PandoraPartyProject

シナリオ詳細

楽園の輪郭論理

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●琉珂
 艶やかな桃色の髪を揺らし、勝気な碧の瞳を細めた少女は特異運命座標達に「ウワサのコたちね」と面白そうに声をかけた。
「ねえ、アナタたちでしょ? ディルクのオネガイを聞いてラサと深緑で活動してるのって」
 その口調や様子を見れば街往く少女と何ら変わりない。しかし、彼女の背から伸びる竜の尾と翼、赤い角は純種でもそうは見られないものであった。純種でないならば、ディルクと気安い風である所を見るに旅人なのか?
「気になる?」
 目を細めた彼女は自身の翼を揺らしいたずらっ子の様に目を細めた。
「トップシークレットだけど、わたしって旅人じゃないのよね。
 まあ、無理はないのよね。私達、領域(くに)から早々出ないし。
 あんまりうろついてるとおじさまに心配をかけるし、ディルクにも叱られちゃうもの」
 くすくすと笑った彼女は己の名を琉珂と名乗った。
 巨大な裁ち鋏を背負った彼女は悩まし気にううんと小さく呟いてから言った。
「わたしって、実際面白がりなのよ」
 からかうような調子でそう言った彼女は自身の正体を正確に語る心算はないらしい。
 しかしながら何かを含むような調子はイレギュラーズに確かな違和感を覚えさせていた。
「目立つことはしたくはないんだケド、事情が事情なの。
 私の立場としては――そうね、しなければいけないことがある。
 私のお願い――聞いて貰いたいのだけど、いいかしら?」
 真剣そうな顔をして、腕に飾った竜の紋章に触れた彼女は底知れず、しかして邪悪な存在には見えない。
『何者かは知れないが、少女のような存在に出会ってしまうのも特異運命座標なれば』。
「……まずは聞くだけなら」
 イレギュラーズが何とも難しい顔をして頷くと琉珂は「そうこなくちゃ」と破顔した。

●「■■■■」の定説
 肉体とは枷でしかなく、死こそ魂の解放である。
 万人に科せられる生という罰は肉体という枷より魂をより輝かせるが為に存在している。
 枷より為にはより美しき死を迎えなければならない。
 死とは試練であり開放。
 美しく、完璧な死を行えば魂は開放され、神の元へと向かうことが出来るのだ。
 楽園に存在すれば、枷に封じられ模倣された『人生(つみ)』を歩むだけ。
 ならば踏み出そう。

 楽園から。

 この、くだらない楽園から。

●楽園の輪郭
 深緑とラサの周辺に飛行するワイバーンの姿が見られたと報告があった。
 その翌日、数人の幻想種が森から姿を消した。
 それを『ワイバーン』の犠牲になったと簡単に結論付けることができなかったのは、連続して発生する幻想種の誘拐事件との関連が疑われたからだ。
 目撃者たちは云う。
 自分の意思で森を去っていったのだと。
 そして、彼女たちは皆、口にしていたのだという。

