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シナリオ詳細

ヴィーゲンリートの行き先

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幻想と傭兵
 いつの時代も私欲に塗れる者はいる。
 それは金銀財宝にであったり、権力にであったり……或いは。
「――『人』そのものに価値を見出す者もいる」
 幻想。その一地域を統括せし『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレクは己が屋敷にある人物を招いていた。幻想内の貴族ではなく……『彼』は、西。ラサの――
「こういう事に関しては、ま。昔からあるもんですよ。
 『人身売買』なんて碌でもねぇ事の需要は……尽きない。全く困った事に」
 現在の盟主たる『赤犬』ディルク・レイス・エッフェンベルグである。
 幻想とラサ、この二つの国家の結びつきはそれなりに強い。ラサは傭兵の性質を持つ国家であり、特定の勢力に必ず味方するという訳ではないが……幻想は鉄帝との騒乱時などで度々交渉が舞い込む『お得意様』であれば縁が比較的深くなるものだ。

 しかし今回はそういった商売の話とは些か趣が違う。

 人身売買。ディルクの口からストレートに放たれたそれは、最近幻想領内で増加傾向にある問題だ。人の売り買い……それ自体は、実に残念な事であるのだが以前から無い訳ではなかった。されど。
「……最近は明らかにラサからのルートが増えておりまして」
「しかも『特定種族』ばかりとなれば、少しキナ臭くなってくると……
 その件はウチの方でも少し調べている所でしてね」
 ガブリエルが私兵によって確認しうる限り、かの国からの流れが――強まっているのだ。 先述の通り人身売買自体は以前より、ある。あるが今回彼らが特に問題視しているのには明確な理由があった。
 商品の『内容』である。

「やはり事実なのですか――『深緑』の幻想種住民だけが、対象となっているのは」

 ラサの奥。幻想種を中心とした国家『深緑』が被害を受けているのだ。
 深緑は他の国々と文化・交流に関して閉鎖的な地である。隣接し、緩やかな同盟関係を続けているラサとはそれなりに結びつきがある……が。深緑が被害を受け、ラサから幻想へ流れてきているという話が仮に事実ならば宜しくない。
 非常に短絡的な見方をするのならば――それはラサが深緑に攻撃していると同義で――
「ま、現時点で『そう』だと断定するのは止めときましょうか。ただ『そういう噂』があるのなら、あまり放っておく訳にもいきませんでね……深緑と築き上げてきた長年の関係が破談なんてのは冗談じゃあない」
 と、ディルクはガブリエルの言に対し明言を避けた。
 ガブリエルは善良な人間ではあるが、あくまで他国の者。もしかすれば深緑との関係にヒビが入るかもしれない要素を断定し、言質を取らせるような事はしたくなかったのだ。とはいえならば。
「そうですね私も同意見です。『そういう噂』があり、引いては幻想が買い手として熱心に取引している……など。深緑と敵対的であると見られる様な噂は潰すべきだと思っております」
 ガブリエルもあくまで『宜しくない噂』の範囲としてディルクと話を進める。
 幻想は王が多少、ちょっぴり、ほんの少しばかり良い方向になってきてくれているのだ。そんな時期に国外からの問題など持ち込ませたくない。まぁそれを差し置いたとしても――人身売買などという売り口を広げる事に利は無い。国内の不安定さが増すばかりではないか。
 それぞれの立場。それぞれの事情から両者は話の核にこれ以上触れず、話を続ける。
 この問題を潰す為には――どうすれば良いか。
「実は私の方の調査で幻想へ運び込まれるルート上の拠点を一つ、特定しました。
 ここへ戦力を派遣し、情報の収集に当たりたい……のです、が」
 ガブリエルの示した地図上。そこは幻想寄りのラサ領域、砂漠地帯であった。となれば当然そこは国境線の向こう側であり、遊楽伯爵の私兵を大々的に踏み込ませる訳にはいかない。可能ならばラサの方で潰してほしいが。
「如何でしょう。資金ならこちらが出しますので、傭兵といういつもの形で――」
「……いやそいつは避けましょう。今回ばかりはちょいと、そうはいかない」
 何故? という怪訝な顔をするガブリエル。傭兵が傭兵として雇われる事の何が問題か。
 理由は二つだ。一つはこの人身売買関連にて、ラサの内部に関わっている者がいる可能性を考えると――おいそれと誰でもを派遣したり拠点発見の情報を流す訳にはいかない事。
「別に信用できない奴らばかりじゃないんですがね。慎重にはなりたいもんですし」
 そしてもう一つ。
「国境線辺りの面倒くさい所なら――もっと自由に動ける奴らを派遣した方が良い」
「ああ、成程」
 領土的に、どちらが動いてもどちらかを刺激してしまう可能性を含んでいるのならば。
「では彼らにお願いするとしましょうか。
 ローレットの皆さんならば、きっと上手く事を成してくれることでしょう」
 どこの勢力でもなく、依頼ならばどこの勢力にでも付いてくれる。ある種ラサと近しい彼ら。
 ギルド・ローレット。彼らの力こそが求められる場面であった。

