PandoraPartyProject

シナリオ詳細

求愛のディスマッド

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●歪狂者
 ファルカウ内東部に位置するカサズ村。比較的平和なその村は、その日朝から陰惨な事件が露見した。
「殺人……だが、これはあまりにも……」
 事件現場を検分していた村の自警団の男が口元を覆う。
 殺されたのはこの村に住むハーモニアの少女。
 その死体は頭が切り落とされているだけに留まらず、首元から下腹部までを一直線に切り開かれて、体内より心臓だけが切り離されていた。
 鮮血に染まる室内。
 しかし、その室内には切り落とされたであろう頭と心臓だけが存在していなかった。
「殺人鬼は頭部と心臓をどうしたのだろうか――」
 持ち去った? 何の為に? ――愚問である。殺人鬼の思考に意味道理など求めるだけ無駄である。
 今考えなくてはならないのは、この村に――或いは周囲の村々に――危険な殺人鬼が潜んでいると言う事だった。
 小さな村だ。すぐに事態は露見して、噂が広がり現場の周囲には人だかりができる。
 その様子を、この村に住む長身の少女レシアが眺めていた。どこかアンニュイな表情を浮かべ、頬に張り付いた長い髪を鬱陶しそうに掻き上げる。
 そこにレシアより幾分小さい少女がやってきた。クミュと言う少女だ。
「レシア先輩……聞きました?
 アルナ先輩が殺されたって……本当なんですか?」
「ええ、どうやらそう見たいね。
 可哀相なことね。アルナのこと”大好きだった”のに……残念だわ」
 そう言葉を零したレシアは――まるで気分が良いと言うように――誰にも気づかれないように薄く笑った。
「――先輩?」
 小首を傾げるクミュに微笑みかけて、レシアがその小さな肩を抱いた。
「ここは余り気分の良い場所ではないわ。
 北の森……いつものあの場所へ行きましょう?」
 そう言って、レシアがクミュを連れだって歩いて行く。
 ――その瞳が興奮するように輝いている事を、誰も気づく事はなかった。


 その事件が依頼となってローレットに舞い込んだのは、事件後すぐのことだった。
「カサズ村で起きた猟奇的な事件。
 殺されたアルナという少女に続いて、翌日にはクミュという少女も同様に頭と心臓を奪われて、村の北にある森の入口で発見されたわ」
 『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が痛ましい事件に目を伏せる。深緑の平和な村で起きた事件。その首謀者はすでに割れているようだった。
「犯人は同村に住む学生、レシア・ミューゼル。
 頭脳明晰……なんて言葉で表すには足らないくらいに幼き頃より”天才”と呼ばれた少女よ」
 村では特に有名で、品行方正な美女として将来はファルカウ上層での活躍も期待されていただけあって、村の人々に走った衝撃は大きいものだった。
「発覚のきっかけは殺されたアルナさん、そしてクミュさんと揃って事件が起きる直前にレシアと一緒にいる事が目撃されていることね。
 自警団が彼女の家を捜索したところ、両親の死体と一緒に凶器と思われる大型の刃物が見つかったわ」
 レシアは事件を隠すつもりはないような振る舞いを続けている。事件を隠し日常を演じるのではない。明かな目的があって行動しているのだろう。
「一度自警団がレシアを取り囲んだようなのだけれど、想定していなかった魔力的な力を振るい、自警団では対処の難しい人型の魔獣を複数呼び出したようね。
 奮戦も空しく取り逃がした見たい」
 圧倒的な力に為す術無くやられた自警団は中央からの援軍を待つ考えでもあったが、レシアの立場がそれを待つことを許さないようだった。
「容姿端麗で人気もある人物だったようで、学生達の中にはいまだ彼女が犯人であることに疑わしい気持ちを持つ者も多いようね。
 言葉巧みにそういう娘を拐かして、同じ事を繰り返そうと企んでいるみたい」
 中央からの援軍を待っている時間はそうないだろう。そこで、フットワークの軽いローレットへと依頼が舞い込んだわけだ。
「オーダーはレシアの捕縛、或いは殺害よ。
 ただ未だ彼女が持ち去った頭部と心臓達が見つかっていないわ。その在処を聞き出す必要はあるでしょうね」
 力を行使することに躊躇いのない相手だ。言葉巧みにその目的、狙いを聞き出す必要はあるかもしれない。
「少し難しい依頼にはなると思うけれど、頑張って頂戴。
 頭と心臓。そこにどんな意味があるのかしらね……」
 依頼書を手渡すリリィは、話し始めたときと同じように目を伏せるのだった。


