PandoraPartyProject

シナリオ詳細

バイオリニストの腕をもげ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●政治的特異点
 幻想の治外法権。法なき法の島。通称『監獄島』。
 重罪人たちが収容され通行を絶たれたこの場所には、かのアーベントロートであろうとも暗殺の手を伸ばせないという。
 そんな政治的特異点を我が物とすべく、監獄島の実質的支配権を握る囚人ローザミスティカの籠絡作戦がフィッツバルディ公より放たれた。
 内容はきわめてシンプル。
 ローザミスティカの願いを聞き、それを叶えよ。
 その実行部隊として送り込まれたのが、今回のあなた……つまりはローレット・イレギュラーズである。

●囚人たちの王国
「よう、こんな場所までよく来たなァ」
 深夜、手こぎのボートで海を渡り監獄島へ秘密裏に接岸したイレギュラーズたちを、白手袋の男が引き上げた。
「俺はジェイムズ。ここの看守だ。ローザミスティカの使いっパシリと言ったほうがアンタらには分かりやすいか?」
 フレンドリーに笑って語る彼の様子に、この場所がどんな場所なのかが現われていた。
「話は看守室でしようか。このまま冬の海辺で立ち話ってのは……おたくはともかく、俺はゴメンだね」

 うまくもまずくもないコーヒーが人数分並べられ、ジェイムズはハンバーガーを片手にパイプ椅子へ座った。
「あんたも知っての通り、監獄島は囚人どもの王国さ。ローザミスティカの作ったルールと奴の作った通貨が監獄内で通用する」
 見な、といってバラの刻印がなされたコインをテーブルにおいて見せた。
 驚くべきことに、監獄島の中ではこのコインによって嗜好品や娯楽が販売され、看守やローザミスティカの与えた仕事をこなせばコインが手に入るのだという。
 囚人どもの王国という言葉もあながち嘘ではないのだろう。そしてローザミスティカが囚人でありながらこの場所を支配しているというのも、また。
「さて、そんなアンタたちに頼みたい仕事がコレだ」
 ジェイムズがテーブルにどさりと置いた写真には、顔に大きな傷の入った女が映っていた。
 マグカップをドンと写真の上に置き、左右非対称に笑う。
「こいつを殺せ。部下もろともだ」

●罪逃れの罪人
 『人食弦楽』夕闇坂 狂々斎。
 何人もの善良な音楽家たちを陰謀によって蹴落とし、自殺に追い込んでいった狂気の音楽家である。
 その凶悪な経歴とやり口から、まるで才能ある音楽家を喰って育っているかのようだとされ『人食弦楽』の異名をもつ。
 彼女は度重なる貴族への侮辱やその他の罪によって終身刑を受けこの監獄島にいるが、パトロンとなった貴族の庇護のもと死刑を逃れ、さらには次々と送り込まれた『兵隊』によって贅沢な立場を維持しているらしい。
「兵隊といっても出所後の立場が約束されたチンピラどもさ。服役期間中に夕闇坂の護衛をまっとうするって約束でな。
 だが、兵隊たちを取り巻きにして調子付いた夕闇坂は気に入らない囚人を闇討ちしたりワガママ放題かましてくれてなあ……見事ローザミスティカの逆鱗に触れたってワケさ」

 夕闇坂とその兵隊たちは、監獄島東部のB12収容棟にはいっており、収容棟の囚人は全員兵隊でかためている。
 収容棟の看守も逆らえず、もはやB12収容棟は夕闇坂の城である。
「収容棟に入るための鍵は貸して置く。看守も襲撃時は『たまたま』留守にする。あとはうまあくやってくれ。
 ……おっとそうだ。もし『薔薇のコイン』をあいつらが持ってたら奪っておいてくれよ。オモテじゃ使えねえだろうが、俺のところにもってくればチップをやるぜ」

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

■暗殺指令
 『人食弦楽』夕闇坂 狂々斎を抹殺してください。
 彼女はB12収容棟という建物を根城にしており、10人ほどの兵隊でまわりを固めています。
 毎日ポーカーをしたり酒を飲んだり捕まえてきた弱者をいたぶって遊んだりしています。
 そんな場に乱入し、戦闘によって抹殺することになります。