GMコメント

 茶零四です。
 なにやら不穏な様子……よろしくお願いします。

●依頼達成条件
 1:指定された(下記戦場)の地下壕の制圧。
 2:内部に存在する奴隷商人の最低一名以上の捕縛。
 3:捉えられている幻想種の全救出。

 上記全ての達成。

●戦場
 ラサ領内。砂漠地帯に存在する地下壕。

 シナリオ開始時点ではまず地下壕から少し離れた所からスタートします。
 この地域は砂嵐が非常に吹き荒れており、長く留まるとそれだけで体力(HPやAP)が少しずつ減少していきます。何らかのスキルなどでこの効果は軽減できる可能性があります。
 地下壕入り口位置は判明しているモノとします。
 見張りの類はいる可能性が高いです。
 先に調査し、死角から近付くと後の侵入がスムーズとなるでしょう。

 地下壕内部は砂嵐の影響はありませんが、具体的な構造は不明です。
 奴隷商人の拠点という性質から考えれば牢の類が当然あるモノと思われます。
 また通路での戦闘が想定され、地上よりも狭い範囲での戦闘となるでしょう。

●敵勢力
・奴隷商人×?名
 ラサから幻想へと奴隷を運搬している商人です。
 一名は最低でもいますが、全部で何名いるかは不明です。聞きたい話がありますので一名は最低でも捕縛して下さい。支援系の戦闘スキルを使用してきますが、直接的な戦闘能力は低いと目されています。

・護衛傭兵×六名~
 上記奴隷商人を護衛している者達です。
 最低でも六名いる事が確認されています。総数はもうちょっとだけ多いでしょう。
 商人達と異なり直接的な戦闘能力に優れます。また、地下壕内部構造を把握していますので、地の利があると思われます。突発的な奇襲などにご注意を。

・魔物×五体
 この地域に存在する魔物です。外見としては巨大な猪です。
 HP・攻撃力が高く、その代わり防術・回避が低い特徴を持っています。
 彼らは砂嵐の影響を受けず、近くを通る生命体を積極的に攻撃してきます。

 商人勢力よりもまずは魔物の排除が必要となるでしょう。
 このような魔物が徘徊している場所だからこそ、長らく拠点は発見されなかったようですが……逆に考えると商人たちはこの魔物を回避出来る手段か、道を知っているのかもしれません……?

●救出対象
・幻想種女性×三名
 地下壕のどこかに囚われている幻想種達です。
 全て金色の手枷・首輪を付けられていて、身動きが取れない状態です。
 抵抗されたからか『商品価値』が削がれない程度に暴行を加えられた様な痕があります。

 必ず、救出してください。

●重要:同時参加不可
 当シナリオは『砂の首輪』のシナリオとの同時参加が不可となります。
 『ヴィーゲンリートの行き先』『花咲く森のブラームス』にはいずれか一つしか参加できません。ご注意ください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ヴィーゲンリートの行き先完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年08月11日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ロザリエル・インヘルト(p3p000015)
至高の薔薇
セララ(p3p000273)
魔法騎士
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
銀城 黒羽(p3p000505)
アト・サイン(p3p001394)
観光客
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者
ラナーダ・ラ・ニーニア(p3p007205)
必殺の上目遣い系観光客
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人

