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シナリオ詳細

アンダー・ザ・ローズ~追憶の節

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●とある画家の切望
 私は――恵まれた方だと思う。
 魔術師として大成する夢に破れ、ならばと絵筆を執った。本当は魔術師としてありたかった、そういう“未練”を絵として発散していたら、地方貴族から援助の声がかかった。
 間違いなく、画家としては成功したと言えるだろう。
 しかし「これで良いのだろうか」と、いつも自分に問いかけている。
 其れは誰もが同じだった。妻を亡くしたパトロンの未練を絵に描き、彼には大変喜ばれた。正確にいえば、喜んでいるようで懐かしんでいるようで、過去に捉われている己に悲しんでいるようにも見えた。
 ああ、誰もが己に疑問を抱きながら生きているのだと、其の時思った。だから、其の疑問が少しでも消えればいいと、ひたすらに未練を描き続けた。
 しかしどうも、最近筆が奮わない。
 パトロンの未練は描き尽くした。というより、これ以上彼のプライベートに踏み込んではならないと、僅かばかりの倫理が警告している。
 幼子ならどうかと街中で覗いてみたりもしたが、曖昧模糊として絵にならない。
 友人なら漠然とした幼子の夢も、形にするのだろうか――そう考えて、友人が新たに手に職を持ったという噂を思い出した。
 そうだ、ローレット。
 どんな依頼でも受けるという彼らにも、未練はあるのだろうか。
 あるとすれば、どんなものなのだろうか。
 これは興味だ。私は友人に連絡を取るべく、久方ぶりに羽ペンを執った。


●ローレットにて
「画家はパトロンが付くまでが勝負だ。知ってるかな」
 グレモリー・グレモリー(p3n000074)はそう切り出した。さらさらと、小型のキャンバスに鉛筆で何やら描きながら。
「パトロンが付けば基本的に画材にも資料にも困らないからね。でも、パトロンを得るには彼らの心を掴まなければならない。その辺りで、僕は失敗したんだけど――知り合いにクライクス・ジュモーという画家がいる。彼は数少ないパトロンを得た画家の一人だ」
 ぱたり。
 一段落したのか、キャンバスを伏せて置き、グレモリーは改めて一同を見渡す。
「何度か他の人にもお願いした事があるんだけど、彼は魔術師に師事していたことがあってね。人の心を覗く術を会得している。今回は、彼に心を覗かれてきて貰いたい。……ごめん、語弊があったかもしれない。彼に過去の未練を見せてあげてほしい」
 グレモリーは小首を傾げる。曰く、クライクスが主に描くのは「人の未練」。あれが欲しかった、これになりたかった、失ったもの壊れたものへの追憶……などなど、様々な未練を垣間見、噛み砕いて絵画にしてきたようだ。けれど、身近な人間の望みはあらかた描き終わってしまったのだという。
「彼は筆が速くてね。仲間内でも有数の速さで……だから、ネタが尽きてしまったんだろうね。君たちに“未練を見せて欲しい”という依頼なんだ」
 今までにも、怒りとか恐怖とか、見せて貰った画家がいるよ。彼らはいま制作に打ち込んでいるんだけどね。そう言って、キャンバスのふちを撫でるグレモリー。
「君たちの力を借りたい。……僕? 僕は、余り過去に興味を持たないから。覗かれた事はあるが、絵にならないと言われてしまったよ。だから力にはなれない。――君たちは色々な依頼をこなしてきたと思う。そんな君たちだ、“あの時ああしていれば良かった”という事の一つや二つ、あるんじゃないかな」
 キャンパスを撫でながら、いやに穏やかにグレモリーは語った。
 地図を取って来るよと席を立った彼。残されたキャンバスには何が描かれているのか。誰もがそれをめくれずに、己の過去に思いを馳せていた。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 グレモリーの友人がネタ切れを起こしました。ここまでテンプレ。
 関連性は殆どありませんので、今までのストーリー知らない、という方もお気軽にご参加ください。
 今度は「未練」です。割と裕福な画家のようですが……

●目的
 奇怪画家「クライクス」を助けよう

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●立地
 住宅街にある広めの一戸建てです。
 パトロンのお陰なのか、羽振りは悪くなさそうな感じです。
 家の中には画材や資料がたくさんあります。

●エネミー?
 クライクスの作り出す幻影

 真っ暗闇の中に、貴方の未練と伴う過去が映像となって現れます。
 それは無音かも知れませんし、モノクロかも知れません。
(お好きにプレイング内で指定してください)
 貴方の心情を一定時間映すと幻影は消え去り、元の景色が戻ってきます。


