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シナリオ詳細

<Sandman>傭兵と、ゴーレムと

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ラサ。その首都である夢の都ネフェレストから少し北へ。砂漠の一角に存在する天然洞窟には、人工的な明かりが煌々と灯っていた。
 ザントマン……オラクル・ベルベーグルス。そのオラクルに与する傭兵たちが、隠れ家として利用する洞窟であった。
 その入り口には、二人の見張りの男が立っている。
「ザントマンが大見得切ってくれたのは良いが」
 見張りの男が、苛立たし気に声をあげた。
「おかげで一部の客が委縮しちまった。どうすんだよ、奥の商品」
 ザントマンによる大見得とは、ラサの有力者が集う全体合議の場で行われた、自派閥を率いての深緑への侵略宣言についてだろう。この結果、ラサの商人たちはおおむね、事実上の国主たるディルク派と、オラクル派へと二分されてしまっている。
 そう、二分されてしまっているのである。何方に着くか、白黒とはっきりした態度を求められているが故に、オラクル派に属する気はないが、しかし奴隷は欲しい……そう言った中途半端な層が、オラクル派から距離を置き始めるケースが現れたのだ。
 この傭兵たちの取引相手であった商人も、そう言った日和見主義の者で、オラクル派に属する気はないと取引を中止。
 商品――つまり、さらわれた幻想種たちの買い手に苦労している、というわけだ。
「いっそのこと例の首輪でも奴隷につけさせてくれりゃいいモノの、あれは貴重だからと俺たちには寄こしやしねぇ……で、寄こしたのが」
 もう一人の見張りの男がぼやき、外へと視線をやる。洞窟の入り口には、巨大な砂の巨人……ゴーレムが一体、静かにたたずんでいた。
「このでくの坊か。クソ、デカすぎて動かすのにも難儀だ。置物にしかなりゃしねぇ……どう使えってんだよ、こんなの」
「敵が来たらこれで追っ払えってんだろ。ま、こんな砂漠のはずれに人なんざ来やしねぇがな……」
「ちげぇねぇ」
 …………。
 さて、見張りたちが談笑するのを、遠巻きに見やる人影があった。
 人影は軽く頭を掻くと、しばし、逡巡する。
「成程ね。まぁ、ちょっとばかし恩を売るには、いいタイミングかな」
 人影――ユリアンはニヤリと笑うと、その場を静かに、後にした。


「というわけでな、砂漠のはずれにオラクル派の傭兵たちの隠れ家があるんだ」
 イレギュラーズ達を前にして、ユリアンはそう言った。
 ディルク派の依頼を受け、ラサ内の調査を担当していたイレギュラーズ達に、情報がある、と声をかけてきたのがユリアンだった。
「あ、別に報酬とかは良いぜ? 俺も今回の件には心を痛めててなぁ。なんていうの? 仁義? そう言うのは、悪人の俺にもわかるっつうかさ」
 ユリアンの事をよく知る人間がいたならば、それが真っ赤な嘘であることを見抜いただろう。
 ユリアンは現状、まったくの悪党であり、それを顧みることも悪びれることもない。ユリアンがローレットへと情報を流すのは、二つの理由がある。
 一つ。ユリアンは、深緑国内で密猟した物品をラサで売りさばくことで生計を立てている。密猟とはつまり、『それが手に入りづらいから』成立する物であり、深緑への侵略などを真面目に実行されては、ユリアンは商売あがったり、という事。
 もう一つ。これがおおむね最大の理由であるが、ユリアンは、ローレットのイレギュラーズ達の実力を、よく理解している。
 となれば、沈みゆく船が何方であるのか、という判断は容易いし、浮かぶ船の船長に恩を売っておいて損はない。
 以上二点が、この悪党を珍しく善行へ導いた理由である。
「奴さんらは、全部で8人くらいかな? それから、でけぇ砂のゴーレムが1体。これが全戦力、って奴だ」
 ユリアンは、どこか憎めない笑みを浮かべながら、言った。
「俺はお前らを隠れ家まで送っていく……けど、戦闘には参加しないからな。送って行ったら、そこでおさらばだ。それでよけりゃ、案内するけど、どうする?」
 ユリアンの問いに、イレギュラーズ達はひとまず、頷いてみせるのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 悪党ユリアンの先導の下、オラクル派の傭兵の隠れ家を強襲しましょう。

