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シナリオ詳細

春を描く

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●白消えて、何色?
「アンタたちにとってさ、『春』ってどういうもの?」
 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は横目でイレギュラーズを捉えながら問うた。
 季節というものは知っている。春という言葉も、知識としては知っている。けれど人は何を見て、何を聞いて春と思うのか。
「いや、そのうち春が来たんだなってわかるとは思うんだけどさ。ボクの感じたものだけが全てじゃない」
 そうでしょ、とシャルルは小さくため息をつきながら呟いた。同時にイレギュラーズへ提示されたのは1枚の依頼書。
「鉄帝からだよ。町の壁に絵を描く依頼」
 雪解けの始まったとある町で、町中の壁に絵を描く催しがあるらしい。イレギュラーズも一緒にどうですか、ということだった。
「色々なテーマを貰って描くんだって。で、この依頼で与えられたテーマは『春』。イレギュラーズが描いたとなれば、他の人も見にくるんじゃない?」
 イレギュラーズの中には異世界人も少なくない。見知らぬものがあれば人々の興味もそそられるだろう。
 描くものは人間でも、動物でも、植物でも──或いは、無機物でも構わないのだ。
「町の人たちも違うテーマで描いてるはずだから、描き終わったら見て回ってもいいと思うよ」
 ボクも見に行こうかな、なんて呟いてシャルルは視線を依頼書へ落とした。

●真白な壁を前にして
「こっちだって! 早く早く!!」
「あっ、ペンキつけられたぁー」
 嗚呼、なんとも賑やかだ。
 1人で黙々と絵を描く者もいれば、家族で共同制作をする者もいる。飽きた子供たちは互いの服にペンキを付けあいっこしているようで、ぎゃいぎゃいと賑やか……いや、騒がしい。
 そんな声を聞くイレギュラーズたちの前には、壁。木製の板を並べた壁が続いていた。手元にはクレヨンのような画材。
 ──さあ、何を描こうか。

GMコメント

●すること
 絵を描く

●詳細
 『春』をテーマに絵を描きます。
 個別に描いても、全員で1つの絵を作り上げても構いません。横の広さは気にしなくて構いませんが、高さは2m程度とします。
 クレヨンのような画材が配られているため、それで絵を描いて下さい。何色でも借りられます。
 自分で用意しても構いませんが、濡れて消えそうなものは避けると良いでしょう。

●絵を描き終わったら?
 住民たちが描いた他の絵を見て回ることができます。
 イレギュラーズと同じような季節のテーマもあれば、好きな食べ物や服、花など様々なテーマが出されているようです。

●ご挨拶
 愁と申します。
 イレギュラーズによってどんな絵が出来るのか、楽しみにしています。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 春を描く完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年03月26日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
謡うナーサリーライム
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
リナリナ(p3p006258)
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

