001117)
ステンレス缶
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
ティリー=L=サザーランド(p3p005135)
大砲乙女
桐神 きり(p3p007718)
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
リコシェット(p3p007871)
跳兎

リプレイ

●夜
 筒闇に青がはばたく。
 愛らしい小鳥の目を通して『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)はスラム街を見下ろした。
 空をゆく一羽があれば、道を走る鼠もある。
 星影すら届かぬ夜陰に乗じて、鼠が通風孔を駆ける。道中ひと気も無ければゴミも散乱していなかったが、構いはしない。食事にありつくのが目的ではなく、拠点への侵入がこの鼠の目的だ。
 通風孔を抜けると二つの寝息が聞こえた。『跳兎』リコシェット(p3p007871)の鼠は、仮眠中の両名に覚られぬよう寝床を抜ける。その先の部屋では、ポーカーに明け暮れる男たちの卑しい笑いが響く。酒瓶やゴミが散る床を走り、ちうちうと鳴いて漸く男たちが鼠に気づいた。
 だがゲームに多忙な男たちは、うろつく鼠を視界の隅に捉えるのみで、追い払おうともしない。鼠が涌くのも日常茶飯事のようだ。
 だから鼠は迷わず部屋の更に向こう、通路に待機した見張りの元へ向かう。入口扉を警戒する見張りも、やはり鼠を気にしない。しかし飛び掛かられたら話は別だ。脛に齧り付いた鼠を、驚いて見張りが払いのける。
「何しやがるこの鼠野郎ッ!」
 苛立ちをあらわに男が鼠を蹴飛ばそうとする間、かれが見張る筈の木扉に、反対側からそっと寄り添う気配があった。
 鉄針を差して形状を探る桐神 きり(p3p007718)のものだ。切り込みのパターンを難無く読み解き、きりは仲間へ笑顔と首肯を示する。
(時間が掛からなくて良かったです)
 破壊もやむを得ないときりも考えていたが、スムーズな解錠が叶った。おかげで乗り込むのにもたつきもない。
 覆面を被り実行犯を装った『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)が真っ先に突入する。
「どうした? 鼠に遊ばれるなんて情けないな」
 ラルフが巧みに振る舞えば、鼠への報復に集中していた見張りの目が彼を捉えた。
 身軽な『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)の一撃が見張りの喉笛を捌く。おかげで鐘で異変を知らせる間もなく、男は仰臥した。
 四肢を投げた男の身体で通路を塞ぎ、『他造宝石』ジル・チタニイット(p3p000943)が顎を引く。
「これで多少時間は稼げるはずっすよ」
 逃走を阻むため手を打つのは重要だ。ラルフもワイヤーを通路に巡らせ、念には念を入れる。
 傍にはきりが立ち、仲間たちへ手を振った。
 入口付近を警戒するきりに見送られ、『大砲乙女』ティリー=L=サザーランド(p3p005135)は前方を見据える。扉の向こうから、わずかに漏れてくるのは男たちの笑い声。
(私たちが何とかしてみせるわ。イレギュラーズとして……いいえ、一貴族として)
 栄えある光輝を胸に抱いて、ティリーは歩み出す。
 『孤高装兵』ヨハン=レーム(p3p001117)も音を立てぬよう注意を払い、扉へ視線を注ぐ。
(しっかり頑張らないと)
 秘める意思を戦意に換えて、ヨハンが構える。
 そんな彼らの想いを糧に扉は開かれた。なだれ込んだイレギュラーズによる襲撃は、遊戯に集中していた男たちをぎょっとさせる。侵入者だ、と咄嗟にあがった賊の声で、部屋の空気が一変する。
 時機を逃さずリコシェットが口火を切る。
「さぁ、作戦開始だ」

