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シナリオ詳細

<YcarnationS>悪辣と紅薔薇の骨

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 うっすらと影を落とした砂の海に、一輪の花が咲いていた。照る陽光が陰りを堕とす事も無い薔薇の花は砂で細工されたかのような端整なものであった。
 白磁の指先が伸び上がる様に掲げられる。その掌からは美しき薔薇が咲き、『砂の都』に僅かな色彩を与えていた。
 トゥシューズの爪先が汚れる事も厭わずに白いドレスのフリルとレェスを揺らした少女は首をこてり、と傾げる。

「沢山の人がいるんだ」

 うっとりと。唇に乗せられた響きは恍惚。その欲求を素直に見せる。
 彼女はキャンディ。世界が少女に与えた唯一の贈物によって人生の歯車が軋んだ天義の娘。
 はじめは只、花を愛していただけだったのだろう。
 物質より花を生み出す。そうして掌にこじんまりと産み出した花束を彼女の母も大層喜んだ筈だ。
 然し、軋む運命は亀裂を走らせる。彼女は『識ってしまった』のだ。人体(いきもの)より芽吹く花の美しさを。いのちが産み出すその恍惚のいろを。
 だから、アンラックセブン――魔よりも尚、魔に染まった超越した異常者はその整った唇を三日月に歪めてその言葉を口にした。
「沢山――たくさん、咲こうね。
 綺麗で、素敵で、うっとりしちゃう沢山の花」


 妬ましいと最初に思ったのは美しい姉を見た時であった。
 次に思ったのは又も美しく生まれた妹を見た時だっただろう。
 三人姉妹の中で一人だけ不細工であると揶揄される事だってあった。其れは自分でも思って居た。
 あゝ、あゝ,妬ましい――私だって美しく生まれたかったもの!
 苛立ち、そう声にする。
 美しものは皆、赦せやしないわ。
 私は――

 ――美しい奴らを惨めに殺したいだけだもの。


 ラサと深緑を取り巻く幻想種誘拐事件の主犯たるオラクル――ザントマンの離反より始まったラサでの戦闘は概ね成功に終わっていた。だが、其処に姿を現した長耳の女、『砂の魔女』カノンは幻想種達を操り動かすグリムルートよ呼ばれた首輪の制御権限を上書きし、幻想種を連れ去ってしまったのだという。
 オラクルをも越える狂気の伝染。誘われる幻想種。そして、それを追い縋る様に追う商人たち。『■■■■』という書の始祖の楽園と呼ばれた其処に一斉に集う『楽園の東側』の信徒たちと自体は混乱を極めていた。
『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)は端的にその状況を表す。
「つまりは、倒さなきゃいけない奴が同じ場所に集まった。一網打尽にすればいいってこと」
 そう、ザントマンと呼ばれた者。魔種。商人に操られた幻想種――その首輪の制御を外してやれば保護だってできる。そして、宗教を信仰する者たち。
 狂気、狂気、狂気の連続の中にひとつ。異質なものが混じり込んでいたとすれば?
 雪風は「『花の聖少女』が砂の都に向かっている」とげっそりとした顔で告げた。
「この事態で人間が多く集まってることを知って、より花を咲かせたいという目的だと思う。
 勿論、彼女自体は『花を咲かせたいだけ』で目的がある訳でもない。善悪の区別もついてないし、悪戯をする子供みたいな感じかな……」
 その悪戯が度を超えているのだけどと雪風は困った様に言った。
 キャンディが向かった場所は魔種が幻想種を統率している場所なのだという。
 嫉妬に駆られた魔種のセレンディーアはグリムルートと呼ばれる首輪を幻想種に宛がい、自身より美しい女を恨むが如く彼女らに惨めな死を与える為に特異運命座標の許へと攻撃をし向けさせている。
 砂の都の入り口付近に布陣して防衛隊長を務めたセレンディーアの討伐は彼女が魔種である以上必要な事だ。
「……魔種の討伐でしょ。それから、グリムルートで従わされてるってなら可能な限りの幻想種の保護をお願いしたいし――それから、キャンディの討伐」
 それは、アンラックセブンである彼女が更なる被害を出さぬように対策を打つ意味だ。
「三つ巴、って言えばそうかも。キャンディは魔種でも、操られてる幻想種でも、ましてや特異運命座標でも区別はないから……」
 だからこそ、戦線は混乱するだろうと雪風は不安げに告げた。
 注意されたし。花の美しさに惑わされぬように――どうか、救いの手を差し伸べて欲しい。

