シナリオ詳細
<第三次グレイス・ヌレ海戦>麗しき閃光
オープニング
●第三次グレイス・ヌレ海戦
そのエメラルドブルーの海は青い空を映しているだけともいう。
ぽっかりと浮かんだ白い雲を蹴散らすように『戦場』には断続的な轟音が響いていた。
船影と船影が交錯し、始まった遭遇戦は加速的にその規模と頻度を増していた。
――海域グレイス・ヌレ。
海洋王国北東の島嶼部一帯を指す言葉である。
多くの小島が存在するこのエリアは風光明媚と名高い。複数の島から遠浅が広く広がる海岸線はビーチを愉しむには格好であり、平時ならば多くの観光客も集める海洋王国の名所である。
しかし、このグレイス・ヌレは各国からそれと同時にもう一つの顔を知られている。
「……やっぱり一筋縄ではやらせてくれねぇなぁ」
即ちそれは、旗艦アイゼン・シュテルンの甲板で腕を組むゼシュテル鉄帝国今代皇帝――つまり『麗帝』ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズに困り笑いをさせる程に『厄介』な古戦場としての姿である。迎撃有利のこの海域は過去に二度、海洋王国を狙った外敵を退けている。一度は天義――もう一度はこのゼシュテルが相手である。
「状況はどうなってる? 迎撃の規模は?」
「ハッ、畏れながら敵総数は不明。敵船は中小の木造高速艦を中心にした小回りの利く編成です。正面からの砲撃戦ならば我々の新造艦に及ぶべくも無いでしょうが……」
「ゲリラ戦に徹してるんだろ?」
「……畏れながら」
自身の言葉に応じたミハエロ・ヴァン提督の歯切れの悪い言葉にヴェルスは肩を竦めた。
グレイス・ヌレは水深が浅く大型艦は不用意に動けば航行機能に問題を生じる可能性が高く、慎重な進軍を余儀なくされるのは否めない。又、海洋王国首脳部以外が知らぬ秘密の軍事拠点が相当数存在している事は知れた事実である。それは天然の海中洞窟や時に『観光地』等にまで巧みに隠匿され、一帯を侵攻する敵に牙を剥く。考えなくても厄介極まりないのは間違いない。
環境から来る進軍速度の低下と、そこを付け狙うゲリラ戦の名手共。
鉄の大艦隊が苦労するのも止むを得まい。
「唯一、悪くない情報も……」
「海賊達か」
「はい。海洋王国の海賊連合艦隊が海洋王国軍に敵対姿勢を取っています。
我々の進軍に合わせるように『エスペヒスモ』を出撃したとの情報も。
……どうやら、我々の秘匿はかなり甘かったようですな」
ミハエロとヴェルスはこの言葉に双方苦笑する。
敵の敵は味方と考えれば今は味方だが、この進軍の大義名分は『鉄帝国船舶攻撃に対しての厳重抗議』である。連中こそ加害者の一翼なのである。
(……この状況を避けてリッツパークの喉元まで進軍出来れば砲艦外交もさぞ捗ったんだろうがね。準備万端の迎撃をしてきた辺り――ベネクトにスパイでも混ざってたか)
鉄帝領内において冬場凍結しない軍港は『不凍港ベネクト』に限られる。
つまり、鉄帝の動きを警戒しているならば比較的動きは読み易い筈だが、ヴェルス自身、今回の計画は周囲に漏れないようかなり慎重に進めていた。海洋王国首脳、軍部が大号令に浮かれていたならば今回の話が露見した可能性は低い。
(女王か、ソルベか。これはソルベかな?)
航路の都合上、艦隊が大回りを余儀なくされた事も海洋に時間的猶予を与えた理由だろう。
海洋王国の主力は王国軍港ライオ・デ・ソルより出撃している筈だが、正面対決は鉄帝側の望む所に違いない。現状の問題は鉄帝艦隊が散発的な迎撃に騙される格好でこれを追撃せざるを得ず(鉄帝国の目的からして進軍しない選択肢は有り得なかったとも言う)、何だかんだでグレイス・ヌレでの戦いを余儀なくされてしまった方にある。海洋王国主力との対決は望む所だが、『ここで彼等に迎撃される』のは嬉しくないという訳だ。
耳をつんざくような轟音が再び何度も響き渡った。
それはこちらの放った砲撃であり、こちらが喰らった砲撃音でもある。
「被害報告! 装甲に被害軽微! 航行機能に問題はありません!」
「反撃開始、ってぇ――!」
「……やれやれだな」
幾度目か始まった砲撃戦に肩を竦めたヴェルスは、水平線を半眼で睨みつける。そこには新型のキャノンから煙を揺らす海洋王国軍艦の姿があった。彼等はロングレンジでの砲撃を主として戦い、船足の速さと地の利からヒット&アウェーに徹する事だろう。つまりはそれでジリジリと削り、主力の到着を待つのが狙いだ。深く、深くこのグレイス・ヌレに敵を引き込みながら――美しい風景さえ敵船の墓標とするかのように。
爆熱が空気を焦がした。
敵艦砲撃と共に美しい海に水柱を立てたのは上空より投下された爆発物だ。
「戦い慣れている。流石に面倒な……」
空を見上げたミハエロが思わず恨み節を口にした。
雲に紛れて接近した飛行種達が時折爆発物を落としてくるのだ。
「エネミーサーチを途切れさせるな! 船に連中を寄らせるな!」
ミハエロの処理は適切だが、研ぎ澄ませた『空挺部隊』が相手では、対空砲火も気休めにしかなるまい。
明るく気のいい海洋王国は今まさに海の男、女達の苛烈な側面を覗かせていた。
鋼鉄艦が簡単に沈められる事など有り得ない。だが、このままでは余り良い結果にはならないだろう。しかし、それはザーバが、ミハエロが、ヴェルス自身が理解していた事である。
