PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<DyadiC>燃え尽きたマッチ

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●灰の中
 ここは幻想南部、オランジュベネ領。
 イオニアスが魔種に下ったのちは空白地帯となっている。
 町の住民たちは、今後を相談するために寄合所に集まっていた。

 魔種となったイオニアス・フォン・オランジュベネ。
 彼に対して、ローレットがいよいよ討伐に乗り出すという。
「なあ、領主様が……いや、元、領主様に対して兵があげられるんだとよ」
「ほんとうか……?」
「となると、この町が補給路になりそうだな……」
「私たち、これからどうなるんでしょう」
「俺たちにできることは……」
 寄合に集まった住民たちは、それ以後沈黙した。
 誰も重い沈黙を破って、発言をしなかった。
「なにもない、よな……」
 絞り出すように言った青年に、周りが同調する。
「そうよね……」
「ぜんぶ、ローレットがやってくれるはずだ」
「それがいいな。事態の推移を見守ろう。慎重に行動しよう」
「お、おい、それは違うんじゃないか?」
 唯一、鍛冶屋の息子のテッドだけが声を上げたが、父親が頭を押さえつける。
「余計なことはするな。怒りに身を任せるな。……忘れたのか?」
「よし、みんな、冷静になろう。ローレットにすべて任せて、俺たちは家で待機だ」
「それは……何もしないってことだろう? 俺たちの町に対して……それは違うだろう!?」
「テッド」
 テッドは、ばん、と机をたたいた。誰かが悲鳴を上げた。
 父親に抑えられていた。
「落ち着け、テッド。怒ったってなんにもならねぇんだよ」

●後悔
 寄合から出ていく住民たち。
「俺たちはどうしてあんなに怒ってたんだろうな」
 憤怒に突き動かされた住民たちは、……もはや燃え尽きかけていた。
 行動するのが怖い。それが住民の総意だ。
「私、自分の子どもを叩いてしまったのよ。うるさいって言ってしまったの……まだお乳を飲んでるくらいの子よ」
「泣くな、無事だったんだから……」
「もうお義母さんに合わせる顔がないわ。お義母さんが育てるのが良いのよ」
「俺はかみさんに手を挙げてしまったんだ。いくら魔種のしわざとはいえ……顔に傷が残っちまった」
「俺は腹をすかした身寄りのないガキに……皿を投げつけて……残飯をあさってただけだったのに」
「……」
「なあ、やめないか。全部魔種のやったことだ」
「でも……行動しないってのはまずいんじゃないか?
町の作りをよく知ってるのは俺たちだ。さすがのローレットも、何もかも自分たちで全部やるってわけじゃないだろう。
森の裏道を全部知ってるわけじゃないだろ?
水門の操作とかさ。
ここが閉ざされれば、反撃できないんじゃないのか? やっぱりできることは何か……」
「天の怒りだよ」
 誰かが言った。
「それで死ぬなら、天の怒りさ。天の怒りが巡り巡って俺たちを滅ぼすんだ」
「そんな」
「俺たちは、何もしないことを選ぼう。後は貴族と、有能なローレットの連中がどうにかしてくれる」
「何もしなければマイナスもゼロになる。ゼロにするんだよ、俺たちは」

●ローレットにて
「というわけさ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は町の状態をイレギュラーズたちに説明した。
「それが、彼らの結論だ。
何もしない、という彼らの結論。
頼まれればやるし、非協力的ではないが、積極的では決してない。運命を座して待つ、という決断。失敗が怖いから。誰かを傷つけるのが、間違うのが怖い。説得は必要ない。もはや、彼らは納得しているから……。イレギュラーズが「上手くやってくれ」と言っている。
補給路にはなるだろう。
けれど、このままじゃ……たとえ、イオニアスを倒したとしても、何よりもあの町は死んだままさ」

GMコメント

●目標
無気力な町の住民を説得し、作戦に協力してもらう。
ただし、焚きつけすぎると「暴動」といったような悪い方向に行くかもしれません。
塩梅にはくれぐれもご注意ください。

