シナリオ詳細
Underground Gear-Maze
オープニング
●
灰色の街スチールグラード。
鉄と油、濁った蒸気に彩られた歯車の街並みは、人と機械の喧噪に満ちている。
大闘技場ラド・バウでは多量の掛け金が乱れ飛び、花形闘士は報酬で贅沢を謳歌する。
しかし決して豊かとは言えない北の国において、人々は本格的な冬に備えて神経を尖らせていた。
それがスラムともなれば、尚更の話である。
大鍋で煮込まれているのは、豆のスープであった。
干したネトルと芋の蔓とを良く煮込み、器に盛る。それから申し訳程度のサワークリーム――横流しだがバチは当たるまい――を加えてやる。
身分や生活水準の平等を掲げる教派『クラースナヤ・ズヴェズダー』による、炊き出しの光景だ。
「それじゃ足んネーだろうがよ」
後背から声をかけてきた男が、大きな革袋をどさりと置いた。中にはライ麦のパンが乱雑に詰め込まれている。
「まあ、そのなんだ。お近づきにってヤツー、だははは!」
「ヴェガルド殿、そのお心に感謝致します」
司祭は短く祈り、並ぶ人々の手に一つずつパンをオマケしてやった。
「すまねえなあ、こんなもんでよ。ヴァレーニキ(ぎょうざ)辺りで一杯やりたい所だがね」
「いえ、滅相もない……」
おどけるヴェガルドに司祭は一礼した。
「それで地下闘技場のほうはどうだ?」
腰に手を当てながら不躾な質問をぶつけたのは、このスラムで『聖女』と謳われるアナスタシアである。
「どうっつーてもよ。無駄に広えなーぐれえだわ。つうか来て三日目だぜ、俺はよ」
「そうか、ご苦労」
「ったく……」
頭をかくヴェガルドは、『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)によって招かれた客人であった。
鉄帝東北部の凍てつく峡湾に点在する村の一つを統べる長であり、住民の保護と引き換えに地下闘技場の闘士となった男だ。
日銭を稼ぐ傍らで、アナスタシアから何か面倒な仕事を押しつけられてしまったらしい。
「このスラムにご執心のショッケンは居ないのだろう。今が好機と言う訳だ」
辺りは喧噪に包まれ、密談の声は人々には届いていない。
苦虫をかみつぶしたような顔で腕を組んでいるボリスラフは軍属だが、教派の協力者であり聞こえないふりをしている。
「それこそイレギュラーズの連中に頼めばいいんじゃねえのかよ」
そう述べて肩をすくめたヴェガルドであったが、依頼には金が掛かる。誰しも無い袖が振れないことは分かってはいるのだが。
「ボリスラフ、頼めるか?」
だがアナスタシアはこの日、たいそう諦めが悪いようで、間髪入れずに無茶なボールを投げてきた。
聖女様は「軍の予算をちょろまかせ」と仰っている。
採れたてのイラクサを口いっぱいに頬張ったような顔をしていたボリスラフは、とうとう大きな溜息を吐き出した。
「……わかりました」
たっぷりの間を置いて、述べたボリスラフは天を仰ぐ。
おそらくそろそろ覚悟せねばならない時が近づいているのだろう。
どのみち一蓮托生と決めているのだから。
●
「それじゃ、いいかな?」
依頼書を卓上に滑らせた『黒猫の』ショウ(p3n000005)が一行を見渡す。
「今日は聖女様からの依頼なんだ」
一言述べたショウは、口に一本指を立てた。
曰く所によると『クラースナヤ・ズヴェズダー』の司教アナスタシアからの内密な依頼らしい。
「スチールグラードのスラムで都市開発計画が進んでいるのは、知っているかな?」
ローレットに集まったイレギュラーズに持ちかけられた依頼は、次のようなものだった。
鉄帝国帝都スチールグラードのスラムでは、都市開発の計画が進んでいる。
軍主導の計画だが、貧しい住民の雇用を生み出すチャンスということで、いくらかの問題を抱えつつも大方の所は歓迎されていた。
だが軍やチンピラによる強引な地上げが問題となっているらしい。
「ここまでが事件の背景なんだけど」
知っているものは知っている話だが、もちろん続きがある。
どうも計画に熱を上げる軍の一部が、地下闘技場に頻繁に出入りしていると云うのだ。
まさか観戦ではあるまい。
「みんなには地下闘技場に何があるのかを、調査してほしいのさ」
何があると言われても、リングがあるのだろうが。はてさて。
「これを見て欲しい」
ショウが差し出したのは、地下闘技場の地図である。
なるほど、どこに通じているのか分からない場所があるようだ。
その先に何があるのかを見て、報告すれば良いのだろう。
当然ながら情報精度は非常に低い。