●成功条件
 すべての敵の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 ラサの砂漠のはずれに、オラクル派の傭兵たちが潜む隠れ家である洞窟が発見されました。
 皆さんは、案内人であるユリアンと共にこの隠れ家へと向かい、すべての敵を撃破してください。
 敵の戦力は、8人の傭兵と、1体のゴーレム。これは、ユリアンによる事前調査で発覚した確定情報です。
 メタ的な情報ですが、イレギュラーズ達が姿を現した段階で、すべての敵が洞窟外に現れ、戦闘開始となります。そのため、戦場は外、砂漠となります。
 また、洞窟の奥には、数名の捕らわれた幻想種たちが存在するようです。合わせて救助もお願いいたします。

●エネミーデータ
 傭兵 ×8
 特徴:オラクル派の傭兵たちです。オラクルの原罪の呼び声により、少々狂気に侵されています。
 出血を付与する物理近接攻撃を得意とします。数が多めの為、油断は禁物です。

 砂のゴーレム ×1
 特徴:オラクル派の傭兵たちにより起動された巨大なゴーレム。一度起動すれば、破壊されるまで行動し続けます。
 体勢不利を付与する近接物理攻撃や、高いEXFを得意とします。

●NPCデータ
 ユリアン
 特徴:今回道案内を買って出た悪党。今回に限って言えば、彼の情報は正確です。隠れ家へと向かう道すがら、話すタイミングなどはあるでしょう。
 道案内を終えた段階で姿を消すつもりです。戦闘に参加させたり、あるいは戦闘後に何か話をしたい場合は、何らかの手段で足止めさせる必要があります。

 囚われの幻想種たち
 特徴:『眠りの砂』により昏睡状態に陥っています。
 戦闘に参加することはありません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <Sandman>傭兵と、ゴーレムと完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
燕黒 姫喬(p3p000406)
猫鮫姫
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ラナーダ・ラ・ニーニア(p3p007205)
必殺の上目遣い系観光客

