PandoraPartyProject

シナリオ詳細

バザールへの脅威

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ラサ
 乾いた風が地肌を撫でる。それに合わせてさらり、と砂が動いた。見渡せばただどこまでも続く砂漠が広がっている。よく目を凝らせば、ある方向へ向かうキャラバンが見えてくることだろう。
 その先にあるのは混沌中でも類を見ない大規模な市、サンド・バザール。商人たちが売り物を推す声がそこかしこから響き、人々はその声につられて寄っていく。その商品が本物か偽物かは定かでないが──嗚呼、一体1日でどれだけの金が動いているのだろうか?
 勿論、商人の集まる場はそこだけに留まらない。キャラバンを組んで砂漠を移動し、時に小さなオアシスへ。時に首都ネフェルストへ。他の国へ赴いて商品を仕入れることもあるだろう。
 人が巡り、物も巡る。何に制限されることもなく自由に──それがラサの特色かもしれない。

 そんなラサの地をざり、と踏みしめる姿があった。1つ、2つ、……もっと、多く。
 ──グゥヴルルル。
 喉元から響くような唸り声。その声色はまるで、これからの不穏を感じさせるが如く。
 その視線が射抜くのは賑やかな声の飛び交う1つのオアシス──小規模バザールだった。
 

●皆さーん! ラサからですよー!
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の言葉がローレットへ響く。
 砂蠍の残党が紛れ込んだのはそう遠くもない過去のこと。それを受けて、ラサ傭兵商会連合より依頼が舞い込むようになったのだ。
「今回はですね、バザールに出没する獣の討伐なのです」
 ラサといえば大規模市『サンド・バザール』だが、他にも小規模なバザールは開かれている。戦場はその内の1つであった。
「バザールにいた傭兵の皆さんも対応したのですが、商人の方々を逃すのが精一杯で」
 力及ばず、と言ったところか。
 しかし、事態はそれだけに止まらない。
「女の子が1人、取り残されているみたいなのです」
 バザールでは商人たちが品物を売っていた。その子どもたちはどうやら、隠れ鬼などをして遊んでいたようなのだ。結果、隠れていた少女が投げ損ねたままとなってしまった。
「多分、まだ見つかってないと思います。でも、でも時間の問題なのです! 早くしないと女の子がぱくりっ、なのです!」
 獣と言うからにはぱくり、なんて可愛らしいものではないと思うが──それはさておいて。
 獣の撃退と、少女の保護。イレギュラーズたちは2つの事柄に対処すべく、依頼書へ視線を落とした。

GMコメント

●成功条件
 少女の保護
 獣の撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 但し、PL情報はなんらかの方法を以ってPC情報へ落とし込み、対処が必要でしょう。

●少女
 13歳程度の少女。癖っ毛な黒髪が特徴です。
 隠れ鬼の際に気づくのが遅れ、投げ損ねてしまいました。
 いざという時には肝の座る子ですが、現状では身を小さくして隠れる事を最善としています。……但し、それがいつまでも最善であるとは限りません。
(PL情報)いくつか並んだテントの中の、中くらいの壺に隠れています。両隣に小さい壺と大きな壺があります。

●獣×5
 四つ足の獣です。豹っぽいです。鋭い牙と爪を持ちます。耳が良いです。弱い者から狙います。
 反応と回避、物理攻撃力に特化しており、その次にEXF。その他は低いです。

鋭き一撃:物至単。爪や牙で通常より深く切り込みます。【流血】

●ロケーション
 地面は砂漠の砂です。回避に軽いマイナスが付きます。低空飛行はその限りでありませんが、簡易飛行・媒体飛行は低空飛行できるほどの安定性がないものとなります。ご注意下さい。
 天気は晴天、風もありません。
 周囲には散らかった食べクズと破れたテントなどがありますが、戦闘の支障にはなりません。無事なテントなどもあります。

●ご挨拶
 愁と申します。ラサです。
 飛行関係は上記の通りです。お気をつけ下さい。
 テントの破壊有無に意図はありません。そういうものもあるよ、程度です。
 それではご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • バザールへの脅威完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月23日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き

