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シナリオ詳細

悪意の復讐

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●怪しい男の依頼
 ローレットには様々な人物が出入りする。
 依頼を受けに来たイレギュラーズはもちろん、馴染みの情報屋、仕事を依頼しに来る様々な人々、商機を得た商人なんかも来るだろう。
 特に旅人(ウォーカー)を多く擁するイレギュラーズは、その風貌は様々で、普段から出入りしている者にしてみれば、誰を見ても怪しいな、と思う事もしばしばある。
 で、在るが故にふらりとローレットに現れる”いかにも”な怪しい人物を見たとしても、ローレットに馴染みあるものからすれば日常であり、多くは特段の警戒を持つ事はないだろう。
 だから、その日その男が音もなく現れた際に、その姿を一瞥すれど、特に誰かが注視することもなかった。
 全身を襤褸で覆い、目元のみを晒した”いかにも”な怪しい男は、ローレットの様子を観察するように視線を配らせ、そして来たときと同じように音もなく受付へと歩み寄った。
 小汚い貨幣袋を投げ捨てるように受付に放り出す男。
 そして一言言い捨てた。
「依頼だ。
 内容は……そう、復讐だ」


「――そんな男が現れたのが三日前。
 依頼内容は幻想東部の一領主キルク・トラントへの復讐――但し命は奪わず考えつく限りの拷問を行う事。命を奪うのは依頼人である男が最後に行うそうよ」
 『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)は思案顔でそう告げる。
 言葉通りに受け取れば、今回の依頼は依頼人と共に行動する事になるだろう。また性質上悪行に類する依頼という事となる。
「単純に考えればこの依頼はとてもオーソドックスなものよ。
 私兵の護るトラント氏の屋敷へと突入、これを打ち破って屋敷の主人たるキルク・トラントを拷問、キリの良いところで依頼人に止めをさして貰う。
 その場で拷問はリスクも伴うし、拉致してからというのでも良いでしょう。その辺りのやりようはいくらでもあるでしょうね。ただ――」
 そういってリリィは、顎に指を当て小首を傾げる。
「三日間、全力で情報を精査し、色々調べあげたけどね。依頼人の素性が一切わからなかったわ。
 怪しいなんてものじゃない。とびきりの不確定要素よ。
 またね、攻撃対象であるキルク・トラントを調べていてわかったことだけれど、彼それはもう清廉潔白な人物であることがわかったわ。
 恨みを買うようなことは考えられそうもない。領民からの信頼も厚い、穏やかで優しいを絵に描いたような人物であることは間違いないわ」
 依頼人の情報を精査すればしただけ、依頼人の男の胡散さが際立つ結果となったという。
「まあローレットは依頼として成立すれば善であろうが悪であろうが達成が第一ですもの。この際キルク・トラントの行く末に興味を持つ必要はないでしょう。
 ただ依頼人の思惑だけが気になるわ。何を考えているか分からない以上、十分に用心して欲しいわね」
 決行は数日後。夜が明ける朝方、警戒の薄くなった時間に行われる。
 依頼人とはキルク・トラントの屋敷側で合流することとなっている。
 イレギュラーズは依頼書を確認しながら、決行の日を待つ事になる。


「――来たようだな」
 屋敷側の林の中に姿を現した男は、ローレットへと足を運んだ時と同じように全身を襤褸で覆い、鋭い目元だけを晒していた。
「俺はここで待たせて貰う。存分にアイツの悲鳴を聞かせてくれ。
 そうだな、悲鳴が外まで聞こえなくなったら……止めを差しに出向くとしよう」
 声色から男が薄く笑ったように思えた。
 訝しげに男を一瞥したイレギュラーズは――行動を開始した。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 正体不明の男による復讐の依頼。
 信じられるのは自分達のみです。警戒して依頼を達成してください。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●依頼達成条件
 私兵十人の全滅
 キルク・トラントへの考えつく限りの拷問(但し殺してはならない)
 
