PandoraPartyProject

シナリオ詳細

太古の魔物ケイオスクラード

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●原生魔物
 深緑の領土、迷宮森林は人の手があまり入っていない――太古の自然がそのまま残っている言わば原始の世界と言えるだろう。
 そこに群生する草花は、他国では見られない様々な種が存在している。自然と共に生きてきた幻想種はそうした原始の恵みを享受しながら繁栄したのである。
 しかし、原生の自然が全て恵みを与えてくれる――即ち共存できる存在ではない。
 
 大木がゆっくりと、しかし目にも見える速度で急速に枯れていく。
 その木の幹の内部から、突如”黒い粒”が染みだしてくる。粒はやがて幹を一部を覆うほどの量となり、幹を伝って根元へ落ちる。落ちた粒はまるでそれが自然であったかのように互いにくっつき、やがて不定形な一つの塊となった。
 大木の栄養分を全て食らい尽くし、満足な食事を終えたはずのその黒い塊は、すぐに腹を空かせたのか次なる獲物を求めて動き出した。
 ――魔物ケイオスクラード。 
 太古の世界よりその姿を変えていないと言われるこの魔物は、迷宮森林にたびたび現れては自然を破壊する悪魔の魔物として忌み嫌われていた。
 見つけ次第討伐する対象ではあるが、簒奪する対象の内部に潜みその生命を全て吸い出すまで姿を見せない事から、発見が遅れることが多い。大抵の場合、すでに簒奪された後であり、その姿を確認することが難しかった。
 そして、なによりもこの魔物が忌み嫌われる理由は――群れて人を襲うのである。
 今、不定形な黒い塊達が、迷宮森林のある地点に集っていた。
 狙いを定めるように黒い塊達が見つめるその先には――五人のハーモニアの少年少女達。森に冒険に出て迷子になってしまった者達だ。
 怯えたように辺りを見回す彼らに、黒い塊達は気づかれないように、舌舐めずりしながら近づくのだった。


 ローレットには様々な依頼が張り出されている。
 特に最近増えた深緑からの依頼は、交流を望むものや、簡単な魔物退治、アイテムの蒐集など多岐に渡っていた。
 そんな中、一つの依頼に目が行った。
「迷子の捜索?」
 首を捻るイレギュラーズに、『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が話しかけてきた。
「なんでも迷宮森林に向かった少年少女五人組が日が暮れても帰ってこなかったそうなの。
 ある程度人の手の入った場所ならともかく深い森の中ですもの、危険な動植物や魔物がでることもあるから村の方でも人手を割いて探しているみたいなの。
 人手は多い方が良いってことで、ローレットにも依頼されたわ」
 確かに、あの迷宮森林に迷い込んでしまえば、帰り道がわからなくなってしまうのも頷ける。
 依頼は迷宮森林東部の一区画の捜索だ。
「ただ、少し気になってる点があるわ。
 東部には太古の魔物ケイオスクラードがいたという報告もあるの。
 人すらも襲う危険な魔物よ。少し心配だわね」
 力を持たない少年少女達が襲われれば、太刀打ちすることも出来ず喰らわれてしまうだろう。
 魔物に見つかるより先に、少年少女達を見つける事ができればよいのだが……。
「依頼を請け負うならしっかり準備をするといいわ。
 人捜しや敵意を感知できるスキルがあるときっと役に立つはずよ」
 そう言って妖しく微笑んだリリィは、依頼書を手に取ったイレギュラーズの肩を叩くのだった。
 迷宮森林で当ての無い迷子捜しが始まった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 迷宮森林で迷子になった子供達。
 そこに忍び寄るは黒き原初の魔物だったのです。

