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シナリオ詳細

<果ての迷宮>蒼穹の回廊

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 目眩にも似た感覚にイレギュラーズの一人が頭を振った。
 明滅する魔方陣は、静かにその光を落としてゆく。
 辺りは薄暗く、かび臭い。
 見渡せば、先ほどとさほど代わり映えのしない石壁に囲まれた小部屋のようだが。
「ついたわさ。ここがいわゆる安全地帯ってことだねい」
 気楽な調子で話しかけてくるのはペリカ・ロジィーアン。この『果ての迷宮』踏破の総隊長である。
 今のところ余り実感も沸かないが、ともかくシュペル・M・ウィリーなる人物が作ったと言われる『セーブポイント』とは便利な代物らしい。

「大丈夫か?」
 隣に立つ『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)の表情はずいぶん硬い。
「ううん、ごめんごめん。大丈夫」
 そう答えて微笑む彼女はいつもの笑顔を取り戻したように見える。
 幻想の没落貴族出身ではないかと噂されることもあるアルテナだが、そうであれば果ての迷宮攻略というのは相当に重い。
 ならば貴族ではなくなった彼女にとって、それはいかなる意味を持つのか――
 尤も迷宮の踏破は放蕩王(フォルデルマン)等、王侯貴族達の名代ということになる。そこにアルテナ自身は何の関係もない訳で。

 他人(なかま)の心境はさておき。
 後背の扉、その向こうが攻略済みの階層なのだろう。
 眼前の扉が次の階層へ続く扉という話だ。
「それでこの先は――」
 イレギュラーズが息をのむ。
 次の階層は、言わば『攻略失敗階層』だ。
 道すがらの説明では幾度かの挑戦が失敗し、戻らぬ者も居ると聞いていた。

 攻略が失敗しているということは、既知の情報も多い。
 蒼穹の回廊と呼ばれるこの先の空間では、まず台座に座る番兵たる怪物の襲撃を受けるようだ。
 それから長い長い道を進むと、便宜上『階層守護者』と呼ばれる怪物と相対することになる。
 見事それを退けると、そこで行き止まり。
 どこにも進む道はなく、最後の冒険者は戻ってこなかった。
 そう告げたペリカの横顔が、ほんの微かに愁いを帯びたように見えて――
「まあ」
 ――無理もなかろう。彼女はその冒険に同行していた筈なのだ。
「気をつけることにするよ」

 話を聞いていると素朴な疑問も湧いてくる。
「誰かが倒した筈の怪物を、また倒す必要があるってことか?」
「そだねい」
 ペリカの話によると、おおよそ一時間で『リポップ』するらしい。
 ぐずぐずしていると戻るにも一苦労という訳だ。

「だから撤退の条件は決めさせて貰うわさよ」
 無論――命とは比べものにならない訳だが――撤退は依頼の失敗を意味する。

「それじゃあ開けるわさ。飛び出しは厳禁。死ぬからねい」
 さらりと物騒なことを言いながら、ペリカが巨大な扉に手をかける。
 小さな身体からは想像も出来ない音を立てて、扉は重々しく開き始める。

 突如飛び込んで来たまばゆい光に、イレギュラーズは瞳を細めた。


 目の前に広がるのは、迷宮の奥底には余りに似合わぬ蒼穹(あおぞら)だった。

 そこが迷宮の奥深くであるという以外にも、異様なことはいくつもある。
 視界の前も、上も、下さえも一面の青空であること。地面と呼べるものがないのだ。ただ一本、石膏のようなのっぺりとした白さの階段が下へ下へと続いている。
 それに青空の向こうでは雲がゆっくりと動いているというのに、風の一つも感じない。真昼のように明るいのに、太陽もありはしない。
 まるで荒唐無稽な夢の中を思わせる光景の中、乾いた味気ない空気だけが現実であることをそっとささやきかけていた。

「この階段は、下に行くほど広くなっているわさ」
 遠近感が狂いそうだが、階段そのものが相当に長いのだろう。
 青空の中に霞む階段の向こうには『蒼穹の回廊』を回廊たらしめる折れ曲がった通路が続いているらしい。
 通路はかなり広く、神殿のような柱が立っている。そこで最初の番兵と戦闘になる。

 それから先の階段をさらに降りていくと、直径五十メートル程の広場があるようだ。
 そこには『階層守護者』が待ち構えており、戦うことになる。

 広場の中央にはぽっかりと数十センチの穴があいており、その真上には白い水瓶が浮かんでいるそうだ。
 水瓶からは水でなく、砂が延々と溢れ続けており――他には何もない。
 ここからが『解けない謎』なのである

