PandoraPartyProject

シナリオ詳細

瓶に込められしモノは

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●グラオ・クローネへむけて
 それは大切なヒトへ贈り物をする日。
 絆を形とする風習。

 勿論、贈り物に拘りたい者は少なからずいて──瓶詰め屋『エアインネルング』は今年も大忙しであった。

●瓶詰め屋『エアインネルング』
「ここはですね、世界にたった1つの贈り物を作ってくれるお店なのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)に案内されたイレギュラーズは依頼主がいる店を訪れていた。なんでも、手が離せないらしい。
「こんにちは、ローレットなのです!」
「はーい、勝手に入ってー。その辺の物には触らないでー」
 奥から聞こえる女性の声に、ユリーカを先頭にしてイレギュラーズは店へ足を踏み入れる。何とも言えない独特な香りがした。こっちなのです、とユリーカに誘われるまま店内を進むと、広い部屋に大きな鍋。そしてその前に立つ女性が1人。
「ごめんねー、ちょっと待っててー。あ、そこ座っててー」
 鍋の中をかき混ぜながら、女性はテーブルとそれを囲む椅子を指し示す。一同が座ってその後ろ姿を見ていると、ひと段落したのか女性は鍋から離れてこちらを振り返った。
「はい、お待たせー。私が瓶詰め屋『エアインネルング』の店主。ミーロよ」
「お時間を取らせてしまって、ごめんなさいなのです」
「いえいえー。こっちこそ来てもらってるしねー」
 さっそく本題に、とミーロは別のテーブルに置かれていた草やら石やらをイレギュラーズの目の前へ置いた。
「今年は依頼が多くてねー。用意してた材料が足りなくなっちゃったのー。いつも卸してくれてるとこも『ないよ』って言うから、ローレットに採取をお願いしたくてー」
 求める材料は3つ。その内2つは採取するのに大した労力を必要としないため、もう1つのおまけで持ってきてほしいと言う。問題はそのもう1つ。
「これねー、モンスターの核なのよー。だから冒険者とか戦える人じゃないと採取できなくってー」
 示されたのは光に照らされて煌めく石。岩のようなモンスターから採れるというその石は、ぱっと見ただけなら宝石だと思うだろう。
「これを……どうしようかなー。ちょっと待ってねー……えーと、15個くらいあればいっかなー? せめて10個はほしいかもー」
 ぞんざいに置いてあった紙束をぺらぺらとめくり、ミーロが数を確認する。どうやらミーロへ寄せられた依頼書のようだ。
 ──そういえば、瓶詰め屋とはどのような仕事なのだろう。ユリーカは『世界にたった1つの贈り物』を作ると言っていたが。
 ミーロにそれを問うと、彼女は瞬きをゆっくりと1つ。
「あれー……? あー……言ってなかったっけ? 言ってなかったかも。
 私はねー、瓶の中に世界を作るのよー。世界のどこにもなく、ただその瓶にだけ存在する依頼者の世界を」
 抽象的な言葉だ。それを口にしたミーロは何処か誇らしげに、部屋の奥から1つの瓶を持ってくる。
「わぁ……! すごいのです!」
「これはね、私が最初に作った世界。私の空」
 掌に乗る程度の小瓶。その中には何とも不思議な──そして引き付けられる、夕焼けのような茜色が広がっていた。

●あなたの望む世界を
 1年に1度、大切なヒトへ自分の特別を贈ってみませんか?
 瓶の中に広がる世界があなたを、そしてあなたの大切なヒトを引きつけます。
 朝焼けも、黄昏も、満点の夜空だって思いのままに。あなたを表すモチーフも瓶に込めて、たった1つの世界を創りましょう。
 瓶の大きさは小さなものから、両手で抱えるような大きいものまで。持ち込みも歓迎します。