●依頼達成条件
 迷子の子供を三人以上保護する。
 ケイオスクラード五体の撃破。

●依頼について
 この依頼では迷子の捜索と、魔物の討伐の二シーンがメインとなります。
 迷宮森林東部の何処かにいる迷子を如何に早く見つけるかで迷子の生存人数が変わってきます。
 何も手がかりがないようにも思えますが、よく目を凝らし、耳を澄ませば、小さな足跡や傷つけられた木々の痕、お菓子の包みなどなど、様々な目印が存在しているはずです。何かがあるはず、と色々なことを考え行動してみてください。
 なお、子供一人に対してケイオスクラード五体が襲いかかります。生命を簒奪後、次の獲物へと一斉に襲いかかります。

●情報確度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は起きません。

●ケイオスクラードについて
 黒く不定形な塊。数は五体。
 簒奪対象へと身体を張り付かせて、極小の粒となって身体の内部に潜り込む恐ろしい魔物です。
 スライムのようにも見えますが、その身体は硬質で、まるで金属のような感触があります。
 敵対生物には、己の身体を粒のように飛ばし、呪縛、不運を与えてくるでしょう。
 防御技術、特殊抵抗が極めて高く、耐久力も高い。反面、反応や機動力は低く、射程も近距離までのようだ。

●戦闘地域
 迷宮森林東部になります。
 時刻は夜。薄暗さが不安を掻き立てます。
 戦闘地域は、多くの木々に阻まれた場所になりますが自由に立ち回れるでしょう。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 太古の魔物ケイオスクラード完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月27日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
シラス(p3p004421)
超える者
ポワニャール・リューシュ(p3p004625)
特異運命座標
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)
水葬の誘い手
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト

リプレイ

●捜索
 日が暮れて、月の明かりが木漏れ日となる薄暗い森の中、イレギュラーズは迷子五人組を探すため森の中を走っていた。
 『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)が最初に取った行動は、森に入る前に子供達の特徴と名前を知る事だった。なるほど、これはとても重要だ。互いに呼び合う名前やその特徴が分かれば、捜索のためのヒントになるだろう。
「子供達は男女五人組。男の子が三人に、女の子が二人だ。
 男の子がそれぞれヒューイ、モート、ウェルパ、女の子がミルザにラーナ。皆同い年の友達だそうだよ。特徴は――」
 夜の森を駆けながら、仲間達に聞き及んだ情報を共有する行人。その手には火の精霊を収めたカンテラを持ち、森林の精霊とも疎通を図って子供達が向かったであろう方角を知る。エレメンタラーたる行人と精霊の交信は確かなもので、森の奥へと進めば進むほどに子供達の行方に近づいているのがハッキリとわかった。
 自然知識、自然会話を用いて子供達の痕跡、その行方を追うのは『本当に守りたいものを説く少女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)と『特異運命座標』ポワニャール・リューシュ(p3p004625)の二人だ。共にハーモニアということもあって森の中での活動に長けている。
 行人が大まかな方角を示すのならば、二人は更に詳細なルートを照らし出す。
「……見つけた。木々の間を通って踏み鳴らした痕跡。なかなかヤンチャなルートを通ったようだね。