※ボーナスポイント
 夕闇坂だけを抹殺してほかの兵隊を逃がすことで戦闘を楽に進めることが可能ですが、兵隊たちもまとめて倒す(殺す)ことで『薔薇のコイン』をゲットできます。
 それができればできるほど追加報酬(gold)が増幅します。

■夕闇坂と兵隊たち
・夕闇坂
 クラスとエスプリは百花太夫。
 BSの付与や味方の強化を得意としています。

・兵隊×10程度
 能力はばらばらですが、基本的に夕闇坂を庇ったりこちらをブロックしたりといった行動を中心に行ないます。
 集中攻撃や陣形および連携の混乱に注意してください。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • バイオリニストの腕をもげ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年11月21日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ノワ・リェーヴル(p3p001798)
怪盗ラビット・フット
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
シラス(p3p004421)
超える者
華懿戸 竜祢(p3p006197)
応竜
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女

リプレイ

●閉ざされた楽園
 監獄島。ここはルールの外にあるもう一つの王国。
 もしうまく立ち回ることができたなら、外の身分や経歴を問わず貴族と同等の暮らしができるとまで言われ、逆に選択を謝れば貴族の出であろうと奴隷の如く落とされる。
 ローザミスティカという女王を頂点とした、ここは小さな王国だった。
 そんな島の一角。ちいさな石レンガの塔が建っている。
 建物間の行き来を制限するためかもともとあちこちの建物は離して作られているが、ここは特にほかと離れて存在していた。
 ここはある人物……『人食弦楽』夕闇坂 狂々斎の城であった。
 収容されている10名ほどの囚人はみな夕闇坂のために送り込まれた兵隊であり、看守すらも彼女たちの命令においそれと逆らうことができないという。
 『夜明けのパーティー』ノワ・リェーヴル(p3p001798)の使役によって上空を飛んだコウモリが、石の窓とまり中を覗き見た。
 上半身をはだけた屈強な男が酒を飲み、その隣では肥満体の男が蒸した鶏肉をむしゃむしゃと食っている。
 とても囚人と呼べるような振る舞いではないが、服装はいかにも囚人といった白と黒のストライプ模様であった。
 石の螺旋階段を登った先では男性のうめき声が聞こえ、同じく『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の使役したネズミの視点からは拘束台にはりつけにされた男が夕闇坂のオモチャになっている風景が見えた。
「全く……」
 視界をきって、目頭をマッサージしながら息を吐くレイチェル。
「おや、パジャマパーティーでもしていたかい?」
 皮肉げに笑ってみせるノワ。ノワも使役先の接続をきってこちら側(ないしは戦闘)に集中できるように切り替えているようだ。
 レイチェルはクロスで拭ったメガネをかけ直す。
「全裸の男がダーツの的になっていやがった。心臓にターゲットマークを書き付けてな」
「おやおや……思ったよりも幼稚なお姫様らしいね」
 ノワはどこか冷酷に笑った。
「芸術とは美しく在るべきだと思わないかい?
 彼女のやり口は美学に掛ける。
 ならば悪徳には悪徳を以て応えよう。
 今宵のショーは少し過激になりそうだ」
「何でもいいさ。どうしようも無い悪人を殺れるンならな?」
 しばらく横で話を聞いていた『応竜』華懿戸 竜祢(p3p006197)が腕を組んだ。
「やはりというべきか、腐った者はどこまでも腐る物だな。
 なに、罪人の処刑は手馴れている。首を落とすのも、何なら原型のない肉塊にしても構わんが?」
 『奪える限りを奪うとしようじゃないか』と続けて、竜祢はこみ上げるように笑った。
 ひとをオモチャにして遊ぶお姫様が部下も命もおそらく財産すらも奪われるとなれば、一体どんな喜劇が見られることだろう、と。

 背景を振り返ろう。
 監獄島を実質的に支配しているローザミスティカはフィッツバルディ公にとって有益な人間であるという。
 この『監獄の女王』を味方につけることで頑強な治外法権のフィールドを獲得できるとなれば納得もいくことである。
「それにあのフィッツバルディ公の依頼だからな、気合い入るぜ」
 『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)はうんと背伸びをして余裕そうに笑った。
 フィッツバルディはローレットでも人気のある大貴族だ。政治手腕もさることながら、質実剛健な振る舞いに好印象を抱くものも多い。
 もっと言えば、働きに対してシンプルに金払いがいい貴族としても有名だ。
 シラスのような裏社会を生き抜いた者にとって、金払いは全てに優先して信用されるともいわれる。
「分かるわ。おじさまからの依頼あっちゃ、いつもより張り切っちゃおうかなって気持ちになるものね。追加報酬だってほしいし?」
 刀を半分まで抜いてからガチンと鞘へ勢いよく収める『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。
「だな。オモテじゃ価値のねえコインをわざわざ買い取ってくれるってハナシも、さしづめ公の手回しだろうぜ」
 教育が行き届いてるんだよ、とシラスはコインを指の上でくるくると回した。

