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シナリオ詳細

<クレール・ドゥ・リュヌ>汝、悔い改めるか

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 汝、悔い改めるか――

 幾度と裁いた。幾度と問うた。
 民も、騎士も、知古も関係ない。正義に反したのならばそこに余地はない。
 全て等しく裁こう。月光の命がここに在る限り。

 不正義がそこにある限り。


「……これは、なんという」
 天義の首都、フォン・ルーベルグではその日混乱が起こっていた。
 件の黄泉返りの一件を調べるべく訪れていたゲツガの目に映ったのは、規律正しく、清く生きるフォン・ルーベルグの市民――ではない。暴徒に、狂気に塗れる一部の市民。そこに紛れる不逞の輩。
 欲が開け放たれている。なんたる様相。なんたる汚泥。
 内から湧き上がるは憤怒か? 美しき聖都をこうも汚すとは。おのれ魔種如きに……
「ほ、報告しますゲツガ・ロウライト殿! 聖都各地で同様の騒ぎが……その上に……!」
 部下の騎士が耳打つ言葉。さすれば、鋭き眼光が耳の側を向いて

 ――ヴァークライトの姿が?

「は、はッ! 情報は錯綜しておりますが、複数の証言からまず間違いないかと……」
 アシュレイ。アシュレイ・ヴァークライト。
 不正義を成したかつての騎士――己が討った筈の男の名。此度の黄泉返りか。それとも噂通り魔種となって生き延びていたのか。直に状況を見ている訳ではない故この場で『どちら』と判断は付かなかったが。
「私が成すべき事は同じと言う事ですか、神よ」
 今なお不正義たらんとしているのならば討たねばなるまい。二度であろうと三度であろうと。
 一切の妥協無し。一切の余地無し。ただ己は鉄の如くあれば良い――だが。
「強欲だねぇ。アンタ一人であれもそれもこれもどれも討とうってかい?」
「――むッ!」
 瞬間。放たれた殺意にゲツガが反射的に行動する。
 されば防の構えの上から炸裂する――轟音と衝撃。なんだこれは、爆薬か!?
「ハッハッハいいぜいいぜ。もっとほら、欲求に従って断罪していこうぜぇ?
 気持ちがいいもんなぁ。悪を討つ善なる自分って言うのは最ッッッ高に脳汁でるもんなぁ!」
 爆炎の奥から飛び出すゲツガ。振るう聖剣。跳び退る『敵』つまり――
「貴様――魔種か」
「御明察御名答。ぱぱぱーん大正解。マルグレットって言いますよろちくね♪」
 見れば男が両手に筒状の爆薬を持っている。先の衝撃は『ソレ』か。
 ……改めて断罪を成したい者はいるが。しかしこのような輩がこんな所にまで入り込んでいる状況を鑑みると、我を通している場合ではなさそうだ。かの地はかの地の者らが対応しよう。まずは目の前の敵を排除するとして――
「おおっと、噂通り過激だねぇ。殺気だけで死んじまいそーですわ。でもねぇ」
 ――別に一人じゃないんだよね。
 口の端が上がる様を見た、と同時。別方向から息を切らして走ってきた騎士がいて。
「ほ、報告! 暴徒化した市民がこちらの方へ向かってきます!
 数はこちらを上回って……築いていたバリケードももうじき突破されます!」
 魔種の狂気に当てられた者。或いは黄泉返りのモノの影響を受けた者。
 それらが大挙している? この聖都で、そのような蛮行を成すとは――
「……覚悟は出来ているのだろうな?」
 皆よ。皆よ。正義を成せよ。
 不正義に甘んじてはならない。悪を心に灯してはならない。清く正しくあらねばならない。
 それが天義の。神の正義であるのだから。もし汝が、悪に屈してしまったのなら。
「問おう」
 汝。
「悔い改めるか――?」
 月光を背に。聖都の地に彼は立つ。『月光の騎士』は断罪の意志と共にここに在る。

