PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ヴンシュの仮面

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●half a year ago.
「本当だって! ラサのド真ん中にあったんだ!」
 男の言葉に、しかしサンディ・カルタ(p3p000438)は「本当かぁ?」と胡乱気な声を上げた。手に持ったグラスの氷がカラン、と音を立てる。
「本当も本当、誰も手付かずの古代遺跡さ!」
 ドヤ顔でサンディへそう告げる男。互いに名も知らないが、ここメフ・メフィートの酒場で出会ってから随分になるか。
 遺跡荒らしを生業とする彼は、腕こそ立つものの──。
「俺ほどのやつなら遺跡の仕掛けなんてなんでもないだろ?」
「とか言って、手にした財宝に呪いがかかってたりしてな」
「そん時ゃ表面の文様をナイフで削っちまえば平気さ」
 男は自信満々に笑ってみせる。サンディもそうかいと笑い返すが、内心ではその言葉へ全面的に同意できるわけもなく。
(そんなんで本当にどうにかなるのか……?)
 湧きあがった疑念はモヤモヤとサンディの中にわだかまっていた。
 けれど男はサンディの心情など知るはずもなく、「次は奢ってやるよ!」と言いながら酒場を飛び出していく。
「あっ、おい……!」
 その背へ手を伸ばすも、あっという間に小さくなった姿に手は中途半端な位置で止まった。サンディは自らの手と、男が飛び出して行った先を見比べる。
「……本当に、大丈夫かよ……?」


●now
 気になるのなら、調べて貰えばいいじゃない。
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の第一声はそれだった。サンディはでもなぁと後頭部に手をやる。
「何がでもなぁ、ですの? 私にその話をするくらいには気になっているのでしょうに」
「そうなんだけど、」
「あ、タント! あなたからも何か言ってあげてくださいまし!」
 ヴァレーリヤが傍を通った御天道・タント(p3p006204)に声をかけると、タントは自分の出番にキラッキラと輝いた。眩しい。
「まあまあまあ、お任せくださいまし!
 このわたくし──

   \きらめけ!/

   \ぼくらの!/

 \\\タント様!///

 ──の! 言葉で思いきり背中を押して差し上げますわー!!!」
 本日もきらめくスペシャルミラクルシャイニングポーズ! 拍手喝采大喝采も巻き上がり、一緒にヴァレーリヤが拍手を送る。
「それで、どういった経緯ですの?」
 かくかくしかじか。
 サンディとヴァレーリヤに説明を受けたタントは成程と頷いた。
「わかりましたわ! そういうことでしたら、ローレットの情報屋に聞いてみるのがよろしいのではなくて?」
「ほら! 行くなら善は急げですわよ!」
 行きましょう、と言うようにヴァレーリヤが立ち上がってサンディの手を掴む。サンディはやれやれというように苦笑すると立ち上がった。
「わかったわかった、とりあえずユリーカたちに聞いてみりゃいいんだろ?」
「ええ! 何もなければそれで良し、ですわ!」
 こうしてローレットを訪れた3人。忙しそうにくるくるとローレットを駆けまわっているユリーカへ声をかけると「はい!」と元気の良い返事が飛んだ。
「皆さん、どうされましたか?」
「ちょっと聞きたい事があったんだが……忙しそうだな」
 ユリーカが両腕に抱える書類は重たげで。サンディがそう口にすればユリーカは思わずと言ったように苦笑を浮かべる。
「怪しい動きが混沌で見つかってますからね。皆さんにだけ頑張らせるわけにはいかないのです」
 そう告げた彼女は、視線をカウンターの方へと向けて。
「ボクはちょっと手が離せませんが、簡単な事ならブラウさんもできるのです。もし難しそうなら、あとでボクたち他の情報屋もお手伝いしますよ」
 よろしくお願いするのです、と告げてユリーカはまた別のイレギュラーズたちの元へ。サンディたちはブラウ(p3n000090)に話しかけると、件の男の情報がないかと問うた。
「ちょっと待ってくださいね~……ぴぃっ!?」
 カウンターから降りようとして床をコロンコロンと転がったブラウは、立ち上がって体をふるふると震わせるとローレットの奥へ。3人がカウンター席に座って待っていると、戻ってきたブラウが足元でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「お待たせしました! お話して頂いた男性ですが、特にローレットでは情報がないみたいです。ちょっと調べておきますね」
「ああ、いや。そこまでしなくても──」
「何言ってますの」
 ヴァレーリヤが呆れた声を上げる。折角だから調べて貰えばいいのに、と。
「あれ。どうしたんだい?」
 不意に第三者から声がかかる。ルチアーノ・グレコ(p3p004260)と、彼と共にやってきたノースポール(p3p004381)が不思議そうに3人(と1匹)を眺めている。ワケを聞いた2人はヴァレーリヤやタント同様、調査してもらった方が良いとサンディに告げる。
「半年も音信不通なんだろう?」
「調べてもらえるなら、私も調べてもらった方がいいと思うな。あ、勿論どうしても乗り気じゃないなら仕方ないけど!」
 はっと慌てるノースポールに、サンディは小さく首を振ってみせた。
 思わず遠慮の言葉を口走ってしまったものの、彼らの言う通り調べてもらえるのなら頼んでおくべきだろう。物事を軽く見ている節のある男だが、悪い奴ではないのだから──。