リプレイ

●砂塵
「……もう無理。帰ろ。ねぇーえ。がえ゛ろ゛ーーー」
 『猫鮫姫』燕黒 姫喬(p3p000406)の声が響く。
 陽炎立ち上る砂漠の一角を、イレギュラーズ達は進んでいた。
 砂漠の熱はじりじりと、イレギュラーズ達の肌を焼く。熱さに慣れていないのだろう、姫喬が悲鳴を上げるのも無理はない。
 とはいえ、本気で帰ろうなどとは思っていないだろう。何せこれより、任務が始まるのだから。
「ね゛ぇーユリアンいつもこんな砂漠うろついてんの?」
 姫喬が、先頭にて道案内をする男――ユリアンに声をかける。
「まぁ、な。ラサでひと働きするとなると、砂漠に出るのはしょうがねぇよ」
 苦笑した様子で、答える。その一挙手一投足に、姫喬――いや、イレギュラーズ達は関心を払っていた。
 ユリアンは、はっきりと言えば、悪党の類である。
 もちろん、今回此方をだますつもりはなさそうだが、此方としても、気軽に心を許す必要もない。
(「悪党同士の潰し合い……って所かねぇ」)
 『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)が心中でぼやいた。とはいえ、ジャガーノートにとってみれば、ひと暴れできるのであれば、彼らの思惑にまでは興味はない。それに、少なくとも――これは正しい行いであることに違いはないのだから。
「しかし、ユリアン……とっくに何処かでくたばってると思ってたぜ」
 『夜闘ノ拳星』シラス(p3p004421)が軽口交じりで、ユリアンへと告げた。シラスとユリアンは、旧知の仲だった。かつてシラスが些か汚れた仕事を行っていた時期の相棒であり、シラスがイレギュラーズとして召喚されて以降は会う事もなくなっていた。
 偶然――思いもよらぬ再会であった。ユリアンは笑みを浮かべながら、
「おいおい、俺を誰だと思ってんだ? そう簡単にくたばりゃしねぇよ」
 答える。和やかな雰囲気ではあったが、とはいえ、これも旧知の仲の素朴な会話……というよりは、内心の探り合いの意味が大きい。
「シラス君のお友達なのね」
 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が声をあげた。
「今回は情報教えてくれてありがと! もし困ったことがあったら、私で力になれることなら協力するよ!」
 屈託のない笑顔で告げるアレクシア。ユリアンは、おう、と笑った。
「そいつは助かるな。天下のイレギュラーズにコネができるってのは」
「その辺が、貴方の目的か?」
 『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)が、静かに告げるのへ、ユリアンは肩をすくめた。
「いやいや、今回の目的は親切心から……と言っても信用しちゃくれないだろうなぁ」
「いや悪い。商売人の子だから、どうにもタダ話は反射的に警戒してしまってね」
 ラダの言葉に、ユリアンは笑う。
「ま、分かるぜ。俺もタダ働きは嫌いだ――まぁ、洗いざらいはいちまうが、今回は俺も、ディルク派に多少、いい顔しておきたいだけだよ」
「成程――縁を作る、というのも大事なことだ。理解したよ」
 ラダがふむ、と頷くのへ、
「なんかアレ? オラクル派とかヤな系?」
 姫喬が尋ねる。
「嫌って言うか、あいつらもう、終わりだろ?」
 ユリアンは当然のように答えた。
「何せディルク派には、お前ら――イレギュラーズがついてる。イレギュラーズの強さは、俺もわかってるよ」
 ユリアンは首のマフラーに手をやって、ズレそうな位置を直した。
「だから、まぁ、俺もお前らのいる方に乗った方がいいってな」
「相変わらず、その辺の勘には鋭い奴だな」
 シラスが答える。
「でも助かった、レオンやディルク達には色付けて伝えとくよ、だからもう少し聞かせろ」
 シラスは真っすぐ、ユリアンの瞳を覗いた。
「他に何か知ってること……いや、感じたことはないのか? フワッとでいいからさ」
 ユリアンはその目をまっすぐに返して、笑った。
「おいおい、そうやってるとまるで正義の味方みたいだ」
「ユリアン。俺は――」
「俺は何も知らねぇよ。悪いけどな」
 ユリアンが肩をすくめた。
「だが、勘でいいなら答えてやるよ。嫌な予感がする――今回の騒動、一筋縄じゃ行かないかもな」
「ザントマンがたくさんいたりとか? やだよそれ」
 『必殺の上目遣い系観光客』ラナーダ・ラ・ニーニア(p3p007205)が苦笑しつつ言った。
「……さて、到着だ」
 気づけば、小高い砂の丘の上に、案内されていた。ユリアンが指さすと、その方向に、洞窟が見えた。
 入り口には、8名の男たちと、巨大な砂の山――よく見れば、それには砂でできた手足が生えていて、さらさらと砂が流れながらも、崩れた人型の形態を保っていた。
「砂のゴーレム……確かに」
 『希望の聖星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)が、静かに告げた。その眼には、悪しき目的のために起動させられたゴーレムに対しての、悲しみのようなものが宿っているのが分かる。
「情報教えてくれて、ありがとう、ユリアンくん!」
  『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が声をあげた。
「それに案内も。実はいい人なのかな?」
 くすりと笑う焔へ、ユリアンも笑ってみせた。
「そう、俺っていい人なの――だから、そんな奴を戦わせようとは思わないでくれよ?」
「それは、もちろんだ」
 ラダが答えた。
「もとより、そう言う契約だったな。約束は守る。商人の子としてはね」
「ありがてぇ。あ、そうそう。シラスよ」
 ユリアンはそう言うと、シラスの耳元へと顔を近づけた。それからぼそぼそと何かを告げる――それを聞いたシラスはたまらず、声をあげた。
「お前……!」
「ははっ! まぁ、せいぜい頑張ってくれよ! じゃあ、生きてたら……いや、お前らなら生き延びるか。また会おうぜ!」
 と、駆けだし、砂塵の中へと消えていく。
「シラス君、大丈夫? 何か言われたの?」
 アレクシアが尋ねるのへ、シラスは頭を振った。
「いや……何でもない。馬鹿な事を言われただけだよ」
 そう言って、微笑む。
「さて、本番か」
 ジャガーノートは、ぼきぼきと指を鳴らした。その通り、依頼はここからが本番である。
「腹の探り合いは終わりだ! パパッと敵をぶちのめして、スカッと美味い飯を食おうぜ!」
 ジャガーノートの言葉に、イレギュラーズ達は笑って同意した。
 そして一気に、傭兵たちの待つ洞窟入り口へと突撃したのであった。

