PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ヒューナのアトリエ Lv1

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●へっぽこ錬金術師、奮起する
 深緑、大樹ファルカウ。
 深緑の首都的シンボルであり、多層構造のこの神樹内部には多くの村々が広がっている。
 その下層、中心部より少し外れた場所に位置するテトラスの村に、その工房はあった。
 古めかしい錬金術師の工房。
 持ち主の名はヒューナ・ミトロンド。テトラスの村を代表する錬金術師……ではない。
 爆発音と共に、工房が大げさに揺れた。
「あーん! また失敗だー!!」
 悲鳴をあげたヒューナはそう、錬金術に取り組みだして一ヶ月のへっぽこぴーである。
 そもそも、テトラスの村には村を代表する錬金術師がいた。名をミーナ・ミトロンド、ヒューナの母である。
 その実力はテトラスの村のみならず、ファルカウ下層であれば聞いた事がある者が大半だ。ミーナ印の赤ポーションはファルカウでは常備薬として有名である。
 そんな偉大な母は、一ヶ月前新たな工房が出来たとファルカウ中層へと行ってしまった。母の手伝いをしていたヒューナは、必然的に工房を継ぐ事となった。
「ママが大事にしていた工房、あたしが切り盛りしてみせる!」
 そう意気込んでみたものの、対して手伝ってもいなかったヒューナは錬金術の入門アイテムである青ポーションすらまともに作れない。
 失敗に次ぐ失敗で、一ヶ月持たず経営は火の車だった。
「うぅ……このままじゃママの工房が維持できないどころか、借金が積み重なって工房から追い出されちゃうよぉ……!」
 さてはて困り果てたヒューナだが、あるとき工房の地下室で埃を被った一冊のノートを見つける。
 それは母が錬金術を始めたときから書きためた、様々なアイテムの作り方が丁寧に記されていた。
「これなら作れそう! ……でもこんな材料見た事ないなぁ?」
 それもそのはずで、アイテムの素材に使われている物はどれも深緑には存在しないものばかり。中にはモンスターから取り出す物もあった。
 母がそれらのアイテムをどのように手に入れていたかは謎だが――今はとにかく集めて見るしかない。
 深緑の外に出る――あまり考えた事がなかったがそうせざるを得ないのも確かだ。少し怖いけど、やるっきゃない!
「うーんでも、魔物退治はさすがに……あ、そうだ!」
 思いついたのはかなり昔に日曜学校で仲が良かった子のことだ。
 噂に聞けば、深緑を出て冒険者になったかと思えば、今は世界を救う救世主になったとか。
「リュミエ様も最近外の人達を招待したらしいし、あの子なら話を聞いてくれるかも!」
 思いついたら即行動。ヒューナは行動力の塊だ。
 そうしてへっぽこ錬金術師は様々なコネクションを用いて、遂に懐かしきあの子に連絡を付けたのでした。


「という話でして、懐かしい友達から素材集めの依頼が入りました」
 ローレットに足を運んだイレギュラーズに、『星翡翠』ラーシア・フェリル(p3n000012)が依頼書片手にそう事情を説明した。
 混沌各地で収拾できる錬金術の素材集め。なるほど確かに一人でこれを行うのは骨だろう。
「でも、借金あるそうだしローレットへの依頼料は払えるのか?」
「上手くアイテムが作れれば結構高額で売れそうなものみたいで、ローレットへの依頼料はそれでペイできると踏んでるみたいですね。どーんと先払いしてもらいましたけど……あはは、失敗したら大変ですね」
 苦笑交じりに言うラーシア。ずいぶんと綱渡りな経営具合だが、大丈夫なのだろうかと心配になる。
「確かにドジな子でしたけど、ヒューナさんはとっても頑張り屋さんなんですよ。
 ぜひ彼女のお手伝いをして上げて欲しいです」
 私もがんばります、とラーシアが意気込む。
 素材は幻想国内の毒草畑での収拾に、天義北部に棲息するドバーヌという魔物の爪の収拾か。深緑と鉄帝で入手する素材もあるようだが、比較的危険の少ないその二地域は依頼者であるヒューナが自分の足で集めるようだ。
 少し時間に追われるがそう難しい依頼でもないし、作り上げる錬金薬にも興味があるだろう。何よりもラーシアの友人であるというヒューナはどこかほっとけない感じだ。
 深緑からの依頼ということで、向こうとの信頼関係を積み上げるよい機会でもある。一つ手伝ってみるとしようか。
 イレギュラーズは依頼書を受け取ると、どう素材を集めていくか相談を始めるのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 深緑の新米錬金術が頑張ろうとしています。
 まずは入門アイテムを作って、傾き掛けた工房の地盤を固めましょう。