 暗がりの森の中、一軒の小屋にくぐもった吐息が漏れる。
「……んっ……んんぅ……」
「ねぇ? ファム。貴女は私のこと好きで居てくれるわよね?
 少し穢れてしまった私だけれど……貴女は愛してくれるわよね……?」
 手にした大型のナイフに呪印を刻みつけ、レシアは小首を傾げてファムと呼ばれた少女に話しかけた。
 縛られ身動きの取れないファムは、猿轡を咬まされ吐息を漏らす事しかできない。涙目になりながら首を何度も横に振った。
「心配しないで、貴女のことは死ぬまで愛してあげる。代わりに心を……貴女の愛に満ちた心を頂戴?」
 ナイフがファムの首元から下腹部へ向けて優しく下ろされる。音もなく着衣が真っ二つに割れた。
「……ところで質問なのだけど」
 不意にレシアがファムへと問いかけた。
「心は……頭と心臓、どっちに在ると思う?」
 問いかけるレシアの瞳は酷く歪んで狂っていると、ファムは思った――

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 深緑で起きた陰惨な事件。
 犯人である少女の凶行を止めましょう。

●依頼達成条件
 レシア・ミューゼルの撃破(生死は問わず)。
 レシアが隠し持っている被害者の頭部と心臓の在処を知る事。

●情報確度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報は現時点で判明しているものだけです。
 依頼達成に必要な情報を集める必要があるでしょう。

●レシア・ミューゼルについて
 神童と呼ばれて育ったハーモニアの少女。長身に長い銀髪が目を惹きます。
 これまでに分かっているレシアに殺された被害者は、四人です。
 両親、アルナ、クミュ、四人は全て頭部と心臓が奪われて死んでいます。
 愛を求めた上での殺人のようですが……狂人の考えは動機に結びつかないでしょう。

 戦闘となると、身体強化、及び魔術行使によって至近~中距離圏内を射程にし縦横無尽に動くでしょう。
 反応値が高く、魔力障壁による防御技術も優れています。やや攻撃力は低いですが、一般兵士では太刀打ちできないレベルには強いです。
 また、戦闘開始と同時に八体の人型魔獣を召喚します。巨躯より放たれる巨大な爪による物理攻撃力に特段に優れ、耐久力が高く厄介です。
 防御技術、特殊抵抗は低いので、そこを狙ってまとめて倒せれば有利になるでしょう。
 魔獣はブロック・マークなどを使いこちらの動きを妨害してくるでしょう。

●レシアの隠れ家
 北の森の何処かにレシアの隠れ家があると予想されています。
 それを見つける事が出来ればイニシアチブを取る事もできるでしょう。また現在進行形で捕まっている少女ファムを救う事も出来るかも知れません。
 なお、この隠れ家には一目見た感じでは頭部と心臓はありません。

●戦闘地域
 ファルカウ東部、カサズ村北の森になります。
 時刻は昼過ぎ。陰惨な事件を象徴するように陰鬱な雰囲気が森を支配しています。
 戦闘場所に大きな障害物はないでしょう。自由に戦闘が出来るはずです。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 求愛のディスマッド完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月01日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女

