シナリオ詳細
薔薇色海洋記
オープニング
●雨の日
その日は雨が降っていた。
海洋で雨が降るのは珍しい事ではないが、ざあざあと降り続く様子(そして、いつも通りの女王との言い争い)だけではどうしてか暇という言葉が付きまとう。
本来ならば大して暇ではなく、貴族としての責務ややるべき執務が存在するのだが――存外、ソルベ・ジェラート・コンテュールは淋しがり屋だ。
「……雨ですか」
自身のお気に入りの赤い部分の羽であしらえた特製羽ペンを握る指先が緩む。
書類にインクがぼたぼたと落ちて「ああ」と彼は情けない声を出した。
「最近は魔種の一件が過ぎてからは落ち着いてしまいましたし……。
何やら他国が騒がしいことは潮風の噂で聞きますが――暇であることには変わりはありません」
ソルベ・ジェラート・コンテュール卿がぼやけば、それと刻を同じくしてイザベラ女王も「暇だ」と呟いて居る頃だろう。
海洋は良くも悪くも平和なお国柄。翼をもつものと海に生きるものが諍いを起こしてもそれは他国の様な大規模な紛争ではない。せいぜい『じゃんけん』レベルで済んでるのが現状だ。
「ああ、そうだ」
ソルベは思い立ったように引き出しから白い便箋を取り出した。
あて先は――『ローレット』
●手紙
「なのです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ (p3n000003)は届いた手紙をじいと見下ろした。
「海洋のソルベさんが暇なので遊びに来て欲しいそうなのです」
ユリーカの言葉に、その隣で練達で流行している――と『オタクの山田くん』が言っていた――マンガ本を読んでいた『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)が顔を上げる。
「遊びにっすか?」
「なのです。ええっと、どうやらソルベ卿の別荘付近でのんびりしないかだとか」
リヴィエールは「雨っすよ」と小さくぼやいた。ソルベの家でチェスでもするのだろうかと頭を悩ませるリヴィエール。
ユリーカは彼の別荘地は薔薇が大層きれいなのだと思い出したように言う。
「以前、お仕事で行ったのですが、薔薇が凄くきれいだったですし、あと、食事類のもてなしも凄いのです」
「流石、貴族っすね……」
雨降りの薔薇というのもオツなものだとリヴィエールとユリーカは頷き合う。
食事、ボードゲーム、邸内の散歩、薔薇の鑑賞の何でもござれだというその場所に、少し、遊びに行ってみようではないか。
――そうしないと、ソルベ卿、寂しいって泣いちゃいそうだし。
- 薔薇色海洋記完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年06月01日 23時55分
- 参加人数28/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 28 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(28人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
しとしと、と。雨が降る。
執務半分、そして『期待半分』でテーブルに並べた菓子を眺めてそわそわとするソルベ・ジェラート・コンテュールは何処からか聞こえた足音に顔を上げる。
「遊びに来たぞ!」
ばーん、と扉を開いてカイトが胸を張る。
「お、おお……」
勢いの良さにぱちくりと瞬いたソルベ。胸を張ったカイトは「土産も用意した! 親父が遊びに行くときはお土産が必要だって言ってた!」と笑った。
彼の羽で作られた羽ペン。ソルベが自身の羽ペンを使っている所に着目したのだろう。羽根をまじまじと見遣ったソルベが「美しいですね」と大きく頷く。
「だろ!? でも、ソルベの羽も綺麗だよな! スゲーなって思う!
やっぱり飛行種としては羽が大事だし、普段から手入れしてるんだろうな!」
うんうんと頷くカイトはポケットからカードデッキを取り出した。
「そのカード……」とソルベがにやりと笑ったそれに「俺も持ってるぜ」とカイト。
「なんかレオンが収入上がったとかなんとか言ってたな。基本は風デッキだ」
いっくぜー! と勝負を仕掛けて――結果はカイトの負けなのである。
「初めまして! 橘花芽衣です! タダメs——ギャラリーとして参加させてもらいます!」
「お、おお」
タダメシという言葉が聞こえましたね? と首を傾げたソルベに芽衣はにこりと笑う。
「まだまだ新参者なワタシですけど賑やかにするのは得意です!」
「それは嬉しい。是非賑やかに遊んでいってください!」
「はい! 食材がなくなったら過酷耐性があるので直接海まで取りに行っちゃいますし!」
「そこまでしなくても!?」
大張り切りの芽衣にソルベは料理を用意してあげてください。海に行かぬように、と使用人に声をかける。
「こんにちはソルベさま! アンジュっていいます!
