シナリオ詳細
幸運の長い耳
オープニング
●稀少なお守り
幸運のお守りと聞けば、誰しもいくつかのアイテムを思いつくだろう。
代表的なもので言えばラッキーコインや四つ葉のクローバー、ウサギの足などがあるが、その土地、文化によって様々なものが存在する。
それらは不変的な価値であり、多くの人は無意識的な信仰を持って身につけ使用することだろう。例え気休めであったとしても、運を呼び込むという触れ込みは気分的に悪いものではない。
そうした所謂ラッキーアイテムだが、人によってはそのアイテムが珍しければ珍しいほど価値が上がる――幸運を呼び込む――と考える者達がいる。
彼等はアイテムのレアリティこそが重要であり、比較的多く流通するアイテムには興味を向けない。
例えそれが呪われていそうな――本当に呪われていたら本末転倒だが――アイテムであっても、珍奇なものであれば所有を望む稀少度傾倒者と言えるだろう。
当然、そんな彼等が狙うアイテムは一般的な流通に乗る事はない。
イレギュラーズも多く利用する広く名の知れた闇市であってもそれは同じだ。
彼等が利用するのは闇の中の深淵。非合法、非常識、そして非人道的なアイテムが集まる闇市の中の闇市、番外のバザールに他ならない。
そこに集うのはアンダーグラウンドに潜む裏組織達が持ち寄った掘り出し品。一体どこから集めたのか、明るみにでれば国を挙げた大問題になるであろう品々が、極秘裏に取引されている。
そんな中に、稀少度傾倒者達が挙って欲しがる幸運を呼び込むアイテムがあった。
――幸運の長い耳。
そう呼ばれるアイテムは、その名の通り干した長い耳をアクセサリーにしたものだ。混沌にいれば誰もが一度は目にする長い耳。大小様々あるが、小さければ小さい程稀少で幸運を呼び込むと言う。
極端に在庫の少ないそのアイテムは、番外バザールであってもそうそうお目にかかれないだろう。
何の耳かって? 尋ねた所でそれに答える者はいない。言わずもがな、それが何処かの誰かから奪ったものであるのは間違いなかった。
●
「こう自分の種族が狩りの対象となるのはあまり気分のよいものではないわね」
瞳を伏せそう愚痴をこぼした『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が依頼書を差し出し薄い感情を表情筋に張り付けた。
依頼はある裏組織からのものである。簡潔明快な依頼内容はローレット及び参加した者達の悪名を高めるものになるのは明白だった。
「オーダーは深緑は迷宮森林で”迷子になる”幻想種の子供達から耳を切り取り集めること。人数は十人前後。出来るだけ左右の耳を均等に……ってとこかしらね。イヤね、本当に」
プルプルと身体と耳を震わせて、耳を隠すように覆うリリィ。
依頼内容は簡単そうだが、当然そう上手くいくわけではないようだ。
「子供達は依頼者側の手引きで、迷宮森林のある場所に集められるわ。当然非合法な手段を用いて集めてくるのでしょうね。深緑側から自警団の人達が追いかけてくるのは明白でしょう。迎撃、逃亡は必須になるわ」
依頼者は恐らくそうしたリスクを全てローレットに押しつけるつもりなのだろう。簡単な誘拐のみにコストを割き、あとは高見の見物というわけだ。
「自警団に見つからないようななにか手段を講じる必要があるでしょうね。
それと、今回は殺しはNGよ。自警団はともかく、耳を奪った子供を殺すと運気が逆転してカースドアイテムに変わる、なんて迷信が信じられてるみたいね。商品価値を高めるためにも子供達は生かすこと。耳を切り取ったあと簡単な治癒の手間が必要でしょうね」
依頼内容は簡潔だが、作業内容はかなり重たいものになるだろう。
肉体の部位を欠損させるというのも中々に未開蛮族な仕事だ。紹介するリリィも嫌な役回りをしたものだ。
「まあ、殺されないだけ儲けものってところね。長い耳がなくたってハーモニアで在る事に変わりはないのだし……でもやっぱりイヤよねぇ」
耳を隠しながら頭をプルプル振ったリリィが立ち去るのを確認すると、イレギュラーズは再度依頼書へと目を落としていくのだった。
