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シナリオ詳細

<常夜の呪い>善良なる殺人鬼の夢

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夢に魘される

 俺は善良な一般市民。
 そう、悪い事なんかせず素直に正しく生きる。生きているはず、だった。
 嗚呼、だがどうしてだろう。
 俺はいつもいつも、自分ではそんなことしたくないと、泣いて叫んで抗っているのに、おれの身体が心を無視して動いてしまう。
 肉屋のおじさんにお金を払う時も、隣に住む綺麗なお姉さんに話しかけられたときも、風船を手放してしまい泣いてる子供に出会った時も……。
 気づけば俺は血塗れで、目の前には無残に倒れた血塗れの人、人、人。
 俺は泣いて叫んで謝って、殺してくれと声を上げながら自首をする。
 けれど、次には倒れた憲兵の死体に囲まれて、真っ赤に染まった手を見て我に返る。

 俺は善良な殺人鬼。
 誰もが近づく善良さに、誰もが泣いて逃げ出す殺人鬼さを併せ持つ。
 自殺も出来ず、唯々苦悩し、神を恨む。
 ――神よ、なぜ俺の身体を操るのか。
 もうやめてくれ! 誰も俺に近づくな!
 そうして孤独に涙を零した夜には、この夢を見るんだ。

 夢。
 そうこれは夢だ。
 牛の頭をした肉屋のおじさん。
 綺麗な爪が鋭く刃物になった隣のお姉さん。
 両手の風船爆弾を楽しげに破裂される泣いてる子供。
 彼等はどんどん分裂して、増殖して俺を取り囲む。
 何度も何度も俺を殺して、何度も何度も俺が殺し返す。
 殺戮だけが残る、何も残らない空虚な夢。

 お願いだ。
 誰か、誰か。
 どうか、俺が目覚める前に――俺を殺しておくれ――……。


 天義各地で頻発する『常夜の呪い』事件。
 此度もまた天義東部の街で発生した夜色の霧への対処がローレットへと回ってきた。
 依頼書を手にする『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が概要を説明する。
「天義東部フチャカ村の村はずれで『常夜の呪い』が発生したようね。
 ただ今回は誰かが住まう建物……ということではなく、村はずれにあった廃屋が夜色の霧に飲まれたそうよ」
 多くの事件は誰かが住まう建物を発生源とする。中で夢見る人が呪いの対象となっているのだから当然とも言えるが、今回の場合はどういうことだろうか?
「色々と情報を集めてみたけれど、可能性としてあるのは近隣で目撃された不審者がそこにいる可能性かしらね。
 自らを殺人鬼と呼び、目に付く人々に近寄るなと声を上げていたってことなのだけれど……どうにも本人の言うように多くの人々を殺害している人間みたいね」
 近づく者を容赦なく殺す殺人鬼。様々な施策をもって捕縛しようと試みたようだが、突然に常人離れした力を発揮するこの人物を捕らえる事はできなかったという。
「常夜の呪いに掛かっている以上起きる事はないのでしょうし、本人が望むとおりこのまま放置して餓死させるというのも一つの手段だけれど、村の住人からは噂に聞く呪いが村全体を包み込んでしまうのではないかと不安がっていてね。
 早急な対処を求められている以上、霧の内部に突入してスリーパーへの対応をせざるを得ないわね」
 夢に巣くうモンスター――スリーパーを倒せば呪いは解除されることだろう。
 しかし今回は、そうして呪いを解除した後にも選択を求められる。
「夢から覚める前に殺人鬼に安らかな死を与えるか、それとも戦闘になる事を想定しながら捕縛等の対応を試みるか……その判断は貴方達に任せるわ」
 どちらにしてもまずは常夜の呪いを解く事が先決か。
 選択肢を考慮しながら、イレギュラーズは依頼書を受け取るのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 天義にて常夜の呪いが頻発しているようです。
 善良な殺人鬼をどうするかは、皆さん次第です。

●依頼達成条件
 夜色の霧に包まれた廃屋へと突入し、内部に巣くうスリーパー全て撃破する。

■オプション
 殺人鬼への対処(殺害、または捕縛。逃走を許す事も可能)

