シナリオ詳細
<常夜の呪い>君が愛した破滅のうた
オープニング
●全て燃え尽きればいい
町のまんなかにいた。
美しいステンドガラスが、教会の屋根が。
整然と伸びる石畳の道が。
美しい花のさく街路樹が。
にこやかに暮らす人々の家々が。
すべて。
すべて。
すべて炎に包まれていた。
がらがらと崩れる家々の音と、大気を吸って膨らむ炎の息づかいが、夜空を茜色に染めていく。
わたしは。
わたしは。
こんな日を、ずっと待っていた。
ぬいぐるみを抱えた少女が、燃える石畳を走る。
踊るようにくるりと周り、灰の散る空気を胸一杯にすいこんだ。
パパをいじめた教会が燃えた。
ママを連れて行った教会が崩れた。
焼け焦げていびつに縮こまった人間だったものを両足で踏みつけて、少女は。
白い清らかなドレスの少女は、燃えるような目を見開いて笑った。
「こんな日を、ずっと待っていた!」
それきりである。
少女は炎を吸い込んで、大きく大きく燃え上がり、炎の巨人へと変わっていった。
町の人々の燃えかすは家々をなめ、大地をなめ、首の無いヒトガタの炎へと変わっていく。
炎の巨人は、いつまでもいつまでも笑っていた。
こんな日が……こんな夢が、いつまでも続きますように、と。
●常夜の呪い
天義の町で頻発する<常夜の呪い>事件については、もう知っているだろうか。
ある魔種のしわざによって引き起こされたこの呪いは土地一帯を夜色の霧で包み、内部を夢のような空間へと塗り替えてしまうのだ。
土地にとらわれた人々は覚めない眠りにつき、いずれは衰弱し死に至るという。
夢見るままに死ねばいい。
そんな、怠惰の呪いである。
「天義の教会はこの対応に忙殺されてるらしくてね。
少しでも手を借りたいっていうんで、こっちにも仕事が回ってきてるんだ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)がそういって紹介したのは、ある町でおきた<常夜の呪い>事件であった。
調査によれば、空間内は『燃え続ける町』に変わっており、ただそこに居るだけで誰もが炎に巻かれてしまうという。
立ち入った調査員は非常に強力な炎の巨人と、それに使役された炎人間たちの襲撃に遭っている。おそらくはスリーパーと呼ばれる空間の守護者だろう。これを倒すことで、呪いを解くことができるのだ。
しかしそれなりに装備の整ったチームを編成し突入させたとしても、かなりの被害を被るだろうとのことだ。
決して簡単にはいかないだろう。
「これは……うん。教えて置いたほうがいいね。
この町にとらわれてる人々の中に、一人の女の子がいるらしい」
娘の父は教会ではたらく熱心な神父であったが、あるとき過労と病によって死んでしまったらしい。
町でおこる全てのことを、町の人々は神父に押しつけていたのだ。
神父だからできるはず。神父ならやって当然のはず。そんな傲慢と怠惰によって押しつぶされた父は死に、その事実に耐えられなかった母は壊れ、心の病であるとして強制的に入院させられた。
そうして娘がひとりきりになった……その直後、町は<常夜の呪い>に包まれたのだという。
「この娘の爆発した願望が、都合のいい夢となってこの空間を作っているのは間違いないと思う。
そしてその感情が今すぐに言えることも……きっとないんだろうね。
僕らに出来るのは、それを奪い去ることだけだ。
関わる全ての命までもが奪われるよりも、早くに」
- <常夜の呪い>君が愛した破滅のうた完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年04月12日 21時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●万人に幸福を願う権利がある。ただし叶えるには力が要る。
烏も夢を見るという。
鼠も、猫も、一説には虫や花ですら夢を見るというものもいる。
静かに、感情の読みがたい目をして夜色の霧を見る『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)の横顔に、『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)はあえて声をかけなかった。
不思議と冷たい空気を胸一杯に吸い込んで、はき出すだけ。
独り言のようにいう。
「夢の中をお散歩出来るなんて、まるで夢みたいね~。
このなかで夢を見ている子は、一体どんな気持ちなのかしら?」
