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シナリオ詳細

<果ての迷宮>ロスト・レブルグ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●開幕の十一層
 果ての迷宮はこれまでに十層が攻略された。
 十層目の攻略と同時に特異なる『図書館』が発見されたは記憶に新しく、日々新たな『異世界』の頁が開かれている訳であるが――さて。ではそこが果ての迷宮の最終地点かと言われればそうではない。
 そこは十層にて発見された地であり、また別に『十一層目以降』は存在しているのである。
 故に果ての迷宮の『穴掘り』を進めているペリカ・ロズィーアンの歩みはこれで終わりではなく。
 今なお、当然の事として続けられているのだ――

「十一層目が開かれたと聞きました」

 そしてある日。幻想、バルツァーレク伯の屋敷にて。
 語るのは当の遊楽伯爵、語られているのは総隊長ペリカであり。
「そーさね。十一階層に続く道が崩落しててちょっと時間が掛かったけれど、ついに辿り着いたんだわさ。で――」
「ええ報告に聞いております。そこにはかつて……幻想王都を襲ったレブルグ美術館大火災で焼失した筈の、貴重物の数々が発見されたと」
 少し昔の話になるが、かつて幻想王都メフ・メフィートには大規模に美術品を並べていたレブルグ美術館なる施設があった。有名な絵画、出土した絶滅種の化石……様々あった素晴らしい館だったのだが――
 ある日原因不明の火災が発生し、勢い強くほとんどの美術品は灰へ。
 一時は窃盗犯が証拠潰しに放火したのでは、とすら言われたが……ブラックマーケットにすら流れぬ様子に、やはり純粋な火災だったのだろうと結論付けられた。しかし。
「なんで果ての迷宮の中で見つかるのかね――ま、どんな事が発生してもおかしくはない迷宮ならこういう事もあるかもしれないだわ。流石に本物かどうかまでの確認はしてないけれどね」
「構いません、全て回収してください」
 真偽の程などあとで確認すれば良し。
 事、美術の類に理解があり保護にも熱心な遊楽伯であればこそ――果ての迷宮十一層の情報を聞いた時、迅速に動いたものだった。尤も……
「それは――バルツァーレク伯爵。あんたの所にだけ届けろとの仰せなのさ?」
「……そうは言いますまい。貴方は王家に雇われた者であり、イレギュラーズの方々もそれぞれ誰かの『名代』として潜っている。必ず私の所になどとは……回収そのものが第一です」
 ペリカも。ペリカと共に潜るイレギュラーズも別にバルツァーレクの配下に非ず。
 『誰』の下へと回収物を届けるか――それはやはり、それぞれの意思に委ねられる事になるだろう。
 今回ガブリエルがペリカに直にそういう話を持ち掛けたのは先述の通り彼が保護に熱心だからであるが……ではアーベントロートやフィッツバルディなら粗雑に扱うかと言うとそうではない。
 遺失したと思われていた幻想の貴重物の回収を名代が果たした。それは派遣した貴族の名声に繋がり、ともすれば果ての迷宮の踏破の功績の一つとも数えられるからだ。

 そう。今回の迷宮に関しては普段よりも『踏破の功績値』が高い事が見込まれる。

 十層という一つの節目を攻略してからの新たな階層……
 さて、今回のイレギュラーズ達は一体誰の名代として動く事になるのか。
「分かったさね。ただ、全部マトモに回収できるとは保証しかねるから、そこの所は宜しくだわさ。なにせ絵に化けてる魔物というか、絵に取り付いてる魔物と言うか――まぁちょいと面倒な事情があるんでね」
 ペリカの言は既に軽く十一層目の調査をした故だろう。
 どうにも、貴重な品々の中に紛れて文字通り『危険』なモノも紛れている様だ。
 回収して終わり、ただ品を運ぶだけ――そんな作業とはなるまい。
「十一層以降も、果ての迷宮は確かに果ての迷宮ですか」
「摩訶不思議ってね。ま、慣れっことも言えるさね……少なくとも前回のよくわからない不思議なステージよりはまだ真っ当と言えるし。負けてたら異界に引きずり込まれてどうなってた事やら……ああ、遊楽伯は知らないだろうけど色々大変で――え、なに? 一部知ってる? なんでさ?」
 なにはともあれ! さぁ新たな果ての迷宮へ――行くとしよう!

