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シナリオ詳細

赤い手紙の都市伝説

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●赤い手紙の都市伝説
 ねえ知ってる?
 赤い手紙の噂。
 血のように真っ赤な手紙が送られてきた人は、一週間後に死んじゃうんだって。
 本当なの。友達のおじさんの家にも、真っ赤な手紙が送られてきて、『After a week you die』って書いてあったの。
 誰かの悪戯だと思ってすぐに捨てちゃったし、気にしてなかったんだけど……その一週間後、裏路地で通り魔にあって死んじゃったって。
 他にも同じ目にあった人がいるって、噂になってるんだから。
 本当だよ。
 本当だよ。

 ある日、自宅のポストボックスを開いた。
 見慣れぬ便箋の存在に気づいて、首を傾げ手に取る。
 まるで流したばかりの血のように真っ赤な便箋と蝋のスタンプ。
 気になって封を開けてみれば。
「なに、これ」
  ニーニア・リーカー(p3p002058)は、大きく目を見開いた。
 手紙の内容はたった一言。
 『After a week you die』

●『ダイイングメッセンジャー』
「情報を集めてみたよ。ちょっと苦労したけどね」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)はいくつかの書類を酒場のテーブルへと並べていった。
 木目の台に羊皮紙が五枚。
 年齢も職業もバラバラの、全く接点のない五人のプロフィールが書かれていた。
「彼らの死因は何者かによる他殺。剣のようなものを使った斬殺だと見られてる。
 殺され方はともかく手口がばらばらで、死亡推定時刻を逆算して聞き込み調査が行なわれてるんだけど、不気味なほど目撃証言がない。
 抵抗した跡があるし、中には大きな貴族に雇われている衛兵や騎士といった腕の立つ人物も殺されている。
 指紋や足跡、残霊や精霊、その他様々な調査が行なわれたけれど犯人に至る証拠はなし。
 まるでどこからともなく殺人者が現われて、手際よくそして圧倒的な戦力差でもって殺害し、そして一切の証拠を残さず消えたことになる。
 凄腕の暗殺者か、もしくは魔物のたぐいか……けれどこれらに一つだけ共通している点があった。これだ」
 資料にクリップ止めされた写真。証拠品として保管されたそれは、紛れもなく……。
「……『赤い手紙』」
 資料を手に取り、ニーニアは思わず呟いた。
「確かなのは、何者かが現われるということだけだね。
 かろうじてソレはこう呼ばれてる。
 死の通告者。
 ――『ダイイングメッセンジャー』」

 場にいるのはニーニアと、偶然もしくは必然的に調査と護衛を依頼されたローレットの面々であった。
「情報屋として俺から出せるのはこれで全部だ。
 わかるかい? 自分の身を守るなら、二つのことに注意しなくちゃならない」
 立てる二本指。
 『何者かが一週間後の不特定な時間に必ず現われる』
 『その何者かは一人で立ち向かうには絶望的なほど強く、生き延びたという者の噂はない』
「けれど、ここまでたどり着いたのは恐らく俺たちだけだろうね。
 なぜなら……」
 ニーニアと共にテーブルにつく、イレギュラーズたちを見やる。
「こうして迎え撃つ姿勢を整えられたのは、おそらく今回が初めてだろうから」

GMコメント

【これまでのあらすじ】
 皆さんの仲間でありローレットの大切なイレギュラーズ、ニーニア・リーカー(p3p002058)が何者かに殺されるという予告がなされました。
 それが何者なのか、どうやって現われ、どんな能力を持っているのか。その一切は闇に包まれています。
 ローレットは意義をもってニーニア氏の護衛と都市伝説の調査を依頼。その結果判明した『ダイイングメッセンジャー』という存在。
 イレギュラーズたちは当日に備え、その正体不明の何者かを迎え撃つ準備を進めるのだった。

【オーダー】
 成功条件:ニーニア・リーカー(p3p002058)の無事

 ニーニアを守る準備を進めましょう。
 『ダイイングメッセンジャー』について分かったのは予告日の二日前というなかなかギリギリのタイミングでしたので、あまり大がかりなことはできません。
 それに襲撃者の情報もまるでない状態です。プロの情報屋が五日間走り回ってもここまでしか分からなかったので、これ以上探索してもよい成果はえられないでしょう。
 ここからは実際的な防衛のターンです。