 ――楽園から、去らなければ、と。

「ナンセンスよね」
 琉珂は云う。
「実にナンセンスだわ」
 頬杖をついて、彼女は呟いた。
「片翼を無くした天使を象徴とした宗教団体とか、ヤバくない? ナンセンスじゃない?」
「まあ、そうかもしれないけど」
 ティーカップを手にした金髪の魔女――フランツェル・ロア・ヘクセンハウス
――は少女に「問題はその言葉が深緑も関連する宗教集団『楽園の東側』を彷彿とさせるからかしら」と首を傾いだ。
「そうね。わたしはドラゴンのお昼寝並に世間知らずなんだけど、ディルクも言ってたわ。
 危険な思想を抱いてるヤツってのは大体厄介事を引き込むんだって」
 冗談めかした琉珂にフランツェルは頷いた。
 彼女は幻想に住まう人間種であり、大樹ファルカウの麓に或るアンテローゼ大聖堂の司教でもあるそうだ。静謐溢れる森の魔女にしては余りにもトリッキーな存在であり、フィールドワークと称してわざわざラサに出てきているのだが……。
「『楽園の東側』ってのは、所謂『死こそ最大の幸福』って感じなのよね。
 まあ、あんまり詳しくはないわ。……それこそさ、『■■■■』って本を読んだ事ないとね」
「『■■■■』って何?」
 首を傾ぐ琉珂。
 フランツェルは詳しくは知らないのだけど、と机をとんとんと叩いた。
「リュミエ様と、あと『■■■』様のお二人が嘗て深緑の幻想種を纏めていた頃、
 旅人によってラサのバザールに齎された禁書があったんだって。その内容が余りにも苛烈で、深緑では受け付けなかったんだけど色々あって、その書物が人手に渡って生まれた宗教だとか」
 詳しくはよくわからないけど、とフランツェルはそう言った。
「ふうん……わたしも詳しくないけど、その宗教団体が死に場所を求めてて、自分の足で深緑を抜け出してラサに向かってるのね?
 それで――それで、それをワイバーンが食べてるわけ?」
「そうかも」
「人の味を覚えたら、悪いことになるわ。ドラゴンだって草食なうちはカワイイ子だけど、人間を食べちゃったら人食いドラゴンになるもの。悪い子の躾や管理ってすっごく面倒なのよ。領域(くに)にあんまり余所者が首を突っ込んでくるのも嬉しくないし」
「クマと同じね」
「そうね、そうかも」
 姦しい二人は言葉を重ねあい、ふむと小さく呟く。
「巷で噂の奴隷商人とは別口かしら?」
「あら、でもこのタイミングで動き出すなら案外関連はあるかも」
「あるわよね。なんだかワルい趣味の奴隷商人がこそこそ動いてるって情報があるわ」
 琉珂とフランツェルは顔を見合わせる。
「まあ、ワイバーンも見過ごせないわね」
「そうね。宗教全てを否定するわけじゃないけど、『楽園の東側』で失われる命ってのも肯定できないのよ。……ワイバーンが絡んでるなら被害も大きくなるでしょうしね」
 情報屋の真似事だと茶化した琉珂にフランツェルは「そのつもり」と冗談めかしていってきなさいと手をひらひらと振った。

GMコメント

 夏あかねと申します。まだまだこの事件は闇が深そうですね。
『楽園の東側』――特異運命座標のひとり、アベルさんが資料庫にもたらした情報であるとユリーカより伝達がありました。
 特異運命座標も関わる内容である以上、特異運命座標がこの話に仲介すべきでしょう。
 以下、詳細です。

●成功条件
 ・幻想種の奪還
 ・魔種(?)の撃退及びモンスターの撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●砂塵の広場
 ラサと深緑の境当たりにある石舞台です。隣接する覇竜領域よりワイバーンの飛翔がたびたび目撃される場所であり、周辺に隠れる場所や障害物も存在しています。

●ワイバーン
 脅威です。その戦闘能力だけでハード相応です。
 常時飛行していますが、血の匂いに誘われた場合は地上での戦闘を行います。

●魔種(?)
『楽園の東側』の信者であり、此度の事を手引きしているそうです。
 ワイバーンが訪れる事を知っているようですが……。
 また、奴隷商人との関連もあるようです。

●奴隷商人*2
 魔種(?)に手引きされる奴隷商人です。ワイバーンの食べ残しを連れ去り、『残虐な事を目的として奴隷を欲する人』を専門に売り渡します。
 奴隷商人たちは『眠りの砂』と呼ばれる青い砂を手にしており、使用した対象を朦朧状態(それ以上)にすることが可能です。
 特異運命座標など戦闘能力を有する存在は対抗判定(プレイング)を行う事が出来ます。

●幻想種*5
『楽園の東側』に関連するかのように思われる幻想種です。
 皆、「楽園から、去らなければ」と口にして森を去ったそうですが、このままではワイバーンの犠牲となるか、奴隷商人の手に渡ります。彼女たち自身は朦朧としているようで保護するようにというオーダーが出ています。

 琉珂とフランツェルも応援しております。(当シナリオでは琉珂とフランツェルは依頼人の立場でありシナリオには同行いたしません)
 どうぞ、頑張ってきてください。

  • 楽園の輪郭論理完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年09月07日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サイズ(p3p000319)
妖精■■として
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
アベル(p3p003719)
失楽園
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き