GMコメント

■依頼達成条件
 ・果ての迷宮十一層に存在する美術品を80%以上回収する。
 ・回収条件を満たす前に半数のイレギュラーズが戦闘不能にならない。

■目標回収物
 ・数々の彫像。
 ・数々の絵画。
 ・よくわからないが芸術性を感じない事もないような気がするオブジェの数々。

 その他色々。サイズは大小ありますが全て「一人」で運べる程度の物品です。
 これを安全圏(十一層入り口付近)にまで運ぶのを『回収』と定義します。
 回収目標数以上に達した時、セーブ機能の応用で一斉に地上まで転移されます。

■果ての迷宮十一層
 一見すると『美術館』の建物内の様な地形。
 実在したレブルグ美術館……ではない。あくまで美術館風であり、通路が無意味に複数に別れていたりと歪な内部構造が確認されている。かなり広いようだが、無限ではないので虱潰しに探していけば美術品には全て遭遇できると思われる。

■十一層の魔物
・偽装体×??体
 本物の美術品に精巧に偽造している魔物。
 初手攻撃時に『奇襲』の効果を持つ。ただし何かしらの方法で事前に見破れている場合は奇襲の効果は消滅する。相当数が紛れている模様。耐久力はあまり高くなく、当然破壊してもらってOK。

・『貴方』を映す絵画×??体
 その絵画は最初、何も描かれていない。
 しかしその絵画の正面にイレギュラーズが立つと『貴方』が映る。
 映ると強制的に体が絵の様に停止し『行動放棄』が強制的に行われる。
 この停止効果は正面にいる限り5ターン持続される。
 この効果による行動放棄発動時にターン数×(HP-200・AP-100)が発生する。

・『No name monster』×1
 名前の存在しない怪物。『本物の美術品』に憑りつく幽霊の様な個体。
 強力なMアタック魔術攻撃を中心とし、更に本物の美術品に憑りついている間は美術品そのものにBSとダメージを50%肩代わりする。美術品が壊れた時『怪物』は本体が現れ、次なる依代の美術品を求めて超移動を開始する。
 美術品に憑りついている間は移動しないが、本体が現れている状態の時の機動力は非常に高い模様。『怪物』はブロックしても通り抜けられる能力を持つが、進行方向上にブロックしている存在がいる場合、通り抜ける度に機動力が半減する。

●<果ての迷宮>独自ルール
※セーブについて
 幻想王家(現在はフォルデルマン)は『探索者の鍵』という果ての迷宮の攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能にするアイテムを持っています。これは初代の勇者王が『スターテクノクラート』と呼ばれる天才アーティファクトクリエイターに依頼して作成して貰った王家の秘宝であり、その技術は遺失級です。(但し前述の魔術師は今も存命なのですが)
 セーブという要素は果ての迷宮に挑戦出来る人間が王侯貴族が認めたきちんとした人間でなければならない一つの理由にもなっています。

※名代について
 フォルデルマン、レイガルテ、リーゼロッテ、ガブリエル、他果ての迷宮探索が可能な有力貴族等、そういったスポンサーの誰に助力するかをプレイング内一行目に【名前】という形式で記載して下さい。
 誰の名代として参加したイレギュラーズが多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントし続け、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形で反映予定です。展開等が変わる可能性があります。

 今回は『誰』の名代となるかで些か異なる効果が表れます。
 効果量に関してはシナリオ中の活動内容にて変化が生じます。

 『フォルデルマン』・『レイガルテ』・『諸勢力』を選んだ場合『GOLD』が対象者に通常よりも多く付与されます。(正確には何かしらの換金アイテムが付与されます)
 『リーゼロッテ』・『ガブリエル』を選んだ場合『幻想名声』が対象者に通常よりも多く付与されます。また、ガブリエルは文化保護に熱心な人物ですので今回、特に恩義を感じるかもしれません。

●ペリカ・ロジィーアン(味方NPC)
 タフな物理系トータルファイターです。
 彼女としては美術品よりも迷宮自体を調査したいのですが、今回は雇い主達(幻想)の意向も汲んで回収作業を優先するようです。基本的には皆さんと行動を共にするでしょう。

  • <果ての迷宮>ロスト・レブルグ完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月17日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
主人=公(p3p000578)
ハム子
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
アト・サイン(p3p001394)
観光客
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの

リプレイ


 ――さて。
 美術品とはある程度の差異はあるが、得てして壊れやすい物である。それは繊細な技術を持って造られし数々であるからこそ……ほんの微かな傷であれど価値が損なわれるのであれば――
「魔法騎士セララ参上! 迷宮探索の歴史に名を刻むのだー!」
 ここへと訪れた『魔法騎士』セララ(p3p000273)は真っ先に紡ぐのだ。
 保護結界――もといセララフィールドを展開すれば、その領域はあらゆる損壊を防ぐ。厳密には意図的に破壊を試みたり戦闘にでもなったりすれば話は別だが、そうでもならない限り安心感は格別だ。
 イレギュラーズは十一層への侵入を果たしたと同時に複数のチームへと別れる。広大な美術館風の十一層は……一塊で事を成そうとすればあまりにも時間がかかり過ぎる。ただ単純に次の階層への道を探すだけならまだ楽だ、が。
「さてさて……喪われたはずの美術品が再び戻ってきてくれたなら、そりゃ幻想の貴族としては見過ごせない事態だよね――ヒヒヒ……さて、素敵なコはいるかな?」
 今回は『闇之雲』武器商人(p3p001107)の言う様に保護の目的も存在している。
 不敵な笑みを携えながら見るはそこいらに展示されている美術品の数々。石造であったり、風景の描かれた絵画であったりと。斥候の目的も兼ねながら先頭を往く武器商人の目にこそ真っ先により取り見取り――おっと。
「なに、無暗に連れて行ったりはしないよ。眠っているのに飽きたコだけ……ね?」
 本当だろうか。いや、信じよう。ここは信じるとしよう。
 ともあれ保護・回収が優先される今回の探索だが、ここは果ての迷宮。当然危険も存在すれば。
「警戒は怠れないな――美術品と、それらに化けた敵、か」
 突如として襲われる危険はそこいらに存在していると『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は言う。己も意思ある武器として、美術品へ偽装・取り付いている個体は『似た』様な存在であれば。
「見破れないのはなんとか避けたいな……慎重に、看破していきたい所だ」
 武器商人の少し後方から見る周囲。どれが偽装体でどれが本物か。迂闊には触れない。
 見据え、動かず。敵の気配も感じぬとなれば手を伸ばして回収。
 些か時間の掛かる作業かもしれないが安易に動けば傷つくだけで――その時。

 彼らが触れようとした、鎧を司った石像がその刃を振るった。

「――ふっ!」
 だがそれを『ハム子』主人=公(p3p000578)の一撃が払いのける。
 融合せし魔力と気力。地に踏み込ませる足と呼吸一つが圧を昇華させ。
 ――打ち砕く。石造の身にヒビを、瞬く間に走る亀裂が威力を物語り。
「やれやれ。警戒しておいてなによりだったね……真贋の判定は任せたい所だけど」
「脆いのもあれば硬いのもあるのかしら……傷を負ったら任せて。癒しの術は絶やさないから」
 主人=公が右手を払って石像を見下ろし。『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)は傷を負ったなら――といつでも身を癒せる様に備えている。今のはなんとかなった。しかし探索は未だ始まったばかり……不測の事態はいつ訪れるやもしれないから。
 この地に流れる旋律――彼女のギフトにより捉える範囲内の感情の音色――だが。この地にはどうやら様々な音色があるようだ。それは共に訪れた仲間たちだけでなく、恐らくは魔物達のも捕えていて……

 雑音雑音ノイズノイズ――正直頭痛がする。

 やはりマトモな場所ではない。
 音の発信源は十や二十でもなく……平時であれば近寄りたくもない場所であろう、が。
「でも。あの方の為に……!」
 リアは心に抱く、ある人物の顔を思い浮かべて前を見据える。
 迷宮にもロマンにも名声にも興味はないが――ただただあの人の笑顔が見たいから。