●情報確度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は起きません。

●スリーパーについて
 肉屋のおじさん。隣のお姉さん。風船を無くした子供がそれぞれ三体ずつ計九体います。
 肉屋のおじさんは耐久力が高く鋭い肉切り包丁による攻撃が重く強いパワータイプです。
 隣のお姉さんはしなやかな体幹を持ち、回避、EXAに富んだスピードタイプ。
 風船爆弾を操る子供達はステータスは低いものの、ショック・混乱・Mアタックを付与してくるBS先行型になります。

 スリーパー達はそれぞれかぶり物が違ったり、服の色が違ったりと狙いを付ける事には不自由しなさそうです。番号やアルファベットなどで分類すれば尚良いでしょう。

●善良な殺人鬼
 眠っている男。スリーパーを倒せば程なくして目を醒ますでしょう。
 報告によれば、まるで力のない善良な一般市民のようでありながら、何かのスイッチが入ると途端に尋常ではない力を発揮し、手の届く範囲にいるものを殺害して回るようです。
 武器となるものを持たなくとも、取り囲んだ憲兵六人を素手で殺しきったことから異常な戦闘能力を持っている事が想定されます。
 指名手配されているようなので、サクっと殺しても問題はありません。
 口癖は「殺してくれ」と「殺したい」。

●戦闘地域
 天義東部フチャカ村の村外れにある廃屋になります。
 夜色の霧に包まれた夢空間内部は、色々な殺人現場が重なりあった風景のようです。
 戦闘場所は障害物等のない路上が主となります。戦闘に制限はかかりません。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • <常夜の呪い>善良なる殺人鬼の夢完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月13日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
銀城 黒羽(p3p000505)
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
ユー・アレクシオ(p3p006118)
不倒の盾