GMコメント

 日下部と申します。よろしくお願いいたします。

●成功条件
 ・アンラックセブン『キャンディ』の撃退
 ・魔種の討伐
 ・幻想種の保護(過半数以上)

●『虚ろの魔種』セレンディーア
 顔を仮面で隠した幻想種です。嫉妬の呼び声に駆られ、苛立ちを常に口にしています。
 三人姉妹の中で、一人だけ不細工であると揶揄されたことで狂ってしまいました。
 カノンの為に砂の都の入り口付近での警備を担当しています。

●幻想種×10
 セレンディーアに操られている幻想種です。皆美しい女性ですが、その意志や戦闘スタイルとは別に『全員が前線で傷を厭わず戦う』という制御を施されています。

●『グリムルート』
カノンの制御が利いた首輪です。壊すことはできそうですがそれなりに固いようです。簡単には壊れません。
本人の意識が残った儘、思い通りに動かす事ができるのだそうです。

●『花の聖少女』キャンディ
 アンラックセブンのひとり。幼い少女。『天使の花畑』と呼ばれるギフトでどこにでも花を咲かせることができますが人間に咲く花に魅入られ『無差別な殺人』で美しい花を見ます。
 花を咲かせたいだけなので無駄な殺生はしませんが倫理観が可笑しいのは確かです。
 過去、ゲツガ・ロウライト率いる討伐隊が相手にした際の情報は以下

・花を傷つけた物は何人たりとも(魔種であろうとも)憎悪の対象
・善悪の区別なく、花を咲かせる事だけが主目的である
・戦闘能力は『花を咲かせる』という事象に対することだけに異様に高い

●戦場
 砂の都入り口付近です。隠れられる場所はそれほど多くありません。
 セレンディーアと幻想種達を見据える様にキャンディが迫ってきている段階で介入することができます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


 どうぞ、よろしくお願いいたします。

  • <YcarnationS>悪辣と紅薔薇の骨完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年11月02日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
天空の騎士
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

リプレイ


 何処までも白き海が続く。それが、砂であるという事を知った時、人々はどの様な感情を芽生えさせたのであろうか。草木の気配すら感じさせぬ真白。生き物を受け入れることも知らぬその場所にもしも美しい花が咲いたならば――

 神様は残酷だ。無垢なる少女を魅了した美しき花。悪辣なる聖少女。『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)が祖父よりその話を聞いた時、最初に感じたのは世界への理不尽であった。我らが親愛なる主は少女の心に花を愛する優しさと美しき花が為ならば手を下せる悪辣さを与え給うたのだ。
「……救いたい、っていうのはエゴになるんだね。この場所では」
 手を差し伸べる事が出来るならば『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は戸惑う事はしないだろう。だというのに、状況は難解だ。パズルを否が応でも組み上げたかのように『選択』を迫ってくるのだ。
「魔種、『花の聖少女』、操られた幻想種……。やる事はいっぱいだね。でも、やらなきゃ」