●場所
幻想南部、オランジュベネ領「ルーフスの町」。
一度は暴動の影響を受けたが、鎮圧され、今は反動でかなり静かになっている。
イオニアス、その他の状況に対処するためにハブとなりそうな絶好の町ではあるが、森に近く街道が入り組んでいるため、住民からの<真の協力>を得たい。

●町の状況
住民は、一時、怒りに駆られたことを後悔している。怒ることにとらわれることを襲われている。今イレギュラーズが畑を踏み荒らそうとも抵抗しないだろう。
そのせいで住み着いたならず者が幅を利かせている節がある。
また、協力的ではあるが、イレギュラーズたちにすべて任せる、というような態度である。

●住民の状況の一例
・自分の親/子供に暴力を振るってしまった。
・言い争いになり家族に手を挙げてしまった。
・怒らないのをいいことに、好き勝手をする兵士やならず者がデカい顔をしている。
「なすがままの町、サイコーだぜ」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 ※特にひっかけがあるわけではありませんが、焚き付け過ぎに気を付けてください。

  • <DyadiC>燃え尽きたマッチ完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月02日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを

リプレイ

●静けさ
「失敗を省みるのは大切な事だって、父上はよく言ってたけど……でも、これは違う」
『正なる騎士を目指して』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)の声が震える。
「怖くなって全部投げ出しちゃうなんてダメだよ!辛いからって逃げて、そのまま生き続けたって……絶対もっと辛いだけだ……!」
「……まぁ、われを忘れる程の怒りを恐れるのは分かるさ」
『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)がシャルティエの肩を叩いた。6本の鎖がじゃらりと揺れる。
「何もしない事を選んだのかね。そうする事でいつか変わらぬ日常が戻ってくると本気で思っているのか」
『イルミナティ』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は皮肉気につぶやいた。
「あとはすべて、ローレットに従います」と言うこの町の人間は……なんとつまらない。
 態度こそ友好的はあるが、ラルフの目はどこまでも冷え切っている。
「彼らは善良な人なんだと思う。それが臆病さに繋がっている」
『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)はわずかに目を伏せた。
「それを間違いと言い切る事は出来ないけど、このままだときっと彼らはもう笑えなくなる。……彼らが前に進めるように、出来る事をしたい」
「何もしなければ、マイナスにはならない。皆の意見は間違ってないけど、多分正しくもない」
『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)は言ってから、小さく付け足した。
「オレがうまく、それを伝えられればいいけど」
「騎士たるもの、光を齎らす剣であれ。きっとなんとかしてみせるよ!」
 シャルティエは、きりと前を向く。
「一度折れてしまった心で立ち直ることは、非常に難しいことです。こういう時だからこそ、立ち上がらなければきっとこのままになってしまいます」
『朝を呼ぶ剱』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は言った。
「この町の人たちが、もう一度、笑えるようにしよう」

「怒りが悪いものだと決めつけるのも早計だよね。外的要因で火がついて歯止めが効かなくなった結果だし」
『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は左の爪を唇に当て、思案する。
「差し迫った状況下で感情を否定するのは話が違ってくる筈だ」
 マカライトの感情はまるで読めない。声色からも。
「さて、情に訴えるのは得意じゃないんだけど……どう説得したものかね」
 ふと、子供たちがイレギュラーズを見ていた。
 気が付き、慌てて引っ込む。
「自分より小さい子供達が行動するのを見れば、もしかしたら……」
「そうね。子供達を元気にする事を担当するのだわ」
『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)はふわりと微笑んだ。
「子供の活力は街を明るくする、街が明るくなれば大人達だって元気付けられる筈よ」
「それじゃ先ずは……あの阿呆共からシメるか」
 マカライトがいうやなや、屋内から下品な笑い声があがった。客の度を越して騒ぐならず者たちだ。

