シナリオ詳細
ハッピーウェディング予行演習
オープニング
●ぶらいだるでもめーるだぴっ
「七月だねえ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)はそうつぶやいた。
「六月終わっちゃったねえ」
そうだね。
「なんかアトリエでも特集してたし、だれか出すだろって思ってたんだけどね」
もしかして。
「ジューンブライドシナリオが出てないんだよ!」
ま た こ の パ タ ー ン か 。
いまさらだ。
いまさらである。
なんで六月にださなかったの! 季節ものは前もって準備しろってお母さんあれほど言ったでしょ!
「やる気さんがログアウトしてたんだよ!」
それを言っちゃあ、おしめえよ。
「いやだって、誰か出すだろ!? 六月だぞ、六月だよ!? なのに誰も出してなくてリプレイ一覧を見てリアルに「なん…だと…」って言っちゃっただろ!」
知らんがな。
「まあいいさ、シナリオは思いついた時が出し時だ。べつに6月じゃなくても俺はウェディングドレスで着飾ったPCさんが見たい!」
い~~~ま~~~さ~~~ら~~~?
●さておき
サファイアのドームのような青空の日に、真っ白なチャペルの下で、ライスシャワーと花びらを浴びながら、愛し合うふたりがそっと身を寄せ合う。
そんな、誰もが憧れる結婚式のワンシーン……。
「の、モデルを探しています」
そう言ったそばかすの女は、結婚特集雑誌ラグジュアリィのカメラマン、ルバティだと名乗った。
ラグジュアリィは人生の晴れ舞台、結婚に焦点を当てたニッチながらもいつしか夢見る二人のバイブルになりあがった雑誌だ。その雑誌のウェディングドレス特集に使う写真を撮りたいのだという。
「最近はブライズメイドの需要も上がっており、今回の特集で推していきたい所存です。ご興味がおありの方は、お誘いあわせのうえ、当日集合場所までお越しください。もちろん二人一組、あるいはお一人での参加も可能です。
なお、ドレスおよびアクセサリーはすべてレンタルできます。ヘアスタイリストならびにメイクアップアーティストもプロをご用意。弊社自慢の服飾コネクションをお楽しみいただければ幸いです。
撮影スポットは海に面したチャペルです。潮風に吹かれ、ウミネコの鳴き声を楽しみながら、空と海のあいまに輝くモデルさんを私の持てる技術を尽くして撮影させていただきます。
基本的にはポーズをとっていただいて撮影という流れになりますが、フラワーシャワーを浴びながら姫だっこ、ブライダルメイドたちと一緒にジャンプ、あるいは友達に祝福されながら指輪の交換、はたまたドレス選びの初々しいショットなど、そのときそのときのモデルさんの自由な発想と最も充実した瞬間を切り取って参りたいと思います。
天気予報と私のカンによれば当日は晴天まちがいなし。あとはいま話題沸騰中のイレギュラーズの皆さんにお越しいただくだけ。
なにとぞ、よろしくお願いします」
ルバティはぺこりと頭をさげた。
「あ、大事なことを言い忘れていました。性別は問いません」
- ハッピーウェディング予行演習完了
- GM名赤白みどり
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年07月24日 21時00分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
仕上がった自分を鏡で見たルアナは(もしかしてわたしかわいい!?)と驚いた。ドレスは真っ白なプリンセス。レースの靴下で包んだ足を宝石みたいなエナメルのハイヒールへそっとさしこんで。
そこへ。
「遅くなった」
黒い人影が現れる。ルアナの付き添い、グレイシアだ。おじさまの男らしさにルアナはわあと歓声を漏らした。一分の隙もなく着こまれたタキシード。まるでオートクチュールのような自然さ。
「その格好……おじさま、ルアナをもらってくれるの!?」
「は?」
「は? って何! は? って! いまのはちょっとひどいよ、わたし傷ついた、傷心!」