リプレイ

●砂の世界
 砂嵐が目に沁みる。
 やけに強い勢いはこの土地特有のモノか? クロークで体を覆い、砂塵に耐える『観光客』アト・サイン(p3p001394)は眼を細めながらも拠点があるとされる方向を見据えていて。
「この先か――成程ね、辺鄙な所だ。『そういう所』を構えるには最適とも言えるけど」
「……さて、今回は中々に重大任務の様だからね。気を引き締めて行かなきゃ!」
 アトの言葉に続くは『必殺の上目遣い系観光客』ラナーダ・ラ・ニーニア(p3p007205)だ。彼女もまた外套を纏って、砂嵐に対する備えを見せる。
 砂の世界に生は少ない。死で満ちている――は言い過ぎかもしれないが、いずれにせよ生物にとって過酷だ。そのような環境に対する耐性でも無くば体力が少しずつであろうと削られてしまうだろう。
 その為、各々が各々の手段を持って砂嵐に対する対策を施していた。ゴーグル、全身を覆う布、フード付きのマントなど。何度とでもいうが、この地は過酷であるが故に。
「つっても――胸糞悪い依頼を見過ごしたくはねぇ所だ」
「えぇ『人身売買』などというのは……人の闇です。一刻も早く救助に向かいましょう」
 それでもと、この地に訪れた『ド根性ヒューマン』銀城 黒羽(p3p000505)と『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は歩みを緩めない。確固たる決意と共に道を進むのだ。
 人にはそれぞれ自身が持つ価値というのはある。それは例えば腕力だったり心の強さであったりと千差万別だが、それらは決して『他人に寸評され切り売り』されるモノではない。人を売る商人許すまじ――
「――と、ちょっと待った。『近い』ぞ」
 瞬間。仲間の進行を止めたのは『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)だ。
 彼のエネミーサーチに無作為な敵意を感じる――恐らく魔物だろう。
「全く、連中の方はどうやってこいつらを回避してるんだろうね? 避ける目印とかあるのかな?」
「ありウル話だね……尤も、今の所こっちの目からはカクニン出来ないけれど」
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)の耳にも捉えられた魔物の足音。砂嵐の轟音に混じって些か聞き取り辛いが――それでも確かに、砂嵐以外の何かがあるのは分かる。過酷なる地への耐性を持つ『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が目を凝らせば目視でも確認出来て。
 さすれば迂回だ。この数、マトモに戦えば決して負けはしないだろうが余分体力の消耗は抑えるに限る。同時、セララはこの魔物らを回避できる道があるのではないかと捜索の力も活用。周囲の観察も行って。
 少しずつ、少しずつだが確実に前へと進んでいく。
 が、魔物の側も鼻が利いたのだろうか? 内の一体がなにやら獲物がいるのだと気付いたようで。
「やれ、この砂嵐の中で戦闘は流石に少しキツイわねぇ……速攻で終わらせましょうか」
 であれば『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)が跳び出した。
 気付かれたのなら先手を取らせる理由はない。抜く刀、踏み込む一歩、突き込む斬撃。
 切れ目なき連続動作が猪型の魔物へと叩き込まれて。
「全く面倒よね――ま、ちゃっちゃとやっちゃいましょ。すぐに終わらせればいいわ」
 次いで『至高の薔薇』ロザリエル・インヘルト(p3p000015)の一撃が直撃。魔物の身が揺らぐ。
 ああこんな者らを相手にしている場合ではないのだ。葉っぱが乾燥してしまうではないか。それに、目指すべきは敵の拠点。往き、囚われている幻想種を食べ、違う舐め、違う――ううんッする為に。
 魔物の突進。黒羽が受け止め、止まったその一瞬にリゲルとイグナートの攻撃が左右から。迅速足らんとする勢いで魔物の排除を狙う。時間をかけすぎてしまえば、戦闘の気配に気づいた更なる魔物の到来に繋がりかねないから。
「参りましょう。目指す先、そう遠くはない筈です」
 雪村 沙月(p3p007273)は告げながら、魔物の懐へと瞬時に踏み込む。
 魔物達は所詮障害。本命に非ず、であれば急ぐべしと判断して。
 嫌悪せし、倒すべき対象は――この奥にこそ真実いるのだから。

●奥底には
「捕まえた幻想種共の様子はどうだ?」
「へへ大人しいモノですよ。煩いのは何発か殴りはしましたがね、今じゃ震えてるだけです」
「遊んでもいいが見張りは絶やすなよ。折角捕まえたのに逃げられたらたまらんからな」
 外の砂嵐の音も『ここ』では遠くに聞こえる。
 地下壕。そこで見張りの傭兵と奴隷商人が動いていた。下卑た笑いを見せる傭兵は牢の方へ、一方で商人は別。更に地下壕の奥へと進んでいき―― 一つの扉を開いて。
「――失礼します。今回の幻想種達の取引の件で、ご報告に申し上げたい事が……」
 部屋に入る。先の傭兵に対し、雇い主故の態度を取っていた商人だが。
 ここに入りては恭しく頭を下げる。その先にいたのは、椅子に腰かけている――
 イレギュラーズ達と同じように全身を布で覆った一人の……男がいた。