●傭兵との闘い
「な、なんだこいつらは……!」
「敵襲か! おい、ゴーレムに指示を出せ! 迎撃させろ!」
 傭兵たちの声が響く中、シラスはその時、誰よりも素早く敵陣へ、その罪科を祓う焔を放った。
 シラスの煉獄の焔が、傭兵の男の処刑を完遂する。己の罪に焼かれ、男はその意識を手放した。
「傭兵ならよう――」
 シラスが言った。
「雇い主を見る目も鍛えておくんだったな!」
「舐めやがって!」
 激高する傭兵たち。だが、そこへジャガーノートが雄たけびを上げながら突撃する!
「うおおおお、らぁぁっ!」
 力任せに振るわれる『巨獣の大剣』が、大地を抉り、粉砕した。放たれた礫が、周囲の傭兵たちに叩きつけられ、吹き飛ばす。
 その攻撃を受けた傭兵たちが、ルウへと警戒をあらわにする。
「くそ、速く動け、このウスノロが!」
 傭兵たちが、ゴーレムに対して悪態をつく。巨体のゴーレムは、さほど反応力が高いとは言えないようだ。
「咲き誇れ、『希望の黄花《フォーサイシア》』! それから……っ!」
 アレクシアの身体に、黄色い花弁のようなオーラが舞い散る。自身の身体能力を強化したアレクシアが放つのは、
「咲き穿て、『顕毒の秋花《コルチカム・アウトゥムナーレ》』ッ!」
 放たれた紫色の花弁のオーラが、砂のゴーレムへと突き刺さる。その毒素がゴーレムの身体を駆け巡り、紫色の魔力の残滓が、花のごとくはじける。
 ゴーレムは、攻撃を受けた仕返しか、ゆっくりとアレクシアのもとへと移動を開始する。だが、これは予定通りだ。アレクシアがゴーレムを引き付け、その間に傭兵たちを撃破する。そう言う作戦なのである。
「ひきつけた……無理はしないでね!」
 傭兵たちと切り結びながら、焔が叫ぶ。
「任せて……!」
 アレクシアは決意の表情で、力強く頷いた。
「さぁさここに参着至ぁるあたしらローレット、あんた方の不貞不埒を諌めに参った! 然らばいざや太刀回らんっ!」
 姫喬の名乗りに、傭兵たちは姫喬を標的と定めたようだ。2名の傭兵たちが獲物を手に、姫喬へと襲い掛かった。
「いっひひどーだ大漁ゥー! 早く助けてーひゃー!!」
 キャッキャと笑いながら、傭兵たちと切り結ぶ姫喬。そこへ降り注ぐ、神聖なる輝き! それが傭兵たちを吹き飛ばした!
「お前の言う通り、大漁だ。さて、もう一釣りたのむ」
 青い燐光をその身体に宿し、裁きの光を打ち放ったウィリアムが告げるのへ、姫喬はぶー、とブーイングしてみせた。
「か弱い女の子を働かせすぎ―」
 とはいえ、これが姫喬の役割であることは、重々承知している。
「姫喬さん、頑張って」
 ラナーダの放つ回復術式が、姫喬の傷を癒す。姫喬は礼を言いつつ、再度の釣りだしにかかった。
「さて、あまりお前たち相手に時間をかけてはいられないな」
 『Schadenfreude』の照準越しに傭兵の姿を捉えながら、ラダが呟く。引き金を引けば、パン、という乾いた音と共に、傭兵が一人、倒れた。
「本命はゴーレムだ!」
 シラスが躍り出る。傭兵は魔力により強化された拳に殴り飛ばされて、そのままフッ飛ばされて意識を失った。
「アレクシア! そっちはどうだ!」
 ルウが傭兵を殴り飛ばしつつ叫ぶのへ、アレクシアはゴーレムからの攻撃を回避しつつ、答える。
「まだ……耐えられるよ!」
「無理しないで! すぐにそっちに行くから!」
 焔の闘気が業火と燃え上がり、傭兵を吹き飛ばし、その意識を失わせた。
 イレギュラーズ達は、すでに半分以上の傭兵たちを撃破している。残るはごく少数。
「もう! さっさとトドメ刺しちゃって!」