 ――不正義がそこにある限り。


 天義首都フォン・ルーベルグで発生した黄泉返り、死者蘇生事件は――最早隠せぬ位の公然の事実となっていた。黄泉返りに同調する人間は増え、狂気に侵された人物による事件も増え始めている。
 本来ならばフォン・ルーベルグ市民は非常に規律正しい人間が多く、これが魔種の仕業であろうとそうそう容易く事態が『こう』なる筈はないのだが……レオンはこの点に関してこう推察していた。

 ――自分にとって全く関わりの無い赤の他人と、自分にとって大切な誰か――より感情を揺さぶるのがどちらかなんて、魔種がどうこう以前に分かり切ってる。

「狂気。反転。全ては感情に基づくものだからね……些か経緯は違うけれど、今フォン・ルーベルグで起こっている事態はかつての『サーカス』を彷彿とさせるものだよ」
 ギルオス・ホリス(p3n000016)はそう語る。そう、幻想であった『サーカス』事件と似ているのだ。狂気の感染という意味で……本来粗暴で無かった者が事件を起こした――あの事件と。
「黄泉返りの者達が狂気の『アンテナ』として成立しているんだろうね。アンテナとしての性質は、魔種の能力によるものなのか……ハッキリとはしないけれど。感情を揺さぶっているという点では非常に効果的に動いているのは確かだ」
「しかし……相対した連中からの報告を見ると、必ずしも黄泉返りの者達は敵対的・悪意的な態度は取っていない。狂気に積極的に落とそうという態度もないが」
「うん、つまり――狂気の云々は黄泉返りの者達の『意志によらず』と言う事なんだろう」
 生前とほとんど変わらぬ態度でありながら。生前とほとんど変わらず接しながら。
 身近な者を――狂気に落とす。そういう『人形』……それが、彼らだと推察されていて。
「ともあれ渦中の話をしよう。天義の首都フォン・ルーベルグでついに爆発的な動きがみられた。魔種の存在や、狂気にあてられた暴徒の存在も確認されている。君達にはその一角に向かってもらい、騎士達の援護に当たってもらいたい」
 あまりにも急激な『爆発』だ。この爆発、自然ではなく狙って起こされたモノとしか思えない。
 ――ローレットが依頼として事前に対応していて本当に幸いだった。ローレットが対応した分が無かったのなら、水面下に潜んでいた爆弾の威力はこれで済まなかっただろう。常夜の件も同タイミングで発生していれば、どうなっていたか……
「さて、しかしこれは……まぁ偶然なんだろうけどね」
「……何がだ?」
「いや、何ね。君達が今から向かう所は『月光の騎士』と呼ばれるゲツガ・ロウライトさんが中心になって対応に当たっている所なんだけれど」
 黄泉返りの者達。死者蘇生となって歩いている者達。
 これらの識別として一つの『名』が確認されている。それが。

「――彼らの識別名は『月光人形』」

 月明かりに照らされた『正義』と『不正義』
 最後まで在る月光の命は――果たしてどちらなのか。

GMコメント

■依頼達成条件
 戦場から敵勢力を『撃退』する。

■戦場
 フォン・ルーベルグの一角に存在する、少し大きめの橋が戦場。
 迫る暴徒に対しバリケードが築かれていたが、既に一か所破壊されている。そこから更に内部の住宅街へ進まれようとしているようだ。後述する騎士達が必死の防戦を行っている。
 イレギュラーズは騎士達後方側から駆けつけている状態からシナリオスタートする。

■敵側
■魔種:マルグレット
 『強欲』の方向性を持つ魔種。
 爆薬を撒き散らし範囲・域攻撃を得手とする模様。
 暴徒の中に紛れ攻撃を行ってくる。直接最前線へ出張る気が無い様だ。
 また、詳細は不明だが彼の姿・声は異様に『捉え辛い』傾向がある。恐らく周りの喧騒に非常に紛れやすい特殊な能力を持っていると思われる。現時点で判明している能力は以下の通り。

・反応とEXAが高い。
・常に狂気を振り撒いている。
・破砕爆薬:物遠範【ブレイク】【飛】【泥沼】
・炸裂爆薬:物遠域【業炎】【流血】【致命】
・???:物遠範【溜1】【呪い】【必殺】