「ただね、問題は――」
ショウの言いたいことは分かる。推測だが、おそらく軍が居るのだろう。規模も編成も分からないのも厄介だ。
騒ぎになれば大事となる。慎重に行かねばならない。
「それじゃあ、くれぐれも頼んだよ。どうか無事にね」
潜入捜査というやつだ。
- Underground Gear-Maze完了
- GM名pipi
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年12月29日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
男が向かってくる。
一斗缶を肩に担いだ大男だ。
赤く光るスコープのような両目で、明後日の方向をぼんやりと見つめながら。
辺りは賭け札や酒を手に歩き回る人々でごった返していた。
「どこに目ェつけてやがんだ!」
「あの……ご、ごめんなさい」
こんな人混みを大股で足早に歩き、わざわざ一歩こちらへ踏み込んだ大男に非があるのは明白だが、『忘却機械』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)はあわあわと謝罪する。
「気ぃつけろや。こっちにゃ目なんかネェからよ!」
スコープのような両目を光らせて、吐き捨てた大男は一斗缶から浴びるように液体を飲むと、足早に立ち去った。
この国はヴィクトールの故郷らしい。らしいと云うのは召喚されてこの方、過去の記憶というものが全く無い。
ただ――良い思い出はない気がする。
ともあれ仕事は仕事だから頑張ろうと誓った訳で――
排煙に曇る街。
鉄帝国帝都スチールグラードの一角にはモリブデンと呼ばれるスラムが広がっている。
こうして地下に踏み入れば陰鬱な空気は打って変わって、にわかに狂騒へと遷ろっていた。
「大丈夫?」
「あの……はい……」
振り返った『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)にそう応じて、ヴィクトール等一行は目的地へと歩を進めている。
(地下闘技場か……悪巧みが行われてるなら突き止めないとね)
こうして奥まで来ると、先ほどまでの喧噪は嘘のように遠くなる。
アレクシアは肩に乗せたネズミ(ファミリアー)に腕を走らせると、その視界を通して管理室の中を観察した。
雑然とした事務所である。いくつもの棚と箱が乱雑に置かれている。
中央には金属製のデスクが並び、二人の男が何やら書類を照らし合わせながら数字を書き込んでいるようだ。
椅子を並べて寝ている者は、休憩中であろうか。空の酒瓶を抱いているあたり、なんとも杜撰な空気が漂っている。
壁に背をつけたアレクシアがサインを送る。
目配せし『蒼蘭海賊団団長』湖宝 卵丸(p3p006737)と『名乗りの』カンベエ(p3p007540)は、管理室へと足を踏み入れた。
この日『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)達はこの地下闘技場の奥を調査する依頼を受けていた。
依頼内容は『見てこい』であり、実際何を調べるのかはっきりしない。
そんな辺りに「冒険心をくすぐられる」とはカンベエの言葉だ。
このところスラムでは強引な地上げが問題となっており、更には事態をきな臭くさせているの『人さらい』である。
軍の一部が地下闘技場に出入りしているという噂も広がりつつあり――点と点を結ぶのならば、この奥に『何かがある』と感じるには十分であった。
正義の海賊団長を自認する卵丸としても、そうした悪巧みは見過ごせない。真実を手に入れようと、意気込みは十分だ。
尤も――カンベエとしては、黙って静かにというのは苦手な所でもあるが。ひとまずここは「全力で黙る!」所存なのである。
ここへ来る途中「海洋の件といいどうにも鉄帝の軍部がきな臭いですね」と述べたのは『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)であった。
奥に眠るものが軍事機密ということであれば、さもありなん。それ自体は悪いとも思わない。
むしろ心配なのは、首を突っ込んだ司教アナスタシア達、クラースナヤ・ズヴェズダーであろう。
「ふふー」
とは言え教派の関係者当人(『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837))は、うきうきとした空気を漂わせていた。
司教様(あなすたしあ)に頼られるなど滅多にない機会であると、大いに張り切っているのだ。