- 幸運の長い耳完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年04月28日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●取り囲む悪
迷宮森林南部の森。鬱蒼とした森は陰鬱な印象を与え、豊かな自然の恵みの裏に潜む闇を現すかのようであった。
幸運の長い耳。
幻想種の耳を切り取り加工したその非合法のアイテムの素材集めを依頼された、悪徳を積むことを厭わないイレギュラーズは指定されたポイントへ向けて足を進めていた。
大人でも迷いかねない森に、子供達が集められているという。
大凡考え得る悪行によって集められたに違いない子供達だろう。幸運の長い耳の素材だと言うのに本人達にはとことん運がないと言うしかない。
「にしても運気が上がる耳を持っているという事は、その耳の持ち主は生きているという事がわかっているのだろう? 悪趣味だな」
そう漏らす『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は、しかし素材集めに関しては歓迎する心持ちだ。
迷わないように瞬間記憶を使いながら森を進む。また近くに恐怖の感情あれば反応できるように探知も行っている。
話に聞けば、自警団も子供達の行方を追っているそうだ。
通常の依頼であれば味方となる自警団も、今回ばかりはそうはいかない。近づかれる前に処理は行いたいところだ。
(……ハーモニアの子供。そう、僕のご主人様も――)
言葉を漏らすことなくそう思い浮かべるのは『藍玉雫の守り刀』シキ(p3p001037)だ。
主人の安全を第一に考えるシキは、そうこの依頼で多くの子供の耳を集めれば……その分ご主人様が安全になると考えている。
一のために、多を壊す。
それは完璧な忠誠であり、歪な誓い。
(これが善か、悪か、なんて……武器である僕には、どうでもいいから)
道具に憑いた付喪神たるシキに善悪の基準はない。
今あるのは、主人に及ぶリスクを下げる――そう思われる――行動のみなのだ。
「さて不運な迷子は何処だろうねぇ、そっちのほうは気配あるかい? 瓦礫の魔女」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)に尋ねられた『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)が視線を巡らせ気配を探る。
「いや、まだ見えねぇな。鬱陶しい葉っぱばっかでイヤになるわ。深緑ってのは何処もこうなのかねぇ」
紫煙を揺らがせ、邪魔な木々を切り落とし先へと進む。
武器商人がどのような思惑でこの依頼を受けたのかは不明だが、ことほぎには明確な目的があった。
第一に金、そして第二に裏組織との繋がりだ。悪徳を積むことに邁進していることほぎにとっては様々なメリットがある依頼である。まぁ殺しが御法度なのが多少めんどくさいところではあるが。
「もう少しわかりやすい場所にしてくれたら良かったッスけどね……まあ悪魔は契約さえしてくれればやる事はやりますよってね……文句は言ってられないッスね」
ことほぎの後を付けながら『繊麗たるホワイト・レド』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)が子供達を捜索する。
指定されたポイントと地図上を照らし合わせれば、そろそろ見えても良い頃なのだが、気配は疎か、鳴き声や怯えに竦む声も聞こえない。
本当に合っているのかと疑問もでるが、今更引き返すわけにもいくまい。丹念に捜索を続けることにした。
「しかし耳を切り取るですか。
私だって耳が4つから3つに減るのなんて想像したくもないのですし、正直なところ子供を傷つけるのは気が進みませんが――」
そう優しさを見せる『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)だが、その実求めているものはこのメンバーの中で一番悪辣に過ぎるものかもしれない。
今際の際に見た紅蓮の光景。その再現に邁進するクーアは、この深緑の地における悪徳の果てに、その光景が見られるかもしれないと期待する。紅蓮色の探求――それは言ってしまえば火に燃える光景なのだが――