●突入
「見えた。どうやら、あそこみたいだね」
 魔物を打ち倒し、更に進んだイレギュラーズ達。ラナーダの視界に映ったのは、地下壕の入り口。どうやらやはり見張りがいる様だ。数は一、奴もまた砂嵐を防ぐ為だろうか全身をマントに包んでいる様子が伺えて。
「なるべく殺さないようにしたい所かな――内部の情報の為にも」
「ああ。内の情報までは流石に分かってねーからな……
 なんとか口を割らせて、少しでも分かればいいんだが」
 ラナーダは味方に癒しの術を紡ぎ、サンディは大いなる風の魔法を顕現させ、思考するは初手の事だ。
 幸いにしてまだ向こうには気付かれていないらしい。となれば機先を制して身柄を確保、内部の情報でも吐かせたい所だ。『その手段』は用意出来ている故に。
「て、ならもう行きましょうかね。時間をかけているとまた体力が削られるし」
 言うはロザリエルだ。初手が取れるならば、と形成せしは薔薇の棘。
 それは何人たりともを喰らう妖花の一端。ともすれば味方をも喰らいかねない、ランダム性を秘めてはいるが――放つ先に対象が敵しかいないのなら、話は別。
「死んだらごめんね! 手加減できないから!!」
 まぁ死んだら余さず食べるから許してよね! とは喉奥に仕舞いつつ――放つ一撃。
 着弾、死の槍は見張りの男を捉え、その身を穿っていく。さすれば同時、一気呵成に突き走り。
「いっくよ――!! トラベラーセララ参上! しゃきーんッ!」
 剣を掲げて決めポーズ一瞬。死角側より攻め立てるセララの奇襲に続いて。
「覚悟しなよ――人攫いなんてやってるなら、ソウオウの報いを受ける事も、さ」
 風を舞う飛燕の如く、イグナートの超速の接近から一撃が放たれる。
 声を出させる隙も与えない。制圧に掛けてよい時間は一瞬だと。
 佐那の蹴りも放たれ、重ねられる猛攻……と言ってもほとんどが不殺の撃だが、そして。
「さぁ……ちょっと味わってみようか?」
 アトへと続く。アトが取り出したのは、ナイフだ。
 麻沸扔刀――あらゆる薬剤の知識を応用し、自身の血液が最終的なトリガーとして発動する特殊な麻酔薬である。指先からほんの少し垂らした赤き一滴が効果を纏い、見張りの者の身体へと突き刺されば。
 不殺の意志と共にその身体の自由を奪う。即座、行うは魔眼の意。
「内部の人数、道筋……吐いてもらう事は沢山ある。さ、パパッと吐いておくれよ」
 駄目なら酒に、更なる麻沸扔刀をと。意志を刈り取る手段を続けるだけだ。