「傷心も何も、今、なぜその結論が出たのだ」
グレイシアは眉間を押さえた。『記憶』をもつ彼にとってみればルアナは恋愛対象ではない。それよりも、もっと大事な……。
「結婚はともかく、せっかくの綺麗な衣装だ。それに合った笑顔で撮影してもらわねばな」
「うん、お家に飾ろう! 今日の記念!」
「記念……か。そうだな。帰ってすぐに飾れるよう写真立てでも見繕ってもらうとしよう」
ルアナに手を引かれながらグレイシアは薄く笑った。
(懐かれるのは悪い事ではない筈だが……先を考えると、懐かれすぎるのも考えものだろうか……)
うつむくグレイシアに対して、ルアナは未来を見ていた。
(先に何が起きても写真はずっと残るから。10年後くらいに見て笑えたらいいね)
「結婚特集にゃ~。あたしゃそんな予定もないしな~~~」
「そんなことねっすよ姫様!」
「姫様のウインクひとつで国が傾きますよ!」
「いや傾けてどうすんの」
配下の鮫人にまっとうなツッコミを返し、姫喬はあくびをした。興味もない、熱意もない。ずらりと並んだドレスを見ても、いまいち胸高鳴るものがない。やる気もないのに袖を通すのは職人への冒涜だろう。と、姫喬は自分の行動を正当化した。
「ン?」
視界の端にちらりと見覚えのある人影が写って、姫喬は半眼になった。
(……いっひひ、思いついた!)
ところかわって試着室。
出てきた樹理はカメラマンのルバティへ話しかけた。
「どうかなあ」
「お似合いですよ」
Aラインドレスは樹理によく似合っていた。普段はボーイッシュでカジュアル系を好む彼女だが、小柄でも出るところは出ており、クラシックな装いも似合う。
「ウェディングドレスを着れてうれしいな」
チャペルの祭壇へあがった樹理は相方のモデルと共に笑顔を浮かべてルバティの撮影へ応じていた。
その時。扉が大きな音を立てて開け放たれた。
「その結婚ッ! ちょっと待ったーーー!!」
「姫喬ちゃん!?」
白いタキシードの裾が翻り、一歩踏み出すごとにぱつぱつの胸がたゆんと揺れる。姫喬は祭壇へ突撃し、樹理を抱き上げて逃げ出した。
「いっひひひひ、樹理ちゃんやわかーい!」
「姫喬ちゃん! 私、重いから無理しないでね!」
「……商人さん、結婚するの?」
リリコは珍しく狼狽を顔に浮かべていた。
「さァどうだろうねぇ。”上谷の旦那がそれを望むなら”ありかもしれないねぇ」
「勘弁してよぉ~!」
武器商人の小脇に抱えられていた零は、リリコと武器商人の会話を聞いて悲鳴を上げた。
「……しないの?」
「しないしない! モデル! 結婚ごっこ!」
「……そう」
リリコがいつもの無表情に戻った。安心したのだろう。何故そう感じたのかは本人にもわかってないようだった。
「それにしてもにーちゃん白似合わねえなあ、びっくりするわ」
「なんか他のにしたほうがいいんじゃねえの」
ユリックとザスがプリンセスラインのウェディングドレスを着た武器商人を見上げてため息をついた。
武器商人から解放された零は、お近づきの印にとフランスパンを配った。子供たちはお礼を言ってシスターへ預けると、今度は零を取り囲んだ。
「その白タキシード、足が短く見えるでち」
「うわきっつう!」
チナナの一言がグッサリ。
「こっちはどう? あしがながくみえるんだって」
セレーデが選んできたのは黒のモーニングコート。シルバーのベストと合わせてみれば(お? 俺意外とイケてるじゃん?)。
「準備はいいようだね」
声をかけられて振り向くと、武器商人が銀糸で蓮が刺繍された淡い青のチャイナ風ドレスを着ていた。
「では撮影といこうか、ヒヒヒ……」
「……あの、なんで俺小脇に抱えられてるの?」
「ドレスが、こんなにたくさん……選べませんの!」
広い部屋にずらりと並んだドレスたちを見て、ノリアは歓声をあげた。
「ぶははッ! 予行演習とはいえ、結婚式を挙げられるのはなんだかこそばゆいな!」
「ええ……わたしが大人になる時まで、ゴリョウさんと、一緒に入られる保証はありませんの。だからどうしても来てみたくて」