●依頼達成条件
 毒草キューバイトの茎を百本集める。
 白い魔物ドバーヌの爪を十本以上入手する。

■オプション
 ヒューナに二人以上(ラーシア含む)付き添う

●情報確度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は起きません。

●依頼について
 新鮮な素材が必要な為、全てを全員で回る事は出来ません。
 二手(もしくは三チーム)に分かれて効率的な回収をしましょう。

●毒草キューバイトについて
 幻想は西部を中心に群生している毒草。
 一本二本なら特に重篤な症状を引き起こさないが、群生地に足を踏み入れれば、たちまち【毒・猛毒・致死毒】の症状に襲われて、一分と立たずに倒れてしまうでしょう。
 キューバイトの茎は必要個数が百本と多いので毒対策や、素早い回収の手法などを考える必要があるでしょう。
 一ターンに一人最大十本の茎を入手できます。
 キューバイトの茎は海水と一緒によく煮込むと、毒素が消えて傷薬の主成分キズチルサンを含む素材に変化するそうです。

●白い魔物ドバーヌについて
 天義北部に棲息する比較的穏やかな魔物ドバーヌ。白くて小さくてずんぐりむっくりな愛嬌ある魔物です。
 そう悪さをする魔物ではないが、放って置くとどんどんと子供を産んで増えていき、田畑を荒らすようになるので、定期的な間引きが必要である。
 その爪は鋭く硬く、またその身軽な身体は瞬発力に優れている。
 CT値とEXAが高く、回避も高いが耐久力や防御技術は低い。
 そう強くない魔物だが数が多いので、出来るだけ人数を割いた方が良いでしょう。
 また倒した魔物から爪を剥ぐ必要があります。戦闘中に行うか、倒した後に死体を回収して行う必要があるでしょう。
 巣穴の外には五体のドバーヌがいますが、巣穴の中に何体のドバーヌが潜んでいるのか、検討もつきません。
 その爪を砕いて良く磨り潰し、粒状にすると一緒に錬金した素材の成分が良く浸透し、自然消化のできる薬のベースとなるようです。人体に優しい素材です。

●深緑と鉄帝の素材について
 ヒューナが担当します。
 そう危険の無い場所での素材集めですが、一部魔物の住処を通るようです。
 手助けするとクオリティの高い素材が手に入るかもしれません。

●同行NPC
 ラーシア・フェリルが同行します。
 友達の手助け、また故郷からの依頼ということで張り切っています。
 特に指示がなければキューバイトの茎を集めに行きます。

●戦闘地域
 混沌各地になります。
 時刻は朝から夜。様々な天候の元で行われるでしょう。
 戦闘は、障害物はなく視界も良好。自由に立ち回れます。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • ヒューナのアトリエ Lv1完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月24日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
エリーナ(p3p005250)
フェアリィフレンド
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹

リプレイ

●初めての素材集め
 深緑、テトラスの村へと足を運んだイレギュラーズ一行。先導するラーシアが指さす先に、その工房はあった。
「ラーシアちゃん! 待ってたよー!」
「こんにちはヒューナさん。ローレットから依頼を受けて来ましたよ」
 ラーシアの手を握ったヒューナはぴょこりと身体を傾け、後ろに並ぶイレギュラーズを確認する。
「おおぉ……強そう、可愛い、何でもできそうな人達が揃ってる!」
「ふ、任せてくれ……望みのままに必要なものを用意して見せるさ」
 初の深緑依頼ということでやる気に満ちあふれている『夜刀一閃』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)がキザに決める。
「クロバさん、妙に張り切ってますね……いえ、別にどうということではありませんが。
 ラーシアさんのご友人ならば私達の友人も同然、素材集めは任せて下さい」
 クロバをジト目で見つつ『言うほどくっころしそうにない』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)がそう口にする。
 ヒューナは「くぅ~」と感激しながら一行を工房の中へと招き入れた。
 少し散らかっている工房の中。目を惹くのは奥に置かれた二種類の錬金釜だろう。周囲に焦げた後があるのが、この娘の腕を証明しているようだ。
「今回私が作ろうと思うのはこの『キズナオール粒状』ね!
 先に伝えていた通り、作るには深緑以外の材料が必要で、それを集めて欲しいの」
 ノートには毒草キューバイトの茎に白い魔物ドバーヌの爪、それに深緑で取れるプニプニ草の葉と、鉄帝で入手可能なトロントの氷塊が必要個数と一緒に書かれていた。なるほど、これは一人で――深緑から出た事のない女性が――集めるのは大変なものだろう。それに少々特殊な素材と言う事もあって流通もしてなさそうだ。
「まさに素材集めって感じですね!
 毒草を使うのが少し不安だけど……きっと薬を作るための良い作用があるのでしょうねっ」
 昔、アイテム製作をしていた時のことを思い出し、柔和な笑みを見せた『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)。毒に耐性を持つユーリエは、毒草キューバイトの収拾に向かうようだ。
「それでは私も毒草集めに行きましょうか。ユーリエさんよろしくお願い致しますね」
 同じく耐性を持つ『フェアリィフレンド』エリーナ(p3p005250)が手を上げる。
「耐性を持っているなら安心だけど……キューバイトの成分が体内に入っちゃうと本当に危ないから気をつけてね!」
 怪我をしないように、これが第一だ。
「ドバーヌはそう強くない魔物だけれど、数が多いのがやっかいだわね」
 『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)の言葉に『寝湯マイスター』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)が頷く。
「ネズミの様に増えてしまう魔物のようだからね。予想以上に現れて囲まれたりしたら少々厄介かもしれないね」
「それじゃ、ドバーヌには多く人手を割きましょうか。
 一、二、三……五名くらいかしら?」
 『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)がクロバ、シフォリィ、華蓮、ウィリアムを指さしながら言うと、残った『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)が一つ頷き口を開いた。
「うん、僕はヒューナさんのお手伝いに行かせてもらうよ。
 そうだね……よければラーシアさんにも一緒に来てもらいたいなって」
 ヒューナと旧知の仲であるラーシアがいれば、しっかりとサポートができるのではないかと津々流が言う。
「もちろんです。しっかりお手伝い致しますね」
「ありがとぉ~」
 ラーシアが力強く頷くと、ヒューナは泣きつくようにラーシアに抱きついた。
「よし、分担も決まった事だし早速行くか。納期やら借金の取り立てもあるだろうしな」
 分担が決まれば動き出すのは早い。多くの依頼をこなしてきたであろう各人の動きの良さが目に付く。
 ヒューナは「う~ん、プロね……」としみじみ言葉を零し、動き出したイレギュラーズの後を追った。
 こうして、新米錬金術師ヒューナの初めての素材集めが始まるのだった。

●収拾したり戦闘したり
 イレギュラーズとヒューナは混沌各地の素材集めへと向かった。
 まずはローレットのお膝元、幻想は西部に群生する毒草キューバイトの収拾へと向かったユーリエとエリーナだ。
「――ありました。これがキューバイトですね。
 ……でも数は多くありませんね……」
 西部の街でキューバイトが生えている場所を聞いた二人は、小高い丘を登り始めた所で、数本のキューバイトを見つけた。
「毒々しい青色ですね。臭いもないから耐性がなかったら気づかぬうちに……ということもありそうです。
 ……近くに群生地がないか尋ねてみますね」
 自然会話を持つエリーナが付近の植物にキューバイトの群生地を尋ね、断片的な情報を頼りにユーリエが捜索を行う。
 探索スキルとしては十分な用意をしていた二人は、程なくして雑草の中に紛れ群生するキューバイトを見つけた。
「この辺り一帯の青く紫の筋が通った草がキューバイトに間違いないです。
 ……毒の影響がかなり強いですね。耐性があっても目眩を起こしてしまいそう」
 エリーナがそう言葉を零しながら、しゃがみ込む。試しに一本、キューバイトの根元を園芸用のハサミで切り取ると、まるで悲鳴のように青紫の靄を噴出する。
「これは百本集めきる頃には身体中毒素に塗れてしまうかもしれませんね」
 毒耐性を持っているとは言え、これは中々に骨の折れる作業だ。耐性を持っていると言う事に油断せず、手早く、丁寧に集めてしまう必要があるだろう。
 ユーリエは手袋を嵌めてエリーナの隣にしゃがみ込む。そうしてキューバイトを根元から抜いた。
 必要な本数は百本。存外根が固く最大効率で抜き取るのは難しそうだ。
 また噴き出る毒素が目に染みて、身体に不調を感じる。耐性のお蔭で命の危険があるわけではないが、これが結構キツい。
 ユーリエは黙々と手分けして――というのも肉体的にも精神的にもなんだか辛いので思いついた”おまじない”をエリーナに教える事にした。
「まずは深呼吸して――……目を閉じます」
 毒素が蔓延している場所で深呼吸も少し辛いものがあるが、ひとまず倣ってエリーナも深呼吸。
「次に自分が落ち着く色を想像して、その後探している物を思い浮かべます」
「落ち着く色に……探し物」
「イメージできたら目を開けて、探すと……探し物が見つかる確率があがるんですよっ」
「まあ、本当。
 すごく力強いキューバイトを見つけました。これはきっと良い薬になるでしょうね」
 キューバイトを切り取りザックへと仕舞うエリーナ。ユーリエも見つけたキューバイトを引き抜いて行く。
 毒耐性が在る事で、毒草の中でも十分に動ける二人の収拾作業は続いていった。