●バカ騒ぎの終焉
 ルーキスが呼び出したフクロウが、宿の窓辺に降り立った。首をぐるりと回して店内を見渡す。
「そう多くはない……かな?」
 相手は、身を隠そうとしているわけではない。数の把握はそう難しいことではない。
「もうすぐ別の仲間が来るみたいね」

「兄ちゃん、へい!」
 宿の入り口で洸汰は勢いよく酔っ払いにハイタッチを求めた。
「おお? 坊主。ははは」
 坊主、というほど幼くはないが、洸汰の外見は少年のように見える。
 と、ハイタッチした一人がよろける。
「おい、どうした?」
「いや、どうもしないんだが。なんか、疲れた」
「はあ?」
 いつのまにかティンダロスに乗ったマカライトはならず者の前へと回り込んだ。
「うわっ」
 巨躯の狼に怯え、一人が逃げ出そうとする。マカライトはそちらを一瞥し、鎖の塊を呼び出した。
「ぐへえ」
「コイツらには少し話があるからな、死なれては少々困る。……さて、あちらでも始まったころか」

 イレギュラーズたちは、一斉に宿に押し入った。
 シフォリィの振るう、C・フィエルテ。まっすぐな一撃がならず者をうち据えた。
 誰もが、一瞬、何が起こったかわからずに見惚れていた。
 銀色の長髪がなびく。
「ぐええ!」
 続けて、ラルフのS・ファニングが宿を横切った。硬質ゴムによる散弾弾頭による攻撃。死にこそしないものの、相当に痛い。
 そして、射撃は正確だ。必ず、嫌だと思う位置にくる。
 ならず者たちはそれぞれ武器をとった。足取りのおぼつかない酔っ払いもいる。
(死なせてしまわない様に注意しておかないと)
 シャルティエがテンプルガードを強く構え、ブロッキンブバッシュを振り下ろす。盾を持ったまま体の向きを変え、激戦の外へと蹴り飛ばす。
「サクラ・ロウライト! 推して参る!」
 明鏡止水(偽)。サクラの心は、水を打ったように静かではない。
 ほろ酔いだった傭兵は、剣を交わしているうちに相手が数段上の位置にいることに気が付いた。
(こんな剣、受けたことないぞ!)
 しかもまだ、先があるようだった。
 サクラは登りつめたい頂があり、そして、自分がまだ道の途中であることを理解していた。
「ぐあっ」
 まばゆい月光剣が三日月を描く。ならず者たちが倒れる。
「おい、全員でかかれ!」
 ならず者の数は多い。
 右手は雷を。左手は牙。
 ルーキスのチェインライトニングが、ならず者を貫いた。
 不揃いの翼が揺れた。
「しっかり守るわよっ」
 華蓮が前線に身を躍らせる。
 光と影、対称の対の翼。
 華蓮は気丈にも天使の歌を歌った。

「どうする? まだやる?」
 サクラが構える。
 かなわないと見るや、男たちはいっせいに逃げ出そうとした。
「はいっ! これで最後かな?」
 洸汰がタッチした人間がふらりとよろけ、マカライトの鎖に呑み込まれてゆく。
「いやあ。やはり、イレギュラーズに任せておけば安心ですな」
 宿の主の言葉にイレギュラーズたちは確信する。
 村の問題は、「まだ」、解決していない。