●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●キルク・トラント邸について
 入口に二人の私兵、内部を八人の私兵が巡回しています。
 キルク・トラントの私室は二階東部奥の部屋になります。
 通路は広くも無く狭くも無く。一人二人が並んで戦闘することはできる程度です。
 私兵の多くは老年の熟練騎士が務めています。体力は劣りますが、老獪たる経験豊富さで緊急の際の動きは特段に優れているでしょう。
 キルク・トラントも老人と言ってよい年齢です。戦闘能力はそう高くはありませんが、命の危機となれば反抗することも容易に想像出来ます。
 拷問方法はイレギュラーズに一任されています。老人の体力を考えながらもっとも苦痛を味合わせることのできる方法をとりましょう。 
 
●戦闘地域
 キルク・トラント邸宅内になります。
 広くも無く狭くもない通路が主戦場となるでしょう。
 ホールや個室へと敵を誘い込むことも可能です。
  
 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 悪意の復讐完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月27日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)
性的倒錯快楽主義者
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者
レイス・ヒューリーハート(p3p006294)
復讐鬼
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
ネージュ・クラウベル(p3p006837)
雪原狼

リプレイ

●怪しい依頼人
「俺はここで待たせて貰う。存分にアイツの悲鳴を聞かせてくれ」
 全身を襤褸で覆った男が薄く笑うように言う。
 なるほど、確かに”いかにも”な男は心底怪しい男であることに違いはない。
 こうも怪しければ、どのような意図を持って此度の復讐を計画したのか、それを知りたくなると言う物だが、それは今回の依頼には関係のないことだ。
(――だからといって、無警戒である理由もないけれどね)
 内心ほくそ笑むように『Calm Bringer』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は依頼人を見やり目を細めた。
 ルチアーノを始め、集まった多くのイレギュラーズが、今回の依頼には裏があると睨んでいた。
 それは単純な復讐の依頼ではなく、依頼人の逆恨みによるものか、或いは、そうローレットを狙った――イレギュラーズを陥れる罠である可能性も見越していた。
 で、あれば。ハイ・ルールを遵守した上で、起こりうる不測の事態にも対応する。それが今回の依頼に置いては肝要と言うところだろう。
「我等『物語』はこれより屋敷への侵入を試みる。
 依頼人たる貴様はここで待つということで、間違いはないか?」
 『Storyteller』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)の確認に依頼人の男は頷く。
「――承知した。しかし、我らとて相応の警戒をもって事に臨みたいと考える」
「……と、いうと?」
 イレギュラーズの言葉に、依頼人の男が鋭い目を細めた。
「ふふ……簡単な話さ。
 ターゲットであるキルクをここから連れ去り拉致する。場所はそう……秘密の隠れ家さ」
 『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)が面白可笑しそうにそう言うと、男が訝しげにイレギュラーズを睨み、何事か思案を重ねているようだった。
「なに、心配はいらないよ。止めはきちんと譲るさ。
 余計な手合いが来られても困る。ただ場所を移したいだけだよ」
 そう言葉を重ねると、沈黙していた男は静かに口を開いた。
「……いいだろう。それで仕事をこなしてくれるならそうするがいい」
 計画の変更は、受け入れられた。
 もし依頼人の男がなにか企んでいて――例えば警邏を事前に呼んでいるなど――それを実行しようとしていたとしても、場所を移してしまえばその心配はなくなるだろう。
 拉致する手間は増えるが、必要経費と言うところだろうか。
「話はまとまったみてェだな。
 そんじゃまァ、手早く行くとしようじゃねェか」
 髪をかき上げた『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)の言葉を合図に、イレギュラーズ達は行動を開始する。
 屋敷へと向かうその背に「――良い報告を期待しよう」と薄笑い含む声が投げかけられた。
(……まるで信用できない男だな。
 しかし依頼として成立している以上、やれることをやるしかないか)
 『復讐鬼』レイス・ヒューリーハート(p3p006294)の思うところは、この依頼に参加したイレギュラーズ全員の総意とも言えるだろう。
 依頼内容はどれ一つをとってもおかしなことが多い。
 十分な警戒を。そして迅速な依頼の完遂を。 
 イレギュラーズは顔を布で隠すと、清廉潔白で名高い貴族キルク・トラントの屋敷へと歩みを進めた。

