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シナリオ詳細

<冥刻のエクリプス>天を嗤い地を憎む者
<冥刻のエクリプス>天を嗤い地を憎む者

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 フォン・ルーベルグから東へ少し行った小さな集落。
 狂乱と背徳に堕ちた村の中央、二つの影が二人の世界に浸っていた。
 そこへ、一体のアンデッドが近づいていき――片方が手を掲げた瞬間に消滅させられる。
 そんなアンデッドの唯一残った腕から、ポロリと落ちた物をちらりと見て、アンデッドを消滅させた方の影が舌打ちする。
「ふん、あんなみみっちぃもんがどうなろうが別にいいと思うがねぇ」
 濡羽色の髪から覗く青玉の如き双眸を気だるげに細めた青年風の魔種ーールイは鼻で笑った。
 すぐ隣にいる少女ーーレアはそんな兄にしなだれかかり、己が手を彼の手に添える。
「でも仕方がいないわ、兄さま。あの方達に言われたことはやらなくては」
「はん、わかってら。
 殺されちゃレアと愛し合うこともできやしねえ。
 ま、ようは前に戦ったあいつらみてえなのをぶっつぶしゃあいんだろ?」
「ええ。それに折角ですから、お人形さんがいくつか欲しいわ」
「あぁ?まぁ、レアが欲しいならいくつか貰っとくか。
 まぁ、あの人らが着くまではやってやんよ。
 俺達はあいつらと違う。交わしちまった約束は守ってやるさ」
 言動は気怠げに、しかしその仕草は傲慢に。
 遥かなる白亜の都を見据えるように、兄妹は動き出す。
 その後ろ、蠢く死者がぞろぞろと動き出した。


「天義の事は知ってるね?」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)が君達に問いかける。
 今の天義といえば、大混乱のど真ん中だ。
 誰が言ったか月光人形と名付けられたソレとこれがアンテナとなって巻き起こした大規模な騒乱『クレール・ドゥ・リュヌ』。
 平時であれば信仰の下、規律と正義に満ちる無謬の国は、『大切な誰かの姿』をした何かの訪れに乱れ、クリミナル・オファーによる弱体化の影響を受けざるを得なかった。
 イレギュラーズの活躍により、最悪の事態からは何とか脱することが出来た天義だがしかし。
 平穏と規律が乱れたこの瞬間を境にするように『不正義なき国』の内側にあった悍ましい腐敗が噴出した。
 ――イレギュラーズの活躍でその真の姿を看破された枢機卿アストリア。
 ――近世天義最大規模の汚点と呼ばれていた『コンフィズリーの不正義』の真実を勘づかれ国外逃亡を図った王宮執政官エルベルト・アブレウ。
 二つの勢力は連携し、政変を目論み動き出す。
 それだけでも白亜の都を血で塗り替えかねない内乱だというのに――いや、あるいはそれを狙っていたからこそ。
 月光劇場が仕掛け人――大いなる魔種ベアトリーチェが、無数の死者や雑霊を従えて動き出し、呼応するように聖都の内側に潜み、あるいはそこかしこに散っていた野良の魔種達もフォン・ルーベルグ目掛けて攻めあがり始めた。
 外からは魔種とエルベルト、内側にはアストリア――内憂外患の内乱状態。
 王宮体制派にとっていい知らせと言えるのは、アストリアが麾下の精鋭私兵『天義聖銃士(セイクリッド・マスケティア)』が、イレギュラーズの尋常ならざる大活躍で事実上の半壊状態と化し拠点である『サン・サヴァラン大聖堂』への籠城を余儀なくされたことであろうか。
「なにより俺達ローレットにとっても天義という東方の大国が魔種の手に落ちて『滅びのアーク』が激増するなんて事態はどうしても避けないといけない」
 そういうショウのフードの下から双眸がちらりと君達を見る。
「君達に向かって欲しいのは大魔種ベアトリーチェが率いる本隊とは別の動きを見せる、魔種による別動隊への対処だよ」
 そう言って彼が君達に差し出したのは少ない資料だ。
 その資料にある二人組の魔種の姿に、見覚えのある者もいれば、聞き覚えのある者もいるかもしれない。
「ルイ&レア、以前、君達の仲間と交戦した魔種の兄妹だね。
 この兄妹が今、フォン・ルーベルグを目指して攻めてきてるんだ。
 10体ほどのアンデッドもいるみたいだね」
 最初にあった時は、敵の機嫌がいいこともあってか、交戦後にそのまま帰っていった。
「天義騎士の友軍と一緒に、この敵を倒してほしいんだ」
 ――だが、恐らくは今回はそうはならないだろう。そんな予感が、何となく脳裏によぎった。