 基本的に個別描写です。
 また、アドリブ描写が多めの傾向がありますので、プレイング通りに記載して欲しい!という方も明記をお願い致します。
 では、いってらっしゃい。

  • アンダー・ザ・ローズ~追憶の節 完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年05月17日 21時40分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)
幸運:E
認めてほしい人に、認められなかったこと。それが未練というのだろうか。

――モノクロに映る元の世界の光景。
そこに映ったのはイラつくほどに自分に似た顔。
自分を拾った育ての、”剣聖”を自称する男だった。

本当”クロバ”という男は戦う事を好んではいない。
だがどこまでも強さを求めた理由というのは、自分が守ると誓った大切な妹の存在と、この憎い程に大きな存在のあの男である。
故に、映し出される映像とは。

「ハハハ、今日もオレ様の勝ちって奴だな?」


まだ子どもだった頃。左眼と左腕が普通の人間と同じ、どこにでもいるような少年だった時代の事だ。
敗北の記憶。100から数えるのを止めた、屈辱の日々。
負ける度に男の技を真似、自分の身体に叩きこんだ。
その技を以てしても触れられない、名前に違わぬ人外じみた阿呆かと思うくらいの強さ。

努力すらあざ笑うような圧倒的な才覚。
男は言った。

「お前は剣の才能がねぇ。大人しく飯でも作ってた方が向いてる」

それでも止まらなかった。
悔しさ、怒り、憎しみ――色んな感情と共にとにかく剣を振り続けた。
どこまでも高い空を目指すような思いで、挑み続けた。
いつか勝てた日に、”父”と皮肉交じりに呼んでやろうと思いながら。
だが――その”夢”は奴によって――妹を殺すこととなってしまった日に全部、裏切られた。

故に、クロバという男の未練は。
憎みながらも家族と呼びたかった男に認められなかったことである。

アドリブ歓迎
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
追憶に向き合った者
アドリブ歓迎

未練ならいっぱいある
依頼で誰かを助けられなかった
息子を逃がす為に異界の侵略者と戦って、負けて洗脳されて悪事を働いた事
でも一番は……幻想に召喚される直前
息子を、梨尾の名を思い出せなかった事だ

洗脳された俺はある夜、偵察の為の隠密行動の最中に
黒い犬獣人の青年に見つかった。叫ばれる前に始末しようとして
洗脳で理解できない筈の日本語で、父さんと泣きながら俺に声をかけてきて
その黒犬と毎日一緒にいたような気がして動きが止まって
黒犬に腹を貫かれて、その時に洗脳が解けかけたんだと思う
走馬燈は見えず、息子が俺より強くなった事が嬉しくて

息子と分かるのに名前が
必死に考えて以前の名を少し残した読み方にしたのに
名前だけは思い出せなくて
思い出そうとしてるうちに息子に懐中時計を返されて、もういいよと言われて

腹の激痛に意識が飛びかけて、視界が黒くなって
それでも手を動かして、涙を流す息子を抱きしめようとして
「さようなら、パパ」という言葉とむせび泣く声が遠くから聞こえた

気がつくと召喚されてて
ギフトでようやく名前を
梨尾を思い出せて
涙を拭けなかった事が、名前を呼び返せなかった事が
とてもつらかった

ありがとう。クライクスさん
俺の未練が貴方の役に立てるか不安だが
俺は貴方に未練を描いてもらえて、本当によかった

父親として絶対に家に帰って
梨尾を抱きしめて撫でて
ありがとうとごめんなさいをいっぱい伝えて
この未練を断ち切ってみせる
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人
●心情
人の記憶を覗き見る魔術っ!あらやらしいっ!
あんなことこんなこと知りたい放題覗き放題うふふのふっ!
しかしながらこの未来人ヨハナ、記憶らしい記憶がなければ未練も薄くっ
お力添えならぬやも・・・・ なので、はい
ヨハナのことはどうかお気になさらずにっ!