リプレイ

●少女捜索
「逃げ遅れた人がいるのか……早く見つけなきゃ!」
「ああ。けど、先に──」
 『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)は『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)に頷いてみせながら、バザールへ向かう前に依頼人たちへ接触しに行った。
「皆さん、どうか、どうか……!」
 助けてやってくれ、と言い募る彼らへサンディは少女の行方を問う。
「それは……」
「どの辺りでかくれんぼしていたのか、推測でもいいんだ」
 小さなことでもいい。手掛かりがあればあるだけ、少女の生存率は上がるだろう。
 サンディの真剣な瞳に商人たちは顔を見合わせ、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「いつもあの子たちは広い範囲で遊んでいるんです。今回も色々な場所で駆けまわる子を見ましたから」
 つまるところ、バザール全体のどこへ隠れていてもおかしくない。
 礼を告げてバザールへ向かおうとしたサンディは──しかし、ふと腰の辺りを引っ張られて振り返った。服を掴んでいたのは子どもだ。
「奥にいるよ、多分」
「……奥?」
「あいつ、全然見つからなかったんだ。こっちの方を探し回って、いねーなってなって、そしたらあいつらが……」
 俯いた子どもの頭に手を乗せ、「ありがとう」と告げて。サンディたちは再び踵を返す。
(まってろ、リトルレディ)
 真っすぐにバザールの咆哮を見て進むサンディと対照的に『暴食の守護竜』ヨルムンガンド(p3p002370)は砂の地面へ視線を落とした。
「遊んでいたら"取り残されて"……か」
 その不安や恐怖はヨルムンガンドも知っているが、言葉にはし難い。言葉には収まりきらない、というべきか。
 それらを払拭するために一刻も早く、無事に助け出してやらねば。
 『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は駆けながら風の具合を体全体で確かめる。前からぶつかるのはそこに漂う空気で、風ではない。後ろから体を押すような風の力も感じない。──それでいい。
 砂嵐でも吹いていたら、目も開けられないし目も当てられない。
(……なんて冗談はさておき、急ごうか)
 風がないということは、匂いも音も紛らわすものがないのだから。
「わざわざバザールを襲うとは。人の恐れも無ければ──人の味でも覚えたか」
 『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)の瞳が冷ややかに細められる。
 どこかに捨てられた亡骸でも食らったのだろう。ひとたび味をしめてしまえばここで追い払おうとも別の場所で被害が出る。少なくともリーダー格の獣がいれば討伐してしまいたいものだが──いれば、の話だ。
「少々骨が折れそうでござるな」
 『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は小さく肩を竦めながら砂を蹴って前へ、前へ。獣たちは待ってくれないし、のんびりしている暇も無いようだ。
(隠れた娘子を見つけるのは獣共が先か、拙者等が先か)
 急いで救出しなければ。イレギュラーズたちはその思いを胸に砂漠を駆け抜け──バザールへ。
「おんなのこをたすけながらたおせばいいんだよね、わかった!」
 『小さな騎兵』リトル・リリー(p3p000955)は乗っていたウルフドッグからぴょこんと飛び降り、近くに落ちていた物品を式神へ。一緒に少女を探してもらうよう命じる。そして連れている動物2匹には敵のかく乱をできるよう躾けようとしたが──。
「うーん……どうしてもだめかな?」
 小声で問われ、申し訳なさそうに尻尾を垂らす2匹。自らの言う事をきかせるように躾けるのが調教だが、双方の信頼関係を崩してしまうようなことはできない。リリーとしてもしたくない。