 急がなきゃね、この分じゃ大分奥まで進んでそうだよ」
 ポワニャールの言葉にスティアが頷く。
「この周辺の木々も、子供達の特徴に見覚えがあるみたい。ポワニャールさんの言うように、その細い木々の間を通って行ったようだね」
 互いに得た情報で補強し合いながら、子供達の行方の手がかりを掴んでいく。スティアの人助けセンサーにはまだ反応がないが、この先に向かったのは間違いない。
 森の奥へと進んでいくと、ある場所を境に道という道がなくなってくる。振り返れば、自分がどこから来たのか分からなくなるほど、同じような風景、木々に囲まれる。自然会話に長けた幻想種や、冒険に慣れ親しんだ冒険者ならば迷ったとしても対応できるだろうが、未だ自然会話も覚束ない子供であれば迷ってしまうのも頷ける。
「木々の匂いとは別に微かな甘みを含んだ匂い……クッキーでございましょうか……恐らくこの辺りに――」
 ハイセンスを遺憾なく発揮する『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)が草花の影に零れ落ちているクッキーの破片を見つける。
「この辺りから比較的通りやすい道を選んだようでございますね」
「道なき道を進んで奥まで来たものの、帰り道を見失ってからは安全を求めて通りやすい道を選んだ……というところか。立ち止まる……というのは無理な選択だな」
 周囲を見回して『鳶指』シラス(p3p004421)が言葉を零す。敵意がないにしても獣や大人しい魔物の姿が散見されていた。これらの存在を知覚すれば、子供ならば逃げるという選択も取る物だろう。
「……これは。皆見て欲しいでござる。子供達の足跡を見つけたでござるよ」
 『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が指さす地面には確かな足跡がいくつかあった。それと共に、何かが転がった跡も付いている。
「何かがつけている跡があるでござるな。噂に聞く魔物でござろうか?」
「歪な形が動いた跡のようにも見えるネ。情報通りの魔物の可能性は十分に考えられるネ」
 『水葬の誘い手』イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)の直感は、話に聞いていた太古の魔物ケイオスクラードの特徴を呼び起こし、子供達の足跡に続くその痕跡にヒシヒシと警戒を感じていた。
 イレギュラーズは足跡を辿りながら、先へと急ぐ。
 今回の依頼はスピードが重要だ。多くの痕跡を素早く見つけ、子供達の元へといち早く駆けつける必要がある。その点で言えば、イレギュラーズのスキルは十分にスピードを持った探索方法で、また多様な探索方法によって多くの痕跡を見つける事が出来ていた。
 更に、イレギュラーズの持つスキルが確実な危機を感知したことで、子供達への道を短縮する。
「――! 悲鳴……!」
 雪之丞の聴覚が、その微かな声を感じ取る。同時、スティアも全身でその感情を感じ取った。
「人助けセンサーでも感知したよ! 位置はまとまってる、このまま真っ直ぐ先!」
 スティアの言葉に続いて、シラスが歯噛みする。
「居たぜ、嫌な感じが五体。間違いない、情報に聞いていた連中だ」
 エネミーサーチは子供達がいるであろう方角に反応している。雪之丞が悲鳴を聞いた以上、敵はすでに子供達へと接近している。
 これらの仲間の声に素早く反応したのは『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)だ。仲間の指さした方角へ、勢いままに駆け出した。
「皆様、自分は先に。
 後から宜しゅうお頼みます」
 一つ抜けた機動力を持つエッダは、立ち並ぶ木々の隙間を縫って、深い森を駆けていく。その瞳は細かな痕跡を見逃さず、確実に子供達の元へと向かっていた。
 そうして多くの木々が立ち並ぶその場所へと辿り着いた――

