PandoraPartyProject

シナリオ詳細

シークレット・エンダー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ネメシスにも夜はある
 こりゃあどうも旦那。汚いところによくおいでで……。
 まあこんあ世の中ですからね、あっしのようなモンでも仕事が無くならなくって結構なもんでごぜえます。
 へいへい。ご注文の品でしたね。
 しかしこんなもん、何に使うんです?
 『盗まれたら死ぬ呪い』のかかったナイフだなんて。

 ごとん、と木目の台に置かれたナイフは美術品のようだった。
 黒曜石のような美しいつやと紋のはしった刀身に、金細工の施された柄。
 柄頭には宝石がはめ込まれ、一見して宝物のように見えるが……その実きわめて精巧に呪いの術式が込められていることが、専門家であるなら分かるだろう。
 名前は、そう。
 かの悪名高い……。
「ブリキットナイフ・レプリカ」

●徳は悪徳を必要としている
 宗教国ネメシスにも清く明るい場所しかないわけではない。
 いわゆるネメシススラム。日陰の場所。
 政治的影響力が届きづらく、さしずめ風通しの悪い場所にカビが生えるように、世間から身を隠した者たちが不正義断罪の手を逃れて集まってくる場所がある。
 そんな町と表の町を繋ぐ境界線のような料理店に、『黒猫の』ショウ(p3n000005)はいた。
 赤い中華テーブルに腰掛け、あなたの到着を待っていた。
「やあ、そろったね。尾行はされてない? もし表の人たち……ましてやネメシス正教会の人々に知られれば不正義扱いされるような話なんだ。いいね?
 だから、この依頼は秘密裏に、そして確実にこなさなくちゃあいけない」
 ショウは身を乗り出して、声を潜めて囁いた。
「聖職者を殺して欲しいんだ」

 あなたは天義首都フォン・ルーベルグで死者蘇生の噂が流れていることは知っているだろうか。
 混沌における絶対のルール。死者は蘇らないというルール。それをまるで覆すかのように、死んだはずの人間が在りし日の姿で現われ、まるで当たり前のように暮らすのだという。
「聖ジャスパ、聖マリスン、聖ルーフェス――みなネメシス正教会に所属する立派な聖職者たちだよ。
 といっても、事故や病気でずっと前に亡くなっているひとたちだけどね。確認もとれてる」
 けれど彼らは、まるで死んでなどいなかったかのように、暮らしているのだという。
「ネメシス正教会はこの絶対的不正義を断罪せねばならない……とはしているんだけど、立場上かなり微妙な人間が多くてね。表だって騎士を突入させるわけにもいかないんだ。
 例えるなら……絶対に悪いことなんでするはずの無い人間が、それも自分にずっとよくしてくれていた善人が、急に凶悪犯罪で逮捕されたりしたら暫く人間不信に陥るよね。それに似た混乱が起きる危険があるんだ。
 だから教会は秘密裏に、そして『僕らと彼らは無関係であるもの』として、彼らの抹殺を依頼してきたんだ。
 もし琴が露見すれば教会のフォローは得られない。ローレットはフォローするけど、身柄の釈放が限界かな……。
 っていうのも、ちょっと薄情だよね。だから今回はこれを用意した」
 ショウは回転テーブルに木箱をのせ、そしてあなたのほうへと回した。
「ブリキットナイフ・レプリカ。効果は期間限定かつ一回限りの劣化版だけど……このナイフにはとても恐ろしい呪いが込められてるんだ。
 それは『盗まれたら死んでしまう』っていう呪いさ」

●盗むか、殺すか
 計画はこうだ。
 あなたは特定の暗殺対象に対して『盗む』か『殺す』かのどちらかを事前に選択する。
 『盗む』を選択した場合、暗殺対象にこの呪いのナイフを送りつけ、暫く保管・所有させる。
 その間あなたが相手の家や教会に忍び込み、知られぬままナイフを盗み出すのだ。
 翌朝には呪いが発動し、相手は死に至るだろう。
 『殺す』を選択した場合はシンプルだ。
 あなたは突如現われた殺人者となって抹殺対象へと襲撃をしかけ、護衛の騎士を倒して対象を抹殺。
 その後逃走する。身柄はローレットのフォローがあるので、その場で倒され捕まってしまうようなことでも無い限りは大丈夫だろう。
「それぞれに共通する内容とある程度の情報は渡しておく。
 くれぐれも裏にあるものがバレないように。気をつけて、ね」