GMコメント

さて、そんなわけで全体依頼みたいです。

以前に参加していただけた方はリベンジになるでしょうか。

魔種戦です。

●成功条件
魔種ルイもしくは魔種レアの討伐、或いはこの二体の撤退。

●失敗条件
イレギュラーズ及び友軍天義騎士らの壊滅。

●戦場
フォン・ルーベルグ近郊高原部。
見通しは広く、粛々と迫る敵の軍勢との野戦になります。

●味方戦力
<天義騎士>
20人。アンデッド相手であれば十分に対応できます。
士気は高く、皆様を救国の英雄、当代の勇者だと絶大な信頼を寄せてくれています。

●敵方戦力
<魔種ルイ>
兄の方。『傲慢』
傲慢さゆえに慢心してるところが見受けられます。
HP、神攻、防技、抵抗がずば抜けて高く、命中、CTが高め、反応、機動は並、回避、EXA、EXFが低め。
陽撃(A):神至単 威力大 【飛】【ブレイク】
陽球(A):神超域 威力特大 【万能】
陽砲(A):神超貫 威力特大 【万能】
陽爆(A):神近扇 威力特大 【飛】
狂気伝播(P)
【飛】と【ブレイク】以外の特殊性はないですが、その分、素の神攻がかなり強力です。

<魔種・レア>
妹の方。『強欲』
高いHP、命中がずば抜けて高く、EXA、回避が高め、反応、機動、防技、CTは並、神攻、抵抗、EXFは低め。
円獄(A):神自域 威力小 【魅了】【狂気】
獄陣(A):神中単 威力中 【混乱】【恍惚】
嵐獄(A):神中扇 威力中 【飛】【混乱】
双獄(A):神至単 威力特大 【恍惚】【狂気】【連】
狂気伝播(P)

<アンデッド>
10体。強くも弱くもなくぐらい。味方天義騎士で対応可能な実力です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はB-です。
 情報に嘘はございませんが、狂気伝播や本気となった際の敵の実力など、不明点がございます。

  • <冥刻のエクリプス>天を嗤い地を憎む者Lv:8以上完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年07月11日 21時51分
  • 参加人数 10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
朝を呼ぶ剱
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
大いなる者
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
舞蝶刃
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
Righteous Blade
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
さいわいの魔法
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)
信仰者