●人柄
底抜け前向き賑やかし
根が利巧すぎるギャグキャラ
常識を欠くが非常に良識的

●略歴
ヨハナは『自称』未来人である
過去(未来)の記憶はない。名前ですら自身のものであるかは怪しい
あるのは未来に対する朧で不吉な予感と、理解できない知識の断片だけである
彼女にはなにもなく、未練を抱くべきがなんであったかを把握できていない
あるべき過去は記憶に無く、「起源と思い込んでいる」破滅の未来は自身の手によって否定せねばならず、現在は自分の居場所ではない
彼女は致命的なまでに宙ぶらりんの人物だ
強いて言うならば、脆く不確かで曖昧な『未来人』という立場こそ
彼女の数少ない執心・・・即ち、未練とよんでもいいのかもしれない
幻影を経て、それが未練と気付けるかは、また別の話

●幻影(プレイングは抽象的に書いてますが、他によい表現あるなら全アドリブ超歓迎
無人の映画館にひとり
スクリーンに投影された『自身が体験した「現在」の記憶』の走馬燈を眺める
他人事のように無味な表情で
投影の中に自身は描写されない
「いいなぁ」と、一言零す

終わったら依頼主さんや皆さんとお食事したいですっ!
清水 洸汰(p3p000845)
雲水不住
心情
おー、またグレモリーの知り合いー?
絵描きの人って、面白い魔法使える人、いっぱいいんのなー!
それじゃあ、今回もこのコータ様が、悩めるゲージュツカのために一肌脱ぐぜ!

追憶
オレの何度目かの誕生日
父ちゃんと母ちゃんが、言っていたのを偶然聞いちまったんだ

「洸汰ももう、歳か。あっという間だったな」
「ふふっ、今年のご馳走も、コーちゃんの大好きなトンカツよ」

ここまでは気にしなかった、けど、その先

「ユーちゃんの分も、きっと元気に、たくましく育ってくれたのね」
「……そうだな。できれば、ユウタと一緒に、遊ばせてやりたかったけど」
「……そうね。コーちゃんは元気な子だけど、ユーちゃんは、どんな子に育ったかしら」

ユータって誰だ?
……今ここに居ないって事は、オレが知らないうちに、死んじゃったのか?
オレも知らない、オレの兄貴。それとも、弟?

その後オレは、遊びから帰ってきたフリして、いつものように「ただいま!」って、なんでもないフリをして
……『ユータって誰?』って、短い言葉すら出せなかった

その年の誕生日も、オレの大好きなトンカツ、かーちゃん作ってくれて、皆でケーキを食べて、誕生日の歌を歌ってくれた

だけどオレは、一番知りたかったことを聞けないまま、混沌に来ちまった

でもその、ユータってやつは、今はそう遠くない所にいる気がする
……根拠はねーけど、この世界、何があっても不思議じゃねーしな?

※プレ外の言動、アドリブ大歓迎
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
愛の吸血鬼
☆未練とは?
それは、日々積もり積もっていくもの。
忘れようとしてはいけないし逃げてはいけない。
目を逸らしてもいけない。
それに向き合い続ける事は大変。

でももしあの時、こうできていたら。
この未練はなかったかもしれない。
けど、それはできない。
その時、その瞬間の時間はその一瞬だけだから。
最良の選択と言えるのか?
それは誰にもわからない。
でももし、それをしなかったのなら。
今ここにいる"自分"はいないだろう。

☆もしあの時…
私はその日、魔術学校からの帰路である事を思い付いた。
病弱な妹でも、何か驚く事があれば病気に弱い体質も
どこかへ行ってしまうだろうと。

『驚く事…うーん、そうだ!』
とびっきりの珍しい材料を使って、びっくり箱を作る。
私は魔術学校の先生や友人を頼り、
世界に一つだけしかないびっくり箱を作り上げた。

それが間違いだった。

それを作ったことにより、未知の事象が発生し
異世界へと召喚されてしまったのだから。
妹は、今どこで何をしているのだろう。
不安は募るばかりだ。

私の世界では、
人間は必ず何かしらの魔術の素養を持って生まれてくる。
でも、いいことばかりじゃない。
強力な魔術であればあるほど、
術者に及ぼされる反動は大きい。
もし魔術なんてなければ、
妹も普通の生活が送れていたはず。
魔術なんてなければ、戦争も起きなかった。
戦争がなければ、
皆が笑って幸せな世界になったはずなのに。

もし、時間を巻き戻せたのなら…


アドリブ歓迎
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
繊麗たるホワイト・レド
…人の身でも多い後悔や未練、私も決して少なくはないさ…
…私は昔の記憶が曖昧ッスからね…こうやって過去を見れるのは貴重なんッスよ…


…暗い、暗いな…私の未練とは…果たして…

少しぼやけた様な、セピア調の気色
…記憶が曖昧なら、映像もか…?

少しして、1人の少女が出てくる
…あれは…?…あれが私の未練…?

…だって、お前は…
…私…人であった頃の私なのか…?