おはつにおめに……おめ ?おめめ? まいっか」
「ははあ、ソルベです。ようこそ、アンジュさん」
「あ、それで、こっちはエンジェルいわしのエルキュールです!!! かわいくないです??」
突然なるエンジェルいわし。イワシに天使の羽根が生えたナウいペットなのは分かるが――突然すぎてソルベはじっと見つめる。
「エルはね~、ソルベさまに憧れてるんだって。か~っこいいつばさ! おれも欲しい! って! 多分そう言ってる。わかんないけど。そもそも雄なのかすらも怪しいし」
「成程。よくわかりませんがエルキュールさんが褒めてくれたことは分かりました!
歓迎しますよ、エルキュールさん! 私の羽、素晴らしいでしょう!」
周りの友達からも評判院ですよ、というアンジュにソルベもふふんと鼻を鳴らしている。
「周りの友達っていうのはエンジェルいわしのことなんだけど。
みんな翼がすごい! って口々に言ってるよ! ……ます!」
「分かりました。私はエンジェルいわし界ではナイスガイなんですね」
物分かりの言いソルベ・ジェラート・コンテュールであった。
「貴族の別荘にご招待なんてはじめてー! 美味しいご飯をたくさん食べるよー!
全メニューを制覇。おやつは2個ずつ。ルンルンで食べ続けるフラン。
一休みしようかなあ、とクッションに座ったところ――「あれっ!?」
立てない。
「どどどどうしようこれ呪いのクッションだったのかな!?」
立つぞという気合を入れても立てない。ぐぐぐ、と沈んでいくその躰。
「待って、クッションがあたしを離してくれない!
このままクッションの上で死んじゃうんだ……ううう。
それならせめて、おやつをもう1個ずつ食べたかった……!」
ふんわりとお尻を包み込み其の儘沈んでいくフランは「ソ、ソルベさん」と声を上げる。
「たーすーけーてー!!」
「やれやれ、クッションに食べられる人なんて初めて見ましたよ」
お手をどうぞ、と手を伸ばすソルベにフランは「た、たすかったあ」と声を漏らす。
「よお、ソルベ・ジェラート・コンテュール卿。クッションは良いぞ?」
縁の言葉にソルベは「ふむ?」と首を傾いだ。彼の作戦をカンタンに説明しておこうではないか。
人をダメにしちゃうクッションへと誘導し存分にソルベ・ダラーット・トロケェール卿になってもらうという算段。さあ、どう誘導するかと縁が笑みを乗せる。
――一刻前。
「……というわけで、いつも海洋の平和のために働いてる旦那を、この機会に労ってやろうって話だ。別に今後揶揄うネタを仕入れようって腹じゃねぇさ」
「OK! 私達は……ソルベさんのダメクッションに座った時の溶けた顔が見たいーー!!」
シエラの厚い希望を感じる中で、円陣は初めてだというユリアンが緊張した様に見上げる。
「円陣を組むのは初めてです! ぼk……私は皆様より背が低いかと思いますが、大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫大丈夫!」
それじゃあ、気合を入れて――!
「そのカードゲームで勝負しよ! 最下位の人は一番の人にお姫様抱っこされるルールで!」
どや、としたシエラ。負けるかどうかと言われれば負ける気しかしていない。
何故なら! 『ソルベさんは切れ者であり、私は頭良く無い!』
つまりは……つまり全力で戦う事で怪しまれずにソルベとお姫様抱っこだ。
「どうしてお姫様抱っこ……」
「私が抱っこされたいからだよ!」
そんなこと言われてソルベは自分にだろうかとどきまぎしてしまう――実際は抱っこの儘、クッションに下ろしたいわけだが。
「札遊びは、人数が多いほどに楽しいものですね。
トランプには明るくありませんが、花札なら。ソルベ様は、花札はご存知でしょうか」
カードゲームをするので、こちらへと雪之丞が案内していく。
ソルベは何も疑わずにクッションに座り――ふかぁ。
(あ、これは――!)
そっと立ち上がったソルベが「あちらで」と柔らかに笑う。
「そうお逃げにならずとも、折角用意されたのでしたらご自身で試されても良いのでは?ほら、こちらでカードゲームの続きもできますから」
シエラとソルベが戦って、ルールは解ったというユリアン。割とルールは分かってなかった気もするが――それはさておき。
「菓子もありますし、これでしばらくのんびりできますよ」
「う、う……」
しかし、とソルベが不安げに視線を送る。
「海洋の重鎮たるもの、偶には流れに身を任せてどうかしてみるのも大切だぜ? そら、腹括って座ってみな」
縁にそう言われてしまっては弱い――ゆっくりと沈み込む様に座ってソルベがはああと心地よさげに息を吐く。
「それにしても、このクッションは確かに……あまり座っていると、立つのも億劫になりそうでございますね。時折、息抜きに座るのは、良いでしょうか?」
ふと、雪之丞が首を傾げる――この形状は、女王陛下も座れそうでございますね。
それだという様にソルベが顔を上げ「これを差し入れて女王陛下をダメにしてやりましょう!」と笑う。縁はこの様子を女王陛下に見せたいもんだなと冗談のように笑った。
ラヴィエルが現れた。
「うわははは! ソルベ! ヒャオッ!! ついにお前と雌雄を決する時がきたようだな!」
「うわ、なんですか」
「ルール説明!! 先に股間を掴んで『アカネ!!』と叫んだ方に1ポイントだ。
審判に聞こえない、または掴みが浅い時はテクニカルファウルを取られる。
他にも色々とエキスパートルールがあるが……『ラヴバトル』初心者のお前にはクラシックルールを適用しよう!」
勢いが良すぎる。ラヴバトル――奥が深いぜ。
「フッフッフ…見なさいこの腰の動き、暇つぶし程度の半端な覚悟じゃ捉えきれませんよォ!! カモッ! ソルベ!! アカネ!!!」
――以上、ラヴバトルでした。
「外は雨でもわたくしが居れば! 屋内だろうと快晴の如しですわー! なテンションで参りますわよ! そう、このわたくし!」
指パッチン!
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\タント様!///
「――が、これだけ大きなお屋敷に初参戦ですわー!
コンテュール邸探検隊ですわね……それでは怒られないようこっそり参りましょう!」
「折角のバカンスで雨なのは残念だけれど、これも主の思し召し。今日は室内で遊びましょう! お屋敷の探検ですわね、ええ、それは勿論! 面白い物が見つかるかもですわよ?」
ヴァレーリヤと共にタントがずんずんと進んでゆく。「ヴァリューシャ隊長!」とタントがびしりと指さした。
「ふむ、見ない形のソファですわね。海洋ではこういった物が一般的なのかしら………」
「どうなさいましたの?」
「……フッ、私としたことが対侵入者用の罠に引っ掛かってしまったようですわね。
タント、今ならまだ間に合いますわ。私を置いて、貴方だけでも逃げて下さいまし!」
心地よ過ぎてヴァレーリヤは立ち上がれない。もう駄目だ、もう立ち上がれないのだからここは諦めて貰った方がいい。
「隊長? 隊長ーー!!
いえっ、いえっ、隊長を置いていくなど出来るはずがありませんわーー!!」
アクロバティックダイナミックボディプレス! でヴァレーリヤの上へ飛び込んだタント。
「あっ、ちょっと待ってそこはみぞおちでゲフゥ!
痛たた……ご免なさいタント、どいてもらっても…タント? タント!?」
――ダメになったから動けないんですわ。すやぁ……。
●
「暇してると聞かされちゃ、黙ってらんないね!
その退屈! ぶっ殺しに行ってやんゼロッケンロー!」
今日も元気いっぱい。ヴィマラは雨の東屋に腰かけてルンルン気分で待っている。
「という事で庭園で歩き疲れた人たちの為にムーディーなデスメタルを……!
お、ソルベちゃんじゃーん、景気はどう? 」
「ああ、こんにちは。ヴィマラさん。ぼちぼちですかね」
暇と言ってるならば悪くはなく、寧ろ悪ければローレットに話が飛んでくるはずだ。
「ほら、海洋も色々あったからさぁ、ちょっと気になっちゃってて……」
「ああ……そう、ですね」
彼女の兄の事を想像したのだろうか。ヴィマラにソルベはぎこちなく笑い、「安心してください。今は大丈夫ですよ」と大きく頷いた。
「……ま、つまんねー話はいっか! 今日は遊ぶぜ ロッケンロー!」
「ああ、薔薇はいいね。僕は薔薇がとても好きなんだ。
色とりどりの美しい薔薇を眺めていると……この憂鬱な雨も、嫌な暑さも忘れて見入ってしまいそうだよ」
「ロックだねえ」
ヴィマラとソルベが視線をやれば麗しの王子クリスティアンが薔薇と戯れている。
薔薇と戯れているというのも、雨なんてすべて弾く様な勢いで煌めいているからだ。
「いや、雨は憂鬱ばかりでも……ないかもしれないね。
花弁についた雫がキラキラと輝いて………なんとも美しい……。
ふふ、数分前の僕は気付いてしまった。傘なんて差すべきではないのかもしれない!」
「「おお」」
ヴィマラとソルベが瞬く。クリスティアンは確かに傘をさしていない。
「雨の雫でキラキラと薔薇が美しく輝くのなら……
つまりは雨の雫で僕もキラキラと輝けるはずだ!
うぅーん! 雨も滴るハンサムフェイスッッッ!!」
その様子を見詰めながらアリシアが小さく瞬いた。雨の時の空気は好きだ。雨のしずくを受ける薔薇も素敵だとアリシアは――向こうに見える煌めく王子を見ないようにして――周囲を見回した。
しとしと、しとしと、雨音だけが聞こえてくる。
「きっとこういうとき想い人がいたら一緒に歩くと素敵なんでしょうね」
東屋には誰かの影がある。そっと、エールを送って――素敵な薔薇の加護がありますようにと。
雨も覆い隠してくれるから。遠い日に想いを馳せて――泣いてるのは私の心、だろうか。
東屋でのんびりとしたマリナはきょとりと周囲を見回した。
「此度はお誘い感謝でごぜーます……海種でも雨は好かないものなのでごぜーますよー……」
「おや、意外ですね? てっきり水が好きなのかと」
ソルベのその言葉にマリナはぱちりと瞬く。東屋に二人腰掛けて、交えた会話は何処か気怠けだ。
「船も出しづらいですし、太陽が見えないので気分がじとっとするものです。
ちょっぴりセンチな気分になるのもわからなくはないですね」
ソルベが頷き視線を薔薇へと寄せた。マリナもそれをおいかけて、ぱちりと瞬く。
「そーいえば……薔薇に雨って意外と合うんですね……やっぱ華やかさが憂鬱を吹き飛ばすんでしょうか?
……そろそろ梅雨っぽくなりそうですし、雨に合う花とかも植えると良さげですよね……睡蓮とか」
睡蓮、素晴らしいとソルベが楽し気に頷いた。
お気に入りの和傘をさした焔は「わぁ!」と瞳を輝かせた。
「ボクも最近お庭でお花を育て始めたけど……ちょっと育てるだけでも大変だったんだよね。
薔薇って育てるの難しいって聞いたことがあるし……こんなにたくさんの薔薇を育てるのなんてきっと凄く大変だよね」
「そうですね。庭師だけではなく、私も努力しましたから」
いいでしょう。とソルベは笑う。マリナの提案を受け睡蓮も植えてみようかと誇らしげな彼に焔は「お花が大好きなんだね」と微笑んだ。
「ええ、ええ、貴女も華が好きですか? なら、是非ここへ見に来てください」
「! うん、また見に来るね」
傘をさしてグレンツァーはゆっくりと庭を歩む。
地を耕し、地を固め、地を均し、地を積み、地を操るものとして、綺麗な花が大好きだというグレンツァーは薔薇を眺めてほうと息を吐いた。
「上品なお花は、良質な土地にこそ咲くものであるし、そこに手入れする方々のお力もあってこその命となるんですよねえ」
大地に息吹く芸術をゆっくりと楽しみたいとグレンツァーは目を細めた。
「傘はいらん。オレは半魚人、濡れても平気ダ」
そう言って、ティティは物珍しそうに薔薇を見遣った。雨の中でもその色彩は美しい。
「ずっと水中に籠っていても、色の名前はちゃんと学んでいる。
赤、オレンジ、白、ピンク……ムラサキもあるノカ」
つい、口元がにやにやと緩む。子の用に色鮮やかな花が海の中でも咲けばいいのに――その想像が叶わないかと考えてティティは息を吐く。
この場所は心地いい。気に入ったと口にして――「また依頼として呼ばれたら…来ないこともない」
そう、目を伏せた。
●
「花を見て歩く文化があるとは……この世界では様々な発見がありますね……」
フルールがきょろりと見回せば、ツクヨミがそっと彼女に傘を傾ける。
「お前の髪が……桜が濡れるのは忍びない」
相合傘という文化は、と気にするよりも彼女の美しい髪が濡れて萎れるのは見るに堪えないとツクヨミは静かに言う。
「わたくし……薔薇の方々には元の世界でとても尊敬してて……やっぱり……美しい方々ですよね……」
「薔薇は確かに美しい。高貴なる花だ。
しかし、お前の白桜もまた綺麗だと私は思う――白き色彩は夜闇に映えて、月の光を受けて煌めく。そういう花を、あの時私は確かに見た」
かあ、と頬を赤らめる。フルールは両頬を手で押さえ、恥ずかしくなってしまいます、と俯いた。
「あの、ツクヨミさんさえ……良かったら……あの、ま、またご一緒しても……?」
「……遠慮は要らない。気軽に誘うと良い。桜の令嬢よ」
また、はきっとすぐに果される。
「雨に濡れた薔薇も耽美的で素敵ね…普段と違う美しさというか。ね、ゆっくり見て回りましょ」
珠緒と共に傘をさして蛍はゆっくりと歩む。珠緒の好みの色の薔薇はあるだろうかと周囲を見回す蛍に彼女は柔らかに笑った。
「ボクの生まれ故郷にはね、奇跡って言われた薔薇があったんだ。
青い薔薇……自然には存在しない人工の美。ボクはそれを、ここの薔薇と同じくらい美しいって感じる――不可能への挑戦って、人だからこそできることだと思うから」
「ふふ、どの世界でも人々は、夢を求めて進むのですね。
この混沌では、技術を要さず普通に咲いている……かも?」
探してみましょうかと珠緒が笑えば蛍は頷いた。
「そんな青い薔薇を咲かせるような努力と研鑽を続けられたら――
花言葉みたいな奇跡も起こせるかもしれないわね。『夢かなう』って。
それを探すのも、夢を探すみたいで素敵だわ」
それなら、二人で探してみよう。その青いバラを。
「薔薇といえば…」
青いバラ、とアレクシアは口にした。他の世界ではありえないという薔薇。
アレクシアと歩めば雨音さえも楽しいとシラスは彼女の言葉に耳を傾ける。
「ありえないから色んな人が頑張って実現させたんだって。
だから『夢は叶う』って意味があるらしいよ……何だか素敵だよね! ここにも青薔薇はあるのかな? 少し探してみよう!」
シラスは不吉の花が夢を成す花と呼ばれるのは面白いと彼女と共に青薔薇を探す。
「夢といえば、シラス君はみんなで叶えたい夢とかある?」
「俺の夢はこの混沌で成り上がること。
特異運命座標の立場を使って絶対に成し遂げてやる……こんな俺だけど仲間と叶えたい夢もあるんだ」
「……?」
「サーカスとの戦いの時にあの王様まで一つになって幻想が立ち上がったこと。
あの時は震えたんだ――だって王様は無関心なのが当たり前、皆は自分のことばかりなのが当たり前だから……でも、それを皆で変えることが出来た」
シラスの言葉にアレクシアに笑みが浮かぶ。
「世界の何処かでまたあの日みたく、
どうしようもない当たり前を壊せたら……それは最高だろうなって。皆とならきっと出来るって思ってるぜ」
「素敵な夢だと思うな! それにきっと叶うよ!