●クッキングタイム
「さて……まずは……」
 華蓮はぱっぱと埃を払い、荒れた宿をぐるりと見回して微笑んだ。
「ご飯でも食べましょうか♪」
 気の緩む提案に、町人たちはあっけにとられる。
「お腹が空いてちゃ元気なんて出るはずないもの。皆の食べたい物を教えてね。他にも食べ物やお菓子は色々用意したのだわ」
「腹が減っては戦ができぬ、ですよ。お借りしますね」
 シフォリィがずいとキッチンに進む。
「メニュー、悩みますね。ここはテリヤキチキンのフライドチキンで! 誰か、お手伝いをしてもらえませんか?」
 シフォリィは、辺りを見回した。
「あの……」
 立ち上がったのは、まだ若い宿の下働きの少女。
 間髪を入れずにシフォリィは微笑む。
「それでは皆さんに伝えてくれますか? ほかのみなさんも、食器を持ってきてくれると嬉しいです」
 さざ波が立つように、町に活気が戻りつつあった。あまりものだけど、と差し入れをよこす人もいた。
「おい、この騒ぎは何だ?」
 町人は、熱気におびえた表情を浮かべる。
「中止させるべきなんじゃない?」
「待ってください」
 子供を連れ帰ろうとする母親に、シフォリィがずいと進み出た。
「あの子供たちを見てください。自分から行動しようとしています」
「それが迷惑なんじゃないか」
 シフォリィは毅然として、引かない。
「子供は、立ち上がったり歩き出す事が出来たとしても……歩き続ける事は、親の力がなければ難しいと思うんです。……僕がそうだったから」
 町人が、言葉に詰まったのはなぜだろうか。彼らの多くもまた人の親であるからだろうか。
「だから……お願いします! 彼らと一緒に立ち上がってくれませんか……!」
 シフォリィは、真剣な表情で言った。
「皆さんが協力してくれるのなら、僕達も応えます! 応えてみせて、きっと皆さんを恐れさせる様な事は起こさせませんから……!」
「……たかが食事だろ」
 誰かが言った。
「食べるくらいいいじゃないか」
 シフォリィは、いつの間にか人の懐深くまで入り込んでいたのだ。

●再起
 ならず者は一か所に集められていた。文句を言って騒ぐ男を、サクラが見据えた。
「まだお仕置きが足りなかったかな?」
 サクラの笑顔に、ならず者たちはおののいた。可憐な女性だが、先ほどの戦いで、サクラの強さは嫌というほどわかっている。
 闇夜に向かって、ティンダロスが吠える。
「ここから逃げるのも勝手だが、今の情勢じゃあ野獣に襲われても誰も助けに来ないぞ?」
 マカライトにらまれ(といっても、邪神骸装「絡裂鎖」をまとったマカライトの表情は見えないのだが)、反抗的だった男の勢いはみるみるしぼんでいく。
「君達も理解しているのだろう、このままでは何も進まないという事を。その苛立ちと後悔を悪に走れば紛れると思ったかね」
 ラルフは、一人を起こし何やら飲ませる。
「な、何をしようってんだよ」
 しかし、男の傷は見る見るうちに治っていく。
 治療だ、と気が付いた。
「何も変わらんよ、何も。そうして小さな悪を為した事に一生後ろめたさと苦しみを抱えて生きていくしかない」

(この状況下である意味ブレなかった連中だ。人力としては一端にあるはず)
 マカライトはそう読んでいた。
 まとめてローレットにでも突き出すのは簡単だろう。だが、彼らには別の狙いがあった。
「あの人達にも協力して貰いたいし……きちんと反省してくれるのなら、殺す必要は無い筈だから。やっぱり、殺しだなんて極力嫌だし……」
「そうだよね。まあ一筋縄ではいかないだろうけど……」
 シャルティエの言葉に、サクラが頷いた。
「使いようだ」
「うむ」
 ……そんな話し合いが行われていたのは、ならず者たちは知る由もないが。
「此処で前に進む事を選ばねばより大きな苦しみが待つ。自棄になれる程度のエネルギーがあるのなら謝罪の一つやるより、自分達は前向きに生きるという事を示すべきだ」
「やるべきこと?」
 ラルフの言葉に首をかしげる。
(まだ子供で、未熟な見習い騎士だけど……それでも僕なりに言葉を尽くしたい)
「あのね」
 シャルティエが気まずそうにしていた兵士に話しかける。
「酒場に踏み込んだとき、子供を庇ったよね。とっさに逃がしたの、見てた」
「……!」
「騎士とは違うのだとしても、兵士だって、仕える主や民を守る為に武器を取るんじゃないのかって、思うんだ」
 男たちは静かになった。

