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シナリオ詳細

<青海のバッカニア>焼討には死の裁きを

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●軍と賊と賞金首
 村が消し炭だ。
 柵は全て押し倒されて転がり、家屋の焼け跡にはおぞましい臭いが漂う。
「お前がやったのか!」
 海洋王国の軍人が、血走った目でサーベルを突きつけた。
 部下達が慌ててそれに倣い、しかし刃で囲まれた男は身動きひとつしない。
「っ、船長っ」
 海賊共が籠を放り出して腰の短銃に手を伸ばす。
 腕には自負がある。
 船長の号令があれば、相手が海洋の兵でも互角以上に戦える。
 しかし船長が戦えないなら狩られるのは海賊側だ。
「なんとか言え、お前がっ」
 軍人のサーベルが揺れる。
 呼吸が乱れ、視線が安定しない。
 目の前の海賊船船長の殺気が原因だと気付いたときには、サーベルの間合いを外され至近距離にまで近付かれていた。
「俺が、村を焼いたってぇ?」
 しゃっくりのような笑い。
 兵士達だけでなく一般海賊も怯えるほどに猛烈な殺意。
「俺を馬鹿にしてんのか! あぁっ!?」
 男は私掠許可証持ちの海賊だ。
 こっそりと奪い犯し殺すことまでやっている、露見すれば海洋王国に追われることになる外道だ。
 そんな彼ですら、守っている一線がある。
「奪うモンが無くなれば俺等も死ぬ。奪い殺し魚を釣るだけで生きて生けるほど海は甘くねぇ」
 マントを翻して村の中央に向かう。
 海賊も兵士もほっとして、互いに警戒しながら船長の後を追う。
「この村ではな、干した果実が買えたのよ」
 焼け焦げ、二度と実が成らなくなった木の前で立ち止まる。
「安く買い叩いて娼館にでも持っていけば高く売れるし女も釣れる。いい餌だったんだぜこの村はよ」
「お前はそんなことまで」
 この場で殺すべきかと考える。
 しかし、少人数の巡回班では凶悪な海賊船1つの乗組員に対抗できない。
「この辺りで隠れるのに向いた場所を全て教えてやる。だからよ」
 船長が振り返る。
 殺意を通り越したもの宿った目が覗き込んでくる。
「火付けしたクソを殺す時は俺等も混ぜろ。絶対に、生かしておけねぇからよぉ」
 イレギュラーズと軍に包囲され放火魔ごと殺されるかもしれない。
 それでも、焼討だけは許せなかった。

「兄貴ぃ、船が見えます」
 血がこびりついた槍を持った若者が、荒んでいるのにきらきらした目で頭目を見上げた。
「へー、あれかー」
 ど派手な旗を掲げた帆船だ。
 海面下の岩礁が全て見えているかの様に、素晴らしい速度でこちらへ突っ込んでくる。
「兄貴の手下になりに来たんですかね」
「お前は馬鹿だなぁ」
 頭目は、あははと笑って長弓を準備する。
 甲板では、船長らしき男が凄まじい殺意の目をこちらに向けていた。
 先週焼いた村に女でもいたのか、先々週に飾り付けにした物に子供でも混じっていたのか、などと考えながら手下に用意させた火矢をつがえて放つ。
 まるで曳光弾を混ぜた弾幕だ。
 喫水線に1本、舷側中程に1本、甲板に1本めり込み火が燃え移る。
 最後の4本目は帆布に当たりかけ、体を以て庇った船長の肩に突き立った。
「船長!」
「浅手だ」
 髭面に凶相を浮かべ唾を吐き出す。
「そろそろ軍とローレットが動くぞ。火付けのイカレ共を仕留めるまで下がるんじゃねぇ!」
「たまには敵討ちってのもいいもんですな」
 炎上し始めた海賊船の上で、楽しげな笑い声が沸き起こった。

●ローレット
 作戦決行の1週間前。
 冒険者ギルドで新たな依頼が公開された。
「賞金首を倒して欲しいのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、かなり大きな地図をテーブルの上に広げる。
 海洋にある小島の、沿岸部の地図だ。
「賞金首の一党を、ここか、ここか、ここで包囲して仕留める計画なのです」
 参加するのは私掠許可証持ちの海賊船1隻と、海洋王国の小部隊、そして主力にイレギュラーズだ。
 参加勢力が多すぎて失敗しそうだと誰かがつぶやき、情報屋も作戦の困難さについては同意する。
「現地のみなさんも、頑張って協力してくれるそうなのです」
 どんな被害が出ても必ず成し遂げると思える程、士気が高まっているらしい。
 軍は地上から、海賊船は海から包囲し賞金首の退路を断つ予定だ。
「危ない依頼なのです。悪者をやっつけて、無事に帰ってきて欲しいのです!」
 危険な役割を押しつけられたともいえるし、最重要の役割を任されたともいえる。
 いずれにせよ、悪行をここで止められるのは特異運命座標だけだ。