靄がかった景色が徐々にくっきりとしていく

あの病にかかった私は体は動かず、息もろくに出来ず…遂には死んだと思われ、石棺の中に埋められた…生きているにも関わらず
…生きたいと、只々生きたいと願った私は、自分の服を喰らって、泥水を啜って、神に祈って、悪魔に縋りついて…

…幾つ時が経ったか、私の石棺は掘り出され、遂に外に出る事が出来た…名実共に、吸血鬼として…

…あのまま生きたいと願わなければ?
…人として死んでいれば?
…私は化け物にならずに?
…町の人も、知り合いも、家族すらも私を吸血鬼と忌み嫌った…

…私は、私は、化け物になんかなりたく無かった


…未練が私自身とは…いっそ忘れていた方が良かったんですかね、こんな記憶
…私が、私が生きたいと願ったんだ
…今更、どうなる事でもないさ…


…終わったら、飲みに行こう
…嫌な事も全部、流してくれる

※アドリブ歓迎、幻影が喋るかどうかなど
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
画家さんのお手伝い、「恐怖」に「憤怒」と来て今度は「未練」ねぇ
なんていうか、見られたくないものばかり題材にするわよねぇ、ほーんと

「この前頼んですぐ溢しちゃったお酒への未練……なぁんて、だめ?」
まぁ、ヨハナちゃんもコータくんもいて賑やかで、きっと湿っぽくはならないでしょうし……安心かしらねぇ?

  *

昼下がり、海風の中に甘い香りを感じるリビング
(ああやっぱり、これは海洋に住んでいた時の)
故郷から逃げて……ほんの数ヶ月だけの、とっても幸せな家族の時間

お母さんの焼くクッキーがとっても美味しくて、
「○○○、おやつの時間よ」って名前を――捨てた名前を、呼んでくれた
もっともっと、クッキーもお母さんも大好きって言えばよかった

港で仕入れた商品の話をしてくれるお父さんの話も、もっと聞いていればよかった
カラフルな服とか、楽しい遊びとか、そういうものを教えてくれた
義父として、別の意味でも――「大好き」なお父さん

あの子とも、もっと話をしていれば何か変えられたのかしらぁ
「神様」が絶対な、たった一人の
――私達を密告した妹

  *

あーもうグレモリーくん、次はもっとハッピーな感情を描くような画家さんを紹介してちょうだいなぁ
……なぁんて愚痴ってもしょうがないし、今日も今日とて飲みに行くわよぉー!
せり上がって来た未練なんて、お酒で流し込んじゃいましょ!

(最近騒がしいあの故郷で――あの子はまだ、神様を信じているのかしら?)
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
聖クリスティアン
クリスティアンは考えていた。唯一心に残る後悔、それは父の事であった。

生まれ故郷のエルドは小さくも豊かで、美しい平和な国だった。
父母と兄に愛され、幸せだった。強き父は、憧れでありそして目標であった。
いずれ父のような立派な人間になりたいと思っていた。
「ああ、懐かしい景色だ…」

国内は平和であろうと、王が素晴らしくとも、妬む人間がいる。
常に隣国と比較され続けている隣国の王は、面白く思っていなかった。
そこに漬け込む者がいた。そして平和な国に突然の戦火が巻き起こる。それはクリスが九つの時。
「ああ…やめてくれ…」

長い時間、土豪や、金属のぶつかる音聞こえていた。
やがて教会の鐘が鳴り、勝利が知らされる。
城へ戻る父。すぐに駆けよるが違和感があった。右腕がだらりと垂れて動かない。
父は重傷を負い、腕は動かせなくなっていた。
「ああ!父上!父上……」

それから程なく、父は戦争で負った傷が原因で亡くなった。
クリスはその事を後悔していた。自分が大人であったなら。父と共に戦えていたなら。
父の窮地に立擦れられていたかもしれない。戦争で死なずに済んだ民がいたかもしれない。自分の無力を恨んだ。
「僕は、ひどく無力だ…何もできなかった…」

幻影が消え去ると、仲間たちの姿が見え我に返った。
「そうだ、僕は今ここで守りたい仲間や人々がいるんだ…。忘れはしなくとも過去だけを見つめているわけにはいかないんだ…!」