再び横顔を見やる。
エーリカは髪飾りを、レストはポケットの中の免罪符を、それぞれ強く握った。
「ここまで破滅的な願望を持つ強いスリーパーが現れるなんて……一体何が起こっているんでしょう?」
「わからないけど……『女の子が囚われてる』ってことは確かだよ。助けようね」
『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)と七鳥・天十里(p3p001668)はそれぞれ目を合わせ、頷きながら利き足を投げるようにして霧の中へと歩き出した。
冷たい空気がまるで遮断されたかのように、強い熱気と風がふいている。
すぐに灰の香りと熱と、あがる炎の光が周囲を覆った。
「さてさて、眠りから醒ます王子様になりますか」
ガスマスク越しに呼吸をする『未来偏差』アベル(p3p003719)。
「――ガラじゃないですがね」
灰が熱風に舞い上がっていく。
熱に割れるガラスの音。崩れる家屋の轟音。人の声はなく、ただ巨人の笑い声だけがあった。
空が直接笑っているような、人とはとても思えないような笑い声が、絶えず絶えず聞こえている。
見上げれば、巨人の姿はすぐに分かった。
息を呑む『銀月の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)。
「これほどの増悪に飲まれて……家族を奪われたその子にはどのように世界が写ったのでしょう」
「とっても辛かったんだよね、全部燃えてなくなっちゃえばいいって思うくらいに」
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は背負っていた槍のロックを外し、両手にしっかりと握り込んだ。
「でも、だからってこの光景を仕方ないで済ませてあげるわけにはいかないよ。
怒りや憎しみの気持ちで炎を使ってたら、
いつかその感情で自分の心まで焼き尽くされちゃうからダメだって……お父様も言ってたもん。
この子の為にも、ボク達でこの炎を消してあげなきゃ」
「おおむね、同感なのです」
『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)はマッチをするようにして木剣を煉瓦の壁に払い、火花から炎を育てていった。
「彼女の気持ちは分かるのです。
夢景色としては、これは確かに最上……。
ですが気にくわないのです。気にくわない」
クーアたちの様子に気づいたのだろう。
まるで体内に入ったウィルスを白血球細胞が駆除するように、オートマチックにこちらを敵視し始める炎の巨人。
と同時に、崩れかけたないしは倒壊しきった家々から首のない炎人間たちが姿を見せた。
「これは命の終わりに見るべき景色、これが夢でなかったとしても、子供が創るにはまだ早いのです」
クーアは剣の炎を柱のように大きく膨らませると、火炎瓶に点火して放り投げた。
「ただの夢であればなおのこと。一刻も早く醒ますのです」
●優しさは力ではない。ただし力は優しさになりえる。
爆発を背景に、炎人間たちが群がる。
理解不能なわめきを発しながら、それぞれバラバラに組み付く炎人間たち。
アベルはそれを振り払いながら、炎人間たちの統率のなさを理解した。
『誰でもいい』のだ、彼らは。
「なら、好都合だ。初手は任せましたよ」
アベルはボウガンに特殊な毒を塗りつけた矢をセットすると、巨人へと発射。
きわめて正確に放たれた矢は巨人に突き刺さり、巨人はそんなアベルへと注目した。
風を踏むように跳ねる天十里。
燃えさかる建物の屋根に飛び乗ると、屋根から屋根へ飛び移るようにして巨人の脇を抜けていく。
無視してアベルを狙おうとする巨人に、すれ違いざまに銃撃を仕掛けていく。
リボルバー拳銃から放たれた光の弾が巨人の脇腹に命中し、意識を強制的にかき乱していった。
笑い声が乱れ、天十里へと振り向く巨人。
「ちょっとの間、僕とダンスを踊ろうか。鬱憤貯まってるんでしょ? 吐き出してみなよ!」
振りかざした腕が天十里を狙う。
すんでの所でジャンプして攻撃をかわした天十里。そのすぐ後ろで民家が粉砕された。
パチンとウィンクをして、弥恵たちから離れるように走り出す。
アイコンタクトを『そっちをお願い』の意味だと察した弥恵は、迫る炎人間の組み付きをすり抜けるようなスライディングで回避。
「月の舞姫、華拍子。天爛乙女の津久見弥恵、参ります!」
後方からハイキックを打ち込んで炎人間を蹴倒した。
手を振り、『先へ行ってください』のサインを出す弥恵。