リプレイ

●画伯参上!
「おー、春の絵! この壁にいっぱい描いて良いんだなっ!」
 『原始力』リナリナ(p3p006258)は瞳をキラキラと輝かせながら壁を見上げた。
 木の板を並べただけの壁。決して描き心地が良いとは言えないだろうが、これだけの広さで『どれだけ描いても構わない』という状況もなかなかないだろう。
 さて、リナリナの春といえば──。
「テーマは春の野原! 春の野原!」
 うきうきと楽し気にリナリナが画材を握った。精一杯に腕を伸ばして高い場所にカクカクとした線を描き始め、それは段々中央へ収束するように渦巻いていく。渦巻きが描けたら周りに放射状の線を描き足して。
「おー、小春日和!」
 出来上がったグルグル太陽を見上げて満足げに頷くリナリナ。けれども楽しい楽しいお絵かきはまだ始まったばかり。
 次にリナリナは絵の真ん中辺りからギザギザとした線を描き始める。それは太陽と対照的に薄く、主張のない印象になるように。これは遠くに見える山の輪郭、稜線と呼ばれるものだ。
 ここまではあっという間。太陽、遠方の山。次はテーマに掲げた野原に取り掛かる。──前に、リナリナは両腕いっぱいの画材を借りてきた。ごろごろと足元に転がしたそれは赤、青、黄などの濃い色から薄い色まで。最早足元が春になってしまったようである。
「リナリナ、野原は遠距離、中距離、近距離に分けて描くゾッ!」
 おー! と天へ突きあげた拳に握られたのは濃い色の画材。腰を屈めたリナリナは丸と線で大きめに、そして細部も描きこんでいく。1輪、2輪……赤や青、黄、ピンクなどを使って鮮やかに、沢山の花が壁の足元を彩っていった。
 続いて手にしたのは今まで描いていた花より少々薄い色の画材。それらは中・遠距離に咲く花ををイメージするように、花と山の間に細い線と点で表現されていく。中距離帯に多少大きめな花を描いたリナリナは、これまでと全く違う色へ手を伸ばした。
「次! 人と動物描く!」
 握った茶色で丸と長方形を縦に描き、長方形から線を4本伸ばす。胴体には焦げ茶色の縦線を重ねて腰巻を表現し、手の先にはぐりぐりと棒のような物を描き足して。
「ねーちゃん、これなにー?」
「おー? これ、狩人さん! 狩人さん! これから肉、描くゾッ!」
 通りがかった子どもに問われたリナリナはにっと満面の笑みで返す。棒のような物──棍棒で狙うはイノシシだ。
 焦げ茶色で中くらいの楕円を1つ。茶色で小さめの楕円を3つ。それぞれに豚の鼻をつけ、下の方に4つの線を引く。
「おー! 親と瓜坊できた! 完成! 完成!」
 少し離れて見上げるリナリナ。彼女の中でテーマは『春の野原』から『猪肉』へ変わりつつあるが、やはり彼女にとっての春であることに変わりはない。
 ──冬眠から目覚めた動物たちと同じように、狩人も春には動き始めるのだから。
 

●それは時を少々遡り。
「オーッホッホッホッ!」
 今日もその声は煌いている。絶好調である。『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)様である。そんなタントは満を持してと言わんばかりの表情で「そう、このわたくし!」と言いながら指を鳴らした。
 お決まりの大合唱はいつもどこからか降ってくる。そこに『タント様FC会長』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)の声も重なって。

   \きらめけ!/
   \ぼくらの!/
 \\\タント様!///

「──の! 描く芸術をとくとご覧あれー!」
 タントのエピックトリックアーティスティックポーズ! 文では描ききれないほどキラッキラに輝き煌めくポーズに、拍手喝采はやはりどこからか降ってきて──そこへ『不戦の職人騎士』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)の拍手が加わった。
「流石タント様、アーティスティックだな!」
「ふふん、だってタント様だもん!」
 タントを褒められて真っ先に嬉しそうにするファンクラブ会長、シャルレィス。さあ、どんな春を描く? なんて画材を手に取って壁へ向かう。
「私は春の若々しい草たちや、花に舞うちょうちょさん、優しい青空を描こうかな」
「素敵ですわシャルレィス様! では、わたくしは草原の中に春のお花を描きまくりますわよ!」
「俺も、この世界に来てから知った、小さな野の花をいっぱい描きたい!」
 3人の言葉を聞いた『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)は何を描こうか、と暫し頤へ手を当ててみせる。だが、決まるまでに大した時間は要さない。
「やっぱりここは桜の樹かな?」
 『春と言えば?』と問われて出てくるのは、やはり桜だろうと思う。それに絵に非凡な才能があるわけでなくとも慣れがあれば何とかなるというものだ。
「あら、それなら私は枝に止まって囀る鳥や、野原を駆け巡るウサギを描きますの!」
 桜の樹と聞いて『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はそこへ鳥を描こうと思いついて。自分で花盛りの木と鳥の両方を描いてしまったって構わないが、折角皆で作り上げるのだ。
 描きたい物が各々決まってくる中、『跳ねる足音』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)は「あのね」と皆へ声をかけた。描きたいのは故郷の景色。
「ワタシ、湖を描こうと思うの。氷がとけて、きらきらしてて。湖のまわりにたくさん花が咲き始めるの。その、まわりから」
 皆が描く草原へ繋がるようにしたい、というポシェティケトの言葉に否を告げる者などいない。
 ポシェティケトが湖の輪郭を描いて、その周りに野の花が描かれ始める。その中へ威降は桜の樹を描き、花弁を塗る間にヴァレーリヤが鳥を描こうと──したのだが。
(結構高いのね……)
 小柄な彼女にとって壁は見上げるほどの高さ。けれど『長い冬を抜けてついに訪れた春を満喫しているような、幸せ溢れる絵にしたく思っていますわー』なんて先ほどぽろっと零してしまったがばかりに撤回しづらい。
 ちらり、と視線が向いたのは傍に転がるデッキブラシ。
(これで飛んだら、何とか届くかしら?)
 両手で画材ごと柄を握り締め、ゆっくりと飛び上がる。やがて手の届く位置に描かれた枝が見えた。もう少し。もう少し壁に近づけば何とか。そんな彼女にイーハトーヴが気づいて心配そうに眉尻を下げた。
「ヴァレーリヤ、あまり無理は……」
「だ、大丈夫もうちょっと、もうちょ……あわわわわ!」
 いけるか、と片手離したのがまずかった。視界が大きく揺れる。その落下先には、
「壁の下の方も寂しくならないようお花で埋めますわー!」
 アクロバットな低姿勢で、音楽記号と見紛う鈴蘭を描いているタントがいた。
 威降はぽかんとその瞬間を見た。イーハトーヴは思わず叫んだ。シャルレィスはその声とタントの悲鳴に驚いて振り返った。ポシェティケトは彼らの声にあら? とそちらを見た。