 スティアが信じるのは自身の力とこの場に居る仲間の力であった。それ以上の奇跡を神に乞うのではなく気合と根性で乗り切るという『根性論』は淑やかなる少女に芽生えた努力の形なのだろう。
「後でこうすれば良かったと後悔しなくて良いように死力を尽くさないといけないね」
「勿論ですわ。後悔し懺悔を口にする方は幾度も見てきました。
 神の愛に満ちたこの世界で、神が為に働けるというならば手を抜く訳にはまいりませんでしょう?」
 そう、『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は胸を張った。世界に満ち溢れたアガペー。神が救いの手を差し伸べるというなれば、ヴァレーリヤは神の意志が為に死力を尽くす。それこそが信仰者としての強き矜持だ。
「うん。手を抜けば絶対に後悔すると思う。それは間違いない……。
 厄介な状況だけど、ここで立ち止まるわけにはいかないんだ。幻想種のみんなを助けて、道も切り拓いてみせる!」
 自身と同じ長耳。売り物と呼ばれた彼女たちはどれ程迄にその矜持と尊厳を踏み躙られて来たであろうか。『さいわいの魔法』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は手首を飾った二種の魔法道具へと指先添える。飾った花に乗せたのは少女の勇気と決意のかたちであった。
「……後悔、か。罪なき人々に刃を向ける。騎士として主に誓った刃の向く先がそうである事はどれ程辛い事だろうね」
『六枚羽の騎士』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)は己の掌を見遣った。砂の都が遠く、見える。そこに立つ幻想種の――それは美しくも虚に魅入られた瞳のおんなたちだった――首へと飾られた悪辣なるかたちに唇を噛み締めた。
「……ええ。けれど、飲み込むしかありません。彼女達だけではない。
『キャンディ』――天義に出現し、そして深緑にも姿を現した『花の聖少女』」
『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は花を貶した相手を狙うという彼女の性質を利用できないものかと悩まし気に小さく呟いた。
「螺子が飛んだ相手の制御は難しいものだからね。
 やれやれまったく……美しさに嫉妬した魔種と人に花を咲かせる殺人鬼だなんて」
『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は異世界の魔神の記したとされる魔術書に指先を添えた。魔種として身を堕としたおんなの事も、『気が触れてしまった』かのように逸脱した少女も。どちらも受け入れがたい存在であることは確かだ。
「私自身も螺子が飛んでる自覚はあるけど、流石にここまでにはならないなぁ」
 螺子が飛んでいる。捩じれたかのように、世界が彼女たちに何か一つでも優しかったならば――『慈愛のかたち』恋屍・愛無(p3p007296)は胡乱に前を見る。仮面のおんなが一人、警戒するように周囲を見回している。あゝ、そうだ。その仮面さえもこの世界の悪辣なる形なのか。
「何かが一つ違えば花の少女も嫉妬の魔種も別の生があったのだろうか。
 僕は、はっぴーえんどが好きだが、この世界はそうでもないらしい。他者と姿形が異なれど、意志は通じるこの世界は、同族にも優しくは無い様だ」
 美しさなんて、人それぞれだろう。だからこそ、『はっぴーえんど』は遠く、遠く、遠く。どうして、なんて疑問は腹の中で解決するしかないのかもしれない。