(監獄島の事実上の支配者ねぇ……。
 まぁ、依頼人が誰であろうとどうでもいいさ。所詮俺は雇われ人。
 人殺しだろうが仕事は仕事、やるべきことをやるだけさ)
 武器の手入れを行いながら、『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)はローザミスティカについて考えていた。
 彼女はこの監獄島において独自通過を流通させ、貴族のように優雅に暮らしているという話もある。
 通過を流通させるというのは権力において最上位の立場を示す行為だ。かのアーベントロートですら暗殺を遂行できないと言われるのも納得の支配力である。
 くわえたタバコに日をつけ、胸いっぱいに煙を吸い込む『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)。
「いいねえ優雅な監獄生活。こーゆートコでコネ作っとくと後々役立ちそー。
 ローザミスティカ様におぼえを良くしてもらうにゃあ、兵隊含めて殲滅してェよなァ」
 タバコを咥えたまま頬をつりあげて笑うことほぎ。
 広がる煙を本で仰いで、『彼岸に根差す』赤羽・大地(p3p004151)は涼しい顔をした。
「ここにいる連中の殆どガ、お小遣い稼ぎが目当てと来たカ。
 まァ、そこんトコロは俺も人様の事は言えた義理じゃねぇがナ」
 大地はポケットから『たまたま』拾った鍵を取り出し、『たまたま』看守が持ち場を離れている間に収容棟の鍵を開けた。
 仲間たちを中へ入れると、今度は内側から鍵をかけ、窓から外へと鍵を放り投げる。
(何れにせよ、この狂気はここで終わりにしてやらないとな。
 ここは実質彼女の城のような者だ、むざむざそれを捨てるとは思えないけど……自分が殺されるとなったら、あちらもどう出るか分かったもんじゃないし)