 さて。どうしたものか。
 ともかく何らかのアプローチは必要なのだろう。
 後は作戦の詳細を詰め、挑む他に道はない。

GMコメント

 果ての迷宮。第一弾。pipiです。

●目的
 次の階層に進み、次なるセーブポイントを開拓することです。
 また、誰の名代として参加するかが重要になります。

※セーブについて
 幻想王家(現在はフォルデルマン)は『探索者の鍵』という果ての迷宮の攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能にするアイテムを持っています。これは初代の勇者王が『スターテクノクラート』と呼ばれる天才アーティファクトクリエイターに依頼して作成して貰った王家の秘宝であり、その技術は遺失級です。(但し前述の魔術師は今も存命なのですが)
 セーブという要素は果ての迷宮に挑戦出来る人間が王侯貴族が認めたきちんとした人間でなければならない一つの理由にもなっています。

※名代について
 フォルデルマン、レイガルテ、リーゼロッテ、ガブリエル、他果ての迷宮探索が可能な有力貴族等、そういったスポンサーの誰に助力するかをプレイング内一行目に【名前】という形式で記載して下さい。
 誰の名代として参加したイレギュラーズが多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントし続け、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形で反映予定です。展開等が変わる可能性があります。

 メタ的には、以下三つの目標を攻略下さい。
・初戦
・ボス戦
・謎解き
 です。
 それぞれ適度な配分で上手いことアプローチしてみるのをおすすめします。
 せっかくのEXですので道中の心境などを楽しんでみても良いでしょう。

●リポップ
 敵は倒されてから一時間で、再び沸くようです。死体も消えます。
 時間と残存HPAP等の配分で、ペリカストップがかかる場合があります。

●初戦
 幅二十メートル程の巨大な廊下での戦闘です。
 足場等に問題はありません。

『ソードセンチネル』×4
 HPと防御技術に優れます。至近攻撃を仕掛けてきます。
 保有するBSは麻痺です。

『ランスセンチネル』×4
 攻撃力に優れます。至近~中距離攻撃を仕掛けてきます。
 保有するBSは出血です。

『ロッドセンチネル』×2
 脆いですが、射程や範囲に優れます。中~遠距離の単体攻撃、貫通攻撃、範囲攻撃を仕掛けてきます。
 保有するBSは火炎です。

『ガンセンチネル』×2
 脆いですが、命中に優れます。中~遠距離を仕掛けてきます。

●ボス戦
 階段で直径五十メートル程の広場に降りてきます。
 ボスと取り巻きがいます。

『プラスターマンティコア』×1
 かなりの耐久力と攻撃力があります。強いです。
 射程は至近~遠距離。単体、範囲、貫攻撃を持ちます。
 保有するBSは毒、火炎です。

『プラスタービースト』×6
 機敏で攻撃力があります。
 保有するBSは毒です。

●謎解き
 ボスと戦った直径五十メートル程の広場。
 広場の中央。十メートル程上に浮かぶ水瓶が、真下にある数十センチの穴に砂を落とし続けています。

・ボスの死体
 順調に勝てたならボスの死体があるでしょう。
 一時間で消滅してボスがリポップします。

・水瓶
 白い地面と同じような素材。空中(!)に固定されています。奥から砂が延々と沸いてくるようです。

・砂
 さらさらとした乾いた砂です。

・広場のふち
 最後に挑んだ冒険者の一人が、端の方で忽然と消えています。
 落ちたと噂されています。

●同行NPC
・ペリカ・ロジィーアン
 タフな物理系トータルファイターです。

 皆さんを守るために独自の判断で行動しますが、頼めば割と聞き入れてくれます。
 出来れば戦いに参加せず、最後尾から作戦全体を見たいと希望しています。
 戦いへの参加を要請する場合は戦力があがりますが、それ以外の危険は大きくなる恐れがあります。

・『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 皆さんと同じぐらいの実力。
 両面型。格闘、魔力撃、マジックミサイル、ライトヒールを活性化しています。
 皆さんの仲間なので、皆さんに混ざって無難に行動します。
 具体的な指示を与えても構いません。
 絡んで頂いた程度にしか描写はされません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <果ての迷宮>蒼穹の回廊 Lv:7以上、名声:幻想30以上完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月24日 22時00分
  • 参加人数 10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
セララ(p3p000273)
魔法騎士
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
死を呼ぶドクター
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
主人=公(p3p000578)
ハム男
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
アレフ(p3p000794)
堕ちた光
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
天穹を翔ける銀狼
アマリリス(p3p004731)
天義の守護騎士

リプレイ


 どこまでも広がる蒼穹。大地すらなく、ただ渺茫たる空の中。
 一本の白い糸――なだらかな階段を進む影は十二。
 デペイズマンの只中をイレギュラーズ達は一歩、また一歩と下りてゆく。