GMコメント

【オーダー】
 対象リストのうち3名以上の抹殺
 (対象者はぜんぶで8名いますが、全員を抹殺できなくてもOKという約束です。出来る範囲でやっていきましょう)

 参加者は『盗む』か『殺す』かのどちらかを選択し、この依頼に挑んでください。
 『殺す』場合単独では難しく、組み合わせが重要になりますので、相談の場を活用するようにしましょう。

【盗む場合】
 対象者にはブリキットナイフ・レプリカが送られます。
 どこにどのように保管されているかは分かりません。
 対象者は教会に住む聖職者であり、同居している聖職者も数名いるはずです。
 また宗教国ならではの聖職者の重要性と、『蘇った者を匿っている』という後ろめたさから建物の守りは恐らくしっかりとたてているでしょう。
 建物への侵入。鍵開けや壁抜け。
 見張りの突破(なしいは相方による引きつけ)。
 そしていざとなった時の逃走手段。
 これらを用意して、しっかりと準備を整えましょう。

 推奨チーム人数は1人~2人です。
 単独で行く場合はかなりこの手の依頼に慣れていたり、適切なスキルやギフトを複数保有している方のチャレンジコースです。
 万一捕まった場合いろいろあってパンドラ値が減少します。
 (パンドラ復活の使用コールは今回このパートに限りスルーされます)

【殺す場合】
 対象者の教会に正面から突入をしかけます。
 守りについている騎士を2~3人がかりで倒し、強行突入をしかけ、対象者を抹殺しましょう。
 『忍び込みつつ抹殺する』の選択肢も一応とれますが、その場合戦力が分散しすぎてとても危険です。抹殺したはいいが逃げ切れずにつかまるということもあり得るので、このパートを選択したなら正面突入作戦を推奨します。

 推奨チーム人数は2~3人です。
 騎士の強さはイレギュラーズ1人分はあると仮定して挑みましょう。
 相性のいいコンビを組み、連携して戦っていきましょう。

【今回の相談会場】
 ネメシスの中華料理屋『影』。
 表向きにはただの売れてない中華料理屋。しかし厨房の奥へ進むとネメシススラムへ入ることが出来、裏社会の人間との接続点として使われている。
 すごく営業する気のない店構えはしているが料理自体はなかなかウマいらしい。
 麻婆豆腐や炒飯や青椒肉絲なんかが主体。あとロバ肉まん。
(※当依頼では巡り会った仲間と街角感覚のロールプレイをはさんでの依頼相談をお楽しみ頂けます。
 特に今回は闇社会を暗躍するロールにどっぷり浸かれますのでお勧めです。
 互いのPCの癖や性格も把握しやすくなりますので、ぜひぜひお楽しみくださいませ)

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『天義(ネメシス)』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • シークレット・エンダー完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月27日 01時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シェリー(p3p000008)
泡沫の夢
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
アト・サイン(p3p001394)
観光客
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
VeMP 49(p3p006711)
汎用殲滅型機械式戦闘人形