深緑という国がきっと良く燃えることでしょう。そんな光景を求めるクーアはつまり遠慮はないということであった。
「まあ、長い耳がなくたってハーモニアには変わりがないとリリィさんも言っていました。
子供たちは生かして返すということだし、そんなに酷いお仕事でもない気がするのです」
トレードマークと言うべき長い耳がなくなれば、一目に種別することが出来なくなりそうで、リリィの言う言葉はそういうもんかな? とよくわからないなりに考える『生まれながらの亡霊』凍李 ナキ(p3p005177)だが、言葉通りそう悪い仕事と思っていないので耳は沢山集めようと意気込んでいる。
目標となる数は個数にして十。左右の数はバラバラでも構わない。多ければ多いほど報酬は増えるはずだ。
子供達も二十は集められているという。最大個数で四十となる。その上自警団の耳も奪えばさらに増えることだろう。
そこまでやれば、かなりの悪行に他ならないが……きっとナキのことだそう良心を痛ませることはないように思えた。
「これもある意味密猟になるのかしら。
こういったモノが売れるなんて、世の中わからないわね」
自分の耳をツンツン叩きつつ、『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が言う。一体誰が最初にそんなものを作り出したのか。闇に出回る品というのは分からない物である。
たとえばそれが呪いのアイテムであれば、なんとなく理解は出来るものの、幸運とはこれいかに。
耳を取られたハーモニアが生きている以上、そのうち耳を取り返しに現れるかもしれない。それはそれで、幸運という名のホラーになるに違いなかった。
イレギュラーズを森を隈無く探索する。
地図上の指定ポイント付近に辿り着き、探索範囲を広げていると、ランドウェラの探知に引っかかるものが見つかった。
音を立てず近寄って見れば、微かにすすり泣く声、不安に怯える声が聞こえてくる。
「おっと居たようだね。
――静かに……逃がさないようにしないとねぇ」
人差し指を口に当てて、仲間に隠密を告げる武器商人。
「んじゃいくか……、フォロー頼むわ」
プハッと紫煙を吐き出したことほぎを先頭に、イレギュラーズ達の耳狩りが始まった。
●耳狩り
草木を分け入る葉擦れの音に、子供達二十人がギョッとする。
草葉の中からでてきたのは一人の女性。ことほぎだ。子供達が瞬間思ったのは「誰?」「助けが来た!」「……魔女?」など様々だったことだろう。
そしてその正解は、彼等を餌食にする魔女であったのは言うまでもない。
「はい、お疲れさん。お前ら全員逃げられねェよ」
放たれる呪いが、子供達の視線を奪う。身体が凍え、重くなり、ことほぎから目を離せなくなる。
「な、なに!?」「や、やだ――っ!」
子供達が銘々に騒ぎ出す。ことほぎの呪いに掛からなかった子供が、怯えながらも後ずさり逃げようとする。
「逃げられませんよ――」
シキが天駆脚による高速反応で鞘に入れた自らを子供に叩きつける。強い衝撃が意識を混濁させ倒れさせる。
暴力的な事態になれば、残る子供達が何事かと声を上げ始める。次々にことほぎとシキが子供達の自由を奪っていく。
「殺しちゃなんねーってのが些かメンドーだが、そこまで無理難題っつーワケでもねェな。
オヤサシー依頼人で良かったな?」
ことほぎが子供を縄で縛り上げ――縄がなくなればその服をはぎ取り拘束する。シキも同じように倒れた子供を縛り上げていった。
「やだやだやだ――!」「なんだお前ら、なんなんだよ――!」
「喧しい」
「……暴れないで、下さいね。……キミを殺してしまったら……僕が、怒られるので」
用意した猿轡で口を封じる。
「にげないで、追いかけるのも手間ですから」
逃げようとする子供はナキが捕まえてロープで縛った。
拘束が終われば、手早く耳の切除を行うものへと受け渡される。
切除は人体知識に心得のあるクローネと、切れ味抜群の刃物を持つ秋奈が担当する。
「んんっ――!? んんんんん!!!??!?」
これから何が行われるのか、不安に心を押し潰された子供が唸り声を上げる。
「……可能なら局所麻酔を耳にかけたい所ッスけど……時間をみて判断しますかね……。