「オーッホッホッホッ! 美術品を運ぶとは瀟洒なお仕事ですわね! 気合が入りますわ!」

 と、その時。数多のノイズを吹き飛ばすかの如く煌びやかなる輝きもまた、ここには存在していた。
 そう『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)様! である!
「ふっ。偽物も混ざっているとは……流石に迷宮ですわね!
 簡単にはいかせてくれないようですが――しかし、やりようはありますわよ!」
 曲がり角では手鏡を用いてまずは先に確認。いきなり襲われぬ様に注意を払って。
 そして確認するは右左だけでなく上下も、だ。ここは一件美術館に見えるが、その配置はデタラメであれば『上』や『下』に奴らが配置されている事もあろう。天井も床も見据えた上で行動を果たして。
 そして――見つけた美術品には直接触れない。
 アポートだ。ここにあるのは大小のサイズ差はあるが一人で運べる程度のモノである。で、あればそのほとんどはアポートで運べる対象であり、タントはある程度の距離を置いた上で美術品に触れる事が出来る。
 偽装体であれば運んでいる最中に妙な動きが見えよう。さすれば即時対処も可能で。
「……さて、見た目通りであるなら宝の山と言えるのでしょうけど。
 そうではなく、魔も混ざっているのであれば」
 美味しい話ではないですよね、とタントのアポートで引き寄せられる美術品を見据えながら『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)が呟く。
 その目に見えているのは美術品の温度である。距離が離れていようとハイセンスの目を持つ彼女からすれば問題なく、それが偽装した魔物ではないか? 目を凝らしていて。異常な音、独特な匂い、あるいは熱源……どれか一つでも普通の美術品と違いがあるのであれば。
「全く、ね。文化財の保存とか……ギルド長として、その。重みがすごいわ……」
 と。『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が美術品の一つを回収しながら感慨深そうに呟く。遍く世界、人、歴史、文化の保存を主とするギルドの長として――美術品の回収には独特に思う所もあり。
「ねぇペリカ、このダンジョンの構造、どこが気になる?」
「んん? そうさね――どこまでも奥があるかの様に錯覚する通路、かね。
 多分だけどこれ、どっかで無限ループ状態になってると思うんだけれども……」
 そして同時にダンジョンの踏破にも興味を。
 共に行動するペリカと今回の階層の話をしながら、調査と回収を平行するのだ。
 無論話しながらと言っても注意は怠らない。周囲の熱源を見据える眼で美術品の観察を行いながら、時として発光も行い光の反射――つまり光沢の違いをも観察する。
 魔と真には必ず何か違いがある筈だと。少しずつ、少しずつそれらの様子を調査して。

「す――っ、はー。うん、いい空気だ。家に帰った時みたいに落ち着くこの雰囲気、いいね」

 そして『観光客』アト・サイン(p3p001394)は久方の果ての迷宮に心を落ち着かせていた。
 前人未到の地を求める事こそ彼の本領。彼の奥底。
 ここにいる時こそ己が己であると感じるかの如く。
「さて、識別ね。うんうんつまりはミミック……っていう分類だろう?
 奴らにはそれぞれ微妙に異なるけれど動作キーがある。変なとこ触んないようにね」
 例えばそれは開ける瞬間に起動するモノであったり、特定の距離まで近付いた時に起動するモノだったりと様々だ。一番多いのは触った瞬間だろう。油断している対象を一撃必殺――それがミミックの習性で。
 しかし分かっていればやりようはある。
 まずは棒で軽く突くなどして安全圏にいれば良いのだ。己は丁度3メートル棒があり、ある程度の距離を確保した上で鑑定に入れる。モンスター知識も持ち合わせれば、些細な変化も彼の目には『知識』の一端として移り。
 調査を進めていく。あちらもこちらも敵の襲来には気を付けながら。
「うーむ。何度か迷宮に挑み大概の異常は慣れてきたつもりでござったが……
 過去に失われていた物にさえ会える可能性もあるとは驚きでござるな」
 本物だと判断できた美術品を前に『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は感嘆らしき声を交えていた。果ての迷宮にはこれが初めてではなく、幾度か来たことがあるが。
「ま、真実『過去のモノと同一』であるかは地上に戻った後でござろうが。今は務めを果たすでざる」
 ほほーこれが芸術でござるかと、まじまじ見据える事の出来る稀有な機会を咲耶は心の片隅で楽しみながら。同時に周囲を探る陣――エネミーサーチを張ればには幾つかの反応を捉えている。敵は近そうだ。
 手裏剣を指先に、いつでも接敵していいように彼女は備えて。