リプレイ

●秘密の場所
 比較的穏やかな人種の多い深緑の村で起きた痛ましい猟奇事件。犯人は神童と呼ばれ未来を約束された銀髪のハーモニア――レシアと呼ばれた少女だと言う。
 その行いを隠そうともせず、次々と事件を起こすレシアを早急に止める必要がある。
 依頼を受けたイレギュラーズは、カサズ村に着くと早速行動を開始した。
 まずすべきは、レシアの居所を掴む事にある。村から姿を消したレシアはどこに隠れ潜んでいると言うのだろうか?
 『言うほどくっころしそうにない』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は村への聞き込みにあたる。なにか手がかりとなる情報が残されてる可能性は十分にあった。
 胸元に隠したネズミは『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)より預かったファミリアだ。何かあればこのネズミが知らせてくれるはず。
「最近レシアさんの行動におかしな所はありませんでしたか?
 例えば深夜出歩いていたり、どこかに出入りしていたとか。不自然な物を持ち歩いていたとかでも良いです」
 尋ねる相手は特にレシアと仲の良い学生達に絞る。レシアを犯人とは信じる事の出来ない多くの学生達は調査に対してやや協力的ではなかったが、高いカリスマ性を発揮するシフォリィと会話していく中でいくつかの気になる情報を話した。それは尋ね聞いた多くの者達が揃って口にする内容だ。
 まずレシアが多くの学生達(特に同性)に慕われているのは間違いなかった。これは事前に得ていた情報とも合致する。憧れや尊敬という面も強いが、誰にでも分け隔て無く接するレシアの人気は高かった。
 反面、レシアが特定の誰かに入れ込むことはなかったという。誰かと付き合ったり、ということはなかったのだ。
 ただ、レシアと親しくなるとお茶会に誘われるという噂があった。お茶会は人知れぬ森の中にある”隠れ家”で行われ、秘密の会話が成されるという。
 おかしな点といえば、被害者であるアルナがこう言っていたそうだ。
「今度二人だけのお茶会に誘われたの! レシアさんとの二人だけのお茶会! ふふ、ドキドキするわねっ」
 特定の誰かを贔屓することのなかったレシアが、アルナを特別扱いした。そしてそれはアルナ殺害、そしてクミュ殺害へと繋がっていく。
 また、深夜の徘徊もよく目撃されていた。特に北の森にはよく一人で足を運んでいたようだ。不自然なものを持ち歩く姿は目撃されてないが、偶にレシアに似合わないリュックを背負っているのを見たとの情報もあった。
「お茶会が開かれる北の森の隠れ家……その場所がわかれば――」
 シフォリィはお茶会に誘われたことのある人物を探して、村の中を走る――

 一方、北の森では残るイレギュラーズによって大規模な探索が行われていた。
 僅かな手がかりも逃さぬように細心の注意を払いながら、しかし極めて迅速に探索が行われていく。
 『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)と『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)の二人は持ち前の捜索技術を用いて、森に残された手がかりを追う。
「足跡、痕跡、何でもいいでござる。手がかり一つから手繰っていくでござるよ」
「北の森の入口。殺害現場から辿れる血痕はここまでかしら。偽装工作なんて打ってる時間はなかっただろうし……ならこの先が怪しいわね」
 レシアの居場所を特定する情報には繋がらないものの、二人の見つけた足跡や血痕、僅かな痕跡は探索範囲を狭めるのに貢献した。
 そこから『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)と『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)が更なる範囲を狭めていく。
「それじゃミルヴィ君、頼むよ」
「ああ、任せて!」
 ミルヴィの奏でる笛の音が森の空に響く。どこまでも高く響き通って行く音は、森中に響き渡る音色となるだろう。
 その音を使って、ラルフがエコーロケーションを行っていく。微細な音の変化も逃さぬように細心の注意と集中をもって調査する。
 二人が調査にあたる間、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)と『調香師』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)も独自の捜索を行う。二人が得意とするのは自然会話や精霊疎通だ。
「この森に頻繁に訪れる人……そう、まるでこっそり住んでいたりするような、そんな人を見かけていないかい?」
 アレクシアの問いかけに僅かながら木々が反応を示す。
「こっちの精霊達も見覚えがあるようね。案内をお願いできるかしら?」
 ジルーシャもまた、手がかりとなりえる精霊達の助けを得た。二人の得た手がかりを元に、咲耶と秋奈が捜索を掛けていく。
「向かう先――大きな大木が見えるな」
 空から手がかりを探すサイズが、一際目立つ大木を見つける。北の森のはずれにありながら十分に目立つその大木は、得も知れない何かを感じた。
「音の反響は、大きな空洞を示した。アレクシア君とジルーシャ君が手に入れた方角や、咲耶君や秋奈君がその周囲で見つけた痕跡から、間違いないだろう――」
 大木へと近づきながらラルフはそう結論づける。同時、シフォリィからも合図があった。それは確かな手がかりを手に入れたときの合図だ。
 ミルヴィはファミリアーとシフォリィに合流を促して、木陰から大木を流し見た。
「あれは……家かい?」
 ミルヴィの疑問に、同じように大木を見たイレギュラーズ達は一様に頷いた。
 大木の一部にまるで木の一部のような扉がついている。良く目を凝らさなければ、取ってが付いているのを見逃してしまうだろう。
「窓も取り付けられているな……一箇所だけだが、中の確認には好都合だ」
 音を立てぬように、一行は近づいて中の様子を窺った。
 二人の少女が折り重なるように倒れ――一人が手にしたナイフがキラリと光った。
 