●救出
 先行したエッダの瞳に最初に飛び込んできたのは泣き叫び、腰を抜かしている子供達の姿だった数は――”四”。
 次いで目に入ったのは全身を黒に塗れさせた人らしい何か。
(取り憑かれてる、でありますね――!)
 エッダはすぐに察する、子供の一人が話しに聞いた太古の魔物ケイオスクラードの捕食対象に入ったのだと。
 その推測はすぐに正しい事だと証明される。黒が染みこむように消えて行き、黒の下から男の子の姿が見えてくる。
 一瞬、判断に迷う。
 ケイオスクラードが子供達を襲う前であれば、迷う事無く飛び込んで庇うつもりだったが、子供の体内に潜られた今、自身の持ちうる手札(攻撃)をぶつけて良いものか――
 一瞬の思考は、瞬時にエッダの足を止めさせた。手持ちの札では、いたずらに子供を傷つけるだけと判断したのだ。
 遅れて仲間達がやってくる。エッダはすぐに声を上げた。
「彼の中に魔物が侵入してるであります――!」
 その言葉に、即座に反応したのはシラスだ。
「ああ、くそっ……吹っ飛べ!」
 放たれる魔力が子供の側を中心にして衝撃を生み出す。生み出された爆風が子供を吹き飛ばした。偽爆と呼ばれるこの技は、ダメージを与える事無く周囲のものを吹き飛ばす技だ。これで魔物が子供から出て行けばよいが――
 果たして、地面に吹き飛び転がった子供から黒い粒があふれ出す。雨の様に地面へ降り注ぐ粒はやがて不安定な形を形成し、その形を様々な星型正多面体へと変化させる。
 粒が吐き出された子供の身体は無数の小さな穴が空いているように見えた。血が零れ出るその無残な姿は命の危険性を感じさせる。ポワニャールとスティアがすぐに魔力編んだ。
「スティアさんは傷の手当てを! 私は悪い影響の解除を試すよ!」
「任せて――!」
 二人の治癒術式が子供の傷を塞ぎ、ケイオスクラードのもたらした影響を取り払っていく。
「う……うぅ……」『ヒューイ!』
 苦しそうに嗚咽を漏らした子供――ヒューイを心配するように残りの子供が声をあげた。駆け寄ろうと身体を起こす子供達を見て、イーフォが立ちはだかる。
「君達は離れているんだ。彼はおれ達が助けるカラ」
 ヒューイの側で今一度襲いかかろうとするケイオスクラードへ衝術を放つイーフォ。弾き飛ばされたケイオスクラードが不安定に形を変える。
「奇怪な輩でございますね……!」
 雪之丞が倒れたヒューイとケイオスクラード間に割って入る。敵対行動を取れば”食事”が出来ないと踏んだのだ。思惑通りか。ケイオスクラードが狙いを変え、雪之丞へと一斉に飛びかかった。
 空中で、まるで楔の雨のように尖った粒へと変化して雪之丞に迫る。その攻め手を手にした魔刀で切り払う。地面に落ちた粒が形を作り上げる瞬間を狙って刀を振り下ろした。甲高いまるで金属のような金切り音が響き渡る。刃を通さないような感触だったが、防御の弱点を突く雪之丞の業は、たしかにその金属めいた硬質の身体に傷をつけた。
 鋭く走った痛みに雪之丞が腕を見れば、ヒューイに付いた傷痕のように腕に小さな穴が空き、そこから黒い粒が染みだしていた。腕を振るえば、粒は元の形へと戻っていく。
 雪之丞が交戦している間に、行人と咲耶がヒューイを子供達の元へと連れて行き、状態を確かめる。行人の所持していたカンテラから火の精霊を外に出てもらえば、暗い森に一際明るい光が照らされた。
「頑張ったね。ここから先は俺たちが居る」
「もう大丈夫だからね。
 私達が守ってあげるから!」
 子供達に微笑み掛けた行人とスティア。立ち上がってケイオスクラードへと向き直る。隣に経つ咲耶が油断なく武器を構え口を開いた。
「……子供達はどうするでござる? 予定通り退避させるでござるか?」
「一人倒れているのが問題か……」
「――自分はちょい反対でありますな。
 道中見たように他にも敵となるものはいるようでありますからな」
 子供達をまとめて、守りながら戦う――エッダの考えも間違っていないだろう。退避させるも、守りながら戦うも、どちらにもリスクが存在する。
 今もなおケイオスクラードは隙を見つけ子供達へと襲いかかろうとしている。一人すでにその餌食となって身動きが出来ない以上、守る方がややリスクが高いように思える。
「おれが子ども達に付き添うヨ。そう遠くない場所で待機すれば何かあっても対応可能だろウ。
 それに――こんなに怯えていル。これでは戦場にいる方が危険じゃないかナ」
 イーフォの言葉が全てを物語っていた。友達が得体の知れない魔物に襲われ倒れ昏倒している。その事実が子供達に冷静な判断と立ち上がる力を無くさせていた。子供達の声を聞けば、ヒューイと呼ばれたこの男の子が他の四人を庇い餌食になったようだった。リーダーが倒れたことで、きっと心が折れてしまっている。
「……仕方ないでありますね。
 予定通り退避としましょう。ジャリンコ達の世話頼んだでありますよ」
 納得したエッダの言葉にイーフォは力強く頷いた。
 子供達へと声を掛け立たせる。ヒューイを背負うと、仲間達に背を向け歩き出した。だが、子供達の力が入らない。
「――走れ!」
 雪之丞が力強く声を発した。まだ危機は去っていないのだと、死にたくなければ行くんだ、と。突き動かされるように子供達が走り出す。イーフォは仲間達の無事を祈りながら、子供達を連れ戦線を離脱した。
「それじゃ、片付けるとするか」
「早く倒して帰らないと、晩ご飯に遅れちゃうしね!」
 不敵に笑ったイレギュラーズと、太古の魔物の戦いが始まった――!

