シナリオ詳細
<青海のバッカニア>我らシェリー海賊団!
オープニング
●正義の海賊団、ここに結成
海洋に属する孤島のひとつ。
ひときわ小さな、デジェ村と呼ばれるその場所に、五人の男が流れ着いたのはある日の昼のことだった。
「ひどい目に遭ったんだ」
村で唯一の酒場を兼ねた宿屋の一席で、男のひとりがそう言って肩を落とす。彼は商人であり、他の四人は護衛だと名乗っていた。幻想からはるばるきたらしい。
「こっちの貴族様にお願いされて、名画を運んでいる最中に海賊に襲われて……」
「積み荷はとられて、海に落ちちゃったの?」
「ああ。船はぼろぼろ、俺たちは海に逃げるしかなかったんだ」
五人の男たちは一様に暗い顔をしている。酒はきっとおいしくないだろう。
この酒場兼宿屋のひとり娘であるリャーリャは、眉を顰めて話を聞いていた。野次馬の村人たちはしんみりしている。リャーリャの母がテーブルにそっとイカの姿焼きを置いた。
「おじさんたち、貴族様に怒られるの?」
「怒られるだけですんだらいいけどなぁ……。あの貴族様にはずいぶん贔屓にしてもらってたんだ。もし契約を切られたら……」
そこから先は恐ろしくて言えないとばかりに商人は黙り、ワインを喉に流しこんだ。護衛たちはもそもそとイカをかじっている。
お盆を両腕で抱き締めたリャーリャは、それと腰から引き剥がしたエプロンを近くにいた父に預けた。
「ちょっと行ってくるわ」
「あんまり遅くなるんじゃないぞ」
心配そうな父の言葉に、リャーリャは満面の笑みを返す。ここにいる大人たち全員が、少女の行き先を知っていた。
村の端に作られた秘密基地。
「海賊になるわよ」
扉代わりの布を引き剥がさんばかりの勢いで入ってきたリャーリャの第一声が、それだった。
真昼の珍客との接触を、両親から「いいから家にいなさい」の一言で禁じられてしまい、暇を持て余してごろごろしていたラゼとチルフは呆然とする。
少年二人を跨いで上座に座ったリャーリャは、繰り返した。
「海賊になるわよ」
「……いやいやいや、待って!?」
年下の少女のやたらと気迫のある口調に頷きかけたチルフが、我に返って起き上がる。
腹這いになったままのラゼの頬は、さすがに引きつっていた。
「え、なんで? 海賊?」
「あのおじさんたち、襲われたんですって。ここからそんなに遠くない場所でよ?」
「あー、そりゃあ親父たちが心配だなぁ」
胡坐をかいたラゼが酢漬けにしたタコの足を頬張る。
海洋に住まう多くの市民がそうであるように、三人の父親も漁師を生業としていた。近くで海賊が出たなら、漁に影響が出てもおかしくない。
「なにより悔しいじゃない。海賊なんかに荷物とられて、島に流れ着くしかなかったなんて。だからとっちめて、荷物をとり返してあげるの」
「待って待って。僕たち、前に勝手に海に出てイレギュラーズの皆さんに迷惑かけたり、ものすごく怒られたり、勝手に海に出ないって約束したりしたよね?」
「緊急事態よ」
すっぱりと言い切ったリャーリャに、チルフは行き場のない手をさまよわせる。
「えぇ……」
「女王陛下のエンセー? にも、影響が出るんじゃないか?」
思い出したようにラゼが言って、リャーリャが大きく頷いた。
「そうよ。海賊をのさばらせておいていい時代じゃないわ。陛下の邪魔になるかもしれないもの」
「行くべきだな!」
「ラゼまで! あぁぁ……待って、せめてローレットに連絡を……、もう行くの!?」
「海賊は待ってくれないのよ! 海賊を倒す正義の海賊、シェリー海賊団! 行くわよ!」
「ヨーソロー!」
「待ってぇぇぇ!」
●絵画と信頼と子どもたち
「初めまして、イレギュラーズ。ああ、話が終わったら『僕のことは忘れておくれ』」
頭にもやがかかるような感覚に、その場に居合わせたイレギュラーズが眉根を寄せる。
微笑んだ『空漠たる藍』ナイアス・ミュオソティス(p3n000099)は気にした風もなく、手元のメモに視線を落とした。
「依頼主は海洋の少年。大至急助けて欲しいそうだよ。なんでも、友人二人が海賊に対して海賊行為をなそうとしているらしい。……どうしてそんなことになったんだろうね?」
首を傾げた彼は、ともあれ、と話題を戻す。
「君たちへの依頼は三つ。ひとつは海賊の撃退、あるいは殲滅。もうひとつは強奪された絵画の奪還。最後に、子どもたちの保護」
「子どもたちは村に置いて行っちゃ駄目なのか?」