アドリブ大歓迎

リプレイ


「やあどうも、いらっしゃい」
 広い庭、白い石造りの家。
 そこに追憶の画家“クライクス・ジュモー”は住んでいる。
 画家らしくない家だ、と『崩消の仮心』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は一同の後ろで周囲を見回していた。『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)も思った事は同じのようで。
「なあなあ、兄ちゃんは金持ちなのか!? 絵描きってみんな魔法使えるのか!?」
 と、ジュモーを質問責めにしていた。
 薄い金髪の優男――クライクスは、いや、と照れ笑いしながら否定する。
「魔法が使える画家はそういないよ。君たちに此処を紹介したグレモリーだって、魔法は使えないはずさ。僕たちは同じ魔術師の弟子だったんだけど、そろって破門されてね」
「破門ですか? 一体何をしたんです?」
「ふふ、其れは秘密。まあ、悪戯を少々、とだけね」
  『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)が首を傾げる。けれど、ジュモーは指先を唇に添えるだけ。
「未練……か」
 そんなものは一つしかない、と『憤怒をほどいた者』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は思う。それをこれから目の前に突きつけられるのだと思うと、僅かにその瞳に憂いが差す。
「クライクスさんは未練を描いているのよね。人気なの?」
  『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)が問う。
「人気……か。人気不人気ではないと思うな。誰もが必ず抱えるものだから、共感しやすいんだと僕は思っているよ」
「共感……」
 『繊麗たるホワイト・レド』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)はぽつりと呟く。自分の未練が何かまだ判らない彼女だが、それでも誰かに共感してもらえるものなのだろうか。
「(それにしても、恐怖に憤怒ときて今度は未練……見られたくないものばかりよねぇ)」
 流石に口にするのは憚られて、『宵越しのパンドラは持たない』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は心中で思うだけにする。

 それは9人が入ってもなお余裕のある広い部屋だった。高級そうなソファ、部屋の端にある真っ白なキャンバス。『聖クリスティアン』クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)を含め、全員が着席したのを確認すると、クライクスは言う。
「こんな画家の頼みの為に集まってくれてありがとう。余りにも辛くて見ていられないと思ったら、右手を挙げて言ってくれ。すぐに魔術を切るよ。じゃあ、このキャンバスを見てくれ。じっと、そう、集中して」
 ……。
 …………。


●クロバの未練
「ハハハ、今日もオレ様の勝ちって奴だな?」
「クッソ……! 次はぜってー勝つからな!! 覚悟しろよ!」
 目を開いたクロバの前に、モノクロで流れる景色がある。剣を肩に担いで笑う男と、悔し気に頬を拭う子ども。――ああ、あれは、あれは俺だ。そして、笑っているのは――“剣聖”を自称する、俺の……

 ……妹を守るために、力が必要だった。
 強くなりたくて挑んで、負けて、悔しくてまた挑んで、負ける。そのたびに男の剣捌きを真似して、そして上回られた。何度負けただろう。100を越えた頃から、数えるのをやめた。其れほどに男は強かった。努力なんて意味がない、そう思わせる程の才覚。

「お前には剣の才能がねぇ。大人しく飯でも作ってた方が向いてる」

 いつだったろうか、言われた言葉だ。其れが悔しくて、何度も素振りをした。悔しくて、むかむかして、憎くて――どこまでも高い空のような男に、いつか勝てる日を夢見て、剣を振った。
 もし空に触れられたら、“父”と呼んでやるのだと。そう思っていたのに。

 ――……映像は其処でおわる。真っ黒な空間で、クロバは其の続きを明確に思い出すことが出来る。
 忘れもしない。妹を殺してしまった、あの日の事。全部全部、危ういバランスで積み上げてきたものを全て崩された、あの日の事。
 其の時“黒葉”は気付いたのだ。結局自分は、彼に認めて欲しかったんだと。


●ヨハナの未練
 無人の映画館、其の中央に座っていた。うふふのふ! 席を取り放題、寝そべったりも出来ちゃうのです!
 でも、とヨハナは不安に思う。記憶らしい記憶がないヨハナですが、果たしてお力になれるのでしょうか? 記憶がないから、未練ももしかしてそこそこなのでは?

 ジー……
『間もなく上映が始まります』

 あっと、上映ですねっ! お静かにしましょうね!
 ヨハナはさっと座り直して、スクリーンを見上げる。
 カタカタカタ、とフイルムが回り始める。其処にはヨハナのよく知る人物がいて、スクリーン越しにこちらに手を伸ばしていた。
 とても楽しそうな記憶だ。かと思えば映画もびっくりな戦闘を繰り広げたり、綺麗な景色を見上げたり。
 ヨハナは何処かに自分がいないかな、と探す。
 ――いない。 何処にもいない。

 ヨハナには、過去の記憶がない。名前すら、本当に自分の名前なのか怪しい。
 あるのは未来に対する不吉な予感と、理解できない知識の断片ばかり。
 彼らが地を歩く人であるとするならば、ヨハナは糸で吊られた人形のようなもの。歩くふりも、走るふりも出来るけれど、其れは本当ではない。

 だから、ヨハナは“未来人”なのです。
 不確かで曖昧な概念ですが、そうでなくては、一体ヨハナは何者だというのです?