 先程の扉を開けるまでは空気も湿っぽく、いかにも地下迷宮然とした雰囲気だったのだが。
「乾いた空気――」
 呟いた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は雲を見据えていた。
 空は晴れている。大気はひどく乾燥している。風はない。なのにもくもくと立派な積雲がゆったりと流れている。見た目だけならなんともそれらしく、けれど陰影は見えても光源たる太陽がない。
 おかしな話もあったものである。

「果ての迷宮か……」
 並び歩くのは《アイオンの瞳》が二席。呟いたのは『堕ちた光』アレフ(p3p000794)であった。
 誰が一体何のために作り上げたのか。それすら分からぬ巨大で不可思議な迷宮で彼等が得るものは何であるのか。
 或いは──開けてはならぬパンドラの箱かも知れないが。それも開いてみるまでは判らないのだろう。
「ええ、それに――」
 ――初の特異運命座標の大量投入が何を引き起こすものか。
 そう続けた『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は、階下の回廊へと視線を落とす。
「確かに奇怪な場所ですね」
「そのようだ」
 本当に無限に空が広がる筈も無し。魔術的な空間だとは思えるのだが。果たして。
 どのみち確かめてみる他ないのだろう。第六席に答えた第十三席アレフは、巡る思案を一旦切り上げ嘆息した。

「ねえ、果ての迷宮のお話を聞かせてよ」
 前方で可愛らしい声を上げた『魔法騎士』セララ(p3p000273)が楽しげな笑顔で振り返る。
「話すから、ちゃんと前を向くわさよ」
 語られたのは英傑アクスレイジが踏破した炎獄の海。
「それがイフリートだったわさ」
「炎の魔人イフリート!」
 繰り返すセララにペリカはおどけ。
「そのとき無頼の豪傑アクスレイジが見せた涙の訳とは! なんてねい」
 伝え聞く冒険者達はさながらセララの世界にあったゲームの主人公達のようで、己もその先端に加わったのだという事実に胸が高鳴る。
 それからワイヴァーンとの一騎打ちを制した雷帝ツァールの逸話。
 好々爺で知られる静嵐の大導士バルザリックは、酒を飲むと泣き上戸だったであるとか。そんなしょうもない話も含めて。
 いずれも幻想に武勇をとどろかせ、数多の伝承を暴き、この迷宮に挑んだ勇者達の物語。
「次はボクが新発見をして歴史に名を残すのだー!」
 ペリカの話がどこまでが事実かなど、本人にしか分からないのであろうが。語る口調は生き生きとして、けれどその瞳は眩しい何かに細められるように、どこか寂しげにも見え。

 冒険譚に聞き入る新しい友人(セララ)を前に、殿を務める『総隊長』ペリカ・ロジィーアンの声は歳近い姉じみて、そのくせ孫に昔話を聞かせる老女のようでもあり。
 それより何より。
(ペリカ、他人とは思えないわね)
 そう感じる『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の心境には妙がある。
 美しい薄紫の髪に、未知を愛し踏破を快楽とするような趣味的な所もそうではあろうが。

 ――昔の仲間とか。

 さながら逆光の向こうにあろう優しい夢を今もなお追い続けるような、そんな様がなによりも。
 あの日【砂書】の仲間達と踏破済の階層を観光したイーリン達を、あの老いた少女はどんな心境で眺めていたのだろうか。
 どこか似た二人が対照的な色彩の視線を交差させる。
 優しく――おそらく本心から――にこりと笑ったペリカが「そろそろ到着だねい」と述べ、和やかな空気がにわかに引き締まる。
「そのようね……」
 らしくなく僅かに言い淀んだ言葉とは裏腹に、イーリンの怜悧な知性と直感は、ペリカの態度が信頼の証であると告げている。
(あるいは『決意』なのかもしれないわね)
 ならば始めましょう。
「神がそれを望まれる」

 セララが最後の一段の前で立ち止まり、えいっと飛び降りるように着地した。
「スタート地点に到着だね!」
「そうだねい」
 そんなやりとりに振り返った『ハム子』主人=公(p3p000578)の境遇はどこまでが運命か偶然か。
(まさか初探索のチームに選ばれるとは思わなかったよ……)
 そのまま仰げば、来た入り口がずいぶん小さく見える。
 ここは攻略失敗階層だ。幾度か挑まれ、いずれも次の階層へは到達出来なかったと聞いている。
 おどけて見える者達も皆その瞳は真剣そのもので、主人=公は手のひらで盾の裏を一つ撫でた。

 革袋の紐を握り『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が思案する。
 中には杭、細いが頑丈なロープ、小さなハンマー、松ヤニ、それから……探索者のため一揃えに売られている物だが、いつ使う事になるやもしれぬ。
 この迷宮に眠るものも気になれど、彼が何よりも意識しているのは全員の無事な帰還だった。
(……死人が出た階層か)
 無論『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)にとっても同じ。
 けれど――
(なぁに、俺らは生きて帰るさ。またペリカに喪う悲しみは背負わせねぇ)
 美しい顔を彩るのは不敵な笑みで。
 未帰還者の無念は踏破で晴らすと、そう決意するレイチェルの想いは当人(ペリカ)の前であえて言葉にこそ出さねど、皆と共有するものであろう。