「絶対に船を制圧されるなよ」
「……は?」
「この船は死んでも守れ」
応戦の檄を飛ばすヴェルスにミハエロは首を傾げた。
皇帝は海戦に慣れない。元よりミハエロはこの船ならず艦隊の指揮をする実動指揮官としてこの場にある。提督の矜持にかけても乗艦であるアイゼン・シュテルンを陥落させる心算等無い。それも皇帝が同乗となれば尚更だ――
「何、簡単さ。反撃といこう」
怪訝な顔をしたミハエロが頷くのとそう言ったヴェルスの姿が掻き消えたのは同時だった。
「――まさか。おい、双眼鏡をもってこい!」
部下に命じ、視線を敵艦に向けたミハエロは恐ろしいものを見た。
火線を引く流星の如く馬鹿馬鹿しいスピードで彼方まで移動したヴェルスはあろう事か敵船に単騎で斬り込み、多数を相手に大立ち回りを演じていた。
――軽く数百メートルの距離さえ、無かったかのように。
「そういえば無茶と機動戦が得手でしたな、貴方は」
成る程、皇帝がやった事も無い海戦に自信を見せていたのは『そういう』事か。
ロングレンジを保った所で、皇帝に斬り込まれては彼等も為す術は無い。
皇帝が敗れれば最悪だが、それは殆ど有り得ない。
ならば、少なくとも彼等のやり方の一つは否定される事だろう。ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズの光芒が褪せない限りは、彼等に安全地帯等ないのだから。
その麗しき閃光は海洋王国に、イレギュラーズに突きつけられたグレイス・ヌレ最大の障壁に間違いない!
- <第三次グレイス・ヌレ海戦>麗しき閃光Lv:23以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別EX
- 難易度NIGHTMARE
- 冒険終了日時2020年01月04日 22時35分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●時限作戦I
(あわわ、俺、本当にここに居ていいの?
確かに海洋のために頑張ったけど……)
『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)が思わず自問自答してしまう程に。平素、風光明媚を売りにした静やかなグレイス・ヌレのエメラルドブルーには轟きの砲火が響き渡っていた。
戦争特有のひりついた気配がそこかしこに充満している。
断続的に鳴り響く鉄の遠雷は互いを引き裂かんとしきりに牙を剥き合い、美しい水面に高々とした水柱を上げ続けていた。
鬼の居ぬ間に洗濯という言葉がある。
つまりそれは何も本当に洗濯をしようという訳ではなく、怖い人物、気兼ねのする人物の居ない間に思いきりくつろいで気侭に息抜きをするという意味であるのだが、まぁ――
「息抜きって言うにはどうにも物騒過ぎやしないかと思うんだがねぇ」
――間近に迫る黒鉄の戦艦、その船影を見上げた『死神二振』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)の言う通り、あんまりにもあんまりな話なのに、それでもその表現が似合う程に。今日、彼を含めた十人のイレギュラーズが任された戦場は『重かった』。
「『間違ってないのが性質が悪い』」
「大物が来るとは予想してたけど……きっと、今日は厄日ね。本当に」
幾らか皮肉気に口元を歪める彼の言葉に『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が首肯した。
「ソルベ殿に最精鋭と見られているとは!
これはもう実質同衾! 結果を出せば結婚確実!
ところでヴェルス殿ってお金持ちですかね?」
「さあ……王侯貴族はお金持ちと相場は決まっているのですが、相手は敵艦に一人で乗り込む皇帝なのです。相場を全く外す人に相場が当てはまるものかどうか……
しかし、海洋もこの様な重要作戦を外部に頼るのはどうなのでせう?」
相当にピントのズレた『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)の胡乱な問いに、実に生真面目に小首を傾げた『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)だったが、傍目には『如才ない優等生』と映る事も多い彼女の本質は実際の所、少しばかり異なっている。
或いは体のいい捨て駒――とまでは言わないが鉄砲玉といった所か、とまず思案が過ぎるのは決して他者にめくられぬ彼女の聡明さと露悪、冷笑思考を裏付けるものである。
元より戦闘と警戒を続ける敵軍艦――それも旗艦に密かに乗り込み、敵提督であるミハエロ・ヴァンを無力化し、更に離脱を成功する――平時であれば作戦を考えた人間は正気かと疑うに十分過ぎる条件の揃った今日の仕事はその上で、更に利香の言及した『大物なる問題』を抱えていた。
大いなる問題――即ち皇帝ヴェルスは先程、敵艦を出撃した所であった。
たった十人の精鋭部隊はヴェルス――つまり鬼が帰るより前に作戦目標を達成せねばならない。
「ソルベ様の機転を活かせるか否かは俺達次第。やり遂げなければ……!」