……びーびー泣かれてもうるさいんッスよ……」
言いながらうつぶせに倒した子供を押さえつけ麻酔を刺し、刃物を耳に当てる。
長い耳輪を引っ張り、肌との接合点に刃物当てて切断していく。形として耳輪脚や耳珠は残したい。やや肌を抉るように切り取ると、溢れる血が子供の肌にへばりついていく。
「んんんんん――ッッ!!!!!!」
ゴリゴリと何かが動く音。麻酔によって痛みはないが何かが行われていることはわかる。感覚のなくなった耳に何が起きているのか。
それは切り取られた耳を見たとき、子供達の幼い知能でもハッキリと理解出来るのだ。
「あ……こら暴れるなッス……」
片方の耳を切り取り保管すると、もう片方へと移る。子供達も何をされているのか理解したのか必死に逃げ延びようと暴れる。だが、小さな子供だイレギュラーズのように精強な人に押さえられては逃げることはできない。
「フンーフンフーン。
でーあーふたーでー。
しーんぐあーろーりのー」
鼻歌交じりに短刀で耳を切り取る秋奈。その様相は狂気染みている。
殺される。
殺さないと言われていても、状況はそう子供達に理解させなかった。勇敢な男の子が耳を切り取られようとする女の子を助けようと秋奈へと飛びかかり乱暴する。
「残念ね。そんなことしてもその程度の攻撃、生憎すぐ治っちゃうの。
そんなのより刀の呪いが痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くてたまらないの。
だから――貴方の耳をいただくわね」
まるで男の子の攻撃を意に介さず、女の子の耳を切り取る秋奈。くぐもった悲痛な叫びが響く。無力感に男の子は泣き崩れた。
そうして耳の切除が終われば、治療がすぐに行われる。短刀はランドウェラと武器商人だ。
「今ここにいる君たちは運が悪いだけ。
けど、ほら皆お揃いの耳なしだ。
寂しくはないしもう耳を狙われる心配もない。怖い事なんてないねぇ」
そう慰めになっていない慰めを行いながら治療キットによる簡易治療を行うランドウェラ。
手早く止血し、感染症を併発しないように保護シートを巻き付けていく。
しっかりとした治療ではないが、放って置くよりはマシだろう。
急ぎでなければこんぺいとうでも渡しているのだが、と薄く笑う。次会ったときにでもとは言うが、子供達にしてみれば二度とは会いたくない相手である。
同じように武器商人も治療を行う。
武器商人は魔眼を持って、対象の痛みの軽減と、そして『犯人達』の顔を忘れ去れることを試していた。
「辛い事には耳を塞いでおしまい。怖い事には目を塞いでおしまい。
結末は変わらない。だから苦しい過程は忘れておしまい」
魔眼の力は十分に発揮されたと言って良いだろう。幻惑にも似た力で、治療を終えた子供達はどこか空想に浸るように呆としていた。
結果的にこの武器商人の処置はかなり良い機転のきいた対処となった。深緑内に出入りするイレギュラーズも多くなっていることから、後に残る証拠は極力減らすべきで、その点混乱した子供達の記憶を操作するのは容易いことだった。
そのようにして、役割分担したイレギュラーズは手際よく子供達の耳を切除していった。
十分な役割分担があったお蔭だろう、必要個数を集めるのにそう時間は掛からなかった。あとは報酬の上乗せを狙える追加分だ。
しかし、そう物事は上手くいくことはない。
十五個は耳を切り落とした頃、森を知り尽くす自警団がその様子を確認し激昂して襲いかかろうとしていた――
●幸運の長い耳
時間は少しばかり前に遡る。
仲間が耳の切除に取りかかっている頃、クーアは一人周囲の哨戒に当たっていた。
猿轡をしているとはいえ、子供達の鳴き声は静かな森に良く響く。耳の良い自警団達に気づかれるのも時間の問題と言えた。
「近づくものがいれば教えて欲しいのです」
精霊疎通とギフトによる猫の精霊の使役は、クーアの得意技だ。そうして哨戒を手伝わせ警戒を高めているとすぐに反応があった。
「近いのです……それにものすごい速さ」
潜伏し待つ意味はない。
即座にクーアは自警団と思われる反応へと向かい、その存在を目視すると同時に魔道火車を仕掛ける。
「何!? 炎!?」