「またそういうことを言う。俺がおめえさんを守ってやんよ。惚れた女を守るのが男の甲斐性ってな!」
頭をナデナデされたノリアはうれしげに目を細めた。
「あ……これいいですの」
目をつけたのはクリノリン入りのベルラインドレス。
「よし、形はそれでいこう。色はやっぱり純白だな! そうだ、白い波をイメージしたロングトレーンとかあれば、海種の美しさに磨きがかかりそうだな」
「はいっ。さっそく試着してきますね」
うきうきしながら試着室へ向かうノリア。係員に手伝ってもらって着付けを終え、鏡を見ると。
「スカートと尻尾が……クラゲみたいですの!」
思わず試着室を飛び出し、ゴリョウの胸に飛び込んだ。
「クラゲみたい? ぶははッ、そのための俺よ! お姫様抱っこすりゃ、この図体のデカさが先に来て気にもならねぇさ!」
ノリアは改めてゴリョウを見た。濃紺のデニムタキシード、光沢あるフェーシングカラーでシックに決めたゴリョウはオーク界の王子のようだった。
(ゴリョウさん、すてきですの……)
ノリアはぽっと頬を赤らめた。
(幻想も粋なイベントを開催したもんだな。ウェディングドレス……予行演習だけにしとくのも勿体ない気がするな?)
華やかな黒のタキシードを着込んだルナールは、ルーキスの出待ちをしていた。
試着室のドアが開き、ルーキスが姿を表した。マーメイドラインのロングトレーンの漆黒のドレス。彩度低めのメイクに、普段はおろしたままの髪を結い上げ、黒真珠をちりばめて。
「まさかこんなイベントに関わることになるとは。花嫁さんというのもなかなか大変なものだな」
「似合ってるよ。うん、世界一だ。すごく綺麗だ」
「うーん、変じゃない?」
「そんなことない。普段から可愛いんだし、当然といえば当然だが、それでもやっぱりドレス姿は特別だよなー」
興奮気味に褒め倒すルナールにルーキスは苦笑した。
「ほら仕事仕事。顔緩んでるよまったく」
「ああ、そういえばこれも仕事の一環だったな。すっかり忘れてた」
そう苦笑をこぼすルナール。
(だって全部本当のことなんだから、しかたないじゃないか)
胸の内で本音をつぶやいてみる。
撮影スポットへ移動し、ルーキスを抱きしめたポーズでカシャリ。撮影を終えると、ルーキスはルナールへ耳打ちした。
「ちなみに黒のドレスは、相手以外に染まらないって意味があるとか」
「なっ」
赤面するルナール。
「本番はもう少し先ね、それとちょっと苦しいぞお兄さん」
「うむ、まだもう少し先な。だがちょっと今離れるのは無理かなぁ……」
今日のノースポールは一味ちがう。プリンセスラインのドレスに羽のコサージュをつけて。自信満々で試着室を出たノースポールはルチアーノを見て固まった。
(今日のルーク、とびっきり格好いい……!)
黒で染めた全身、一点だけ胸元へ赤い薔薇。
ふたりはチャペルへ入った。祭壇の前に見慣れないものがある。
「これって、ケーキ?」
「うん、そうだよポー。今日のとっておき、ファーストバイトさ!」
「やったー! これ、やってみたかったの!」
ルチアーノが巨大なスプーンでケーキをすくい取り、ノースポールの口元へ。ぱくついたけれど、完食叶わずクリームで顔がベトベト。
「ふふっ、クリームが顔についちゃったね」
ぺろぺろとルチアーノがクリームを舐め取っていく。そして最後に唇へ……。真っ赤になってうつむくノースポール。
(大好きなルークと将来を誓い合う。いつか本当にそんな日が来たらいいな)
なんて夢見ていたら、ルチアーノが真面目な顔をしてリングケースを捧げた。
「ねぇ、いつか本当に……僕と結婚してくれる?」
羽とノースポールの花で飾られたシルバーリング。婚約指輪だ。ぽろりとうれし涙がノースポールの瞳からこぼれ落ちる。
「もちろん、喜んで! 私も大好きだよ、ルーク。これからもずっと一緒だよ!」
「大好きだよ、ポー。これからも、ずっと一緒にいてね!」
(お父さん、お母さん、弟のネルへ。私、とっても幸せだよ……♪)
(もしかして、とっても恥ずかしいことに誘ってしまったんじゃないかしら……!)