「ああ。時間との戦いだが、落ち着いて一つ一つ確実にこなして行こう!」
「……さて、あちらにも奮闘して頂いて。往きて還りし物語と参りたい処なのですが」
ヘイゼルは自身よりは随分と前向きかつ純粋な『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)、『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)――『戦場でも運命的に惹き合う二人』の力強い決意を温く微笑んで、一先ずは肯定してみせた。
「思いの外、頑張って頂けているのは確かなようで御座いますが」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が半眼で空を見上げた。
雲間に幽かに動く影は海洋王国ご自慢の飛兵部隊の姿だろう。水平線の向こうからは皇帝に斬り込まれながらも怯まない軍艦達が不沈の『鉄の星(アイゼン・シュテルン)』を脅かすべく、プレッシャーを緩めていない。
成る程、付け焼刃で用意した割には見事に動きの良い海洋海軍の陽動、援護と目くらましもあり、一行は今まさに旗艦に接近しようとしている。ヘイゼルと同じく物事を性善説で考えない幻の場合、気のいいように見える鳥貴族も全幅の信頼を置くには些か心もとないシチュエーションには違いないが、まずは取りつく所までは上手く行きそうだという安心感もある。
(僕らしくはないのですがね)
嗚呼、さしもの幻をしても幾ばくかの希望的観測は計算に入れたくなる位にこの状況は難しい。
「……兎に角、しっかりやらないと」
誰一人欠ける事無く戻る為に――この戦争を終わらせる為に。
『普通のソードマスター』プラウラ・ブラウニー(p3p007475)の想いは自己に完結するよりも他者に向く。必要ならばその為の献身は惜しまぬと、この場に立った時から決めていた。
「十全を尽くして二足りぬ。今回の此れはそう言った類の依頼でしょう。
ではその二を満たすは何か――」
時は来た。これより始まるはグレイス・ヌレの結末を分かつ大立ち回り。
「――信念だと、私はそう思います」
『特異運命座標』彼岸会 無量(p3p007169)の言葉に間違いはなく是非も無い。
悪夢を切り裂く刃は、恐らく何時の世も不可能に挑む勇気に違いないのだから。
●時限作戦II
「何だ!? どうした!」
何者かの怒号が響く。
「敵か? 警戒網はどうした!?」
警戒網(サーチ)に頼ったのがまだしも甘かったという事である。
全員がステルス性を帯びた――徹底したイレギュラーズを広域探査で捕まえる事は不可能だ。
砲戦が、爆撃が手を取り、目を奪い、アイゼン・シュテルンを『楽な方』へと誘導した結果である。無論、ソルベ側が生み出したその隙を百点で答えたパーティの為した奏功にも違いない。
「さあ、行こう!」
プラウラが上げた煙幕に紛れ、十人が動き出す。
「敵戦力は船底と甲板上に多い。多分、船底は航行人員だから……」
「目標は恐らく『上』で御座いますね。甲板なのか艦橋なのかはさて置いて」
ポテトの感情探知で『警戒』の密度を読んだ。艦内の人間の多くは戦争に気を高ぶらせているそんな状態ではあったが、感情の色に関わらず感情の箇所を探す事で敵戦力の薄い部分を探す事は容易であった。ポテトの導きを受けた幻が比較的安全な場所を見極め、行動を開始。迅速に素早く。パーティはソルベが期待した通り、或いはそれ以上にもつつがなくアイゼン・シュテルンへの侵入を成功させていた。
目標は一先ず上と見る。
梯子を昇り、甲板に到達。ミハエロの姿はすぐには視認出来ない。
『視認は出来ずとも』。
「……艦橋司令室です。『最上位と思しき指令を出す男の声』を拾いました」
――攻撃? 狙いは十中八九、船の航行能力か俺のどちらかだ。
陛下の動きを縛るなら『船(あしば)』を止めるのが最短。
鉄帝国艦隊の統制を壊すなら俺を殺すのが最短だからな――
その場所を見据える無量の超聴力は特定の為の材料をこの時見事に拾っていた。
「ナイス」
無量の言葉にクロバが小さな笑みを見せた。
下馬評通りミハエロ・ヴァンは極めて優秀な司令官なのだろう。状況上、致し方ないとはいえ侵入まではともかくこの先は彼を『奇襲』する事は殆ど不可能と言えるだろうか。しかし同時に優秀な彼は自身を守る戦力の一部を船の航行機能の保護側に回さない事も有り得まい。
つまり、この先はどういう形でどういう戦力比で遭遇するかが勝負になる。とは言え、時間を稼げば勝ちのミハエロと時間が過ぎれば負けのイレギュラーズの立場はどうあってもフラットな状態には保たれまい。
だが、本丸の所在が大方の予想通り、甲板を見下ろす艦橋ならばまずここまでは間違っていない。
「それじゃあ――出てきて貰うか、引きずり出すか、こっちからご挨拶、かな?」
「プランは多い方が良いでせう。何れにせよこちらのペースが前提になりますが」
獰猛に歯を剥いたクロバに涼やかな顔をしたヘイゼルが応じた。
「こんな大舞台に立てて光栄です!」
自身の打ち立てる誓い、宣言こそ己が勇気となる事もある。
「美しき海を荒らす輩は如何なる者だろうと容赦しない!
皇帝、海賊の貴賤なく――全てこの俺が仇なすを打ち砕く刃となる!