「彼らが納得するなら、それでいいんじゃないかな。……難しそうだけどね」
肩を竦めたナイアスが、依頼の詳細が書かれたメモをテーブルに置いた。
「海賊のことはそこに書いておいたから、確認してね。あと、今回君たちは『シェリー海賊団』を名乗ることになるらしいよ」
「どうしてもか?」
「なんかそういうことになっているんだって。正義の海賊、シェリー海賊団だよ」
ほんの少しだけ頭痛を覚えたイレギュラーズが額に手を添える。
どうしてイレギュラーズのまま、海賊を殲滅しに行ってはならないのか。依頼ならば仕方ないのか。
「それじゃあ、健闘を祈っているよ」
疑問を切り捨てるように言い、情報屋は席を立った。
- <青海のバッカニア>我らシェリー海賊団!完了
- GM名あいきとうか
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年12月06日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
孤島の村の小さな港に子どもたちの声が響いていた。
「いーくーのー!」
「待ってよぉ! もうちょっとでいいからぁ!」
少女の腰に半泣きの少年がしがみついて、徐々に引きずられている。彼より少し年下に見えるもうひとりの少年が、その光景に快活な笑声を上げていた。
「あらあらー。修羅場ですかー?」
「うーん……」
頬に片手をあてて『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)が柔和に目を細め、『この海に希望の花を』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が困ったように笑んだ。
「相変わらず元気だね」
「元気すぎやしませんかねー……」
子どもたちと面識がある二人の反応は対照的だった。――『未知の語り部』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は穏やかな表情で、『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)は嘆息交じりに。
「ふふ、私も子どものころ、秘密基地を作ってあちこち探検していましたわ」
「そうこうしているうちに騒ぎを聞きつけて大人がきたりしないかにゃ」
「そうなってくれたらいっそ楽なんですけどねー……」
微笑ましく騒ぎを見守る『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の隣で、『爆殺人形』シュリエ(p3p004298)が腕を組む。マリナは周囲に目を向けた。
大人たちはまだ、船を破壊され積み荷を強奪された商人たちに気をとられているらしい。
「ああ、こちらに気づいたね」
半泣きの少年と目があい、ウィリアムがひらりと手を振る。
途端に安心したのか、少年の拘束が緩むのが見えた。
「おっと、手を離すべきではないかな」
好機とばかりに古い巡回船に乗りこもうとした少女を、駆け寄った『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)がすんでのところで捕まえる。
「やだー! 私が正義の海賊なのー!」
「いやあ、子ども心に冒険がしたいという気持ちがあるのは、よく分かる」
じたばたと暴れる少女を港に下ろし、グリムペインが快く笑う。
「やぁやぁ、お久しぶりです……。ちゃんと海について勉強しているようで、なによりです」
「さて、少しは強くなったのかな?」
にこやかなウィリアムの問いに、子どもたちが押し黙った。
「で、でも! とめられたって行くんだから!」
「あーうんわかるー、めっちゃわかるー」
少女が叫ぶ言葉に、過去を懐かしむ目で遠くを見ながら、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)がしきりに首を縦に振っていた。
「ボクもむかしもそういうのに憧れてたころが……いや違うだろ」
仲間たちと子どもたちの視線にはっとして、セレマは咳払いをする。
(ボクは美少年だぞ。この反応じゃないだろ)
「リャーリャ君……だったかな」
「そうよ」
一歩前に出たセレマに、リャーリャはやや落ち着きを失くして応じた。