数えきれないドレスの連なりを前にして、アーリアはそう思った。隣のミディーセラの顔色をうかがう。了承済みだと言いたげな彼は微笑を浮かべた。
「ええ、ええ、わかっていますとも。いつか、のアーリアさんをたのしみにして。今のふたりもたのしむのです。さあ、ドレスを探しましょう」
「う、うん。そうね」
二人はドレス選びのワンシーンを撮影してもらう手はずになっている。まず向かったのはやはり白のドレス。いつしかアーリアは仕事を忘れて夢中になっていた。
「ねぇみでぃーくん、どれが似合うと思う?」
「難問ですね。アーリアさんはどれも着こなしてしまいそうだから」
うーん、とドレスの谷へ分け入っていくミディーセラ。
「これなんてどうでしょう」
そう言って差し出した一着を受け取り、アーリアは笑顔で試着室へ消えた。しばらくして出てきた彼女は花嫁と呼ぶにふさわしい初々しい輝きを放っていた。ミディーセラが選んだのはマーメイドドレス。アーリアの魅力を存分に発揮できる一枚だった。
「どう?」
「素敵ですよ」
「ふふー」
アーリアがミディーセラを抱き上げた。お姫様抱っこというやつだ。
「こんな写真もありでしょ?」
ミディーセラがアーリアの頬へお返しとばかりにキス。そして二人で笑い合って、カメラマンのほうを向く。
(そばにいるだけで、こんなに幸せなのです)
「え、えっと珠緒さんを誘ったのは、今一番隣にいたいのが珠緒さんだから……へ、変な意味じゃないのよ!? ……たぶん」
「……? 変な意味はよくわかりませんが、共に在りたいと思っていただけることは、ありがたいことです。ところでうぇでぃんぐというのはどういうものなのでしょうか」
「結婚を誓うことよ。花嫁姿って憧れちゃうわ。共にいることを誓い合った人の隣に、一番素敵で幸せな自分になって並ぶの……」
うっとりと話す蛍に、珠緒はゆるゆるとうなずく。
「なるほど、うぇでぃんぐとは幸福の象徴、的なもののようです」
それでは参りましょうか、とふたりは試着室へ消える。再び現れたとき、蛍は白のプリンセスライン。珠緒は赤のエンパイアラインを着込んでいた。
「ど、どう? 珠緒さんの隣にふさわしい清楚なボクになれてる……?」
「『相応しさ』とやらは、そのお心以上に必要とは、思えませんが、ええ、素敵ですとも。桜咲ならずとも、にっこりなのです」
「あ、ありがと。今の「素敵です」が一番うれしい……。その赤いドレスもとっても素敵よ。活き活きとしてる今の珠緒さんそのままで。じゃ、ブーケを持って、チャペルまで行きましょう。……手を、繋いでもいい?」
「はい」
そう言ってなにげなく繋がれた手は。
(こ、これって恋人つなぎよね……!)
写真は、焼き増ししてもらうことにした。また宝物が増えたと喜ぶ珠緒に、蛍は。
(今日の思い出、ずっと忘れない)
「くくく……ウエディングと聞いては、この婚活の聖女クリロ・イース様が参加せぬわけにはいかぬじゃろう!! いつぞやのロレトレで拝命されたDW・ヒストリア(婚活黒歴史)の二つ名だてじゃねーぞ! さあ見よ下民どもよこの高貴で美しいわらわのウエディングドレス姿。その眼に焼き付け、崇めるが良いぞーーーHAHAHA!!!!!!」
半泣きっていうもうヤケ。別に悲しくなんかないやい。ウェディングは女性が主役。男なんて、男なんて、いらない?