 幅二十メートルはあろうかという純白の通路の両脇には神殿のように、あるいは旅人であれば「真っ白な電信柱」などと述べられよう柱が点々と連なっていた。
 上からは曲がりくねった細い糸のように見えていたが、いざそこを踏みしめてみれば、なるほどここが蒼穹の回廊なのであろう。

 ざわざわと破滅が聞こえると。『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)の虚ろな瞳が見据える先。
 数体のヒトガタがじっとたたずんでいる。その姿も台座も白。
 かつての踏破者達がセンチネル(番兵)と名付けた怪物達で、最初の冒険では罠を調査しようとした男が、突如動き出した怪物に槍で貫かれて亡くなったとされる。
 この迷宮は魔窟なのだろう。無数の破滅が現れ渦巻き消えていく。
 深奥に何があるかは知る由もない。だが“解き明かす”ことでこの破滅は滅ぶかも知れないのであれば――

 美しい花にある死毒が如き悪辣。
 魔的な魅力を湛えた迷宮はこれまで多くの勇者を惹き付け、破滅へと導いたのだ。

 ――ならば、俺の為すべきは滅ぼすのみだ。

 いくつもの靴が石膏のような通路を踏みしめていた。
(他国の王の為に動けるとは、なんと光栄な事か)
 辺りの気配に気圧される訳にはゆかぬ。豊かな胸にそっと拳をあてた『戦花』アマリリス(p3p004731)が誓いを新たにして。
 この日イレギュラーズ達は幻想貴族達の名代として、この冒険に参加していた。
 アマリリスといえば天義の守護騎士として知られるが、この日は幻想国王フォルデルマンの言わば代理人であり、セララ、レイチェル、主人=公も轡を並べる。
 尤もローレットの聖剣騎士が一人と言えば、これも一種自然な形とも言えようか。
 何事もバランスと言いレイガルテを選択したのはアイオンの二名。アレフとアリシスであった。
 かの暗殺令嬢に認められたいと想うレジーナ。それからゲオルグとイーリンはリーゼロッテを選んだ。
 ガブリエルを選んだのは幻想貴族の中では最も破滅から遠そうだと考えるR.R.と、最後まで判断を迷っていた『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)だ。
 果ての迷宮の踏破は俗世の権力闘争にも影響を及ぼすとされる。
 イレギュラーズ達の選択がいかなる結果をもたらすかは定かでないが、彼等の成果がこの世界そのものを破滅から遠ざける可能性となることだけは確かな事であった。


「……静かすぎます」
 いささか以上に。通路を歩む中でアマリリスが口にしたのは素朴な違和感だった。
 地も風も。精霊の気配はおとなしいというよりも抑圧されているように感じる。精霊達はここに流れる長い長い永劫の時を、ただ押し黙って過ごしてきたと言うのか。
「空間そのものに魔術的な仕掛けがあるのは確かなようです」
 アマリリスの言葉にアリシスが頷いた。先ほどの予測は裏付けられた格好だ。
 イレギュラーズ達は番兵との交戦を前に既に調査を開始している。なにしろ仮に――あの広間は何の意味もなく、この辺りから隠された道が発見されたなどということになれば余りに笑えないのだから。
 ペリカはと言えばときおり「そだねい」などと相槌を打つだけで後は様子を見ており、特段イレギュラーズ達を止めるといったことはしていない。
 先ほどからイーリンはペリカを『プロの探索者』と当て込みしばしば観察していたが、ペリカの行動は『何があってもおかしくないのだ』と、そんな態度に思える。イレギュラーズ達の命綱になるつもりなのだろう。
 これまでそれだけの命が失われてきた証左(トラウマ)であるとも言える。だが歩みは止めない以上、慎重に安全を優先しながらも、貪欲に踏破を求めているのだろう。

 長い通路では、まずペリカが述べ、レジーナがその遣いを先行させ、アマリリスが精霊の微かな声によって過去を裏付けるといった格好で進んでいる。
 ともかくこうして一向は最初の関門である番兵の前へと至ったのである。

「魔法探偵セララだよ! 犯人は……キミだ!」
 番兵達が得物を構えるより早く、ポーズをキメたセララのカードが燃えるような光を宿した。
 少女は舞うように一気に駆け抜ける。二振りの聖剣『ラグナロク』と『ライトブリンガー』から放たれた斬撃は、邪を滅し蝕む不死鳥が如く、今まさに杖に魔法陣を展開した番兵を切り裂き爆炎を吹き上げる。