リプレイ


 ―――■■■■とは。


 一等、口にするのも憚られる様な宗教があるのだと、『未来偏差』アベル(p3p003719)は告げた。それを琉珂と名乗った少女と魔女フランツェルが口にしたことには驚いたが――僅かな予感はしていたのかもしれない。
 ワイバーンに魔種。オーダーとして告げられた内容が頭から欠落してしまいそうになるほどに、彼の掌には汗が滲んでいた。
(『カイン』――)
 くそったれな宗教、■■■■、昔馴染みの顔。嫌だ嫌だと煙から逃れる様に走れど、体にはすぐにそれは巻き付いてくるらしい。ガスマスクに手を添えた彼の横顔を眺める様に『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は「大丈夫ですか」と囁いた。
「……ご無理はなさらず」
「ああ」
 ガスマスクに隠されてはいるが彼の顔色は悪い。幻はその気配を感じ取る様に静かに息を吐いた。
「それで――■■■■なんだけど……『楽園の東側』だっけ?
 ……あほくさ、なんで楽園からでなきゃいけない結論になるのやら。
 魂を解放して何の得になるのさ……まあ、宗教なんて神嫌いの俺には一生理解できないな」
「ええ。宗教と呼ばれるものはある者にとっては自我を保つための重要な礎になるとも言われています。しかし、これは……」
 吐き捨てた『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)の言葉に幻は頷き、視線を逸らした。
「美しく完璧な死とは、なんで御座いましょう?
 死ねば蛆が湧き、腐りゆくのが死体の運命ではないのでしょうか」
「その通り。優しくて厳しい海と共に生きる人たちから見ればまるで子供の言う事。死んだら海か土に還るだけ。それだけ」
 淡々と告げた『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の表情にもあからさまな嫌悪が浮かんでいた。教義によれば枷より解き放たれるために美しい死を迎えねばならないのだそうだ――人間というのは死に向かって歩いているとはよく言ったものだが、精一杯に今を生きる事に重点を置いたならばルカ・ガンビーノ(p3p007268)が溜息を吐くのも致し方ない事かもしれない。
「自分から死のうって奴は勝手に死にゃあ良いと思うけどよ。
 それが誰かに唆されてってんなら話は別だ……そいつはなんとも気に食わねえ」
 そう。それでも、『誰かのよすが』であったならば。
「よすが、か。信じる願いに、殉じるのもまた、人の道なのだろうな」
 否定はできないと石動 グヴァラ 凱(p3p001051)は静かに告げた。見上げた空に被さる黒い影が見える。
(卑劣な……幻想種は必ず守る。そしていずれは諸悪の根源を断つ!)
 息を潜め、その黒影を眺めていた『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は銀の剣を握りしめた。


『紅蓮の盾』グレン・ロジャース(p3p005709)はまず周辺を確認した。左右、そして上。息を潜めて隠れる特異運命座標達の目的は幻想種の奪還だ。それ故に不意を突き幻想種を捕縛してでも安全地帯へと引き離す必要があった。
(しかし……声は聞こえても言葉が通じずってやつかね)
 彼女達が『何らかの教義』に従っているのだとすれば――『自ら■■■■に従っている』とした場合、死と謂う事に関しては否定的な見解を持たないのかもしれない。
「―――カイン、今度はこっちから追いかける番だ」
 ぼそりと呟くアベル。いつか新りょっくの一部で『どこかの宗教団体がばら撒いた手配書』を見詰めて彼は唇を噛み締めた。
(大丈夫、俺は『アベル』だ――あの子からもらった心を守るガスマスクだって此処にある)
 脳裏に過った一人の少年。それを頭の端に追いやって彼は耳を澄ませた。
 ■■■■と呼ばれる書物の内容を思い返してぐるぐると思考が困惑する中でもココロは浮遊して出来うる限り幻想種へと近寄らんとするサイズの後ろを追い掛けた。
(胸の奥の中心をぎゅっと手のひらで握られるような感覚……黒くて嫌な感じ。
 こう思う心を上手く理解できないけど、焦っても仕方ない。確実に全員を救いたいから考えるのは後まわし!)
 考えていては幻想種を救う事は出来ないと彼女は岩陰より幻想種を見遣る。
「今、彼女達を確保したいが、ワイバーンと奴隷商人か……」
「飛んでもこちらに気づかれる可能性があるから近付き過ぎない方がいい。
 それに、今姿は見えなくても魔種も来るだろうしね。タイミング合わせて、行きましょう」
 小さく頷く。後方では奇襲の算段を立てるリゲルがアベルの聴覚で得た情報を整理しながら悩まし気な表情をし――頷いた。