 あれもこれもある摩訶不思議なる果ての迷宮その第十一層。
 幻想の貴族達も注視するその調査は……ゆっくりと進み始めた。


 衝撃音。
 それは十一層の一角から鳴り響いていた――戦闘だ。
「全く、一斉に襲い掛かって来るような事は止めてほしいよな……!」
 サイズだ。偽装体の一体の攻撃を斬り払う様にいなしつつ、放つは血の鎖。
 鍛冶妖精の血液を用いた行動封じの鎖だ――数多の負を連鎖させるその鎖が金属音を奏でながら、絵画に化けた魔物の身を包んで。
「まだ来る――結構数が多いね……ッ!」
 しかしそれだけでは終わらない。続いて二、いや三体の偽装体が一気に奥から。
 主人=公が捌く。一を抑え、二を薙いで――しかし三体目の攻撃は直撃し。
「成程ねぇ。一気に襲うだけの知恵はある訳だ」
「ま、狙ったからってそう簡単にはやらせない――けれどね!」
 そこへリアの癒しの旋律が差し込まれる。天使の音色が奏でられて。
 更に武器商人の割り込みが不沈艦の如く。蒼い炎を灯すカンテラの淡い輝きが発すると同時、己が周囲の敵の心中へと『ナニカ』を沸き立たせる。アレは駄目だ。存在してはいけない。滅せよと――
 焔に寄る虫の如く引き寄せられ、武器商人の身を削る。されど倒れぬのだが。
 さて。調査自体は順調であったが時としてこのように、一斉に敵が襲い掛かって来る事もままあった。それは配置的に敵が集中していた地もあった訳で、無造作に美術品が並んでいる以上こういう事もまぁあるのだろう。全てが均等に並んでいるとは限らない。
 攻撃が集中すれば傷がつき、気も逸れる瞬間はある。
 さすればふと、陰にあった『貴方』を映す絵画の射程範囲に一人が映って――
「ねえ。肖像画ってさ、自分の姿を後の時間に遺すもの……つまり“記録媒体”のひとつだよね?」
 されどそれを封じたのが武器商人だった。
 気付けば素早く動き、絵画の正面へと己を映させる。本来であればその身を停止させ、体力と精神を削り取る呪いが如くの感覚が襲う――筈なのだが。
 ならない。絵画の映す筈の能力が発動しない。
 それは数多の記録媒体から身を隠すスペクターの能力が故。
 相性が良かったのだろう。この絵画にはスペクターの力が有益の様だ。されば武器商人は相も変らぬ口端を釣り上げた表情のままで絵画に近付きソレを伏せる。これは偽装体などと異なり自らは動かず、いや『動けず』映す機能のみ。
 こうしてしまえば破壊は簡単だ。とにかく映ってしまうのが問題なのだから。
「ヒヒヒ……上手く行くようだね。さぁ、それじゃあ美術品はこのコたちに運んでもらうとしようか」
 言うなり呼び出すは己がギフト――白髪の狐の獣種に似た青年と、カピブタにそれからマーマデューク……水棲馬だ。簡単な運搬を従者に命じて己らが通ってきた安全ルートへ引き返させれば運搬も効率的に。
「ふっー……でも身体が停止する感覚は突然来ると流石に驚くわね……
 あとどれぐらいあるのかしら。ここの迷宮……というか回収すべきモノは」
「さてなんともいえないな……あんまり戦闘が派手になると壊れる美術品も出てきそうだから、なるべく長期にならなければいいんだけど」
 敵が落ち着いたところで呼吸を一つ。リアが皆の身を引き続き癒し、サイズは周囲の美術品の損耗状況を確認する。ある程度ならばサイズの修理技術でもなんとかなるだろうが――
「ペリカさんは『バレなきゃ弄ってもいいんじゃかね!』って言ってたけれど。
 あんまり損傷が深いとどの道手を加えても無駄か」
 この場で出来る修理には限度がある。傷を目立たなくすることは出来ても、大きな傷を直すのはさて、と言った所か。まぁ100%の回収が目的でもなし。ある程度は切り捨ても必要だろう。