 ――結果として同じ傭兵の装備や人数。
 それからあくまで大まかに、であるが地下壕の構造が言葉として漏れた。

 救助対象の幻想種達はやはり牢に繋がれているようだが、そう深くは無い所にいるとか。移動のさせやすさを優先しているのだろうか。恐らく、ここが襲われるという事の想定をしていないのだろう。
「なら突入しましょうか……こんな不貞の輩共のせいで国交悪化、だなんて。
 堪ったものじゃあないわね。一刻も早くこの事態を落ち着かせないと」
 吐き捨てる様に佐那は言う。彼女自身は自由を好み、各地を奔放に過ごす性質を持つが、だからといって故郷たるラサになんの愛着も無い訳ではない。荒らす輩共の暗躍に、良い気分など一切ないものだ。徹底的に叩きのめしてやるとしよう。
 慎重に進む。地下壕の中に入れば、足元には入り込んだのであろう砂があちこちに溢れているが、砂嵐の影響はなくなる。体力が削られる様な事態はここから先には無いとみるべきだろう。
 しかし外と異なり壁がある。
 魔物と戦った時のように、全員が距離を存分に布陣し、自由に戦えるという訳ではなくなるだろう。
「だが、ま。それならそれでやりようってのはあるもんでな」
 言うは黒羽だ。進みながら活用しているのは、己が耳。エコロケーションである。
 音の反響を利用するエコロケーションは密閉空間ではない外では効果が非常に薄い、が。地下ならば話が別だ。足音の反響が天井に、左右に、周囲の壁に跳ね返り彼の耳に入って。常なる警戒を怠らない。
「拐われた人たちもそう遠くない筈だ……不安だろうし、早く助け出してやらねぇとな」
「ええ全く――奴隷商人……このような人達が存在するのは許せません。
 なんぞやの理由で幻想種を捕らえ、売ろうとしているのか……」
 憤慨せし沙月。このような輩は始末した方が世の為であるとすら思う。
 しかしまだだ。殺してしまうのは簡単だが、ここにいる者達が全てではあるまい。
 捕縛して情報を吐かせるまでは――生かさなければならない。全ての根を断つ為に、と。彼女は己が目、耳、鼻――全力を注いでこの地の攻略に勤しむ。警戒は決して怠らぬ。悪人共に後れを取るなどあってはならぬから。
 そしてサンディとラナーダの人助けセンサーに反応が見られる。
 この地における助けを求める声など、当然救助対象である幻想種達の声なれば。
「……あんまり疲弊していないといいんだけれども。携帯食料辺りで足りるかな……」
 ラナーダは救出した時に動けるだろうかと心配する。どれだけ拘束されていた事か……いずれにせよこんな事もあろうかと備えていたものはあるのだ。まずは見つけるのが重要。
 歩きつつ、誰もが警戒を怠らない。罠があるかもしれぬとラナーダと佐那は看破を試みて。
 セララは耳を。そうして数多の角度の注意して――いれば。
「むっ……な、なんだテメェら! こんな所にまでどうやって……がッ!?」
 内部を歩いていた傭兵だ。が、この傭兵が近くにいる事はあらゆる探知の果てに分かっていた。故に。
「荒事はマカせて欲しいな。こういう時の為のオレ、だからね」
「さてしかし流石に向こうにも気付かれますね――ここからは力で行きましょうか!」
 イグナートの一撃が傭兵の顎を襲い、リゲルの薙ぎ払いが追撃として襲い掛かる。
 挙がる大声。されどどこかで気付かれる事は織り込み済みだ。牢も近いのであればまずそちらに行き。
「救出してからのお仕置きかな……! 正義の鉄槌、受けると良いよ!!」
 後の殲滅かと、セララは声高に。
 訪れる敵をマークしながら剣を振るう。悪に報いを下す為に――

●一室
「な、なに侵入者だと!? ええい、傭兵共を前に出せ! 雇った意味を思い出させろ!」
 先と同じ一室。商人は『侵入者あり』との全く喜ばしくない報告に激怒しながら指示を飛ばしていた。
 見張りはどうした――なぜそこまで侵入されるまで気付かなかった――思う事は多々あれど。
「急げ、時間を稼げ! ――この『御方』のお帰りだ! さっさと道を斬り開かんか!!」