「幻想種を『攫えば』いいなんてよく別ルートからの協力者が出たもんだな」
「さて……砂の御仁も我々にいい商売を教えてくれ――」
 圧倒的な目力で承認を睨みつけ、前線へとリゲルは飛び出した。商人たちの会話全てを遮るように振るわれた刃に商人が特異運命座標と意識を其方に向ける。
 それが『好奇』だ。欲という感情全てを感知して商人の位置をしかと認識していた幻は気配を遮断し二人纏めて攻撃を放つ。
「どこからッ」
「人の意を付くのも奇術師という者ですよ」
 にまりと笑った幻。ステッキ『夢眩』をくるりと指先で動かして彼女は白昼夢のカードを弄ぶ。
(大した敵ではなさそうだ。それに――『カイン』達とは関係がない相手か)
 アベルは商人たちが何気なく呼び出されたものだという事を認識した。しかし、特異運命座標達は彼らを『餌』とすることに決めていた。
 慌てた様に商人たちが使用する眠りの砂がばさりと撒かれる。それに気付いた様に幻は顔を背け、凱は只、力強く手商人を睨みつけた。
「此処は戦場、無限無窮のソラでなくとも、紛れもなしに。
 意識を奮わせればいいのならば、既にその様に」
 飛来したワイバーンの視線を釘付けにしたリゲルは商人たちを奇襲する仲間たちの様子に気を配る。
(人々の剣となり盾となる――騎士の誇りにかけて守り切るんだ!)
 眠りの砂に惑わされては自分がワイバーンの胃の中だ。それはあってはならぬと強い気概で足を保てば、幻やアベルより商人の無力化に成功したと声が上がった。
 グレンの眼前に姿を現した商人は先程迄の『大したことない相手』ではない事をアベルはその肌で感じた。
「魔種――!」
 にこりと笑った彼。彼は「楽園への切符を台無しにするなんてひどい奴らだ」と肩を竦める。
「死こそ魂の解放だぁ? はっ、御笑い種だな
 命を弄ぶ拷問狂に、金の為売り払う手引きするのが教えかよ?」
 煽る様にし、その行く手を遮ったグレン。商人たちの許へと飛び込んだワイバーンが戻らぬようにを気取るリゲルの背筋にも緊張が走っていた。

 三人の運搬を一人でしようと考案したサイズにココロは首を振る。
「抱えて歩くなら一人が限度よ。それ以上は意識のない人間を持つのは無茶だもの。
 ロープを巻き付けて意識が朦朧としている内に運んでしまいましょう」
 その言葉にグレンは頷いた。サイズが二人、ココロが一人ずつ抱えたならば効率よく逃げおおせる事が出来るだろう。無論、運搬性能の高いサイズが早く安全地帯に辿り着けるだろう。
 自身の本体を引き摺ってしまうだろうかと構うことはない。今すぐにでもこの戦線を離脱して安全地帯へと運ぶためにサイズは「早く!」と仲間たちを振り仰いだ。