 そして別れているもう一つの班の方でも似たような戦いが起こっていた。

 紛れている偽装体の数が中々多い。あちらこちら、こちらもあちらもとなれば。
「えーい! なんて数ですの美術品もどきがこんな――ああこらぁ!
 本物を壊そうとしないでくださいませんか――!!」
 タントが庇う。偽装体の攻撃から本物の美術品を。
 劣化しないように絵画ならわざわざ二枚一組、表同士を重ねて外部の刺激が極力『表』に入らぬ様に気を付けているというのに、価値の分からぬ美術品もどき共は遠慮なく攻撃を仕掛けてくる。天使の歌を紡ぎ、味方の支援を行いながら攻撃の回避に専念して。
「セララフィールドである程度の損壊は防げるから、攻撃が当たりそうならあえて床においても大丈夫だと思う――とっ! ボクは迎撃に回るね!!」
「援護します。さて、この混迷模様……流石は果ての迷宮と言った所ですか」
 さればセララと鶫が動いた。跳躍し、偽装体への攻撃をセララが仕掛け。鶫の構えた金之弓箭が――先往くセララを穿たないように調整されつつ狙いを定めて。
 放つ。非致死性兵器の一種であった鶫の一撃は偽装体の一体に直撃する前に破裂。
 直撃の一針ではなく衝撃波の一面を敵に叩き込むのだ。
 長射程から放たれる正確無比なるソレは偽装体の身を削って。
「形だけとはいえ美術品に似ているモノを傷つけるのはなんとなく、気後れするわね。
 ――まぁ惑わされないけれども」
 そしてイーリンの一撃が止めを刺す。偽であり魔であるのならば容赦はなし。
 戦闘が終わればここはチェック済み、とインクを近場に縫って探索済みの印を残す。不可思議な構造であれどこのように目印を残しておけば再度調査する――と言ったような無駄は省けるものだ。
「後気を付けるべきは絵画かな? 見えない所にあったりすると困るねー……」
「そうね。まぁ一度見つければ破壊は容易だから、どれだけ早く見つけられるか、ね」
 本物の美術品を、こんなこともあろうかと用意していた布や紐で包んでいくセララ。敵がいなければ回収作業はそう難しくないのだが、やはり面倒なのは『貴方』を映す絵画か。セララもそうだが各々の戦闘力は優れているが、戦闘中に不意に止まってしまったりすれば一瞬にせよ不利は否めない。
 分かっているが故イーリンは一刻も早く見つける事こそが重要と。
「おっと司書じゃないか。そっちも回収は上手く行ってるかい?」
 と、その時。イーリンの事を司書と呼ぶはアトだ。
 アトは丁度鑑定をしている真っ最中らしい。これは本物みたいだ、と結論付ければ手を休めて。
「いやはや中には比較的強いミミックもいてビックリするね。ペリカがいなきゃさっきは危なかったよ!」
「なーに言ってるんさね。一人でもなんとかなったろう?」
「いやいや僕はあくまで観光客だからさ。ムリな時はムリさ」
 一般的な観光客の定義が危ぶまれるが、ともあれ大きな傷を負っている風に見えない辺り、少なくともまだ行動するに大丈夫なのだろう。本当にまずければここまで余裕を見せてはいれまい。
 今の所の進捗はどの程度か――大分回収を進める事が出来ているとは感じるが。
「……まだ大物に当たっていないでござるからな」
 映す絵画を抑え込みつつ咲耶が言うのは『怪物』の話である。
 あらゆる本物に憑依するNo name monster――あれが出て来れば些か異なる対処が必要である。なにせこれまでは仮に苦戦すれど破壊すれば良かっただけだが『アレ』はそうはいかない。
 冒頭で述べたように美術品とはある程度の差異はあるが、得てして壊れやすい物である。
 それを攻撃などしてしまえばすぐに駄目になるのは明らかで――

「ッ!? この音は――!」

 瞬間。付近に響く強烈な『音』を咲耶は感じ取れば、体勢を直して。
 事前に取り決めていた事。『怪物』を見つけたのならばまず倒すよりも――集合をと。
 これは、その合図である。


 見つけたのはタントだった。アレは本物の美術品だと、アポートで引き寄せようと動かしたその瞬間に正体を現した『名無し』の幽体――
「フッー……! 危ない所でしたわ! アポートでなければ攻撃が直撃してましたわよ……!」
 些か距離を取れていたために初撃に反応出来たタントは、猛烈に攻撃を重ねて来る『怪物』から身を潜める事の出来る位置で息を整え。
 ――笛を吹く。それはいわゆる信号ラッパ……ビューグルである。
 当然だが非常に目立ちやすくなるため使い所を選ぶ必要がある品だが、逆を言えば吹けば離れている味方にも『私はここにいますわよ!』と簡単に示すことが出来る訳である。一度吹けば方向を頼りに味方が集ってきてくれる事は確実で。
「ファミリアーでも細かな位置を伝えています。それまでは耐えの姿勢ですかね」
「ええ。間違っても身を晒しちゃ駄目よ。これ、結構激しいみたいだからね」
 壁を削るが如くの勢い。成程、十一層のボス格として相応しい実力の様だ。
 しかし奴は動けない。発見した時にタントのアポートの距離があったが故にこそ退避が早期に間に合い――鶫に、イーリン。そしてセララもまた負傷少なく味方を待つ体制に入れた。鶫のファミリアーによる効果も相まってこちらへ来る味方の速度は早まろう。
 そして噂をしていれば――来た。別れていた皆だ。ペリカの姿もあって。
「さ、準備はいいさね!? あれを倒せば探査も楽になるさね!」
「あれが噂のノーネームでござるか……では拙者、往くでござる!」
「さぁて。いわゆるボスクラスって所かな? 正念場なら、踏み越えるモノだね」
 全員で一呼吸、タイミングを合わせる為に整えた後――往く。
 真っ先に出たのは咲耶だ。次いでアトが、まずはノーネームの本体を引きずり出さねばならない。美術品が壊れるだろうが、ノーネームに対しては頓着してはいられないだろう。次なる被害を防ぐ為にも、奴を早急に倒す事こそが被害を抑えるのに繋がる。
 ノーネームの放つ魔術群に臆せず向かい、踏み込んで。
 それらを支援するはタントと主人=公だ。
 癒しの術を、次なる技能を使える様にすべく精神の回復をそれぞれ。
「オーッホッホッホッ! 本物に憑りつくなどせこい、せこいですわね!
 それでも容赦はしませんわよ!」
「貴重な美術品、なんだろうけどね。でもこうなったからには破壊してでも倒すよ」
 吹き荒れる攻撃の嵐。さすれば。
「そんなに芸術品が好きなら――こんな芸術は如何かしら?」
 先程の探索までは回復を主としていたリアが、攻撃に移る。
 皆の体力にまだ余裕のある場であれば――紡ぐ演奏は、一つの恋物語の伝承歌だ。
 ある幻想種の少女の幻。たった一瞬の顕現にして泡と消える夢の姿はしかし、砂の魔法を齎して。
 ――ノーネームを包む。依り代としていた美術品に亀裂が走って。
「うーん。流石に美術品が回復することはない、か。傷も癒えてくれれば楽だったんだけどねぇ」
 瞬間。言うは武器商人だ。それらの攻撃を縫ってノーネーム――正確には奴が憑りついている美術品に貼るは治癒の符である。ノーネームが憑りついている間ならば生物の様に――もしかしたら癒えるのではないかと思ったが、流石にそうは行かなかったようだ。
 まぁそれならそれでも良い。ならば遠慮なく握りつぶすだけである。
 紡ぐ聖なる術式。汚れある者を払う一撃が特攻となりてノーネームを襲って。
 ただでさえ広がっていた亀裂にダメ押しを加える。