 情報はきわめて少なく、皆様の手数(プレイング総量)も限られています。
 ですが唯一絶対の武器として、ニーニアさんがイレギュラーズであること。そして自主的に行動を選択できること。そしてリスクの判断を自分でとることができるという三つがあります。
 その上でOP情報を読み解き、然るべき準備を整え、メンバーの能力と個性、そして信頼を武器にニーニアさんを守り抜いてください。

 そしてとんでもなくネタバレになってしまいますが、現われるのはTOP画像に描かれています。が、これはPL情報なのとミスリードを生みやすい情報を含んでいるので、メタ打ちは避けましょう。そも、これが人なのかすらハッキリしていないのです。

  • 赤い手紙の都市伝説完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月24日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
フィーゼ・クロイツ(p3p004320)
穿天の魔槍姫
シラス(p3p004421)
超える者
村昌 美弥妃(p3p005148)
不運な幸運
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘夢インテンディトーレ
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽

リプレイ


 夜静まった虫の声。草と土のにおい。
 幻想の田舎町にある牧場跡地に、天幕式のテントが張られていた。
 燃えるたき火の音と、あがる煙のにおいに振り返れば、『チア衣装でジャンプし以下略』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)がマシュマロを焼いている。
「それにしてもニーニアちゃん、大変なことに巻き込まれちゃったね! 焼けたよー、たべる?」
「たべるー」
 ピンク色のマシュマロをとろとろに焼いてビスケットに挟んだものを、ニーニアへと渡してやる。
 ばりんという焼いた小麦の割れる感触に次いで、いっそサイケデリックなまでの甘みと熱が口の中に広がった。
 もふもふと頬張りながら、『雪だるま交渉人』ニーニア・リーカー(p3p002058)は赤い便せんを見下ろす。
「正直、ただの噂で実在するなんて思ってなかったから、まさか自分が狙われるなんて考えもしなかったよ……『赤い手紙の都市伝説』」

 『After a week you die』

 そう書かれた真っ赤な手紙が送られた者は、必ず一週間後に死亡するという都市伝説。
 暗殺礼状の例を出すまでも無く、死や暗殺が頻繁におこる幻想国家で死はそれほど珍しい話題ではない。
 重要なのは、『必ず死ぬ』ということだった。
 手紙を送られて生き延びたという人間が、今までいないのだ。
 そんな暗殺者がいるなら今頃各貴族が金貨を山積みにして召し抱えている所だろうが……。
「まさか自分が暗殺の護衛対象になるなんてね。なんだか緊張してくるよ……」
 ずり落ちかけた眼鏡を親指で押し上げるニーニア。煙のにおいが手のひらに残っている。
 『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は焼いた香草ソーセージを鉄串から直接食いちぎっていくと、どこか感慨深そうに頷いた。
 赤い手紙を手に取ってみる。
「今時殺人予告とはね。洒落た暗殺者だけど……」
 本当に『暗殺者』なのかしらね。と、マルベートは目を細めた。
 予告を送りつける大きく分けてメリットは二つある。
 ひとつは売名。もうひとつは……別の意図の隠蔽。