大切な森に火を掛ける愚か者がいると、自警団達はクーアに目をつけ矢を射かける。その命中精度はかなりのものであり、例え手練れのイレギュラーズであっても一目に形勢の不利を悟るだろう。
「これはとっとと逃げるに限るのです」
仲間達と合流すべくクーアは攻撃を仕掛けながら撤退する。その間に多くの矢を受け、かなりのダメージを受けた。
そして十五の耳を切り取った仲間の場所へと、転げるように現れる。
「来たのです! 数は十!」
この声に、イレギュラーズ全員の対応は素早かった。
飛び抜けた反応を持つクーアはまだしも、そのほかのメンバーもほとんど全てが尋常ならざる反応値を見せ、自警団に対する高い警戒を窺わせた。
だが、後手を取られたとは言え、怒りに燃える自警団も手練れ揃いだ。逃がすまいと退路を塞ぐように展開する。
「……耳、お大事に。また、生えてくると……いいですね」
シキはそう言いながら耳を切り取ったばかりの子供を治療もせずに自警団へと突き飛ばし押しつける。
「なんてひどい……!!」
押しつけられた自警団の一人が惨状に怒りを湛えた震え声を零す。その隙にシキは耳狩りを継続する。
「……可哀想に、ねぇ……早い所治療してあげたらどうッスか」
自警団へと攻撃を放ちながら、クローネがそう告げる。子供を押しつけられた自警団は動くに動けなくなる。外道ではあるが上手いやり方だ。
「おっと、そっちの子はまだ耳があるので近づかないでもらおうか」
ランドウェラが青い衝撃を飛ばし自警団を牽制する。子供には傷をつけないように、そして速やかに耳を切り取れるように。
「あまり派手な行動は控えたほうがいいよ。手元が狂って子供を殺してしまうかもわからないからねぇ」
武器商人は冷たい呪いを歌い上げながら、そう自警団を牽制した。その実、形勢不利を見通して、仲間達に撤退を促す合図をする。
「できれば殲滅しときたい……が、あんまり状況が良くねぇな」
ことほぎの言うように、自警団が想像以上に手練れで構成されている。倒してあわよくば耳をとは考えていたが、そう上手くはいきそうになかった。
鋭く放たれる弓矢を回避して(痛そーだしね)、徐々に後退の意思を見せる。
そんな中自警団の敵視を稼ぐのは秋奈だ。
「戦乙女が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣が許しはしないわ!」
堂々たる名乗りは自身の行いに反省する色は見られない。
弓矢主体の自警団へと切り込んで、一人二人と切り倒していく。
「秋奈さん、引き時なのですよ!」
憎悪の剣を手に、悲しみの霊霧を生み出しフォローするナキが、そう秋奈に呼びかけて、撤退を促した。
「逃がすか――ッ!」
放たれる超常の矢がナキの身体を射貫くが、痛みに構っている暇はない。
溶解の手を振るって、自警団をショックの淵に追いやり、秋奈が下がる隙を作る。
「ほら、この子のお耳もないのですよ!」
クーアが最後の人質を突き飛ばして自警団に隙を作ると、イレギュラーズはまさに蜘蛛の子散らすように深い森の中に消えて行った。
怒りに身を任せて深追いする自警団もいたが、帰ってくることはなかったという。
「そういうわけで、ちゃんと生きてる耳を三十個、こっちは死んでしまった大人の耳二つです。
カースドお耳、気に食わない人に贈るといいですよ。
せっかくだし、買ってください」
依頼人へと素材の受け渡しの日、指定された場所へ行くと怪しげな老婆が現れ、値段交渉が始まった。
「ふぇふぇふぇ、物は言いようだねぇ。
……まぁいいさ、確かにそういう用途で使われることもあるからね。買わせてもらうよ」
「やった!」
そういって老婆は買い取った耳の質を確かめるように見定めて、質ごとに袋に分けて入れていった。
「それをどうするんです?」
ナキがその素材をどのように加工するのか尋ねると老婆は薄く笑って答えた。
「煮たり干したりして飾りの金具をつけるのさ。
まぁ実際には魔術的な効力を持たせる肯定もあるがね、そこは企業秘密さ」
「なんだか干し首っぽいッスね……。
はてさて、これがどの位の価値になるのか……私には見当もつきませんがね……。
――それはそうと吸血鬼の牙は価値が付いたりします?