GMコメント

 初めまして。GMの馬車猪です。
 イレギュラーズの皆さんの活躍を描くため、全力を尽くします。

●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます

●目標
 賞金首とその頭目、全員の捕縛または殺害。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


●ロケーション(1文字縦横10メートル。現地到着時点の状況。上が北。晴れ。微風)
 abcdefghijk
1初□□□□□□■■■■■
2初□□□□槍□■■■■■
3初□□□槍□弓■■■船船
4初□□□□槍□■■■■■
5初□□□□□槍■■■■■
6初□□□□□□■■■■■

 □=砂浜。足場が悪く回避に少し不利。
 ■=海。波は穏やかだが深い。
 船=海。海賊船が炎上中。ゆっくり(10秒で3メートル程度)沖へ流されています。
 弓=砂浜。賞金首頭目が海賊船を攻撃中。
 槍=砂浜。1文字につき槍兵が3人、西に向かって警戒中。
 初=砂浜。特異運命座標の初期位置。好きな位置を各人が自由に選択可。


●敵
『賞金首頭目』×1体
 弓使い。超遠距離攻撃専門。
 結構強い。極度の自信過剰で武器は弓しか持たず、追い詰められても逃走を決断するまで時間がかかります。
 戦闘方法は以下の2つ。
・弓射撃:物超遠単にダメージ。命中がとても高い。
・火矢連射:物超遠範にダメージ。火炎のBS。命中は並程度。

『賞金首』×12体
 槍使い。槍以外は軽装。
 頭目に心酔しています。死ぬ直前まで戦うものの、頭目に誤射された個体は士気が崩壊します。
 防御技術とHPは並程度。他の能力はどれも低い。
 戦闘方法は以下。
・槍攻撃:物近単にダメージ。

 賞金首が敵を食い止め、賞金首頭目が射撃で仕留めるという戦いでこれまで生き残ってきました。


●他
『兵士』×たくさん
 地図に表示された場所より南側と北側で、賞金首達が逃げないようそれぞれ一列横隊で待ち構えています。
 賞金首2体までなら食い止めることが可能ですが、賞金首頭目が来たら突破されます。

『海賊』×10人
 犯罪の証拠は持って来ていないので、今回捕縛や討伐するのは困難です。
 イレギュラーズが攻撃しなければ、生き残りが戦闘終了後に立ち去ります。
 練度は並程度。もう、反撃の力は残っていません。

  • <青海のバッカニア>焼討には死の裁きを完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月15日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)
夢為天鳴