●始
 テーブルを囲っていた男たちとの静かな対峙は、ほんの一瞬だった。次の瞬間には各々の得物が、手足が、成すべき役割のため動き出す。
 突然の出来事に、考えもせず反射的に鉄甲で殴り掛かってきた男へ、逸早くマルベートが双槍で返す。紫雷が弾け、痛みを覚えるよりも先に鮮血を散らして男の足が滑った。
 マルベートがすかさず転倒する男と床の間につま先を挟むと、その細い足で身を支えられた男が目を丸くする。ふ、と吐息だけで笑ってマルベートはすぐに空き瓶のない床へ男を転がした。
 一度クッションを挟んだため大した音も立たず倒れた男へ、今度はラルフが仕掛ける。編んだ術式を掌に寄せ、男の顔面を鷲掴みにした。
「フン、ケチな人攫いかと思ったが」
 来たる時を待つラルフの一撃が、男の面差しに浸みる。
「何やら一丁前に背後で蠢いてるようじゃないか」
 ラルフの声音は、男に恐怖という感情を覚えさせた。走る悪寒に構わず、男がラルフの手を引き剥がそうとする。そこへもう一人の男が脇から飛び込み、ラルフを殴りつけた。
「いったい何処から嗅ぎ付けてきやがった!」
「わからねぇが、やっちまえば同じだ!」
 奇襲による動揺や困惑で動きも鈍れば幸いだったが、男たちの覚えた驚きは瞬く間にたち消えてしまう。不意の事態には多少なりとも慣れているのだろう。
 かれらの様相にラルフは眉値を寄せる。
「……クズめが」
 終いの言を呼気に混ぜたラルフへと、ジルが治癒の魔法を施す。
「いけるっすよ!」
 それだけ告げたジルが視線を逸らした先、短剣を握る男が子どもたちのいる部屋へ逃げ込もうとする。
 ドアノブへ触れる寸前の汚い手を、しかしヨハンの名乗り口上が遮った。たじろぐ男が振り返ったのを認めて、彼は続ける。
「誇り高いゼシュテルの人間が、こんなことをするのはダメですよ!」
「誇りじゃ飯は食えねんだよ!」
 ヨハンがあえて正道を訴えれば、男から苛立ちが返る。
 子どもたちを人質にとらせはしないと、意志を乗せたヨハンの第一声は、確実に男のまなこを血走らせた。
「踏み外した道を正すため! 容赦なく行きますよ!」
 連ねるヨハンの言に男の意識が向く頃、セレマとリコシェットは寝床へ足を踏み入れていた。鼠の目で寝床の配置は把握している。だから突入と同時に機先は制したがしかし、仲間の大声にか、あるいは殺気立つ戦いの緊迫感にか、仮眠中だった男たちは丁度目を覚ましたところで。
 寝起きの脳が働く前にリコシェットが振りかぶる。寝床への道を開くと同時に取り掛かる算段でいたため、手際も良い。
 リコシェットのSADボマーが過たず男の元で爆発し、男も寝床も盛大にひっくり返った。
(最近よく聞く、人攫いか)
 爆風の狭間を見つめるリコシェットの双眸が、激情に揺らぐ。
「反吐が出る」
 身体を起こそうとする男二人を視界に入れ、リコシェットは爆発の衝撃で転がってきた寝台の足を弾いた。彼女が障害物を退けた瞬間、迷わず男の元へ突撃したのはセレマだ。彼は怯まず男の眼前へ飛び込み、そして。
「婦女子に手をかけるとは度し難く醜いね」
 囁きながら立ちはだかる。セレマに阻まれ、仲間との合流が果たせず男は露骨に舌打ちした。
「起きたみたいっすよ! 仮眠組!」
 奥の部屋にも目を配っていたジルが、鉄騎種を相手取る仲間たちへ報せながら、癒しの魔法をマルベートへ降りかける。
 すると今し方敵の短剣が切り裂いたマルベートの肌から、痛みの色が引いていく。
「踏ん張って下さいっすよ!」
 背にかかるジルの声を受け、マルベートが頷いた。
 彼女たちの遥か後方、通路で敵の逃走を阻むべく入口扉を守っていたきりは、あらら、と陽気な声を発しながら敵陣を遠目に見据える。
「やっちゃいましたねー、あの人たち」
 耐えぬ笑みは楽しげながら、その手から放つ呪いの斬撃は熾烈だ。相手の守りをも無視した、凄まじい一撃が男をふらつかせる。
 児童の誘拐は、大の大人を狙うよりも簡単だ。だが無垢なる子らを巻き込んだ時点で、かれら犯罪者たちの未来は定まったようなものだと、きりは考える。
(後々こわーい人たちに目を付けられるのが、世の理ですから)
 きりは仲間による鉄槌が下されていくかれらを眺め、小さく笑う。
 直後、よろめく男を襲ったのは、ティリーの巨大な火砲だ。砲撃に遭った鉄甲の使い手が、崩れるようにして床へ沈む。
(吐き気がするほどの外道ね)
 薄桃の眼差しを潤ませて、ティリーは倒れた男をじっと凝視した。
(子どもを拐って、人身売買にまで手を染めるなんて)
 幼子たちが売られてゆく光景を想像してしまい、ティリーも平常心ではいられない。だから彼女は、堪えるように息を飲み込んだ。