 傭兵たちからの攻撃を捌きながら、姫喬が言った。
「了解だ」
 ウィリアムが再び青い燐光を纏いながら、裁きの光を打ち放つ。光に巻き込まれた傭兵が吹き飛ばされ動かなくなり、
「これで、ラストだ!」
 ラダの放つ銃撃が、最後の傭兵を撃破する。
「早く、合流して! アレクシアさんもそろそろ限界だよ!」
 ヒーラーとして戦線を支えたラナーダが叫んだ。
「了解だ! 残りはあのデカブツだ……お待たせ!」
 シラスの叫びと共に、イレギュラーズ達はその目標をゴーレムへと変えた。
 シラスの放つ振動弾が、砂のゴーレムへと突き刺さった。まるで血しぶきのように砂をまき散らすが、その表情――子供の落書きのような顔だった――からは、ダメージの程をうかがい知ることは出来ない。
「アレクシア、いったん下がれ!」
 シラスが叫び、アレクシアは頷く。
「アレクシアさん、こっち!」
 ラナーダが呼ぶのへ、アレクシアは従った。ラナーダの回復術式が、アレクシアを癒す。
 砂のゴーレムが腕を振るう。その反応の鈍さとは似つかわしくない、鋭く、重い一撃が、地を抉った。
「やるじゃぁないか、デカブツ!」
 ジャガーノートが斬りかかる。砂の血しぶきが舞い、ゴーレムがたじろいだ。
「ゴーレムが相手なら、遠慮なしだよ!」
 焔は『カグツチ天火』を、ゴーレムへと突き刺した。途端、ゴーレムの内部より、爆発するように炎が巻き起こる!
 グギギ、とゴーレムが鳴いた。さらさらと地のように砂を流し、その隙間からは炎が巻き起こる。
「お人形遊びは、もっと淑やかにっ、さっ!」
 放つ姫喬の斬撃が、ゴーレムの腕を斬り飛ばした。斬り飛ばされた腕は宙を舞って、地に落ちた瞬間に砂の山へと姿を変える。ざざざ、と腕から砂を垂らし、ゴーレムがその身をよじらせる。
「……ゴーレム。魔術で創られた、命令によって動く人形……もっと良い人に使って貰えてたら、きっとお前も嬉しかったろうにな」
 ウィリアムは、どこか哀しげにそう言った。このゴーレムには、主を選ぶ権利はなかった。ただ命じられるがままに、悪党に利用される――それはすこし、悲しかった。
 ウィリアムの放つ流星の如き蒼い剣が、ゴーレムを貫いた。その衝撃に一度は崩れかかったゴーレムだが、しかしすぐに砂は集まり、元の姿へと戻っていく。
「もう……起きるな。眠っていてくれ」
 願うように、ウィリアムは言う。だが、ゴーレムに課された命令は、まだ消えることは無い。
「だが……もう一息だ。畳みかけよう」
 ラダの放つ銃撃が、再びゴーレムの腕を吹っ飛ばした。
「一気に行くぞ、皆!」
 シラスが振動弾を放つ。激しい振動が、爆発のようにゴーレムの身体を駆け巡り、その砂をはがしていく。
「了解だよ! シラス君!」
 戦列に復帰したアレクシアが放つ意志の力が、ゴーレムの砂をさらに削り取った。
 体には、骨格のように組み上げあられた、細い枝のようなものが見えた。あるいはこれが、このゴーレムの本体、コアにあたるものなのかもしれない。
「意外と中身は細いんだな!」
 ジャガーノートが突撃、力いっぱいに殴りつける。ゴーレムは地に叩きつけられ、そのコアをむき出しにした。
「これで、お終いッ!」
 そのむき出しとなったコアに、焔は再び『カグツチ天火』を叩きつけた! 途端、内部より溢れた炎が、コアを、そして周囲の砂を巻き込んで燃え盛る!
 砂をガラスにしそうなほどの高温が、コアを爆発させた。断末魔の悲鳴のように砂をまき散らすと、砂のゴーレムはついに、動かなくなった。
「ゆっくり、お休み」
 その様子を見て、ウィリアムは静かに、そう呟いた。