●悪党たちの夜会
 蹴破られる扉。内向きに倒れたドア板とそれに潰されたネズミ。
 突然の騒音に立ち上がり振り返る男たち。
 ノワは注目を一身に受けたまま、両手の指をぱちんと鳴らしてみあせた。
 するとどうだろう。ノワの背後からちいさな花火が上がり、手にはトランプカードが何枚も湧き上がっていく。
「レディース&ジェントルマン!!
 今宵お届けするショーは『人食弦楽の狂想曲』でございます。
 主演は勿論この方『人食弦楽』夕闇坂 狂々斎。
 外道で下劣。醜悪 極まる彼女の断末魔は一体どの様な音色を奏でるのでしょうか!
 それでは最後のその時までお楽しみ下さい」
 胸に手を当て、ウィンクをするノワ。
 そんな人物を見つけて放置するようなら彼らは『兵隊』などと呼ばれていない。
 ノワの心理掌握術の範囲内にあるものもないものも、まとめてノワへと襲いかかっていく。
「さあ、出番だよ嘘つき(ジョーカー)」
「おう、借りるぜ道化師(ジョーカー)」
 シラスは舞い散るトランプカードの中から無造作に5枚ほど選んでキャッチすると、それを次々と男たちに投擲していった。
 突き刺さるカード。その全てがジョーカーである。
 カードに込められた封印術が肉体に侵食し、男たちはたちまち勢いを失った。
 ちらりと螺旋階段の上を見やるシラス。夕闇坂は何人かの男をつれて部屋の中に引き込んでいくのが見えた。
「掃除は兵隊任せで自分はダーツ遊びってか。ムカつくねえ」
「ま、そんなとこだろうさ」
 ことほぎはくわえていたタバコをぴんと指で弾くと、懐からマジカルステッキを取り出した。
 カウボーイのガントリックのように指でくるくると回し、きりもみスピンさせながら放って右手でキャッチ。
 肩を通して軽快にまわして見せると。
「メイクアップだファッキンガイズ」
 瞬間。黒いリボンがことほぎを覆い、鉄パイプを叩き込もうとする男を一瞬だけ牽制。
 黒い薄手袋をしたことほぎの手が伸び、男の顔面へと魔法陣を展開した。
 砲撃。
 爆発。
 きりもみ回転して吹き飛ぶ男と、それに激突して転倒する男。
 テーブルにぶつかり乗っていた料理や酒ごとひっくり返し、男たちがうめきながら転がった。
 そんな中、ふくよかな男が骨付きチキンを握ったまま立ち上がり、屈強な半裸の男が酒瓶を壁に叩きつけてガラスのナイフにかえた。
「どうやら……ただの死にたがりじゃあなさそうだ」
「誰の差し金かなあ? ポールボーイ? パッションピンク? ブルーサークルかも?」
 などと言いながらふくよかな男は突如火を吹いた。
 燃え上がった炎がことほぎを中心に広がり、まるで油をまいたかのように体に炎が張り付いていく。
「どこでもないしどれも知らん。少なくとも、あんたが邪魔な誰かだろ」
 大地は月下美人の術を展開。
 あたりに咲き乱れた花が炎をはらって仲間たちを癒やし始める。
 一方でルナールはフェアウェルレターによる攻撃を実行。
 幻刃・蒼碧による斬撃が、かっぷくのいい兵隊のハラを切り裂いていく。
「実に狂った奴を護衛してるみたいだな?
 お前らもそれが仕事だが、この状況とは……不運というべきかね?」
「余計なお世話だぜ!」
 ガラス瓶を投擲してくる男。
 ルナールがそれに対処したところで、レイチェルは自らの指を小さく切った。
 ひゅるひゅると湧き上がる血が空中に魔法陣を描き、無数の矢を形成していく。
「さて、罪人1人の命はいったい幾らになるンだか」
 『月華葬送』という美しい花弁のような弓に矢をつがえ、発射。
 周囲に形成された矢が連動したように一斉に飛び。男たちへと刺さっていく。
「お先に失礼、ってね!」
 男たちを抜け、螺旋階段を駆け上がる秋奈。
 その途中に立ちふさがったナタ二刀流の男に、秋奈は同じく両手に抜刀。目を見開いて斬りかかる。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
「ギ……!」
 刀がぶつかり、威力が拮抗する。
 否、威力でいえば秋奈が圧倒していた。
 相手の守りが頑丈なのだ。
「面倒ね」
 相手を蹴りつけてわずかに距離を取ると、直後に切りかかった竜祢の『蒼翠剣・八十禍津』が青と緑二色の輝きを残して走った。
 『残心』という竜祢の技によって、男の首が切り落とされる。
 竜祢は階段をそのまま駆け上がり、扉を剣で破壊した。
「くくっ、お前が『人食弦楽』夕闇坂狂々斎か、話は聞いている。
 なぜあんなことをした? 何が目的だ……あぁ、もしかしてただの享楽か?
 くだらないなどと否定はしないさ。崇高な目的が有るのであれば、私は肯定し賞賛を送ろう」
 部屋の奥で刀をとった夕闇坂。
 二人の男が立ちふさがり、身構える。

 戦いは続く。
 悠長に手下にばかりかまっていては夕闇坂を逃すリスクを抱えることになるが、かといって手下を逃してやるつもりもない。
 思い切り欲張って、全員殺して金にしようというのが、今回イレギュラーズの総意であった。そのためにわざわざ内鍵を施錠までしたのである。
 そんなわけで、二階の窓から逃げ出そうとする夕闇坂を足止めし、ボディーガードを突破しつつ倒すチームと、そこへ援護に行かせないために(そして鍵を壊して手下たちが逃げてしまわないように)一階側で食い止めるチーム。その二つに分かれることになった。
 夕闇坂ひとり殺すためならここまでする必要はないが、逃せばそれだけ追加報酬が減る。多少のリスクは犯してでも例のコインがほしかった。
 シラスたちを先に行かせるべく、レイチェル、大地、ルナールの三人が手下たちへと襲いかかる。
「やれやれ、中々にうまく回らんもんだなぁ」
 フェアウェルレターの連発で消耗したルナールは血意変換によってAP回復をはかっていたが、大地を標的にして襲いかかろうとする男たちを見つけたので予定を変更。割り込んで大地を庇うように剣を構える。
 一方の大地は『牡丹一華』の術を行使。ルナールが相手取った敵めがけて色鮮やかなアネモネの幻影を放った。
 部屋からライフルを持ち出した男が彼を(もとい彼を庇うルーナルを)射撃し続けていたが、幻影に飲まれるようにして血を吐き、白目をむいて崩れ落ちた。
「おいおい、本当にここは監獄か? 装備が整いすぎだ」
「さすがは法なき法の国、か」
 レイチェルは剣を振りかざして襲いかかる男へとダーツの構えをとると、血によって練り上げたダートを投擲。
 刺さった途端に血の魔法陣が展開し、男が炎に飲み込まれていく。
 かき消そうと暴れるが、炎が彼を焼き尽くすほうが早かった。
「全員相手してもらうぞ。獲物は逃がさん主義でなァ」
 レイチェルは別の相手に狙いをつけ、うっすらと笑った。