●戦
 セレマとリコシェットの居場所が俄に騒がしくなった。
 代償を恐れもせずセレマの振るう剣が、指輪が、そして鎧に秘めた契約が、セレマが倒れることを許さない。病弱の身も、死を遠ざける武具により立ち続ける。今にも倒れそうな顔色なのに全く膝を折らぬセレマに、怒りに囚われながらも男たちから血の気が引く。
「この手合には、人生にもっと酷い事があると教えるべきさ」
 そうだなあ、と目線を動かしたセレマは、男を抑えつつ無数の瞬きを放つ。眩んだ男はまもなく力尽き、もう片方を一瞥してセレマが唸る。
「具体的にどういう目に遭うかは……何かいい案あるかい?」
 セレマが振り返るとリコシェットがいた。
「任せて。容赦はしない」
 言いながらリコシェットがもう一人へと贈るのは、精密な射撃。
「お前らは、ここで終わりだ!」
 まともに喰らって倒れた男からは、命乞いも謝罪の言葉も当然なかった。
(……大っきらいだ。こういう奴ら)
 苦々しく噛んだ言葉の欠片を、リコシェットは飲み込む。
 そのとき、不意にセレマの身が固まった。何かを探るように瞼を閉ざし、知り得たものを言葉にする。
「実行犯が戻ってくる」
 どうやら実行犯に今宵の収穫はなかったらしく、二人分の影しかない。
 直後、拠点外の気配にも気を巡らせていたきりが、帰還した小鳥に気づく。少しばかり遅れて、入口の扉が軋んだ。
「戻ったぞ。ったく、今日ばかりは誰も出てやがらね……」
 実行犯二人が、入口の扉を開けると同時に視認したのは──通路に転がった見張り役と、逃走防止用の仕掛け、そしてイレギュラーズの姿。わざわざ拠点に入るまでもなかった。異常事態だと察して即きびすを返した二人に、すかさずきりが蒼を走らせる。軌跡にまで残る澄んだ青が美しく男を薙ぎ、背を傷つけた。しかし男は、痛みを覚えながらも全速力で暗夜の向こうへ逃げてしまう。
 矢継ぎ早に通路を駆け抜けたのはマルベートだ。実行犯を優先する心積もりでいた彼女は、通路の障害物と扉を越え、逃げ損ねた男へ死すべき定めを与える。
「腰も落ち着けずに出ていくなんて、無粋な真似はやめてもらいたいね?」
 淡泊なマルベートの物言いに、男から声にならない悲鳴があがった。だがかれはそんな彼女へと切りかかる。怒りに囚われたかれを留めておくのは、もはや容易い。
 一方、室内での激戦は続いていた。
 クロノプリズンの効果が発動し、鉄甲を振るっていた男は痺れて動きが鈍る。それを認めたラルフは口端へ笑みを刷き、義手に力を込めた。
 彼の掌が掴むのは間違いなく哀れな敵。リーダー格と思しき短剣使いの懐へ飛び込み、一撃を見舞う。ひとたび叩きつければ、あとは効果を発揮する機を待つのみだ。
 しかし仕返しとばかりに振るわれた短剣が、ラルフを襲う。それでも彼に動揺は微塵も走らない。
 代わりに飛んだのはジルによるブレイクフィアーだ。立ち位置に気を配り、苦悶を拭う癒しをもたらす。
「子どもたちを犠牲にはさせないっすよ」
 戦場に降る優しさからは程遠い熱さで、ジルの眼差しが敵を射抜く。
「命を無駄に磨り潰す行為なんて、僕は認めないっすから!」
 知ったことか、と犯罪組織の男が怒気を飛ばす。
 その間、鉄甲での殴打を繰り出す男と向き合うヨハンが、二種の武器を慈悲深き正義の鉄槌へと変貌させた。
(悪人とはいえ、命は奪う事なくいきたいですね……)
 丸くなくとも収まれば上々だろうと、ヨハン自身思う。そうして男へぶつけた一手が、防ごうとした鉄甲を砕く。ヨハンの鉄槌に煽られ、男の身体も地面に叩きつけられる。
 そのまま動かなくなった男を確かめたティリーが、撃ちだした魔弾で短剣を握った男を狙う。何処へもいけない程に苦痛を植付けられ、かれが歯軋りした途端、苦しげな声を漏らして崩れ落ちた──先刻埋め込んだラルフの一撃が、今になって効いてきたのだ。
 抜かりなくラルフが男の足を斬り、狼藉を封じると、きりとマルベートが舞い戻る。怒りのまま抗った敵を倒してきたところだ。
「ご愁傷さまですね」
 拘束されたリーダーらしき男へきりが微笑むと、悔しげな表情がかれに浮かぶ。
 短く息を吐いたマルベートが、怒鳴りもしない男を見下ろし口を開く。
「……感謝すると良いよ」
 告げた一言は端的に。
「子供はいつだって悪人の餌食になるものだ。けど、悪人もまた別な誰かの餌食になるものだよ」
 最後まで語らずとも男には伝わった。今がその時だという現実に打ちのめされ、すっかり男は俯いてしまう。