●侵入
 イレギュラーズの立てた作戦は、メンバーを拷問班とそれ以外に分け、二手に分かれて迅速な仕事の達成を目指すことだ。
 拷問班はオラボナ、ことほぎ、『性的倒錯者で快楽主義者』ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)にシャルロッテの四人。
 侵入のサポートを行うのは残りのルチアーノ、『Code187』梯・芒(p3p004532)、レイス、『雪原狼』ネージュ・クラウベル(p3p006837)の四名になる。
 八人はまず揃って屋敷の入口へと向かう。
 警備を行う老齢の私兵二人は緊張感を感じさせない警備だ。
 そんな私兵に、特段の反応を見せた芒が茂みから飛び出して、目にもとまらぬ速度で二対のナイフを振るった。
「なっ……!」
 同僚の喉が切り裂かれ血が噴き出るのを、見開いた瞳で確認した老兵。だが驚きと同時に熟達した勘と経験が、無意識に身体を動かし、イレギュラーズがそれを押さえるよりも早く呼び笛を吹いた。
 音は一瞬。直ぐに途切れる。
 芒の後を追ったイレギュラーズが呼び笛を保つ手首を切り落とし、口から離したからだ。
「お、のれ……!!」
 残った左手で剣を取り出した私兵が斬りかかる。だが多勢に無勢だ。イレギュラーズに大した傷も与えられずに、力尽き倒れた。
「やりすぎたかな……まだ八人もいるし次でいいか」
 シャルロッテはそう言って、倒れた私兵が”使えない”ことを確認する。
「笛の音は一瞬だったけれどぉ、気づいたかしらぁ?」
 ニエルの言葉に一同は頷く。
 経験豊富な老齢達が屋敷を守っている。小さな違和感であっても警戒を高めるに違いないだろう。
 ここからは十分な反撃が待っていると見て間違いはなかった。
「情報によればキルクの私室は二階東部奥。私兵の掃討もある、一階はこちらに任せてもらおうか」
 拷問班の四人に向かいネージュがそう言うのを合図に、一同は屋敷内へと侵入を開始した。
 玄関を潜ると正面に二階へと繋がる階段がある。拷問班は止まる事なく階段を駆け上がっていく。
 ルチアーノを戦闘に一階を走る別班の四人。視線の先には一瞬の笛の音に警戒を促された兵士五人が言葉を交わしていた。
「――! やはり侵入者か!」
 すぐに四人の姿は視認されることになる。剣を抜きはなった老兵達が四人へと襲いかかる。
 廊下は広くも狭くもない。二人が並んで武器を振るえるかどうかと言った所だろうか。
 さらなる救援――例えば外部などに――を呼ばれないように出入り口側をマークし警戒するルチアーノ。窓からの逃亡も視野に入れて行動する。
 手にした武器をマスケット銃へと変化させ打ち込むはウィルス弾。貫通し幾名かを巻き込む銃撃が毒を齎すと同時に凶暴化させる。
(前衛、任せたよネージュさん――)
 ルチアーノのアイコンタクトを受け取り、ネージュが一つ頷いて廊下を駆ける。
 攻撃を集中した強烈な一撃が老兵の構えを打ち破る。
「くっ……! 手練れか……!」
 一合、二合と剣をぶつけあえば、瞬間その実力を感じ取った老兵達はすぐに戦い方を変化させる。速やかな撃退を目指すものではなく、時間をかけて生き残る戦い方へと。
(即座に対応してくる……厄介だな……!)
 多段牽制からの精密射撃で、確実に老兵の力を削いでいくレイス。距離を取った戦い方なれど、前衛が出来ないというわけではない。
 好機を見た老兵の肉薄を紙一重で躱せば身体を捻り渾身の力を籠めて蹴り込んだ。
(おっと、逃走を図ろうという気配……逃がさないよ!)
 芒が老兵達の側面を駆け抜けて、一気に背後へと回り込む。気後れして一歩逃げだそうとした老兵に我流殺法をもって攻撃を仕掛ける。
(二、三人は確保するとして……残りは用はないよ)
 目を細めた芒が、手にしたナイフを縦横無尽に振るう。血を流し苦悶の悲鳴を上げた老兵一人が倒れた。
「くそ……応援を呼ぶ――!」
 それは二階を巡回している者達のことだろうと予測できた。老兵達は侵入者は今目の前にいる四人だけだと考えているが、それは些か甘い考えだった。
 鳴り響く呼び笛に呼応する者はいない。それは即ち二階の者達が行動不能になっていることを意味していた。
「侵入者はこいつらだけではなかったか……!」
「なんとかして突破し外に応援を求めるぞ! 全員覚悟を決めろ!」
 リーダーらしき老兵が鼓舞し、老兵達の気が変わる。それはまさに鬼気迫る気迫の現れだった。
(やれやれ、これは中々に手こずるかもしれないね……)
 不殺を見越した苦しい戦いを想定して、ルチアーノは小さく息を吐くのだった。