「――!!」

 叫ぶノーネーム――どうやら憑りついていた美術品が完全に破砕したようだ。
 現れる幽体。名前なき怪物は、名前を確かにもつ美術品を求めて移動を開始せんとする。
 ああどこだ。どこにある名前名前名前は――!
「迷宮探索も佳境だね……! さぁ、もうひと踏ん張り行こうか!」
 しかしそこを逃さないのはセララだ。
 セララは跳ねる。そのまま低空飛行で上から下に斬撃を。
 こちらを向けと。こちらに怒りを向けろと――
 またも美術品に憑りつけば本物の被害が増えてしまう。ここで敵の足を止め、被害を減らし――そして何より奴にマトモなダメージを通す為に。
「さぁ――私の目を見ろ!!」
 イーリンの瞬間的な力の増幅がここに顕現する。
 鋭き眼差し。魔眼の一閃が見るは奴の破滅か? それとも己が勝利の未来か?
 ――蝕む。ノーネームの動きを縛らんともする一撃が、契機となりて。
 往く。ここで逃せばまた面倒になると、攻勢のタイミングであると誰もが理解して。
「一流の絵画――なんだけど、これには引っ張られないか? レブルグの美術品だけなのか?」
 サイズもまた魔力の一撃を込めながら攻撃を紡いだ。
 同時に思考するはノーネームの『憑依先』だ。持ち込んだ一流の絵画――もしこれに引き寄せられるのならば、奴の距離を制限できるうえに『囮』になるのではないかと。しかしノーネームが見ているのはどうやら『ここ』に元からあった美術品の位置の様だ。
「ま、引っかかればラッキー程度の策だったけどさ……!」
 何か理由があるのか、それとも罠と勘付いているのか? いずれにせよそうなら潰す。
 鎖を放ち、魔力の撃を飛ばし。祝福の囁きが身に満ちれば活力も取り戻して。
「もうちょっとさね! こいつも、大分弱っている――ッ!?」
 瞬間。攻勢に加わっていたペリカが見たのは、ノーネームがブロックをすり抜けて突破しようとしてた姿。一瞬の隙を突いたのか――主人=公らのブロックで大分機動は制限されたようだが、見える位置。新たな美術品に憑りつき体制を立て直そうとしていて――

「――引っかかりましたわね!」

 しかし全ては予測済みだ。
 仲間を待つ間にタントや鶫が『これ』以外の近くの美術品を遠ざけていたのだ。
 すなわち、どこに逃げているかは分かっていたので――
「集中攻撃の絶好の機会、と申しましょうか」
 鶫が対象の死角を見定め至高の一撃を用意していた。
 放たれる。待っていたと言わんばかりの一撃が、即座に美術品諸共ノーネームを貫いて。
「ゴ、ガアアアアッ!!」
 叫ぶ。叫ぶ叫ぶ――ノーネームが苦悶の雄叫びを挙げている。
 猛撃だ。最早逃げられぬとなれば背水の陣の如く。あるいは追い詰められた鼠の様に。
 振り絞って敵対者を倒しにきたのだ。魔術の嵐が吹き荒れ、活力を奪わんとして。
 薙ぐ。イレギュラーズ達を遠ざけるかのように、近寄るなと言わんばかりに。
「見苦しいでござる! もう既に、詰んでいるでござるよ……!!」
 それでも。咲耶が放つは己が忍術、燃え盛る豪炎と怨嗟の毒を宿した鴉羽の群れである。
 ノーネームの身体を縛り付けんとする勢いが奴を包んで。
 同時。