心の穴を埋めるがごとく、次から次へと衣装替え。まずは王道、プリンセス、次はふわっとベルライン。
「最高の一枚を撮るのじゃ! そしてわらわに渡すのじゃ! 婚活に使うから!」
モデルをしにきたわけじゃないと宣言すると、孤児院の子供たちはがっかりした顔でリアを見た。
「そんな顔しなくてもいいじゃない! ええい! いいわ! やってやろうじゃない!」
奮然と試着室に入り、スタイリストたちへおまかせコースを頼む。仕上がった自分は、先程までの不機嫌が嘘のように美しかった。
(あたし……こんな姿にもなれるんだ)
胸が高鳴る。
(あたしもいつかこれを着て、誰かと結婚……するのかしら。この想いはきっと夢であって、決して届かないものなのだろうけど、それでも、やっぱり……伯爵、ガブリエル伯爵……いつか、これを着て貴方の隣に立つ事……夢で見るだけなら、許して下さいますよね?)
スレンダーラインを着こなしながら、コロナはポーズを取る。位置を変えポーズを変え、撮影を繰り返しているうちに、コロナはカメラマンのルバティに話しかけた。
「結婚式の雑誌モデルですか。いいですねぇ、どのような謳い文句にします? 途中までは経験済みの私ですが、協力は惜しみませんよ」
「キャッチコピーは記事の顔ですからね。悩むところなんですよ」
「んー、では「投げるブーケは、勇気と幸せのお裾分け」とか?」
「あら。いいですね」
「ほかにも「病める時も健やかなる時も、共にいると誓いを待つ……」なんて乙女チックすぎますかね」
「いやいや、それくらいでいいんですよ」
気がつくと話し込んでいる二人だった。
(着てみたいドレスがたくさんありすぎて……どうしよう、全部着てみましょう)
エルは次々と袖を通す。黒のドレスにはシックに夜会巻きで、水色のドレスにはカールされた髪を下ろして。王道の白にはハーフアップに生花を挿して。どのドレスを着ても鏡に映る自分に胸がドキドキする。
カメラマンのルバティが言う。
「どれもお似合いですよ! ポーズをとっていただけますか、特に白色は清楚さが素晴らしい! 記事の見出しに使わせてください!」
エルにとってはどれも選べない貴重な体験だ。
「写真のコピー、もらえますか。記念に、それと、お墓参りのときにお父さんに見せたいから、一枚ずつください」
「もちろんですとも!」
「あっ、ここがいいかな。外は人の目につくような感じがして落ち着かないので」
そう言ってラナーダが選んだのは窓から天使の梯子がこぼれる屋敷の一室だった。恥ずかしさが先に立ってチャペルでの撮影は気後れしてしまったのだ。
「じゃあ、お願いします」
そう言ってブーケを手に取る
「いい感じですよ! 姿勢をちょっと低く、上目遣いで」
「こ、こうですか? わ、わかった。あ、どうぞ撮ってください」
「はい、すばらしいです! その調子で! 窓を向いて、背中メインで撮ってみましょう、あ、視線はこっちにください!」
「え、まだ撮るんですか」
「もちろんです、次はブーケを胸元に! いいです、すごく綺麗です!」
このあとむちゃくちゃ撮影した。
(はは、まさかデートに誘ったら新郎になってるなんてね。……この展開は僕にも予想できなかったよ。……妹に見つかったら大変なことになっちゃうね)
そうつぶやく死聖。白無垢のタキシードを身に着け、死聖はフルールの出待ちをする。
「お待たせしましたわ、くすくす♪」
ハーモニアの少女が試着室から出てくる。ウェディングドレスとしては珍しいミニ丈。若々しく美しい脚線美を惜しげもなくさらけだして、フルールは笑みを深めた。
「結婚式の予行演習? ふふ、素敵ね。ええ、素敵♪ 仮初の宴でも、めでたいものはめでたいわね。どうぞフルールって呼んでくださいな♪ えーと、おにーさん?」
「ああ、すばらしい、美しいね。その姿を表すには僕の語彙力ではこれが限界だよ。僕のことは死聖とでも呼んでおくれ」