「それじゃあふぁみりあーでけものさんのようすをみてみるね」
 元々は2匹の様子を見るために用意していたファミリアーを空へ飛ばす。ミニュイも自らの翼で空へ舞い上がると、ぐるりと周囲を見渡した。
(この状況で砂漠のど真ん中にぽつんと居るなんてことは有り得ないだろうし)
 隠れるならば見えにくい──例えば遮蔽物のある場所。子どもの言葉を思い出せば場所はさらに限られてくる。
「あちらか」
 テントなどの多い場所へ向かい始めると、それを地上から見上げていた仲間たちも追従し始めた。途中、テントの天辺にいる鳥へヨルムンガンドが小さく口を開く。
「なぁ、この辺りをうろついてる獣や今の位置ってわかるかぁ……?」
 鳥は空へ飛び立ち、暫しして戻ってくる。どうやら様子を見に行ってくれたようだった。同時に獣たちの注意を引きつけてくれないかとも聞いてみるが──どれだけ安全な距離であろうとも獣は捕食者で、鳥は被捕食者ということらしい。
「そうか……」
 ありがとうなぁ、と声をかけてヨルムンガンドは仲間に追いつく。ラダは周囲へ耳を澄ませるが──運よく、まだこちらに気づいていないようだった。サンディのエネミーサーチには引っかからないが、それは同時に敵対心を抱かれていないということ。代わりに1つの声を感知する。
「ああ、いるな」
 詳しい場所までは分からないが、少なくともこの周辺。半径100m以内には確実にいる。
「すぐ行く、静かに待っていろ」
「物音を立てぬ様、じっとしているでござる」
「逆に駆けつけられるくらい近くにいるのであれば、居場所を知らせるでござるよ」
 ラダが、咲耶が、『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)が大声で叫ぶ。どこかにいる少女に聞こえるように。少女が戦場へ飛び出してしまわぬように。
 同時にラダの耳が狼の動きを察知し、リリーが「きづいたみたい!」とファミリアーで見える状況を仲間へ伝える。
「敵の引きつけは任せるでござるよ」
「私も準備は万端だ……!」
 周囲の警戒を下呂左衛門とヨルムンガンドへ任せ、他の仲間は捜索へ。ラダは子どもが身を隠せそうな物を探し、チャロロは隠れ鬼の時のまま隠れているのだろうとやはり隠れられそうな場所を覗き込む。咲耶が少女の痕跡を探す中、サンディは周囲へ視線を走らせた。
 サンディもチャロロ同様、隠れ鬼のまま同じ場所へ隠れているだろうと踏んでいる。
(見つからないように、とガキらが考えれば……)
 まず、外の壺は違う。一目瞭然だ。次に小さい壺も違う。流石に隠れられない。テントの影や大きい壺もどちらかと言えば考えにくい。"鬼"に読まれて見つかってしまうだろう。さあ、残る物は限られた。
「来たぞ……!」
 ヨルムンガンドの言葉にはっと振り向くと、四つ足の獣が3体。上を見ると索敵を行っていたミニュイが少し離れた場所で下を指す。恐らくそこにまだ獣がいるのだろう。
「まって、はなせないかためしてみる!」
 下呂左衛門とヨルムンガンドの間へ滑り込んだのはウルフドッグに乗ったリリーだ。彼女と獣の意思をギフトが橋渡しする。
「りーだーはだれ? どうしてこんなことするの?」
 ぐるるるる、と唸り声が返ってくる。む、と口を尖らせるリリーは小さく頭を振った。
「だめ、ききわけないみたい」
「では戦うしかないでござるな。──河津下呂左衛門、いざ参る!」
 闘気の鎧を身に纏う下呂左衛門、獣たちの注意を引きつけにかかる。一方、捜索側では咲耶が「……む?」と声を上げていた。
「これは……足跡でござろうか」
 テント内の床の上へついた足跡。バザールの人間が逃げた際のものとも思われたが、それならば内から外へ向かうはずだ。
 そのテント内に3つの壺を見つけたサンディはまさかな、と思わずにいられない。推測がそんな的確に当たるなんてどれだけ低い確率だろうか。