「貴方もザントマンのお仲間ですか?」
 そう、幻は立って居た魔種であろう存在に視線を送った。
「『ザントマン』?」と魔種――頭にターバンを巻いた商人が笑ったのは気のせいではないのだろう。
「何が可笑しい。貴様は何者だ? もう一度問う。ザントマンの手の者か」
「ああ、ザントマンって――ああ!」
 からからと笑い始めた商人にリゲルは背筋に汗が伝った事に気づく。アベルは「別口か」と静かに呟いた。
「ワイバーンを連れてきたのも貴方の仕業ですか?」
 その言葉には商人はからからと笑う。手を合わせ、まるで本当に面白いことでもあったかのように。
「うちの教祖サマはね、歪んでるように見えてお優しいもんでねェ!
 望んでる死ではないなら与えるべきではないというんだよ。可笑しくはないかい」
「……教祖(カイン)の事で、何が言いたい」
 焔に濡れた孤児院。その中で笑いながら死した『筈』だったカイン。アベルはそれを口にして商人を見遣る。
「試練などいつ訪れてもいいでしょう――? 『与えてやった』んですよ、試練を!」
 その言葉に、凱は幻想種達が皆、自身のよすがとなるべきものに縋る様にここを訪れたのだと認識した。
 彼女達の死(しれん)。それを止める道理はなくても『止めてくれ』と乞われたならば凱は手を貸すのだとワイバーンと接敵しながら魔種を睨みつけた。
「一つ聞かせろ。あの幻想種を唆したのはテメェか?」
 じっくりと、そう問い掛けたルカ。グレンは『彼女たちは皆、死するしかないと考えているのだ』と告げていた――ならば、きっと。
「そうだとしたら?」
 許せないと距離を詰める。ターバンが揺れる。彼はラサで見れば目立つ事ない商人の一人だろう。笑う彼を追い詰める様にリゲルが星凍つる剣の舞を放った。
「おっと」
 奇術が魔種を包み込み、幻が「これ以上は無意味ではありませんか?」と静かに告げる。
「貴方がザントマンとは別口で動いている事は理解しました。どうやら、これは『ザントマン』の手引きだけではなく、他に目的があるのでしょう」
 静かに呟いた幻に商人はくすくすと笑うだけだ。
「ああ。俺達は特異運命座標だぜ?
 野良の飛竜なんざより、魔種を倒せるなら優先するに決まってるだろ」
「成程?」
 商人がグレンを見、手にしていた鞭を降ろす。ゆっくりと交代する彼に警戒を解かぬまま、顔を上げたサイズに「食事が終わったようだぜ」と商人の下品な笑みが降り注いだ。
「まだ空腹だって?」
 サイズが呟く言葉にココロは戦線へと復帰し、癒しを送る。現時点で置いても抑えに向かうグレンや前線戦う者たちは傷だらけだ。
 視線を『ワイバーンから逸らす様にして』前線戦う凱へと浄化の鎧を降臨させたココロは息を吐く。
「お待たせ!」
「戦況は芳しくないが――! ここで押し通す!」
 凱の緊張を感じ取り幻はワイバーンの姿を見遣った。
「この鎧の通り、亜竜には世話になってるからな。おっと、鱗だけだったか。お礼はさせて貰うぜ?」
 覇竜の導きを元にグレンとリゲルは前線へと飛び込んだ。ワイバーンは『ぐぱり』と口を開き牙に絡みついた奴隷商人の衣服の布など気にはならぬように新たな獲物へと飛び込む。
 不滅の如く自身の傷を強烈に修復したグレンに飛び込まんとするワイバーンを受け止めた凱。商人たちより奪った砂をワイバーンの鼻先に投げかけて、嫌がるそぶりを見せた亜竜が翼を大きく広げる。
 刹那、憎悪の爪先をワイバーンへと突き立てたルカが唸りを上げた。
「ッ―――おおお!」
 叩きつける様に、飛行を赦さぬと斧を振り下ろす。食事を終えたばかりで腹の膨れたワイバーンの体は重みを感じるかのように地面にべしゃりと叩きつけられた。
 食い下がる様に爪先が彼を切り裂いた。その痛みをココロが癒しを送り、妖精の血でその行動を縫い留めんとしたサイズを喰らう様に牙が襲い来る。
 戦線を復帰し、ワイバーンを相手取る中で彼は自身の明確な位置を認識してはいなかったのだろう。遮るように凱がワイバーンを殴りつける。
「『心は燃やし頭は冷やせ、射線はきっと芸術のように美しく』――」
 それがカイン(あいつ)の教えだったとアベルは静かに呟いた。ワイバーンのその身を阻害することを目的とした彼の腕に僅かな反動が走る。狙撃手としての技量と経験則のどちらが欠けても成立しないが――それが未来偏差、たった一つの冴えたやり方に他ならない。
「ワイバーンだか何だか知らないけど、まだ胃の中に入るつもりはないの」
 淡々と告げたココロに「鎌って美味しいんだろうか」とサイズが小さくぼやく。
「さあ?」
「……食べられたくはないけどさ」
 それでも、何だって食べそうだと見上げるワイバーンの爪先が無慈悲に特異運命座標へと襲い掛かった。
 暴れ回るワイバーンの気を引くリゲルが己の傷を顧みず、戦線と整える。癒し手の少ないこの戦場でココロは只、回復を続けた。
 傷だらけのグレンを庇う様にしたリゲルの背後からルカが顔を出す。渾身の一撃を投げかければ、それに合わせた様に赤い血潮が舞った。
 それが凱のものであると察した幻は「あと少しです」と励ましを送る。
「うん、うん……支えて見せる」
 癒しを送るココロを護る様に立った幻は宙に飛び立たんとしたワイバーンの体が傾いだのを確かに見た。