(ボクもやらないとね)
 己に主役たるを課し続け、
 ほぼ同時だったろうか。主人=公もその衣服を戦衣に変える。
「それじゃ行くよ!」
 顕現せしは静かなる月影の女神が如く。
 大気を切り裂く弦音と共に、強大な魔力の渦が収束し番兵の数体を一気に貫く。
 こうしてイレギュラーズ達は果敢に先制攻撃を開始した。

 流れる幾ばくかの時。
 交戦開始から幾度かの応酬が続いていた。
 主人=公の放つ、さながら運命に愛されたかのような一撃の後、アレフ、アリシスによる立て続けの連撃が次々に敵を討ち貫いて往く。
 そして――構えと共にイーリンの髪色に青が宿る。その美しい紫苑は淡い燐光を漏らし、紅玉の瞳は血の色へ、白い肌は陶器のように。
 現世と幽世の境界に踏み込み、振り抜く渾身の一撃は――【グラディウス】――シャヘルの煌めきを宿して、射貫かれたの番兵の全身がひび割れた。

 対する敵の攻撃は砲撃のような火球、弾かれるように繰り出される槍、十字砲火、そして正確無比な剣劇。どれも軽くはない。
 人の身ならざる存在故に可能となる動きは、時にイレギュラーズを翻弄し、いくつもの傷を身に刻ませるに至った。
「アルテナは回復を」
「うん、任せて」
「やっかいではある……が」
 言葉に含みを持たせたゲオルグが隆々たる腕を振り上げる。満ちる光、咲き乱れる美しい花々は癒やしの術陣だ。
「ええ、まるで戦術の机上演算ね」
 続いてイーリンが答えたように、慣れてしまえばどうという事もない。決まった動きしか出来ないからくり人形のように単調な連携とも言えた。
 咲き乱れる美しい花――ル・ジャルダン・デ・フルールから美しい少女が歩み出る。
「退け、邪魔だ!!」
 されど苛烈に。アマリリスの凜とした声音が戦場を劈いた。
「貴様らを倒して、推し通る!!」
 麻痺、火炎、出血――敵が持つ数々の特性も、彼女の高潔を汚すに能わず。
 聖遺と罪業。マグダラの罪十字が放つ炎が番兵を打ち倒し、アマリリスは戦場を切り開く。
「お前達の程度は破滅にも数えん」
 R.R.の言葉は率直な現状分析に基づく。とは言え邪魔ではあるもので。
「――速やかに滅べ」
 幾度か立て続けに乾いた銃声が響き。
「悪くない得物だ」
 硝煙の中でR.R.が呟く。銃というのは初めて扱うが、この『葬送』と名付けられた代物は『破滅』と相性が良いのかもしれない。
 穿たれた番兵がぼろぼろと崩れる。

「プラスター……石膏の事ね」
 同じ頃、ガラクタに成り果てた二体目のロッドセンチネルから、突き立てた螺旋を引き抜いたレジーナが切り出す。
 資料とペリカの話では、プラスターの名を冠していたのは、この先で相まみえるであろう『階層守護者』と『取り巻き』だったがと、レジーナは思案一つ。
「ひょっとしてマンティコアもこの『番兵』達と同じ材質なのかしら?」
 眼前のセンチネル達の素材も石膏のように見える。幾度か斬った感触からして、単なる石膏であればこれほど強固とも思えないが。けれどもゴーレムのような魔術的加工を施しているとも考えられる。
「マンティコア達も同じような材質に見えたねい」
 ペリカはそう答えると、自身の伝え方が甘かったと謝罪する。単に情報収集としての化学的アプローチというものをペリカ自身は想定していなかったようだ。
 横合いから突き込まれる槍を妖刀の一撃でたたき落とし、刹那の間合いでレジーナは再び思案する。
 試薬を試してみるのも良いかもしれないが。番兵はさほど、少なくともレジーナ達にとって強力すぎるといった相手ではない。戦闘以外を行う余裕はあるだろうが、ここは本命のために温存するのが良いだろうか。

 憤怒、そして復讐の焔こそ我が刃――
 月華葬送の調べに載せ。レイチェルは己が生命力を対価とした鮮血の焔を解き放つ。
 ――復讐の果てに燃え尽きるのが我が生なり。
 禁術が姿勢を崩したランスセンチネルを穿つ。ほとばしる憎悪が白い番兵を灼き、煌々と燃え盛り。
 かつて冒険者の一人を殺したとされる番兵の一体が沈む。
「いいぜ。順調って所だな」
「うん、そうね」
 見届けたレイチェルが檄を飛ばし、アルテナが頷いた。
 この迷宮の中。この場で、あるいは踏破済の階層で。探索のエキスパートが戦場に倒れる。屈強な戦士が罠に倒れる。長い年月の中でそうした悲劇は繰り返されてきたのだろう。
 挑んで敗れた冒険者達によるしくじりの歴史から得られた情報を元に、イレギュラーズ達は綿密な作戦を立てた。
 故に順調であることが何より結構なのである。命を費やす重みをレイチェルは良く知っていた。無駄にするつもりなどありはしない。