リプレイ

●ブリキットナイフとロバ肉まん
「へへ、こいつがあのブリキットナイフ……ミテクレもイワクもいい具合じゃねえの。終わったら貰っちゃだめ?」
「いいぜ!」
「だめに決まっ――マジデ!?」
 肉まん加えたまま二度見する『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)。
 相手はいかにも中華料理屋の店主といった具合のおっさんだが、どうやらネメシススラムとの仕事仲介を担っている人物であるらしい。
「役目を終えればそいつはただの抜け殻さ。ペーパーナイフと変わらねえ。一円にもならねえが、持って帰ってもいいぜ」
「良かったねえキドー」
 『観光客』アト・サイン(p3p001394)はそんな風に言いながら、石膏で出来た『神をたたえる神父の像』とかいうものをしょりしょりやっていた。
 最初はクレヨン画の裏にナイフを仕込んで送りつけようと思っていたが(ユリーカのクレヨン画を宗教画と言い張るのはともかく)宝石ごてごてのナイフを絵の裏に隠すのはなかなか無理があったので、小脇に抱えられる程度の彫像にナイフを埋め込む形で手を打ったらしい。
「それにしても、天義の神父を暗殺……ねぇ」
 『宵越しのパンドラは持たない』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は中華テーブルに頬杖をつくと、紹興酒のグラスに口をつけた。
「そういえば、こういう国よねぇ、ここは……」
 グラスの水面にある家族の顔を幻視し、アーリアは目を閉じた。
「芒さん天義来たの初めてだけど」
 『うさぎの穴の』梯・芒(p3p004532)が足を組んで中華テーブルの回転台を回す。
「スラム街とか盗みや暗殺の依頼なんてあるんだね」
「人が集まれば自然と汚れもするだろ」
 肉まんを指でつついて、『鳶指』シラス(p3p004421)は他人事のように呟いた。
「他者他国の善意と信頼だけで社会が成り立ってくれれば楽なんだろうけどさ。
 ……で? 今回の依頼は死者をあの世に送り返してやれってわけか?」
「ワルい犯罪者の仕業にみせかけて抹殺すれば市民もかえって安心と」
 『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)は回転台に指を立てて止めると、悪そうに歯を見せて笑った。
「まてよ? むしろ市民が傷ついて混乱したほうが楽しそうじゃねえ?」
「楽しいかどうかはともかく」
「わーかってるよ、受けた依頼の遂行努力。そういうルールだもんな」
 ペッカートは回転台から手を離すと、両手を翳して見せた。
 ぱちん、と箸を置く『汎用殲滅型機械式戦闘人形』VeMP 49(p3p006711)。
 空になったどんぶりを前に手を合わせると、閉じていた目を開いた。
「死んだ人がまるで嘘だったかのように動く、黄泉還り……。
 もし、やり直せたらとは誰もが死者との再会を願うでしょう。
 けれど、死者は戻ってこない。それが世界の理よ。
 仮に理に反するものでなかったとしても、この事件には裏がある……そう思えてならないわ」
 『泡沫の夢』シェリー(p3p000008)が席を立ち、肉まんを手にしたまま一同に背を向けた。
「方針は決まったみたいですね。では、私は先に行かせて貰いますね」
 割り箸の袋をさりげなくポケットに入れ、店を出る。
 路地を歩き、人通りの少ない場所で箸袋の内側を開いてみると、ある教会の住所と抹殺ターゲットの名が記されていた。マッチを擦ると、炎に箸袋を翳した。
 ちりちりと焼かれ消えていくアドレスに、シェリーは目を細める。

●窃盗代行、シェリー
 闇夜を音も無く歩くネコとて、同族の足音を聞き取るために耳を立てる者だが、彼女の足音はそのネコにすら聞き取ることはできなかった。
 まるで映像だけが風景に合成されたかのように、シェリーはネメシスの夜道を早足で抜けていく。
 家々の間をすり抜けるように細い道を選んですすむさまを、見とがめる者はおろか発見した者すらいなかった。
 そんなシェリーが目的の教会近くへたどり着いたところで、ぴたりと物陰に足を止める。
「こんなに見張りを増やす必要があったのか?」
 教会の門扉にて、軽く武装した聖職者がぼやきあっていた。
「ヘイゼル神父が黄泉がえりをなさっただろう? こんなことが正教会にバレたら一大事だ。色々誤魔化すまで秘密にはしておくが……なあ?」
 なあ、という言葉のニュアンスに含まれる複雑な意図は理解できないものではなかったが、シェリーはそれをあえて無視した。
 足音が遠ざかるのを待ち、隙を突くように建物へと接近。
 壁に耳を当て、内部の様子を探る。
 人の気配はあるが、眠っているようだ。
 シェリーはしばらく息を止めると、水に潜るような感覚で建物の壁をすり抜け始めた。

 翌朝。
 神父を起こしに来た教会職員が、神父が忽然と消えてしまっていることに気づくことになる。
 よもや泥のように溶けて消えたとは思わぬ彼らは、復活の異変と消失の異変の両方が起きたものとして、この事件を闇と秘密に葬り去ることを決めた。

●窃盗代行、キドー&アト
「へえ、ってこたあ人知れず殺せばその痕跡すら残らねえってのか。そいつぁ都合がいいや」
 チーズの切れ端をつまんだキドーは、餌を欲して顔を高く上げるネズミをつっつくようにして遊んでいた。
 配達員の帽子を脱いで髪をゆるく振るアト。
「ま、そういうことだね。おまけにブリキットナイフのことも知らなければ神父はただただ忽然と消えただけに見える。そんなことを言いふらせないから、みんな最初から無かったことにして沈黙するって寸法だよ」
「それまた都合のいいこったな」
 キドーはチーズを鼠にやりおえると、膝で手をはたいて立ち上がった。
「それじゃあ、神父の命、頂戴しに参上仕りますかね。馬の準備頼むぜ」