●その名は
 激しく鳴り響く武具の衝突音。それでもやがて、一方の激しさが弱い方を蹂躙して。
「邪魔ですね――退いていただきます。加減は、しませんよッ!」
 傭兵の剣が突き込まれる、タイミングに合わせ沙月の身体が揺らぐ。
 否、揺らいだように見えたソレは踏み込みの動作だ。躱し、懐にて放つソレは夢幻の如く。
 無拍子一閃。
 敵の身を確かに穿つ。防御を打ち砕く、苛烈なる一撃は確かにそこにあり。
「罠の類は……無さそうに見えるけどどうかしら?」
「ああいや、稚拙なモノなら幾つかあったよ。だけどこの程度の罠……むしろ張り合いがないって所かな。仕掛けるなら気合を入れて欲しいよね」
 そして周囲に罠が無いか確認しながら寄る佐那に、牢の扉の鍵を解錠せんとするアトがいる。どうやら調べた所扉に不用意に近付けば電流が流れる罠があったようだが。
「あんまり凝ってるヤツじゃない――子供騙しだね、よし開いた」
「オレも手伝うよ。こっちの枷の方にはワナが無さそうだしね」
 ラングリッドの才知も持つアトの技量は群を抜いている。多少の罠など即座に解除。
 牢や枷の鍵に関しても同様だ。鍵の解錠に関してもアトならば余裕綽々。
 イグナートもまた参戦し、己がギフトの力。シェクイハンドで枷を握りつぶす。うっかりと生身の方に被害が出ないように慎重に、しかしアトもイグナートも凄まじい速度で拘束を解いて。
「来るのが遅れてすまない。もう大丈夫だ……怪我とかはないか? 痛む所は?」
「けほっ……だ、大丈夫です私達は。貴方達は……?」
 ローレットの者って言えば分かるか? と言うは黒羽だ。
 囚われていた者の手を握る――さすれば気付く。彼女達に真新しい『痣』がある事を。
 これは殴られた痕だ。しかも幾度と殴打されている。心の奥底、激情が湧きそうになるが……黒羽は抑え、紡ぐはギフトだ。苦痛を和らげ己が身に肩代わりする力――実際に傷が癒える訳ではないが、せめて苦しむ痛みだけでもと。
「……もう大丈夫。必ず貴女達をお守りします」
「ああ。ただ、ここにいるのは危ないから一緒に移動してもらう事になるけどな――ハハッ! なぁに任せておけって、やべぇ牢屋に叩き込まれても生還した俺が言うんだ。お前達は絶対大丈夫だからよ」
 そしてリゲルの言葉に、アニキカゼを吹かせようとするサンディの一言が混じる。救助出来た以上は一刻も早く移動してもらうべきだが……流石にまだ完全に安全が確保されたわけではない。彼女達のみで逃げてもらう訳も行かず、同行してもらった方が安全だ。
「じゅる……と、ととと。なるべく隊列の中側にいてよね。外は危険だから」
 ある意味ではロザリエルの傍も危険だが、完全に自制出来ているので大丈夫だろう。多分。
 しかし彼女の言う様に外側は危険だ。ロザリエルも常に警戒しているが、あくまでもここは敵のテリトリー。不意なる奇襲が行われないとは限らない。故に救出した者を通路の中側へ。万一を想定すれば――
「お、っとぉ!!」
 瞬間。案の定襲い掛かって来る傭兵が居た。
 反射的に行動したのはセララだ。己が聖剣を割り込ませ、敵の攻撃を遮って。
「えーいやっぱり卑劣だね! なら食らいなよ……正義の鉄槌、セララ・スペシャ――ル!!」
 言うは技名。地を跳ね、与えるは十字の輝き。更にそこへ。
「たく、どこから湧いて出てくるんだよ……寝てろ!」
 叩き込まれるはサンディのスペシャル――SNSだ。
 様々な探索技能が集合すれば突発的な奇襲にもある程度対応出来ると言うものである。直接的な戦闘、となれば優れた者はイレギュラーズ側に多く、優位に戦いを進める事は出来ている。唯一問題があるとすれば……
「ふむ……些かまずいかもしれませんね。傭兵達はもしかすると時間稼ぎの戦い方をしているのやも」
「――商人たちを逃がす為に、と言う事でしょうか」
「かもしれません」
 気付いたは沙月だ。敵の攻撃が少しばかり散発的すぎる。
 同様にリゲルもそうではないかという結論に到達する。救助対象に割とすぐに手が届いたのは幸いだったが……商人が保身故に脱出を優先したのならば?
「今の所隠し通路てか、逃げ道がある様には見えねぇが、ちと急ぐか」
「逃げるだけって相手はエネミーサーチに引っかからねぇんだよな……さて?」
 黒羽にサンディの言が続けば、イレギュラーズ達は慎重に、しかし急いで商人を探す。
 最低でも一人は確保せねば。何のためにこんな非道を起こしているのか、尋問しなければならない。それが依頼の目的でもある故に。
「……特定の種族だけを狙う誘拐、か」
 そう、ラナーダは思うのだ。目的は一体何なんだろうかと。
 幻想種に限る理由はなんなのだ? 人身売買で他の種族でいけない理由は?
 わざわざ深緑の者に手を出し、国家の主要陣が動き出す事態であるというのに。
「そのリスクを超えたメリットが――なにかある? もしくは見込んでいる……?」
 横目で視線を幻想種達に。彼女達を、見た限りでは特別な要素がありそうな者には見えない。
 分からない。ならばやはり聞くしかないか。商人を捕らえ、そこから事情を――

 その時だった。砂が、視界を横切った。

「――?」
 気付いたのはロザリエルだった。周りの警戒を行っていた彼女の目に映った、砂。
 最初は外から風でも吹いたのかとそう思ったのだが。
「あ、違うわ。これ」
 背筋を這いずったのは嫌な予感。眼前に現れた傭兵を強烈な一撃で叩き潰した――次の瞬間。