「確かに君の言うとおりだ。女王陛下の統治する海に、海賊などという野蛮な輩はもはや不要」
「わ、分かってるじゃない……」
もじもじする少女に、ユゥリアリアは上がってしまった口角を片手で隠す。
「あらー」
「なるほどね」
「あぁ……」
絶世の美少年であるセレマを前にした少女の反応に、アレクシアも目元を和めた。
ヴァレーリヤは娘が恋に落ちる瞬間を見てしまった父親のような顔になっているチルフと、呆然としているラゼを見てしまい、思わず神に祈る。
「キミは清く正しく美しい魂の持ち主だ。今日はキミの船員として……いや、騎士として、あなたを守らせてほしい」
「ひょっ」
跪きリャーリャの片手をとったセレマに、少女が奇声を上げた。その顔は燃えているように赤い。
「いい、いいわよ、みんな一緒にきていいわ! シェリー海賊団に入れてあげるわ!」
よし、と心の中でセレマは勝利を確信した。
「シュリエ海賊団ってどうかにゃ? 語感的に似てるからいけにゃい?」
「いけにゃいわ!」
「まぁ別に海賊の団長になりたいわけでもないしにゃ」
にゃははーとシュリエが肩をすくめる。
「改めて、初めまして、団長さん。私はアレクシア」
「リャーリャよ。こっちの弱そうなのがチルフで、うるさいのがラゼ」
屈んで少女を軽く見上る姿勢になったアレクシアが、少年たちにも微笑する。
乱暴な紹介をされたチルフとラゼは慣れているらしく、苦笑しながら会釈を返した。
「あのね、絵は私たちがとり戻すから、村で待っててもらえない?」
「嫌よ。海賊団の団長なのよ。陸で待ってるなんてできないわ」
「そんな気はしていましたわー」
(あとで親御さんたちにちゃんと叱ってもらいましょうー)
(そうですね……もう庇いません……)
(叱られて学ぶこともあるにゃ)
(巡回船の管轄者にも連絡しておいた方がいいだろうね)
ひっそりとユゥリアリア、マリナ、シュリエが方針を固める。
依頼書に記された海賊船の位置や構成を確認していたグリムペインも賛同した。
「分かったよ、ついておいで。でも絶対に私たちから離れないでね」
「貴方たちはまだ子ども。今回は、どうか私たちの戦いを後ろで見ていてくださいまし」
「見てていいのか!?」
ぱっとラゼの目が輝く。
降参するように両手を上げたアレクシアとヴァレーリヤが首を縦に振った。マリナも小さく息をつく。
「私の船に乗って、船室から飛び出さないこと。見学のために頭を少し出すくらいなら……セーフでしょう。聞かなかったら痛い目に遭いますからね……、絶対ですよ?」
「いつか貴方たちが大人になったら、肩を並べて戦いましょう」
「やったー!」
イレギュラーズの戦いを見られるだけでなく、いつか共に戦えるかもしれないという希望に、ラゼが飛び跳ねる。
「側で操舵を見ていていいですか……?」
「どーぞ」
マリナの了承に、チルフの目に真剣な光が宿った。
一方リャーリャは古い巡回船をちらちらと見る。
「んで、あの船がシェリー号かにゃ?」
「そうよ」
それに気づいたシュリエが鷹揚に頷いた。
「ほう……。これは目立ちそうだにゃ」
「うん、囮になりそうだね」
「おとり!?」
驚くリャーリャに、ウィリアムは首を縦に振った。
「もちろん大破して沈没する可能性はあるよ。でも大切な役目だ」
「そうですわー。敵の不意を突いて、一気に制圧するのですー。無駄な役ではありませんわー」
「できるだけ壊さないようにするよ! 約束する!」
呻くリャーリャに、シュリエも援護を放つ。
「わらわたちの船は速度が出るから近づくのに、シェリー号は年季の入ったオーラで目立つから海賊の目を奪うのに最適。適材適所だにゃー」
「……分かったわ……」
「そもそもリャーリャの船じゃないしね。村の巡回船だしね」
小声でチルフが言い、マリナが首を左右に振った。本人に聞かれるとこじれる。
「よく考えたらそっちの船の方がかっこいいし! シェリー海賊団の船に相応しいじゃない!」
「よぅし、話はまとまったようだね。今日の私はジョン・シルバーさ。君たちが好奇心のせいで恐ろしい目に遭う――ということのないように、立ち回ろうじゃないか」
片足の船乗りの名を物語るように告げて、グリムペインが片目をつむった。
●
夕闇の中、煌々と篝火を焚いた船が海上を走る。
甲板に立つアレクシアの手には、光を放つ本があった。傍らではユゥリアリアが小さな声で歌っている。