■月光人形×3
 元騎士×1 男性×1 女性×1 の月光人形達。
 それぞれ個体ごとの素養に影響されるが一定以上の戦闘力を持ち、本人の自我や心情に関わらず抵抗行動を行ってくる。また――偶然かもしれないがここに集っている月光人形は全て過去に『ロウライト』により断罪された者達。

■暴徒×50
 狂気に塗れた者。月光人形に影響された者。騒動に乗じただけの者。
 様々な事情から集った一般市民の集合体。時間が経てば更に増える恐れも。
 狂気に深く犯されている者程戦闘力が高くなる傾向がある。とはいえ一般人という範疇を遥かに超える程強くなる訳ではない。中には一部、火炎瓶を所持している者もいる模様。(一回限りの物遠範攻撃効果を持つ)


■味方側
■『月光の騎士』ゲツガ・ロウライト
 『月光の騎士』の名を冠する天義の騎士。
 聖剣【禍斬・月】を携え、齢85に至ってもなお実力を保持する歴戦の人物。
 不正義を成した者には一切容赦する気がない。魔種だろうが市民だろうが。
 最前線で鬼神の如く奮闘中。

■天義騎士×4
 天義の騎士。剣と盾を携え、バランス型の性能。
 狂気に塗れた一般人だろうと、早々負けないぐらいの実力を持つがいかんせん数の差に押されている。元々はもう少し数がいたのだが、戦力差と魔種のトリッキーな動きに翻弄され数を減らしているようだ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <クレール・ドゥ・リュヌ>汝、悔い改めるか完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年05月29日 21時50分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)
信仰者

リプレイ

●月光の下で
「天義。そして月光人形、か……」
 死者が蘇る。そんな事に思う所はあれど、今は目の前の事態に対処すべきかと『追憶に向き合った者』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は思考する。もしも失った者が目の前に現れたのなら――か。しかし。
「ゲツガさま! 私は――ロストレイン家の者です! 力を貸します!」
 今は関係ない、と『天義の守護騎士』アマリリス(p3p004731)と共に戦場へと前進する。眼前に広がるは暴徒の海。火炎瓶を投げつけ炎を広げバリケードを突破せんとしている悪意の波。
 許さない、赦せない――アマリリスは心中に広がる感情を噛み締め。
「アラン……貴方が勇者であるのならどうか、この国の民をお救いください。力を……!」
「はっ――全く聖女様はよくぞ仰る」
 たった一つの命だって救いたいのだと、天に捧ぐ祈りと共に『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)へと言葉を紡ぐ。アランが向かうのは暴徒の渦中。駆け抜け放つ蹴りが暴徒に――直撃。命までは奪わぬその蹴撃で抑え込み。
「行くぞ聖女アマリリス様よぅ。頑張りゃ半分くらいは助けられるだろ」
 全てでなくとも、この手に掴める限りを。
 しかし一難去ってまた一難……怠惰の魔種を倒した思えば新しい魔種のお出ましとは。
「まぁなんやかんやでこの国も……俺とは完全に無関係って訳じゃないしな。
 太陽の勇者、推参仕るぜ」
 しかし皆頼りになる面々だと剣を構えて。押されがちだった橋上の戦況は彼らにより膠着を見せる。思わぬ増援、よもやとゲツガが思考をすれば。
「……お祖父様!」
 訪れるは『神無牡丹』サクラ(p3p005004)――己が孫娘。
「どうか聞いてください、ここの月光人形達は……かつてロウライトが断罪した者達です」
「――なに?」
「お祖父様の信義は、勿論。しかし人形達さえ倒せば正気に戻る民もいましょう……!」
 敵を探る為記憶を辿ってもらえないかとサクラは言葉を。聖都の民。人形達さえ倒せば正気に戻る者もいよう。罪なき民を救う為――ならば己がやる事はと、その目に灯すは己が信義。
 彼らは暴徒。されど原因は魔種なれば真に討つべきは民ではなく。
「そりゃあ魔種の方だよな――ようゲツガのじーさん。前は世話になったな」
 借りは返すぜと『インゴットを3つ集めた』天之空・ミーナ(p3p005003)は中衛の位置から癒しの術を紡ぎ上げる。前線を支えていた騎士達を包み、体力を支えて。
「聞け暴徒諸君! 今! 自分が何をしてるのか! 自覚はありや!!」
「我々は不要な殺害は望まない。速やかに武器を捨て退去せよ。繰り返す――」
 次いで『駆け出し』コラバポス 夏子(p3p000808)と『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の声が響き渡る。それは暴徒に対する言。
 不動の構えから雄弁に語る夏子。かたや場全体に広がる巨大な声を届かせるイーリン。
 同時、イーリンは思考する。
 過去の様々。嗚呼、悔い改めるかと問われれば。
 私には必ず天罰が下るでしょう。
 だから好きにするわ。一人でも多く助ける――その為に。
「神がそれを望まれる」
 声を届かせる。天義騎士に反抗した者達だ。ローレットが来たからと言って戦意喪失はしないだろう。だが理解しろ『私達』まで来たと言う事を。でなくばと。
「……魔種に暴徒……全く騒がしい。聖都の地をなんと心得るのか……!」
 己も務めを果たせねばならぬ、と『信仰者』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)は思考する。神に仇なし聖都を乱し、隠れ潜む魔種を見つけんと、目・耳・鼻の三種を用いて彼女は探る。
 同時放つは魔弾。貫通の能を持つ一撃が戦場を穿ちて。
「ヒヒ……不正義不正義。異教徒は人間に非ず、かねぇ。全くいやいや……人に違いはあるまいに虐殺する相手を。『していい』と断定し、人間と思わぬ様は実に愉快さね。ああ強欲だ」
「とはいえローレットの方々はお優しい。『そう』ならぬ様と信義をお持ちだ」
 そして『闇之雲』武器商人(p3p001107)がメカ子ロリババア二体とギフトによる従者にバリケードの押し戻しを命じて。更にその後ろでは『風来の名門貴族』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)が飛翔の構えを取る。
 民。狂わされたとはいえ行いは間違いなく不正義。処されるべき対象でワタシとしては方針に口出しするつもりはなかった、が。そう動くというなら良し。
「さぁ行こうか」
 共に目的を果たす為に。黒翼を広げて――空を舞う。
 天より見据える戦場全域。月光に照らされる暴徒の波は止まるのか。はたして――