リプレイ


 私は、何もいらなかったの。
 ええ、本当に何も。
 ただ――そう。ただ、お兄様さえいてくれるのなら、私は何もいらなかった。

 だというのに――それさえも否定した。
 許せましょうか。いいえ、許せない。

 神が定めた倫理が許さない。不道徳である。常識から外れている。

 そんな風に私からお兄様を奪うなら。

 もういっそ、全部全部自分の手におさめてしまいましょう。

 天の理が私達を見放すのなら。地の理が私達を貶めるのなら。

 天も地も、所詮は彼らの自己満に過ぎぬのです。

 ――――であれば、私が自己満に生きて何が悪いというのです。

 ゆえに――――私はただ、その全てを求めましょう。


 風の音が高原を走り抜ける。
 微かに鳴る金属音は、自分達の後ろに控える天義騎士達が僅かに動く音だろうか。
 眼前に見えようとするのは、酷く緩やかに進む大敵の姿。
「妾達は強い!妾達イレギュラーズが必ずお主らを導き勝利を約束するのじゃ
 お主達の背には神と妾達がついておる。
 故に各々十全に力を発揮し、邪悪なアンデットどもを食い止めるのじゃ」
 アンデッドを従え、天義が都、フォン・ルーベルグへ突き進む魔種の軍勢が一つ。
 その敵影の姿を見とめ、『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)は翻り、そう後ろにいる天義騎士達へと演説する。
「おぉぉぉ!!」
 応じるように鬨の声を上げる天義騎士達に対して、デイジーは詳細な作戦を伝えていく。
(兄妹で愛し合う、か。妹と俺もああなってた可能性を考えると……
 いや、無いな。俺が今、愛するのは唯一人だ)
 今から自分達が相対する相手――魔種ルイとレアは血のつながった実の兄妹であったという。
 かつては同じように妹がいたことのある『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394) は、僅かに思案し、直ぐに否定する。
 決して同じにはならない。復讐に生きた吸血鬼は、だからこそ思う。片方が死んだ時に、魔種らがどうなるのかを。
「兄妹で魔種。来歴は……公徳に反する不道徳……故に不正義。
 成程、まあ、よくある話です。 反転という道があるこの世界では、
 よくある事でもこうなり得るという解りやすい事例ですね」
 聞いていた話を振り返りながら『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は少しばかり深く掘り下げる。 
(喪った、或いは得られなかったが故の反転は幾例か見てきたけれど
 この二人のように、恐らく求めあう事で相互補完し続ける型は
 初めて見たような気がしますね)
 黒い聖衣を纏った貴人は、静かにその目を敵陣に送り、思うのだった。
(愛し合う兄と妹か……
 それだけなら、きっと戦う必要なんてなかったんだろうけれど……)
 聞いていた話に思いを馳せていた『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は、ぎゅっと手を握って。
「誰かを傷つけようというのなら、放っておくわけにはいかないよ!」
 静かにそう宣言した。
「魔の者との戦いもここが正念場です。力なき民を護るためにも、
 皆様の力をお貸しください!」
 『信仰者』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)は後ろに控えている天義騎士へ改めてそう告げると、敵の方へと走り出した。
(この国にそんなに思い入れはない…つもりだったけど。
 こうも魔種達に好き勝手にされるとさすがに怒りも湧いてくるわね。
 王都にはお爺様がいて、私の家族も眠っている。我儘兄妹の好きにはさせないわ)
 敵の様子を見ていた『黒陽炎』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701) は少しだけの緊張を紛らわせるように深呼吸して、そっと剣に手を置いた。
「我らが祖国と正義を魔種に踏みにじられるなど許されない。共に戦い、誇りを勝ち取りましょう」
 静かに抜いた輝煌の水晶剣を天義騎士達へと見せるようにして掲げ、そう声を発した。
 刀身に輝く金色の光が、陽光に交わって煌めいた。
 それに応じるように、騎士達が再び鬨の声を上げる。

「おや、お初にお目にかかる方も多くおられるようですね」
 接敵したところで、一人の女――魔種レアが穏やかすぎる声でそう言った。
「兄妹の絆を知る者として、今度こそ、倒します」
 『朝を呼ぶ剱』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は構えを取る。
「まぁ、騎士様? ご挨拶してくださらないのですね」
 まるで気にしてなさそうなことを、さもそうであろうかの如く呟いたレアに、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が眼鏡を直しながら少しばかり間合いを調整して声をかける。
「全くもって残念です。陳腐な筋書きですが……お二人の兄妹愛は、
 悲恋にて閉幕にございます」
 魔種がシフォリィに向けていた視線を、寛治に改める。
「悲恋とは……切ないですね。それもまた、面白そうですけれど」
「ええ、ですが脇役くらいは務めさせていただきますよ。
 何せ私の特技は、嫌がらせですから」
 煽りあいの中で、イレギュラーズ達の攻勢が始まろうとしていた。

「あぁ? ちっ、面倒くせえなぁおい」
 舌打ち一つ。それに答えるように『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)はルイへ声をかける。
「久しぶりね、また会えて嬉しいわ。
 前回は随分とボロボロにされたからね」
「…………あぁ、そういえば以前にもあったかぁ?
 っつーか、よくみりゃあそんなのがいくつかあんな」
 けだるげな様子のまま、魔種は周囲を見渡して、欠伸を残す。
「キッチリ、お礼を受け取ってもらうわよ?」
「はっ、てめぇが言った通り、ボコボコにされたやつがよく言うなぁ、おい」
 そんな二人の横を、風が走り抜けた。
 風―― 『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)は思わず目を引くほどに大きな緋色の翼をはためかせると、ルイの視界に入るように動く。
「へへん、鬼さんこちら、だ!」
「そうかい――じゃあ、そうしようか」
 直後――爆ぜるような光輝と共に、ルイの姿が眼前に現れた。
 それをギリギリのところで躱すも、僅かな痛みが横腹を焼いた。