きな臭さの中に、そうした救いがないわけではない。
ヴァレーリヤと『月下美人』久住・舞花(p3p005056)は一抹の安堵も抱いていた。
以前交戦したヴェガルドという男は寒村の長であり、今は村ごとクラースナヤ・ズヴェズダーと行動を共にしているらしい。
軍と軍、人と人同士による複雑な駆け引きの中で、彼は居場所を変えたらしい。謀殺されるよりは遙かにマシな選択であったろう。
願わくば――胸の奥にこびり付いた微かな焦燥をヴァレーリヤは押し込めて――こんな良い日がいつまでも続きますようにと。
物陰へ身を隠し或いは屈んで。一行は慎重に奥へ進んでいる。
最後尾で匍匐前進する『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)もまた同様に。
努めてクールにこっそりと。潜入のしんがりは小柄で見つかりにくそうな彼女にうってつけかもしれない。
ちょうど舞花がロッカーの影から棚の影へ移動しようとした、その時。
職員の一人が突如立ち上がった。
男は右へ、左へ首を振る。
それから肩を回して。
――んん~~。
――あー、目痛ってえ。歳だなあ。
男はぼやくと再び着席し、書類へ視線を落とす。。
物陰で刀に手をかけていた舞花は、静かに構えを解くと棚の影へと素早く移動した。
最悪の場合は制圧せねばならないとも考えていたが、どうにかなりそうだ。
突如、甲高い音を立てて空き瓶が砕けた。
背筋が凍る。誰かの肩が跳ねたろうか。
職員が振り返る。
――片付けとけよ。
――あー、寝てたか。
ソファで寝ていた男が起き上がり、何度か頭をかいた。
男は赤ら顔のままロッカーのほうへと歩いてくる。
一行が身を隠す物陰には見向きもせず、男はモップとちりとりを手に取った。
男が割れたガラスの掃除を始めた頃。
一行はようやく管理室の奥へと足を踏み入れたのであった。
●
ごうん、ごうん――
配管だらけの通路は、錆びた金属粉の臭いとけたたましい騒音とに包まれていた。
この雰囲気であれば音の問題はクリアになりそうだが。
たしかにカンベエ等が危惧した通り、手信号を決めてあるのは正解だったろう。
ヴィクトールは保護結界を展開し、一行は先ほど同様にネズミの先行で慎重に進んで行く。
『居るよ、あの向こう』
アレクシアが一同にサインを送る。
場所を変え、意気込みも新たに。
先ほど「今日の卵丸は、海賊スパイなんだからなっ!」と。
雑音の中で卵丸の聞き耳がどうにか捕らえたのは二人分の足音、そして会話だった。
声と足音は徐々に近づき――
――あー。はやく酒のみてえなあ。
――ショッケン閣下も困ったもんだぜ。
――おい、聞こえるぞ。
――ん? 誰か居るのか?
気付かれたか。
誰か居ると言ったのか。
不意に足が止まったのは目の前だ。
頭上でガツンと音がした。銃底が箱の蓋に当たったのだ。
クールに、クールに。箱の中に姿を隠したココロは平静を保つ。
――ちげえよ。オマエの悪口が。
――ハハッ! 聞こえやしねえよ。
各々が隠れた場所から足音が遠ざかっていく。
どうにか無事にやり過ごすことが出来たようだ。
配管を背に、ルル家は鋭く高めた五感を頼りに一歩一歩進んで行く。
配管のつなぎ目、僅かな破れから高温高圧の蒸気が噴出している。
辺りは地上と比べて暑くも寒くもないが、それでも所々が蒸気に覆われており、かなりの温度差がうかがえる。
あれを走ってもらうのはネズミには些か酷だろう。アレクシアは一つ思案し、裏の影を走らせる事にする。
カンベエ等一行は慎重に、いざという瞬間に身を隠す場所を見定めながら通路を進んでいた。
卵丸は構造をメモして、都度仲間に伝えている。見張りの位置、隠れられる場所。
最悪の事態――ばらばらに逃げねばならない場合も想定して。マッピングというやつである。
「今のところ罠は……ないみたいです……が……ちょっと待って下さい」
慎重に周囲を見定めるヴィクトールが、壁の赤い光の点に気付いた。
「センサー……だと……思います……」
アレクシアが胸をなで下ろした。あるいはネズミを走らせたのが床であれば反応してしまっていたかもしれない。
センサーの感知範囲はいかほどのものか。
ぐずぐずすれば先ほどの兵士が折り返してくるだろう。
覚悟を決めた卵丸はジェットパックを噴射させ、天井の梁を掴んだ。
腕に力を籠め、天井裏の排気ダクトへ立つ。
頷いたヴァレーリヤが続き。一人、また一人。仲間を引き上げた。
――で、よう。オマエどうなんだよ。
――あ?