 ずん、と音を立てて落ちたワイバーンに満身創痍になりながらもルカは膝をつく。
「……あばよ強敵。忘れねえぜ」
 いつかは亜竜を超え、ドラゴン――竜種と呼ばれる脅威に挑みたいと彼は考えていた。
「俺らの勝手で殺しちまって悪いな……こんな目に合わせた黒幕は必ずぶち殺すからよ、許せ」
 傷だらけの仲間達を振り返り、彼は暑い太陽の下、岩陰でぼんやりと特異運命座標を見上げる幻想種へと視線を落とした。
「飛竜に食されるなんて無様な死――それに、『教団とは別の存在が居るのは』知っていましたか?」
 淡々と問い掛けた幻に幻想種はゆるゆると頭を振った。彼女達が『楽園の東側』の信徒である事はさておいても、奴隷商人たちとの直接的な繋がりはないようだ。
「あいつらにも言ったが『命を弄ぶ拷問狂に、金の為売り払う手引き』をするってのがお前らの宗教の教えかよ」
「いいえ」
「なら――」
 グレンは幻想種を見る。その瞳を見て何となく察してしまったのだ。
 彼女達は朦朧とした意識の中でもしかと自身の思う教義を護ろうとしていたのだろう。だからこそ、特異運命座標達に従い自身らの望む死が為に生き延びる道を選んだのだろう。
「死こそ魂の救済? そんなもんネクロマンサーがよく言うセリフじゃねーか。
 ……どうせこの本書いた奴がネクロマンサーで死体をいいように利用したいだけだぞ」
 サイズがそう幻想種に呼びかければ、不思議なものを見る様に幻想種はこてりと首を傾ぐ。
「それこそ決めつけではありませんか」
「なッ……」
 サイズは息を飲んだ。彼女達は命を大事にした結果が『この宗教を信仰している』のだろう。その切り口では幻想種達は言葉を聞かぬという事か。リゲルは唇を噛み締める。
「ッ楽園はリュミエ様達の努力で維持されている。
 その尊さを思い出し命を大切に、自分達でその楽園を守るんだ。
 ……リュミエ様を信じろ。仲間達を裏切るな! 魔に誑かされるな!」
「その『リュミエ様』の所為なのに――?」
 幻想種の丸い瞳がリゲルを見上げた。小さく、息を飲む。
「リュミエ様の『所為』?」
 それはどういう、と言いかけた彼の前で、幻想種は糸が切れたように眠りに落ちた。


 ――リュミエ様と、あと『■■■』様のお二人が嘗て深緑の幻想種を纏めていた頃――

 その言葉が脳裏に過ったのは偶然に他ならない。アベルは『カイン』が言っていた言葉を思い返す様に小さく呟いた。
「すべて砂となって崩れてしまうまほろばならば美しく死んだ方が、まし――?」

成否

成功

MVP

グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者

状態異常

サイズ(p3p000319)[重傷]
妖精■■として
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)[重傷]
グレン・ロジャース(p3p005709)[重傷]
理想の求心者

あとがき

 お疲れさまでした。
 課せられるオーダーが多い中、尽力していただけたと思います。

 MVPに関しましてはそれぞれのオーダーに対してしっかり対応できていた貴方に。

 楽園はまだまだこれから始まるようです。

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