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シナリオ詳細

靡く銀髪引き寄せて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●彼を想う
 柔らかな風が、靡く髪を掬っていく。
 揺らめく線の細い銀糸が風の流れのままに広がって、浮つきを抑えるようにそっと撫でた。
「暖かくなってきましたね」
 手にした花束をそっと墓前に添える。こうして墓地(ここ)に来るのは何度目になるだろうか。頭で数えながら、瞳を伏せた【朝を呼ぶ剱】 シフォリィ・シリア・アルテロンド (p3p000174)はいつものように祈りを捧げた。
 
 ――レオニス・アルバ・アンジェール四世。
 この場所に眠る男の名だ。
 生きていれば二十五歳くらいになるだろうか。強く聡明で、幻想貴族を鼻に掛けない爽やかな好青年だった。
 そしてなにより、彼はシフォリィの婚約者だった。
「――あれから四年。早いものですね」
 その間を想えば、様々なことがあった。記憶は幸福ばかりではない。当時の苦労を僅かに思い出し、苦笑する。

 ――シフォリィ殿、旅人からこんな話を聞きまして、お話いたしましょう――

「……そういえばいつか話してましたね。旅人から聞いたこの世界の不思議な話を。
 ふふ、今は私がそんな話をする側になってしまいましたね」
 イレギュラーズとなって混沌各地に赴く機会が増えた今、そうした話には事欠かないのだ。
 シフォリィは最近体験した練達の屋内水浴施設の話なんかを口にして――そうして話を終えれば、どこか寂しげに微笑んだ。
「こんな私ははしたない、でしょうか?
 ……ううん、きっと貴方は、そんな私でも受け止めてくれるのでしょうね」
 いつか見た、彼の笑顔を思い出す。記憶の中の彼を忘れようとも、決して消えることはなかった。
 すくと、シフォリィが立ち上がる。光を反射する銀髪が優しく揺れた。
「……また来ます。
 どうか安らかに――そして、願わくば……」
 見守っていてほしい。そう言葉を風に乗せて、シフォリィはレオニスの眠る墓前から立ち去るのだった。

●狙われる銀髪
 ローレットへ立ち寄ったシフォリィは情報屋の『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)よりある噂を耳にする。
「『銀髪の少女』が狙われている……ですか?」
「ええ、幻想各地で最近そういった事件が多く発生しているようなの。
 原因は何でも願いを叶えてくれる『銀糸』の噂ね。
 そんな都合の良いものが存在しているとは思えないけれど、それに見立てて銀髪の少女を襲うような輩がでているそうよ」
「困った噂ですね……私も銀髪ですし、狙われたりしたら面倒そうです」
 自慢の髪を撫でながら、シフォリィは困ったような嫌そうな顔をする。
 ギフトの影響もあるが、シフォリィの銀髪は美しく整っている。本人の手入れなどの努力によるところもあるだろうが、それを無理矢理奪われるような事態は御免被りたいところだ。
「そういった話もあって、貴族の中でも噂の真贋を確かめたい方もいるようなの。ローレットにも依頼として噂の見極めと、暴漢達の対処が来ているわ」
 リリィはそう言って少し困ったように眉根を寄せて、
「囮捜査……というわけじゃないけれど、もし手が空いていたらシフォリィちゃんも依頼を受けてみてちょうだい。私は他の人にも声を掛けてみるから」
 と、依頼書を一枚手渡した。
 さて銀髪を巡る噂話の調査。そう難しいものではないだろうが、暴漢への対処も含まれる。
 シフォリィは依頼書を眺めながら、どうしたものかと思案を開始するのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 銀髪の少女を狙う事件が多発しているようです。
 噂の調査と、銀髪を狙う暴漢に対処してください。

 なお、こちらはシフォリィ・シリア・アルテロンド (p3p000174)さんの関係者依頼となります。

●依頼達成条件
 噂の調査(出所や、真贋の見極めなど多数の情報を得ると尚良い)
 暴漢の対処(十人以上対処する)

■オプション
 殺人鬼を確認する。

●情報確度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報は全て信頼出来ますが、情報にない出来事も起きるかも知れません。

●調査について
 幻想各地を調査で回ります。
 大凡の方向(北部や南部など)を指定して調査方法を記載してください。
 特に噂の出所を調べるのか、暴漢の対処を優先するのかなどの方向性を決めておくと良いです。
 手分けして探すことが可能ですが、暴漢の対処を考えるとチームで動いた方が良いでしょう。

●暴漢について
 一般市民からお宝を狙う盗賊、傭兵、雇われた暗殺者など、色々な『銀髪を狙う者』に遭遇します。
 また捜索場所によっては敵対する魔物も現れるでしょう。お邪魔虫です。
 ほとんどはイレギュラーズより弱いですが、徒党を組んでいたりしており、一人での対処は難しいでしょう。

●殺人鬼について
 狙われた銀髪の少女は多くは髪を切られるなどの被害で収まっていますが、幾つか判明している事件の中には、銀髪の少女の殺害が含まれているようです。
 このことから銀髪の少女を狙う殺人鬼と思われる存在が居ることが予想されています。
 無残に殺された少女達の多くは、特段に優れた剣技によって作られる刃傷が見受けられます。
 その手口から危険度はかなり高く、遭遇した場合は情報獲得に専念し、逃げ切ることを優先するのが賢明でしょう。
 特に銀髪のアナタは。

●戦闘地域について
 様々な地域での戦闘になります。
 多くは街中での戦闘となりますが、場合によっては洞窟や森林での戦闘もあるでしょう。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 靡く銀髪引き寄せて完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月28日 23時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
無限乃 愛(p3p004443)
魔法少女インフィニティハートC

リプレイ

●北・東調査
 銀髪の少女が狙われる。
 そんな事件の調査、対応を行うこととなったイレギュラーズ。奇しくも”銀髪”を持つ者が多く集まり担当することとなった。
 事件は幻想各地と広範囲だ。イレギュラーズは担当者を半数に分け、手分けして調査を行うこととした。
「事前に調査した感じですと、”銀髪”を狙う類似性はあれど、その方法、現場は様々。共通点と思われることもなくて……これは骨が折れそうです」
 銀髪の少女その1。『朝を呼ぶ剱』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が幻想中央で調査した結果をまとめた紙を眺めながらそう言葉を零す。
 それに頷き返すのも銀髪の少女であり、その2とその3であるところの、『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)と、『青の十六夜』メルナ(p3p002292)である。
「銀色だからって髪の毛に『何でも願いを叶える』なんて力があるわけないのに、噂もそうだけれど実力行使にでる人がいるのが驚きだよ」
「闇市にも銀髪の束が出回っているとか。
 もちろんただの髪の毛だけど、程度の良いものにはそれなりの値段がつくとか。
 ……お金に困ったら売るのもあり? なんてね」
 彼女達の班の担当は幻想北部から東部に掛けての調査であり、酒場や商人と言った情報の集中する場所を選択して調べていく。
 調べる内容は以下の四つである。
 一、襲撃者の姿
 二、何でも願いを叶えるという銀糸の噂の出所
 三、切られた銀髪の行方
 四、噂と共について回る殺人鬼の噂
 これらを尋ねながら、事件へと迫っていくわけだが、
「うーん……私らも噂に聞く程度だからねぇ」
 と、あまり色よい返事を得ることは出来なかった。
「そうですか……ありがとうございます。
 一応連絡先を教えておきますね。なにか情報があればローレットまで。ローレットは事件解決に力を入れていますので」
 シフォリィがそう言って自らの身分証明を行うことで、事件を起こしているものたちへアピールをする。
 この名声を利用した方法は確かに有効であり、いくつかの街でそのようなアピールを行うと、その情報はすぐに広まって、翌日には違う街で話が通るようになった。
 そして、北東部のある街で銀糸のことをよく知るという商人に出会うことができた。
「ああ、よく知っているよ。私は本物をみたことがあるからねぇ」
「本物を? そんなものが本当にあるんですか?」
「もちろんだとも。私はそれを使って今の儲かる流通ルートを手に入れたのさ。
 銀糸が見たいのだろう? 案内してあげるからついてくるといい」
 こうも簡単に噂の真相が掴めるのかと、やや訝しむ所だが、シフォリィとスティアは商人へとついて行くことにする。
「…………」
 二人の後を追いながら、メルナは周囲へと注意を向ける。これは直感であったが、どうにも嫌な予感がした。
 さりげなく背後に合図を送り、不測の事態に備える。三人の後ろをついて回る”影”が、動きを変えた。
 人通りの多い通りから裏通りへ。そうして辿り着いたのは見事な路地裏で、周囲から目という目が消えて居た。
「こんなところに、銀糸があるんですか?」
 さすがのシフォリィやスティアも状況の不自然さに注意を向ける。その警戒は正解で、商人は邪悪に笑って答えた。
「おぉ、あるとも。私の目の前に三束も作れる見事な銀糸がな。
 なんでも望みを叶えられる――巨万の富を生み出すそれを、もらおうじゃないか。ローレット所属のモノという付加価値もつく。こいつは売れるぞぉ!」
「なるほど。
 こうやって銀髪の少女を襲うと言うわけだね。闇市に出回るという話も頷ける」
 身構えるイレギュラーズの視線の先。商人の後ろの物陰に潜んでいた人相の悪い男達が現れる。
「へへへ、こいつは上玉だ。髪を奪った後は好きにしていいんだろ?」
「ああ、女どもは好きにするがいい。但し髪を汚すなよ、価値が下がるからな!」
「勝手なことをいいますね……手入れには気を遣っているんです、そう簡単に髪の毛を差し上げるわけにはいきませんよ」
 シフォリィ達が武器を構えるも、商人達は余裕の態度を崩さない。
「ふん、囲まれていることも知らずに強気なことだ。
 どれ、すぐに後ろからも応援がくるぞ。抵抗は無駄だとしれ」
 商人の強気な言葉に、答えたのは別の声だった。
「応援っていうのはこいつらか……? まったく女三人に対してどれだけの人数を嗾けるつもりだったのだか」
 現れたのは三人を後ろについて回っていた影――『死神二振』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)である。意識を失った屈強な男を地面に放り投げた。
 メルナの直感を合図に周囲への警戒を高めたクロバが、商人の手駒を潰して回ったのだ。
「さてと、銀糸について色々詳しそうだ。
 ちょっと話を聞かせて貰おうか?」
 クロバが強気に笑い、後に引けなくなった商人と取り巻きが無鉄砲に飛びかかった。
 どうやら少し痛い目を見ないとわからないようだ。
 四人は、身構えこれを迎え撃つのだった。

●南・西調査
 一方南及び西方面を担当することになった四名もまた、同じように聞き込みや、独自の調査方法で調査を行っていた。
 こちらの班で銀髪の少女といえば『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)だが、アルテミアは自らを囮としよく聞き込みした。
『この近辺で銀髪を狙った殺人は起きていないか』と。
「殺人……ああ、そういえば西に二つ行った先の街で銀髪の少女が殺されたとか。
 かなり無残に切り刻まれていたそうだよ。ただ素人の犯行じゃないみたいだねぇ、素人じゃあんなに綺麗に人は捌けないとかなんとか」
 それは中央でも聞いた話だった。
 特段の剣技によって付けられた刃傷。人を殺すことに特化した異能者か、はたまた常軌を逸した修練の上に辿り着いた極地か。
 いずれにせよ、この事件に関わる”殺人鬼”の存在は注意すべき事柄だ。
「銀髪を狙いあまつさえ命を奪うなどと、愛の足らない所行でありますね」
 そう言葉にする『魔法少女インフィニティハートH』無限乃 愛(p3p004443)の持論はこうだ。
 『願いを叶えるに必要な事は二つ、①愛の心を持つ、②魔法少女になる』である。
 それが正しいかどうかは横に置いておいて、愛が足らないというは他のイレギュラーズも納得し掛ける答えである。
 偏執的な愛を除けば、愛溢れるものが凶行に及ぶ可能性の方が少ないと思えるからだ。
「というわけで、私も囮として動きましょう。
 幻想タイムズと情報誌から切り出したビラを作りました。これを配りながら注意を引いていきます」
 銀髪のウィッグを被った愛がそう言って用意したビラを配り歩く。
「それなら商人にもそのビラを配ろうか。
 チョウド良い紹介状があるんだ。
 商人にはゲンを担ぐ人も多いらしいから願いが叶う銀糸なんて噂はネタにされてるんじゃないかと思うんだ」
 『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)の読みは的確と言えて、調べていくとわかってきたことだがこの事件、純真無垢な願いを持つ者よりも、やや現実、現金主義的な者が関係していることが多い。
 特に多いのはやはり商人で、噂を使って一山儲けようと考えるものがそれなりに多いようだ。
 銀髪の少女を食い物にする。あまり品性の良い話ではないように思えた。
「そうなると噂の出所も目処が付いていくな……噂を手広く浸透させることが出来て、裏社会にも関わりがあるようなそんな連中の懐からという線が強そうだ」
 『天翔る彗星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)はそう予想し、担当地区で裏社会と繋がりのありそうな商人達をピックアップしていく。
 なるほど調べてわかるが、中には最近になって羽振りの良くなったものも見受けられた。全員がこの『銀糸の噂』と『銀髪』を使って儲けたと言うつもりはないが、強く否定する材料もなさそうだ。
「なら、目立つように行動していれば――ほら、向こうからやってきた」
 アルテミアが後ろを振り向けば、武器を手にした男達がまさに金に目が眩んでやってきたという様相だ。
「典型的行動パターンで安心しますね。
 ……さて、話を聞かせてもらいましょうか」
 真顔な愛がウィッグを投げ捨て、武器を構える。
 そう強くない相手だろうが、雇い主関係者の元までは中々に遠そうだと、イグナートとウィリアムは肩を竦めるのだった。

●エンカウント
「それでは情報をまとめましょうか」
 中央に戻り、持ち寄った情報を付き合わせることになったイレギュラーズ。
 シフォリィの言葉を合図に、それぞれが手にした情報を――ファミリアーを通してやりとりはしていたが――今一度公開し合わせる。
「北と東で遭遇した暴漢の数は約三十人、そのほとんどが悪徳商人との繋がりがある連中だったね。
 中には盗賊と手を結んだような人もいたよ」
 犬の足で押された人数ハンコを確認しながらスティアが言う。それにアルテミアも頷いて、
「こちらもほぼ同数ね。
 中には単独犯もいたけれど、やっぱりほとんどが手に入れた銀髪を売りさばける流通ルートをもっていたわ」
 アルテミアの話は北東を担当したイレギュラーズも確認出来た事柄だ。
 さらにイグナートが情報を付け加える。
「リーゼロッテ――アーベントロート領内でも何人かタイホシャはでたようだね。彼女の髪を狙うようなムボウなヤツはいないとは思ったけれど、おカネに目の眩んだレンチュウは怖いものだね」
 手紙を送っていたことで、十分に被害は抑えられていたというわけである。逮捕者達がどのような目に遭うかは想像に容易く、アーベントロート領内では銀糸を狙う者は少なくなっていくはずだ。
「こうして見ていくと、悪徳商人達が結託して流し始めた噂のようにも思えるが――」
「ええ、真実はそうではありません。
 商人達を締め上げて見ると皆一様に同じ事を喋りました」
 クロバの言葉に愛が頷きそう言うと、その答えをシフォリィが吐き出した。
「隻腕の女戦士。それが噂の出所ですね」
 それは商人達が揃って答えた存在である。
 なんでもめっぽう強い左腕だけの隻腕の女が銀の髪の房を要求したという。逆らおうにも女の扱う槍とその威圧感に抵抗も出来なかったという話だ。
 何の為に銀髪の房を求めたかは不明だが、そうして幻想中の銀髪をコレクションしているかのようだったという。
「目的はともかく、噂の出所は抑えられたといえるな。
 銀髪襲撃事件が収まるとその女戦士も姿を現すだろうか?」
 ウィリアムの予想にメルナが頷く。
「うん、その可能性は高そうだね。
 けど、気がかりなこともある。それは――」
 メルナが口にするまでもなく、それは全員一致の答えだ。
 殺人鬼。
 その存在がこの事件には残されている。
「目撃者はおらず、ただ無残な死体だけが残される……銀髪を集めて回る女と矛盾する存在ですね」
 シフォリィはどうにも嫌な予感が拭いきれずいた。
 銀髪を集める者と、銀髪を殺して回る者。相容れない二つの存在が、どうにも心を締め付けるのだ。
「とにかく噂の真贋の確認に暴漢の対処は大凡できたわけだ。
 一度ローレットへ戻って報告するのも良いんじゃないか? 殺人鬼への対処はその上で考えても良いだろう」
 クロバの言葉でイレギュラーズ達は頷き立ち上がる。
 今は幻想中央、ローレットに程近い街のカフェテラスだ。
 ひとまずローレットへ戻ろうと歩き出したイレギュラーズが、そこで通りに響く悲痛な叫び声を聞いた。
「――!」
 アルテミアとスティアが高い反応で駆け出す、続けてクロバ、シフォリィと後に続き、全員がその現場へと辿り着く。
 そこは血の海だった。血の海に銀糸の川が流れている。
「あなた、何者なの――!」
 アルテミアの誰何は、血の海の側に立つ若い男へと向けられていた。
 整った金髪、眉目秀麗なその容姿は女性ならずとも目を惹く美しさ。貴族風の出で立ちに腰には似つかわしくない禍々しい剣を携えていた。
 男の視線がイレギュラーズへ向けられる。
 そうしてユラユラと視線を彷徨わせて――それはシフォリィと目が合った。
 見開かれた目が、焦点を合わせ、ブレることを許さず静止する。
「見つ……けた……僕の……大事な……銀の髪の君……!」