 振り返れば大きな山。
 冬から春に変わるこの季節。わざわざ野外キャンプを楽しもうという者は少ないようで、廃牧場は伸びきった雑草とたまに通りかかる野生動物しか見えなかった。
 そのど真ん中にテントを張っているので、誰かが訪れたならすぐに分かるはずだ。普通ならば。
「正体不明の都市伝説……ねえ。今まで誰も逃れることが出来なかったっていうのも気になるわね。ここまでの対策は、きっと誰でもしたでしょうに。一体どうやってかいくぐったのかしらね」
 警戒を厳にする。
 という所までは、あらゆる対象者が行なった筈だ。
 ボディーガードをつけたり、人が易々と来られない場所に逃げたり、なかにはシェルターのような場所に一日籠もった者もいたかもしれない。
「仲間がそんなモノに狙われるのもゾッとしないけど、挙げ句殺されるんじゃ……冗談じゃないわよ」
「けど、『その部分』だけを覗いたらちょっとドキドキする話デスよねぇ」
 『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)はダミーテントの中でランタンをともすと、幕を潜って外に出てきた。
 農場中央に設置されたテントは合計で五つ。そのうち一つにだけニーニアが待機しており、それ以外のテントは全てダミーまたは護衛チームによる休憩テントだ。
「都市伝説が人を殺す、デスかぁ」
「俗に言う呪いの手紙、ないしは不幸の手紙というやつでござるな」
 『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は別のテントから出てきて、そんな風に話題に加わった。
「仮にそうだとしたら、手紙そのものが呪法ということになるのでござるが。少なくとも全てのケースが『他殺』である以上、何かしらが現われるのは間違いないのでござろうな……」
「お化けデスかねぇ」
「さあ、案外人間かもしれないわね」
 幽霊、魔物、妖怪、鬼。なんでもあるのがこの混沌である。
 無限に目がついたサイコロのようなもの。転がして見なければどんな目が出るかわからない世の中なのだ。
 そこへ、荷馬車を引いたパカダクラがやってきた。
 手綱を引いて足をとめさせる『圧倒的順応力』藤堂 夕(p3p006645)。
「最終日分のお荷物ですよー」
「まあしかし、荷物を運び込んでまでキャンプをすることになるとはな」
 馬車の方から下りてくる『鳶指』シラス(p3p004421)。
 彼の手には軽い木箱が積まれていた。
 食料やランタンの油。ついでにおやつ。本当に楽しいキャンプでもするのかという荷物が詰め込まれている。
「今日は最終日ということで、特別にチョコ祭りなのです。ちょうどね……こう、ね、グラオ・クローネ後の投げ売りセールが、ね」
 チョコレートは野戦食料にも選ばれるほどカロリーが高く日持ちしやすい食料である。かといって毎日チョコ尽くしも飽きるので、最終日だけのチョコ祭りである。
「さてと、その都市伝説ってやつにイレギュラーズを的にしたのが運のツキって教えてやろうぜ」
 シラスは箱から取り出した板チョコをかじると、不敵に月をにらんだ。

●赤き刻、来たれり
 黒い翼を広げ、夜空を周回するマルベート。
 見渡す平原にぽつぽつと並ぶテント。
 夜目の有無を差し引いても、あやしい人影はまるで見られない。
「とは言っても、夜は長いんだ。体力は温存しておかないとね……」
 そう呟いて、ダミーテントのひとつへと舞い戻った。
 テントの幕をめくると、仮眠を取っていたらしい咲耶がぱっちりと目を開けた。
「交代でござるか」
 咲耶は休ませていた使い魔を再び召喚すると、六羽全て飛ばしてテントの内外を監視させ始めた。
「まぁ、このまま何もなければそれに越した事は無いのでござるが……」
「そうも行かない、でしょうね」
 同じく仲間と交代して見張りに出てきたフィーゼ。
 周囲をゆっくりと監視しながら語り始めた。これからニーニアのいるテントへ行き見張りと交代する予定らしい。
「件の都市伝説の手口が痕跡を残さず現れて、標的を始末して同じく痕跡を残さず消えるのなら……」
 彼女たちが語るのは、もっぱら都市伝説のことだった。
 こくりと頷いて先を促す咲耶。
「ニーニアが手紙を受け取った時点で、既に彼女の傍に潜んでいる可能性があるかもね」
「けれど、そのような反応はなかったでござるよ」
「それはそうなんだけど……当たらずとも遠からずって気がするのよね」