●閉ざされた扉を
「子供に手を上げてしまった事は確かに許されない事だ。だが、その一回を悔やみ続けるのは更に許されない」
 マカライトは、住民を尋ねて回っていた。
 マカライトの声は一定で。なぜか、それがあたたかかった。責めるようでもなく、無理に慰めるものでもない。
「このままだと、拠点設営が間に合わなくなるやも知れない。もし前線が負ければ、いつか来る幸せを受ける事も見る事も出来なくなってしまう。もう一度立ってくれ。人が多ければ多いほど救えるんだ、友達も、仲間も」
 この町の住民に、暗い影を落としているかつての事件。怒りにまかせて隣人を傷つけたあの出来事。
「もし許せるのなら、それを言葉で伝えて欲しいと言う」
 サクラは家々を尋ね、真摯に言伝を受け取り、そしてまた誰かに伝えることを繰り返していた。
「きっと、優しさは伝わってると思う。だから許してる、とは思う。でもそれを言葉にして伝えないとずっと心に残り続けるから」
「あの……」
 扉を開けなかった女性が、去っていくサクラに尋ねた。
「どうしてそこまで……」
「誰かが危害を加えても何もしなければ、結局大切な人が傷つくことになる。それを看過するのは傷つける事に加担するのと変わらない」
 無理に引きずり出したりはしなかった。
 ただ、信じて待つ。
「お母さん!」
 サクラは少女を連れていた。
 親子が抱き合った。
 わだかまりが、雪解けのように少しずつ消えていく。

●大人たち
「やれやれ、貴方達の忍耐も中々ね」
 ラルフとルーキスは家々を回る。
 ラルフは、的確に町の人間の権力関係を把握し、尋ねるべき順番も心得ているようだった。
「ここまで厄介者を放置しているぐらいだから仕方ないのかな?」
 ルーキスの挑発めいた言葉に応じて、扉が乱暴に開いた。そして。怒りを恥じるように声は小さくなる。
 誘われたのだと知れた。
「全ては天の采配次第、それで良いというならそれで結構。怒りに身を任せたくないから引きこもるのも自衛のうちではあるんでしょう。それで結局機械的に生きて、ただ無意味に死ぬつもり?」
 これは激。ルーキスは艶やかな笑みを浮かべ、ラルフと交代する。
「今回こんな事になってしまったが我々は別に君達をどうこうしろという意志はない。ただ、君達は選ぶべきと話と提案をしにきたのだ」
「提案?」
「君達を襲った事は不幸な事故だ、それ以上でも以下でもない。それが自分達の本質と思うなら勝手に考えると良い、歳を重ねた君達なら知って居る筈だ。馬鹿をしてそのままなあなあで済む事など無いという事を」
「協力はすると言っているだろう!」
 ラルフは首を振った。
「きっちりとケジメを取ってそこからより良くを目指して生きるのか、このまま無為に流された痛みを背負って生きるのか、選ぶのは君達だ」
「ならず者の誰かが子供を手にかけたとしても貴方達は何もしないと」
「まさか! あの連中を解き放ったのですか!?」
 扉を飛び出した老人は、酒場から響く平和な笑い声に立ち止まった。
「別に我々に協力しろという話ではない、単に子供や愚を犯した連中が再起しようとする姿を見て君達はまだ怯えるのか、という事さ」