 男は身体を鋼のように硬質化すると秋奈めがけて襲いかかった。
「でーあーふたーでー」
 顔面へと繰り出される拳をあえて額で受け、ストライカーからのエネルギー噴射を実行。
「しーんぐあーろーりのーぉ!」
 交差した刀が男の腕を切り裂き、秋奈は回転しながら抜けていく。
 その振る舞いに男はすっかり気を引かれ、追いかけるように手を伸ばす。
 が、伸ばした手はことほぎの突き出したマジカルステッキによって阻まれた。
 具体的には、ステッキから伝達した『死に至る悪意』によって肘部の血管が爆発し、骨が黒く蝕まれ黒い炎に包まれていった。
「ぐおお!?」
 腕を抑えて暴れる男。
 竜祢は男の首を巨大剣で切り落とすと、ぎらつく目で夕闇坂へ振り返った。
「くくっ、来い『人食弦楽』! まさか目前の少女一人膝をつかせられないような奴ではあるまいな!」
「調子に乗りやがって。貴族に言われなきゃ何もできないヘタレどもが」
 夕闇坂は部下の一人を盾にすると、弦楽器を手にとって呪いの音楽を奏でようとつまはじく。
「誰と勘違いしてんのか知らねえが」
 シラスが魔力拳銃を。
「キミは誰のものともわからない依頼でなんの理由かもわからぬまま、ほぼ無意味に死ぬんだよ」
 ノワがマジックワイヤーをとって、ほぼ同時に動いた。
 ワイヤーが男の腕や首に巻き付き、強制的にノワのそばまで引き寄せていく。
 そうしてがら空きになった夕闇坂の腕めがけてシラスのマジックバレットが正確に打ち込まれた。
 白く美しい手首がべぎんと音をたて、血と骨と肉にまみれてあらぬ方向へと曲がっていく。
「おっと、手は音楽家の命だったか? 悪ぃなあ」
「ひっ……!」
 後じさりし、窓にもう一方の手をかける。
 が、シラスの銃撃がその手をも打ち抜き、両手首を粉砕させた。
「よっぽど優雅に暮らしたかったんだろうな。自分ダイスキで自分中心に世の中回したかったんだろうなあ? 他人を踏み台にして遊ぶのは楽しかったか?」
「い、命だ――」
「誰が喋っていいと言った?」
 魔力銃を夕闇坂の口に突っ込んで黙らせる。
 振り返ると、ノワたちが残りの部下を人体だったとわからないほどメチャクチャに切り刻んだあとだった。
「諦めな。アンタはもう詰んでた」





●ローザコイン
 これは後日談ではない。
「ふん、これが通貨ねぇ……薔薇の刻印だけは好きなんだがなぁ」
「持って帰りてえか?」
「いや、薔薇ならこれで間に合ってるんでね」
 ルナールは自分の胸元を指差して、薔薇模様のコインを看守のジェイムズに投げてわたした。
 ジェイムズの手元には沢山のコイン。
 イレギュラーズたちは結構な痛手を負ったものの、あえて自分たちの退路ごと断つことで夕闇坂の部下全員のコインを回収することに成功したのだった。
「ありがとよ。こいつでしばらくハンバーガー代に困らねえ。ほらよ」
 ジェイムズがかわりに投げてよこした革袋には、本来支払われるはずのコインよりずっと多くのコインが詰まっていた。
 夕闇坂のことを覚えている者も、語る者も、もういない。
 彼女は、金になって消えたのだ。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

なし

あとがき

 依頼完遂。
 またのお越しをお待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM