シナリオ詳細
ウォールペインターズ
オープニング
●
その路地の壁は、落書きで一杯だった。
幻想の目抜き通りから幾つか奥へ入ったところ。“画家見習い通り”と揶揄される人気の少ない路地は、子どもの落書きから、ペンキを使ったアーティスティックなものまで、様々な絵が立ち並んでいる。
ある日、其の通りに不思議な壁が現れた。
壁面が一面青色をしている、奇妙な壁だ。広さはおよそ店一件分ほど。
ある人間が蒼いからと鳥を描いたところ――これがびっくり、鳥は本物となって飛んで行ってしまったらしい。
ある人間は棒人間を描いてみたが……其の人間は役者のようにお辞儀をして、平面を歩いて何処かへ消えてしまったのだそう。
不思議な壁は今日ものっぺりと、蒼い表面を晒している。
●グレモリー大興奮
「皆、聞いてくれ」
身を乗り出して話を始めるグレモリー・グレモリー(p3n000074)に、一同は驚かずには居られなかった。魔種の出現にも眉一つ動かさなかった男が、こんなに熱心に話し始めるとは、一体なんだろう?
「すごい壁が現れたんだ。なんと、“絵を描くと動き出す壁”」
金色の眸をぎらぎらさせて、グレモリーが言う。なんだ、やっぱり絵画関係か。
「“画家見習い通り”……って、知ってるかな。其の界隈ではかなり有名なんだけどね。余り飾り気のない、人通りも少ない通りだったんだけど、誰が始めたのか、画家志望の人間が作品を残していく場所になったんだ。お陰で人もいなくなったけどね」
ええと、何処だったかな。
幻想の地図を広げ、グレモリーが此処だと示す場所。立地としては悪くなさそうだが……彼の話が本当なら、落書きに耐える精神力がなければ住んでいけない通りなのは想像に難くない。
「其処に突然、家一軒分の「蒼い壁」が現れたらしい。曰く、鳥を描いてみたら本物になって飛び立っていったとか。すごいよね? すごい。とてもすごい」
今日のグレモリーのテンションもすごい。
「でも不思議だから、君たちに検証を頼みたい。危険な兵器を描いて、其れが実体化とかしたら嫌だよね? 僕も嫌だ。絵画を汚されるみたいでとても嫌だ。別に兵器を描いてみろって訳じゃないけど……興味があったら、何か書いてみると良い。必要な道具は多分その辺に散らばってるから、大丈夫だよ」
僕も行ってみる。折角だから何か書いて行こうかな。
木製のパレットを取り出しながら、行く気満々のグレモリーなのであった。
- ウォールペインターズ完了
- GM名奇古譚
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年05月28日 21時25分
- 参加人数26/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 26 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(26人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●画家見習い通り
「いやはや、壮観ですねえ」
描いた絵が現実になる壁があるとか。土を塗料にして大地でも、と思ったが、大地を描くには家一軒分の壁は少々小さすぎる。
ゆえにグランツァーは絵を描いている人々や、これまでに描かれた絵を見て回る事にした。これもきっと、魔法における閃き、インスピレーションに繋がるだろう。
「おや、あれはクレヨンで描いた絵ですか? すごいリアリティですねえ」
時には間近に寄り、時には遠くから眺め、グランツァーは通り一つ分の画廊を歩く客になる。
すごい!いろんなところに絵がいっぱいだよ!
Q.U.U.A.ちゃんはいま、画家見習いどおりにいます! みんな絵が好きな、おえかきのまち! えほんのせかいみたいで、とってもたのしー!
せっかくこんなに絵があるんだから、あおいかべの絵しかうごかないなんてもったいないよね! と、ドリームシアターをつかって絵を動かしちゃう!
ステージ技術! アクロバット! 波が飛んだり、猿が跳ねたり、鳥が色反転したり!面白い動かし方もばっちり!☆(ゝω・)v
こうなったらあおいかべともコラボするしかないね!もんだいは何かかかないといけないところだけど! よーし、きゅーあちゃんれっつごー!!
蒼い壁に誰かが何か描いているのを、カイトは横目で見て過ぎる。別の壁には大きく波が書いてあって、まるで潮の匂いがするかのようだ。隅っこにあるサインは読み取れないけれど、きっとこの絵の作者は高名な画家……なんじゃないかな。
落書きレベルからアートまで、様々な絵が並ぶ通りを歩いていると、脚立の上に座って壁に向き合っているグレモリーを見つけた。
「おう、何してるんだ?」
「何を描こうか悩んでいたんだ。君は?」
「見物だよ。そうだ! いっちょ俺を描いてみてくれねーか? あの蒼い壁でさ」
「いいよ。君が二人いたら混乱が起きるかもしれないけど、多分大丈夫だろう」
斯くしてグレモリーに姿絵を描いて貰ったカイト。どうなるかと見ていたら、ゆうゆうと壁の中を跳び始めたので、己も空を飛んで、一緒に飛んでいる風な感覚を楽しんだ。
●蒼い壁
ヨタカは蒼い壁を前にして、思案に暮れていた。そもそも何処から来たものなのだろう? 練達辺りだろうか? しかし工事が行われたという情報は入っていないし。
どういう仕組みで動くのか、是非描いて見てみたい。
「……といって、何を描こう」
ふむ、と考え込み……置いてあったチョークを取って、壁にかりかりと描き始める。絵心がない、という彼だが、旅一座の宣伝に描いた“ヴァイオリンを弾く鳥”くらいは描ける。
少しばかりデフォルメして描いてみたが、なんだ、なかなか描けてるじゃないか。
絵の出来にほっと息を吐いたのもつかの間、絵は勝手に動き出して。まるで挑発するような動きで、ヴァイオリンを構えた。ふむ、こいつ……俺に音楽で勝負を挑んでいるのか?。
良いだろう、其の挑発に乗ってやろうじゃないか。ヨタカは向かい合い、ヴァイオリンを構えた。
「え? 僕にアドバイスを?」
「ああ。り……犬の絵を描きたいんだ」
「成る程」
ウェールはグレモリーに話しかけ、絵を教わろうとしていた。描きたい絵は決まっている。イメージにもなっている。けれど、肝心の絵の技量には自信がない……ならば、直ぐそばにいる画家(…?)に教えを請おう、という訳だ。
蒼い壁まで彼を連れてきて、イメージを伝え、アドバイスされるままに犬の絵を描いていく。上あごから上は黒、下あごやお腹は白……可愛さと精悍さを兼ね備えた、立派な犬。
「わふっ!」
「おお、本当に動いた! ありがとう、グレモリーさん」
「いいよ。君、意外と絵の才能がありそうだね」
「そうか? はは……よし、お前の名前はヴォルフヴだ!」
犬の頭を撫でると、嬉しそうにすり寄ってくる。息子によく似た其の犬が、ふわりと消えていなくなってしまうまで、ウェールは存分に遊んで、エサをやり、本当の犬のように接した。
「最近不思議な画家さん達とお会いする事も多かったけど、此処も不思議ねぇ」
アーリアは白いチョークを手に、蒼い壁に向き合っていた。そういえば昔、白い家の壁に落書きしようとしたらお母さんにすごく怒られたっけ。でも、今日は怒る人もいなくて……なんだかわくわくしちゃうわぁ!
「私が描くのは勿論~……」
おさけよぉ!ワインが溢れる樽の絵を描けば、ずっとワインが飲み放題に……あ、あら?
アーリアが描いた樽から、たくたくとワインが流れ出す。ただし、壁の中で。其れは地面に落ち、じんわりと蒼い壁の底を赤く染めだしたから……慌ててアーリアは樽の蓋を描いて、ワインを諦めた。
後にグレモリーに話しかけようとして、ロリババアの絵にドン引きしたのは別の話。
エリアは書きあがった――正確にはあと一歩で書きあがる魔法陣を前にして、ふむ、と考えていた。
「この魔術が巧く発動すれば、対象によって大切なものが動き出す……という画が出来る訳ですが。飛び出してくるなら陣の構築が崩れる……? 難しいところですね。何にせよ、あとは記号を書き足すだけなのですが」
――誰かに一度、見て貰いたいですね。
術者が見ても何も起こらない故に。エリアは生贄になってくれる誰かはいないかとうろうろ探し始めた。
アクセル曰く、実体化の可否は絵の巧さもあるのではないか?
彼は其れを実証するべく、まずは実体化したという鳥を描いてみる事にした。かきかき。終わり。手抜きではありません。時短です。時短。下手ではないのです。本気ではないだけで。
鳥だけではなんとなく寂しいので、入れるような巣箱も描こう。えいえい。かきかき。
「……あ! 動いた!」
鳥がもぞもぞと動き出し、壁の中で動画のように巣箱に入る。
「……」
どきどき。どうなるんだろう。見守っていたアクセルだが……巣箱が突然ジャンプすると、そのまま壁の奥へ消えてしまった。
「……そうきたかー」
思わず手を振るのを忘れてしまった。達者でやってくれよ、巣箱と鳥さん。
「ふむ……」
フロウは蒼い壁を前にして、何を描こうかと悩んでいた。蒼には白が良いだろう、と白い画材はたくさん準備して。
「道具でも何処かに行ってしまうのか、まだ判っていないですね。こういうのは試してみるが吉というものです」
白いチョークを使って、かりかりとシンプルに釣り竿を描くフロウ。暫くすると、コトン、と音がして、足元に真っ白な釣り竿が落ちていた。
「わあ。……これ、使えるんでしょうか……?」
チョークと同じ色をした釣り竿と、何もない蒼い壁を見比べるフロウ。其の釣り竿を持ってみると、不思議と手に馴染む。まるで昔からふるっていたかのような感覚だ。
「……せっかくなので持って帰って、使ってみましょうか」
「まあ! 書けば不思議な事が起こる壁なんて、楽しそうですね!」
蒼い壁を前にして、幻は張り切っていた。手には紫ペンキと細い筆。ペンキを筆につけて、まずは花を描いてみる。描けたら花の中に顔を細微に至るまで描き、更に体の細部まで描いて、完成。なんだか文字だけ見るとすごく……不思議生物な感じがしますね……
ぱち、と閉じていた目を開いて、ふわり、風に揺られるように揺れる花の小人。そのまま風に乗って、何処かへ行ってしまった。
「壁の中にも、風が吹いているのでしょうか……?」
幻は小人が去っていった方角を見上げ、不思議そうに首を傾げる。其の後もだまし絵を描いてみたり(お互いが自立しようとして面白い事になった)して、このノリで奇術のネタを描いてみようかと思ったが――それはやめた。だって、誰が見ているか判らないからね。
描いた物が動き出す。
そんな話を聞いてしまっては、メートヒェンはじっとしていられない。だから今、蒼い壁の前で考え込んでいた。
彼女の得意分野は風景や静物画。風景を描いたらどうなるのだろう。最近暑くなってきたし鉄帝の景色かな。かりかり。で、雪も降らせて涼し気に。ぬりぬり。
おお、結構リアルに出来たんじゃないかな?雪の鉄帝。――此処まで来ると涼しいを通り越して寒いだな、と思ったが、まあそれは良いとして。
本当に雪が降りだしたりして、と空を見上げた瞬間、コトン、と音。
見下ろすと、キャンバスが落ちていた。メートヒェンの絵が、其処に描かれている。
「……へえ。不思議な事もあるものだなあ」
こういう形で飛び出してくることもあるんだね。と、メートヒェンは頷いて、キャンバスを持って帰った。
「金儲けの匂いしかしねぇ!」
そう確信した晴明が金色の絵具で書いたのは、金目のものをたくさん。インゴット、金貨、冠……とにかく描けるものは描く。そして実体化を待つ。
「お前なあ、そんなに儲けるのが大事か?」
しょうがないので隣の壁に絵を描いているベルナルドは、手伝ってくれという悪友の頼みにNOのジェスチャで答えた。
「まあ、確かに俺は金儲けする理由がなくなった。大切な人が出来て、無理できない立場にもなってる。――でもな、どうせなら皆で笑って生きたいだろ? 其の為には金があると良いんだよ。商人として持てる限りの援助をする、といえば聞こえはいいか?」
「成る程な。お前はお前なりの理由で、周りを考えてる――って事か」
「そうさ。で、お前は何を描いているんだ」
ベルナルドは普通の壁に絵を描いている。隣の壁を見上げた晴明は、ああ、と得心したような声を上げた。柔らかそうな羽衣、慈愛に満ちた笑み、大翼を抱いた――
「……俺は、許されたいのかもな」
重ねてきた罪と屍を踏み越えて、大切な人と共に生きる事を、神様とやらに。
「……。お前、そんなに許されるのが大事か?」
「お前なあ!」
さっきのベルナルドを真似て笑った晴明をしかりつけながらも、ベルナルドはほんの少し、気持ちが軽くなった気がした。
「で、そっちの絵はどうなった?」
「これだ。ほら、持ってみろ」
渡されたのはインゴット。しかし――
「かっる!」
「だろ」
簡単に手に入る金品はないという事だ。悪友二人は笑い転げ、じゃあ何ならOKなのかと探り探り描き始めた。
「通りの絵、凄かったわね」
「ええ。技術の程度や伝わり方は様々ですが、桜咲の心にも大いに刺激となりました」
蛍と珠緒は、道すがら見て来た絵の感想を言い合って。
件の蒼い壁に行きつくと、蛍がまず筆を執る。
「ボクは……そうだな」
筆と絵の具でぺたぺたと蛍が描いたのは、愛らしい二人の天使。ふんふん、口ずさむのは、故郷で翼が欲しいと願う歌の一節。
「とても楽しそうですね。桜咲たちに似ている気もしますが……」
「えっ、に、似てる? ほら、見慣れてるからつい……ね!」
でも、と蛍は心中で呟く。いつまでもどこまでも、一緒に行けたら良いとは思う。
「では桜咲は……ごふっ」
「珠緒さん!?」
突如吐血する珠緒。平然と其の赤く染まった手でぬりぬり、天使の周りに絵を描く。
「ま、毎度気が気じゃないわ、その吐血……」
「桜咲の血は循環する魔力なのです。……出来ました」
それは2人の天使を守る、竜の姿。感慨深げに見ていると、天使がふわり微笑んで。
竜の背に仲良く乗っかって、壁の上――空へと消えて行った。
「こここっ、これが絵が動く壁……!!!」
「なかなかオモシロそーじゃねぇカ! 描いたら動くッテ、オオグシが良く言ってるアニメ? に似てるな?」
「ええ、そうです、これは待望のアニメ化……いえ、実写化はしないでください大抵地雷なので……ではなく! 此処は是非! 我が愛しの『魔法少女ちょこ☆たん』のイラストを! いえ、イラストでは駄目! 熱く萌える漫画を描かねばなるまい! 拙者の腕が唸るぅぅ!」
「完全にジブンのセカイに没頭してんナ……俺様も何かかくカナー。といって、オオグシみてーな絵は無理だし……あ、そうだ! カッケー宇宙船ならオレサマでも……」
「ギフト発動! デュフフwww最高の萌え展開発動でござるwwwこれが動いたら拙者尊みでしんでしまいますぞwww」
「っておいおい、オオグシ! オマエどんだけ描いてんだよ! オレサマにもちょっとはスペースを」
「此処でちょこ☆たんの必殺技が炸裂するのですな……! エフェクト! ああットーンがないのが悩ましい! 自分でカケアミ描きますか!」
「だーー!! ジャマクセー! こうなったら真横に描いてやるゼ!! 全面戦争ダ!」
「姐さん!? 何やってるでござるか其のビッグな宇宙船! ああっ拙者のちょこ☆たんがエネミーロック! 宇宙戦争始まっちゃったじゃないですかー! やだー!」
グレイルは壁を前にして悩んでいた。
何を描いたら良いだろう。武器とか簡単そうだけど、何だかこの風景には似合わない気がするし。蒼。…蒼。思わず見上げた、空。
「そうだ、虹」
ぽつり呟いた。空にかかる虹を描いたら、果たしてどうなるのだろう。実体化して、輝いてくれるのだろうか。
なら、まずは七色の画材を探しに行かなくてはならないだろう。チョーク、筆、絵の具……大体の道具は此処にあるって聞いてるから、きっと探したらあるはず。
慌てて探しに行くグレイル。かくして、彼が虹を不慣れな手で完成させると……さあっ、と空に一瞬大きな虹が差して、そして、消えた。
「俺は勿論イザベラ女王陛下を描くよ」
誇らしげに取り出したるは、幾度も眺めた女王の写真。周囲には蒼を基調とした様々な色の絵の具。
真剣に筆を進める史之。肌色には特に拘りがあるようで、時折頭を抱え、写真と見比べながらも色を塗る。
そして数時間後――史之の眼前には、見事なイザベラ女王の肖像画が出来上がっていた。芸術的というとほめ過ぎかもしれないが、熱意の籠った作品だ。
「ふう……あれ?」
ふと、肖像画が笑った気がして、史之は瞬きをした。すると絵の中の女王がくるりとしなやかに背を向け、壁の奥へと歩いていく。
「じょ、女王陛下!」
思わず史之は呼んだ。すると女王は振り返り、忠心大義である、とでもいうように微笑み、再び背を向け、歩いて行ってしまった。
片腕を壁につけて、呆然と史之は其れを見ていた。ああ。この壁削って持って帰ったら、俺だけの女王陛下が作れないだろうか。……冗談だよ。海洋におられる本物がもちろん一番さ。
「ウーン」
ジェックはペンキをぬりぬり、其れを完成させた。
元の世界には居なかったもの。空を悠々と泳ぐ鳥。蒼いペンキで書いた、蒼い鳥。
「これは…青色で、長くて、細い。フィッシュ? お魚さんですか?」
「エッ。……と、鳥だケド……」
「ああ、鳥ね。うん、わかってましたよ?」
頷き合う二人。実体化するのを待ってはみるが、蒼い鳥はぴくりとも動かない。絵が下手だからだろうかと落ち込むジェックに、では、とアベルが筆を執った。
――【青い鳥は鳴き声を上げました】
ピィ、チリリ。なんという事でしょう。アベルがさらさらと描いた文章に助けられて、壁の中から鳥の声!
「キミもどうぞ」
アベルがもたらした奇跡に大喜びして、字が下手でも笑わないでね、と念押しをして。
――【あおい鳥はけづくろいをしました】
さあ、すると蒼い鳥は首を傾げて毛づくろい。最後の一文は、二人で一緒に筆を持って。
――【あおい鳥はそらへとび立ちました】
……羽音。 いっておいで、蒼い壁から、青い空へ!
どらはうきうきと筆を進めていた。面白い事、ヘンな事が大好きなどら。しかも落書きし放題。これはやるしかない!
まず蒼いから雲を描いてみると、壁の中でもわもわ動きながら雨を降らした。
武器を描いてみたが、何故か足が生えて壁の奥へと歩いて行ってしまった。壁はあれをなんだと認識したのだろう……
最後に綺麗な花をつけた木を描く。落書き犯も思わず止まって見入るような――
「あー、うーん。駄目だわこれ。ブロッコリーだわ……」
失敗した、としょんぼりしたどらの目の前で、ぽん、と木に花が咲いた。
「あれ?」
ぽん、ぽん、ぽん! 鮮やかな花が咲いていく。
「わ、わ、すごい! 絵の手助けまでしてくれるんだ!?」
木部分はお野菜みたいだけど、色鮮やかな花が咲きました。
どうせなら壁を少量砕いて顔料にでも……と思ったどらだったが、何故かこの壁、すごく硬くて、ちいとも砕けなかった。
おー! ここに描くとホンモノになる! ホントか!?
ならリナリナ描く! いっぱい描くゾ!
えーとな……まず肉! それから肉! 最後に肉だな!
焼肉! ステーキ! ビフテキ! 豚の丸焼き!
焼き鳥! 霜降り……霜降り、難しいゾ……!
おー! ホントにホンモノになったゾ!? リナリナ、食うゾ!
……。
薄味……
「これが蒼い壁ですか……描いた物が、ほんものになる」
ごくりとエルは喉を鳴らし、持ってきた筆と絵の具で、慎重に描き始める。まずは猫。耳があって、顔があって、しなやかで、尻尾があって……結構うまく出来た。次は犬。大きくて、ふわふわで、人懐っこそうな顔で……
そして、エル自身の絵。自画像なので、だいぶ力を抜いて書く事が出来た。
最後に描くのは、エルの妹。もし妹がいたら、どんな子になるだろう。そう思いながら筆を滑らせる。耳と髪型は同じにして、赤で統一した色調、肌まで鋼鉄のような赤色に。
名前は――イル。そう、イルがいい。
やがて、ゆるゆると像が動き出す。壁の中で遊び、手を繋ぎ、動物を撫でて、姉妹仲良く遊び……やがて手を繋いで、壁の奥へ消えて行った。
エルはそれを最後まで見守り……喧嘩しなくてよかったと息を吐いた。だって絵の中の姉妹でも、喧嘩をするなんて悲しいから。
「芸術は爆発だ。 ……かつてそう豪語する芸術家がいらっしゃいました」
そして目の前には描いた物が実体化するという蒼い壁。ならば、わたくしのする事は一つでございますね?
エリザベスはがりがりと勢いよく描き始める。其の筆致は精巧にして精密。流石アンドロイド、其の辺りは細かい。
物質ではなく現象を描いた場合どうなるのか、壁にはどう作用するのか……探求心と共にエリザベスが筆を置く。
其の瞬間。
どかんと壁が爆発して、エリザベスは爆風に巻き込まれる。なんだなんだ、と見に来ていたイレギュラーズが集まる中、何事もなかったかのように煙を払うエリザベス、だったが……其の表情は残念そうなものだった。
「……タイマー機能をつけておくべきでしたわね」
そう、彼女は爆発を背に決めポーズを決めたかったのだ……あ、壁は無事でした。
「壁のようなカタブツが動くとは思えんが……」
ぶつぶつと言いながら、ティティは筆を動かしている。生まれてこの方絵を描いた事のない彼。興味がない訳でもないし、仕事なら仕方ないと筆を動かしている。
そう、仕事なら仕方がないのだ。蒼い壁に藍色と白の絵の具を使って、大きな大きなクジラを描いたって、仕方がない。
おまけに水しぶきも描いてやろう。さて、どうなるか。
……見守るティティの頭上が、不意に暗くなった。
――ザア……!
轟音と共に落ちて来る水。
「……まさか」
ティティが空を見上げると、確かに――空にはクジラ型の影があって、蒼い壁のクジラは忽然と消えていた。
ふおおー……んん……
そんな声を残して、クジラは過ぎ去る。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
壁にペイント、楽しんで頂けたでしょうか? 描く側としてはとても楽しかったです!
皆さんのインスピレーションには驚かされてばかりで、なるほどそう来たか……! と、とっても嬉しくなります!
MVPはきゅーあちゃんに差し上げます!
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
最近絵画関係の依頼を出している気がしないでもないですが、
今回はイベントシナリオに皆さんをご案内です。
●目的
“画家見習い通り”を観光してみよう
●立地
中心地からアクセスできますが、かなり奥まった場所にある路地です。
住人は度重なる落書きに疲れ、殆どが引っ越してしまいました。
其のシャッターにすら、落書きがしてある有様です。
件の「蒼い壁」は、其の通りの真ん中あたりにあります。
●出来ること
1.絵を見て回ったり
2.「蒼い壁」に絵を描いてみたり
“画家見習い通り”には、子どもの落書きから一種のアートまで、様々な絵が並んでいます。
画廊に行ったつもりで、見て回るのはいかがでしょう。
また「蒼い壁」に絵を描くと、もれなく不思議な事が起こるようです。
絵以外を描いたという報告はいまだありません。
●NPC
グレモリーが空いた箇所に絵を描いています。
話しかけはご自由にどうぞ。
●注意事項
迷子・描写漏れ防止のため、冒頭に希望する場面(数字)と同行者様がいればその方のお名前(ID)を添えて下さい。
やりたいことを一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。
●
イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守って楽しみましょう。
では、いってらっしゃい。
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