 こうして――終えてみれば初戦は快勝。
 イレギュラーズ達は再び長い回廊を歩み始めた。
 白く続く回廊を進み、幾度か階段を降りる。
 経過したのはさほど長い時間ではないが、時間経過による敵の再出現(リポップ)が知れているからであろうか。
 アリシスの術やイーリンの不条(ウラワザ)、あるいは各々自身で体勢を立て直す。長丁場には長丁場なりのやりようというものがあるもので、イレギュラーズ達はそれを十分に心得ていた。

「ねぇ、ペリカはパーティでどんな担当を?」
 ふとイーリンが訪ねた。
「いろいろだねい」
 若かりし頃は戦いの先陣を切った。
 姿に見合わぬ怪力で怪物達をたたきのめし、仲間内では主に力仕事を請け負った。
 引退と殉職。個々には様々な理由で仲間の顔ぶれは移ろい、彼女の役柄は徐々に【力の戦士】から【経験の探索者】へと変わってゆく。
 いつしか彼女のキャリアは誰よりも長くなっていた。今の役柄を担いとどまり続けているのは、踏破への老いた意地だ。
「だからあたしの役柄自体は中途半端かもねい」
 そんなペリカの言葉に、イーリンは――

「なんだかすごく冒険してるって感じ……」
 自ら『冒険者』を名乗るアルテナの言葉は、どこか上の空なものだった。
「それは……はい、してます。冒険」
「してるしてる。してない?」
 アルテナと目が合ったアマリリスが生真面目に答え、セララが続けた。
「してる。ううん、何か実感がわかなくて」
 けれど彼女等は進み続ける他になく。
「そろそろだねい」
 ペリカの言葉通り、イレギュラーズ達は現時点での終着点である階層守護者の前にたどり着いたのだ。


 五十メートル程の平たい円盤。その中心に浮かぶ壺から流れ落ちる砂。
 そんな解けない謎を後背に控えた猿面蠍尾の獅子と怪物達は、やはり白かった。
「真ん中の穴には気をつけてねい」
 足をひっかけた隙に、噛み殺された冒険者が居るらしい。間は抜けて聞こえるがぞっとしない話だ。
「それじゃごーごー。ごーごーごーごー!」
 ペリカの号令は間が抜けているようでいて、ひとまず『作戦通りで問題ない』という意図が分かる。
「ボクが引きつける、その間に!」
 駆け出すイレギュラーズの中でまず主人=公が、ボスの取り巻きであるプラスタービーストに初撃を見舞う。
「うん――セララ参上!」
 身の丈を大きく上回る怪物を前に、小さな勇者は双剣を重ね立ちはだかる。

「抑えは任せたぜ」
「もちろん! けど倒しちゃうかもよ!」
 武名をとどろかせるセララになら、本当に出来てしまいそうな気さえする。
「いいぜ、そのほうがずっといい!」
 レイチェルがその端正な顔に獰猛な牙をむき、銀狼の姿を形どる。
「さぁ、俺を畏れよ……平伏せ!」
 禁術・狼王咆哮がプラスタービースト(格下ども)を貫き穿つ。

「私達(アイオン)もやるとしよう」
 力を一気に解放したアレフが纏う魔力を収束させ撃ち放つ。仮初めの獣に破壊の奔流がたたきつけられた。
 続くアリシスが第八の秘蹟――告死天使の刃を顕現せしめる。
「行きなさい」
 告死天使の刃は魂を刈り取る概念を失って尚、死に至る呪いを刻み込む――たとえその命が仮初めの魔力人形であるとしても。

 イレギュラーズの猛攻は止まらない。
「そうか」
 その虚ろな瞳でR.R.が呟く。
「やはりお前もまだ破滅ではない」
 それは冷厳なる宣告。

 さっさと深奥を見せろ。
 暴かせろ。

 ――道を遮るな!

 破滅を破滅させるという強固な意志から放たれる、魔を帯びた葬送の弾丸が早くもプラスタービーストの一体を粉々に打ち砕く。
「――ッ!」
 プラスターマンティコアの白い顎を剣で受け、強烈な衝撃にセララのかかとが地を滑る。
 だが、そうこなくては英雄になんてなれやしない。
「大丈夫だよ! いけるいける!」
 仲間の力強い宣言に、レジーナは作戦の続行を決断する。あの怪物の一撃を受け、セララの動きは少しも鈍っていない。
「それなら実験と行くわ」
 打ち合わせの通りに。
 劇薬瓶の蓋を開け、プラスタービーストの一匹に塩酸をぶちまけた。
 変化は――待つのはほんの僅かな時間。