リプレイ

●槍の壁
 精々10歳にしか見えない少女が矢の如く飛ぶ。
 黒いマントが強烈な合成風ではためき、儚くも美しい水晶の刃がちらりと見えた。
「私は特異運命座標、アンナ・シャルロット・ミルフィール」
 『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は堂々とした名乗りをあげ、3人の槍使いへ一気に近づいた。
「槍衾を作れっ」
「飛べば動きが鈍る。串刺しにしてやれっ」
 まだ若い男達が素早く守りを固めて柔らかな肌を狙う。
 荒みきった生き方をしていても積み重ねた鍛錬は本人を裏切らない。
 2つの穂先が速度をあわせて、薄く白い羽衣に包まれたアンナの胴目がけて繰り出された。
 アンナの爪先が砂浜を蹴る。
 細い体が90度近く宙で回転し、空振りした槍と槍の間に突きの雨を降らせた。
「っ」
 槍兵が愕然とする。
 イレギュラーの強さを話半分に聞いていたが、これでは話の方が半分だ。
 穴だらけになった革鎧から血を流しながら、主の強さと勝利を信仰してアンナに追い縋る。
「あ?」
 左端の槍兵が上半身を仰け反らせる。
 口から大量の熱い物があふれて止まらない。
 震える手で胸に手を伸ばすと、弾痕からも鮮血が溢れて指を赤黒く染めた。
「士気は高いようだ」
 商品の値踏みをする商人の口調で、『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)がコメントする。
 身の丈ほどもある大口径ライフルの狙いを隣の賞金首に変え、最初の1人が倒れ伏したタイミングで第2の弾を送り込む。
 銃声に重なる形で、矢が大気を切り裂く音がした。
 飛行に向かぬ可燃物が固定された矢が5本、死体を巻き込む形でイレギュラーズ目がけて降り注ぐ。
 肉と内臓を貫く鈍い音と、矢が斬り飛ばされる音が同時に響く。
「親分様に見捨てられたようね」
 火矢を砕き、火矢を躱し、新手の槍兵3人を警戒しながらアンナは視線を下へと向ける。
 絶命し見開かれたままの瞳に、愕然とした表情が残っていた。
 槍4本が作る槍衾は、熟練の強者でも自然と気圧されるほどの凶悪な防壁だ。
 だがそんな障害を突破出来るのがイレギュラーズだ。
 『夢幻の旅人』ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)は真正面からの斬り合いを選択し、4つの連携する槍を相手に蒼白い刃で以て押し進む。
「如何なる想いの許、賞金首となったかまでは知りません」
「怯えるなっ、俺達にはリーダーが」
 何度も繰り返した外道非道がはっきりと現れた顔に、純粋な信頼の表情が浮かんでいる。
「ですが、看過する事が悲劇を生むのであれば、此処で断たねばなりません」
 ユースティアの瞳には、失われた記憶への恐れと戸惑いが微かに浮かんでいる。
 けれど六花の煌きを思わせる斬撃に乱れはない。
 槍衾という暴力に自由自在な攻勢で以て対抗し、槍を除けば軽武装でしかない槍兵達に少しずつ手傷を負わせ防御以外の選択肢を奪う。
 ひょい、と。
 その場に誰もいないはずの砂地に、『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)が着地し一歩を踏み出す。
「宇宙警察忍者、夢見ルル家! 御用改めでございますよ!」
 刀が振り上げられ、ライフルが構えられ、ナイフが突き出されて拳銃が火を噴く。
 圧倒的な速度と技術が実現させた分身術であり、そのうちの2つが本物だ。
 槍兵がうめく。
 刀を受けた際の衝撃で槍を持つ手に皹が入り、拳銃弾を浴び折れた肋骨が内臓を傷つけ猛烈な痛みをもたらす。
 ルル家の現在位置は、賞金首が矢の連射で狙える距離だ。
 しかし連射を行えば槍兵3人以上が巻き込まれるので、悪逆非道の頭目も戦力の低下を嫌い攻撃を仕掛けられない。
 アンナが右に旋回する。
 槍兵に海への退路が開くが、沖には燃えさかる海賊船と禍々しい笑みの海賊が待ち構えている。
「………恨むなら、軍と外道を同時に敵に回した自分達を恨みなさい」
 相手が外道無道でも、必要以上の苦痛を与える趣味はない。
 水晶の刃に槍をすり抜けさせ、アンナは最小限の苦痛だけを与えて賊の1人の首を刈り取った。
「ああ、戦意がなければ投降も受けつけるがどうする?」
 被弾した腹を押さえてうずくまる賊の前で、悪意も善意もなくラダが語りかける。
「弾代節約に協力してもらえると嬉しいよ」
 平然と賞金首を狩り散歩の如く頭目へ近づく、理解を超えた何かに見えた。
「突破されるぞ、リーダーを守れぇ!」
 賞金首が叫ぶ。
 イレギュラーズの狙い通りに、頭目の護衛は北側に引き寄せられていた。