 カイトはルイの注意を引くと、そのまま一気に味方から離れるように飛び続けた。
「おう、もう鬼ごっこは終わりかぁ? 死ぬ準備できたかよ」
「へっ、こっからだぜ!」
「はん。たかが3匹でなにができるってんだ?」
 カイトは大きく羽を広げ――空へと大きく旋回するようにして走り抜け、その大きな速力を糧に緋色の彗星となって、ルイに目掛けて突っ込んだ。
 強かに打ち据え、そのまま再び間合いを取る。
「――貴方を相手にするには私達で十分よ」
「ふん、前回の二の舞にならねえよう、せいぜい粘って見せろよ」
 お望みどおりに――。ルイに応じるように、アルテミアは二本の愛刀へ蒼き炎を纏わせる。
 そのまま一気に至近し、青き炎の下、青白い妖気をうっすらと纏う刀を振り下ろす。
 文字通り、己の身を焦がしながら繰り出す剣舞はそれだけにとどまらず、もう一本を横に薙ぐ。
 一度、二度、三度。数え切れぬ数の剣閃を閃かせる。
 猛烈な一撃は、その防御技術さえ無視して、敵の胴に無数の切り傷と火傷を刻んでいく。
「前回も結構受けた覚えがあるなぁ、その攻撃よぉ」
 そういうルイの視線はアルテミアを見据えている。
 自らの生命力の高さからか受けた傷をものともせず、ルイはその腕に光を収束させながら、アルテミアを殴りつける。
 急所に当たらぬよう、なんとか防ぐが、直後に爆ぜた衝撃に、思わず後ろへ吹っ飛ばされた。
 以前の戦いでも受けたことがある攻撃。だからこそ、対処の仕様はある。
 この魔種のレンジが多様なことは分かっている。
 そして、その多くの技のどれもが尋常じゃない火力であることも。
 以前の失敗は、繰り返すつもりもない。
 アルテミアの動きを見ながら、アレクシアは自らの両腕に嵌めた二つの魔道具を起動させていた。
 効率化と、安定性。それぞれ別の機能を有す魔道具を合わせ、安定した魔力制御によって形成する調和の力。
 それを変質させた癒しの力が、白黄の華となってアルテミアの傷を癒していく。
「――へぇ、考えるだけの脳はあるみてえだな」
 魔種の視線がアレクシアを射抜く。
 その視界を遮るように、カイトは疾走する。
 緋色の大翼を大きく羽ばたかせ、滑るように低空を駆け抜け、翻弄するように緋の軌跡を残す。
 二度目となる緋色の彗星が、死角となった方向からルイへと突撃し――肩、後ろから衝撃を受けたルイがバランスを崩して前のめりに体勢を崩す。
 逃げ回るように立ち振る舞う鷹人の動きに翻弄されるルイをアルテミアは見逃さなかった。
 跳ねるように立ち上がり、青炎を再び纏い、魔種へと至近する。
 燃え盛る青き炎が、チリチリと身を焼く。二本の刀を並行するように持ち、身体を捻るようにして薙ぎ払う。
 2つの軌跡が、さながら爪のごとく、魔種の肉体に斬傷を刻む。
 ルイの目が、大きく見開かれた。
「――ッツ」
 魔種が苛立ちを見せているのが、自分の目にもわかる。
 ルイが手に宿る光が収束しーー刹那、音を置き去りにカイトめがけて走り抜けた。
 極太の光線を、直撃こそ何とか避ける。そのおかげで、何とか耐えられた。
 もしもど真ん中で食らえば、保って2度か。
 けれど、この当たりなら、まだ耐えられる。
 ーーとはいえ、それを放置する理由もない。
 アレクシアがもたらす調和の輝きは、カイトの傷をすぐさま癒していく。
「今回は私達が勝たせてもらうわ」
 再戦に静かなる熱意を燃やす騎士に、疾走し翻弄せんと行く鷹人。
 嫋やかに、決して倒れることなくあらんとする少女。
 しかして、今はまだ、仕留めるつもりはなく。そう、今はただーー戦友達の勝利を邪魔させないーーそれだけのために。