イザベラ女王陛下、俺の忠節、どうかご覧あれ!」
気炎を上げた史之に遭遇した敵兵の一人が僅かに怯んだ。
「やあやあ! 御歓迎痛み入るでありますよ! しかし、少し数は合っていませんね!」
甲板にばらつく鉄帝国兵は全てが強力な戦闘員ではあるまい。しかしルル家の見た所、内四名は少なくともこの先の障害になる戦闘力を持っているように見受けられた。
パーティの作戦目標がミハエロ・ヴァン提督の殺害である以上――彼を守る、或いはイレギュラーズを妨害する戦力は少しでも各個撃破しておきたいと考えるのは必然だった。
「陛下の居ぬ間に――狙いは船の制圧か。舐めるなよ!」
「あら、舐めたりなんてしないわよ?」
得物を手に対抗の構えを取った敵兵の一人を利香が軽くいなしてみせた。
「今日の私は機嫌が悪いの……本気出させて吸い殺される覚悟は出来てるんでしょうね♪」
「軍人としての貴公等の忠勇、理解する。しかし、故ありてこの場あり。
戦場の常にて、この場、罷り通らん――!」
銀剣と妖刀――二つの刃を閃かせたリゲルの剣は澄んだ冬の空に瞬く気高い星の如き硬質で敵を撃つ。
旗艦に乗り込むだけはある――鉄帝国の精兵は簡単に崩れはしないが、少なくともこの場の強力でイレギュラーズに軍配が上がるのは当然だ。
鉄帝国側も反撃を試みようとはするのだが、
「……この程度……止めます!」
気を吐いたプラウラの幻狼滅牙が鍔迫り合いより、風圧と雷気を刃鳴散らす。各々の戦力差は大きくは無いが、この場に居る戦闘員の数において大きく劣る鉄帝側は劣勢を跳ね返す力を持っていない。
「ここは支える。リゲル、皆――しっかり。後ろは任された!」
取り分け、絶大な支援能力を誇るポテトの網は寡兵凡百に侵せるものではなく。飄々とした余裕を崩さないまま更にそこに佇むヘイゼルも加えれば誰に容易く破れるものになろう。
何よりの極めつけ、最大の危険は――
「堅い奴をぶっ壊すのは実際得意なんだよな」
「奇遇ですね! 知ってましたけど! 拙者もです!」
――クロバとルル家、この場にあつらえたような『瞬間火力』の二人である。
鉄帝国兵はそのお国柄か、防御方面を重視する堅牢な戦力が比較的多く、正攻法でこれを崩すのは中々骨が折れる場合が多い。しかして邪道の極みのような二人、即ち『死神二振』と『宇宙忍法』の共演は、殺傷と連続性と不安定を文字通りぶん回す狂気の連弾に他ならない!
下手な鉄砲も数撃てば当たる。
肝心要のその時にジャムらないとは言い切れないが、一先ずルーレットに勝利した二人の前に簡単に兵士が倒された。短期戦において時間を短縮するのが最上ならばまずは一つ賭けに勝ったという所か。
一方で、
「逃がさないって言ったでしょ? ……あ、まだ言ってなかったか」
「夢幻泡影――泡沫にして永劫の『奇術』をご覧あれ」
「一気に――決める!」
利香、幻、史之といった面々も手数と連携を武器にもう一人を押し込んでいる。
「く――!」
残る戦闘員二名が後ずさり、強敵を目の前に逡巡する気配を見せる。
このままならば押し切られるのは必然であり、そう長い時間をもつものでもない。
このままならばそれは間違いなく、イレギュラーズと相対する鉄帝国兵の戦いは暗澹としたものになっただろう。
このままならば。
「仮にも艦隊の旗艦に、そんな寡兵で乗り込んで――
どうやら、ここまでもこれからも。やりたい放題やってくれる心算のようだな」
提督ミハエロ・ヴァンがこの超早期のタイミングで艦橋より降りてこなかったなら。
●時限作戦III
「――――」
ヘイゼルは息を呑む。
(会敵は予想より随分縮んだ。時間的猶予は大いにプラス。
代わりに達成確率が、そう――)
ヘイゼルは状況を計算し、瞬間的にそのプラスとマイナス、双方の意味を理解した。
パーティは艦橋での立ち回りに重きを置いていた。不測の事態はセールする程存在し、流動的になる事を余儀なくされる現実の戦場にてプラン通りに話が進まないのは良くある事に過ぎないが、艦橋を目指す以上は必然的に甲板での戦闘は余儀なくされる。ならば強度のステルスを帯びるイレギュラーズとて、その存在を完全に露見するのは自明の理である。可及的速やかに敵戦力を駆逐し、艦橋にミハエロを押し込められる状況は恐らく至上だったが、やはり鉄帝国軍人に『騒ぎが起きた上で、引きこもって守っていて貰う』のは虫が良すぎる話だったかも知れないと考えた。
しかし、マイナスばかりではないのはヘイゼルの見立て通りである。
マイナスなのはミハエロが積極的に撃って出てきた事により、彼への奇襲が不可能になった点。
敵戦力を削り切る事は叶わず、彼が引き連れる追加戦力四名と残存三名に加算して相手取らなければならなくなった点。
プラスは言うまでも無く『このタイミングでミハエロと会えた事』である。
(拙速は巧緻に勝るとも言いますが、さて……)
パーティに架せられた任務は敵旗艦アイゼン・シュテルンを制圧する事、ないしはこの提督ミハエロを無力化し、この現場から離脱する事である。
可能かどうか分からない、旗艦制圧を早々に諦めた面々は作戦目標をあくまで提督個人の撃破――状況上、殺害の他ないと考えている――に絞っていた。
つまり、パーティが目指していたのは『一秒でも早くミハエロと会敵する事』であり、彼が艦橋より甲板に降りてきた事自体は、パーティの望みとも合致するものとなる。
しかして、その望みはあくまで原則論に根差した部分でしかない。
パーティの最終的な目標は『ミハエロを殺害し、逃走を成功するに到る事』である。
その可能性、確率を上げるのに必要なのは、邪魔になるであろう敵戦力を予め削り落とす事、或いはパーティ側の作戦を十二分に機能させ得る、敵を受け身の状態に押し込む『モメンタムの維持』になろう。加えてヘイゼルの意図の中では『戦闘不能者を出さない』事も重要視されている。まぁ、仲間想いというよりは『そうなれば離脱が難しくなるからだ』。
「どちらかと思ったが、狙いは俺の方のようだな」
……正直な所、『素直すぎる動き』が裏目となった感は否めない。
敵はこれ程分かり易く動くパーティの狙いに気付かぬ程愚鈍ではないという事だ。
眼帯をつけた厳めしい壮年の提督は漲る気力と不敵さを微塵も隠さずに『敵』をねめつけていた。
「つくづく、返す返すもご無礼を」
慇懃無礼にも聞こえる言葉だが、無量にはその気はない。
これもまた戦場の習いなれば、互いに命を取り合う結論に変わり等無い。
彼女は、畜生から無機物、人と対象を選ばず、善と悪で区別はしない。区別をしないという事は、そこに憎悪や軽侮なる熱量冷酷等篭らぬという事でもある。
「光(こう)は業(ごう)へと墜ちませい。それもこの世の常なれば」
「貴様、良く言う!