「邪魔だな、貴様ら」

 くぐもった男の声が聞こえたと同時。
 風が吹かぬはずの地下壕の『奥』から――大量の砂が吹き荒れた。

●砂男
 奥に見えたのは商人だった。
 今まで襲い掛かってきた傭兵らとは違う服装、戦闘向きではない様子。あれが目標だろう。
 だがラナーダの視界に同時に見えたのは『もう一人』いて。

 その手からは、何か『砂』が零れているように――

「邪魔だな、貴様ら」
 声、と同時。手から放たれるそれは青い砂。
 零れる様に地に落ち、しかし波の如くうねり上がって襲い掛かって来れば。
「ッ……これは!?」
 意識が淀む。
 頭部に掛かる泥沼の様な疲労感。瞼が重くなり、脳髄に柔らかな熱が宿る。
 これは、分かる。この感覚は――
「『眠気』か……? チッ!」
 強制的な眠りへの誘い。魔術かなにかか? 今それをこの場で判断は出来ないが。
 舌打ちしたサンディは救護対象達を護るべく身を挺す。
 救うべく見参したのだ、絶対に傷付けまいと前へと立ち。倒れぬ意思と共に前を見据えて。
「こ、この砂……この砂は――私達が攫われた時も……!」
 瞬間。救助対象である幻想種達の口から漏れた言葉は、記憶の一端だ。
 正確に覚えている訳ではないが……自分達が深緑にいた時、このような砂を見たのだ。
 それこそ自分たちが攫われる前。『眠くなる』感覚を得た時に。視界の片隅に、あったような……
「くッ……でもなんとか辛うじてだけど……ウゴける、ね!」
 そして一方で、動けない程ではない――そう判断したイグナートは即座に跳躍。
「オレはね。人さらいと口減らしってヤツが大っ嫌いなんだ」
 言う。奥歯を噛み締め、感情を込めるは足の先。身体を捻って。
「だから、二度とこんなことが出来ないようにちょっと再起フノウになってもらうよ!」
 首を刈り取らんとする程の回し蹴りを――砂の男に叩き込む。
 全霊。一片の加減もなく込めたその一撃、だったが。