「甘やかすだけの兄がいないと何もできない小娘。
 貴女に負ける程、私達の正義は柔じゃないわ」
 アンナは挑発とばかしにレアを笑う。
「ふふふ、やわではない正義とやら――欲しいかもしれませんね」
 レアの視線が、アンナの小柄な肉体を見下ろした。
 至近してきたレアに、アンナは剣を構える。
 地面に浮かび上がった黒色の陣より、円柱状に放たれた黒炎を、天賦の才覚でさらりと躱す。
 そのまま、アンナは流れるようにレアへと走り込み、軽やかな手捌きと、舞うが如き足運びでレアを翻弄し、無数の太刀筋でレアに傷を刻む。
 寛治はレアへと長傘を向ける。その直後、シャフトに仕込まれた銃から弾丸がレアへと向かっていく。
 静かに、速く、まばらな銃声を超える量の弾丸が、躱そうと動いたレアの脚部に着弾する。
「きゃあ!? うふふ、素敵な技ですね!」
 回避困難な超精密なる戦闘技量に、魔種の目が見開かれていた。
 しかし、その同様は一瞬のうちに張り付いたような微笑の後ろへ消えていく。
 デイジーはパラパラと家の図書館の秘蔵書を写し取った写本をめくり、魔力を込める。
 その直後、レアの背後に、小さな蒼き月がぼう、と光を伴い照らし出された。
 月は妖しくも静かな光をレアへと照射した。
 背後より放たれた月光に驚き、レアが振り返る。
 光を見つめたレアの身体が、海底の氷に触れたが如く、その肢体を凍て付かせ、その身を痛烈に焼き、霧散した。
 アリシスはブラックサン・レプリカに魔力を通す。
 偽典聖杯が試作品が起動し、黒き太陽が異界より存在するとも知れぬ『神』が齎す呪いをレアへ向けて押し付けんとけしかける。
 しかし、レアはそれを陣より呼び出した黒炎で相殺しーー涼しげに笑う。
「――もう、どうして皆さま、そのように遠くからなのです? 寂しいですわ」
 万に一つも寂寥など感じてなさそうな声。
そのままの姿勢で静かに掌を天に向け、ひょいっと動かした。その瞬間、漆黒の炎が、壁のように燃え上り、扇状にイレギュラーズへと走り抜ける。
 それを真っ向から受けきったシフォリィは、自らの持つ高い抵抗力を以ってレアが放つ精神汚染を潜り抜け、お返しとばかりに裏拳を叩き込んだ。
 それをレアは自らぐにゃりと体を折って躱し、貼り付けたような微笑でイレギュラーズを見渡した。
「憤怒、そして復讐の焔こそ我が刃。復讐の果てに燃え尽きるのが我が生なり」
 レイチェルは自らの半身を覆う魔術式に魔力を込めた。
 右手を空へ掲げ、刹那ーー緋色の輝きが術式の起動を証明し、緋色の魔力が陣を描く。
 陣から溢れた緋色の魔力が、紅蓮の焔を産み出した。
 渦巻く奔流を鞭のようにしならせ、レア目掛けて振り下ろす。
 その奔流はレアが黒い陣より放った黒炎と交わりーー微かな拮抗の後、レアへと落ちていく。
 黒と緋が互い違いに渦を巻き、威力を殺された焔は、僅かにレアへ届かない。
 コーデリアはそんなレイチェルとレアのせめぎあいを静かに見つめていた。
 紅蓮の焔と黒炎が互いを相殺した瞬間、どうしようもなく出来た隙。
 二丁の銃より放たれた無数の弾丸。
 極集中より放たれる弾丸にも追いつかんばかりの高速移動で、走り抜け、懐へ潜り込む。
 弾がレアの身体に吸い込まれた直後、追い打ちとばかりにグリップで弾の命中した場所を殴りつける。
「ぁあ! 心地よい!」
 コーデリアを見下ろす魔種の目が、爛々と輝いていた。
「その銃、素敵ですね?」
 たおやかに微笑むレアの両腕が、黒炎へと変質している。コーデリアはそれから離れるようにして戦場を宙返りで後退した。
「やれやれ、もったいない……」
 アンナはコーデリアの武器に執心するレアへと割り込むと、再び剣を閃かせた。
金色に輝く水晶剣より繰り出される無数の突きが、レアの身体を貫いた。
「まずは、その剣から、いただきましょうか。大丈夫、あなたごといただきますよ」
 そのまま視線を向けてくるレアの両腕が、アンナへと振り下ろされる。
 尋常じゃない速度で振り抜かれた右腕に身体を焼かれ、直後に放たれた左腕が腹部へと突き刺さる。激烈な連撃を耐え抜き、なんとか剣を構えた。
 もう一度、その腕が動くよりも前に、シフォリィは真っ直ぐに剣を走らせた。
 愚直なまでに真っ直ぐに、己が誇りのままに振るわれた剣が、レアの黒炎化した腕を穿つ。
 その洗練された美しき一撃に、レアの意識が集中する。
 レイチェルはその様子を見て、再び魔力を練り上げる。
 励起した魔術式が美しき緋色を半身に照らし、陣より現れた紅蓮の焔が、撃ち出された弾丸のごとくレアへと炸裂する。
 レアが黒炎を生み出して対処するには、やや遅い。
 到達した復讐の焔が、レアの肉体へ毒と業炎を刻み――致命的な傷を作る。
 デイジーは禁書の写本が一頁を紐解いた。
 レアを取り囲むようにして形成された黒いキューブが瞬く間の魔種を虜とする。
 内部で何が起こっているのかは分からない。しかし、箱から放り出されたレアの身体は、各所でひきつり、血を流していた。
 続けて放たれた寛治の銃撃が、再びレアへと炸裂する。
 それ単体では魔種に痛撃とならざる一撃は、寛治がいうに等しく、まさに嫌がらせ的な降下を以ってレアを縛り上げる。
 連続する猛攻がかさみ、レアの身体がふらついたのを、コーデリアは見逃さなかった。
 静かに、接近すると共に銃をぶっ放す。
 連華の名にふさわしき怒涛の連続射撃が、レアを左右から挟むようにぶちまけられる。体勢を崩したレアへコーデリアは身を翻し再度の一撃を、脳天目掛けて放つ。微かな揺れで、狙いが外れ、レアの左目に弾丸が消えていく。
 アリシスはそれを見届けると、再び偽典聖杯の試作品を起動し、神の呪いをレアへと放つ。
 どこからともなく現れた黒衣の天使が、レアの身体を包み、縛り上げる。
 それは物理的のみならず、レアの肉体に刻まれた複数の後遺症を蓄積させ、締めあげていく。
「私のモノになってくださる方は――いらっしゃらないのですね」
 連続する猛攻に、レアが切なげに言った。
「せめて、一人ぐらい。一緒に来てくださってもよろしいのに」
 すねるように言って――直後に黒炎がコーデリアの足元から上がった。
 間髪入れず、今度は中空に陣が浮かび、炎が落ちる。
 ちょうど、上下から挟むような連撃。
 しかし、そんなレアの動きは、最初の頃に比べて遥かに落ちている。
 アンナは、動きの鈍ったレアへと、再び剣舞を見舞う。
 卓越した剣技のセンスにより放たれた無数の太刀が、複数の状態異常により鈍ったレアの肉体を激しく痛めつけていく。
 寛治が放つ弾丸は、ただでさえ確か精密性を、更に高めたモノと化して、レアの肉体――特に関節あたりへと吸い込まれるように飛ぶ。
 激痛を伴うその一撃に、大きく出来た隙。
 シフォリィはその大いなる機会を逃さない。
 深呼吸と共に、全身を戦乙女の加護が包み込む。その状態で、白く輝く剣を真っすぐにレアへと突き立てた。
 目を見開くレアの肩に、大きな傷がぱっくりと口を開いた。
 デイジーは大壺蛸天を掲げた。クラーク家の秘宝、絶望の青の彼方、あるいは異界より飛来したなどとも囁かれし有り難い壺が、青白く輝いた。
 壺の中から零れだす蒼い輝きが呪縛の重なるレアの肉体を、内側から大きく痛めつけていく。
 レイチェルは純白の大弓を構えた。
 朽ち果てることなき月下美人咲き誇る弓――三日月の如きしなやかさを秘めたソレを、大きく引き絞る。
 魔術式が起き、つがえた魔力に呪性が帯びる。
 静かに放たれた一本の矢は、焔を纏ってレアへと殺到する。
 レアが形成した陣を貫通し――なお止まることなく走り抜け、物理的な痛みに加え彼女を蝕む多数の呪いを持って、追撃を叩き込んでいく。
 アリシスはブラックサン・レプリカを天に向けて掲げる。
 偽典聖杯が試作品は、アリシスの意志を力へと変換し、穂先へと収束させていく。
 黒き聖杯が輝きが、漆黒の光となってレアへと真っすぐに飛んだ。
 光を浴びたレアが、ふらふらと身体を震わせる。
 コーデリアは静かに間合いを取る。
 一気に走り抜け、至近すると、二丁の銃両方をレアの身体へと文字通り突き付け、一気に引き金を引いた。
 そのままの第二撃、レアの身体を蹴って後ろに飛びながら、そのまま勢いに任せて再び引き金を引く。
 苛烈な連続射撃に、レアが体勢を大きく崩した。
 

 戦いは続いていた。
 呪いによる魔種の呪縛は重なっていた。
 比較的早期にレアの動きを大きく制限できたことは、かなり大きいと言える。
「あぁぁあああ!!!!」
 レアの絶叫が戦場を劈いた。
 燃え盛る黒き炎で出来た腕はもはや炭化しつつある。
 その両腕が振り下ろされるのを見ながら、シフォリィはそれをくぐるようにして躱すと、強烈な裏拳を叩き込む。
 アンナは戦場の後方へと後退していた。
 水晶剣の輝きは未だ潰えない。敵の動きが大きく開いたその一瞬、アンナが放った突きは不可視の刺突となって飛翔し、さながら強弓により放たれた矢のごとく戦場を突っ切って、レアの肩を貫いた。
 元々あった致命的な傷口が、更に開き、レアが声にならない悲鳴を上げる。
 その悲鳴は、どことなく楽しそうにも聞こえた。
「さて、残念ですが、愛する兄は助けに来ません。それが現実です」
 ボロボロのレアを見れば、その命が風前の灯であることは明白。
 寛治は戦いの前に自らが宣言したことを振り返りながら、傘をレアへ向け、引き金を引いた。
 元より狙いの狂わぬ弾丸は、鈍った動きしか見せぬ魔種には到底躱せよう筈がない。
 レアが防ごうとかざした手を、弾丸がぶち抜いていく。
 デイジーは幾度目か分からぬ青い輝きを壺から放ち、レアの肉体へと照射する。
 青い光は呪術式となってどうしようもないほどに重なったレアの状態異常を痛みに変えて内側から破壊していく。
 アリシスは再び偽典聖杯を起動した。
 静かに呪を紡ぎ、第八が奇蹟。堕天使の力を行使する黒の聖典が業の一端を再現する。
 幻燐を残して光の蝶がレアの肉体から出現し、はらはらとその身から羽ばたき、どこかへと消えた。
 大いなる力には遠く及ばない。けれども、それだけで十分な『魂の欠片』をすいだす禁断の力が、例外なく魔種を蝕んだ。
 レイチェルは魔力を練り上げていく。右半身に刻んだ魔術式を用いてくみ上げた陣に、後付けするように呪術式を組み込み、矢を構えた。
 真っすぐに敵を見据え、静かに時を待つ。
 ほんの一瞬の時、致命傷になりうる位置を狙いすまして、引きしぼった弦を離す。
 風を切り飛ぶ矢が、魔種の胸元を貫き、溢れてた呪術式がダメ押しとばかりに状態異常を活性化させていく。
 いざを屈し、何かを望むようにイレギュラーズを見渡すレアと、コーデリアは超長距離から視線を交えた。
 それを合図に、引き金を引く。
 弾丸は吸い込まれるようにレアへと走り――今度は正確に脳天をぶち抜いた。
「――――ァッ」
 衝撃に煽られるように、レアの身体が後ろへと倒れていくのを見届けて静かに立ち上がる。