リプレイ

●夢の中で安らかに
 天義東部フチャカ村の村外れは仄暗い寂しさを湛えた場所だった。
 人が寄りつくことはないであろう廃屋が並ぶその場所に、ポッカリと夜色の空間が生まれていた。
「何とも寂しい場所だね。
 善良な殺人鬼……ただの仮面か、それとも本当に心が二つあるのか。
 ……こんな場所で一人身を隠して眠りにつくくらいだ。真実苦しみを背負っていたのかもしれないね」
 『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)がどこか悲しみを含んで言葉を風に乗せた。
 情報通りならば、死を振りまく殺人鬼は自らの死を望んでいた。話だけ聞けば、どこか心に障害を持ち合わせていそうにも感じられる。
 まあ、この混沌という世界だ。何かに操られているという考えも否定は出来ない。何がきっかけで運命が変わるとも知れない世界だ。
 いずれにせよ、このような廃屋で一人眠りにつく男は、確かに苦しみ自らの死を望んでいる。であるならば、その介錯人を務めて見せようと威降は決心した。
「殺人衝動を抑えられないってのは厄介だが、それもそいつの性さ。
 表向きは善良なんだし自身と上手く付き合えてさえいれば、一流の殺し屋になってたかもな」
 崩れた廃材を乗り越えながら『小さき盾』ユー・アレクシオ(p3p006118)が呟いた。ユーの言うように心との折り合いが付けば、それは武器になっていたことだろう。
「善良な殺人鬼か……ソイツのことを思うと少しクるものがあるな。感傷的になるわけじゃねぇが、よ」
 多くを護ると決めている『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)は、しかしすでに多数の決が取られた後の状況を思い頭を横に振るう。
 殺人鬼について調べられるだけ調べた黒羽は、その生い立ちを僅かながら知ることができた。
 子供の頃より人が良い、利口な子として育った男。
 最初の事件――男が二十歳の時に起きた事件も、それ以後の殺人同様、その動機が不明。
 ただ一つ気になったのは……最初の事件の一年程前、子供の頃より大切に育て家族同然だった猫が死んだらしい。これは完全に偶然の事故だった。しかしそれ程大事に育てていたにも関わらず、男は涙を誰にも見せなかったそうだ。
 多くの人が違和感を持ったようだが、「ただ人前で涙を見せないのだろう」とそう気にすることはなかった。
 黒羽はそのペットの死が何かのきっかけになったのではないかと感じるが――それを証明する手段はなかった。
 そして、すでに参加者によって眠る殺人鬼への対応は決まっていた。その決定自体に異論を挟む気はないが、心情的には別の手段――公正な場での裁き――を取るべきとの主張を持っていた。
 黒羽の思いは見透かせる。それを強く否定するものはいないが、リスクとリターンを考えれば賛成しにくいものでもある。
 また根本的に殺人鬼の在り方、その性質に疑問を持つ者もいる。
「善良な殺人鬼など存在するのでしょうか?
 善良さなんてモノは、天義特有の空気に飲まれただけのペルソナなのではないでしょうか?」
 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)の言葉もある意味真実と言えるかも知れない。一面的な見方で”善良”と表すならば、多くの者が自らを善良と呼ぶことになるだろう。そうであればこの奥で眠る殺人鬼も善良と言えるかもしれない。
 だが、繰り返し殺人を犯す――犯した者が、善良を嘯く。それは矛盾であり、到底信用できない話だ。
「……もし、本当に善良であるならば――」
 それは魔術や機械による外的要因があるはずだと、幻は考える。後の事を考えればその調査も必要だと感じた。
「ふん」と『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が肩を揺らした。
「根が善良、なんてのは口だけならいくらでも言えるのさ。
 ま、お望み通り死なせてやった方が、世の為人の為だろ?」
 身も蓋もない言い分だが、此度の依頼に関してはそれが得策でもあろう。すでに多くの命を奪ってきた相手であるのは事実。下手に情を与えて、それがきっかけに取り返しの付かない自体になるなどもってのほかだ。
「ああ、わかってる。分かってるんだがよ……ちくしょう」
 手が届かない無力感を覚えながら、黒羽は悔しそうに吐き捨てた。
「仕方ない、よね……解決策がある訳でも、犯した罪が消える訳でもない……」
 人知れず呟く『青の十六夜』メルナ(p3p002292)。ある種諦観にも近い思いだが、「それでも――」と胸の中で続ける。
 殺人鬼(彼)自身が何かに苦しんでいたなら……お兄ちゃんならせめて、出来るだけの事をしてあげる筈だ、と。
 死を望む殺人鬼。ならばせめて夢に微睡む中で安らかな死を。
 イレギュラーズはそう心にきめて、夜色の霧が包む見込む廃屋へと足を踏み入れる。
「スリーパー、か……」
 夜色の霧へと足を踏み入れながらマルク・シリング(p3p001309)が敵の名を口にした。
 ――常夜の呪いを生み出す魔種『真なる夜魔』。いったいどれだけの村落がこの霧に飲まれたのだろうか。
 イレギュラーズに出来るのは、事件が起こった後の対処だけだ。後手に回らざるを得ない状況をマルクは悔しいと思う。
 湧き上がる無力感を打ち消すように頭を横に振る。集中しなければならない。これから戦いなのだから。
「ケッ、辛気臭え夢だ。もっといい夢みろっての!」
 辺りの様子を窺いながら『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)が悪態を吐く。
 周囲の様子は廃屋から様変わりし、血生臭い殺害現場がいくつも折り重なったような景色を見せていた。
 人通りの少ない路地裏。何処かの家の広間、中には街の中央広場なんてものもある。
 一体どれだけの殺しを重ねたのか。この薄闇の広がる空間の何処かで眠りにつく殺人鬼の罪の重さが窺えた。
「反響がある。近くだ」
 ユーがエコーロケーションで把握した情報を伝える、程なくしてそれは居た。
「あいつか……」
 グドルフの視線の先、黒洞々たる空間に足を抱えて眠る一人の男。
 この異常な空間で寝ている人物。それは常夜の呪いを受けた被害者であり、今回に限っては村々を騒がせる殺人犯に他ならない。
 素早くグドルフがボウガンを向ける。山賊たるグドルフには僅かな情も決心を鈍らす弱い心はない。
「見たくない奴は背を向いて目を閉じろ。耳を塞げ。
 ――じゃあな」
 無慈悲にボウガンの矢が放たれる。
 同時、男の周囲に点々と現れる幾つもの影――!
「チッ! 出やがったか!! キドー!」
 グドルフ、そしてグドルフをよく知るキドーの判断は素早かった。
 射かけた太矢が現れたスリーパーに弾かれる。だが、それと同時にキドーが手投弾を投げつけ、スリーパー達を散開させる。そこへ、グドルフの正確無比な矢が二発放たれた。
 矢は障害なく男へと吸い込まれ、その足を抱えうずくまる男の背に二発、確実に刺さった。ビクリと身体を揺らし男の身体が力なく弛緩していく。
「仕留めたかどうかはわからねェが……致命傷にはなったか」
 夢主が死ねばこの常夜の呪いが解けるかどうかは不明だが――少なくとも夜色の霧の空間も、スリーパーも存在し続け此方へと攻撃を開始している。
「死ぬまでに見る最後の夢ってところかよ……ちくしょう」
 どうか夢の中では安らかに。祈るように瞳を伏せた黒羽は、悔しさを歯噛み唸るように咆哮しながらスリーパー達へと突撃した。