●空からの目
 軽薄で酷薄な笑みが薄れた。
 まるで空から見ているかのような進路変更で、イレギュラーズが南側の槍使い躱してこちらへ向かって来る。
「まさか……鳥か!」
 番え、構えて、矢が届かないのに気付く。
「気付くのが遅い」
 『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が、己の血で以て宙に陣を描く。
 血は落ちる前に紅蓮の焔へ変わり、槍以外に取り柄のない賞金首の足を焦がすだけでなく霊的に汚染する。
「憤怒、そして復讐の焔こそ我が刃。復讐の果てに燃え尽きるのが我が生なり」
 今日は復讐を助ける側かもしれぬと、賊の背後に怨念に似たものを感じて軽く息を吐く。
 太陽の下でも夜の気配を纏う『蒼き深淵』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)が、淡い笑みを浮かべて槍兵に目をやる。
「悪いねぇ、今回は逃す気は無いんだ」
 小さな楔が賊の頬や腕にめり込む。
「ひ、あぁっ!?」
 傷口に埋まった媒介が地の毒を吸い上げ、華やかでありながら禍々しくもある茨に変じて槍兵の全身に巻き付いた。
 辛うじて槍は触れるが守りが崩れて素人未満にまで落ちる。
「さてどこまでヘラヘラしてられるかな?」
「そんなにヘラヘラしてるかい?」
 頭目の顔にいつもの笑みが戻る。
 しかし額にはじっとりと汗が浮かび、本能が今すぐ逃げろと騒ぎ出す。
「君達は……」
「うるさい口開くな性根が腐った臭いがするんだよ!」
 『戦バカ』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)が真っ直ぐに……本当に真っ直ぐに飛んで来る。
 霊樹の大剣を構え、押しのける風で細かな砂埃を舞わせながら、文字通りの最短距離で恐るべき弓兵に迫る。
「オーダーには「捕縛または殺害」ってあるが」
 5本の矢を同時につがえ、それぞれ角度を変えてどれもエレンシアに当てるつもりで放つ。
「容赦する必要はねぇな」
 整った顔の口元が釣り上がり、可愛らしい白い八重歯がちらりと除く。
 弓から矢が離れる。
「甘いんだよ!」
 飛翔速度がさらに上昇。
 3本の狙いを外し、1本を剣先で弾き、最後の1本が肩を掠めて戦衣に血が滲んだ。
「どっちが甘いのかな」
「テメェだよ!」
 血が止まる。
 黒き翼が大気を捉えて鋭角に進路変更。
 優れた技と飛び抜けた剛力で以て振るわれた刃が、機敏に跳んだ頭目の腹を撫でた。
「危ないな。後少しでハラワタが零れていたじゃないか」
「零して死ね。誰も悼まねぇよ」
 エレンシアは速度を維持して止めの刃を繰り出す。
 これまでの犠牲者の憎悪が乗り移ったかのような、憎悪と怨嗟にまみれた一撃だ。
「それは御免だね」
 頭目は弓を庇い軽く脇を削られはしたが致命傷は避ける。
 そして、背後からエレンシアを仕留めるよう部下達に命じ、それが実行されないのに気付く。
「甘い甘い。用兵が拙すぎて欠伸が出るわ」
 『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が軽く息を吸う。
「下がれ」
 引き締まっているとはいえ細身で優美な体からは想像し辛い、裂帛の気合いと共に放たれた大音声だ。
 槍兵はまず気圧され、次に物理的な衝撃に耐えられず頭目から離れる方向へと吹き飛ばされる。
「御主等の力はこの程度か?」
 意識して嘲弄の笑みを浮かべて挑発しながら、頭目の逃走ルートを予測し少しずつ移動し逃げ道を少なくする。
「凄腕に狙われるほど有名になれたとはね」
 頭目が楽しげに笑う。
 軽装と健脚を生かした機動力で弓の射程を確保。
 強敵達を複数一度に屠ろうと、最も良く燃える火矢を手に取り鮮やかに連射した。
 炎は単なる火ではない。
 優れた素質が狂気と他人の血で研がれて出来た、地獄へ誘う魔性の炎だ。
「おっとこれは予測外」
 朧気な疑似生命を残してルーキスが後ろへ跳ぶ。
 爪と牙だけが目立つそれに喉を狙われ、肉体的には無傷に近かった賞金首が精神的な限界を迎えてしまう。
 不規則な息を吐き目を回し、狙いもつけずに槍を振る。
「馬鹿やめ……ひっ」
 槍を槍で防いだところで足下に火矢が突き立ち炎が広がる。
 部下が死のうとしているのに、頭目は満足げな笑みで大きな炎を眺めていた。
「は? 嘘だろう?」
 頭目の笑みが固まる。
 炎の中から、レイチェルが平然と向かって来る。
 呪いに等しい炎を浴びても、白い肌は焦げもせず軽度の火傷すらない。
 銀の髪が炎の色を映し、異界の吸血鬼を復讐の神の如く彩った。
「イカれた火付け野郎とは同じ炎を扱う者として捨て置けん」
 海から響く歓声に、苦笑に近い浮かべ。
「今は矜持を見せた復讐の鬼に助力しよう」
 沖から戦場を封鎖する海賊が聞けば、照れ隠しに攻撃してきそうな言葉を発して全神経を頭目1人に集中した。
「囲めっ……っ」
 頭目の命令に従う者は、もう1人もいない。
 討たれ、倒れ伏し、無事なものも身動きを封じられて頭目の元へ向かうことが出来ない。
「ここまでです」
 黒いマントをなびかせ、アンナが北から飛来する。
 部下を失いイレギュラーズに包囲された頭目は、最早抵抗も逃亡も不可能に見えた。