●説得
「お願い! 落ち着いて話を聞いて!!」
 アマリリスの声は透き通る様に。いや声だけではない。
 十字の証。信仰を集めんとする程の能を持つ彼女の一挙一動は人の目を集める。多くの喧騒。怒号に狂気――掻き消されまいと叫ぶ一つの祈りは折れる事はない。
 投げつけられた瓶がアマリリスの額を捉えようと。血が流れようと彼女は必死に振舞うのだ。悲しみ舞い散る世界の救世を願い続けた、あの日の誓いに嘘は無いから。
「――心を奪われてはなりません!」
 今は扇動者、魔種に踊らされているだけ。どうか欲望に負けず。
「己を取り戻して……!」
 なぜなら神様はいつだって。
「正しい者を救ってくださるのだから――!」
 夏子やイーリンの説得の言も相まって、その声は暴徒の一部についに届く。
 そうだ、己らはなにをしているのだ――と。魔種の狂気に塗れてしまった者や月光人形に追従する者は精神を乱されている故に、必ずしも効果があったとは言い難いがそれでもそれ以外。日々の鬱憤などから暴徒へと転じた者達には絶大であった。
 暴徒の一部に乱れが見える。そこへ跳躍するはサクラだ。
 バリケードの破られた地点の些か奥の地点へと飛び込んで。
「ゲツガ・ロウライトが孫娘、サクラ・ロウライト――参る!」
 高らかと宣言する。『ロウライト』の名を。
 月光人形達はその名に討たれた者達。ならば些事と捨て置けまいと、自身へ注目を集めるのだ。さればバリケードへの圧力も幾何か減るだろうと思考も重ねて。
「……ゲツガさん。戦いが本格化する前に一つだけ質問を」
 言うはクロバだ。サクラと共に前線に飛び込む、前に確認しておかねばならない。
 人形が断罪された者達なら。