 青白色の魔力を双刀へ宿したアルテミアは、両の刀でバツ字を描くようにルイへと切り結ぶ。
 切り口に滞留した青白色の魔力はルイの身体から魔力を吸い上げ、そのままそれをアルテミアの力へと変換し、取り込んでいく。
 カイトはアルテミアへと集中するルイの背後から、思いっきりルイをひっかいた。
 魔力で強化されてはいる物の、単純なる攻撃。
 けれど、それによって自らのうちに潜む猛禽類の血が騒ぎ出す。
「さっきからちょこまかと――」
 苛立ちを露わにしたルイがその手に光を収束させていく。
 防御体勢を取った直後――カイトの視界を閃光が包み込んだ。
 全身を焼く痛みに、身体が地面に落ちる。
 パンドラの輝きが、その身を包み込んだ。
 アレクシアはその様子にすぐさま反応し、カイトへと意識を集中させる。
 慌てない。こういう時こそ、それだけは出来ない。
 白黄の花がカイトの周囲に輝き、調和の輝きが癒しへと変化して傷をいやしていく。
 アルテミアは追撃せんと動こうと試みるルイの前に割り込んだ。
「残念。貴方は私に集中しなさい」
 青き炎を一層駆り立てて、ルイの方へ一歩進む。
 雷切(偽)で突き、それを防ごうと動き、がら空きとなった胴部を不知火で切り払う。
 後退しかけたルイへ、今度は雷切(偽)で切り下ろす。
 自らを焼く青い炎は、気にならない。
 魔種の一撃に比べれば、かすり傷にさえ等しい。
 アレクシアはその間に再び魔力を練り上げていた。
 続けてとなる調和の魔力を、冷静になるよう自分に言い聞かせるようにして癒しの魔力に変換し、カイトに与えていく。
 カイトは、立ち上がる。最早意地といっていい。
「俺はまだ倒れてないぞ!」
 叫び、緋色の大翼を広げた。
 その直後――カイトの視界を、ルイの身体から零れ出るようにして現れた光の蝶が舞った。
 それに驚いているのは他ならぬルイ。彼の技ではない。
 ――視線を巡らせば、戦友達がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
 