●起こるはずのないこと
「ありがとうございます」
 シフォリィはぎゅうと子供たちを抱きしめ、頭をなでる。
(必要とされるのは嬉しいことですから)
 何もするな、しなくていい。
 そう言われるよりも、頼られたほうが嬉しいことだってある。
 酒場には再び暖かい輪ができていた。元・ならず者たちは、自分たちが壊した部分を直している。温かい食事がいきわたっていた。
「テリヤキチキン尋常じゃなく美味いぞ……」
 いつの間にか、こうなるはずもない者たちが、礼儀正しく食卓を囲んでいる。
「皆、食べながら聞いてちょうだい」
 華蓮の声があたりに響き渡った。優し気な、しかしぴしりと背筋を正して聞かねばならない。そんな声だ。
「やんちゃなにーちゃん達は、ここの平穏を荒らそうとした。それに怒るのは、正しい事で、怒る事自体は何も悪くない。むしろ何かを変える切欠にだってなるかもしんない!」
 洸汰は真剣に語る。言葉は、外の大人にも向けて。
「この前の事は、悲しい事件だったと思うけど……それは魔種のせいで皆が怒り方を間違えちゃっただけで、正しく怒れば、皆ででっけぇ事にだって、立ち向かえるんだ!」
 立ち向かわなくては。
 少年の言葉には力がこもっていた。元気が出てきた。先ほどまで戦っていた相手とけろりとして友情を結ぶような軽やかさ。意志の力。
「辛かったら逃げてもいいでしょう。裁きを下されたいのならそれでいいでしょう。ですが、この子供達はどうなるんですか?」
 シフォリィの傍には子供の輪ができていた。
「こうして自ら出来ることがないか立ち上がっている未来がここにあります。貴方達は自分の終わりに未来を巻き込むんですか!」
「それは……」
(しっかり噛み砕いて飲み込めるようゆっくりと、怖がらせないよう言葉を選んでお話しするのだわ)
 華蓮はすう、と息をすう。
「確かに怒りに身を任せ我を忘れてしまっては、きっと幸せな結末は望めない。実際怒りに飲まれた人達を見て接して、怖い思いをした人も居るかもしれない。だけども、ただ流れに身を任せるだけでは何も手に入らない、こうやってゆっくりご飯も食べられなくなるの。
怒りを活力に変えて、利用する事が必要なのだわ」
 子供たちへの話。だが、大人たちも耳をそば立てている。
「私達は部外者です、敵を倒し戦うことしかできません! 立ち上がる子供たちを守れるのは、貴方達しかいないんです!」
「後悔の時間はそろそろおしまい、後悔を反省に変えて歩み出す時なのだわ!」
 シフォリィが、そちらを向いた。
 澄んだ声色。
 動き出したくなるような声。
「これは怒りじゃない、覚悟なの!」
 華蓮は、大人たちに笑顔を向けた。
「さあ、大人として子供達に恥じない姿を見せてあげる時なのだわ!」

(一方的に怒ることと正しい怒りは別のものだ。確かに今回は魔種の呼び声に駆られて、衝動的に間違えた。
ただ黙っていても一度起きたこと全てを無かったことに出来る訳ではない。苦い記憶でもそれを教訓にすればいい)
「私達だって何でも出来る訳じゃない」
 ルーキスは、思う。そして、言葉にする。
「今回貴方達の協力を得られれば、次に何かがあった時に手を差し伸べることが出来る」
 ふらりと同じ皿から食べ物をとり、微笑む。
「支え合うことが出来るのも人間の美徳じゃないかしら。誰も彼も一人で抱える必要性なんてないんだから、Win-Winってやつね」
「表に立って戦う必要はない。それは私達イレギュラーズと、幻想の軍がやるから。だから、自分たちに何が出来るか考えて、それをやってくれれば良い」
 サクラは、手を差し伸べた。
「貴方達の大切なものを守るために」

成否

成功

MVP

華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

状態異常

なし

あとがき

そして誰かが言った。抜け道を知っていると。
そして誰かが言った。物資はあると。
そしてまた名もなき誰かが……。

住民たちの説得、おつかれさまです!
彼らもまた、自分たちなりに覚悟を決めたようです。
私といたしましては、実はならず者を説得して戦力につけることまで考えていませんでした。
結果としてとっても後味の良い話に……なるかどうかは、きっとイオニアスの討伐の成否にかかっているのでしょうけれど。
ともあれ、彼らの奮起がその戦いの一助となったことは間違いありません。

お疲れ様でした!
気が向いたら、また一緒に冒険いたしましょうね。

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