「これで――終わりだよッ!! ギ・ガッ!」

 鴉羽の群れ。その波に乗る様に天から降りるは――セララだ。
 構えたラグナロクが大上段から。美術品から除かれたノーネームを確かに捉えていて。
 ギガ――セララブレイク。
 雷神のカードをインストールして放たれた雷光の輝きが――名前なき怪物の妄執を斬り砕いた。


 ノーネームを撃破してから調査と回収は非常にスムーズに進んだ。
 その時点でもまだいくらかの美術品は残っていたのだが……そもそも最大の警戒はノーネームの存在にあった。あれに少数で当たれば、突然奇襲されていれば被害は決して無視できないモノだったろう。
 故に歩みは警戒の深度に沿って緩かったのだ。
 しかし排除出来た以上後はまだ対処しやすい偽装体か絵画ばかりである――なれば。
「大分気が楽になるのよね……それにしても過去に失われた筈の美術品かー」
 主人=公は大分回収出来た美術品を前に言葉を紡ぐ。
「これってさ。過去のボヤで無くなる『前』まで時間を遡ってるんだか。実はそもそも無くならず、何かの理由で迷宮に流れ着いてたのか――どっちなんだろ?」
「さて、ねぇ。喪われたはずの美術品……そもそも本物であるのかどうか」
 答えるは武器商人だ。かわいいコ達が多いが、これは果たして本物か偽物か。
 それは地上でゆっくり鑑定してみなければわからない事だろう――いや、鑑定しても分かるとは限らない、か。果ての迷宮に存在せしモノに、なにか明確な道理があるとは限らないのだから。
「オーッホッホ……ッホ……ぜぇ、ぜぇ……流石に、これで、全部でしょうか?」
「多分ねー。みてみて、この探索のあれこれをさー漫画にしたんだ!
 これ新生レブルグ美術館で美術品として飾ってくれないかなー王様!」
 その後もアポートを活用して回収を進めていたタントだが、流石に量が多くて息切れ気味である。その状態でも決して笑顔をと煌びやかなるオーラを忘れない様は流石だが。
 そしてセララは己がギフト。みらこみ! で漫画を出力。
 さてテーマはなんだろうか――あ、フォルデルマンに渡しちゃだめだよ。あの人たぶんガチで美術館に飾るからね。だめだよ。絶対だめだぞ!!
「…………」
 そんな中大量に集めた美術品を前に、リアはふと思考に耽っていた。
 先にも述べたが――彼女が今回、というか前回あんなビデオレターまで作られたのにもう一度果ての迷宮に挑戦しようと思ったのは――全ては『あの人物』の為であり。
「喜んで頂けるかな……い、いや。もし、あれなら――ええっと……
 ほ、褒めて……貰えるかなぁ……」
 脳裏に浮かぶ緑の髪の御仁。芸術と美食を愛する幻想貴族……
 これはいけません。今魔物に襲撃されたら多分100%クリティカル喰らうぐらい隙だらけです。うん!!
 しかし。
 そんなリアの背後でアトはこっそりと企む。
 美術品の一つに、レブルグ美術館の火災で『残骸だけが残った品』と同じ品――と思わしきモノがあったのだ。故にアトはほんのちょっとしたいたずらとして、これは『直前の本物』です、という手紙を挟む。
「灰になった本物と。その後に現れた本物が並んだとき、後に現れた方は本物と呼べるのか」
 それは哲学の一種かもしれない。
 本物か? 偽物か? あるいは本物だと『認識』出来るか? ならばその価値は?

「――遊楽伯、君はこれを個人蒐集品として価値があると思うのかな?」

 美術の価値は見出す者によって様々、であるが。
 美術を見る目に長ける遊楽伯は如何な結論を下すのか――
 ほんのちょっとしたいたずらに『観光客』たるアトはほくそ笑むのであった。

成否

成功

MVP

御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの

状態異常

なし

あとがき

第十一層、攻略完了です。

美術品は大多数が届けられたようです。果たしてあれが本物か、あるいはよく似た何かなのか……

次なる階層では何が起こるのでしょうか。ご参加誠にありがとうございました。

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