「フギャー!!!」

 潰れたタントの上で無傷のヴァレーリヤが勢いよく体を起こす。
「あわわわ、危うくタントが床の染みに! ごめんなさい、悪気はありませんでしたのよ!?」
「わ、わたくしですもの、この程度なんともありませんわ……」
 そんな2人に大丈夫か? イーハトーヴは手を差し伸べた。その視線は2人の怪我を案じていたがヴァレーリヤは勿論無傷、鉄騎種に落ちてこられたタントは──流石はタント様、というべきだろう。
「ヴァレーリヤ、高い所は任せてくれ。君の望むものを、君の手になって描くよ」
「ええ……再発すると申し訳ないし、お願いできるかしら?」
 あそこに囀る小鳥を描いてほしい、という言葉のままにイーハトーヴが手を伸ばす。彼の描く鳥や花たちは色鮮やかであれど、調和を乱すことなく。彼が胸を温かくした実物のように愛らしささえも感じさせる。
 イメージを形にするという技術は──いや、素敵なものを素直に感じられるという感性も含めて、流石職人と言うべきだろう。
「まあ! イーハトーヴ様はとってもお上手ですわね! わたくしも筆がノリますわー!」
 完全復活したタントが生き生きと花々を──妙に大きな菜の花や、たんぽぽかパンジーか判断し難い花だったりするが──描いている姿にシャルレィスが楽し気に笑う。
「タント様ノリノリだね! イーハトーヴさんはホントの絵描きさんみたい!」
 楽し気な声が上がる中、湖の描き込みをしていたポシェティケトがひょこり。気分転換のお手伝いにやってきた。
「花も、いきものも、なんでも描くわよ」
「それなら一緒に花を描こう!」
 イーハトーヴの誘いににっこりと笑うポシェティケト。パステルカラーの画材を手に取って、壁の低い位置に丸を幾つも描いて花に見せていく。
「丸だけで絵を描いてるの?」
「すべては、まるをつなげれば、出来ると思うの」
 鹿のあたらしい技術よ、とポシェティケトはシャルレィスへ笑ってみせた。そんな彼女の視線はイーハトーヴの手元で留まり、ぱちぱちと瞬かせられる。その視線に気づいた彼は小さく微笑んだ。
「忘れずに、だろう?」
「ふふ、そうね。そうだ、町の中にいるかしら」
 いるかもしれない。行こうかな、なんて言っていたから。
 再び湖の描き込みへ戻って行ったポシェティケト。もう花々は壁を十分に華やがせている。さあ、次は──。
「あ、舞い散る桜の花びらで遊ぶにゃんこさんも描きたい!」
 いい? と聞かれた威降は頷き、持っていた茶色の画材を式神に預けて桃色の画材を持ってきてもらう。
「お猫! わたくしもお猫を描きますわ!」
 花びらを描く位置を確認する2人にタントが突撃。お猫が好きですわね、と言われてシャルレィスがふにゃりと微笑む。
「そうか、春は動物たちも喜ぶ季節なんだな! 俺は子犬を描こう!」
「ウサギは描いてしまったけれど、何匹もいたって構わないですわよね」
 自分の描いたウサギを見るヴァレーリヤへイーハトーヴが勿論! と頷いて。舞い落ちる花弁を描き終えた威降は何を描こうか、と皆の描く様を見遣る。
(そうだ、モグラとか描いてみようか。冬に眠っていた生き物が起きだしてくると春がやってきた気がするよね)
 鹿も良いな──なんて思いながら、召喚した式神に転がっていた画材を拾ってきてもらい、ふと思う。威降が知っている鹿は本物の鹿というより、花札に描かれたアレである。
(……ポーズだけ参考にして画風は頑張って皆に似せよう)
 努力すれば多少は変わるはずだ、と思いながら威降は壁へ向き直る。
「……ふむ! これは!」
 真剣な顔をして壁を見つめるタント。そこに描かれているのは……猫?
(スパゲティで出来た獏に見えなくもありませんが……)
「かわいいお猫が描けましたわ!」
「タント様のにゃんこ可愛い! お友達だ♪」
 嬉しそうにはにかむシャルレィス。揃った2匹の猫にイーハトーヴは目を細め、自分も猫の友達を描き足そうと提案する。それじゃあボクも! とシャルレィスは子犬の友達を描き足し始めて。