●殲滅
 ケイオスクラードとの戦闘場所から離れた森の茂み。辿り着いたその場所でイーフォと子供達は歩みを止めた。
 周囲に敵対心を持つようなものはいないように思われた。魔物の存在は感知できるが、此方から手を出さない限りは問題ないだろう。
「ヒューイ、ヒューイ」
 横たえたヒューイにウェルパとミルザが声を掛ける。身体中を襲う痛みに苦しそうに呻くヒューイだが、命に別状はない。
 安静にするように、そう伝えてイーフォは油断なく周囲に警戒し――そして仲間の無事を祈っていた。

 明るく照らされた森に幾度も金属音が響き渡る。
 得体のしれない硬質さを持つケイオスクラードにダメージを与えるのは至難の業であるが、イレギュラーズのスキルは確実にケイオスクラードの生命力を奪っていった。
「ちぃっと位固くても俺には問題ねえ!」
 特に純粋な火力としてケイオスクラードを怯ませたのはシラスの存在であろう。
 空間を瞬間的に圧縮する術式は、異常な硬質さをもつケイオスクラードであっても防ぐ事は叶わない。圧縮によりその存在自体にヒビが入り砕けていく。今もまた、ケイオスクラードの一体がその術式の餌食となって、遂に存在出来ないレベルにまで圧縮、欠片も残さず消滅した。
 だが、本来シラスには扱えないレベルの術式は、相応の負担をシラスに強いる。ぐらりと足が縺れ、意識が途切れ始めた。
「無茶は感心しないでありますな――」
「アンタが言うなよ……!」
 シラスの言うように無茶をしているのはエッダも同じだ。戦闘開始から多くのケイオスクラードの注意を引いていたエッダの機械(オールドワン)的身体は無数の穴が空いている。幾度となくケイオスクラードがその内部に侵入し食い荒らした証拠だ。すでに体力の限界は迎えていたが、不屈の騎士(メイド)は倒れる事無く立ち向かう。
「でも、おかげで数が減らせたからね。少し余裕が出てきたよ」
 治癒術式を駆使して仲間を支えるスティアが、僅かに微笑む。度重なるケイオスクラードの攻撃を癒やし続けてきたスティアだが、そのおかげもあって戦線は崩れることなく維持できた。
「こっちのも、もう少しだよ! 硬いけど動きは遅いから押さえるのは簡単さ」
 火力面での貢献が難しいと判断したポワニャールは、エッダと共にケイオスクラードの一体を押さえていた。自然と融和するポワニャールらしい、全身を茨の鎧に包みケイオスクラードの攻め手を抑え込み、毒撃によって毒の付与も試みていた。小さな積み重ねだが、こういったものが徐々にものを言うのだ。
「油断は禁物。逃がす訳にもいきませぬ。確実に仕留めるでござるよ!」
 咲耶が声を上げながら強烈なカウンターを決める。大きなダメージはないが、響く音色のようにケイオスクラードに痺れを齎す。
 続けざまに小太刀を振るう。意思抵抗力を破壊力に変換した一撃が、ケイオスクラードの耐性を打ち壊した。
 このコンボがケイオスクラードを攻めるにあたり、かなりの効果を上げていた。防御と抵抗力に優れた魔物であるが故、それが突き崩された時一転して脆くなるのだ。
「まずはポワニャールさんのからだ! 一気に攻めよう!」
 全体の音頭を取るのは行人だ。遠距離からの飛ぶ斬撃を主体としつつ、前線に危険が迫れば距離を詰め、再生能力を付与していった。
 距離を詰めれば、大きなダメージは望めない。獲物を振るい僅かな傷を与えながら、場合によっては投げ技も披露し、ケイオスクラード内部からの破壊を試みた。
「子供達も待っておりましょう。決着、とさせて頂きます――!」
 雪之丞の操る魔刀がケイオスクラードの表面を走る。まるで金属同士を高速に擦り合わせたように耳障りな音と共に火花が飛び散った。
 振り抜いた勢いままに、身体を回転させて納刀すれば目にも止まらぬ速度で横薙ぎに白刃が一閃される。同時、微かな鍔鳴りを残して刀は今一度納刀された。
 ケイオスクラードについた刀傷が、見る見る内に広がっていく。耐久性を越えたダメージに、ついにその硬い身体が限界を迎え、崩壊を始めたのだ。
「――次ッ!!」
 シラスが身体の負担もかなぐり捨てて、この日何度目かになる圧縮術式を起動した。
 金属が押し潰される音が、静寂を湛える森に響き渡った――