 ――『次回上映をお待ち下さい』

 スクリーンに描かれた文字。いつの間にか、上映は終わっていたようだ。
「いいなぁ」
 ヨハナは一人、呟いた。これが“自分の記憶であったらいいのに”と、歪んだ憧れを胸に抱いて。
 君の記憶だよと言われても、今のヨハナにはきっと理解できないだろう。
 だって、ヨハナは未来人なんですよ?


●洸汰の未練
「洸汰ももうxx歳かぁ。大きくなったなぁ」
「ふふっ。今年もコーちゃんの大好きなトンカツよ」
 俺の何度目かの誕生日。
 大好きなトンカツという言葉に、俺は嬉しくって笑顔が止まらなかった。家の外で少しだけ、悪意のない盗み聞き。大好きなトンカツの香りがして、早く家に飛び込みたかった。
 誕生日は楽しい事ばっかりだ。みんながおめでとうって言ってくれるし、ちょっと特別扱いしてくれる。一年で一番幸せな日かもしれねーな!
 ――そう、思っていたんだ。

「ユーちゃんの分も……きっと、元気にたくましく育ってくれたのね」

 え?

「……。そうだな。出来れば、ユウタと一緒に遊ばせてやりたかったけど」
「コーちゃんは元気な子だけど、……ユーちゃんは、どんな子に育ったのかしら」

 ユータ? ユータって、誰だ?
 俺は知らない。友達にもいない。――家族は父ちゃん、母ちゃん、俺の3人。
 もしかして、俺の知らない兄弟なのかな。俺が生まれる前に死んじゃった兄ちゃんだったり、俺の知らない間に死んじゃった弟だったり、するのかな。
 ユータって、誰だろう。

「……。ただいまー!」
「あら! おかえりなさいコーちゃん、ちゃんと手を洗うのよ?」
「うん!」
 巧く誤魔化せただろうか。“ユータって誰?”とは、聞けなかった。
 トンカツはとても美味かった。ケーキを食べて、誕生日の唄を歌って貰った。
 けど―― 一番知りたかった事は知れないまま、俺は今、混沌にいる。

 でもな、何でだろう。
 そのユータって奴は、生きてて、すぐそばにいる気がするんだ。根拠はねーけど……ほら。この世界って何があっても不思議じゃねーだろ?
 もしかしたら会えるんじゃないかって、思うんだよな。


●ユーリエの未練
 未練は誰にしもある事。画家はそう言っていた。
 そうだろう、とユーリエは思う。忘れられない、逃げてもいけない。
 向き合わなければならず、向き合えば傷が痛むもの。
 人は選択をするたびに未練を背負う。あの時ああしていれば、こうしていれば――では、そちらが最良の選択だったのだろうか? 判らない。

 其の日、ユーリエは魔術学校からの帰路を歩いていた。そして、ぱっと思いついたのだ。彼女の妹。病弱で、ベッドに臥せっているあの子に、何かしてやれないだろうかと。
 何か驚く事があれば、病気に弱い体質も何処かへ行ってしまったりするのだろうか。なら、びっくり箱を作ろう。驚かせるにはオーソドックスだが、一番効果が高い気がする!
 それから走り回って、魔術学校の先生や友達を頼り、世界に一つだけのびっくり箱を作り上げた。これできっと、妹もよくなるはず。
 ――其れが間違いだった。こんな事、思いつかなければよかったのだ。
 箱による未知の事象で、自分はこうして混沌へと召喚されてしまった。妹ももしかしたら、何処かにいるのかもしれない。

 ユーリエの世界では、人間は必ず何かしらの魔術の素養を持って生まれてくる。
 其れは良い事なの?
 魔術なんてなかったら、妹は普通の女の子として生活を送れていたはずなのに。
 魔術なんてなかったら、戦争だって起きなかったのに。
 魔術なんてなかったら、みんなが笑って幸せな世界になったはずなのに。