●戦いの後に
「……見つけた! 一応、みんな無事みたい!」
 洞窟の奥で、ラナーダは声をあげた。そこには、奴隷として誘拐されてきた幻想種たちが、青い粉により意識がもうろうとした状態で、横たえられていた。
 焔の炎を明かりに、一行は洞窟の奥へと向かっていた。目的はもちろん、囚われている幻想種たちの救出だ。
「ケガは……ないみたいだね。一応、その辺は大事にされてたのかな」
 焔が呟く。意識はないようではあるが、命に別状はなく、身体に傷などもない。青い粉の効果が切れれば、元気を取り戻すだろう。
「よかった……この子たちには、酷い迷惑をかけてしまったな」
 ラサ出身であるラダは、今回の件については、些か思う所があるようだ。その眉をしかめながら、幻想種たちへと謝罪の意を込めた視線を送る。
「さて、どうする? 担いでいくか? 何人かなら担いでも行けるが」
 ジャガーノートがそう言うのへ、ウィリアムは頭を振った。
「いや、流石に担いで砂漠を戻るのは、ジャガーノートにとっても、担がれる幻想種たちにとってもつらいだろう。しばらく様子を見て、彼らが目覚めてからにしよう」
「って事は、しばらくここで待機? 早く帰りたい。まじ、あたし干せるー……」
 姫喬はげんなりした様子を見せたが、しかし幻想種たちの事を考えれば、反対できるはずもない。
 不満な様子を見せつつ、しかしその目は、幻想種たちの無事を喜んでいたのである。
「ねえ、シラス君」
 ふと、アレクシアが、シラスにのみ聞こえるように、尋ねた。
「さっきの、ユリアン君が言ってたことなんだけど……」
「……ああ。何でもないよ」
 シラスは、困ったような笑顔を見せた。その表情に、アレクシアは何も言えなくなってしまった。
 シラスは、ユリアンに言われた言葉を、思い出していた。
 ――何時で戻って来るのを待ってるぜ。お前は、こっち側の人間だ。
「……違う。違うさ。俺は――」
 静かに呟かれたその言葉は、誰かの耳に届くことは無く、洞窟の暗闇へと消えていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、オラクル派の傭兵たちは撃退され、
 誘拐された幻想種たちも皆、無事に救出されました。
 ユリアンは姿を消しましたが、いつかまた、皆様の前に姿を現すのかもしれません。

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