「わかったわ死聖おにーさん♪ え? 撮影? あらあら。デートがそのまま結婚式ね。不思議ね、不思議。世の中何が起こるかわからないもの。これは、夢かもしれないし、夢が現に迷い込んだのかもしれない」
「この光景を夢で終わらせるには惜しすぎるさ。フルールちゃん、とってもよく似合っていて、かわいいよ。本当に数年後が楽しみだよ」
「ええ、ええ、死聖おにーさん、綺麗な新郎さん♪ 今だけは私の旦那様♪ さあ撮りましょう。一時の記念に。思い出の一欠けらを……くすくす」
「ああ、おいで僕の腕の中へ」
ふわりとフルールは死聖の腕へ飛び込んだ。
「いやあ、悪いね。いきなり声かけちゃって。不審者じゃないんだ、あー、まあロストレインの嫡男だからお尋ね者ではあるけどさ。僕だってたまには癒しくらい欲しくて」
なんて言いわけをしつつ手を差し伸べるカイトに、リースリットは躊躇した。
(興味がなかったわけではないので、募集をなんとなく見てはいたのですけど……まさかこういう流れになるなんて。カイト・C・ロストレイン……あのアマリリスさんの、おそらく兄上……。アマリリスさんのお父様を討ち取ったのはそのご子息の兄弟という噂は聞きました……。年齢はあうし、たぶん、あっているはず)
胸に沸き起こる黒雲を制し、リースリットは考える。
(癒し……か。そうですね。陛下より下された命は重きもの……)
リースリットがカイトの誘いを受けてしまったのは、裏情報を知っているからか、勢いに負けたからか、それとも……。
ふと、リースリットは口元に笑みを乗せる。
(まあ、理由はもういまさら)
リースリットはカイトの手をとる。ふたりはしずしずとバージンロードを進む。
「理由をつけるとしたら、そう。いろいろ体験してみたかったんだ。すまないね、僕のお嫁さん」
カイトが小声でリースリットへ話しかける。
「いいのです。貴方の好きなようになさいませ。今日この日だけは喜びと祝福に満ち溢れた日にいたしましょう」
ああ、楽しんでみよう、とカイトは答えた。それは、すこしだけ、涙声だった。
「やあチナナちゃん、久しぶり!」
「真にいしゃん、ひさしぶりでち!」
さっそく着替えた二人。真はシルバーのタキシード、チナナはふわふわのシフォンのワンピース。
まずは真面目ぶってカシャリ。それから花丸笑顔でパシャリ。天才役者の前にはカメラもひれ伏すイケメンぶり。
ルバティのカメラフォルダを潤した頃、真はチナナを抱き上げ、おでこにキスをした。
「あなたのこの先の人生に幸多かれ。写真はいいものだよ、チナナちゃん。いつでも見返せるからね。しばらく会えるかわからないけれど、またね」
そう微笑む真を見たチナナは荷物置き場へ走っていき、戻ってくるとプレゼントを真へ握らせた。
「いつでも帰ってくるといいでち」
予行演習ではなく、本当の式をあげに来たリゲルとポテト。この日のために山賊のグドルフへ神父役をお願いして。
リゲルは真っ白なタキシードにシルクのチーフ。ポテトはAラインのドレスに青薔薇と白薔薇の混じるブーケを持ち、ひきずるようなベールをつけている。そのベールが地につかないように、おそろいのワンピースを着たブライズメイドの孤児院の女の子たちがベールの端をもっている。祭壇では男の子達がこれまたおそろいのシャツと半ズボン姿でグドルフの脇に並んで立っていた。
グドルフがカソックの襟をなおす。今日はこざっぱりと髪をなでつけ、ひげを整えている。
(ちっ……むず痒いぜ。まさか今更、こんなモンを着る羽目になるとはねェ)
そして彼はロザリオを手にとった。
リゲルとポテトが歩いてきた。若き二人が真摯な瞳でグドルフを見つめる。グドルフは顔をしかめてみせた。
「噛んで台無しになっても文句言うなよ。本職だったのはウン十年前だしな」
「ああ。他の誰でもない。グドルフさんだから立会人をお願いしたんだ」
リゲルの言葉にグドルフは咳払いをひとつ。別人のように柔らかく温かな声がグドルフの喉から出る。