 魔術なんて、なかったら……
 ユーリエの痛む傷。其れは、世界の選択。
 魔術と親しい世界を選んだ、逃れられない運命に、ユーリエの傷はずくずくと痛む。


●クローネの未練
 ――とても暗い。
 暗い暗い暗闇の中に、クローネはいた。はて、これが未練だというなら、何とも曖昧模糊としている。
 目の前が徐々にセピアがかって、はっきりとしてくる。
 はて、何が出て来るのだろう。クローネはじっとそれを見つめていた。

 石棺だった。

 掘り出された石棺に、クローネの記憶がふんわりと蘇る。悍ましい土の匂い。苦しいほどの狭さ。
 そうだ。
 “あの病”にかかった私は、死んだと思われて石棺に入れられ、土の下に埋められた。私は生きている、生きているんだ。そう叫びたくても、息が詰まって何も言えなかった。
 生きたかった。生きるために何でもした。服を食らい、隙間から土を通して入ってくる泥水を啜り、神に祈り、悪魔に縋って。
 どれが正しかったのかは判らない。ただ結果として、私は土の中から解放された。
 ――人間ではなく、吸血鬼として。

 地獄は其処で終わらなかった。
 皆が私を忌み嫌った。化け物だ、悪魔だと、街の人ならいざしらず、家族さえ私を非難する。

 私だって、好きで吸血鬼になったんじゃない!!!

 そう、叫びたかった。
 私はただ、生きたかった。生きたかった、だけなのに……


●アーリアの未練
 どうせなら、この前頼んですぐ零しちゃったお酒の記憶とかが良かったのに。
 青い空、白い雲。海の香り、飛ぶ海鳥。過去の記憶に、アーリアは悲し気に睫毛を震わせる。
 故郷である天義から逃げて、ようやくたどり着いた楽園。海洋でほんの数か月だけ過ごした、幸せな家族の時間。
「“xx”、おやつの時間よ」
 ああ、お母さんが呼んでいる。捨てた名前で、私を呼んでいる。どうせならもっと呼んで欲しかった。クッキーもお母さんも大好きよって、もっと言っていればよかった。

「ただいま。今日はね、色んな貝が――」
 港で仕入れた商品の話をしてくれるお父さん。もっと真剣に話を聞いていれば良かった。義父として、そして別の意味でも、大好きなお父さんだった。
 幸せな昼下がり。白い家、白い波、白い雲。白い色に感じていた狭苦しさが、海洋に来て自由に変わった。人は何処にでもいけるんだって、理論じゃなくて、心で感じた。
 この時間が永遠だと思ってた。ずっと続くと思ってた。けれど……

 ――あの子とも話をしていたら。
 もっと話をしていたら、何か変えられたのかしら。私たちの居場所を告げたあの子。私たちを軽蔑したあの子……

 アーリアの視界が、すとん、と黒く落ちる。
 そして目の前に白い幻が現れると、

 「裏切り者」

 淡々とそう呟く、アーリアに似た面立ちの……妹が立っていた。


●ウェールの未練
「さて、未練なら腐るほどあるのだがな」
 ウェールは笑う。息子を守ろうとしたはずが敗北し、逆に洗脳されて悪事を働いた事。こちらに召喚されてから、依頼で助けられなかった者がいること。
 けれど、そう、一番の未練は――

 ウェールはその夜、偵察のため隠密行動をしていた。彼の意志ではない。異界の侵略者に洗脳された、哀れな戦士としてである。
「誰だ!」
 声がした。見つかった。殺すか? 逃げるか? 其の二択が激しく脳裏で明滅し、彼は迷わず叫ばれる前に殺すことを選んだ。
 犬頭のシルエットをした其の影に飛び掛かり――父さん、と呼ばれた。
 理解できなくなったはずの日本語で、でも確かに、父さん、と。涙ながらに呼ばれた。其の時僅かに動きを止める事が出来たのは、過去の記憶を思い出しかけたからだろう。犬獣人の彼と毎日一緒にいて、同じ飯を食べていた気がして、僅かに動きを止めた其の瞬間。
 黒犬の刃が自分の腹を貫いた。
 ……少しだけ、嬉しかった。強くなったな、“xx”。

 嗚呼、名前が呼べない。
 必死に考えて、以前の名をちょっと残した呼び方にした、あの名前が呼べない。“xx”。“xx”。呼べない。呼べない。呼べない。思い出せない。
 手に握らされた懐中時計。もういいよ、と優しく呼び掛ける声。
 名前が呼べないなら腕を伸ばそうと。抱きしめてやろうとした手は、空を掻き。