と同時に、エーリカへ『天十里さんを任せます』のサインを出した。
頷き、走り出すエーリカ。
ブレイクフィアーは強力なBS回復手段だが、炎人間が多く群がる環境ではかえって使いづらい。
逆に天十里の回避性能その他は致命傷を連続して受けづらく、エーリカのハイ・ヒールとブレイクフィアー or キュアイービルでのフォローが充分に有効であった。
そしてそれに専念できるだけの人員が、今回はそろっていたのである。
「こっちはおばさんが頑張るから、巨人さんのほうを任せるわね~」
レストはエーリカに手を振ると、パラソルステッキを開いてくるくると回し始めた。
調和の力が波紋のように広がって、そして収束し、一点に集まっていく。
「うまく行くといいんですけど……!」
狙いは利香。利香はパチンとウィンクをしてみせ、炎人間たちの注意を引きつけ始めた。
助けを求めるような、責任を負わせるような、すがりつくような声を発して組み付く無数の炎人間たち。
利香は押し倒されないように踏ん張って、盾や剣を翳すことで決定的なダメージを防いでいった。
巨人一体を相手にする場合は回避に優れた天十里が、無数の炎人間を相手にするなら防御が硬く【反】能力と【崩し無効】を備えた利香が適任である。
『チャーム』の命中確実性は若干の不安こそあったが、弥恵がさらいそこねた個体を誘引することで確実性の高い引きつけを実現した。
が、作戦の要はここからである。
利香と弥恵はギリギリまで炎人間たちを引きつけ磁石に吸い付く砂鉄のごとく団子状になった炎人間たちから、最後の最後で走って離脱。
「ほら出番ですよ! クーアさん!」
「まとめて焼けて、灰になるがいいのです!」
過剰なほどの超反応。火炎瓶を四本同時に点火し、クーアが『空っぽの団子』になった炎人間たちめがけて投擲し、爆発させた。
必殺の威力を持つ炎に、いくつかの炎人間は砕けるように、そして煙のように消えていく。
残った個体が移動を始めようとするも、まとまったエリアに焔が狙いを定めた。火炎弾の術を行使し、炎の爆弾を炸裂させる。
クーアの攻撃をうけて生き延びた個体も、さらなる爆撃にまで耐えるのは難しかった。
それらの攻撃を仮に回避できたとしても、アベルの射撃によって破壊され、繰り返されるクーアたちの爆撃によって手早くそして確実に消滅していった。
きわめて隙の無い、そして確実性のとても高い作戦であった。
欠点のようなものしいてあげるとすればクーアのファンブル率がやや高いことがあるが、この作戦が充分に繰り返し可能であり相手側は学習できたとしても対策できない手であることから、その欠点は無いに等しいものであった。
全ての炎人間を消滅し終え、レストがミリアドハーモニクスによってそれなりにダメージを受けた利香や弥恵の回復を図る。
そして彼女たちは、銃声のするほうを見た。
光の弾丸を撃ち込む天十里。
反撃にと繰り出された攻撃に対して回避行動――を、とりそこねた。
サッカーボールのように蹴り飛ばされ、民家を破壊しながら飛び、がれきの中に転がる。
「い……たた……」
手を突いて起き上がる天十里。
そこへ走り込み、振り上げた足で踏みつけにかかる巨人。
直撃か。
そう思われた瞬間、豪快に繰り出された盾が巨人の足を受け止めた。
利香である。彼女の意志が盾に伝達。巨大なラウンドシールドへ変化した盾が、反発力をもって巨人を跳ね返した。
転倒する巨人。
利香は振り返り、天十里の手を掴んで引き起こした。
「炎人間たちは片付きました。お怪我は?」
「なんとか。エーリカちゃんがいてくれたから」
がれきの中をぬけて駆け寄るエーリカ。
彼女のハイ・ヒールをうけて、天十里の残り少ない体力が回復していく。
「長時間だったら、危なかったかな。そっちは早く済んだみたいだね」
反撃開始だよ。天十里はそう言って、銃の弾倉に赤い光を宿した。
起き上がろうとする巨人へ連射。
凄まじい威力で、巨人の腕を貫いていく。
ドッ、とがれきを破壊しながら飛び上がるクーア。
巨大な車輪のようなものに収まったクーアはそのまま巨人に激突すると、大爆発を起こしてそのまま反対側へ離脱。
がれきの中へと着地した。
「今なのです」
爆発によって大きくよろめいた巨人。
アベルはここぞとばかりに円盤状の地雷を投擲して巨人の胴体に貼り付けると、ライフルを撃ち込んで即座に爆破させた。
あまりの衝撃に、巨人は周囲の建物を破壊しながら吹き飛び、大通りへと転がり出ていった。
アベルへと振り返り、駆け寄ろうとする巨人。