 ──かくして、数日後。
「うーん……皆さんが言われている男性って、この方でしょうか……」
 困ったように差し出された絵姿は、サンディの知る男の姿に似ていた。だが。
「なんだ、この仮面?」
「この絵を描いた人が会った時には、もう着けていたみたいですよ。なんでもこの男性が暴れているのだそうで、依頼が舞い込んできたんです」
 この方ですか? という再びの問いかけにサンディの溜息が被った。
「──深い溜息ね」
 顔を上げれば、見知った人物──暁蕾(p3p000647)がサンディを見下ろしていた。その表情は乏しく、どのような感情を抱いてサンディを見ているのかは計り知れない。
「知り合いがめんどくせー状況になってるらしくてな」
 知らなければ何も行動を起こしはしなかっただろう。けれど知ってしまったものは仕方ない。
 サンディは依頼に赴くため、他のメンバーを呼び集めた。勿論、先日サンディに「調べて貰った方がいい」と言った面子である。暁蕾も協力してくれるようで、あと──。
「2人、ですわね」
 誰かいないかときょろきょろ見回したヴァレーリヤは、知った人影を見つけて咄嗟に声を上げる。
「エッダ!!」
「おや……どうされました、フラウ・ヴァレーリヤ」
 エッダ・フロールリジ(p3p006270)は振り返り、ヴァレーリヤへ首を傾げ。また暁蕾はラルフ・ザン・ネセサリー (p3p004095)の姿に気付いて声をかける。
 ラルフは依頼書に目を通し、男の仮面が気になったようで。ブラウは彼の指摘に首を傾げながら嘴を開く。
「この仮面ですか? ラサの遺跡にあったものじゃないかって話が出ています。これまでのお話を聞いていると、男性が暴れているのも仮面が原因かもしれませんね」
 もう少し調べてみますね、とブラウはイレギュラーズに告げた。

GMコメント

●成功条件
 仮面を男から剥がし、連れ帰る

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●フィールド
 ラサにほど近い幻想領内。現在はとある町にて暴れているようです。
 町民は避難しており、イレギュラーズが戦う際には巻き添えを考えなくて構いません。
 周囲はところどころ破壊され、建物が崩れており、時として遮蔽物となるでしょう。

●男
 サンディと縁のあった遺跡荒らし。名はベンダバール。
 以前は腕の立つナイフ使いでしたが、仮面を付けた現在は神秘系攻撃を繰り出してきます。
 意思の疎通は不可。また、仮面の外し方も明らかになっていません。

・テレパス:自身を中心とした、半径10m範囲の神秘攻撃。理解のできない何者かの意思が頭をかき乱します。【乱れ】
・念動力:貫通攻撃。周囲に落ちている瓦礫などを超能力で持ち上げ、投げつけます。

●仮面
 男の身に付けている仮面です。フルフェイス。某黄金のマスクに似ています。
 前面は金ぴかですが、耳から後頭部側は塗装が削られた跡が見受けられます。
 眼球部分には何かの玉がはめ込まれており、中で何かが揺れています。有効なスキルを持つ者であれば、それが魔力の塊であり、少しずつ減っていることがわかるでしょう。
 全体に赤黒い文様が走っています。

 元は遺跡に安置されていたものであり、ベンダバールが盗み出しました。
 何かの呪いがかかっていたと思われます。

●ご挨拶。
 リクエストありがとうございます。愁です。
 仮面の外し方は明記されていませんが、皆さんで手法を考えてみて下さい。
 それではどうぞ、よろしくお願い致します。

  • ヴンシュの仮面完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年09月03日 00時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
暁蕾(p3p000647)
超弩級お節介
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト

リプレイ

●かの男を救わんと
「半年も音信不通と聞いて心配したけれど、見つかったようでまずは一安心ですわね」
 代わりに呪われてしまっているようだけれど、と『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は小さく溜息をつく。その隣では半眼になる『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)がいた。
「これだから軽々に墓など暴く輩はおつむが足らんのであります。まあですが、死ぬほどのことではないでありますな」
「サンディさんのご友人、早く助けてあげないといけませんね。……見つかったのは良いけれど、何だか大変な状態みたいだし……」
 『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)はその言葉に頷く。次いで零れ落ちた彼女の心の声に、傍らにいた『Calm Bringer』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は微笑みを浮かべた。
「そうだね。どうしたら良いか、まだわからないけれど……何とか助けないと」
 そこで口に出していたことに気付いたノースポールが目をぱちくり。ルチアーノを見上げると、頑張ろうねと頷いた。
 そこに深い溜息を落としたのは今回暴れている男の知人、『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)。
「酒場の与太話から、本当に古代遺跡の呪いの宝を当てる奴があるかよ」
「呪いの仮面、だったか。どのような目的で作られたか、興味を引かれるな」
 破壊せず回収すれば、恐らくローレットを通じて然るべき場所にて封印が行われるだろう。『イルミナティ』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)はその前に単独調査をするつもりであった。最も、持ち帰ることができるなら──破壊せずに済むなら、の話になってしまうが。
(サンディさんの知人であれば、死なせずに助けてあげたいわね)
 視線を伏せていた『恩師の死を乗り越えて』暁蕾(p3p000647)は、そう思わずにいられない。何しろ、サンディは常日頃から世話になっている人だ。彼が困っているなら助けてあげたいし、出来ることなら困るような事が起きないのが望ましい。
「さあ! さあ! 見えてきましたわよ!」
 乗っていた馬車から顔を覗かせ、声を上げる『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)。その瞳がきらりと煌めく。
「全くしょうがない御方もいらっしゃったものですわ……しかし! サンディ様にご縁のある方ならば、見捨てるわけにも参りません!」
 高らかな声とともに指を弾く音が響く。
「このわたくし──

  \きらめけ!/

  \ぼくらの!/

\\\タント様!///

 ──が! 華麗に助け出して差し上げますわーー!」
 拍手喝采大合唱。きらめき(物理)を巻きながらポーズするタントの姿に、イレギュラーズの何人かも拍手へ加わったことは想像に難くなかった。


●Wunsch
 町の門をくぐると、やけに静かな空気がイレギュラーズたちを包む。この辺りにベンダバールはいないらしい。
「あっちだ」
 何かの壊れる音にサンディが視線を巡らせ、仲間たちは彼に続く。その足が止まったのは音の元凶──ひいては、この惨状の元凶となる男がいる場所だ。
「……ベンダバール」
 サンディの呼びかけに、男は答えない。彼の人助けセンサーも、今は仮面がシャットアウトしているのか反応する様子はない。


「そんな仮面被って、何してる」
「……ギ、ギギ」
 不意に仮面が笑った。ケタケタと、カラカラと。仮面を見つめていたラルフがふと呟く。
「あの眼球……魔力の篭った液体が入っているな」
「眼球ですわね。何かあるのかもしれませんし、わたくしもこのきらめく瞳で! しかと! 見張ってみますわ!」
 きらん、と輝くタントの瞳。その脇をエッダが駆け抜け、シュミーデ・アイゼンで気を引こうと試みた。それが引き金となったか、仮面を被ったベンダバールの前に赤黒い魔法陣が浮かぶ。打ち出された魔術をエッダは両腕で受け止めてみせた。
「おら来いよ金ぴか太郎。貴様と自分、どちらが固いか勝負するであります」
 エッダの言葉とともに素早くサンディがブロックし、ルチアーノが上空から飛ぶ斬撃を繰り出す。
(文様を削るのは、彼の有様を見るに危ないかも。けれど──)
「──金ぴかの塗装はどう?」
 仮面の頬に斬撃が入り、小さく塗装が剥がれる。まだ目に見えての変化はないだろう。だがもし『塗装が魔力を封じ込めている』、『塗装を剥ぐと魔力漏れを起こす』のなら。ひいては『魔力切れで仮面の動きが止まる』可能性があるなら、試してみる価値はある。
 背後から聞こえた恋人の声に、ルチアーノは素早く交代して。入れ替わるようにノースポールの撃ち出した白き流星が仮面へと向かっていく。
「ベンダバールさんから、離れてっ……!」
 祈るような声とともに、流星が飛来した。間髪入れずに暁蕾のライトニングが地を走り、ベンダバールのかぶる仮面へと襲いかかる。
「本当は無傷で助けられたら良いのだけれど、」
 仮面の様子と、ベンダバールの様子と。それらを見て、ヴァレーリヤは「まずは無力化から、ですわね」と呟くとメイスを構える。その唇から紡がれるのは聖句だ。
「──この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え……!」
 吹き上がる炎に男が、仲間が、そして自らが照らされる。メイスを振り下ろすと、それは鞭のようにベンダバールへと振りかかった。