●残滓
 血に塗れた人々が、まるで「この男を殺すのは自分達だ」と主張するように、男の周囲に広がり――矛盾しているが――男を護ろうと手にした武器を振り回す。
 その中心に居る男はすでにグドルフの太矢を何発も受け絶命しているようにも思われるが……戦闘の渦中それを確認する余裕はなかった。
 イレギュラーズは現れた九体のスリーパーに対して四班に分けて対処に当たる。
 一班二名。コンビとして動くことで高い連携性が生まれる形であり、また厄介な敵を一気に潰していける作戦でもあるだろう。
 この方針はイレギュラーズの戦闘性能もマッチしていて、かなり有効な作戦だったと言えた。事実、肉屋のスリーパーはその真価を発揮する前に多くのダメージを受け、力尽きようとしていた。
 戦闘で高い連携力と反応を見せていたのは賊党たるグドルフとキドーだ。
 無骨な剣を振るい乱暴に暴れ回るグドルフが、肉屋のスリーパーを叩き斬る。卓越した技量からなる圧倒的ぶった斬りは、防ごうとする肉斬り包丁諸共スリーパーを叩き割り闇へと還した。
 相棒を煽るように喧しく口を開く。
「オウ、キドー! ウカウカしてっと、おれが手柄ァ独り占めしちまうぜえ!?」
「うるせーなオッサン! 歳考えずに調子こいてっと腰いわすぜ!」
 そう反応を返すキドーもまた特異な技を見せる。
 子供スリーパーの持つ風船爆弾が放たれるのを見れば、落下するよりも早く特製の手投弾を投げつけて爆破する。
 狙いは見事。子供の風船爆弾は敢えなく破壊されその多数の効果を無に還した。子供スリーパーが顔を歪めて泣き始めた。
「ヘッ、そういうのは俺以外の誰かに見せるんだな!」
 悪党たるキドーに子供の泣き顔は意味をなさない。呪詛の言葉が子供スリーパーへと向けられて、子供スリーパーは苦悶の表情を浮かべながら消滅した。
「ヒューッ、やるじゃねえかい! おれさまも、負けてられねえなあッ!」
 戦果は上々。賊党二人は次なる獲物へと襲いかかった。
 威降と幻のコンビもまたスリーパーを仕留めようという所だ。
「夜が明ける前に――手早く終わらせる!!」
 温存する必要などないと言うように、威降は全力をぶつけ続ける。
 幾重にも刀と肉斬り包丁がぶつかり光彩を放つ。高い攻撃力をもつ肉屋のスリーパー相手にも一歩も引くことなく鋭く懐に踏み込んで、スリーパーを追い詰めていく。
「風巻様、今です――!」
 幻の生み出した疑似生命が、刹那の隙にスリーパーを翻弄する。その恍惚にも似た隙を威降は見逃すことはない。
「――風巻流小太刀、奥伝の一。颶風穿ッ!!」
 至近の間合いより無拍子で放たれる神速の刺突が肉屋スリーパーを穿ち絶命させる。
 仲間が倒された事に怒り、子供スリーパーが風船爆弾を放とうとする。だがその動きを読み切っていた幻が今一度刹那の疑似生命を放った。狙いは風船だ。
「風船で攻撃というのはありがちではございますが――誘爆させられた際の対処も考えて置くべきでございましたね。お子様には難しかったでしょうか?」
 薄く笑った幻の狙い通り、風船爆弾が子供の頭上で爆発する。異常を齎す魔力が巡る爆風をモロに受け、子供が大きく混乱した。
 右往左往する子供へせめてもの情けと、威降が武器を振り下ろすのは程なくしての事だった。
「逃がさない――ッ! イノセント・レイド!!」
 清廉たる無垢を示す青白い斬光が一閃する。
 メルナの放った闇を切り裂く光刃が陣形を乱したスリーパー達を飲み込んでいく。巻き込まれた子供スリーパーの風船爆弾が誘爆し、その効果を無に還した。
 肉屋スリーパーが飛び出しメルナに肉斬り包丁を叩きつける。その一撃を防ぎ、はじき返すと、間合いをとって一つ息を吐いた。
「メルナさん、すぐに回復を」
 コンビを組むマルクが治癒術式を起動し、メルナの傷を癒やしていく。
 高い攻撃力を持つメルナと、回復に長けたマルクのコンビはバランス良く、多くの敵へと範囲ダメージを与えながら担当分を追い詰めていっていた。
「ありがとう! 次で仕留めるよ……!」
「無茶はしないでね。僕も最大限援護させてもらうよ」
 マルクの言葉にこくりと頷いて、メルナが勝負を決めに突撃する。
 マルクの放つ魔力弾の軌跡を追いながら一足飛びに肉屋スリーパーへと肉薄すれば、憎悪の爪牙をその魔剣に宿らせ、圧倒的なまでの力をもってスリーパーを蹂躙せしめた。身体を千々に切り裂かれた肉屋スリーパーが消滅する。
 子供スリーパーが他班の時と同じように反撃を加えるが、マルクの回復によって支えられるメルナを前に打つ手はない。
 二人は危うげなくこれを撃破すると、残る女性スリーパーへと向け走り出した。
 ここまで、各班がそれぞれの狙いを倒してきたが、その間女性スリーパーを始め敵の注意を引きつけていたのは黒羽とユーの二人だ。
 流石に多くの攻撃を引き受けていたこともあり満身創痍ではあるが、意識を手放すことはなかった。
「さぁ、もっと打ち込んできな――ッ!!」
 不屈の肉体を持つ黒羽が気合いを入れて誘いを掛ける。
 素早い動きで連続攻撃を叩き込む女性スリーパーだが、幾度となく打撃を叩き込んでも、目の前の男を倒すことは出来なかった。
「軽い、軽いねぇ……あいつを殺したいって気持ちはそんなもんなのか?」
 倒れ絶命したと思われる殺人鬼を横目で見ながら、黒羽は挑発していく。二人の女性スリーパーが同時に繰り出す蹴りを両腕でブロックし、歯を食いしばる。
 毎度のことだが、いつ倒れてもおかしくはない。事実、危険な瞬間もあった。だが、この男は倒れないのだ。
「まったく無茶をするな……さすがにアレは真似できないからしっかりと防御させてもらう」
 黒羽と同じように敵を引きつけていたユーは苦笑しつつ武器を構える。
 黒羽のように不屈の肉体というわけには行かないが、自身も機械の身体を持つ身だ。加えて鍛え上げてきた防御力もある。襲い来るスリーパーの攻撃を的確に防ぎ、ダメージを軽減し、その注意を引き続ける。
「その生命力、奪わせてもらう――!」
 術式を起動し光の刃を生み出せば、間合いを取ろうとするスリーパー目がけて投射する。弾丸の様に放たれた光刃がスリーパーの腹部を切り裂きその生命力を簒奪する。奪い取った生命力はユーの身体へと還元され傷を癒やした。
 こうした手段をもってユーは長く敵を抑えることに貢献した。黒羽とは互いに不干渉で連携していたわけではないが、互いに手を出さないことで自分のリズムを生み出すことが出来、盾役として十全の働きが出来たと言って良いだろう。
 そうして盾役がスリーパー達を抑えている間に、各班が各個に敵を撃破した。こうなればあとは順当に倒していけるはずだ。
「さぁ、ソロソロ終わらせるぜえ!」
 グドルフの野獣のような眼光が残るスリーパー達を射貫いた。