●行方不明の心を探して
「……ところで質問なのだけど」
 不意にレシアがファムへと問いかけた。
「心は……頭と心臓、どっちに在ると思う?」
「んんっ!? んんんぅー!」
 猿轡を咬まされているファムは唸るだけで言葉にならない、その様子を眺めたレシアが、噴き出すように笑った。
「……あはっ、あははっ!
 そう、そうよね。それじゃ何も喋れないわよね」
 一頻り笑うと、垂れた銀髪を耳に掛け、手にしたナイフをファムの心臓から顔へと向けて――猿轡を固定する布を切り取った。猿轡が外れる。
「レシア……! 貴方なんでこんなこ――ぐっ!?」
「余計な質問は許していないわよ?
 さぁ、聞かせて。幼なじみの貴方が思う心の場所を」
 のし掛かりファムの首を絞める手を緩めると、期待に満ちた瞳で答えを待った。しかし、次いで発せられる答えは、レシアの期待を裏切る物であり、これまでに幾度も聞いた答えでもあった。
「知らないわよっ!! そんなの考えたこともない!
 頭と心臓!? そんなのどっちでもあるし、どっちにもないわよ!!」
 レシアはファムの答えに心底残念そうにため息をつくと、首を傾げ口を開く。
「幼なじみの貴方には期待していたから最後にしたのだけれど……これならアルナやクミュの方がまだマシだったわね……。ほんと残念だわ」
「アルナやクミュ……本当に貴方が……!!」
「彼女達は死ぬまで……死んでも私を愛してくれてるわ。ええ、きっとね。
 ファム、貴方はどうかしら?」
 レシアの自分勝手な妄想にファムは立場を忘れ激昂した。
「何言ってるの……!? 貴方のこと好きでいられるわけないじゃない!? アルナやクミュだって恨んでるに決まってる!!
 なんてことを……本当になんてことをしたの!!」
 言葉を続けようとするファムの首を今一度絞め、レシアが歪み狂った瞳で見下した。
「嘘、嘘ね。そんなわけないわ。皆、みんな私を愛してくれる、好きでいてくれる。そうじゃなきゃおかしいわ。そうじゃなきゃ……一人になってしまう」
 言葉の終わりには苦しそうに顔を伏せるレシア。しかしそれも一瞬で、冷たい視線をファムへと向けた。
「やっぱり調べる必要があるわ。本音を。行方不明の心を見つけてあげなきゃ。
 ……だから、貴方の頭と心臓、見させてもらうね?」
 ナイフが振り上げられる。ファムが咄嗟に声にならない悲鳴を上げる。同時、大木に湿地された扉を蹴破りイレギュラーズ達が侵入する。合流に間に合ったシフォリィも一緒だ。
「そこまでです! すぐにその子を離してください」
 剣を構えたシフォリィを見て、レシアはすぐに部外者の追っ手、傭兵――それに類するなにかであると察すると、”周囲へと目配せ”をする逡巡を見せた次の瞬間には、一つだけある窓へと躊躇なく飛び込んだ。ガラスが割れる音と共に、レシアが逃亡を図ったのだ。
 シフォリィが真っ先にファムの元へと駆け寄り安全を確認する。他の面々は引き返すように隠れ家の外へと向かった。
 だが、どうだろうか。レシアはまるで待ち構えるようにイレギュラーズを待っていた。
「逃げないのね」
 秋奈の言葉にレシアは小首を傾げ邪悪に笑う。
「逃げた方が利口なのでしょうけど、まだやることがあるの。
 何者か知らないけれど、貴方達を排除できればそれで済む話ですもの」
 自分の実力を過信しているという様子ではない。僅かな可能性を掴んででも目的を果たしたいのだ。
 魔力が編まれ、獣の姿をした魔物が生み出されていく。
「余り時間がないわ。
 すぐに始末してあげる――」
 長い銀髪を掻き上げて、レシアが武器を構えた。