 教会の下水道を通って、小さな石の穴を抜けるハツカネズミ。
 きょろきょろと見回すさまはいかにも鼠だが、その進みの迷いなさはまるで壁をすかして目的地を見ているかのようだった。
 目指すは地下倉庫。
 神父の黄泉がえりによって警備が強化されているとは言っても、さして高価にも見えない寄贈品にまで警備が回るわけではない。
 道筋を確かめると、キドーは教会の窓にナイフを滑らせるようにして切り開き、内鍵を外して侵入を開始した。
(そうそう、これだよ。俺がやりたかったのは……!)
 キドーはぺろりと唇を舐めると、壁越しに見張りや見回りの様子を透視しながら倉庫の鍵穴に適当な針金を突っ込んだ。
 といっても中身のピンが見えている状態での解錠である。下手なピッキングツールを使うよりずっと早く鍵を開くことができた。
 が、しかし。
「そこで何をやっている!」
「あ、やべ!」
 キドーの潜めた足音を敏感に聞きつけた騎士が、剣に魔法をかけながら追いかけてくる。
 必死に逃げ走るキドー。
 が、そんな彼に炎の魔術弾が命中。
 派手に転倒したキドーは、抱えていた彫像をバラバラに破壊してしまった。
「げえ!? やべえ!」
 慌てた様子で立ち上がり、逃げ出すキドー。
 騎士はそれを追いかけようとしたが、別の教会職員がそれをとめた。
「追わなくていい。寄贈品目当ての泥棒だ。どうやら寄贈品も壊れてしまったようだしな。それより……」
 バラバラに砕けた彫像を見下ろし、教会職員は上の階で眠る神父のほうを見た。
 こっくりと頷く騎士。
 そして……。

「どうだった?」
「ざっとこんなもんよ」
 馬を走らせるアトの後ろで、ブリキットナイフを翳して見せるキドー。
 慌てて逃げたとみせかけて、彫像の中に仕込んでいたナイフをこっそりと懐に隠していたのだ。
 アトは小さく頷き、馬を加速させた。
「仕事完了。さっさと引き上げよう。お腹すいちゃった」

●窃盗代行、アーリア&ヴァンプ
 黒いネコが石畳の道をゆく。
 見回りをする教会職員は黒猫に一瞥をよこすが、それきりで通り過ぎていった。
 手を舐め顔をぬぐう黒猫が振り返るは茂みの奥。
 黒いボディスーツを纏ったVeMP49(ヴァンプ)が、伏せた姿勢で固まっていた。
 まるで道ばたに落ちた木枝のごとく微動だにしないこれを人間だと認識するのはなかなかに困難なことだろう。
 そんなヴァンプが、黒猫の合図をうけて改めて動き始めた。
 エネミーサーチを起動。
 こちらが発見されていないため直接的敵意は感じないが、神父復活とその隠蔽のために不特定多数の侵入者や内通者といったものへの無差別な敵意をばらまいていたために、それを感知することができた。
 いつでもいける。
 そんなサインを出したヴァンプに対して、アーリアは一口飲んだワインボトルを教会の壁めがけて投げつけた。
 激しくガラスの割れる音。
 すぐさまマッチを擦って投げることで、壁がたちまちに発火した。
 傍らに置いた灯油タンクを蹴倒し、炎を更に燃え上がらせていく。
「貴様、そこで何をやっている!」
 振り返る。
 深いワインレッドの髪をした、仮面の女、アーリア。
 アーリアはウィンクをすると、駆けつけた教会職員に対して二本指で投げキスをした。
 呪術(おまじない)が発動し、激しいめまいに見舞われる教会職員。
「皆来てくれ! 襲撃だ!」
 襲撃。それは神父復活の秘密を隠した者たちにとって最も恐れるべき事態である。慌てて動き出す教会内。神父の警備が硬くなり、アーリア撃退のために一部の騎士が飛び出していく。
 だが……。
 狙いは神父などではない。
(10秒よ)
 息を大きく吸い込んで、止める。腕のストップウォッチをセットすると、ヴァンプはカウントと同時に走り出した。
 闇に溶けるかのように気配が消えるヴァンプ。10秒という短い間だけ音や姿や気配を消すことが出来るという彼女の特殊機能である。
 特殊な器具と魔術を用いて窓鍵を一瞬で解錠。滑るように室内に飛び込み、駆け抜ける。
 が、ぴたりと停止。
 通路を慌てた様子で神父が駆け抜けていくのが音でわかった。
 三秒もの時間を、息を止めてやり過ごす。
 通路を通り抜けたその瞬間、ヴァンプは部屋へと駆け込んだ。
 棚に展示された様々な品のうち、美しい装飾がなされたブリキットナイフだけを掴んで逃げる。
 残り五秒。逃げ切れるか――。
 一方で、アーリアは追いかけてくる騎士を派手に突き飛ばすと、ぱたぱたと手を振って逃げ出した。
「ばいばぁい、よい朝を」
 夜に溶け込むように逃げるアーリアを、しかし騎士たちは追いかけなかった。
 ただの賊であるならば、むしろ逃げてくれた方がいい。神父の守りを固める方が優先だと考えたのだ。
 もはや命はないのだとも、知らずに。