●拷問
 二階に上がった拷問班はそこで巡回する警備兵三名と遭遇する。
 その老獪な戦いに多少手こずったものの、四人はこれを倒し、キルク・トラントの私室と思われる場所へと辿り着いた。
「邪魔するぜ」
 躊躇亡くことほぎが部屋の扉をあける。
 寝室と思われる部屋にはベッドの側で緊張に身体を固めていたキルク・トラントを発見する。
「……あーなるほど、こりゃ善人だわ」
 ぼそりと呟くことほぎ。キルクの顔つきを見て、納得するように言葉を零した。虫も殺せなさそうな善人面。優しさと慈しみしかなさそうな菩薩のような男を前に、四人は顔を見合わせた。
「な、なんですか貴方達はっ? 警備の者達はどうしたのですかっ?」
 強い口調で言ってるつもりなのかもしれないが、まるで威圧感のない言葉に思わず噴き出しそうになる。
「ふ、ふふ……なるほど、善人とはよく言ったものだね。
 あー、あとのことは任せるよ、ボクは少し調べ物をさせてもらおう」
「それじゃぁ手早く致しましょうかぁ?」
 シャルロッテはこの後の事を仲間達に任せ、キルクの部屋を物色し始める。ニエルが口を開いたのを合図に、ことほぎとオラボナも行動を開始した。
「な、なんですか? 何をするのですか?」
「心配の必要はない。我等『物語』は貴様の命を奪いはしない」
「い、命をうばう!? な、なんで、どうして!?」
「はいはい、ちーっと黙っててもらおうか」
 ことほぎが衝術を持ってキルクを吹き飛ばす。与えられた衝撃にモロに吹き飛んだキルクは壁に頭をぶつけて昏倒した。
「さて、そんじゃ連れてくとしよーか」
 倒れたキルクをオラボナとことほぎか抱え上げる。そうして調べ物を終えたシャルロッテと、この後の展開を楽しみにするニエルと共に、秘密の隠れ家へと移動を開始した。