なんてったって私達はイレギュラーズなんだしね!」
嬉しい、とアレクシアは笑った。嬉しい理由なんて一つだ、同じ夢を持ってるから――けど、それは秘密。
言ってあげないのは『なんとなく』だ。
傘を閉じ、シュバルツの許へと入り込む。アマリリスの肩が濡れぬようにと傾けられたシュバルツの傘の下、二人分の影が雨に打たれている。
「覚えていますか? 一年前くらいにも、こうやって雨の中を散歩するのを」
「あぁ、あの時は確か紫陽花畑を見に行ったんだよな。傘も差さずに来て、びしょ濡れになってたお前をよーく覚えてるぜ」
けらけらと笑ったシュバルツにアマリリスの頬がかあ、と紅くなる。はわわと口にして首をふるふると振った。
「あれから一年早かったですね…とっても楽しい思い出ばかりです
願わくばこのまま時間が止まればいいのだけど……なんて」
ぎゅ、と腕を回す。冷たい雨の下だからか、体温が心地よい。
傘が揺れ、滴がぽたぽたと落ちた。
「天義の争乱が終わったら、いろんな場所に、また連れていってくださいね。
それまでは、また貴方の恋人から、天義の騎士に戻ります……ちゃんと貴方の所に帰ってくるから、大丈夫だよ」
恋人、という言葉を口にすると、アマリリスは何処か擽ったいと目を細める。
シュバルツはじゃあ、海洋に行こうかとその頭を撫でた。去年は出来なかった事が沢山ある――行ってない処に二人で行こう。
「天義はお前にとって護るべき故郷なんだろうし、騎士として果たすべき職務はあるんだろうが…………無事に帰ってこいよ。俺は待ってるからな。約束だ」
指切りをする。
指先を折り曲げて、小指に運命の糸があるというならきっとそれが絡まる様にと人は願うのだろう。
アマリリスは笑う、確かに目を細めて――「大丈夫だよ」と重ねて。
ごめんね、とは口にしなかった。
きっとデモニアになる。父の来訪を聞き、胸騒ぎがしたからだ。
これが『恋人』である最期。『騎士』として死に『聖女』になるのだ。
――さようなら。貴方の幸せを、無責任だけど、願っています。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました!
ヒトダメクッションが人気で微笑ましかったです。
またお会いしましょう!
GMコメント
名前は夏なんですが、今は初夏位ですかね!
●ソルベ・ジェラート・コンテュール卿と遊んであげよう
ここは海洋(ネオ・フロンティア海洋王国)。
大陸東の諸島に拠点を構え、絶望の青と隣接する国家です。一番大きい中央島に首都リッツパークが存在します。
今回は有力な貴族であるコンテュール家のソルベが穏やかな海洋にて自分の別荘へとお呼びしたいなと。
リッツパークは穏やかな気候で少し夏に近いように感じられることと雨が降っていることでじめじめとして汗ばむ事が多いかもしれません。
カンタンな行き先:プレイングの冒頭に【1】【2】【3】と番号指定してください。
【1】雨の薔薇庭園を散歩する
傘は貸し出します。ソルベ自慢の別荘の薔薇庭園です。
薔薇は色とりどりで美しく、とてもオススメだそうです。
東屋がありますので休憩も可能です。
【2】別荘で遊ぶ
ボードゲーム関係や練達から仕入れた遊び道具、本などがあります。
ビリヤードなども存在しているので、自由に遊んでいただければOKです。
「皆さんっぽいカードゲームがありました」とカードゲームを仕入れて居たり、聖人ゲームもしたり……。
ソルベ卿は練達から興味があって大きいビーズクッション(人がダメになりそう)を買いましたが、だめになりそうだったので座るのをやめたのだそうです。
【3】その他/別荘で食事
お食事の準備もばっちりです。ソルベの家の使用人が頑張って作りました。
おやつ、海洋の名産物、ジュース、酒何でもあります。
ちなみに、【1】【2】に当て嵌まりそうにない場合はこちらを選んでください。
●同行NPC
・ソルベ・ジェラート・コンテュール
勿論います、海洋の飛行種派閥貴族派筆頭。ちょっぴりざんねん。
明るく特異運命座標たちに好意的ですが、切れ者であるのは確かです。
・その他
ユリーカやリヴィエール、亮と言ったローレットの情報屋/冒険者でステータスシートがある対象であれば呼ぶことができます。
(※ざんげや各国主要NPCは申し訳ないですがNGです)
皆様の冒険をお待ちしております。
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