「サンディ!」
「ああ!」
 サンディがベンダバールを風で留め、併せてラルフも側面からワイヤーで拘束にかかる。
 ベンダバールは身をよじってもがくと、声なき咆哮を上げた。同時、2人を始めとしたベンダバールに近い者が頭を押さえる。
 まるで、脳内に誰かが侵入しているような。そして無遠慮な手が勢いよく頭をかき混ぜているような、そんな錯覚に陥るようだ。
「っ……精神干渉の類か、小賢しい。こんな下らない事で我々を挫けると思うな」
 ラルフの気をしっかり持てという言葉が仲間を支える。間違っても、飲み込まれたりしないように。
「皆様! わたくしの元にお集まりくださいまし!」
 タントの声に仲間が足をそちらへ向けた。一瞬押さえのいなくなったベンダバールだが、ノースポールがすかさず接近してガードに回る。
「絶対に逃がしません! ベンダバールさんも、皆さんも守ります……!」
 思わず声を上げた恋人に、大丈夫だよと肩越しの笑みを返して。
「……少し、減った?」
 遭遇時の記憶を掘り起こす暁蕾は、仮面の瞳に小さな違和感を覚え。その背後からタントが「わたくしもそう見えますわ!」と声を上げる。
 それは塗装を少しずつ剥いでいることによるものか。それとも、継戦による消費か。
「何にせよ、まずはベンダバール様をどうにかしないといけませんわね」
 聖句とともに突き出されるヴァレーリヤのメイス。衝撃波が暁蕾の衝術とともにベンダバールを吹き飛ばす。その体は建物へとぶつかり、土煙が上がった。
「少しは楽になるか……?」
 テレパスの余韻に顔をしかめながら、サンディが顔を上げる。できれば立ち上がってくれるなと、願わずにはいられない──だが。
「……! 人影ですっ!」
 ノースポールが声を上げる。土煙から出てきたそれにタントが息を呑み、ヴァレーリヤが「うそ」と言葉を失くす。
「……それじゃあ、まるで、」
 ──ただの操り人形じゃない。
 仮面に引きずられたベンダバールの体に力はない。しかしイレギュラーズたちの戦い方で、最悪の事態は避けている筈だ。
 やはり、仮面を引き剝がさないと終わらないらしい。
 ラルフが素早く肉薄し、マークしながら赤い鎖で仮面を繋ぎ止める。エッダの巻き起こす螺旋は突き上げる拳へと引き寄せて。
「ギ、グギガ、ガガグギギ」
 歪な言葉を発する仮面。不意にベンダバールの腕が持ち上がる。それは自力の動作ではなく、まるでマリオネットのような。
「皆、瓦礫が来るよ!」
 ルチアーノが回避体勢を取ると同時、建物の瓦礫が一直線に飛んだ。
 幾重もの呻き声。だがそこに立ち上がるのは太陽の如ききらめき。
「……っまだですわ! 何としても助けますわよ!」
 タントの奏でる救いの音色。そしてヴァレーリヤのブレイクフィアーが仲間たちを立ち上がらせる。

 まだやれる。まだここに8人全員が、立っている。

『ねえ、君は何者? 呪いは人が施したもの? その人から離れて欲しいな』
 ルチアーノは仮面を真っ直ぐに見つめながら心の中で語りかける。今、そこにある意識は確実に仮面のみだ。何らかの思念を伝える方法があるのなら、こちらからも届くはず。
 ざわざわとした騒めきの中に、1つ明確な単語を受け取ったルチアーノは困惑の色を浮かべた。
「……祈り?」
 ここにあるのは呪いの仮面だ。決して祈りなどではない。
(もしかしたら、過去には祈りであったのかもしれないけれど)
 今となってはただの呪い。忌まれるモノ。仮面の好きにさせるわけにはいかなかった。
 ラルフの錬成した巨大な戦斧が仮面へ──さらに言えば仮面の瞳へ向かって落ちる。ピシ、と小さく響いた音をイレギュラーズたちは聞き逃さなかった。
「その目、頂くぜ」
 サンディのナイフが仮面の片目を抉る。硬い感触とともに、ヒビの入っていた球体が砕けた。
 赤黒い文様から色が消える。ベンダバールの体が仮面をつけたまま崩れ落ちた。
「──今だ!」
 仮面を引き剥がし、ルチアーノが鎖を巻きつける。ラルフはベンダバールの体を調べ、致命傷を負っていないことを確かめた。
「終わり、ですの……?」
 ほう、と息をついたヴァレーリヤ。しかし不意に、仮面に残った片目が光って彼女へと突撃した。
 エッダがヴァレーリヤの名前を叫ぶ。それと同時にルチアーノが仮面を地面へと叩き落として。
 ──一条の閃光が、仮面へと直撃した。