――上手くいってんのか?
――……へへっ。
兵士達が折り返してきたようだ。
くだらない話に現を抜かしているあたり、こちらには気付いていまい。
二人は丁度センサーの前で立ち止まった。
――おい、てめ。っと。あぶね。何があんのかねえ。
――しらねえよ、んなもん。
――ヨシ!
――ヨシ!
兵士達が指を指し、再び管理室の方へ去って行く。
一行は排気ダクトを移動することでセンサーをやり過ぎし、また曲がり角だ。
卵丸が耳を欹て、アレクシアがネズミを先行させる。
あの奥にあるのは一辺二十メートルほどの部屋であろう。奥に開いているのはおそらく階段とエレベーターだ。
先ほどのセンサーの位置から辺りは暗くなったが――ルル家は額のゴーグルを目元まで下ろす。
緑がかった視界に映る部屋の構造を観察した限り、残念ながら隠れられる場所は少ないと思える。
こうして一行は暗い室内に足を踏み入れた。
辺りは埃っぽく、後背の通路側では今もごうんごうんと、けたたましい音が響いていた。
階段は金属で出来ており、申し訳程度に手すりがある。
エレベーターは下にあるらしく、駆動は蒸気式らしい。レバーで上下するように見える。
どちらも後から、というよりごく最近作られたもののようだ。壁や床の見栄えと比較して、錆びもなくずいぶんと新しい。
「前方、階段脇に荷物、引っかからない様にするんだぞっ」
卵丸の言葉通り、ともあれ進む他ない。
一行はエレベーターではなく階段を利用することを選択していた。
暗い階段を慎重に進んで行く、その時。
下階で大きな物音がした。
●
エレベーターを繋ぐケーブル類がきゅるきゅると音を立てて動き出し、階段にまで振動が響いてくる。
せり上がってくるエレベーターから、完全に身を隠す場所はない。
「こうなれば、覚悟を決める所存!!」
カンベエの宣言に応じて、一行は得物を抜き放つ。上で迎え撃つ他ない。スピード勝負だ。
エレベーターと踊り場、高さが交差した。
だが――声が響く前にヴァレーリヤ達は階段を駆け上がっていた。
「侵入者だ!」
もっぱら、音に気付いたのであろう。
エレベーターには数名の兵士に混じり、将校とおぼしき人物が一人、地下闘士とおぼしき人物が一人乗っていた。
(なるほど……)
舞花は思案する。地下闘士がいるということは、ここにも軍と繋がっている者がいるということか。
「貴様、その十字。クラースナ――」
「ですわよ! どっせえーーい!!!」
兵士達が銃を構えるより早く、ヴァレーリヤが先陣を切った。
こうなればさっさと制圧するに限るだろう。
炎の魔術に鉄騎の馬力、絶大な破壊の力が兵の一人を吹き飛ばし、壁に叩き付ける。
「御敷居内、失礼さんでござんすが御免なさんせ――」
「だなんだぁ!?」
続くカンベエの名乗りに、兵士達が一斉に銃口を向けた。
「――屍山血河へ参りましょう」
飢えた獣のように――マズルフラッシュ。
銃弾の嵐を縫い、駆けるカンベエの腕に、頬に。細く赤い軌跡が走る。
だがこれで残る兵士達の注意は奪った。
ここまで勘づかれていなかったであろうことは、良い意味での想定外ではあるが。
アレクシアもこうなればスピード勝負と決めている。
術式を紡ぎ、放たれるは致命の優花《カルミア・ラティフォリア》――
閃光のように。兵の胸、その中心へ突き立つ矢は、その身を穿つように膨大な魔力、毒を孕んだ血と炎を注ぎ込む。
――咲いたのは危険極まる紅蓮の花。
「テメェ、ここがドコだかわかってんだろうなぁ!」
地下闘士は、一斗缶の男だ。
「……抑え……ます……っ!」
「んなっ、テメ!」
ヴィクトールは防衛の構えで、向かってくる闘士へ剣を振りかぶる。
意思を力へ置換し、一閃。
剣に纏った力が男の厚い胸板に食い込み、赤い霧が舞う。振り抜いた軌跡は、大気を灼く残光と共に。
闘士が両腕を振り上げ、光を纏った――刹那。
ココロの周囲を踊る悪辣な人形劇団、グラン・ギニョールが闘士達へ一斉に飛びかかる
「封じて下さい」
愛らしい声音が告げたのは封印の術式。
名に応じ、人形劇団の放つ積層魔陣が闘士を包み、その力を雲散霧消させた。
「くっそ……」
「何のために貴様を雇ったと思っている……!」