それにたった十人で良くぞここまで立ち回る。その実力、その蛮勇、何れも見事!
貴様等がゼシュテル人ならば、きっと兵達より幾らでも尊敬を集める事が出来ような!」
欠落したその身を斬る事への妄執に繰られるような――無量の本質は、恐らくはこの分かり易い程に分かり易いゼシュテルの将校に余程お気に召したのだろう。
「持てる全てでお相手させて頂きます」
無量に大笑したミハエロ・ヴァンは己が命を狙う刺客にさえ、友好的な風情さえみせていた。
ほんの僅かのやり取りは戦いの二幕が上がる前の幕間であった。元より一秒を惜しむパーティは長話に付き合う心算はなく、ミハエロもそれを期待してはいなかったのだろう。
戦いの場が甲板に変わったとしても、パーティの為すべきは変わらない。
「作戦通りに。大丈夫、きっと勝てる!」
声を張ったポテトは傍らのリゲルをちらりと確認した。
妻の視線を受けたリゲルは意気を感じて小さく頷く。
勇気というものが自身に力を与えるとするならば、最上の加護もたらす女神がそこに居た。
(必ず、無事に帰るんだ。その為なら私は――)
支援能力だけに非ず。ポテトは。
否、正しく言うなら彼女と彼は。そこに居るだけで、互いに無限の力さえ与え得る。
「ミハエロ! 不沈艦とも称される提督――その鉄壁は、尊敬に値します!
鍛え抜かれた堅牢、忠誠心は騎士として憧れないと言えば嘘になる!
だが今は相対する敵として、貴方を砕く!
この世に沈まぬ艦などない! 力で沈まぬならば、その先の妙技で沈めるまで!」
リゲルの声を号砲に、これまで以上の乱戦が始まった。
まず最初に朗々と声を張ったのは史之。
「遠路はるばるご苦労さん。俺は秋宮史之。
水平線の向こうに女王陛下と同じ夢を見る大光栄に浴した身さ。
だが、そういった栄誉は誰にでも与えられるもんじゃない。
海洋王国万歳! 女王陛下万歳!
物の道理が分からない君達は大人しく凍った国でゼシュテルオイルでも飲んでなよ!」
何とも分かり易い挑発だが、史之の名乗り口上に二名ばかりの敵兵が顔色を変えた。
リゲルの二振りの抜き身より放たれた、静寂と断罪の斬刃は瞬時に間合いを切り裂き、防御姿勢を取ったミハエロに突き刺さる。切れ味鋭く幾ばくかの傷を与えたリゲルの一撃だったが、ミハエロの口元は不敵に歪むばかりでこれに驚いた様子は見せていない。
(甲板は広い。作戦を機能させるには中央から縁に引き寄せる必要があるのは必然だが――)
パーティが今回の作戦達成において秘策と位置付けたのがリゲルの言う所の『妙技(れんけい)』。即ち複数の手によりミハエロを吹き飛ばし、艦より海へ叩き落すという奇策であった。
ミハエロの水中行動能力は不明だが、鉄帝国軍人――高級将校がそれを備えるとは考え難い。文字通り力で当たっても困難な相手ならば溺死も含めて海に封じてしまえば良いという作戦だ。
されど今の一撃でリゲルは、パーティはその作戦の困難さも同時に知った。
並の戦士ではそうそう避け難いリゲルの技量をもっても今の一撃がクリーンヒットに届いていない。当然ながらリゲルより精度で劣る攻撃では加速的に『確率』は低下していくのは間違いない。
怒り等による行動誘導やバッドステータスを軸にした攻め手も高抵抗と回復能力を有するミハエロにどれだけ通用するかは未知数の部分が否めまい。
だが、届かなければ届かせればいい――
石を貫くのが信念なれば、鉄さえ破るのがその軸なれば。
ことイレギュラーズはブレない。ブレる理由を持っていない。
「流石に強敵で御座いますね。しかし、やはり野蛮な方々には、お帰り願わなければ。
何、本日のステージ――その御代は貴方の命で十分で御座います故に」
今一度、泡影なる夢幻を抱いた幻の精密性は先のリゲルさえ上回る。
「……チッ!」
ミハエロ以外の敵を最初から無視した彼女の一撃はやはり彼の強固な意志力を蝕むには至らないが、少なくともその堅牢な防御を無効化し、小さくないダメージをその場に刻んでいた。
「一気に行く――!」
クロバの全身に魔力が漲った。クロバ=ホロウメア、その全てを極限まで酷使し放つ捨て身の奥義は敵の間合いに入った刹那に全火力を集中させ爆炎と剣戟の瀑布を見舞う大技である。一閃が掠め、連なる。一度逃してももう一度。僅かな切っ先であろうとも貫く破壊力は死神を名乗る青年の、まさに面目躍如とも言える切れ味であった。
「――見ての通り、狙いは俺だ。完全防御!」
痛打を受けたミハエロだが未だ怯まない。
号令を受けた兵達は先程までイレギュラーズに押されていた者達とは思えない程に完全な規律を以って指揮官のオーダーに応えていた。後衛支援役と思しき二人が大きく距離を取り後方へ移動。残る五名がミハエロを完全に防御する形に動き出す。
「……こりゃ、大変だ。攻撃を捨ててきた」
戦いが相手の嫌がる事を積み重ねるゲームだとするならばきっとこれは最悪である。
支援役は後ろに退避し、状況を支援。残る兵達は全てミハエロを完全防御。当のミハエロ自身が不沈艦にして支援役ときている。後衛を追いかければ兵を剥がす時間が遅れるし、放置すれば回復される。海に叩き落とすプランも艦橋から不意を打てれば電撃戦より奏功したやも知れないが、残存戦力を全て防御に回されている現状ではまずミハエロを続けて叩くのが困難である。