木製の古い巡回船の操舵室では、ウィリアムが舵をとっていた。意識は事前に召喚しておいた夜行性の海鳥と繋げている。
「……見つけた」
闇夜に身を隠すように、最低限の灯りだけをつけた巨大な船の姿を、上空を行く海鳥の双眸が捕らえた。
「およそ予定通りですわー」
「作戦開始だね」
言うが早いか、アレクシアの足元で五彩の花弁とともに風が舞い上がる。
彼女の体が目標高度に達するより早く、ウィリアムが放った雷鎚が海賊船を襲った。
奇襲され俄に騒がしくなった敵船に向け、アレクシアは凛と叫ぶ。
「悪さをしている海賊ってのは、あなたたちね! これ以上は許さないよ!」
言葉と同時に魔力の矢を放った。
「お覚悟ですわー」
優しくユゥリアリアが歌い出す。
潮風に乗るその旋律は、声音に反して冷たい呪いを孕んでいた。
砲撃と雷鳴、海中に重いものが投げこまれる音に、チルフが首を縮める。
逆に窓からめいっぱい首を伸ばすラゼを、マリナが片手で服を引いて押しとどめた。逆の手では舵を操っている。
明かりを消した白夜壱号は、シェリー号とは逆の方角から密かに海賊船に接近していた。
「始まったようだね」
「こちらに気づいている様子はありませんわ」
「よしよし」
できるだけ目立たないように、セレマとヴァレーリヤ、グリムペインは甲板で身を低くしていた。海賊船に次々と明かりが灯る。火の影が波間で揺れた。
「約束。分かってますよねー……?」
「おとなしくしてること!」
ラゼが心持ち引っこみ、マリナが小さく顎を引く。
シェリー号もとい巡回船の姿はこちらから見えないが、あまり無事ではないかもしれない。しかしリャーリャの顔に失望はなかった。むしろ興奮気味だ。
「突撃はいつ?」
「すぐだにゃー」
ぐっと伸びをしたシュリエが、船室からの無邪気な問いに応じる。
囮船は防戦一方という雰囲気を出しているのだろう。海賊たちが調子づいている今が狙い目だ。
「……うっしゃ。いっちょ暴れてくるかにゃ!」
ダンッと甲板を蹴ってシュリエの小柄な体が鞠のように跳ね上がった。反動で船が揺れる。
「正義のシェリー海賊団、参上! 切りこみ隊長シュリエ、いっきまーすにゃ!」
「なんっ、なんだ!?」
軽やかに海賊船に着地したシュリエの口上に、海賊たちが動揺した。
「私はジョン・シルバー。すなわち船の料理人で……、ああ、この先は言わない方がいいのかな?」
グリムペインが名乗り終えるより早く、子どもたちの笑い声が局所的に響く。範囲内にいた砲撃手たちの手足や首に、魔力の縄が巻きついた。
「ひぃっ!?」
「動揺してんじゃねぇ、馬鹿ども! ローレットだ! 返り討ちにしてやれ!」
船長らしき男の怒号が轟く。
「さて、馬鹿はどちらか」
海賊船に移ったセレマがするりと宝石剣を抜いた。
「キミたちは、キャプテン・リャーリャの騎士であるボクが相手をしよう。――覚悟はいいね?」
「かかれぇ!」
「主よ、天の王よ――!」
「うぉぉっ!?」
セレマの脇を火炎の濁流が走っていく。悪意満ちる海賊船で、ヴァレーリヤはメイスを構えた。
「その罪、悔い改めなさいませ!」
「そぉれっ!」
右腕に刻まれた紋様が光り、火炎の大扇をより強烈なものとして発動させる。砲撃手が悲鳴を上げながら放った銃弾が、シュリエの頬を掠めた。
「その程度かにゃ?」
爛々と目を輝かせる彼女から、血が流れることはない。その身は人にあらず。しかし、人と同じように驚きもするのだ。
例えば、真後ろから斬りかかられるなどすると。
「はにゃ!」
「ぎゃっ」
「危ないですわー」
海賊のカトラスによる一撃は、しかしシュリエに届かなかった。ユゥリアリアが氷の槍を投げ、敵の攻撃をとめたのだ。
「もうシェリー号を襲わせないし、誰も傷つけさせないよ!」
甲板に足をつけたアレクシアが赤い花に見まがう魔力の塊を生成、炸裂させる。
「シェリー号はどうなりましたの?」
「無事だよ。どうにかね。帰りは曳いた方がよさそうだけど」
囮船から続々と乗りこんできた仲間たちに安堵の表情を浮かべたヴァレーリヤに、ウィリアムが応じる。
「なるほど、結果は上々のようだね」
手元に出した黒漆塗の小槌をグリムペインが無造作に振るった。
「性格、美貌、剣技! 全てにおいて劣っているとは、同情を禁じ得ないな!」
「野郎!」