割り込むように身構える利香。
一方で、レストは傘におまじないを込めて魔法を打ち出した。
反動の強いライフルを発射したかのように、衝撃でぽてんと後ろ向きに倒れるレスト。
一方でおまじないを込めた魔法の弾は巨人に命中。
先に打ち込まれていた無数の効果が連鎖的にはじけ、激しいダメージになって身体のあちこちを破壊していった。
「炎だって焼き尽くせるお父様のこの技ならっ!」
焔の槍が巨人の足を打ち、破壊していく。
見れば、巨人の姿が徐々に縮まり。3メートルほどの大きさにまで小さくなっていた。
追撃の構えをとる焔。
が、それよりも早く、弥恵の放った無数の糸が巨人を絡め取っていった。
炎が吹き払われ、動きは止められ、無理に動こうとした巨人の身体からぶしゅんと血が噴き出した。
否、既に巨人ではない。
滑るように素早く距離を詰める弥恵。
炎の吹き払われたそれは、一人の少女であった。
「もう、目を覚ます時間ですよ」
指でとんと額をつくと、少女に呪いの力が走り、そして、眠るように少女は……スリーパーは力尽きた。
●現実は覆らない。ゆえに実現したものは覆らない。
町であった。
静かな、平和な、なんてことのない町の風景であった。
物売りの男も、新聞配達員もそれぞれ目を覚まし、路上倒れて眠っていた事実に首を傾げていた。
「一体、何があったんだ? 俺は新聞の配達に出ていたはずだが……昨日飲み過ぎたのかな」
そんな風景の中心に、イレギュラーズたちはいた。
ちらりとレストの顔を見るエーリカ。
「皆は夢のことを記憶してないのかしら……?」
一方のレストも状況がうまく飲み込めていないようだ。
「一個人の大きすぎる感情に呑まれ、記憶すら残らなかったのだろう」
声がして、弥恵は驚いたように振り返った。
覆面を被った神父。一部の者は彼の名を知っているが、今それは重要なことではない。
彼がネメシス正教会に属する神父であり、異端を廃する審問官であるという事実が、なにより重要な意味をもっていた。
「それが、例の少女か」
視線が向いた先。
弥恵が今まさに抱きかかえていたのは、黒いドレスを着た少女だった。
精神に強い負荷がかかったためだろうか、まだ眠っている。
「ま……待ってください」
「この子に何をするつもりですか」
警戒するように立ち塞がる利香。
そんな利香たちを、黒いローブと奇妙な仮面で身を包んだ者たちが取り囲んだ。
「この子も呪いの被害者なんだから責めるのはお門違いだし、みーんな悪い夢を見てただけ! それでおしまいじゃない?」
笑顔を維持して仲裁に入ろうとする天十里。
対して、神父は小さく首を振った。
「悪夢は払われた。魔は必ず討つ。だがこれは……その少女が破滅思想に犯されていることとは別の案件だ」
「そんな天義のお偉いさん達の事情より眼の前の少女を優先したくなる……って言ったらどうします?」
眠った少女をひったくるように抱き、銃に手をかけるアベル。
悪名がついても構わないからどこか遠くへ逃がしてやろう。そんな意志が彼の動きから見て取れた。
が、それが可能な状況にも、今は見えない。
天義という一国家を敵に回すことは、悪名どころのレベルでは済まされない。当人及び関係者の命の有無にかかわる問題だ。それは勿論、娘の母親も含まれている。
クーアは剣に、焔は槍に、それぞれ手を伸ばした所で……。
神父はもう一度首を振った。
「大きな誤解があるようだが」
神父は懐から、一枚の封書を取り出した。
宛名はこの神父。差出人はエーリカとレストだった。
「その黒衣の者たちはネメシス正教会の者ではない。
私が秘密裏に組織している、『存在しない教会』の者たちだ。
目的はその娘と……母親の保護である」
「保護……?」
「表向きには『抹殺』だ。彼女と母を死んだことにして、ネメシスから隔絶された土地に住まわせる。
本来なら移送が行なえなかったが、君たちがきわめて早く事件を解決したことでネメシス正教会の突入許可が下りるまでに時間がかかった。その隙をついて、私は彼らを先行することができた」
「…………」
つまりどういうこと? と目で訴えてくる焔。
クーアは肩の力を抜いて、剣からも手を離してみせた。
「私たちがこの土地にかかった『常夜の呪い』をかなり素早く解除できたから、この子と母親を安全な所に逃がすことができる、ということなのです」
「その通りだ」
神父は深く頷いた。
「君たちの主張は正しい。娘の父親は町民の無責任によって死に、母親はその圧力によって病んだ。娘が破滅思想に目覚めることは自然であり、その責任は我々ネメシスの体質と教会の管理にあると言っていいだろう。