史之が一度は引きつけた敵も我を取り戻しているのが厄介極まりない。
「鉄帝国の軍人とは思えませんね」
プラウラの言葉が意図してか意図しないものか幾らか挑発めいた。
「全くだ」
「……不満はないのでしょうか?」
問う彼女は状況を理解している。ミハエロの取った『完全防御』は勝ち筋を完全に捨てた状況遅延策に他ならない。こと戦いにおいては、満足する闘争においては何処までもストイックで、何処までも譲らないゼシュテル人からすれば唾棄すべき敗北主義であろう。
「不満だとも。誰よりもこの俺が、俺自身を殴りつけたい程にな。
しかし――ゼシュテル人であるミハエロ・ヴァンはこれを不満であろうとも……
『提督であるミハエロ・ヴァンはこれを完全に肯定する』。
俺は貴様等を過小評価等しない。貴様等はこの俺を破り得る。帝国に、アイゼン・シュテルンに爪牙突き立てる確かな敵よ。ならば、指揮官の求めるべきは結果のみ!」
「譲れない何かがあるのは同じ、ですか。何だか、変な気もしますね」
――こうして戦っているのに、何か似ているなんて――
戦いは――否、戦いではない。
忠実にミハエロの指令を守る敵兵は『守りと支援に一辺倒』である。
故に訂正して――イレギュラーズの攻撃は只管激しさを増していた。
「あー、成る程ね! それならこっちもやれるだけやるまでよ!」
こうなれば是非もなし。攻めるが優れるか守るが凌ぐか二つに一つだけである。
「たっぷり堪能なさいな。今日はとびきりサービスしちゃうから!」
甘く、熱く、優しく、昏く。淫靡に微笑むは夢魔は、砂糖菓子のよりも甘い口づけを、心の隙間から滑り込ませる。魂を揺らす悪徳の淫蕩は一時的にミハエロの防御を緩めるに役立った。
史之が、或いは利香等がこじ開けた隙間に攻撃を叩き込むのはアタッカー達。
「こうなれば数を減らすより他はありません!」
有言実行、至上命題(こんかつ)のかかった今日のルル家は一味違う。
「これがぁ! 宇宙警察忍者の暗殺術です!!!」
お決まりの胡乱な台詞さえ置き去りにするのは、立ちふさがるものは打ち砕く意思。己の全てで刃を、弾丸を、唯只管に叩き込む乱打乱舞――それは音も光も置き去り只嵐の如くなり!
史之や利香、プラウラの援護絡め手、リゲルや幻の強烈な攻撃、クロバやルル家の暴力的な連打、それを支えるポテトやヘイゼルの支援もあり、ミハエロを守る兵力は一人二人、
「元より攻むる側が得手なのです。どうぞ覚悟なさいませ」
深く相手の間合いへと踏み込み一刀を振り下ろす――無量の『絶』を受ければ今まさに三人までもが倒されていた。
しかし『優勢』の一方で敗北が近いのはイレギュラーズである。
時間制限を強く意識しているのはイレギュラーズ側であった。しかし、皇帝ヴェルスの力を誰よりも知るミハエロが、優秀なる軍人として艦隊を任されたミハエロがそれを計算に入れない筈は無い。
彼が艦橋より降りたのは『自身で場をコントロールする為』だったのだろう。つまる所、イレギュラーズに早期にその身を晒すリスクより、イレギュラーズが温める鬼札の如き『何か』――彼はその何かの正体を知らなかっただろうが――を恐れたと言える。またそれは同時に、ミハエロは「不意さえ打たれなければ何とでもなる」と。自身の対処能力に絶大なる自信を持っている証左に他ならない。
どちらが強いかと言えばイレギュラーズが強いかも知れない。
どちらに勢いがあるかと言えばイレギュラーズ側にあっただろう。
しかし、強さと勢いを兼ねても押し切れない鉄壁がそこにあった。
迸るばかりの意志の強さで己さえ殺し、勝ちに徹する提督のプライドが揺らがない。
――持てる全てでお相手させて頂きます――
奇しくも最初に無量が述べたその通りに、お互いの戦いはその様相を呈していた。
イレギュラーズは攻めに攻め、鉄帝国は守りに守った。
そんな焦れる時間の結末を決定付けたのは――
「――何だ、客が来てたのかい。水臭い、人が居ない間を狙うなんてな」
――彼方より瞬いた光、一筋の彗星の如くアイゼン・シュテルンに突如出現した一人の男だった。
●タイム・アウト
(これはもう、考えられる限りの最悪だわ……)
真後ろに出現した伊達男(ヴェルス)を知覚するや否や、利香の肌は粟立った。
咄嗟に後ろを振り向けばそこにはにこやかな皇帝の姿。彼からは強烈な殺気も害意も感じられず。『逆にそれが自身等を敵と見做していない証明にも思われた』。
「……あらあら。これはまた随分とお早いお帰りで」
皮肉めいた幻の何時もの笑みも幾らか乾く。
「つくづく、やっちまったな」
「こんなに長居する心算は無かったんですけどね……」
言葉とは裏腹に肩を竦めたクロバに苦笑して利香が応じる。
ミハエロ側が防御に徹したお陰でイレギュラーズ側の脱落者はいない。大いに傷んでいる者も居ない。逆にそれが撤退判断を難しくした感はある。条件に抵触しなければ諦めるには尚早で、皇帝の帰還は前触れ無く余りにも突然の出来事だったからだ。
「お茶やケーキを出すのが礼儀だっけ?