 遠く白いドレスをその身に纏わせた少女が楽し気に『花の養分』へと向かって歩を進めていた。砂塵舞うその場所へと走り込み、アレクシアは真直ぐにその少女を見据える。零時の鐘にはまだ遠いというのに、おてんばなシンデレラはガラスの靴など知った事ないというように楽し気だ。
「来たわね」とその背中に地を這う様な憎悪を込めて声かけたのは仮面の女。その周囲には首輪を付け自身らの意志にはない前線での戦闘を強いられる幻想種の姿があった。
(……傷ましい……)
 白く、陽に焼ける事なき美しい肌にくっきりと刻まれた傷痕は生々しく、赤が滴り落ちる。リースリットは其れを態と放置し、腫れと鳴ることを楽しむかのような魔種の行いに唇を噛んだ。
「助けに来た」とカイトは確かにそう言った。その声に、仮面の魔種――セレンディーアがひゅ、と息を飲む。
「美しいから?」
 その声音は確かな憎悪が滲んでいた。麗しの天義の騎士に窮地を助けて貰う美しき娘。あゝ、それはセレンディーアが何時かの日読んだ御伽噺の耀ではないか。
「さあ、どうでしょう……私には貴女が仮面を付けている理由の方が分かりませんが」
 長い髪を靡かせ、セレンディーアへと視線を向けたリースリット。後方に立ち、幻想種の乙女を盾として使う彼女は分かりやすい程に『その顔を傷つける』意図があったのだろう。
(前線が不慣れな者もいるでしょうに――これでは、『盾役』としての利用価値も薄いでしょう)
 半ば、短絡的な魔種の『欲求』が絡んでいるのだろうが、それこそ好機だ。ヴァレーリヤは 馬車を安全地帯に安置し、幻想種達へと向き直る。愛無はすん、と鼻を鳴らす。必要とされるのは視野狭窄たるセレンディーアや幻想種を花へと変えんとするキャンディより出来る限り引き離すという事であった。
「あなた、花が好きなの? 私も好きなんだ」
 まるで友人に語り掛けるかのようにアレクシアは柔らかに少女へと言った。ころころと笑ったキャンディは「お花好きなのね」と嬉しそうににんまり笑う。
「でも、誰かを犠牲にしたものを美しいなんて思わない! だから私の花は、あなたを止めるためのもの!」
 魔力の花びらが咲き誇る。その花の気配にキャンディはころころと笑みを溢した。アレクシアの背筋につ、と汗が伝う。目の前にいる少女は自身らと同じ『普通の少女』であるはずなのに、何かのトリガーが外れたかのように強敵である事を感じさせた。
 魔種を一手に引き受けることとなるリースリットは幻想種達の対応を熟しながら仮面の乙女へと距離詰める。
(――支えなきゃ。不殺で『救う事を前提』とするなら慎重にならなきゃいけない……。落ち着け、落ち着け。信じるんだ!)
 赤と青。両極の眸を瞬かせスティアの周りに魔力が展開される。その気配を感じ、サクラは親友の魔力を纏った儘、理想の剣を振り下ろす。
「首輪が外れるまでの辛抱だ、少し眠って貰うよ」
 深淵に踊るが如く碧珠の魔術を使用してルーキスは。『境界』を揺蕩い続ける。靭やかに距離詰めた幻想種の乙女の首に飾られた隷属の証は好まぬとでもいうように彼女の制圧の魔術が幻想種を襲う。
「随分と強引なお嬢さんもいらっしゃるんですのね」
 ぼやくヴァレーリヤが振り仰ぐ。アレクシアが抑えに回るキャンディによる痛打は的確に華奢な魔女の体を痛め付けた。撓るかの如く美しき緑が深き森を愛する幻想種の少女へと打ち付ける。唇より漏れた血潮を拭い、アレクシアが顔を上げる。梅と櫻。舞う花弁を受けながら、彼女は震えるように声を発した。
「花は――誰かを痛めつける為のものじゃない!」
「分からない事があるの」
 キャンディは穏やかに言った。その声音の温度差にアレクシアは唇を噛み締める。スティアの癒しが少女を立たせ続ける其れを確認しながらカイトはルーキスの制圧魔術で意識を失った幻想種の体を抱え上げた。
 くらり、とアレクシアの意識が眩む。跳ね上がる様にサクラは距離を詰め、キャンディの許へと辿り着くが、乙女はにんまりと笑ったまま「ねえ」とサクラを見遣った。
 その瞳の澄んだ色は罪悪の欠片もない。あゝ、神様。我らが主よ――!
 何故優しき少女にこのようなギフトを賜ったのですか。
 ただの優しき少女として過ごせたかも知れない少女に、何故。
「サクラちゃん!」
 スティアの声を振り仰ぐ。残る一人の幻想種へ向けて笑いながら手を伸ばすキャンディの悪辣さは『不正義』と呼ばずして何と呼ぶか。だからこそ、天義の騎士は言葉にした。
 ――「我らが断罪する」と。
 

