PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<クレール・ドゥ・リュヌ>ペンギン大神官
<クレール・ドゥ・リュヌ>ペンギン大神官

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●やさしいしんぷさま
「嗚呼ヾヾヾヾヾヾヾヾヾヾヾヾヾヾヾヾ!! 異教徒はどこだあヾヾヾヾヾヾヾヾヾ!!!」
 喉の奥から、あらん限りに叫ぶ。
 両の手に持ったナイフでカーテンの裂き、椅子を蹴り上げ、隠れていた参拝客を発見する。
 奥歯を打ち鳴らし、顔全体に恐怖を貼り付けてこちらを見上げる女性。
 言葉として成立していない声で必死に、「お願い」「殺さないで」と訴えている。
 嘴で本当に良かった。私に唇があったなら、きっと噛み締めていただろうから。
 ナイフを振り下ろし、彼女の命を絶った。せめて苦しまないように、それだけを願ってやまなかった。
 すまないと、許してくれと呟きたい。だが、誰に聞かれているともしれず、思いの内を出すわけにはいかなかった。
 ふと、鏡が目に入る。返り血に毛を染めたペンギンの顔。私の顔だ。天義にブルーブラッドは珍しく、それこそ神職者となればごく僅かだろう。心の内は今にも泣き出しそうだと言うのに、驚くほど冷酷さと怒りに満ちた顔をしていた。
 鏡の奥にそれを見つけて、振り向いた。喉を引きつらせたような小さな悲鳴が聞こえる。嗚呼、駄目だ。駄目だ。そう言う時は祈りに両手を重ねてはいけない。口と鼻を多い、少しの呼気も漏れぬようにせねば。
 こうして、見つかってしまうじゃないか。
「そこかあヾヾヾヾヾヾヾヾヾヾヾ!!」
 奮った腕が燭台を落とし、教会に火をつける。
 赤々としたそれにより、少女の姿はより鮮明となった。
「神父、様……?」
 怯えた声。信じられないという声。縋りたいという声。それらがないまぜになった少女の首に、私はナイフを突きつける。
 彼女は震えて、動き出せない。それでは駄目だ。逃げろ。逃げるのだ。今すぐにこの凶器を落とし、君の体を抱きしめてやりたい。優しく微笑み、全ては嘘だと囁いてやりたい。
 だが、駄目だ。私は、君の知る神父ではない。私が共にいるだけで、君はいずれ狂気に落ちてしまうだろう。だから。
「逃げ、なさい。今のうちに、ほら」
 狂気と正気の狭間で葛藤するようなふりをする。
 逃げる少女。それでいい。嗚呼、それでいい。
 この孤児院は理不尽にのたうつ君を拾い、だが唐突に捨てたのだ。
 燃える燃える。赤々と燃える。
 これでいい。さあ。
 誰か私を、生き返ったふりをしている私を土に返してくれないか。

●ぺんぎんだいしんかん
 その日、普段から忙しないギルドであったが、いつものそれにより輪をかけていた。
 天義首都フォン・ルーベルグ。
 そこで狂気的な事件が多発し、その対処を願う依頼が増えているのである。
 これは異常な状態だ。
 フォン・ルーベルグ市民の教義による規則正しさは周知の通りであり、そういった事件が立て続けに起きるというのは本来考えられないことだった。
 だが、ギルドはこれと類似した事件を既に経験している。そう、『あの』サーカス団だ。
「だから、これは『原罪の呼び声』が強く生じたもの、なんだとサ」
 プランクマン(p3n000041)は如何にも又聞きであるという風に告げる。
「レオンは『ローレットが対応していてマジで良かった。してなかったら水面下に潜んでた爆弾は今の比じゃなかったぜ』ってニャこと言ってたニャぜ」
 似ていない物真似を披露してから、彼女はテーブルに地図を広げてみせた。フォン・ルーベルグの見取り図を。
「で、対処して欲しいのはちょっとキツイ話ニャんだけどね――」 

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

フォン・ルーベルグの教会で、『生き返った』とされる神父が一人、暴走しています。
彼は見るものすべてを異教徒だと言い、無差別に殺害しようとする極めて危険な存在です。
この場に向かい、早急に対処してください。

【エネミーデータ】
□スフェニスクス神父
・フォン・ルーベルグで孤児院と教会を切り盛りするペンギンの神父。病死したとされていたが、数日前に教会に帰ってきていた。
・目につく者すべてを異教徒だとして殺害を試みる危険な存在。
・両翼に持ったククリナイフと手投げ式の炸裂火薬が武器。反応、機動力が極めて高い。

□異教徒を仇なす者
・スフェニスクス神父より感染した参拝客。
・元一般人だが、神父と同じく他の参拝客を異教徒として殺害を行っている。
・武器のたぐいは所持していない。
・現在4名。

【シチュエーションデータ】
□アンタークティカ教会
・孤児院と併設した教会。
・中で火事が発生しており、崩れた瓦礫から参拝客が逃げ出せなくなっている。
・孤児院との連絡通路があり、そちらから内部に侵入可能。
・孤児院の児童たちはこの道より既に逃げ出している。

  • <クレール・ドゥ・リュヌ>ペンギン大神官完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年05月29日 21時50分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
強襲型メイド
キドー(p3p000244)
緑色の隙間風
セルウス(p3p000419)
灰火の徒
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
コゼット(p3p002755)
跳兎
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
クーア・ミューゼル(p3p003529)
こげねこ
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル

リプレイ

●とべないとり
 生き返るということを、奇跡や御業によるものだと信じる人がいる。神に感謝し、もしくはその秘法を願ってやまない。信仰に厚いのは非常に良いことだが、残念ながら安易な思考だと言わざるを得ないだろう。人は生き返らない。生き返ってはならない。そう願わずにはいられないが、願いだけで叶う奇跡など存在しないのだ。

 集団の駆ける足音。そこかしこで上がる悲鳴。何かが壊れる音。
 逃げていく人々はしっちゃかめっちゃかに見えて、その実規則的なベクトルに流されている。
 中に入り込むと分かりづらいが、一歩引いた視点を持っていればそれは一目瞭然と言えるもので、事件の震源地がどちらにあるのか、というのは俯瞰視点を使わなくても自ずと分かるものだった。
「また黄泉返りですか」
 それは本物の奇跡だとは到底言えぬものだと『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)は思う。
 自由意志を見せかけただけの人形。見た目では分かりづらくとも、そこに尊厳など存在しないのだ。
「塵は塵に、灰は灰に、死者としてあるべき姿に戻るのをお手伝いしましょう」
 生活に寄り添い、正しくあるままを支えるのがメイドの本分であるのだから。
「存分にご奉仕して、お掃除して差し上げましょう」
「成る程ね。今まで処理した黄泉甦りどもも、あのまま放っておいたらこの有様だったってワケ」
 燃え上がり、煙を吐き出し続ける教会を前にして、『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)は頭を掻いた。
「全く趣味が悪ぃな。破落戸の俺でも流石に引くぜ。お陰でこんな煙てえ所に突っ込む羽目になっちまったしよ」
 悪党も、悪人も、邪悪も、似ているようで全く違うものだ。
「さっさと片付けよう。このままじゃ全員纏めて燻製か丸焼きだ」
「今回は燃やすのは置いとくしかないかなあ」
『夜星の牢番』セルウス(p3p000419)のそれは燃やすと書いて趣味とルビを振る。なんて危険思想だ。そもそも、とうに燃えている教会が今回の舞台であるわけだが。
 小さく漏れ聞こえてくる悲鳴。それだけをとっても、中でどのような惨事が繰り広げられていることか。それは想像に難いものではなかった。
「ほら、僕も信仰を持つ身だから、ほっとけない所あるんだよ」
「仏は人々を救う一方、悪鬼を滅する武神としての側面も持つという」
 教会内部への侵入を試みながら、『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)は羅刹とかした神父に物思う。
 異なる価値観を悪と断定する行為の是非を問はしない。誰もが自分のモラルとロジカルに従い行動している。その基準が個々人でぶつからない限り、何を言うものでもない。
「天義の宗教に同じ事が当てはまるとは限らぬが、大きな慈悲の心は同時に強い修羅の心を宿しているのやもしれぬな」
「いきかえって、原罪の呼び声でおかしくなっちゃってて、ペンギンで……なんか、いろいろ複雑、だね」
『孤兎』コゼット(p3p002755)が小さく首を傾げた。この場合、ペンギンであることに事件性はないのだけれど。生き返ったらペンギンだったわけでもないのだし。
 ペンギン転生。探したらありそう。
「はやく、もう一回死なせてあげるのが、ゆいいつ出来ることに、なるのかな……」
 あるべきものを、あるがままに。
「ペンギンの神父。顔も両手もペンギンという事は、全身ペンギンなんじゃろか?」
『ゆるっと狐姫』枢木 華鈴(p3p003336)がギルドから受け取った資料データを元に、敵を想像している。せやで。
「ペンギン……何ペンギンなんじゃろ?」
 しまった。そういうのは考えてなかったな。えっと、じゃあ、フンボルトで。
「わらわ個人としては、もふもふした丸っこいペンギンが……え、アレって子供? いかん、ペンギンという文字がゲシュタルト崩壊を起こしそうなのじゃ」
「正直、燃え盛る建物というのは個人的に好きなのですが、それが正気にあらざるモノの犯行とあらば看過しかねるのです」
 比較的真面目な方向性の際に申し訳ないが、『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)を見て思ったことがある。このシナリオ、放火魔が二人おる。
「人も獣も行きつくべき果ては紅い炎、即ちここがあなたの二度目の最期。さあ、帰るべき焔に還るのです!」
「ぺんぎんさん……?」
『ふんわりラプンツェル』桜坂 結乃(p3p004256)が自身の記憶を辿る。
「マスターが水族館で見たことがあるとりさん? だったっけ。まるっこくてかわいいの」
 飛べない鳥。泳ぐことが得意な鳥。そういうものだったと覚えている。
「けれど。目の前の状況はそんな可愛らしいものじゃないね」
 焚き付けられた熱気は今も教会を焼いている。時間が経つほど崩壊し、危険な場所となるだろう。
「貴方のココロがきになるけれど、ごめんね……」
 孤児院に繋がる通路を駆け抜け、大きな扉を発見する。
 この先に。思うよりも体が動き、扉を勢いよく開け放つ。
 途端、感じていた熱気はより激しく全身を打っていた。

●ほこりのうた
 だから今、この身があってはならないものだと理解している。彼らは私の復活を喜び、涙し、祈りを捧げていた。だが、そうであってはならない。この体は今、何者かの悪意によって作られた紛い物だ。神父であった自分は既に朽ちている。このような偽物に、そのような感情を向けてはならない。

 扉を開けてすぐに、それと目が合った。
 ススで汚れたカソックを着たペンギン。
 天義にこの種族は少ない。彼がスフェニスクス神父で間違いないだろう。
 だがその目は狂気に溺れたもののそれではなく、まるで何かを案じているようなそれをしていた。
「異教徒か……」
 目の色が変わる。原罪に落ちる。先程の表情が何かと思案する時間はなく、命のやり取りが始まった。

●かれたなみだ
 狂乱する。発狂する。これは君たちの思うそれではないのだと根差させるために。そうだと思っていたものが、全くの贋作であったのだと信じ込ませるために。刃を向け、突き飛ばし、怯えられ、悲しまれ、貶まれよう。痛みも、慟哭も、崩れ落ちるような何かも、どうということはない。これは偽物が感じているものであって、私が受けているものではないのだから。

「異教徒なら、ここにいるよ、あたしが異教徒だよ、もんくある?」
 コゼットの言葉に、スフェニスクス神父は迷いなくククリナイフを彼女に向けて突き出してきた。
 速い。水かきのついた足だとは信じられない程にその動きは素早く、生態的に特殊な歩法であることから、目で追うことも困難だ。
 だがコゼットは地を蹴り、宙を舞い、戦闘フィールドを三次元的に拡大させることでそれを回避する。
 華麗に跳ね回るさまは正に兎のそれで、肉食獣でなくとも目で追いかけ、牙を向けたくなる。
 だがペンギンは飛べない鳥だ。水中では無類の速さを誇るだろうが、ここは地上である。コゼットの高さに追いつけはしない。
 しかし。
 突如として、彼女の前にそれが現れた。炸裂火薬。とっさに顔を庇う。空中機動を止められた。落ちていく。着地点にはスフェニスクス神父がナイフを構えて待っている。
 コゼットの反応は速かった。空中で反転。体勢を制御すると、武器を振り上げる神父に向けて、落下エネルギーを利用した蹴りを放つ。

「異教徒ぉヾヾヾヾヾ!!!」
 無闇矢鱈に腕を振り回す感染者の攻撃を危うげなく避けると、キドーはがら空きになった胴、鎖骨から肩にかけたあたりにナイフを突き立てていた。
 落ちた、と言っても元が素人だ。武術はおろか、戦闘の心得もない素人である。短絡的な暴力を見切るのはそう難しいことではない。
 だが。
「異教徒ぉヾヾヾヾヾ……」
 起き上がる。痛みと恐怖を黙殺し、狂気のままに己を突き動かしている。殺されるか、再起不能になるまで続けるだろう。そのような相手に、手心を加えてやる余裕はなかった。
「そもそも正気に戻れんのか……?」
 それを試すのは自分の仕事ではない。
 突き出された腕を得物で受ける。
 ぐじゃり。攻撃したはずの感染者。その爪が割れ、指が曲がり、骨が飛び出ている。限度を考えない自身の膂力が身を滅ぼしているのだ。
「オラ、立てるならさっさと俺らの為に逃げな! ちんたらしてっと神父をどうにかしてやれねえぞ!」
 助ける余裕はない。神様の前に、自分の足でも信じてもらうとしよう。

 腰を抜かし、尻もちをつきながら、必死で這い逃げるしかない参拝客をヘルモルトは助け起こした。
 助けに来たのだ。そう伝えても理解した様子はない。呼吸は荒く、四肢は強張り、顔には恐怖が張り付いている。
 恐慌状態。だが、逃げてもらわねば困る。火の手は勢いを増すばかり。この場に隠れていても、熱と灰は耐性のない彼らを容赦なく襲うだろう。
 無言で自分たちが入ってきた出入り口を示す。顔だけでもそちらに向けさせる。とにかく行け。脇目も振らず走れ。
 背中を軽く叩いて喝を入れてやれば、頼りない足取りではあるものの、そちらに向けて足を動かし始めた。
 それを追いかける影がひとつ。
「異教徒めえヾヾヾヾヾ!!」
 行かせはしない。ヘルモルトは自分を無視して擦れ違おうとする感染者の腕を取ると、走り出したベクトルを曲げさせ、大きな円軌道を描かせる。そのまま腕を離さず、床板に頭から叩きつけてやった。
「死んだらごめんなさいと言う事で許してもらいましょう」

「あいや、待たれい」
 特別に大きな声を出しているわけでもないが、悲鳴と叫声の飛び交う教会の中で、下呂左衛門の声は不思議とよく響いた。
 参拝客に馬乗りで首を絞めていた参拝客が思わず手を話し、彼の方を向く。
「異教徒ォヾヾヾヾ……」
 この短絡さはありがたい。
 赤々と燃え盛る閉塞空間。蛙のディープシーたる下呂左衛門には辛い環境だ。いいや、火災環境で容易に過ごせる者がどれほどいよう。気も違えば焼死するというリスクも度外視できるのかもしれないが、少なくとも。
「このまま蛙の丸焼きになるわけにはいかぬでござるよ」
 襲いかかってきた感染者を切り伏せ、続いて襲いかかってきた参拝客を切り伏せる。
 狂気感染。今まで襲われていたものが暴力を振りかざす光景。慣れないが、魔種との戦いでは今後も見ることになるだろう。
 自分の『持っていかれ』ぬよう丹田に意識を込めながら、なお立ち上がろうとする感染者に向け、下呂左衛門は得物を振り上げていた。

 怯えて縮こまっている参拝客の手を取り、立ち上がらせてやるセルウス。
 その行為に安心したのか、縋るような目を向ける彼女に、しかし。
「所でキミ原罪とやらに感染してない? 生きたいなら逃がしてあげるけど、僕を殺したいならあのペンギンのとこにぶっ飛ばすよ」
 セルウスの言葉は酷薄だ。人を落ち着かせるような笑みを浮かべながら、しかし無情な手段を躊躇しないと思わせるだけの声音を発している。
 否定しなければ。そう思いはするものの、ぶり返してきた恐怖に参拝客は二の句を告ぐことが出来ない。
 過呼吸のような音を出し始めた彼女。その頭に手を置くと、ビクリと震えた。
「……ジョークだよ」
 そら行けと、彼女を急かす。何者からも逃げるように走るそれを、セルウスは目を向けてすら居なかった。
「……人形に必要のない故人の記憶や自我を持たせた理由、あんまり考えたくないね」
 少なくとも、趣味の良い理由ではないだろう。
「僕の神が居れば親玉ごと灰も残さないんだけどなあ、残念」

 スフェニスクス神父の投げた炸裂火薬。その効果範囲を横飛に回避しながら、クーアもまた手にした発破を投げつけていた。
 派手な轟音。より一層上がる煙。もくもくと揺らぐ黒いそれを切り裂いて、中から神父が飛び出してくる。
 やはり水かきのついた足だとは信じられぬ速度で迫りくる二刀のククリナイフ。
 飛び退ることで致命打を回避するが、避けきれず、両肩からじくじくと鈍い痛みが主張を始めている。
 内心で舌を巻いた。孤児院を運営する優しい神父様。そういうイメージとこの戦闘力がまるで結びつかない。
 なおも迫るペンギン。危険ではあるが、自分の方に来てくれるならやりようもある。
 手にした酒瓶の蓋を開け、中身をぶちまけた。神父が警戒した素振りを見せるが、ただのアルコールだ。それ自体に攻撃性は持たせていない。
 だが。だが、しかしだ。
 それは今この場に順応する。床を這う液体は、今も赤々と猛る美しいそれに触れ。
 大きく花開いた。

 炎に包まれたスフェルニクス神父が慌てて床を転がり、自身についた火を払う。
 消えたことを確認し、一息ついた神父の目。結乃はそこに狂気を感じ取ることは出来なかった。
「ねえ神父さん。貴方の本当の気持ちを教えて?」
 油断なく得物を向けながら、声をかけた。
 戦いの場である。燃え盛る災害の場でもある。一刻の猶予も許されない。しかし、それでも気になった。心が納得を、拒否していた。
「ボクたちが倒したら、神父さんは消えてしまうんだよね? ならばその前に、教えて欲しい。狂気にとり憑かれているふりをしてるんじゃないの?」
 こちらを見つめる鳥目から表情を読むことは出来ない。だが彼は、問答無用にナイフを振り上げることもしなかった。
「今の神父さんは近寄る人を感染させてしまうから、そうやって遠ざけようとしてるんじゃないの?」
 少しだけ、本当に少しだけ、嘴の端が歪んだように見えたのは気の所為だったろうか。
「いいや、そんなことはないのですよ。異教徒め」

「鬼さん此方、手の鳴る方へ」
 華鈴の声に反応する者も、最早スフェルニクス神父以外に残されていない。
 狂気に感染した者たちは皆、既に無力化されており、生き残った参拝客らの避難も完了していた。
 火炎はなおも轟々としてその勢いを衰えさせはしないが、少なくとも人的被害がこれ以上に及ぶことはない。
 狂気に取り憑かれたとはいえ、戦闘能力のない素人に遅れを取るイレギュラーズではなく、誰もがまだ武器を構える余力を残していた。
「ところで神父よ。汝は狂気か、それとも正気か」
 気にはなっていた。その返答如何で何がどうなるというものでもないのだが、彼の行動は狂気に支配されたと断定し難い。寧ろそこらに転がっている感染者の方が、余程気狂いに落ちていたと言える。
 非常に残酷な話だ。生き返るという優しいふりをした汚泥のようなの悪意。
 神父は答えない。それでもいい。結果は変わらないのだから。
「正気であったのなら、ご愁傷様なのじゃ」
 そう告げて、華鈴は神父の首を跳ねた。

●つちはつちへ
 最後まで、君たちの名を呼ぶ権利を私は持ち得ない。

 燃える。燃える。赤々と燃える。
 彼らの墓標であるかのように、あってはならなかったことを覆い隠すかのように、赤々と燃えている。
 避難は済み、延焼は防いだ。これ以上火の手が他の移ることもなく、この豪炎が最後の一咲である。
 誰かが啜り泣く声がする。かけるべき言葉はない。とうに終わっていたはずのことが、とっくに過ぎ去っていたはずの悲しみが、少しの間だけ先延ばしになっていた。それだけのことなのだ。
 優しいようでその実残酷な、悪意の濁流に飲まれていただけなのだ。

 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

生き返って欲しい人はたくさんいます。

PAGETOP