 天義北部、白い魔物ドバーヌの爪を集めに向かったイレギュラーズの五人は、今まさにドバーヌ狩りの真っ最中であった。
「恨みはないが、素材の為だ。覚悟してもらおうか――!」
 高い反応を見せるクロバが、巣穴の外にいたドバーヌ二体の注意を引く。駆け抜けるままに両の刀を振るい、風を切るが如くドバーヌ達を突き上げる。
「やっぱり気合い入ってますねクロバさん。
 ――私も負けてられませんっ! 貴方達を倒させてもらいます!」
 クロバに続くようにシフォリィが残る三体のドバーヌの敵視を稼ぎ、逃がさぬようにマークする。
 突然の人間達の襲撃に慌てふためくドバーヌ達は、逃げる事を無理と悟ったか、生存を賭けた反撃にでる。素早い動きで窮鼠の如く反撃の牙を向けるドバーヌ達。致命的な一撃を狙う鋭い攻撃には、然しものイレギュラーズも注意が必要だ。
「なるほど、確かに無害そうな魔物ではあるね。
 全滅させる訳ではないけれど、その爪を奪わせてもらうよ――ライトニングッ!」
 側面へと回り込んだウィリアムが得意の電撃魔法を放つ。迸る雷がドバーヌ達を刺し貫いて焼き焦がす。
「不意打ちは成功……なら手早く仕留めるわ!」
 アルテミアが提案した風下からの不意打ちは見事に成功していた。クロバとシフォリィが巣穴の周囲にいたドバーヌを抑え、ウィリアムの攻撃に合わせてアルテミアが一気に距離を詰める。
 戦乙女の加護を纏った必殺の一撃は、見事にドバーヌの一体を仕留め倒した。「きゅー」という儚げな断末魔が悲しげだが、それに情を沸かす暇はない。きっと今の鳴き声で、外の異変を感じ取った巣穴の中のドバーヌ達が出てくるに違いないからだ。
 そういったドバーヌの特性や行動を、事前に調べた知識に照らし合わせて声を上げるのは華蓮だ。良くドバーヌについて調べており、戦う仲間達に注意を促していく。
「つまりは素早くて爪が危険、連続で攻撃して来たり、思わぬ方向から攻撃されたり――巣穴からの突然の飛び出しに注意だわね」
 華蓮の言うように、更に五体のドバーヌが巣穴から飛び出して、側にいたクロバに襲いかかる。
 クロバは鋭い爪の一撃を咄嗟に屈んで躱すと、手にした刀を振るいドバーヌを斬り飛ばした。
「大振りの急所狙い、対処は容易いが当たれば割と致命的だな……」
「まだまだ巣穴には残っていそうですし、増えすぎる前に倒してしまいたいですね」
 油断なくドバーヌ達を押さえるクロバとシフォリィが言葉を零す。ドバーヌ達の猛攻を受け止める二人だが、華蓮やウィリアムの支援もあって、致命傷を負う事無く立ち回れていた。
 多くに囲まれるということはリスクが高まるが、同時に、一度の攻撃で多くを倒すチャンスでもある。
「集まるだけ集まったわね!
 それなら、これで一気に片付けるわよ――!」
 蒼炎にも見える膨大な魔力がアルテミアの武器へと走る。噴き出ようとする魔力を手繰るように武器へと溜め込み集束させた。アルテミアの必殺技が準備に入ったのだ。
「大技を使うようだね……! なら、その時間稼ぐとしようか」
 ウィリアムが雷撃を放ちドバーヌ達を釘付けにする。
 クロバもアルテミアの動きに呼応してドバーヌ達を足止めするように前に出た。シフォリィはアルテミアの動きを邪魔されないようにと、アルテミアを庇う動きを見せる。
「回復は任せるのだわ! いつもより多めに回復するのよ!」
 そんな面々を華蓮がしっかりと支える。安全マージンを多く取る華蓮の動きは、ドバーヌ相手には十分で、仲間達は安定して戦う事ができた。
 そして、アルテミアの魔力充填が完了する。
「行くわよ! アズライト・アルターッ!」
 放たれる横薙ぎの一閃は、爆発的な魔力の奔流を伴った必殺の斬撃だ。多くのドバーヌ達がこの一撃によって為す術無く倒れて行く。
「やるな、良い威力だ。
 俺も負けてられないぜ……!」
 クロバが笑い、一行は攻勢に出る。
 順調なドバーヌ狩りは、もうしばらく続くようだった。