 秘密の隠れ家には一階で老兵達と戦闘を行っていた面々も遅れてやってきた。
「思った以上に手こずったな。老兵というのは厄介なものだ」
「すんなりバラせればもっと楽だったけどね……イテテ」
 ネージュの言葉に傷を舐める芒が応える。四人はだいぶ手ひどくやられたものだ。芒の言うように不殺にこだわらなければもっと楽に終わっていたかもしれない。
 しかし、その甲斐あって老兵達を生け捕りにすることには成功した。
「う……ここは……」
 意識を取り戻したキルクが声を上げた。
「お目覚めかな? 愛すべき生け贄よ」
「ひっ……!」
 オラボナに覗き込まれてキルクが短く悲鳴をあげた。
 キルクはすぐに自体を察知する。拉致され、危機的な状況に置かれている事を。
 隠れ家の中にはイレギュラーズだけが居た。
 依頼人の男は隠れ家までついてきたが、やはり「外で悲鳴を聞かせてもらう」とこれを譲らなかった。
 まずレイスがギフトを用いて質問を重ねた。
 それはキルクの清廉さを確認する質問だ。質問に対し自身の身の潔白を表明したキルクは、言葉通り自身の行動に何一つやましいことを持っていなかった。いや、もしかしたら多少の罪悪感を覚えていたのかもしれないが、それは表面化しないほど小さなものだ。
 それを確かめたレイスは、ルチアーノ、芒、ネージュと共に隠れ家の外へと向かった。
 準備が整ったところで、拷問班によるメインイベントが開始される。
「や、やめ……っ!! ぎぃゃ――!!?」
 キルクから悲痛な叫び声があがる。オラボナがキルクの足の爪を剥いだのだ。
 ゆっくりと一枚ずつ、時間をかけて剥いでいく。その度にキルクが涙を流しながら首を振り絶望の声をあげた。
「な、なんでぇ、こんなことをぉ……うぷっ」
「美味であろう。我等『物語』の欠片である」
 その肉片は食材適正と悪料理によって呪詛の塊とも言うべき物だ。それをキルクの口に無理矢理に放り込み咀嚼させる。
 嘔吐しようがお構いなしに繰り返されるオラボナの拷問。そして極めつけはキルクを見つめる無数の目玉。『娯楽的恐怖』によって生み出された不定形の塊を前にキルクの正気は失われ、無残な悲鳴を上げた。
「ま、この程度なら死にゃしねェか。
 なんだ? 周囲の目玉が気になるか? なら――」
 治療符でキルクを殺さないように治療していたことほぎが、何の予備動作もなく――まるでそこに灰皿があるように――煙草をキルクの眼球に押しつけた。絶叫が上がる。
「そっちを見てみな。見覚えがある顔があるだろ」
 ことほぎの示した先には練達上位式が擬態したキルクの孫娘がいた。キルクが首を横に振る「やめろ……何をする気だ……」言葉に「何、同じ事するだけさ」と煙草を手にした。
「やめろぉ……やめてくれぇ……!!」
 泣き叫ぶキルクを無視して拷問を実行することほぎ。肉体のみならず精神的にも追い詰めていった。
 それに追い打ちをかけるのはシャルロッテだ。
「ふふ……いや済まんね……これが探偵という生き物の本性でね……ふ……くく……」
 ほくそ笑むシャルロッテはキルクの私室より持ってきた資料を読み上げる。
「さて……調べてみるとなるほどこれは凄い。うんうん、実に清廉潔白、領民からも愛され慕われる絵に描いたような人物像だ。実に素晴らしい」
 だが、そんな聖人は物語の中だけだ。”人間”である以上必ず裏は存在する。
「人を治めるという事は必ず取捨選択がある、誰かを幸せにしたのなら必ず誰かを不幸にしている。
 ある街の改革では見事な手腕だったそうじゃないか。大きな反発もなく見事に成功していた。でも、本当に不満はなかったのか? いや、あったはずさ、それを封殺するために金も動かしているね」
 表面上は円満に解決した話ではある。そういった金の動かし方もあってしかるべきだろう。だが、それは清廉潔白なキルクの人物像はやや似つかわしくないものだ。
「汚い貴族のやり口だ。清廉潔白が聞いて呆れる。それだけじゃない、他にも――」
 シャルロッテの追求は三十分以上にも及ぶ。キルクの半生を暴き出し、都合良く(悪く)解釈した語りは、自身の身の潔白を信じるキルクの心に暗い影を差し込んでいく。
 キルクには大きな秘密はなかった。だがそれが逆に小さな秘密を暴き出したとき巨大な棘となってキルクの心を抉った。最後には「もうやめてくれぇ……」と嗚咽を漏らすありさまだった。
 車椅子探偵は心底嬉しそうに言葉を紡ぐのをやめるのだった。
「それじゃ最後よぉ。気になっていたでしょぉ? この道具の数々」
 ニエルが医療器具を手にしながら、人質にした老兵の下へと歩み寄る。老兵は拘束されて動けない。
「な、なにをするんだ……」キルクが首を振りながら最悪を想像する。
「手術よぉ……とっても惨い、解剖手術」
 生きたままに生皮を剥ぐ所行。老兵はもはや悲鳴を上げる事すら出来ず――代わりにキルクが「やめてくれぇ……!!」と懇願し続けた。
 じっくりと行われたニエルの手術は、まさに人を解剖するもので、最後には人の形をなさぬ肉塊を生み出すに至った。
 そこまで行った上で、ニエルはキルクにこう提案する。
「そうだ実験しましょう。麻酔を使わず手術で手足の末端から、体皮、骨、 直ちに命に関わらない内蔵を取り出して、どこまで生きていられるのかぁ」
「ひっ……やだぁ!! やめてくれぇぇ!!!」
 自身に起こりうる最悪の想定は、力なく項垂れていたキルクに今一度生存を求める本能を呼び起こさせた。
「大丈夫、殺しはしないわぁ。生きているだけではあるけどね」
 そうして、ニエルはにじり寄る。
 キルクの絶叫が隠れ家に響き渡った。