「さようなら、パパ」

 遠くから聞こえた涙ながらの声が、その世界での最後だった。

 召喚されて直ぐ、ギフトのお陰で名前を思い出した。
 梨尾。梨尾――俺の大切な息子。涙を拭いてやれず、呼び返してもやれなかった俺を、パパと呼んでくれた息子。
 俺は絶対にこの未練を断ち切る。必ず梨尾のもとへ帰って、抱き締めて、名前を呼んで、たくさん謝ってたくさん感謝して、そして日常へ帰るんだ。


●クリスティアンの未練
 この土と風の香りを、未だに覚えている。
「(……ああ、僕の生まれ故郷だ)」
 小国エルド。豊かで美しく、人々の笑顔が絶えない平和な国。其の幸せを余すことなく一身に受けながら、クリスティアンは育った。父母と兄、そして国民。誰もがクリスティアンを愛し、クリスティアンも彼らを愛していた。
 とりわけ、強い父には憧れの感情を抱いていた。いつか僕もあんな王になれたら。穏やかな施政を見るたびに、そう憧れずにはいられなかった。
 隣国が嫉妬するほどに、エルドという国は素晴らしかった。

 だからこそ、だろうか。
 戦火がエルド全土を包み込み、火と鉄の匂いで全てを掻き消してしまうのは、彼が9つのとき。
 長い戦だった。怒号と金属のぶつかり合う音ばかりが響き、人々の顔から笑顔は消え去りかけていた。
 しかしその戦も終わりを告げ――教会の鐘がなる。何重にも、人々を――戦の傷がもとで世を去った賢王を、悼むように。

「父上! ――父上……!」

 あの時僕が大人だったら。父と共に戦線に立てるほど強かったら。
 あるいは治癒の魔術を持っていれば。薬草の知識があったなら。
 そうすれば、父はあんなに早く逝かずに済んだのだろうか。――その願いは叶わない。だって、9つの子どもに一体何が出来ただろう。クリスティアンはただただ守られる側で、ただただ、無力だった。

「……そうだ、あの時の僕は弱かった」
 過去の未練が血を流して、ずくずくと傷んでいる。けれど。もう彼は子どもではない。父のようにはいかずとも、強くなったし、賢くもなった。
 だから知っている。この混沌という世界に召喚されて、判った事がある!
「僕は今ここで守りたい仲間がいるんだ……! 忘れはしないさ、けれど過去だけを見つめて、後ろを向いている訳にはいかないんだ……!」



「クライクスさん、ありがとう」
 術を解いて、各々水分補給をして。
 それから、ウェールとジュモーは固く握手を交わした。
「俺の未練が役に立てるかは不安だが、大事な事を思い出せたよ」
「それは良かった。僕の方こそ、とても素敵な記憶を見せて頂きました」
「ああ、クライクスさん! 色々と見せてもらったけど、僕も大事な事を思い出すことが出来ました! これはお礼のブロマイドです、どうか受け取って下さい」
「これは……スケッチに役立ちそうですね、ありがとうございます」
 クリスティアンはいつも通りだが、ウェールと2人、晴れやかな表情をしていた。

 晴れやかな顔の者がいる一方で、矢張り辛い思いをしたものもいる。
「今日はぁ、飲みにいくわよぉ~!」
「飲みにいきましょー!」
「オレも! オレも飲みに行く!」
「ダーメ、コータくんはジュースよぉ」
「……私も、飲みに行く。まさかこんな形で思い出すことになるとは……」

「……」
「どうしたの?」
 じっと己の掌を見つめるクロバに、ユーリエが問う。
「いや。……未練は未練だが、俺も大事な事を思い出した気がする」
「そう。私もよ」
 どんな選択をしようと、未練が残るって事をね。
 苦く笑ったユーリエに、クロバは素直に頷けずにいた。

 あの時ああしていれば。あの時こうしていれば。
 そのたびに未練は泡沫のように生まれ、消える。あるいは大きな傷跡となり、取り返せない失敗として残る。
 けれど生きるためには、前を向かなければならない。
 彼らは――イレギュラーズは其れを知っているから、今日も歩き出す。
 家へ、店へ、どこへともなくふらりと……ばらばらの家路は、彼らの奇妙な運命を描いているようにも見えた。

成否

成功

MVP

クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
聖クリスティアン

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
皆さん素敵な未練をありがとうございました。
未練とは何ぞや、という方もいて、まさに十人十色だなあと楽しく書かせて頂きました。
クライクスもやる気スイッチが入ったようです。ありがとうございます!

参加者全員に称号『追憶に向き合った者』を配布しております。
また、MVPは前を向くことを忘れないクリスティアンさんにお送りします。
ご参加ありがとうございました!

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