この前抜けたばっかなんスけど………」
「ほう、吸血鬼かい。そりゃ良い素材になりそうだ。そうだねぇ……」
と、勘定を始めた老婆に手を振って止めにはいるクローネ。
「……冗談、買うっていったら呪いますよ……?」
「ふぇふぇふぇ、呪いなんざ怖くないさね。なにで商売してると思ってるんだい」
そういって、一頻り笑うと、分別した袋を持って立ち去っていった。
きっとしばらくの後、闇市に子供達の耳が並ぶことだろう。
幸運の長い耳。
アクセサリーとして付けていれば、持ち主に幸運を呼び込むという。
それは、奪われた不運な幻想種の良運を、すべて溜め込んでいる代物なのかも知れない。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
役割分担がとてもよく、手際もよかったですね。おかげで自警団も何一つ取り返せずに悔しそうにしていました。
かなり上乗せして素材を集めたので報酬が少しだけプラスされます。
MVPは魔眼による十分なフォローを行った武器商人さんに贈ります。
依頼お疲れ様でした! そのうちまた悪属性だすので宜しくお願い致します。
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
幸運を呼び込む長い耳。
それを作成するための素材集めが始まります。
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『深緑』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●依頼達成条件
・幻想種の子供達の耳を十個以上集める。
(左右の数はバラバラでも構わない。個数が多いほどよい)
・幻想種の子供達を殺さない。
(殺してしまった場合、その子供の耳は個数にカウントされない)
・自警団に捕まらないこと。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
不測の事態は起こりません。
●子供達について
迷宮森林で迷子になってしまった子供達です。実際は誘拐されて集められました。
数は二十人。男子十五名、女子五名。
幻想種は長寿から見た目に対する実年齢が結構怪しいですが、ここに集められた子供達は皆本当に子供と言える年齢です。
八才~十五才ほどで構成されています。
事態を理解すれば泣き叫び、逃げ惑うでしょう。年齢の高い男の子は攻撃してくる可能性もあります。
とにかく数が多いので、手早く耳を切り取る必要があるでしょう。
今回は、”宣言”を行えば最小のダメージで状態異常を付与する事が出来ます。重ねがけしないかぎり死ぬ事はありませんが、状態異常のダメージによって死ぬ事はあります(毒・火炎・出血など)。
耳を切り取ったあとは治療が必要でしょう。簡易治癒で問題ありません。こちらも”宣言”すれば回復スキルがなくても治療キットで回復することができます(手番は消費します)。
●自警団について
深緑の自警団の中でも精鋭が捜索に当たっています。数は十名。
迷宮森林は庭みたいなものなので、あらゆる手段を持って追跡してくるでしょう。作業をゆっくり行う時間的猶予はほとんど無いはずです。
遠隔攻撃主体で連携力も高く、ステータスは高水準です。
イレギュラーズの実力であれば倒す事も可能ですが、必要十分以上の準備、作戦が必要になってくるでしょう。
全員大人の幻想種なので子供達ほどの価値はないが、それでもその長耳はかなりの稀少度と言えるでしょう。
●戦闘地域
迷宮森林になります。
木々が立ち並ぶ空間になります。草木の茂みや木々に身を隠す事も可能でしょう。
戦闘は特に不利になることはありません。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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