「月光人形はロウライト家を恨んでいましたか?」

 一瞬の沈黙。恨んでいたか、そうでないか――
「さて。納得して斬られた者。抵抗した者。天に赦しを請うた者……
 いずれも斬り捨てたこの身。『それ』を向けられる事があるかもしれませんな」
 多くを斬ったのだ。天義の騎士のあるべき姿として。
 ならばとクロバが行うは感情探知だ。蹴戦で眼前を対応しながら探るは『憎悪』
 多くの悪意、怒りが巻き起こっている戦場。精度を高めながら人形の位置を探らんとして。
「さて……ふむ。随分と数が多いね。だが」
 同時。天より状況を見据えるレイヴンが行うは精霊との交信だ。
 精霊の性質……空にいながら相性が良いのは風の精霊だろうかと思案すれば。
「さぁ。悪意ある者、あるいは意思無き者を探しておくれ」
 妖精の主が如き異能にて精霊へと指示を下す。探すのは月光人形と魔種だ。悪意のある者――魔種は暴力に溢れている暴徒の中から精霊で探すのは難しい。が、月光人形の方はまだ些か特徴がある筈だ。確認が取れ次第、地上へと――
「――むっ!」
 瞬間。レイヴンの眼前に映ったのは爆薬だ。
 導火線への火花を確認、と同時に炸裂する衝撃。地上からの投擲攻撃には気を使っていた故なんとか衝撃の多くを逃す事には成功したが――やはり飛行しながらでは攻撃も回避もし辛いモノだ。注意していても厳しいだろう。
 しかし今のはどこから。地上を再度見渡すが、魔種の姿は紛れて見えず。
「成程ねぇ。色々隠れる為の考えはある、と言う訳かい」
 武器商人の視界に映っているのは温度だ。温度の高低がその目に映る。
 しかし火炎瓶が投げられる戦場。熱源になりそうなものは多く、また説得により暴徒の一部は減ったものの――前述した狂気の深度が深い者は多く残っており奥まで見え辛い。
 地上からではもう少し数を減らさねば効果が薄いだろう。
 武器商人は周囲の戦闘士気を向上させる術を振るいながら調査して。
「まだ残る者がいるのか――思い出せ! 諸君らの高潔な天義魂を!」
 そして夏子の叫びは続く。己に問えるか今の所業を。家族に、国家に誇れる様か。
「正義に利するなら良し!」
 脳髄を働かせろ。木偶人形か。そうではないのだろう。違うか、どうか!
「――解っかんねえなら家帰って頭冷やせ! 考えてこーい!」
 放つ横薙ぎ。炸裂する音と光。並行されしギフトの能力。
 ホント無理仲良く出来ない魔種は不倶戴天。でも民はそうではないから。
 力を尽くそう。限りまで。例えそれが俺の我儘でも。
 魔種の平穏、魔種の平和など知らないが――僕らの平和は俺らで勝ち取る。
「曲がれ――ッ!」
 更に行くはイーリンだ。橋中央付近の暴徒を狙って、放つは魔力。
 紅と蒼の螺旋が視界の先に炸裂する。魔力の酷使により、目から漏れだす魔力。
 薙ぎ払う。とにかく戦線が崩壊してはいけない。この場で留めるべく。
「チッ、魔種の奴どこだ……!? 見つけねーとやばいかもな……!」
 しかし不殺の行動を継続するアランが危機感を募らせる。月光人形は位置が判明したのもいるが、魔種がまだ不明なのだ。サクラやコーデリアが超嗅覚にて火薬の匂いを探っているが複数の火炎瓶や多数の人々などここには『匂い』の元が多すぎる。
 特に火炎瓶が厄介だ。あの匂いは果たして魔種の爆薬の匂いなのか? どれが魔種の爆薬だ? 判断に困る要素多い。せめて暴徒を早急に減らせれば特定もしやすい、のだが。
 イレギュラーズは選んだ。不殺の道を。多くの者を救う道を。
「……とはいえ時間ってものは来るもんでな」
 その時常に待機して状況を見据えながら回復行動を取っていたミーナは呟いた。
 そう。選んだとは言っても永遠にではない。
「恨むんじゃねーぜ。悪いのは、お前達でも私達でもない――隠れてるクソ野郎共だ!」
「不逞の輩よ。今こそ私は、私に課せられた務めを果たしましょう」
 コーデリアが言う。時間にして約四十秒。それが彼らの定めたボーダーラインだった。
 その時間だけ説得に専念する。救う者は救う。それでもそれを超えたのなら――

●不正義
 ゲツガは不正義を成した者に容赦をするつもりはなかった。
 正しくないのならば裁かれるべきだ。昨日罪が無かったのだとしても今日不正義であったのなら明日に続けぬ為に討つ。例えばそれが近しい者。或いは――自分であったとしても。
「……限界か」
 彼らは神の使途。尊重し、幾何か説得の様子を見ていたが、このままでは防衛線は突破されてしまうだろう。騎士と共に断罪の意志を掲げ――その時。
「聞け、聖都の民よ!!」
 鳴り響いたのはサクラの声だった。彼女は続ける。意志と共に――刀を掲げて。
「生きていれば迷う事も過つ事もある……それでも人は悔い、改める事が出来る!」
 言うは真。嘘無く偽り無く、心の奥底から叫ぶ彼女の意志。
 昨日を善く生き。今日誤ったのだとしても、貴方に改める意思があるのなら。
 きっと明日は、再び善き日に出来るから。
「今より我らは――魔種を討つ!」
 それは最後通牒とも言うべし警告。これより先は無しという意志。
「正義は我らが手に、光は我らが胸にある!」
 負傷者を連れ避難せよ――言葉と共に輝く刀。祈る意思が神の祝福を宿したのだ。
 輝きを帯びた軌跡は月を思わせる。眩しい程の閃光が――刀と共に煌めいて。
「く……ッ神の為、国の為、民の為……ここから先抗う者は断罪するしかないのか――!!」
 負傷しながらも常に説得を続けていたアマリリスもついに言を止める。
 震える肩。奥歯を噛み締める圧が強く、歯軋りしてしまう程に。それでも多くの為。割り切らねばならぬのならと前を見据える。魔種に心を奪われた者は、もう戻らぬと知っているから。
 光翼の一閃が味方を癒し、そして敵対者だけを穿つ。それらを皮切りに。
「今は死神として――在るべきものを在るべき所へ還すんだ。
 サクラ、皆。やろう! 無駄になんか絶対にさせない!」
「っし! 行くか俺に合わせろクロバ! こっから押し切るぞ!!」
 クロバとアランが共に往く。魔種はともあれ、月光人形の姿は見える。
 彼らを潰せば人形の影響下に置かれている者は解放出来よう――アランが放つは神速。踏み込む、その跳躍は全身の力が宿っている。邪魔な暴徒を強引に掻き分け放つ刺突――豪閃。
「ここで安らかに眠れ、月の傀儡よ!!」
 アランの叫び。更に逃さず、クロバは己が魔を宿しアランの直後に焔魔を振るう。恍惚なる状態に叩き込まれたその一閃は、月光人形と言えど大きな負傷を一撃で与えて。
「我が意志を知りなさい。人々を惑わした罪は大きい……!」
 そこへコーデリアの射撃が行われる。二丁拳銃から放たれる連続的な射撃が敵を捉えるのだ。全力。全力たる攻撃の意を宿したそれは強烈な勢いで戦場へと振舞われ、人形を砕いて。
「やむをえまいね。事、ここに至っては――是非も無し」
 空にいるレイヴン。人形に対しては位置が分かり次第ブラックドックを放っていた。しかし魔種が特定できていない現状では、かの妖精の牙では『足りぬ』と判断し。使役するは熱砂の精霊。
 天より落とす重圧。発生する嵐が周囲一帯に激しい衝撃を叩き込んだ。浅く、広く。一点のダメージよりも、とにかく炙り出しを。紛れる事が上手かろうと、これだけの範囲を纏めて叩けば紛れるも何もあるまい。だからこそ――
「はははいや豪胆だなぁ! 初っ端からされてたらたまったもんじゃなかったぜ!」
 レイヴンは狙い撃ちされた。聞こえた声。撒かれる爆薬。
 相当に嫌な攻撃だったのだろう。集中攻撃だ――成程これは躱せない、が。
「見えた。行け、牙よ」
 炸裂前に声の主を捉えたレイヴンがブラックドックを放つ。勿論魔種へ。上空で大きな爆発音と同時――放たれた精霊は魔種に噛みつき。
「そこかいヒヒ、一度分かったらもう逃がさないよ?」