●善良なる殺人鬼
 最後のスリーパーが消滅した。
 恐らくもうしばらくすればこの夜色の霧も晴れて、正常な――廃屋へと戻るだろう。
「……だめか」
 黒羽は男――殺人鬼の容態を確認する。多量の出血は男の生命力を全て吐き出して、肉体の鼓動を止めるに至っていた。
 せめて生きていれば――男の抱える苦痛を引き受けてやることもできたかも知れないのに。仕方が無かったとはいえ、黒羽は唇を噛んだ。
「……俺は悪党。罪に関してとやかく言える立場じゃねえ。
 裁きは閻魔様に任せ、今際は安らかに迎えさせてやろう……」
 キドーの言葉に「悪党なのにそんなこと言うんだな」と肩を笑わせて、ユーが男に花を添えた。「そりゃ悪党だからよ」という返事は納得できるものだった。
「生きて償う……そういう道もあったかもしれないが本人が未来を求めていないんじゃな。
 ……死んだあとくらい他人を気にせず過ごせよ」
 その寂しい道行きに、見送りがあれば少しは救われるだろうか。
 幻は男の身体を探りなにかないかと探る。もしこの男を操るようなものがあれば、それは決して見過ごすことのできないものだからだ。
 見つけたものは小銭だらけの財布と小汚いアンクレット。無機疎通を行うには丁度良いものだろう。
 尋ねるべきは決まっている。操っていたか? そして本当の持ち主の居場所だ。
「……そうですか」
 だが無機物からの脆弱な反応は期待した答えではなかった。それらの物品が持ち主を操ることはないし、どの物品も男が購入した”普通”のものに違いなかった。
 身体の中に異物が――そう考えもしたが、それはやめとけとグドルフが止めた。
「早く行こうぜ。勝利の宴は、こんな血生臭ェ場所じゃ開けねえ」
 グドルフが仲間達に退出を促す。後の事は天義の騎士達が処理してくれるだろう。
「――『たまたま殺人衝動を持つ人の所に<常夜の呪い>が発生した』のか、それともそういう人を<常夜の呪い>が”選んだ”のか……」
「いずれにせよ、まだ夜は続きそうだ。いつになったらこの夜は明けるのやら」
 マルクと威降のぼやきを聞きながら、グドルフが最後に満足そうに眠り続ける男へと言葉を投げかけた。
「──じゃあな。良い夢見ろよ」
 善良なる殺人鬼に、静謐なる眠りを。