リーダー格の男を相手どるセレマの傷を、ヴァレーリヤが癒す。ヴァレーリヤを撃とうとした海賊は、白夜壱号に乗るマリナの魔弾を食らった。
「クソッ! まだいやがるのか!」
「あの船を沈めろ!」
「させないよ!」
「よそ見ですかー?」
マリナたちの元へ向かおうとした海賊に、アレクシアの花弁とユゥリアリアの氷槍が殺到する。
流れ弾が船にあたる。
「見えますかー……?」
操舵の合間に攻撃を仕掛けながら、マリナは横目で子どもたちを見る。
子どもたちは、戦場から目を離せないでいた。
「海を愛する冒険仲間を失うわけにはいきませんから……。なにかあったら、私が庇います……」
でも、とマリナは続ける。
「チルフさん、ラゼさなん。いざってときは、船長をあんな風に守るんです……」
「……はい」
「私も、みんなを守るわ」
子どもたちの目に強い意思が宿っていた。マリナはなにも言わず、とっておきの魔弾を放つ。
片足で踊るように、グリムペインが海賊の剣撃をかわす。
「御覧、気づけば星がこんなに綺麗だよ」
相手の懐に滑りこんで、虚無の剣を突き刺した。絶叫を上げる猶予もなく、男が仰向けに倒れる。
「ふぅ。格好よく振る舞い、かつ見せ場を作る。美少年も楽じゃないね」
周囲に宝物がないことは確認済みだ。セレマは指を鳴らし、爆発を起こす。
「この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を!」
メイスを振り下ろすと同時に放たれたヴァレーリヤの炎が、夜に染まった空の下を走った。
●
マリナの船から海賊船に、子どもたちが移る。
「こちらですわー」
率先して手を貸したユゥリアリアは、そのまま子どもたちを先導した。マリナとセレマ、ウィリアム、シュリエは最後の安全確認も兼ねて先行している。
甲板と船室の境に、アレクシア、ヴァレーリヤ、グリムペインの三人が立っていた。ユゥリアリアはゆっくりと、そちらに向かう。
「うぅ……」
「恐ろしいですかー?」
口を開きかけた少女は結局、なにも言わずに服の裾を握り締めた。チルフは今にも立ちどまりそうで、ラゼも青ざめている。
甲板には戦いの跡が色濃く残っていた。板材は燻り、鮮血もまだ乾いていない。海賊たちは倒れ伏したままだ。
ユゥリアリアはわざと、この惨状を子どもたちに見せていた。
「今回はこうしてわたくしたちが勝利しましたわー。ですが、次はわたくしたちがこうなるかもしれませんー」
「……イレギュラーズでも、負けるのか?」
ラゼの問いに、歌姫は厳かに首肯する。
「まして、皆様だけではどうなっていたことかー」
「自信を持つのはいいことですわ。ですが、危険なことに首を突っこみすぎるのはよくありません」
メイスを片手で支えて立っていたヴァレーリヤが背筋を伸ばし、子どもたちとユゥリアリアを迎えた。
「自分の力量について、きちんと把握できておりますかー?」
「あんまり遠くに離れていると、私たちでも守ってあげられないんだよ」
「……うん」
悲しそうな目をしたアレクシアに髪を撫でられ、リャーリャは小さく答える。
沈んだ空気をとりなすように、グリムペインが手を叩いた。
「ではお宝とご対面と行こうじゃないか」
「こちらですわー」
先頭をユゥリアリアとアレクシアが行き、子どもたちが続く。
最後尾のグリムペインが牙を覗かせて嗤った。
「ジョンは途中で主人公に牙を剥く。よかったなぁ、私が狼で」
はっとしたチルフが振り返る。グリムペインが笑みを深めた。
「篝火はよくないものまで照らしたようだね。……怖かったかい?」
宝箱に座っていたセレマが腰を上げ、リャーリャの顔を覗きこむ。少女は肯定とも否定ともつかない声で応じた。
「盗まれた絵画はこっちですかねー……」
「たくさんあるんですね」
壁際に無造作に置かれた絵画の中から、それらしきものをマリナが選出する。チルフは財宝の山に感嘆していた。
ウィリアムは眉尻を下げる。
「持ち主に返して回るのは大変そうだね」
「ひとつふたつ、報酬にもらっていくかにゃ?」
「いけませんわ」
宝石をひとつつまみ上げたシュリエにヴァレーリヤが慌てて待ったをかける。冗談だにゃ、とシュリエは宝石を捨てた。
「……あの!」
意を決した様子のリャーリャにイレギュラーズは視線を集中させる。
「今回のことは、ごめんなさい。この前のも。……それでね。私がもし、今度、きちんとローレットに依頼して、一緒に海に行ってほしいって言ったら、きてくれる?」