●目を開ければ青い空が見えた。
「……は、」
 目を覚ますと同時、間抜けな声が漏れる。
 ああ、俺はどうしたんだったか? 遺跡の財宝を手にしようと酒場を飛び出して、それで──。
「よお、目が覚めたか」
 その声に視線を向ければ、飛び出した酒場で語らっていた赤茶髪の少年が見える。そして、その仲間たちも。真白の少女──ノースポールがベンダバールの様子にほっと笑顔を見せる。
「大丈夫そうですね、ご無事で何よりですっ!」
「礼は他のイレギュラーズに言っとけよ、ベンダバール」
 サンディへ視線を戻すと、彼は小さく肩を竦めて。
「俺1人来てもミイラが増えただけだろうしな。だから俺への礼は財宝の半分で十分だぜ」
「は? 半分ってお前、」
「なんだミイラの方が良かったか」
 楽し気な光がサンディの瞳に宿る。肩を竦めたベンダバールは「後で渡す」と告げた。
「……もう、大丈夫ですかね?」
 ノースポールは念のために、と沈黙した仮面──だったものにエネミースキャンをかける。
 見れば、仮面は原型をどうにか留めているといった有様。残った片目もただのガラス玉となり、封印の必要もきっとないだろう。
 さて、と声を上げたのは赤髪の少女、ヴァレーリヤ。
「うっかり呪われてしまった貴方の命を私達は救ったわけだけれど……お礼とか、無いのかしら? 酒場で一杯おごりとか、美味しいもの食べていいとか、きっとありますわよね?」
 その視線にはキラキラと期待が籠っていて、ベンダバールは思わずうっと言葉を詰まらせた。救いを求めるようにサンディへ視線を送ると「そういや、『次は奢ってやる』って言ってたな?」と追撃がかかって。
「……あーわかったわかった。今ここにいるイレギュラーズ皆々様、俺が奢ってやろうじゃねぇか!」
 やったー! と歓声が上がる。啖呵を切ったベンダバールは小さく息をついた。
 くそう、財宝の半分はサンディへ。残りの半分もこの奢りで消えちまうじゃねぇか。こうなったらまた別の遺跡に潜って財宝をがっぽがっぽと──。
「──いでっ!?」
「……いや本当。懲りろよ小悪党」
 心の声はしっかりと口から出ていた。エッダの拳がベンダバールの頭へ振り下ろされ、彼が頭を抱えて睨みつける。……睨みつけているのだが、相当痛かったようで涙目である。迫力も何もあったもんじゃない。エッダはそんな彼へふんと小さく鼻を鳴らした。
「自分はお前の傲慢を刈り取る者であります。死者の国に土足で踏み込んだ者の末路、その相場は決まっているでありますよ」
「そうですわ! 今さっきまで危険だったことをお分かりかしら!」
 反省の色がないベンダバールにタントも声を上げる。劣勢となったベンダバールへ、暁蕾がさらにひと言。
「向かう事を止めはしないけれど、今後怪しい遺跡やお宝には細心の注意を。厄介事でサンディさんを困らせないようにしてほしいわ」
「OK分かった。無理しない。怪しいものに気をつける。これでいいんだろう?」
 頷く3人にやれやれ、と息をついたベンダバール。いい年した大人が、まるで怒られることをした子供のような扱いである。
「じゃあ、町へ戻りながら話を聞かせてもらえるかな? 遺跡の場所とか、その周りの状況とか」
「あとどうしてこうなったのかも、分かる範囲で教えて欲しいです!」
 ルチアーノとノースポールの言葉にベンダバールは頷いた。彼としても命あっての物種、再びなんてことがあっては困る。イレギュラーズ──ひいてはローレットに対応を任せられるならそれに越したことはない。

 かくして。イレギュラーズ一行とベンダバールは、メフ・メフィートを目指し始めた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リクエスト、ありがとうございました。
 ヴンシュ──祈り、願いといった意味になるようです。この財宝に過去の人間が何を願い、祈ったのか。それはきっと、遺跡を調べなければわからないことなのでしょう。

 またのご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

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