「こ――ここでも邪魔をされるとは――と――な――」

 手応えが無い。いや確かに『顔』は弾き飛ばした――のだが。
 砂だ。マントに身を包んでいて分からなかったが、これは『人』ではない。
 人の姿を模しただけの、別のナニカだ。使い魔、分身。そういうモノと言えるだろう。
「ひ、ひぃ! これは一体……い、いや何をしているお前達! 早くこいつらを倒さないか!!」
 隣にいた商人が、連れてきた傭兵達へと声を飛ばす。それは指示として傭兵達の動きを補佐し、一斉にイレギュラーズ達への攻撃と成すのだ。今までは散発的な抵抗だったが、数を集中させ、地形の狭さを利用して反撃の狼煙、と言う事か。
「ん~……若くて瑞々しい方が好みなんだけれど、こういう輩だったら文句言われないしねぇ……」
「今だ抵抗するのならば――多少、痛めつけても良いですね?」
 それでも懸念していた事項は『商人に逃げられる』事であれば、視界に捉えた今はまだ気が楽である。目の前の邪魔者達を排除してしまえば良いのだから。ロザリエルに沙月は邪魔をせし傭兵へ攻撃を重ねて。
「あら、つれないのね? ほら、もっと私と楽しみましょう……!
 緋道流の輝きはそう見れるものじゃないのよ……!」
 自身の後ろを狙おうとする者が居れば、佐那は前へ出て自身へ狙いを集中させようと試みる。残像を生み出す如くの幻惑せし動きが速度を増して。数閃の剣撃が敵の身を削り。
「攻撃は通さねぇぞ。俺の相手をしてもらおうか……!」
 そして通路の狭さを利用して黒羽が最前線にて立ち塞がる。
 倒れぬ彼は必殺の一撃を喰らわぬ限りそこに在り続ける――不沈艦であり。
「無理はしないようにね――傷は癒すから!」
 ラナーダの回復支援も加われば全体的な安定感も増す。
 もはやこうなれば負ける要素は無い。後は何度となく言っているが商人の身柄を抑えるだけであり。
「ひ、ひぃ……! くそまさかこんな事になるなんて……!」
「待て――逃げるつもりか!」
 瞬間。恐怖からか場を離れようとする商人。逃げ口があるか定かではないが、とにかく足が動いたか。故にリゲルは言う。人を苦しめておきながら、見苦しくも逃げる商人に対し。
「ここで逃げても無駄です――貴方達の商売は断たせてもらう! 騎士の誇りにかけて!」
 鋭き眼力が敵を捉える。決して逃すまいとする意志がそこに宿り。
 投じるは火球。顕現せし怒りの炎が敵対者の身を包むのだ。さすれば。
「そうだね、聞きたい事が山ほどあるんだ。絶対に逃がさないよ」
 笑顔と共にアトのナイフが商人の背へ飛ぶ。先の、毒を含んだ同一の攻撃だ。
 熾烈な追撃である。アトは別に正義感から商人襲撃を選択したわけではない故、義憤に燃える熱は特にない。されどこれは依頼であり、であるならば依頼を成すにあたって最大の戦果を抽出する為の気があり――ならば商人は徹底的に追い詰めよう。
 なぁにまた『優しく』聞くだけだ。そう怯えなくてもいいではないか。
「人身売買とか許せないからね! 悪党はこの魔法騎士セララが――お仕置きだよ!」
 そして最後の傭兵をセララの一撃が打ち倒す。とっておきだとばかりに『セラフィム』の形態となった彼女。放たれる十字は天域へと昇華し、悪を空中から叩き落とす。凄まじい衝撃は地を揺らして。
 そうして残るは商人一人。
「ま、ままま待て止めろ! わた、私は悪くない! 悪いのはあの男だ!」
 壁際に追い詰められる商人。完全に逃げ道を潰されたが故か、観念したようで。
「おい、生き残りてーなら大人しく白状しろよ? あの男ってのは、さっきの砂の奴か?」
「そ、そうだ! 幻想種の売買を統括している奴で……ぜ、全部あいつの指示だ!」
「――何者ですか?」
 殺す、という口調なのはただの脅しなのだがサンディが商人へ言葉を紡ぐ。
 そして出てきた言葉は『砂の男』に関する事。
 リゲルは先のが只者でないとは当然感じているが――重要なのは『どこの誰か』と言う事。
「し、知らん……姿を見た事のある奴はいない。色んな所に売買のパイプを持っている奴だ……! わ、私は持ち掛けられただけなのだ! 『売り』に行けと! 幻想種である理由は知らない!」
「ホントかなぁ……嘘じゃないか、この地を漁って確かめてみようか。商売のナイヨウが分かる書類とかぐらいあるだろう?」
「おっ、ボクも手伝うよ。流石に記録の類が一切残ってないとは思えないからね」
 言うはイグナートにセララだ。収奪の技や捜索の力……数多の手を使って手がかりを探ろう。あとは依頼主のディルクなりガブリエルなりが判断し――何か掴めるかもしれない。
「ひぃぃ、止めろ、私は『物』を売ってただけだ! そ、それ以上の事は知らない……!」
「それを判断するのはこっちなんだよね。で、さ」
 アトが笑顔のまま商人の顔を掴む、そして。
 聞く。先程の砂の奴――もっと分かる事はないのか。名前はなんなのかと。
「名前……そ、そうだ! 名前ならこう名乗っているぞ! 本名かは知らんが……」
 商人は言う。一息置いて、しかし確かに。

「――ザントマン」

 言ったのだ。
「『ザントマン』だ! そう、少なくとも本人は――そう名乗っている!!」

●さぁ寝ましょう?
 深緑には御伽噺がある。こんなこんな御伽噺がある。

 ――夜の森は危険だよ。さっさと眠ってしまいなさい。
 そうしないと。
 眠たい砂が降ってきて『ザントマン』に攫われてしまうよ――

 それはそれは御伽噺。子供を眠らせる為の御伽噺。
 親が子に。兄が弟に。姉が妹に告げる御伽噺。
 攫われた先は――どこの誰にも分からない。

 とても寂しい所に、行ってしまうんだよ。

成否

成功

MVP

アト・サイン(p3p001394)
観光客

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
怪しい新たな影。主犯格となっている者は果たして……?
御伽噺の存在は、実在したのでしょうか。

MVPは尋問から探索から様々成した貴方へと。
お見事だったと思います。
ご参加どうもありがとうございました。

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