 タントはと言えば威降の描く鹿に「わたくしも描きますわー!」と張り切り、ヴァリューシャは未完成の鹿を見つけてそこへ屈む。
 そんな最中──。
「──シャルル?」
 ふわり、と揺れた甘い香りにポシェティケトは振り返った。日差しを浴びて微かに色を変える白髪が揺れ、薄水色の瞳が彼女を見る。
「あ、……いや、その。……気になってさ」
「そうだったの。ねえシャルル、」
 ポシェティケトの手がシャルルを壁の前へ誘い、「はい」と画材を手渡す。シャルルは思わず受け取り、困ったような表情を浮かべた。
「春なんて分からない」
「だいじょうぶ。まる描くと、いいわ」
 ほら、と示したのは描いていた湖。青、藍、茜、空、たんぽぽ、橙、葡萄。幾つもの丸が重なり合ってきらきらと輝いている。
「描けばそこは、春よ」
 目を瞬かせたシャルルは彼女を見て、手元へ視線を落として、また壁を見て。そっとその中に丸を1つ、付け足した。
「あっ、シャルルさんだ!」
 シャルレィスが気づいてこちらへやってくる。そしてポシェティケトの描きこんでいた湖に目を丸くした。
「わ、湖すごく綺麗……! これも丸で表現してるんだね! ……あれ?」
 このきらきら、ここの皆? というシャルレィスの言葉にポシェティケトは嬉しそうにはにかんだ。
 そこへ「できましたわー!」とタントの声が上がり、3人は彼らの元へ。ゆっくり歩きながら傍らの壁に描かれた動物を見てポシェティケトがぱっと顔を綻ばせる。
「まあまあ! シャル、いきもの、お上手ねえ」
「えへへ、そう?」
 褒められてちょっと得意げなシャルレィス。シャルルは壁に描かれたソレを見て、思わずポシェティケトに視線を送った。彼女はタントたちの手元を覗き込んでいるイーハトーヴに目を向けて、『彼よ』と言わんばかりにくすりと笑ってみせる。
 ──が、そのイーハトーヴはと言えば。
「……な、何だか急に、俺も鹿が描きたくなってきたなー」
 壁に描かれたそれと目を合わせてはいけない、と言わんばかりの必死さで目を逸らしていた。彼は言葉通り鹿を描きに逃げ──いや、画材を取りに行く。
 それを描いたヴァリューシャは威降作のそれと見比べながらどうしてこうなったのか、なんて自問自答して。
「……鹿って結構難しいのね」
 呟いたところにシャルレィスたちが合流し、鹿の群れに笑みを浮かべたのも束の間。何とも複雑な表情を浮かべた虚ろな雰囲気の鹿に悲鳴が上がった。
「な、なんか1頭だけ雰囲気が!?」
「失礼ね。目を閉じて心の目で見たら、可愛いかも知れないでしょう!?」
 自分で描いたものをどうこう思うのは自由だが、他人に言われると反論したくなるものである。シャルレィスはごめんね、と謝って目を閉じた。
(可愛い。鹿可愛い。……あっ可愛く思えてきたかもしれない)
 彼女が自己暗示をかける間にポシェティケトは皆の鹿を見て回って。
「タントは、とっても笑顔。ヴァレーリヤは、ちょっと悪いお顔してるの。愛嬌、ね」
 森にこんな子もいる、と小さく笑ってみせる。そしてイーハトーヴの鹿を見て目をぱっちりと大きくした。
「これ、ワタシ? 嬉しい。元気な鹿、だわ!」
 喜ぶ彼女の姿にイーハトーヴが小さく笑みを浮かべる。湖の返礼に、少しでもなっただろうか。
「最後に! お空には! さんさんお天道様ですわー!」
 太陽と言えばこの人、御天道を冠するタント様。梯子をシャルレィスに支えてもらい、春の優しくて暖かい光を描きこんで。
「「「──完成!!」」」
 イェーイ! とハイタッチの音が響く。「お疲れさま」と皆に告げた威降は改めて壁を見た。
 可愛らしく、皆の個性も入った元気いっぱいの春。自画自賛したって恥ずかしくないくらいにとても良いと思う。
「さあ、あとは他のグループの絵を見に行こうか」
「私も色んな絵を見て回りたい!」
「ふふ、町の様子もすてきよ、きっと」
 他の仲間の絵も含め見て回ろう、と話し始めるイレギュラーズの中、ポシェティケトとイーハトーヴがシャルルを振り返る。共に見て回るかという問いかけにシャルルは目を瞬かせ──やがて、その瞳は小さく細められた。