「そう」
 化学反応が発生していない。
「少なくとも純粋な石膏ではなさそうよ」
 別の物質であるから、あるいは活動しているから、ケースはいろいろ考えられる。ならばイレギュラーズ達は戦闘に注力しながらも敵の動向を観察する方針に切り替えた。

 敵は空間や浮かぶ壺、他の何かを避けていないか。あるいは守っていないか。
 敵は話せるのか否か。
 すべてを思案し、すべてを試す。

 敵とてさすがに先ほどの番兵と比べれば強いと言えるが主人=公の攻撃を皮切りとしたアマリリス、R.R.、イーリン、アレフ、アリシスの連撃が次々に取り巻きを粉砕し瓦礫の山を築きつつある。
「負けてはやれんものでな」
 そしてゲオルグが放つアークパニッシュメント。聖なる光に最後の取り巻きが活動を停止させた。
 彼が放つ裁きの光、そして祝福の花はイレギュラーズに攻防の安定をもたらし、最前線はセララが支え続けている。すべてが盤石だ。

 レジーナが放つ黒薔薇十字の大罪刻印【Black Rose With Kiss】――かの青薔薇の君に焦がれた女王の権能。
 美しくも禍々しい黒い花びらがマンティコアを捉え、翻弄し、蝕み、破壊する。
「その火炎、父の炎に比べればまだまだ温い!!」
 アマリリスは苛烈な一撃を打ち払い、己が反撃の炎をマンティコアに打ち付ける。敵の身体に燃え上がった赤の光が彼女の髪、瞳を紅蓮に彩った。
「正義の剣! 受けてみよー!」
 マンティコアの懐に飛び込んだセララ、その二振りの聖剣がマンティコアを十文字に切り裂き――次なる斬撃が巨体を跳ね上げる。

「破滅はお前の心臓に顕れる――――滅べ!」
 葬送の弾丸がマンティコアに吸い込まれ、突き抜け、空の彼方に白い破片をまき散らす。
 数瞬の静寂。真っ白な身体にぽっかりと空いた小さな穴から、放射状に亀裂が走り――作り物の怪物は粉々に砕けて散った。


 宙に浮かぶ水瓶から、さらさらと砂が流れている。
 それも白。あれもこれも白。
 イレギュラーズ達はただ青い空と白い物体の世界に居た。

 それから同じく白い足下の怪物。
「解体は、するまでもなさそうね」
 レジーナが見据える物。怪物の死骸――と呼んで良いものか――は文字通りの粉々だ。
 再び試薬を試した結果、死骸と砂はごく普通の石膏だと思われた。
「砂も石英ではなく石膏ね」
「ごく普通の石膏に魔術的な何かが施され、ゴーレムや仕掛けになっているようだ」
 ゲオルグが感じた未知を解釈するなら、そういった所か。
「そのようね」
 レジーナが答える。答えは一致した。
 あとは雲も雲で気になる。かなり距離はありそうだが。さて。

 階層守護者を倒して数分が経過したろうか。
 イレギュラーズ達は前衛後衛の二人組に分かれてあちこちを調査し、それをこうして報告しあうということを続けている。
 時間にはまだまだ余裕があるが、はてさてどうしたものか。
「自称するようなものではないが、俺は狂人だからな。リドルの類は賢者に任せる」
 そう言ったR.R.ではあったが、音から周囲の異変を探っていた。論理よりは直感を頼るつもりだ。
 そもそもこの階層の仕掛けがリドルやパズルのように何らかの論理性に基づくものか、あるいはそうではないのか、未だ分かってはいないのだ。
「おーい! 誰かいるー!?」
 奇妙な青空が広がる下へ向けて、ダメ元で呼びかけたセララだが予想通り返事はない。
 そしてさまざまな疑問と憶測を呼んでいるのが、あの浮かぶ白い水瓶。
 水瓶となると、関連がありそうなのは占星術等だろうか。
「占星術だと水瓶が司るのは宝瓶宮で砂=土は転落の座にある状態と言えるが……」
 ゲオルグが腕を組む。答えは見つかりそうにない。
 どこかに手がかりがある筈と、アマリリスも水瓶を調べるが。
「どうだったー?」
 訪ねるセララにアマリリスが首を振る。
「いえ何も」
「ボクも見てみたけど、やっぱり水瓶は砂が出てるだけだったー」
「もしも穴を塞ぐとすると……」
 主人=公が思案する。落ちない砂が溢れるだろう。だが何かに使えないだろうか。
「こちらも予想通りというかなんというか」
 アリシスが伝えたのは中央の穴に落ちた砂が虚空にかき消えているという情報だ。おそらく水瓶と繋がっているのだろう。裏付けはとっても良いかもしれないが。
「でも砂の流れを変えるのは、何か意味があるかも?」
 どうしようもなければ、後で試してもいいかもしれない。