 ──だが、そんなまさかが有り得るわけである。

 小さい壺は入らない。大きい壺は鬼にすぐばれる。入るなら、中くらいの手頃な大きさをした壺。覗くと見返す幼い視線。声も出さぬようにか両手で口を塞いだ少女は真ん丸な瞳でサンディを見上げた。
 ほぼ、同時に。
「……来るよ」
 空からミニュイが降り立ち、地につかぬ高さで浮遊したまま振り返る。彼女が様子を窺っていた残りの2体が始まった戦闘に気付き、寄ってきたのである。

「怖かったよね、もうだいじょぶ……オイラたちがきみを守るから!」
「うむ、安心召されよ。ここは拙者等ローレットの出番でござる」
 チャロロが素早く保護結界を張り、その背中に少女を庇う。壺からそっと顔を出した少女へ咲耶は優しく微笑み、しかし正面を向く頃には『忍び』の表情をして砂を蹴った。
「ヨルムンガンド殿、あちらを」
「ああ、任せてくれ……!」
 ヨルムンガンドは1体を引き寄せたまま別方向から来る2体へ駆け出し、その正面へと対峙した。3対の瞳を真っ向から見返して金の瞳が苛烈に煌めく。
「此処を狩場にするつもりだったか? それなら残念だったなぁ……まずは私達と縄張り争いだ!」
 ドラゴンである彼女の気配も、オーラも人の身に隠しきれるものではなく──戦いの中に置かれれば尚更。カリスマとも呼ぶべきヨルムンガンドの存在感と闘争への言葉が獣たちを引きつけ、引き寄せる。
「さあ、今度はこちらが『獲物』を狩る『鬼』でござる」
 懐へと入り込み、噛みつかんという動きに合わせて強烈なカウンターを叩きこんだ咲耶。味方を鼓舞しながらサンディが取り出したのは──ワイン瓶。
「ただのワイン瓶じゃないさ」
 にっと笑った彼はそれを振りかぶり、獣たちへ向かって投げつける。素早く弧を描いたそれはヨルムンガンドの引きつける3体へと飛んでいき、獣たちのもとで割れるだけでなく爆発した。そこへ畳みかけるような爆発が起きて砂地を獣たちの体が転がる。
 すぐさま起き上がった敵は、しかし先ほどとは少々様子が違うようで。
(上手く爆音で麻痺させられただろうか)
 2度目の爆発を仕掛けたラダは敵の様子を確認しつつ、次の攻撃準備へ。その間にリリーが式符を放ち、それは黒炎の鳥へ変化を遂げた。
「わるいのいっぱいつけるよー!」
 鳥が1体の周囲を囲み、穿つ。獣はどうにかもがき逃れるが、ひたすらに狙われれば余裕もだんだん削がれていくというもの。
 交戦続き、暫し。不意に3体を引きつけていたヨルムンガンドの声が上がった。
「皆、恐らくこの真ん中にいる獣がリーダーだ……!」
 動物との意思疎通を可能とし、パーティの中でも敵の近くで耐え忍ぶ1人だからこそ見極められたというべきか。獣たちの言葉、動き、視線。凶悪な攻撃をひらりと躱し受け流し、或いは確りと受け止めながらヨルムンガンドは獣たちを観察し続けていたのだ。
 そしてその言葉とほぼ同時、彼女への注意が逸れる。再び引きつけようとするも1体だけ──まさにリーダーだと思われる個体が彼女という支配下からすり抜け、少女目がけて駆けだした。
「しまっ……」
 咲耶が地を蹴るも、ほんの僅か追い付かない。──だが、この時のためにチャロロがいる。
「絶対にオイラの後ろから出ないで!」
 肩越しに少女へ告げ、チャロロは拳を構える。それは敵の攻撃があることを前提に、強烈な打撃で以って逸らすための構え。
(──この子に近づかせてたまるか!)
「はぁッ!」
 気合と共に打ち出された拳は正確に、的確に、獣の攻撃を受けた上ではじき返した。その直後チャロロの視界が紫に染まる。否、紫のそれが舞い降りた。くノ一である彼女の身に纏う、それが。
「──この娘子に手出しするならば、拙者が相手でござるよ」
 咲耶の視線が鋭く獣を射抜き、引きつける。少女から狙いを逸らした獣のリーダーへリリーは大毒蛇をけしかけ、サンディのノーギルティ、ラダの飛蜂と味方の攻撃が重なった。身軽な足は段々と重たげになり、傷も目立ち始めれば攻勢を感じ始める。
 だが。
「ぬぅ……っ」
 2体を1人で抑えていた下呂左衛門、膝をつきかけ──間一髪持ち直す。ヨルムンガンドが他の2体を引きつけつつこちらへ加勢へ向かおうとしているが、ほぼ同時に跳躍した獣の牙の方が早く彼へ届くだろう。
(普段とこうも地面が異なるとは)
 海の砂地とも違う砂。同じように踏み込んでも理想と動きが重ならない。しかしこれも乗り越えなければいけない壁であり、修行だ。
 ここで自分が倒れるわけにはいかない。何としてのこの攻撃を避け、倒れるという運命を覆さなければいけない。だから──。
(──踏み込め!!)
 ぐ、と足が砂を掴む。地面を掴む。動きが理想と重なり合う。
 体は思う通りに獣の牙を避け、ひらりと身を翻して刀を構えた下呂左衛門は紫電と共に居合を一閃した。

 ミニュイのヘイトレッド・トランプルが足をもたつかせた獣の毛皮を引き裂いていく。そう、もうあとひと押し。
「これもまた天命、覚悟召されよ!」
 咲耶の小太刀が獣の喉元を切り裂き、赤で濡れる。だが、獣は最後の力を振り絞るように踏みとどまった。その姿は頭として倒れまいとするようでもあったが──。
「砂漠に生きるもの同士だ。互いに容赦は不要だろう」
 冴え冴えとした声が静かに響き、不出来な蜂にも似た弾が頭である獣の命を刈り取って行く。
 ひたすらに敵の攻撃を受け流し、秘めたる竜の力で以ってその場を支え続けていたヨルムンガンドはそれを見て不敵に笑ってみせた。
「お前たちのリーダーは倒れたぞ……! まだやるなら私が相手してやろう……!」
 好戦的な竜の少女、そして未だ地に立ちかける事のないイレギュラーズたち。獣が尻尾を巻いて背を向けるのに時間はかからなかった。