●一瞬を永遠に
 友人と、家族と、恋人と。百花繚乱とばかりに咲き誇る──そう、笑顔は『咲く』ものだと思ったのだ。
 カードが舞う。ステッキが変化する。物を消し、出現させ、傍らのメカ子ロリババアをも用いて人々の目を引きつける奇術を魅せた、蝶の羽を持つ麗人──『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)。
 被っていたシルクハットを取って恭しく一礼してみせればわっと観客が湧く。彼らをぐるりと見渡すと再び幻は礼を取り、自らのステージに幕を引いた。
 樽と舞台用小道具で作った即席舞台を片付けて、幻は視線を壁へ向ける。
 勿論、奇術を披露するためだけに来たわけではない。これからが本番とも言えよう。幻は思い出すようにすぅ、と目を閉じた。
 イメージするのは先ほどの刹那で記憶した人々の笑顔。中でも花が咲き誇ると形容できるような素晴らしい笑顔。それらとやはり幻の記憶の中にある春の花を写実的な絵のように強くイメージして──それはまるで、ささやかな《胡蝶の夢》を見るように。
 僅かの間具現化されたそれらを組み合わせ、思い出し、また組み合わせ直して。
 その夢が解けかかる頃、幻は画材と手持ちの油をもって壁へ向かった。縦横比を変えずに大きく、壁一面に考えたそれを描きこんでいく。
(ここは……薄く、儚げな桃色に致しましょう)
 思い出しながら間違えないよう、何度も持つ画材を入れ替える。油を混ぜてリアルな色を作り出し、少しずつ塗っていく作業は多大な集中力なくしてはできない。幻は時折目を瞬かせ、束の間の休憩を織り交ぜて再び作業へ戻った。
 その手が止まったのは、どれだけ経ってからだったろか。
「……完成でございますね」
 小さく呟きが漏れたのは無意識だろうか。その視線は壁に釘付けとなって瞬き1つすらしない。
 描かれたのは壁一面の、見事な花畑だった。覚えてきた花の数々を繊細に、可能な限り記憶のままに彩り模った壁画。
 けれども幻はすぐに踵を返し、その壁から離れてしまう。"近く"で見るのはもう十分だったのだ。そうしてくるりと振り返って──嗚呼、とほっとしたように彼女の笑顔が咲く。

 ──そう。笑顔は『咲く』ものだと、思ったのだ。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。いつも思いますが、Easyシナリオは文字数の壁がとても厚く感じられます。
 1人で自らの力作を生み出した方、誰かと協力して大きな絵を作り上げた方。どなたも素晴らしく、個性に溢れていて楽しく執筆させて頂きました。お客様にも楽しく読んで頂けたら幸いです。

 奇術師の貴女へ。花で人々を描く隠し絵、アイデアに驚かされました。壁の前を通るたびに足を止める人がいることでしょう。称号をお贈りしております。ご確認ください。

 それではまた、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。

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