●”銀”求める者彷徨えし
「見つ……けた……僕の……大事な……銀の髪の君……!」
「……そんな……貴方は……!」
 男が目を見開いたとき、シフォリィもまた目を見開き衝撃に身体を硬直させていた。
 その姿、忘れるはずもない。
「レオニス……さん」
「レオニス? アイツの名前か?」
 クロバの問いかけに、しかしシフォリィは上手く言葉を返すことができない。
 レオニスは死んでいる。それは間違いのない事実である。で、あればこの目の前にいるレオニス瓜二つの男は一体――
「銀の髪の君……僕だ……わかるかい。レオニス・アルバ・アンジェール四世だよ……さぁ、こっちへ、おいで!」
 躁鬱な印象すら感じる男がシフォリィへと手を伸ばす。一歩、前へ歩みを進める。
「誰だとしても殺害犯――殺人鬼で間違いなさそうね……!」
「シフォリィちゃんは下がって……! 止まりなさい! それ以上は手荒に止めさせて貰うよ!」
 シフォリィを守るように立ちはだかるアルテミア。メルナも並び立って男の行く手を遮る。
「銀……似ているけど、違う……邪魔おぉするなぁ……! 僕と銀の髪の君との逢瀬を邪魔するなァ!!」
 禍々しき剣を振り抜いて、強烈な威圧感を広げるレオニス似の男。その威圧感、気配にクロバが察する。
「この力……! 魔種か……!」
「全員撤退を――! この場では被害が大きくなるよ……!」
 スティアが声をあげる。
 場所は住宅街だ、魔種との戦闘となれば被害は自分達だけに留まらない。
「逃がすものかぁ!」
 振るわれる剣は常軌を逸した剣閃で、対したアルテミアとメルナが必死に受け止めるも抑えることができない。
「急げ! 兎に角走れ!」
 相手を前に後ろ髪引かれる思いのあるシフォリィに発破をかけて、ウィリアムがアブソリュートゼロによる足止めを行う。
 凍てつく氷を者ともせずに、男が突き進む。
「それ以上は行かせはしないさ……!」
 男を撹乱するように側面に回り込んだイグナートが傲慢な左を叩き込む。細い男の身体が大きく歪む。
「――なんだ!?」
 瞬間、男の身体がビスマス状のそれへと変わり、軟質な鉱石を思わせた。すぐにその姿がレオニスのそれへと変わる。
「邪魔をするなぁ――!!!」
 振るわれる剣が見えない剣閃となってイグナートを襲う。
「いけない! ウィリアムさん!」
「分かっている!」
 愛とウィリアムがすぐに回復魔術を飛ばしイグナートの傷を癒やすと、同時メルナとアルテミアが飛び込み一撃を加える。
 その隙にシフォリィがようやく駆け出し、クロバがフォローに回る。
「待て……待ってくれ……! 銀の髪の君……!!!」
「生憎あいつには近づけさせねぇよ……!」
 二刀による高速の斬撃が、男の見えない剣閃とぶつかり合い、激しい剣戟となって打ち合う。共に斬撃を得意とする者だ。互い肌に細かく傷がついていく。
「待ってくれ……くそ……絶対に逃すものか……絶対にぃぃぃ……!!!」
(チッ……パワーはあっちが上か……引き時を見誤れば、帰ることも難しいか……)
 クロバは視線で仲間に合図を送り、撤退を促した。殿を担おうとしたアルテミアやスティア、メルナは邪魔になるわけにはいかないと、すぐに踵を返して走り出した。
「銀の髪の君ィィィ――!!!」
 激情を漏らす男の叫びを聞きながら、クロバもまたその場から撤退していくのだった。

「あれはレオニス。今は亡き、幻想貴族レオニス・アルバ・アンジェール四世です。
 ですが、あれは――」
「魔種……で間違いないな。イグナートの一撃で変化したあのビスマス姿が本性というところか」
 難を逃れたイレギュラーズはローレットに集まり、事態の整理を行っていた。
 銀髪の少女を狙う殺人鬼は魔種だった。
 そして同時に、シフォリィに並々ならぬ気持ちを向けるレオニスという男そのものでもあった。
「レオニスさん……そして父は魔種との戦いで殉職したと聞いています……もし、その時の魔種が生き残っていて――某かの能力でレオニスの姿、力を手に入れていたら……」
「可能性はあるわね……そうなると殺人を行っていたのはシフォリィさんを探していたからなのかしら?」
「恐らく。しかしその目的が見えてきませんね。シフォリィさんを手に入れてどうしようというのでしょう」
「まだわからないコトばかりだね。ギンパツを集めていた女戦士の話もある。
 もう一つ二つ、裏がありそうだよ」
「どちらにしても、今回はここまで、ですね」
 メルナの言葉に、一同は頷く。依頼は達成出来たと言えるが、謎は残った。
 シフォリィのみならず、イレギュラーズ達は思うのだった。
 この続きは、そう遠くないうちに訪れるであろうと――

 幻想の街を眉目秀麗な男が彷徨い歩く。
 ダウナーな雰囲気を持ちながら、その身体をビスマス状へと変化させては元に戻し、ただ銀髪の君を求めて練り歩く。
「嗚呼……銀の髪の君……必ず、必ず君を娶って見せるよ……」
 男の呟きは、人知れず空へと昇り消えて行った。

 

成否

成功

MVP

メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした!
 お話は次回へと続きます。その時もご縁があればよろしくお願い致します。

 今回のMVPはメルナさんとなります。

 素敵なプレイングをありがとうございました!

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