●愛ヲ渇望ス
 高い反応を見せたミルヴィとレシアが動くのはほぼ同時だった。僅かに先手を取ったミルヴィがブロックによってレシアの行動を抑制する。
 素人とは思えないレシアのナイフ捌きを紙一重に躱しながら、反射結界をその身に纏い剣舞を見せる。舞踏を活かしたその動きはレシアの視界を塞ぎ状況判断を誤らせるのに一役買うだろう。
「鋭い瞳。吸い寄せられそう……そんな情熱的に見て、貴方も私を愛してくれるのかしら?」
「そんなこと言って、愛してくれた人を殺すんじゃないの!
 大切な人を手にかけるのは本当に……辛い事なんだ!
 それを分かれ! 大馬鹿!」
 ミルヴィがレシアを封じれば、残るイレギュラーズはレシアによって生み出された魔獣の掃討である。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ!
 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
 秋奈の名乗りが多くの魔獣を引きつけまとめ上げる。高い攻撃力を誇る魔獣に集中攻撃を受ける事になるが、狂戦士たる秋奈に恐れるものはない。
 秋奈がまとめきれなかった敵は咲耶が余す事なく受け持った。
「鋭い爪牙、だが拙者の防御易々と貫けると思わないでもらおうか――!」
 高い防御技術を持つ咲耶が襲い来る一撃を次々と受け流して、魔獣たちに隙を作る。
「おイタする子にはきつーく噛みついちゃいなさい!」
「纏めて焼かせてもらう――!」
 秋奈と咲耶が作り出した魔獣たちの隙をジルーシャとラルフを中心にイレギュラーズ達が集中攻撃し、一気に焼き払う。タフな魔獣とはいえ、こうも火力を集中させられれば一溜まりもないだろう。
 戦いは短期的に決着の流れへと向かっていく。
「頭と心臓、どっちに心があるか……気になるそうだな」
「貴方が答えを知っているのかしら?」
 レシアの問いかけに、サイズを持つ”妖精”が頭を振る。
「頭と心臓がない俺からしたらくだらない問いだな……最も金属と妖精の血で構築された俺に心なんてないかもしれないな?」
「なら貴方はどこで考え、どこから沸き立つ愛を感じるのかしら――!」
「さてな。
 ――少なくとも人間から頭部と心臓抜き取ったら心は壊れると思うぜ……」
 そんなことはバカでもわかるはずだが、とサイズは聡明そうに見えるレシアへと憐れみを向ける。
 イレギュラーズの猛攻を生み出す魔力障壁で悉く打ち払っていくレシアだが、それも限界が訪れる。徐々に身体に傷がつき始め、展開する魔力障壁も破砕されることが多くなってきた。
「終わりです――!」
 ファムの安全を確保し戦いへと加わっていたシフォリィの剣が、レシアの展開する障壁ごと身体を打ち据えて、吹き飛ばした。衝撃に地面を転がったレシアがナイフを落とした。
「果たして愛はどこに宿るのか、心臓、それとも頭か……なんであれ、貴方に向く愛は、もうそこにはないのでしょう」
 シフォリィの言葉に視線を奥へと向ければ、隠れ家扉の側でファムが怯えと嫌悪を含めた視線を向けていた。
 嗚呼、あの子はもう私を愛してはくれないのね。沸き立つ諦観が心を支配するが、まだ終わるわけには行かなかった。
「犠牲者の頭や心臓はどこにやったの!」
 倒れたレシアにアレクシアが言葉をぶつける。
「……さあ、どこかしらね」
 小馬鹿にしたように笑うレシアが最後の力を籠めて跳ね起きた。逃げる心算だ。
 ――だが。
「逃がさぬでござるよ――!」
 咲耶の追撃がレシアに迫る。残った魔力を総動員してそれを弾く。そこに秋奈の爆裂する気功爆弾が襲った。為す術無く倒れレシアは意識を混濁させる。
(嗚呼――いけない、まだ心を、愛してくれた皆の心の在処を見つけていないのに……)
 視界は暗転し、レシアは意識を失った。