●海賊の驚愕
「野郎、まだそんな体力がっ」
「ローレットから来た連中、あれだけ技使ってまだ動けるのかよ」
 海賊達が、西へと駆ける外道と同水準の速度で追うイレギュラーズを見て、あんぐりと大口を開けた。
「あれだけ大物ぶっといて今更逃げるかよ」
 息継ぎの合間に怒号を吐いて、エレンシアは矢の脅威に晒されながら黒い翼で追う。
「君達相手になら逃げても恥じゃないよ。っとぉっ」
 頭目が強引に頭を右に。
 グレイブの大きな刃物が、鞭のようにしなって左のこめかみの髪と皮膚を削る。
「其の悪夢を、此処で断ち切ります」
 ユースティアが全力で走りながら得物の握り方を微修正。
 左手のグレイブを引き戻す反動を利用し、右手の魔剣結祈燈で以て繊細かつ超高速の刺突を繰り出す。
 逃げながら、囲まれながらでは防御は困難だ。
 薄い防具が紙のように貫かれ、皮膚と肉に穴が開きじわりと血が滲む。
「すごいな! まるで絵巻物じゃないか!」
 華麗な剣技を使うハーモニアと、外道の弓使いの組み合わせだ。
 誰からも死を望まれているのを理解した上で、逃げのび逆襲出来ると根拠なく確信して反撃もせず西へと走る。
「あれだけ撃てるくせ接近戦を考えてないスタイルが、少し疑問だった」
 興味の失せた口調で、ラダは素晴らしい健脚を披露しながらほとんど上半身を揺らさず狙いをつける。
「お前、弓以外の全てを捨てたな」
 対話のための言葉ではなく、ただ事実を告げるだけの言葉だ。
 ほとんど同時に聞こえた銃声にわずかに遅れて2つの銃弾が東から迫り、1つが脇を薄く抉りもう1つが背中を貫き骨で止まった。
「何のことだい?」
 人倫に背を向けた自覚すらない。
 ラダの目つきが、賊を見るものから汚物を直視してしまったときのそれに変わる。
「もういい」
 再びの銃声。
 頭目……今は単独の賊でしかない弓使いが、悠々と躱して北寄りの西へと走る。
 ラダが最初からそちらへ追い込むつもりで撃ったことにも気付かずに。
「ははっ、強いな本当に!」
 振り返る。
 弓を構える。
 矢を放つ。
 3種の動作を1つに纏め、ひたすらに速く正確な一撃を最も遠くまで飛ばす。
 中ると、確信した。
「やっぱり命中率の高い遠距離攻撃は面倒だな!」
 だがそれを乗り越えるのが特異運命座標だ。
 ルーキスの全力の踏み込みが爆発じみた砂煙を生じさせ、そこを貫いた矢は猛烈な加速で跳ぶルーキスに追いつけない。
 着地の瞬間足に痛みがあった。
 無論顔には出さず、契約を交わした妖精に細かな指示を出し終えた。
「餌にするとウチのが腹壊しそう」
 賊のふくらはぎから血が弾けた。
 動きがわずかではあるが鈍り、防御の際のふんばりが効かなくなる。
「お前が見捨てた手下の分も味わえ」
 禁術の炎がレイチェルから伸びる。
 戦闘開始直後なら回避は無理でも直撃を避けること程度は出来たかもしれないが、動きが鈍った今は被弾に備えた姿勢をとることも困難だ。
「っ」
 傷口が焼かれ呪いに等しい毒が体内に侵入する。
 辛うじて速力は維持出来たが体力が急激に落ちていく。
「待つでござる」
 宇宙警察忍者とねこ武者娘を先頭に、南北を固めていた兵士達も賊1人を追いかける。
「このごった煮具合、まるでお祭り騒ぎだな」
 兵士は短時間で体力を使い尽くして脱落するが、汰磨羈は素晴らしい加速を披露し一気に弓使いを追い抜いた。
「なんて健脚だ」
 軽薄な顔から余裕が失われ、剥き出しの殺意と共に必殺の矢を汰磨羈に向ける。
「技だけは認めてやろう」
 矢を防いだ両刃の直剣は無傷だが、指から肘にかけて痛みがある。
 だかこの負傷も汰磨羈の狙い通り。
 汰磨羈が速度に長け防御に劣ると誤認した賊が、逃走への専念を止め止めの一矢を放とうとした。
 可憐で華麗なドレス姿の少女が、常人離れした速度と技の冴えで賊の背後へ迫る。
 ドレスの裾から霧状の触腕を伸ばし、じくじくと血が滲む傷口から肉体を通して魂をすする。
「その姿で化け物かっ」
 ルル家は揺るがず、ギアをもう1つ上げさらに速度を上げる。
 一瞬前の速度を元に組み立てた回避行動では全く対応出来ず、賊の顔が驚愕で歪む。
 右からの斬撃を繰り出すルル家と、左からの斬撃を繰り出すルル家が重なって見え、実際重なって存在していた2つの斬撃により利き腕の肘と肩甲骨が綺麗に切り裂かれる。
「だ、がっ」
 血と精神が減り体もぼろぼろなのに凶賊は諦めない。
 そもそも、真っ当な精神というものを持っていない。
「これなら逃げっ」
 逃げるつもりだった場所に、汰磨羈が準備万端で待ち構えていた。
 汰磨羈斬撃ではなく足止めのための蹴りを膝小僧に打ち込んだ。
「助太刀にはな、加勢した側を必ず勝たせる義務がある。そうだろう?」
 聞き分けのない子供に対するように囁いて、降ってくる砲弾から逃げでもするかのように真後ろへ跳ぶ。
 実際に飛んでくるのは砲弾とは次元が違う威力の術であり、裁きの刃だ。
「刹那に露と消えよ外道!」
 介錯の意図など皆無。
 確実に仕留めるための一撃が首を断ち、体を動かすための神経と脳に酸素を運ぶための経路を破壊する。
 倒れた後、息絶えるまで激痛に見舞われたけれども、頭目とその手下が犠牲者に強いた苦痛と比べればあまりにも軽かった。
「よし、後は」
 汰磨羈は開いたままの目を閉じさせ、来た道を振り返る。
 賞金首を処理する兵士達の向こうに、ようやく鎮火を終えた海賊船が見えていた。