「ここで消え失せなさい!」
 シフォリィは一気にルイの方へ走り抜けると、勢いを殺すことなく、そのまま剣を走らせた。
 身体全体を使って槍のように真っすぐに。愚直に走る剣が、光で盾を作ったルイの防御を無視して肉を裂いた。
「ちぃっ」
 続けるようにして、どこからともなく飛んできた刺突が、金色の尾を引いて真っすぐにルイを撃つ。
 寛治は長傘の持ち方を変えて剣のようにして握ると、ルイに向けて一撃を叩き込む。魔力を込められた一撃は、思いがけぬ一撃となってルイを大きく殴りつけた。
 不意に、ルイの影が形を変える。それにルイが気付くのとほぼ同時、紅蓮の焔が、ルイの真上から焼き払う。
 憤怒の焔に焼かれたルイが体勢を崩したところで、続くように冷たく輝く小さな満月が、その光と共に、抗う力を奪っていく。
 体勢を何とか立て直したルイの口に、真っすぐに走った弾丸が、頬を切り裂いていく。
 血を吐き、裂かれた口元を抑えるようにして後退した男が、ギラリと視線を向ける。
 アレクシアはレアと戦っていたイレギュラーズの様子を見ながら、傷が多そうなシフォリィに調和の壮花を齎した。
 アルテミアは青い炎を纏い、再びルイへと剣舞を叩き込む。双刀の乱舞は、大きな隙を生じたルイに、凄絶な威力となって叩き込まれていく。
 倒れかけたルイの背後から、カイトは紅き彗星となって突撃した。鷹の双爪が、ルイの背中を大きく切り裂いた。
 顔を上げたルイ、その眼前に、いつの間にか半透明の黒衣の天使が浮かんでいた。
 天使が抱擁し――激痛がルイに襲い掛かる。
「―――て、てめえらは、アイツの……レア、レアはどうした!?」
 レアと戦っていたイレギュラーズに、ルイが静かに問う。
「死にました。ええ貴方もすぐに向かわせて差し上げます」
「――ァア?」
 ルイが、静かにイレギュラーズへ目を向ける。双眸が怒りと動揺をはらんでいた。
 その右手に、光が収束し――爆ぜた。
 壁のように押し寄せる光の束が、取りつくアルテミア、シフォリィを押し返した後、ルイの姿が消えた。
 逃げた――わけではなさそうだ。イレギュラーズの遥か後ろ――倒した大敵がいる方角から声がする。
 レアの方へ舞い戻った頃にはそこにあるべきはずのモノ――レアだったモノはなく、片割れの魔種もなかった。
 ハッと気づいて騎士隊の方へ行けば、白い薔薇ような輝く幻影と塩の塊の中で、騎士達が静かに佇んでいた。
 ――ひとまずは、勝った。
 もう一匹を取り逃がしたのは惜しいと思うが、相方を失った敵であれば、次があれば確実に討ち取れよう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

遅れてしまい申し訳ございません。

激戦お疲れ様です。

今はひとまず傷を癒してくださいませ。

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