吠えた将校が、術式に集中するココロに向けて拳銃を構えた。引き金に指をかけ――閃光。
遥かなる爆発。光よりも速く、蝶よりも華麗に、恒星よりも熱く。超新星爆発。
「勝利の女神を振り向かせる? ノンノン。拙者こそが勝利の女神!」
宣言通り、炸裂する炎に敵が飲み込まれた。
続いたいくらかの交戦はイレギュラーズを傷つけた。
だが歴戦の将校と闘士はともかく、苛烈極まる猛攻を受けて瞬く間のうちに兵士が沈んだ以上、戦況は正に『多勢に無勢』の様相であった。
肝心の闘士もココロによって技を封じられた以上、ヴィクトールが立ち塞がることの出来る僅かな時間は極大に引き延ばされてしまった。
敵は次々とアレクシアの可憐な、されど凶悪な術式に蝕まれ、ルル家の忍法に焼かれ。
ヴァレーリヤの一撃がついに鉄帝軍将校を沈めるに至る。
先ほどまでと違い、彼女の表情に昏さがあるのは、敗北を悟った将校がためらうことなく自身のこめかみを撃ち抜いた事にあろう。
そうして――
闘士の巨体を斬魔の刃が駆け抜ける。
水に映る月が定かに有れども、鏡に映る花の如し。心の速かなること即ち水月鏡像――
未だ境地の深奥には至らずとも。舞花の刃は血花を散らし、地下闘士はゆっくりと崩れ落ちた。
ここまでのやり取りで気付かれたか。
定かではないが、騒音が味方したろうか。通路の兵士が来ない以上は、幾ばくか猶予はあろう。
ともかく一行は、残る最奥の探索に踏み込まねばならない。
ヒントは――将校の遺体からアレクシアがみつけた、驚くほどクラシカルなカギだけだ。
一歩、また一歩。
一行は階下へと慎重に歩みを進めていく。
長い階段の下に、ぼーっとした灯りが見えてきた。
開けた、その先。
一行が目の当たりにしたものは――
●
「かなり広いですね……」
はてさて。ルル家達一行が踏み込んだのは、巨大な構造物のようであった。
周囲で複雑に絡み合う歯車は全く駆動しておらず、上層と比較すればずいぶん静かな様子だ。
「遺跡――でしょうね」
舞花が思い起こしたのは、この国の地下に多くの遺跡が眠っているということだ。
スラムの地下がそうであったとしても、確かになんら不思議はない。
ロジカルに考えたとしても、直上のスラムが邪魔と思うのであれば、ここは昔から地下にあった物であろう事は疑いようもない。
つまり――舞花の視線は鋭く――目的は埋まっているものを掘り出すか、あるいは利用することか。
一行は班を二つと一人に分けて行動していた。
カンベエが腕を組む。
軍は何を目的としているのか。
そして誰の命令で動いているのか。先ほどの兵士達の口ぶりからショッケンなのであろうが――
ここまでと打って変わってずいぶんクラシカルに見える扉に、ヴァレーリヤはそっと手をあてた。
果たしていかなる時代のものであろうか。
「入ってみますわね」
一行が頷く。
一方のB班。
あたりを見回しているヴィクトールは、罠の有無を探しつつ、幸か不幸か最も目立つ体格であろうから。見張りを買って出ていた。
ココロが踏み込んだ部屋は、雑多な箱が置かれている。
目的はずばり出納帳。表に出せない金であっても、むしろしっかりと記録されているのが常であろう。
これは――血潮の儀。
子供達の命を捧げる計画書。
アレクシアは手に入れたカギを使えそうな場所を探していた。
使える場所が本命か、あるいはそれに近いはずだ。
これまでいくつかの小部屋を覗いたが、気になったのは多量の水と保存食が貯蔵されていたことである。
卵丸は一人、足跡を追い。頻繁に通った場所があるならば、そこに何らかの手がかりがある筈だ。
そうして進んだ先に、一つの扉がある。
開きそうにないが、あるいは先ほどアレクシアが見つけたカギが使えるであろうか。
そう考えた卵丸はB班との合流を急いだ。
再びA班。
ヴァレーリヤが見つけたのは、一冊のファイルであった。
そこは歯車城。
記されているのは古代兵器、そして内部の見取り図だ。
「駆動しますのね……」
ヴァレーリヤの呟き。この情報は共有せねばならない。急いで戻る事にする。
こうして――
卵丸と合流した一同が踏み込んだ先。
そこは謁見の間、あるいは聖堂の様な空間であった。