 瞬時、特定したそこへ武器商人が放つはカラーボール。弾ける色水。
「おぉなんだこりゃあ……!?」
「おや知らないかい? カラーボールさね。姑息な輩によく投げられるものなんだけど」
 いつでも取り出せるようにと用意していた――カラーボール。魔種が見つかれば投げられるように備えていたのだ。本来なら準備しておかねば、その場ですぐに用意出来るとは限らない物だが。
「――ま、こんな事もあろうかとね」
 備えてはおくものだとほくそ笑んで。味方の治癒行動を継続し。
 そして一度目印を付けておけば状況は変わるモノだ。再び紛れようとも、カラーボールの液は垂れる。垂れる位置から移動方向を『目』で、垂れる音を『耳』が捉えて。
「いましたね――そこッ!」
 コーデリアが狙い撃つ。そうそう逃がして溜まるものか。
「ミーナ! 死神らしくあの世から引っ張り上げるわよ!」
「ほいほい。もういっちょ――やってみますか」
 次いでイーリンとミーナが往く。もはやここからは死を齎すモノとなる。
 放つ魔砲。位置取りに気を付けて、敵だけを巻き込まんとして――同時。イーリンは魔種を狙う。突撃し、放つ剣撃は魔力を込めし一撃だ。カリブルヌスと名付けたそれは敵を捉えて。
「あは、ははは! 民も助けたいし俺も殺したいのか!」
 されど止まらない。投げられる爆薬は無造作に。民も騎士も関係なく魔種にとって考慮すべきものは何一つない。説得の最中も常に隠れて投げ続けていた。その間に稼いだ被害は相応のモノ。
「楽しいかい? 僕ぁ君への邪魔が愉快だよ!」
 魔種、魔種魔種――ふざけるなお前達はなんなのだ。
 夏子は魔種の邪魔をせんと槍を振るいながら吶喊する。気持ちよく皆で過ごしたいのだ。当たり前のそれをなぜ邪魔する。カフェデートの約束もあるのだ――砕けろ魔種!
 それでも狂気に塗れた暴徒と人形に心を乱された暴徒が邪魔となる。人形の影響は人形を排除してからの説得ならば十分通じただろう。せめて後この者達がいなければ。ゲツガがまた一体断罪するも――
「くっ、バリケードが……突破される!」
 夏子は見た。保護結界で守っていたバリケードだが範囲攻撃や戦闘の余波では効果が突き破られ。一度完全に破壊されてしまえば数で勝る彼らを橋で止めるは不可能。後方まで一旦下がり態勢を立て直さねばならないか……!
「神が正義を望まれる!」
 瞬間。ゲツガが叫び騎士が奮い立つ。
 趨勢は決したろう。ならば後は――負傷者を連れて撤退する必要がある訳で。
「ここまでのご助力には感謝を。しかし元は我らの使命。殿を務めますので後方へ」
「何、ロウライトの旦那。これでも我はそういうのは自信があってね――手伝うよ」
「ならば共に」
 倒れぬ事。その一点において武器商人は隔絶たる才を持っている。
 務める殿。不殺にて気絶した市民や、負傷した者を連れて――残念だが、撤退を行おう。
 魔種の撃退には至らなかったが。死した者もいなかった。

 命さえあればまだ成せる事はあるのだから――

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)[重傷]
騎兵隊一番翼
アマリリス(p3p004731)[重傷]
倖せ者の花束

あとがき

 依頼、誠にお疲れさまでした。

 民を救うという気持ちに一切の間違いは無かったと存じます。
 彼らを最初から全て不正義とはせず、払わなかった事。厳しくはなりますが勝機はありました。
 惜しかったのは「順番」です。

 ご参加どうもありがとうございました。

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