「汝、病める時も、健やかなる時も、この者を愛し、支え、共に歩む事を誓いますか?」
返事はひとつ。
「ポテトを生涯守り、愛することを誓います」
「リゲルを生涯支え、愛することを誓います」
「では、誓いのキスを――」
リゲルがポテトのベールをそっとめくりあげる。一途な瞳が現れ、リゲルを映す。一目惚れは何度でもできるんだと、リゲルは思った。優しく、そして神聖なキス。
唇が離れ、リゲルは一瞬狼狽えた。ポテトが泣いている。それは不思議な涙だった。ポテトは笑顔で、なのに涙が溢れ出ている。
「涙は、うれしくとも出るんだな。世界中へ向けて、ありがとうと言って回りたいよ」
「ポテト……共に歩んでいこう。子供たちが憧れるような幸せな夫婦になろう」
「信仰、希望、愛。それは、死んでも残るもの。汝らよ。絶えず信じ、最後まで希望を、愛を捨てるなかれ──確かに見届けたぜ。誰もが羨む、最高の夫婦になれよ」
そうグドルフが締めくくった。
===
誰もいないチャペルに、一人の男が入ってきた。男は瞑目し、クソッタレな神へ祈りを捧げた。
「……なぁ、直ぐにでも会いに行きたい思いはあるが、きっとお前はそれを望んじゃいないだろう。だから、決めたんだ。この命が持つ限り、お前と伴に生きたこの世界を護ろうって。見守っていてくれよ。きっと、成し遂げてみせるから」
そうしているうちに、彼は気づいた。自分の隣に、誰かの気配があることに。急に男を恐怖が襲った。死すら厭わない男が、ただ目を開ける、それだけのことが恐ろしい。隣にいるその気配が消えてしまう気がして。炎が男の口からほとばしった。
「俺はおまえを今迄も、これからも愛してる。此処に永遠の愛を誓おう、アマリリス!」
男、シュバルツは顔を上げた。隣には誰もいない。わかっていた。けれど、確かに『彼女』は此処に居た。「私は幸せだよ、ありがとう」そんな笑顔と共に。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
はああ~~~たまりませんねええ~~~百花繚乱ウェディングドレス&タキシーーーーード! ご参加ありがとうございましたー!!!!
もっとがつがつ書き込みたかったのですが、心情を優先させてもらいました。やはり仮初にも神前へ出るにはお互いの気持ちが大切と思うからです。
さて!
MVPはドラマ性を感じさせたエルさんへ。
称号「ハッピーウェディング」をリゲルさん、ポテトさんへ、「ハッピープロポーズ」をルークさんとポーさんへ、「永久の愛を君に」をシュバルツさんへ、「いいことあるさあ」をクリロさんへ、「花嫁泥棒」を姫喬さんへ、「君以外には染まらない」をルーキスさんへ、「必殺の上目遣い」をラナーダさんへ、「孤児院顔パス」を零さんへ。
アイテム「チナナのお守り」を真さんへ。
お送りしております。よろしくご査収ください。
GMコメント
みどりです。アマリリスちゃん……あんなことになるなんて。
ひとりぼっちの結婚式も、ありだよね。
さてさて、プレイングの一行目には、ご一緒したい皆さんとの共通タグ、またはフルネームとIDを入れてください。
ない方はソロとして扱います。
今回は、ソロの方はソロとして描写します。まぜくりません。
集合場所はレンタルドレスの並ぶお屋敷です。
軽食も用意してあり、雑談にはちょうどよい雰囲気です。
下記NPCは自由に呼び出せます。
12才男ベネラー おどおど
10才男ユリック いばりんぼう
8才男ザス おちょうしもの
8才女ミョール 負けず嫌い
10才女『無口な雄弁』リリコ( p3n000096)
5才女セレーデ さびしがりや
5才男ロロフォイ あまえんぼう
3才女チナナ ふてぶてしい
院長イザベラ くいしんぼう
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