 ヒューナ、ラーシアと共に素材集めに向かった津々流は、この新米錬金術師のドタバタとした行動を、実に楽しみながら同行していた。
 迷宮森林の一画で見つけたプニプニ草は、名前の割に角張った形で、三人は興味深げに収拾していった。
「葉っぱを傷つけないようにいくつか取っていって……っと」
「私も手伝いますね。ふふ、なんだか日曜学校で草むしりしていたときを思い出しますね」
「懐かしー! あの時も二人でやったっけ!」
 思い出を語るヒューナとラーシアは実に仲睦まじい。そんな様子に微笑んで、津々流も手を貸しプニプニ草の収拾を行った。
 深緑でのプニプニ草の収拾は、特に問題なく終わる。続いて一行が向かったのは鉄帝にあるというトロントの氷塊の回収だ。
「トロント山に降り積もった雪が溶け合いながら氷になったものだけど、付近は結構魔物が居るみたいなんだよね」
 ノートに書かれた情報と、街で聞いた話を総合しながら、そう言葉を零すヒューナ。
 実際にトロント山へと足を踏み入れると、野生の獣たちに紛れ魔物達の存在を散見することができた。
「気をつけて。そう好戦的な魔物ではないけれど、縄張りを荒らせば向かってくるだろうからねぇ」
 そうした魔物達に対して津々流が牽制しながら、山を登っていく。
 そうしてトロント山の中腹へと至ると、街で聞いたとおり多くの氷塊を見つける事ができた。
「わーこんなにいっぱい! 取り放題ね!」
「ふふ、でもこんなに一杯は持ち帰れないでしょうから必要分だけにしましょう」
 二人が氷塊を回収し始めたところで、津々流がふと気づく。
「ヒューナさん、アレなんかどうだろう?」
 津々流が指さした先、一目に分かるほど純度の高い氷塊が目に入った。
「わ! すごいアレを使ったらかなり質が高い薬を作れそう――でも……」
 ヒューナの言いたい事はわかる。
 その氷塊の側には、一際大きな魔物が寝息を立てて屈み込んでいたのだ。
「さすがにアレを取り入ったら気づく……よね?」
「たぶんねぇ……。
 僕とラーシアさんなら引きつける事も可能だろうけど……どうしようか?」
 多少の無理をしてでも高品質な氷塊を回収するか。ヒューナは「うーん」としばらく悩んだあと、二人の顔を見ながら口を開いた。
「ごめんなさい。無理してもらうことになるかもしれないけれど、やっぱり良い物を使って良い品を作りたい! お願いできますか?」
「謝る事はないよ。手伝いに来ているのだから、要望にはお応えしないとね」
「ふふ、大丈夫ですよヒューナさん。私達、なかなか強いですから!」
 グッと拳を握ったラーシアが得意げな顔を見せ胸を張る。
「ありがとう二人とも! 少しの時間を稼いでくれれば、すぐに回収するから!」
 それなら無理に倒す必要もない。時間を稼ぐ方針に決め、津々流とラーシアは魔物の注意を引く為に近づいていった。
 物陰に潜んだヒューナが、ゆっくりと高品質な氷塊へと近づくのはそれから直ぐのことだった――