 テントの中で膝を抱えるニーニア。
 五感共有を行なった小鳥をテントの上に立てて周囲を監視してはいるが、それらしい影は未だ訪れていない。
 準備は充分にした。誰かが遠くからニーニアの居場所をどうにかして突き止め、追いかけてきたのだとしても、きっと接近する前に気づくことができるだろう。
 けれど……。
「今まで狙われた人たちは、皆そうしてきた筈だよね」
「考えて分からねえのは仕方ねえよ、出てきたらやっつける、俺はそれだけ」
 寝袋に収まって目を瞑るシラス。
 そばではクッキーやチョコレートの箱を開いて仲間たちがおやつをつまんでいた。
 様子だけなら楽しいキャンプ遊びに見えるはずだが、正体不明の暗殺者を待っているという状況に誰も安堵はできなかった。
 そう。誰も安堵などできない。
 狙われ、予告されたなら、誰でも全力で警戒にあたってしまうものだ。
 だというのにこれまで一度の取り逃しもせず、そして痕跡すら残さなかった暗殺者。
 それは一体、いかなるものなのか……。
 敵意や殺意といった感情をサーチしながらも、もふもふとホイップクリームの乗ったビスケットをかじるミルキィ。
「これまでの死因は『剣のようなものを使った斬殺』だったんだよね。それも、共通して」
「そのはずですけど……」
 チョコレートスティックを端からちょっとずつ囓っていく夕。
「そんなことって可能なのかな? 剣で攻撃するってだけでも、必ず近くまで来なくちゃいけないよね。今までずっと監視してたならともかく、今日この時この場所にいるってことを分かって、警戒をくぐって近づいて、しかも殺すことが出来ちゃうなんて」
「ふつう、させるわけないですよね……」
 これまでの被害者(?)五人の能力は分かっていないが、つつけば死ぬような人間たちばかりではないはずだ。
 今回のように護衛を雇うこともあったろうし、当事者自身が戦闘に優れていたこともあったろう。
「考えすぎても仕方ないデスよぉ。今はキャンプを楽しむことにしマスぅ」
 美弥妃は中央に開いたビスケットの箱に手を伸ばし。
 ふと。
 幕にうつる影が一人分多いことに気がついた。
 振り返ると。
 赤い剣。
 剣を掲げた、見知らぬ誰か。
「――――――!!!!」
 大きな驚きと共に、美弥妃は素手で魔力を解き放った。

●『ダイイングメッセンジャー』
 魔力の衝撃と激しい音。そしてテントの幕が吹き飛んでいく様は、誰の目にも明らかだった。
 周辺を警戒し、見回りをしていた仲間たちが一斉にテントへを走り出す。
 赤い剣の刀身が、ニーニアの脇を抜けて背後の柱を切断した。
 咄嗟に仲間が攻撃を放たなければ、切断されていたのはニーニアの首だったかもしれない。
「いっ……!」
 倒れた姿勢のまま翼を展開。地面を水平に滑るようにして飛行移動して対象から離脱をはかる。投げつけたマジックロープがダイイングメッセンジャーへ鞭のように叩き付けられるが、そのあとすぐにニーニアの眼前へと移動した。
 まるで最初からそこにいたかのように、たったの一瞬でその場に座標移動したのだ。
 咄嗟に鞄にてを突っ込み、高速生成したハンマースタンプを叩き付ける。
 破壊――いや、ばらばらになって散っただけだ。
「これは……紙?」
「なんだァ? てめェ、その面はよォ……ふざけてんのか!」
 回避(?)したダイイングメッセンジャーが1メートルほど後ろに下がったところで、シラスが精密に調節した魔力弾を連射。
 それを目くらましにしながら突撃し、空間圧縮魔術を行使。ダイイングメッセンジャーの脇腹が握りつぶされたかのようにえぐれて消えた。
「警戒はしてたはず。してたはずデスぅ!」
 同じく飛びかかり、刀を抜く美弥妃。
 刀身を走る炎の術が蛇のように長く伸び上がり、鞭のようにしなり、ダイイングメッセンジャーの胸を穿って突き抜けていく。
 やった。
 と、二人は確信し、そして同時に、ダイイングメッセンジャーの反応に違和感を覚えた。
 えぐれた脇腹も、穴の空いた胸も、まるで何も感じていないかのように振り向き、ニーニアに再び剣を繰り出すのだ。
 ハンマーをふりきった無防備な姿勢。
 顔を狙った剣をしかし、ミルキィの手が握りしめるようにして止めた。
「ニーニアちゃん、逃げて! ――メテオジェラート!」
 血が吹き出るほどに剣を握り、相手の動きを止めると、ミルキィは頭上に大量に生み出した巨大なジェラートを流星の如く次々と叩き付けた。
 はじける色とりどりのジェラートアイス。
 言われたように飛び退いたニーニアが見たものは、ミルキィを『すりぬけて』こちら側に飛びかかるダイイングメッセンジャーだった。
「やっぱり、そうだ……これは、暗殺者なんかじゃない。まして魔物や都市伝説でもない。これは――」
 ニーニアは罠に使えるかもと思って持ち込んでいた『エーベルヴァインの蜃気楼』を思い出した。
 空間に立体映像を投影する魔術道具。
 ダイイングメッセンジャーは、いわば投影された映像にすぎない。
「都市伝説の正体は――」
「次元発動式の召喚術!」
 夕はニーニアから持たされていた郵便ハガキを回転投擲すると、ハガキが途中で燃え上がって炎の騎士が現われた。
 ダイイングメッセンジャーへ飛びかかり、腕の一本を炎の剣で切り落とす。
 影を走るように高速で移動し。ニーニアとダイイングメッセンジャーの間に割り込む咲耶。
「要するに、手紙を受け取った時点でセットされた呪い。なるほど『呪いの手紙』で当たっていた、というわけでござるな!」
 繰り出された剣を打ち払うように、逆手に握った忍者刀を叩き付ける。
 ぎずん、というかわった反発音だけを残し、咲耶をすり抜けてニーニアへ迫らんとするダイイングメッセンジャー。
 だが、その動きはもう見ている。
 咲耶は小声で小さく術を唱え印をきると、ダイイングメッセンジャーの狙いを強制的に自分へ向けさせた。
 振り返るダイイングメッセンジャーに、斜め上から突き刺さる巨大なテーブルナイフ。
「いわば種。七日間かけて当人の魔力を養分に育てた召喚術式を次元発動させたもの。これまでの被害者はいわば、自分に向けた召喚術で自殺していたってわけ、か」
 追撃のテーブルフォーク。
 ダイイングメッセンジャーの腕をパスタでもからめとるように無理矢理固定すると、マルベートはそれをてこの原理で引きちぎった。
「どおりで何の痕跡ものこらず、どれだけ護衛を雇っても突破されるわけね。けど――」
 フィーゼは俊敏に飛び、ダイイングメッセンジャーの顔面を掴むように手を当てると……魔力で練り上げた槍を相手の顔面に打ち込んだ。
 後頭部から飛び出し、はじける頭。
 が、血も肉もなく、ただ切手サイズの紙片が大量に散っただけだった。
「今度の対象者は護衛に任せて安全地帯に引きこもるような子じゃあないのよ。殺害予告をされた日ですら、皆で仲良くチョコレートを囲む子なの。相性が悪かったわね」
 連鎖的に崩壊し、紙片に散っていくダイイングメッセンジャー。
 最後に残った大量の紙片もまた赤い炎に包まれ燃え上がり、灰すらも残りはしなかった。