●求愛のディスマッド

 でーあーふたーでー。
 しーんぐあーろーりのー。

 秋奈が歌う聞き慣れない鼻歌に、レシアの意識が覚醒へと至る。
 レシアが意識を取り戻すと、そこは隠れ家のイスの上だった。
 混濁する意識のなか視線を巡らせれば、自分を倒した者達――イレギュラーズが隠れ家の中を捜索していた。
「気がついたみたいね」
 投げかけられた言葉に視線を向ければ、アレクシアがレシアに鋭い視線を向けていた。
「身体中痛むでしょうけど、まだ聞かなきゃいけない事があるわ。
 これは単純な疑問。
 どうして心の在処なんて気にしたの?
 そんなの知らなくても、何も問題ないじゃない?」
 アレクシアの疑問に、レシアは自嘲気味に笑って答えた。
「羨ましいわね。きっと信じ合えるお友達が沢山いるのでしょう。
 ……私にはわからないわ。私に近づく人が、私を好きだという人達が、本当にそう思っているのか。
 だから知りたいと思ったの。殺されても良いくらい好きだという人達が本当に殺されても私を愛してくれているのか。
 死人に口なし。そんなことはわかっているのにね」
「……人を信じることが、出来なかったんだね」
 それは聡明さ故か。自らの能力に自覚するからこその不信。人という存在の心の有り様を冷静に分析した結果か。
 ――それでも、行った行動は酷く自分勝手で愚かと言う他ない。
 ミルヴィは怒りを噛み締めるように気持ちを吐露した。
「アタシには貴方の気持ちはわかんない……。
 大切な人達と笑って時には呆れて怒る時もある。
 そんな他愛ないやり取りの結晶が心なんじゃないの?
 ……大切な人を自分の手で殺めてしまった貴方は本当に可哀想って心から思う」
「……環境、立場の違いね。
 そんな希望に満ちた関係を結べたら、嗚呼、どんなによかったでしょうね」
 反省の色が見れないレシアに手を上げそうになるが、思いとどまる。僅かでも、同情の余地はあるからだ。
「……ホント、馬鹿な子。
 愛も心も、生きているからこそ育まれるの。
 それがわからないなら、アンタには絶対に手に入らないわ」
「そう、かもね。
 ……それでも――」
 真実、愛を求めたのだ。そう自分に言い聞かせる。
 ラルフが言葉を重ねる。
「君は退屈だったのだろう――容易に自分を崇める周囲、頂点に立ち続ける重圧等知りもしない者達。
 そう、ただ知りたかった。信じるに値する確かな物を」
 ああ、そうだ。と、レシアは小さく頷く。
「併し頭や心臓など命尽きればただのたんぱく質の塊に過ぎぬ。
 心など私にも解らぬよ、ただ、生き様の先に宿ると私は信じる。
 ――もう終わったのだ、潔く亡骸の在処を教えてくれないか?」
 状況的な敗北を悟り――自死を計画もしていたが――観念し項垂れるレシア。その様子を見た咲耶が尋ねた。
「今此処に被害者と思われる者達の霊魂が彷徨っている故、貴殿の問いの答えを聞いてみることもできるが?」
 しばしの逡巡、そして力なく頭を振った。
「……やめておくわ。答えを聞くのが怖いわけじゃない。けれど、私にその霊魂の言葉は聞こえないもの。
 どんな、答えであっても……それを信じる事なんて私にはできないもの」
「そうか。ならば――」
 咲耶は霊魂に協力を持ちかけた。どこかこの隠れ家に隠し場所がないかと。漂う霊魂は自らの肉体を求めるように彷徨って、そして中央のティーカップの並ぶテーブルの側へと辿り着いた。
 イレギュラーズ達がその場所を探し始めると、レシアは静かに口を割った。
「床の木の根がロックになっているわ。持ち上げて指定回数回せばいい」
 秋奈が慎重に回す。果たして、扉は開かれた。
 覗き込んだイレギュラーズは、そこに布でくるまれた四つの頭部と、瓶に収められた心臓を見つけた。
「大事に扱って頂戴ね。私が愛した、私を本当に愛してくれた人達なのかもしれないのだから」
 薄く笑ったレシア。
 布を解き放てば、そこには微笑みすら浮かべていそうな安らかな表情が残されているのだった。
 愛は、確かにそこにあったのかも知れない。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女

状態異常

なし

あとがき

 澤見夜行です。

 人を信じる事が出来なくなった者が本当の愛を知るために及んだ凶行でした。
 到底許されるものではありませんが、亡骸の表情を見て、彼女の心は確かな平穏を得ていたのかもしれません。

 MVPはとっても悩みましたが最後までレシアに寄り添ってあげようとしたアレクシアさんに贈ります。

 依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!

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