●皆の元へ
 敵の気配が遠くまで離れていったことを感じ、ラダは踵を返した。視線の先に居るのはチャロロの後ろ、隠れていた瓶の影で身を固くしている少女。
「怪我は?」
「……ない」
 彼女からの返事は酷く平坦な口調だった。けれどその瞳は酷く揺れている。
 本当にもう大丈夫なのかと。再び獣が襲って来たりしないかと。
 不意に獣の姿が少女の視界を埋め、びくりと肩を震わせる。だが、聞こえてきた声に少女は目を瞬かせた。
「わんこ、もふもふしていーよ! あにまるせらぴー? ってあるよね!」
 その声の主はわんこ、ではなくその上にしがみついているリリーだ。恐る恐る少女が触れると、リリーの乗っているウルフドッグはその頬を少女の手へ摺り寄せる。
 そんな彼女のそばでヨルムンガンドは目線を合わせるように屈み、優しく微笑みかけた。
「もう大丈夫だ……! これから皆のところへ送るからなぁ……!」
「皆の、とこ。……うん、帰る。皆の、お父さんたちのとこ、」
 帰る、帰ると繰り返す少女。ほろりと涙が零れて──訪れるのは生の実感だ。
「災難でござったが、隠れていたおかげで拙者等も間に合ったでござるよ」
 少女の頭を優しく撫でながら告げる咲耶にヨルムンガンドも強く頷く。
「獣たちにも気づかれないなんて、隠れるの上手なんだなぁ……!」
「……ん、いつも、ね。最後まで、見つからないのよ」
 少女は泣き止まなくとも少し自慢げに口角を上げた。それを見たヨルムンガンドは「そうだ、」と何やら思いついて。
「なぁ、帰って安全になったら、今度は私も一緒に遊びに混ぜてくれ……!」
「お姉さんも?」
「隠れるのが得意じゃなくてな……教えてくれると嬉しいなぁ……!」
 瞳をキラキラと輝かせるヨルムンガンドに少女はくすくすと笑みを洩らし始める。その様子に咲耶は瞳を細めた。
「……ふむ。拙者も忍びとして負けてはいられないでござるな」
「リリーもかくれおに、いっしょにやりたいな! わんこもやる?」
 ウルフドッグがリリーへ肯定するように短く吠える。少女が泣き止み、纏う雰囲気の和らぎを感じた一同はゆっくりと彼女を依頼人のもとへ送り届け始めた。
「そうだ。獣の牙や爪、売れる店はバザールにあるか?」
「もちろん。ひげもじゃのおじさんが買ってくれるはずよ」
 ラダの問いかけに少女が頷き、両手で『ひげもじゃ』を表現してみせる。
「それにしてもこの地は、拙者には少々辛い環境でござるな」
 ふと下呂左衛門は疲弊したように息をつくと空を見上げた。
 日差しが彼の体を照り付け、空気は酷く乾いている。地面も然り。このまま慢心して砂漠に居続ければいつしか蛙の干物となってしまうのではないか。
「嗚呼、水辺が恋しいでござる……」
 ぐったりとと俯いた下呂左衛門。その腕を誰かが突っつく。
「カエルのおじさん、お水あるよ」
「……何、それは本当でござるか!?」
「うん」
 頷いた少女があっち、と半壊したバザールの奥を指差した。全員がそちらを見る辺り──水が欲しいと思う者は下呂左衛門だけでないのだろう。
 空はまだ澄んだ青。少女を送り届けてオアシスに寄って──隠れ鬼をするくらいの時間はありそうだった。

成否

成功

MVP

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 皆様の捜索により少女は無事保護され、残された獣たちも逃げていったようです。リーダーが倒された今、逃げた彼らも再び人を襲うことはないでしょう。

 ラサの民である貴女へ。自らの聴覚を使った索敵、敵のリーダーを強く意識した戦いの姿勢が非常に良いと思いました。今回のMVPをお贈りします。

 またご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

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