●暗殺代行、シラス、芒、ペッカート
 マジックライトの灯ったギャリー教会。
 三つのライトに照らし出された三人組に、教会職員たちが飛び出してくる。
「何をしに来た、貴様ら!」
「そんなこと、わざわざ聞くことじゃあないんだよ」
 あえてのバニースーツ姿で血まみれの道路標識を担ぐ芒。
「『できあがってる』だろう? もうさ」
「それとも、俺らが予告カードでも投げて名乗り上げてくれるとでも?」
 ぎらりと黄金の片目を光らせ、舌なめずりをするペッカート。
「悪魔と殺人鬼にいちいち目的を聞くんじゃねえよ」
 腕を翳し、不可視のシールドを展開する。
「そこに挟まれてる俺はなんなんだって感じだけだどな」
 苦笑し、シラスはトランプカードをポケットから取り出し扇状に開いた。
「居並ぶお兄さん方。悪いが消えてくれよ。死にたくなかったらさ」

 扉を蹴破るような勢いで教会職員が蹴り飛ばされ、赤い絨毯を転がっていく。
 呻く職員を踏みつけにして、シラスはフィンガースナップを鳴らした。
 音の伝達によって呪術が発動したことを察知した騎士が聖剣を繰り出し切り払う。
 展開する三人の騎士と、その後ろに守られた神父。
「いつまで生きてるつもりだ? もう死んでるんだよオメーは」
「強制送還をお望みなんだろ」
 ペッカートはタロットカードが投擲すると、封印の呪術になって先頭の騎士へと突き刺さった。
 剣を翳す騎士と素手のペッカートがぶつかり合う――かと思いきや、見えない糸を飛ばしたペッカートによって騎士は動きを封じられ、ペッカートはその上を飛び越えて着地した。
「まず一人」
 きりり、と手袋をはめた手を握り込むと、騎士の首や腕があらぬ方向へねじきれた。
 聖なる銃を構える騎士。
 銃撃がペッカートへ集中し。ペッカートは展開した障壁でガードを試みる。
 その間、派手に跳躍した芒は上下反転しつつ教会の低い天井へ逆向きに足をつけ、跳ねる動きで神父へと飛んだ。
 庇うように割り込んだ騎士の顔面めがけ、道路標識のプレート側面部を繰り出す。
 よく研がれたプレートが騎士の肘から先を切り裂き、着地のスピンによるもう一打で騎士の首をはねにかかった。
 間を縫うように駆け抜けるシラス。
 騎士が先へ行かせまいと剣を繰り出すが、シラスはそれをトランプカードで受け止めた。
「なかなかキツいな。けど――」
 騎士を蹴りつけ、素早い指さばきで呪術を刻み込んでいくシラス。
 激しくよろめいたところへ三人の攻撃が交差することで、騎士は四肢を切り落とされた。
 ごとんと落ちる騎士の胴体を横目に、神父へと歩み寄る三人。
「さあて」
「仕事といきますか」
 神父は足をもつれさせて転倒し、命乞いを始めた。
 意味がないことを、知りつつも。

 一つの教会が襲撃を受け、病床から戻ったばかりの神父が騎士たちもろとも暗殺されるという凶悪な事件が報じられ、町の人々は不安にさいなまれたが、翌日すぐに新たな神父とその部下たちが教会を治めに訪れることで混乱は最小限に留まった。
 ほどなく日常の波に埋もれ、事件など忘れ去っていくだろう。
 悪によって平和が守られる。
 どこか皮肉な、事件であった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

 役目を終えたブリキットナイフはただの見た目綺麗なナイフでしかないので、フレーバー的に持ち帰ったことにしてもOKです。特殊化ネタ等にお使いください。

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