中央に鎮座しているものは制御コンソールのようにも、祭壇のようにも見える。
全ての情報を繋げれば。一行は戦慄を禁じ得ず。
ここ自体が無垢なる命を燃料に動く巨大殺戮兵器――
無数の足音が聞こえる。罵声が飛び交っている。
時間切れだ。離脱せねばなるまい。
いくらかの資料を懐に収め、一行は駆けだした。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れ様でした。
MVPはひどい罠を防いだ方へ。
それではまた、皆さんのご参加を心待ちにしております。pipiでした。
GMコメント
鉄帝国スラムの地下闘技場。
何が眠っているというのでしょう。pipiです。
●目的
鉄帝国スラムの地下闘技場の奥に潜入し、何らかの情報を持ち帰ることです。
メタですが、ゲーム的には下記の『4』下階層に到達さえすれば成功です。
それ以上は努力目標となりますが、持ち帰る情報は出来るだけ多いほうが望ましいです。
大きな騒ぎにならないよう、上手く頑張ってみて下さい。
問題があれば即座に離脱しましょう。非常に危険です。
●ロケーション
鉄帝国スラムにある、地下闘技場です。
スラムの住人や、地下闘士が居ます。
このあたりはあまり気にせず奥に潜入しましょう。
中に入るまではすんなりです。気にしなくて良いでしょう。
以下、攻略すべき経路に番号を振っておきます。
ここからは厳密には未知の情報ですが、相談やプレイング等では気にせず対応頂いて構いません。
非戦闘スキルやアイテム、アイディアを駆使して、やれそうなことを色々試してみましょう。
『1』管理室
闘技場を管理する職員の作業部屋です。
机や雑多な書類があり、数人が事務作業に追われています。
棚やロッカーや物が多く、隠れられる場所は多いです。
奥に通路が続いています……。
『2』通路
配管まみれの通路です。
機械類の大きな物音がしています。
灯りはあります。
カクカクと曲がりくねっており、見通しは悪いです。
なぜか数名の兵士がいます。強くはありませんが、速やかに対処する必要があるでしょう。
『3』エレベーターと階段
通路の奥にはエレベーターと階段があり、下へ続いています。
灯りは不明です。
機械類の大きな物音がしています。
階段はいくつかの踊り場があり、かなり広く長いです。
エレベーターは檻のような簡素な作りです。
おそらく見張りが居ます。嫌な予感がします。
『4』下階層
ここに来さえすれば、一応成功です。
おそらく工場や工事現場のような、雑多な場所であると推測されます。
推測ですが、いくつもの小部屋があると思われます。
全くの憶測ですが、開かない金属っぽい扉や、倉庫のような場所や、コンソールだのモニタだのがある部屋なんかがあるのでは?
それ以外は完全に不明です。
●特記事項
非常にメタ的な視点なのですが。
このシナリオでは『分からない所はプレイングであると言い張る』ことで、『実はそうだった』として扱います。
たとえば排気ダクトがあるとは書かれていませんが『巨大排気ダクトに隠れる』と書けば、隠れられたりします。
しかし『異次元の扉』であるとか、あまりに不自然なものはありませんのでご注意下さい。
良い具合の発想力で勝負です。
●敵
兵士がいます。
一人一人の能力は、歴戦のイレギュラーズであればさほどの驚異ではないでしょう。
ただし、嫌な予感はします。
強敵との遭遇にも備えておくべきでしょう。
たとえば強めの地下闘士とか。
●同行NPC
・『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
両面型。剣魔双撃、シャドウオブテラー、ディスピリオド、格闘、物質透過を活性化しています。
皆さんの仲間なので、皆さんに混ざって無難に行動します。
具体的な指示を与えても構いません。
絡んで頂いた程度にしか描写はされません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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