 後の事である。
 男の事を聞き込みをしたメルナはこんな話を聞いた。
 男のペットが死んでからと言うもの、動物の死体を見ることが多くなったという。恐らくこれは男が行っていたに違いなさそうだった。
 ペットが死んで気が触れたのか、はたまた元よりそうした素質があったのか。どちらにしてもペットを失ったその日から殺人衝動は高まり、遂に人へと手を伸ばしたのだろう。
 また、その悪性を突き詰めようと遺体を解剖した司祭は、解剖の折り見つけた脳の腫瘍を見て呻いたという。
 まるで何かに抗うように傷つけながら肥大化した腫瘍。
 もしもこれが内なる悪との戦いの結果ならば――少なくとも善良で有り続けたいと願った殺人鬼は、存在していたのかもしれない。

成否

成功

MVP

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

状態異常

なし

あとがき

 澤見夜行です。

 男が殺人鬼となった理由に深い理由はありません。ただふとしたきっかけが彼の中に悪鬼を生み落としたのでした。
 ただそれでも最後まで己と戦っていたに違いはないでしょう。
 安らかな死を与えられたことは、彼にとって久しぶりの幸せだったかもしれません。

 MVPはグドルフさんに贈ります。場合によっては後味悪くなる依頼でしたが、豪快にスパッと進めていたと思います。

 依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!

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