 一輪、咲いた。美しき紅色であった。砂の海に、ちっぽけな緑が芽吹く。いのちの定着せぬその場所に――草木であれど、砂塵の彼方に攫われ何時かは土塊となる事が目に見えている――咲いたその美しさは誰が望んだものだったのだろうか。
「キャンディ」とカイトは言った。きっと、彼女は特異運命座標には悪感情はない。花を咲かせたいというだけの分かりやすい欲求の上に立って居るからだ。
「成程、本当に綺麗な華を咲かせるんだね」
「……とっても」
 うっとりとした少女が紅薔薇を撫でる。その一直線に伸びた茎は棘があるだろうか。少女の白魚の指先に食い込みぷつりぷつりと赤い血を砂塵に落とす。リースリットはその光景を神秘的とさえ感じた。否、そう感じていなくては余りに花の美しさを霞ませる悪辣さを消せなかったからだ。
「みんなも、綺麗に咲く?」
 咄嗟にルーキスは身構えた。ころころと笑ったキャンディより害悪は感じない。幻想種の保護に向かうヴァレーリヤをちらりと見てルーキスは「断ろうかな」と肩を竦めた。
「花は、見る方が好きでね」
 まあ、とキャンディは笑った。美しき薔薇を見下ろして戦意を失ったかのような彼女は自身の抑え役であったアレクシアの花の気配が消えた事を詰らなさそうに唇を尖らせて。
「花の聖少女よ、あの魔種は、綺麗なものが嫌いなんだ。
 キミの美しい花も傷つけるだろうし、美しいキミも傷つけるだろう。危ないから今日の所はどうか、お帰り」
「……お花が嫌いなの?」
 一輪の薔薇。その美しさに見惚れるキャンディはカイトと、そしてスティアを見遣る。サクラの視線を受け止め乍ら、花を傷つけることのない特異運命座標の言葉にううんと唸り、一つ頷いた。
「綺麗なお花を観れたからいいかな。……他の『花が咲くかも』しれないし」
 興味を損ねたように。ふわり、と少女が歩き出す。警戒し、その動向に注意を送りながらスティアは彼女が『撤退』することに気づいて胸を撫で下ろした。
「さて――君か」
 愛無の静かな声音が響く。残るはセレンディーア。仮面でそのかんばせ隠した幻想種の乙女。
 ルーキスは彼女が藻搔く様に飛び込むそれを阻害するように魔術を送る。嫌がらせは得意だと告げた彼女へと視線を向けて、低く地を這う乙女の声音は狡いと確かに紡いだ。
「狡いわ。美しい羽。美しいかんばせ。何も持ってはいなかった――! あゝ、狡い!」
「――貴女の嫉妬を下らないとは言いません。貴女にはどうしようもなかったことですから」
 その頬に一筋、走る。藻搔く様におんなが呻く。見目麗しき幻想種の乙女――リースリットのその美貌を羨み妬むかのように声を張り上げて。
「お前にッ、何が――!」
「ええ。分かりません。……その果てに成したことは、貴女が自ら成したこと。それを、認める事が出来ませんから」
 リースリットの足元が眩む。その細い肩を受け止めて、カイトはぐ、と前へと出た。刃構えるサクラはセレンディーアをじい、と見つめる。あゝ、きっと――彼女とキャンディは対極なのだと僅かな空気冠を感じて。
「美しい花を作り出す少女と、美しくなりたかった魔種。皮肉だね」
 踏ん張る様にサクラが両脚に力を込めた。ヴァレーリヤが確かにそのおんなをみやる。嫉妬に駆られ死に物狂いにも攻撃を重ねる其れは懺悔を述べる敬虔なる信徒とは対極に居て。
(呑み込めなかったのですわね)
 ――神は、与えなかったのだ。彼女に、救いを。
「セレンディーア、狂ってしまったのだね。今日これが最初で最後のダンスだ。
 さあ、お手を。君の殺人舞台で、最期まで」
 セレンディーアの仮面が落ちる。そのかんばせをみて、愛無は人間とは求めすぎるものなのだと認識した。
 狂ってしまった。狂った。そこに至るまでの経緯を愛無は識らない。然しながら、一つだけ歴然とした事実が存在している――セレンディーアは加害者で幻想種が被害者なのだ。だからこそ、幻想種を救うが為に死力を尽くした。
(けれど、『救いたい』と願うのははっぴーえんどへの強欲だろうか)
 愛無は屍助六(影)を確りと握り込む。指先に感じた感覚は自身の手によく馴染む物だった。そのほっそりとした白い指先は蛇溶と化す。
 ――選ばれず。愛されず。解らぬでもない故に。救いたい。
 強欲の使徒でありながら、愛無は分からないと首を振る。
「……僕は彼女を救うすべが解らない。所詮、この姿も心根も紛い物ゆえに」
 乙女が、美しい幻想に夢見るように。距離を詰める。至近距離、仮面の外れた女が叫声を発しながらサクラの体に痛打を与える。
「ッ――の」
 可愛い女の子ではいられない。それが不正義への天義の騎士としての戦い方だというように吼える。スティアが親友の名を呼び癒しを与えた。命を凌ぎ、只、直向きなまでに敵を『喰らう』愛無がにたりと笑う。
「美しい月を眺める余裕すらないならば、眠った方が得策じゃないかな?」
 魔を帯びて、ルーキスはセレンディーアの許へと一撃落とす。その美しさに見惚れたように目を見開くセレンディーアの許へと愛無は『喰らうよう』に飛びこんだ。
 食えばいい。食って一つになれば分かることがあるかもしれない。忘れぬ事ができるやもしれぬ。
 彼女という存在を。
 女の手が掲げられる。それが、リースリットには茎の様にも思えた。
 悪辣なる薔薇の骨。それは、命を呑み込む砂塵の中で嫋やかな花を手折る様にぱたりと落ちた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)[重傷]
紅炎の勇者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
蒼穹の魔女

あとがき

 この度はご参加ありがとうございました。
 アンラックセヴンと呼ばれる一人の少女の介入による三つ巴。
 混乱する戦場で、とてもよく立ち回れていたかと思います。

 また、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。

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