●マゼマゼコネコネ……
 ぐつぐつと鍋が煮える音が工房に響く。
 鍋に入った海水が、キューバイトの茎から毒素を抜いていく。その様子を確認したヒューナは続けてイレギュラーズを収拾してきたドバーヌの爪を取り出し粉砕器にいれるとゴリゴリとハンドルを回して砕いて行く。
「必要個数よりも多く取ってきてくれたんだね!」
「ええ、予備があったほうが良いと思いましたからね。
 でも、危なかったですね……巣穴を覗き込んだクロバさんが巣穴の中に引き込まれそうになったときはどうしようかと思いました」
 シフォリィが思い出したかのようにクスりと笑う。クロバが笑い事ではないと顔を顰めた。
 一体小さな巣穴にどれだけのドバーヌが潜んでいたのか、クロバは思い出したくないと言うように頭を振った。
「……キューバイトの方は大変でしたね」
 ラーシアがそういうと、おでこに濡れたタオルを乗せたエリーナが額を押さえながら起き上がる。
「面目ないです。まさか園芸用のハサミで自分の手を傷つけてしまうとは思いませんでした……」
 エリーナが瞳を伏せ申し訳なさそうに頭を下げた。
 毒耐性を持つユーリエとエリーナだったが、収拾も終え帰ろうとした時、エリーナが自分の手をハサミで傷つけてしまったのだ。
 キューバイトの強力な毒は、その傷口から染みこんで、毒耐性を持つ身であっても耐えられない程の身体の不調を与えてきた。
「でも重傷にならなくてよかったです」
 ユーリエの言葉にエリーナは「運んでくれてありがとうございました」と感謝の言葉を返した。
 そんなイレギュラーズの会話を聞きながらヒューナが一際大きい塊を取り出す。トロントの氷塊だ。見るからに純度の高いそれは津々流とラーシアが魔物を引きつけ採集したものに他ならない。
「これを砕いて、キューバイトとドバーヌの爪が入った鍋に混ぜ込んでいって……後は錬金釜に流し込んでっと……」
 ノートに書かれたレシピ通りに材料を混ぜ込むと、錬金釜の蓋を閉めて深呼吸する。
(いつもここで失敗しちゃうけど……今日は絶対成功させなきゃ……)
 緊張によって身体に力が入るヒューナを見やると、クロバが声を掛ける。
「まぁ失敗や挫折ってのはいつも付き物だよ。
 ただ、それでもやり続けないと成果は出てこないから。頑張れとは言わないけど自分のやり方を模索していくんだ」
 自分のやり方の模索。誰かの真似をしようと背伸びをするのではなく、自分に出来る精一杯を行う。
 コクリと頷いたヒューナが魔力を走らせると、煮えたぎった錬金釜が一際大きな音を立てて煙をあげた。いつもとは違う錬成反応だ。
「……出来た」
 蓋を開けると鍋一杯に入った青い粉末の山。ヒューナの母のオリジナルレシピ『キズナオール粒状』だ。
「出来たよぉ! ラーシアちゃん! みんな! ありがとう!!」
「ふふ、おめでとうございます」
 うれし涙を浮かべてラーシアに抱きつくヒューナ。そんな様子をイレギュラーズ達は微笑ましく見守った。
 出来上がったアイテムの効果はかなりの物で、得意先の薬屋から多くの発注が入り、ひとまず差し迫った借金返済は間に合いそうだった。
 深緑に生まれた新米錬金術師ヒューナ。彼女の名前が深緑のみならず混沌中に響き渡るのはまだまだ掛かるだろう。
 けれど、その日は必ず来ると、イレギュラーズはそう確信するのだった。

成否

成功

MVP

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者

状態異常

なし

あとがき

 澤見夜行です。

 皆さんのおかげでヒューナの最初のアイテム作りはとっても良い物ができたようです。
 ヒューナのフォローも忘れずに手分けしたかいがありましたね。
 耐性をぶち抜いてきた毒草なんかもありましたが、まあそういう時もあるというものです。油断は禁物です。

 ヒューナのアイテムが高値で売れた事もあって、報酬にゴールドがプラスされます。頑張ったかいがあったとおもいます。

 MVPは総合判断+ヒューナの背を押したクロバさんへ贈ります。

 依頼お疲れ様でした!

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