生憎だな。遥か異国の軍船の上じゃ気の利いた対応は出来ないな。
代わりに、そうだな。積もる話をしようじゃないか」
傷んだミハエロと部下を一瞥したヴェルスは概ねの事情を察したのだろう。
「立派な部下を持ったもんだね」
「まぁな」
史之に応じ、短くミハエロ等に「良くやった」と声をかけた彼はイレギュラーズの顔を見回す。
パーティからすればこれは絶体絶命の状況。未だヴェルスに剣呑は無いが、逃げを打つなり、戦うなり――『何か』をすればそれも一変しよう。
「どうする……?」
乾いた声で呟いたポテトをマントで庇うようにリゲルが一歩前に出た。
「リゲル……」
「大丈夫」
言葉に根拠はないが、迷いも無い。
「そちらは、どうしますか」
ポテトは自身等にどうするかを問い、プラウラは運命にそれを問い掛けた。
(もし、誰かを殺すというのなら――)
それを阻む盾になる、とは。彼女がここにきたその時から、もう決めていた事だ。
『麗帝』ヴェルスはこの混沌の――人間と分類出来る存在の中での最高戦力の一角である。
彼の思惑を挫けるというならば、命の張り甲斐もあろうというもの。
否、そうでなければ彼を目の前に何一つを残す事も出来はすまい。
「……一応、お伺いいたしますが、この後の選択肢は多いでせうか?」
ヘイゼルの問い掛けにヴェルスはわざとらしく肩を竦めてみせた。
「ここで会ったが三年目!
拙者、異界より果てを渡り旅を超えた宇宙忍者。
そちら皇帝殿とお見受けし、此度結婚を前提に決闘を申し込みます!
貴殿は世界最強の一人でしょうが、幻想一国には及びませんよね?
拙者、友人を助ける為に国を敵に回す可能性も視野に入れておりますので、実際の所、貴殿にも負ける訳には行かないのです。いざ尋常に勝負して、勝っても負けても婚姻届(これ)にサインをお願いします!」
「決闘、死合いと野暮ったい。くすぐったい。
身体は震え、恐れ、畏れ。それもあります。
ははあ。然し何より『線(かち)』がまるで見えない。
それがこの胸を、どんなにか。こんなにも胸を高鳴らせて……
嗚呼、何と恥ずかしい。差乍ら交際を申し込む生娘ではありませんか」
……つまり、元より所謂の――時間稼ぎですが、お受け頂けますか?」
その一方で快活なるルル家、何処かはにかむ無量の二人はあくまでヴェルスに対抗姿勢を取っていた。
最早パーティの意図は破綻。この先の悪夢をどう凌ぐかが全てであり、暗澹にたれる細やかな糸を捨て目で探すヘイゼルも、仲間と自分の為の戦いを望むルル家や無量も又正解であろう。
身構えるイレギュラーズを一通り眺め回してヴェルスは笑った。
「結婚は――本気かよ。そんなに露骨なの初めて聞いたぜ。
俺に勝てたらこっちからプロポーズだ、頑張りな。
それから決闘ね。構わないが時間稼ぎはさせないぜ。
踊るなら相手以外は見ない主義だがちょろちょろ逃げる奴がいるなら先に仕留める」
傲慢な断言は恐らくは決定そのものである。
「まぁ、包み隠さず言えばお前達は結構俺の『贔屓』なんだぜ。
それはローレットのも知ってるだろう。或いはソルベかな? だからお前達を送り込んだのかも知れないな。そりゃあそうだ、お前達は腕も立つ。見ての通り頭もいい、度胸も十分だ。
『皇帝陛下』をしないでいいっていうなら、このまま返してやりたい位だぜ」
「だがね」とヴェルスは続ける。
「他でもない帝国の誇り、旗艦アイゼン・シュテルンに殴り込んで――うちの兵隊相手にたっぷり暴れて貰ってね。タダで帰しちゃゼシュテルの名折れ、『麗帝』ヴェルスの名折れだぜ。
だから――そうだな。お前達は全力で抵抗すればいい。
他に手出し何てさせないからよ。俺を倒して大手を振ってここから逃げなよ。
但し、あまり手加減は期待するなよ。勢い余って殺しちまうのは不本意だが、戦争で手を抜いてかかるのも失礼だ。ゼシュテル流の歓迎がどういうもんだか愉しみな!」
長広舌はきっと皇帝の流儀ではあるまい。
殺気を増大させたヴェルスにパーティは構えを取り、目の前から彼が消えたのに驚愕した。
世界が加速し、ヴェルス以外の全てを過去の時間に置き去りにする。
誰もが、数十秒後には世界の違いを理解した。
いや、『当のヴェルスを感嘆させる程に健闘し、故に真の怪物を思い知った』と言った方が正解か――
第三次グレイス・ヌレ海戦におけるハイライトの一つ。
それが旗艦アイゼン・シュテルン上で展開された特殊任務の攻防。
かの敵地に乗り込んだ十人のイレギュラーズはその日、ついぞ帰還する事は無かったのである。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
YAMIDEITEIっす。
Nightmareの当然の結果なので気に病む必要はないです。
良い所はステルスを全員で統制して持ち込む等、ビルド方面のコンセンサスがきちんとしていた事。