「……それ、何に使うつもりだったんだ?」
 ハッキリとした声色で、依頼人の男へと指摘するのはネージュだ。
 隠れ家の外、起こりうる最悪を想定して動いていた四名は、悲鳴を聞いてほくそ笑む依頼人の男が、不審な動きを伴っていることに気づいた。
 小さな小瓶から液体を壁に擦りつけ、肩を揺らしながら笑っていた。悪い想像は、その後に取り出された火種で結びついた。
「……ふん。警戒心の強い奴等だ。しっかり監視しているとはな」
「……俺達ごと燃やすつもりだったか」
 レイスは言う。もはや自身のギフトで依頼人の悪意を確認するまでもなかった。
 この男は復讐を装ってローレット、そしてイレギュラーズを陥れようとしたのは間違いないのだ。
「復讐? いや、それは事実さ。
 俺はある盗賊団の一人だったが、そこをキルクの野郎に潰されてね。
 だがアイツはあまちゃんさ。仲間達を全員生け捕りにして更正させるなんて言い出しやがった。ははは、バカみたいだろ?」
 それはただの逆恨み。そんなくだらない事のためにローレットを利用したという。
「世界の救世主様はいいよな。悪いことをしてもお咎めなしだ。
 お前らを巻き込んだのはタダの当てつけだよ。くくく、ざまぁないぜ」
 無造作に、放り落とされる火種。事態が露見した以上観念するかと考えたが、そうはいかなかった。
 依頼人は瞬間、飛び抜けた反応を持って駆け出した。早い。
「くっ、待て!」
 ルチアーノが声をあげるも、止まる事なく影となって男は消えた。
「とりあえず火を消すか、中の連中を避難させないとね」
 芒がそう口にして動き出す。
 微かに聞こえていたキルクの悲鳴が、壁が焼ける音に掠れて消えて行った。

 キルク・トラントは一命を取り留めた。
 だが、全身の欠損と、精神的な衰弱は彼の人間的活動を低下させる事となった。
 キルク・トラント、そしてローレットへと悪意ある復讐を企てた依頼人の行方は杳として知れなかった。

成否

成功

MVP

シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵

状態異常

なし

あとがき

 澤見夜行です。

 素晴らしく勘の良い皆さんで、依頼人の目論見は看破されていたと言って良いでしょう。
 惜しむべきはそうなった場合の依頼人の対処をどうするか、これが考えられていれば禍根を残すことにはならなかったように思えます。惜しい。
 とはいえ、依頼人を信じて動いていた場合は、全員燃やされていたので依頼どころではありませんでしたね。
 拉致に関しては隠れ家を燃やせる建物と判定しております。特別燃やせない場所だった場合は拒否されていたでしょう。
 成功要件の”殺さない”も達成できていますし、お見事というところです。
 戦闘描写は省略気味となりましたが、ちょっとだけパンドラが減ってます。生け捕りは大変でした。

 MVPは依頼人を警戒しつつ拷問もがんばったシャルロッテさんに贈ります。

 依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!

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