子どもたちの目には、不安と懇願が浮かんでいた。
イレギュラーズはきらびやかな宝物庫で顔を見あわせる。
「危ないことを前提にするのは、やめてほしいですけれどー」
「……一度しっかり怒られてからにしてくだせー……」
柔和な笑みをユゥリアリアが浮かべ、マリナはふっと目をそらす。ウィリアムが安心させるように、一番近くにいたチルフの肩をぽんと叩いた。
「ローレットはあらゆる依頼を断らない、らしいよ」
「完全中立だからね」
宝石に負けないほど美しい顔をセレマが自信に染め、グリムペインは内緒話をするように声を潜める。アレクシアとヴァレーリヤが勇気づけるように頷いて見せた。
「ま、そういうことだにゃ」
一拍遅れて子どもたちが理解し、歓声を上げる。
伸びをしたシュリエはそのまま天井を――その先の空を指し示す。
「夜になりそうだにゃ。さっさと帰るにゃー」
「団長、号令をー……」
瞬いたリャーリャはにんまり笑う。
「お宝と海賊船はこのまま持ち帰るわ! みんな準備して。村に戻るわよー!」
いえっさー! と元気な返事が狭い部屋に響いた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼の達成お疲れさまです。
このあとめちゃくちゃ怒られた(子どもたち)。
でも絵画は戻ったので、商人たちは喜んでいたそうです。
とはいえ子どもたちはそれぞれ思うところは大いにあったようで。
自らの正しさを胸に、伸ばした手がいつか青の彼方に届くことを願って――信じて。
「もう勝手に無茶なことしないわ。約束!」とのことです。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
だって正義の海賊ってなんかかっこいいじゃない!
●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
●目標
・海賊の撃退、あるいは殲滅
・奪われた絵画の奪還
・子どもたちを無事に村に帰す
(子どもたちを村で説得し、海に向かわせなくても可)
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
皆様が村に到着するのは昼過ぎです。
子どもたちを説得する場合は夕方から、そうでない場合は昼過ぎから戦闘が始まります。
船上での戦闘になります。
●敵
『海賊』×15
近距離でカトラスを振り回してくるのが10人。
遠距離から拳銃で攻撃してきたり、砲弾を使って船を沈めようとしてきたりするのが5人。
海洋の王室や貴族と関係のない、いわゆる『無許可海賊』です。
大型の海賊船に乗っています。
いずれもそれなりに手練れです。
特に近距離で攻撃してくる海賊のひとり、リーダー格の男は全体的にステータスが高いと予想されます。
絵画はいくつかある船室の最奥部、宝物庫に無造作に置かれています。
他にも、ここにくるまでに強奪した品々が詰めこまれているようです。
●NPC
『海賊船シェリー号』
という名前をリャーリャが勝手につけた小型の船。本来は近海の巡回に使用されるもの。
攻撃のための設備はなく、丈夫でもない木製の古い小船。
他に船をお持ちの場合は使用しなくても構いません。
子どもたちは使おうとします。
『子どもたち』
・リャーリャ
クラゲのディープシー。13歳の女の子。
気が強くて無謀で楽天的。シェリー海賊団の団長(自称)。
なにがなんでも海賊退治についてこようとする。
・チルフ
クマノミのディープシー。15歳の男の子。
気が弱くて周囲に振り回されがち。正義の海賊とは。
正直、村で待機していたいが、リャーリャとラゼが行くなら行くしかないと思っている。
・ラゼ
ヒトデのディープシー。13歳の男の子。
かっこいいことをしたいお年頃。正義の海賊、かっこいいじゃん!
イレギュラーズへの憧れもあり、間近で戦闘を見たいのでついて行きたいと思っている。
●他
三人ともシナリオ『青き海のその向こう』に登場していますが、気にしなくて大丈夫です。
子どもたちを連れて行ったり行かなかったりして、海賊を退治し、絵画をとり戻してください。
皆様のご参加、お待ちしています!
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