「……は、ふう」
 ぺたんと草地におしりをつけて座り込むニーニア。
「たすかったあ」
 ずりおちた眼鏡を両手で戻すと、集まってきた仲間たちに『ありがとう』とにっこり笑いかけた。
「それにしても、随分悪趣味なラブレターもあったものね」
「?」
 フィーゼの言葉に首を傾げるミルキィ。
 一方で言わんとすることを察したマルベートが、地面に刺さった武器を抜いて肩にかつぐ。
「これが時限発動式の召喚術であったなら、『仕掛けた人間』がいるってことだね」
「なんだ? 今度はそいつをすり下ろせばいいのか?」
 シラスが拳をこきこき鳴らしていい顔をした。
「第一ニーニアさんを狙う理由が謎デスぅ! 人から恨みなんて買わない子デスよぉ!」
 美弥妃が腕をばたばたさせて言うのを、夕が手をぽんと叩いて頷いた。
「あーなるほど。それでラブレター」
「その心は」
 咲耶が視線だけを動かして、ニーニアを見る。
「勝手に好かれ、勝手に傷つかれた……ってところでござるな。それに、今回のことで相手はかなり焦るはず」
 過去五件に全く隙の無かった『暗殺』が、ここに来て綻んだ。
 それは恐らく、パニックルームや秘境に場所に籠もって身を守るような、それでいて護衛すらもそばに起きたがらない、暗殺予告に対して疑心暗鬼になり人を信じなくなるような人物ばかりを、今までは狙っていたことに由来する。
 ニーニアという、いわば天敵のような相手をあえて狙ってしまったことが、今回相手の失敗を招いたのだ。
「貴族……は簡単に動かなそうだから。まずは町の、それもフリーの衛兵さんに頼んでみよっか」

 こうして。
 『赤い手紙の都市伝説』事件は新たな進展を見せた。
 赤い手紙の送り主とは。
 後にこの謎を明らかにするのは――『街角の衛兵さん』であった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 『うらみ郵便局』編へ――つづく!

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