しかし、それを今すぐ正す方法はない。町民が無責任なのは平和であるがゆえ。父親が死に母親が病んだのは誠実であったがゆえ。そのどちらを欠いてもいけない。
全てを燃やし消し去ったとて、正しく再構築などされない。
我々は、バランスをとらなければならないのだ」
そこまで言ってから、天十里や利香たちの顔を見た。
「いや……とれるものなら既にとっている。だから、君たちを雇って外部からバランスをとるほかなくなったのだろう。
『世界のバランサー』である、君たちを頼ったのだ」
「この子の未来を奪うつもりはない……と?」
「当然だ。彼女は保護し、母の治療にあてさせ、幸福を体感させることで、破滅思想を解消させる。それが我々のとれる責任であり、バランスだと考えている。
……むろん、正教会に知られれば大変だがな」
だから内緒にしておいてくれよ、と神父は口元に指を立てた。
黒衣の者たちが娘を抱きかかえ、馬車に積んで走って行く。
「この子がどこへ行くのかは、教えてくれないの?」
天十里の問いかけに、神父は……異端審問官スナーフは首を振って苦笑した。
「それを教えないのもまた、バランスなのだよ」
遠ざかる馬車。
まるでこの場所には来ていなかったかのように立ち去る神父。
やがて町には正教会の神父たちがやってきて、要領を得ない町民たちへの聴取を報告し、この事件は正義のもとに正されたという結論と共に書庫へしまいこまれるだろう。
残された利香たちは、自分の手のひらを見つめた。
「勝ち取った時間が現実を変えた……か」
「もしこの事件にあたったのが私たちでなかったら、こうはならなかったかも知れないのです」
クーアは、立派に鳴る教会の鐘を見上げた。
きっと明日には娘は目を覚まし、悪い夢を再開した母に打ち明けるだろう。
彼女たちは語らい、傷を自覚し合い、生き、やがてこれを過去にするだろう。
それが。
イレギュラーズたちの勝ち取った、現実であった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
今回の作戦は素晴らしくよくできておりました。
おのおのが自分の役割を正しく認識し、ステータスを構築し、過去の学習から実行する。
『がんばる』で解決できるのがノーマルなシナリオだとしたら『がんばる+ゲームテクニック』で解決できるのが今回のシナリオです。
テクニックというのはスキル構成であったり相談展開であったり作戦構築であったりしますが、今回は適切に、かつうまく引き算のされたメタをはり、適切に敵戦力の殲滅(事件の解決)を行なうことが出来ました。
シナリオの結末はそのことに対するボーナスでございます。
数値上のボーナスよりも上位のボーナス、と考えて頂いて結構です。
GMコメント
【オーダー】
・成功条件1:『炎の巨人』の撃破
・成功条件2:<常世の呪い>の解除
呪いを解くために倒すべき『スリーパー』は炎の巨人であるため、
成功条件1の達成は自動的に2の達成になります。
【シチュエーションデータ】
●燃え続ける町
この空間にいる場合、無条件で毎ターン【業炎】と同じ効果が発生します。
ただし火炎耐性を持っていた場合状態は『毎ターンHP80を失う』に代替されます。
あちこちの建物が燃え、大きな消えない炎があがっています。
殆どの建物は倒壊状態にあり、まともに残っている建物はごくまれです。
主な戦闘場所は町の大通りになるでしょう。
【エネミーデータ】
●炎の巨人
建物を見下ろすほどの巨大な炎が人の形をとっています。
全体的にステータスが高い。
中でも非常に高い神秘攻撃力、HP、防御技術、EXAをもっており、とても危険。
・ブロック不能:この対象はマークやブロックができません。
・怨恨(神超域【万能】【識別】【乱れ】):強い恨みによって崩壊を起こします
・憎悪(神近単【呪殺】【必殺】、大ダメージ):強い憎しみによって攻撃します
●炎人間
首からうえのない人型の炎。大小違いはあれどオトナ程度の大きさをもつ。
数は10~20。正しく数えてはいないが、20より多いことは無い模様。
命中値とEXFが非常に高いのが特徴だが、HPや防御技術や攻撃力は非常に低い。
攻撃方法は以下の通り。
・すがりつく(神至単【窒息】)
・しがみつく(神至単【足止】)
・執着(神至単【不吉】)
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