「では」
 アリシスの瞳。霊視眼が捉えたのは水瓶自体の何か。そして水瓶を固定する魔力線、そして広大な円形床の淵から上方に伸びる壁状の魔力。
 疎ましい眼だが、こんな時には役立つか。
「水瓶自体に何かがみえます。そのもの魔力の糸によって支えられているようです。
 それからこの床の淵には、やはり何かあるようですね」
「「おおー!」」
 セララとペリカが感嘆の声を上げる。
 皮肉な贈り物(ギフト)の思わぬ効能だ。
「淵か」
「そっちは慎重にねい」
 アレフのつぶやきにペリカが答えた。
 現状で最も危険が大きいと考えられる場所は、そこだ。
「ワイヤーよ」
 イーリンが差し出す命綱はあったほうがいいだろう。これで各々が互いを繋ぐ。
 それから彼女は淵のほうへ少量のインクを飛ばす。
 目の錯覚か。否。
「ここでインクが消えるわ」
 彼女の言葉通り、淵にはインクが空にかき消える場所がある。何か仕掛けがあるのは間違いない。
 高さは不明だ。少量の紙を燃やした煙でさえよく分からなかった。より調査するならとにかく上へ飛んでみる他なさそうだが、危険も大きそうだ。
 深さは空き瓶を落としてみるが――小さな音が聞こえた気がして仲間に視線を送る。
 確かに聞こえたと口をそろえたのはR.R.とアレフだ。
 底は相当に危険な高さではあろうが、少なくとも確実にあると分かった。

 穴と淵について裏付けが必要だ。
「俺がやろう」
 レイチェルはその眷属、小さな蝙蝠を放つ。
「――ッ!」
 穴は――突如弾かれたような感覚と共に、視界が回転する。
「わっ」
 穴に飛び込んだ蝙蝠は真上の壺から現れ、ちょうど腕を組んでいたアルテナの頭に乗った。やはり繋がっているようだ。
「あー……悪ィ」
「大丈夫、びっくりしただけ。それより大丈夫?」
「まあ俺もびっくりはしたけどな」
 二人は少し笑い、それから淵に視線を移す。イーリンが指し示したインクの消える場所である。
 これでアリシスの予測に対する裏付け自体はとれた。仕掛けの意味自体は不明のままなだが。
 ともあれレイチェルは次に淵へと蝙蝠を放つ。これで気になっていたこと、冒険者が消えた先に何があるのかが分かる。
 エコーロケーションには『なぜか』壁として感じられてしまうのだが――

 共有された視界に飛び込んできたのは一本の道であった。
「道があるな。広場からじゃ見えねェんだ」
「道!」
 レイチェルの言葉にペリカが声を張る。
「道は途切れていて、行き止まりに『見えない壁』が『聞こえる』、それとな……」
 誰かが倒れているとレイチェルは述べた。
 踏み込むか、否か。踏み込むしかない訳ではあるが。
 今度はレジーナがその大罪女王の遣いに道の安全を確かめさせる。
 倒れていた者は、とっくの昔に装備と骨だけとなっていた。
「久しぶり、一緒に帰ろうねい」

 途切れた道の先はやはり同じ仕掛けだった。
 隠し通路に立って分かったことだが、ボスの広間と隠し通路、隠し通路と最奥は同じような魔力壁で隔てられているらしい。互いに見えず、音も聞こえないようだ。
 隠し通路の幅は一メートル半ほど。渡るには十分だが空の中にぽつんと取り残されたようでなんとも心細い。
 故人は偶然踏み込み、仕組みに気づかず、試し、足掻き、最後には力尽きたのだろう。
 ただの一歩を踏み出さなかったと言うことになる。

 通路の仕掛け、それから最奥の広場を調査している時に分かった事もあった。
 アリシスの観測、ゲオルグと主人=公の推測では、水瓶は敵のリポップに関係があるというものだ。
 そのような魔力反応が観測できたのだ。詳細なメカニズムは研究が必要なもので、そちらは今後に委ねられるのだろう。分かるかはともかく貴族達が調べるに違いない。
 ともあれイーリンのインスピレーションに頼る前に、全ての仕組みがひとまず解明されたことになる。
 彼女等は未知を既知へと変えたのだ。

 イレギュラーズ達が立つ最奥の広場――眼前には大きな門がある。
 門の向こうは未知なる下層へと続いていた。
 ここをセーブポイントに出来るだろう。
 遺骨はペリカの手によって布に包まれていた。傍らではアマリリスが膝をつき静かに祈っている。

 誰にも言葉はなく。
 こうして蒼穹の回廊は攻略済階層となったのであった。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。
 果ての迷宮でした。きれいさっぱり攻略されていますね。すごい。

 またのご参加をお待ちしております。pipiでした。

 ※ショップに漫画<イレギュラーズ探索紀>の販売が開始されました。

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