●弔い
「いてぇっ」
 悲鳴を出せるだけでも大したものだ。
 ルーキスの手当を受けた船長は、常人なら再起不能確実な傷なのにもう顔色が良くなった。
「これで少しは溜飲も下がったかな?」
「何のことだ? 俺は気に入らない奴を殺しに来ただけ……あいたぁっ」
 包帯の上を撫でただけでこの有様だ。
 掃除が雑な甲板を、エレンシアがうろうろ歩き回って悩んでいた。
「よし決めた! なんか事情があったんだろうしな。協力してくれた以上はその礼……つったらいいのかな、まあそんな感じか。ま、今回は手は出さないでおいてやるよ」
 エレンシアがただ甘いだけの少女なら悪意を向けられたかもしれない。
 しかし戦いぶりから人柄を見た船員達は、見逃されたことではなくエレンシアに一部とはいえ認められたことに喜び、船長に睨まれた。
 レイチェルは静かに、誤魔化しなど容易く見抜く目で船長を見据える。
「理由があって協力したンだろ、リスク承知で。だったら今回は見逃してやる」
 船長は、賞金首と戦っていたとき以上の警戒をする。
「だが──矜持さえ失った時、アンタらは俺の獲物だ。『悪を狩る悪』のな?」
「宇宙警察忍者も見逃さないですからね! 酷いことをしたらお仕置きであります!」
 ルル家の威嚇のポーズは可愛らしい。
 船員は癒やされた表情で骨抜きになる。
 しかし船長は、海賊としての顔を表に出して太い笑みを浮かべた。
「あんた等にお仕置きされる前に逃げるとするよ。勝てる気がしないんでな」
 海賊として生きて死ぬだろう男は、討伐の成功を改めて祝い、船員に宴の準備を命じる。
 今日だけは、これ以上誰も傷つけず、失われた命を悼むつもりだった。

成否

成功

MVP

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式

状態異常

なし

あとがき

素晴らしく、そして格好良い行動でした。

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