●子どもたち
 静かになった男たちの身を、子どもの目の届かないところへジルが率先して運んでいく。ちらりと振り向くジルが気にかけたのは、身動きままならぬ男へ近寄るラルフだ。
(ラルフさん、まるで全てに怒っているようだったっす)
 戦いの間に知った姿を想起し、ジルが目を細める。
 そうしている間に、ラルフは拘束した男の前に立った。
「誘拐した子供達を何処へやるつもりだ?」
 単刀直入な詰問に、男は押し黙る。ラルフは床に臥せた男たちを顎で示して。
「どうせもう終わりなんだ。洗いざらい吐いて楽になるのがいいだろ?」
 揺さぶりをかけるも、信頼できる情報を小悪党は口にしない。かといって挑発や命乞いじみた言動に出るわけでもなく、ただただ口を閉ざす。
 応酬を眺めていたヨハンが、そっと言葉を挟み込む。
「逆らえないような事情が、あったのですか?」
 機械仕掛けの耳をぴこぴこと動かして、ヨハンは続ける。
「同郷のひとがどれだけ道を踏み外しても、それでも僕は……信じたいのです」
 真摯な態度を貫くが、黙秘を保つ男に話をさせる試みは利かない。
 そのとき、生き残った──生かされた男の前へティリーが身を屈める。
 子どもたちの視覚や聴覚へ届かないことを確かめた後、彼女は寒さにも似た穏やかさで唇を震わせる。
「罪を犯した者が償わずに死ぬなんて、許して良いものではないわ」
 かれらの行いは罪深き行為なのだと、ティリーが精魂込めて訴える。
「被害に遭われた方達は、心を痛めたままよ。……だから犯した罪を認めて、悔いて、償って」
 反省の素振りすら見せない男へティリーが言い募るも、男は黙したままだ。口を固く閉ざした男に、これ以上の言葉は届かないだろう。だが何ひとつ伝えないよりかは、少なからず揺さぶるものがあるはずだ。戦いでここまで痛め付けられた上での言葉なら、尚更。
 紡がれるティリーの話の後方で、ジルは唇を引き結んだままのラルフへ声をかける。
「……大丈夫っすか?」
 静かな問いへの返事はなく、ただただラルフが独り言を落とす。
「……そう容易く、真っ当な存在になれるものか」
 誘拐を生業とし、子どもを売り飛ばすのも躊躇わない存在だ。やはり変われはしないと、過酷窮まりない現実を多く見てきたラルフは、確かな眼識で射抜いた。
 一部始終を見守っていたマルベートは、細い息を吐く。やはり餌食になるべくしてなった男なのだろうと、思考を沈めながら。

 その頃、宝石にも似た煌めきを瞳に宿して、セレマが子どもたちへ視線を向けていた。
「痛かったろう? 手当するからね」
 善意を編んだ笑みで、そう声をかけていく。
 そこへ、賊への対応を終えたジルとティリーが合流する。
 ジルは笑みを絶やさずに、救急箱を取り出して声をかけた。
「もう大丈夫っすよ。怖い人達は皆、僕達が退治したっす!」
 悲しみを微塵も顔色に乗せず、ジルは言いながら医療の知識を活かして迅速に手当を始める。
 そのとき、白く繊細な腕で、強がっていた少年を含めた数人をティリーは抱き寄せた。
「よく頑張ったね」
 言うのも言われるのも慣れていない言の葉を、ティリーは確と音にする。
「へ、平気だよ……ぼく、平気だから……」
 同じ言葉を繰り返していた少年をも、ティリーはそうっと包み込んだ。少しだけ、手の行き場に惑いながら。
 その後ろで、リコシェットも子どもたちに呼びかけていた。
「安心しろ」
 一言目に放った声音は、本人が思ったものよりもやさしく響く。
「私が全員、きっちり送り届けるから」
 リコシェットの言い方に、少年たちから徐々に緊張が抜けていく。
 そこへ、きりがひょこっと顔を出す。見かけの歳も近いきりだ。あどけない笑顔を向ければ、子どもの輪からも緩んだ表情が返る。
「今日は星がよく見えるんですよ、帰りながらお話しましょう!」
「お話……お話ってどういうの?」
「そうですねー、七つの空を流星に乗って旅する熊さんのお話とか、どうでしょう」
 手品のように次々と出した単語は、子どもたちの興味を惹く。
 きりが物語を紡ぎ、イレギュラーズたちに導かれて子どもたちは帰路についた。
 今でも星影が眠る道の上。いつになく明るい子どもたちの声が響く夜だったと、イレギュラーズがスラム街の住民たちから聞かされるのは、後日になってからだ。

成否

成功

MVP

ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした!
 MVPは、諸々細かい部分まで気を配ってくださったあなたへ。
 ご参加頂き、ありがとうございました。
 またご縁が繋がりましたら、よろしくお願いいたします。

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