 全身を襲う鈍い痛みと、何処か落ち着く震動を感じてヒューイは目を醒ました。
「ここは……」
「目を醒ましたようでありますね」
 背中に背負うヒューイが目を醒ましたのを確認すると、エッダは大きく息を吐いて口を開いた。
「まったく。
 心配させやがって食っちまうぞガキドモコラボケェ。であります。
 ……無事で何より」
 僅かな怒気を含めつつ、しかし暖かな言葉に子供達は安心したのか顔を歪めた。
「安心したようだネ。さァ、笑って、家族のところへ帰ろウ」
 戦闘中、ずっと励ましてくれたイーフォの言葉に、子供達は涙を拭って笑顔を見せる。
「だいぶ時間は経ってしまったでござるが、晩ご飯には間に合うでござるかねー」
 モートの手を引く咲耶がそう言うと、「きっと怒られるから晩ご飯抜きだ」と子供達が声をあげる。
 そんな様子に笑いながらポワニャールがラーナをぎゅーっとハグしながら優しく言葉をかける。
「きっと暖かなシチューを作って待っていてくれるよ、ね?」
「そんじゃ、早く帰らないとな」
 先頭を歩くシラスは見た目の傷こそ少ないが、疲労度で言えば一番だろう。だがそんな姿をおくびも見せず、確かな足取りで村へと向けて歩みを進める。
「とはいえ、皆様が掛けた迷惑は大きいものです。
 ちゃんと、探してくれた村の方達に謝るのがよろしいでしょう」
 雪之丞にそう諭されれば、「ごめんなさい」と子供達は声を揃えて謝った。自分達の行いが如何に危険で無謀だったか。それを理解しているのならば大丈夫だろう、と雪之丞は薄く微笑んだ。
「精霊達に――森に生きる全てに感謝するんだよ。彼等が君達の居場所を教えてくれたんだ」
 行人はそういって火の精霊を手繰る。協力の対価はまた今度子供達と払う必要があるだろう。
「さぁ、見えてきたよ! 森の出口はすぐそこだよ!」
 スティアが指させば、薄くなった木々の隙間から明かりが見えてくる。子供達の村は目の前だ。
 大人達の待つ声が聞こえると、子供達が駆け出した。安心できる我が家と両親の顔が見える。
 子供達の安心した泣き声と、両親の心からの心配を確認し、イレギュラーズはようやく肩の荷を下ろすのだった。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

なし

あとがき

 澤見夜行です。

 皆様のおかげで傷付きはしたものの子供達全員が生存しました。探索方法も、戦闘時の判断もどれもとても良い物だったとおもいます。
 子供達はしこたま怒られ拳骨をもらいますが、皆で仲良く美味しいシチューを戴いたことでしょう。

 MVPはパーティーの主力として活躍したシラスさんに贈ります。
 状況判断に提案や融通を利かせたエッダさんには称号が贈られます。

 依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!

PAGETOPPAGEBOTTOM