これはまずかったかなあという点はリプレイで触れています。
又、ちょっと全体的にプレイング群がまとまっておらず、意思統一やシチュエーションの統一、やりたい事がバラバラだったかなあと思いました。
第三次グレイス・ヌレ海戦はこの後、戦後フェーズに向かうでしょう。
尚、ポテトさんが今の所無傷(パンドラ的に)なのは旦那様の加護です。
シナリオ、お疲れ様でした。
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
そんな訳で戦争なのです。
以下詳細。
●任務達成条件
・アイゼン・シュテルンの制圧ないしはミハエロ・ヴァン捕縛(殺害)の上での離脱成功
●グレイス・ヌレ
海洋王国北東に存在する島嶼部、遠浅の広がる古戦場。
鉄帝艦隊を引き込んだ海洋王国軍が断続的な戦闘を続ける現場です。
海域には鉄帝国軍、海洋王国軍、海賊連合艦隊、三つの戦力が存在し、一部には魔種の動きもあるようです。
●状況
望み通りのゲリラ戦を展開し、鉄帝国艦隊に遅延と打撃を与える事に成功した海洋海軍ですが、彼等の耳に『とんでもない情報』が届いたのは予想されていた最悪でした。
鉄帝国旗艦『アイゼン・シュテルン』に乗艦していた『麗帝』ヴェルスがその莫大な機動力と戦闘力を武器に海洋王国軍艦を制圧し始めたという衝撃の情報に、本作戦の総指揮を命じられたソルベ・ジェラート・コンテュール卿は即座の決断を下しました。
それは大型軍艦を餌に皇帝をおびき出し、その隙にアイゼン・シュテルンを強襲、敵旗艦、司令部の機能を奪うという強襲作戦です。餌の軍艦には海洋王国軍人の精鋭を配置し、ありとあらゆる手段で皇帝の動きを遅延します。その隙に母艦を潰すという作戦です。そして本作戦においてソルベが頼ったのは『最精鋭』のイレギュラーズでした。
●ミハエロ・ヴァン
鉄帝国海軍提督。五十代程に見える眼帯をつけた歴戦の軍人。
前線で大暴れというタイプではありませんが、質実剛健に高い指揮能力を発揮します。
彼の有無で鉄帝国艦隊の動きは歴然と変化します。
彼を捕縛(殺害)して離脱成功すれば成功しますが、そもそも鉄帝国海軍で提督位まで登れる男は殴り合いも強靭です。
高いHP、防技抵抗、EXF、相応の命中回避、攻勢BS回復スキル、回復支援を持ち、かなりの不沈艦ぶりです。彼自身がHEX以上相当のネームドボスと考えて下さい。
また場にいるだけで敵は効率的、規律的に動き、その能力はかなり底上げされます。
●アイゼン・シュテルン
鉄帝国艦隊旗艦。新造の鋼鉄艦で砲撃耐性が極めて高いです。
50人程の兵隊が存在していますが、彼等の大半は航行能力や砲戦能力の維持に振り分けられており、イレギュラーズの障害になる戦闘員は10名前後でしょう。
戦闘員の戦闘力はレベル22基準です。タイプは様々で不明です。
●『麗帝』ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズ
ゼシュテル鉄帝国皇帝『麗帝』ヴェルスその人です。
馬鹿げた機動力と馬鹿げた反応値と馬鹿げたEXA値と馬鹿げた回避能力を持ち、全ての能力がNightmareに相応しい正真正銘の特記戦力で自在に空を駆ける飛行能力を有しています。
彼の帰還より前にアイゼン・シュテルンが陥落しなければ敗北は必至です。
ソルベは作戦で全力遅延を仕掛けていますが、どれ位当てになるかは不明です。
尚、皇帝出撃より3T後にイレギュラーズはアイゼン・シュテルン強襲に成功するものとします。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
但しヴェルス自身がイレギュラーズに好意的な為、『死亡危険度』はHardEX相当に留まります。Nightmare基準は適用されません。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●重要な備考
<第三次グレイス・ヌレ海戦>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』を追加カウントします。
この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
尚、『海洋王国事業貢献値』のシナリオ追加は今回が最後となります。(別途クエスト・海洋名声ボーナスの最終加算があります)
●優先参加について
鉄帝国主力シナリオにはそれぞれ二枠の優先参加権が付与されています。
選出基準は『海洋王国事業貢献値』上位より、高難易度に付与する、となっています。
以上、宜しくお願いいたします。
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