 依頼は瓶詰め屋『エアインネルング』へ──。

GMコメント

●成功条件
 後述される材料を持ち帰る

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●採取物
・アサツユ草
 葉が朝露をため込む袋となっていることが特徴の植物です。森に生えます。
 背丈が低いため他の植物には隠れがちですが、その特徴から見間違える事は限りなく低いです。
 採取は葉(袋)の部分のみで構いません。袋を破かないよう気をつけましょう。

・アオゾラ水
 青い色のついた水です。飲めます。味はただの水です。森に池があります。
 どこかの獣道から辿り着くことができ、地道な捜索でも見つけることが可能です。
 皮の水筒をミーロから支給されているので、それに汲みましょう。

・魔石
 モンスターの核とされる、宝石に似た石です。とても固いので武器で割ることはできません。最低ラインは10個。多くある必要はないようです。
 単色のものもあれば、何色か混ざった石もあるようです。倒したモンスターの体を更に破壊することで採取できます。

●エネミー
・ローク×??体
 岩でできた人間のようなモンスター。眼窩に当たる部分に眼球はありませんが、視覚に問題はないようです。1体につき1個の魔石が採取できます。
 防御技術、特殊抵抗に特化していますが、その他は大したステータスの高さではありません。
 鉱山から一定時間経過で無尽蔵に湧いてきます。適度なタイミングで引くことを忘れないでください。

●ロケーション
 森を抜けて、すぐ先にある鉱山の麓まで行きます。
 森は至って平和で、大したモンスターも見られません。いても人の気配にモンスターが逃げていくでしょう。
 鉱山の麓にはロークが生息しています。草木は見当たらず、ごつごつとした地面が露出しています。
 いずれも天候など、環境に左右される要素はありません。

●ご挨拶
 愁と申します。
 世界でたった1つ、という言葉はとても惹かれる私です。是非彼女へ協力してあげてください。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • 瓶に込められしモノは完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月23日 23時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アクセル・オーストレーム(p3p004765)
闇医者
イリス・フォン・エーテルライト(p3p005207)
魔法少女魂
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて
閠(p3p006838)
真白き咎鴉

リプレイ

●長閑な森の中。

「オーッホッホッホッ!」

 ──煌めくお嬢様は何処にだって登場する。
「あんなに素敵な小瓶を見せられましたら! 胸が高鳴りますわねー!」
 『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)の日に照らされた雫の如くな声が「しからばこのわたくしっ!」と指パッチンと共に響いて。

   \きらめけ!/

   \ぼくらの!/

 \\\タント様!///

「──が! ばっちりお手伝い致しますわー!」
 本日も決まった、グリタリングラブリージュエリーオンリーワンポーズ! 本日のギフトも調子良く、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)のコールも併せて拍手喝采大歓声である。
「あんなに素敵なものを作るお手伝いができるなら、頑張らないとだよねっ!」
 ぐ、と両拳を握りしめる焔。『捲土鎧う』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は彼女の言葉に頷いた。
「誰かのたったひとつの為に、上等なものを持ち帰りましょうネ」
 『世界でたったひとつの』という言葉は、それだけで心を躍らせてしまいそうで。店主が作るそれを心待ちにする者がいると思えば、やる気も必然と湧いてくるもの。
 それは『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)も同じことだった。
「ふふ、とっても素敵な響きだよね! きっと、色んな人がそれぞれの贈り物を作ってもらうんだろうなあ!」
 瓶詰めの世界は十人十色。様々なそれを想像するだけでアレクシアも笑顔が浮かぶ。注文している皆のためにも頑張らねば、とアレクシアは傍らの木に手を当てた。
「青い水がある池か、朝露を溜める草って知らないかな?」
 さわさわ、さわさわと葉が揺れる。そこから知り得た言葉に「そっか」とアレクシアは呟くと木に礼を言い、仲間を振り返った。
「この辺りでは見ないって」
「どちらも人があまり立ち入らない、奥まった場所にあると聞いたことがあるが……もしかしたら、ここよりさらに先かもしれないな。行ってみよう」
 『闇医者』アクセル・オーストレーム(p3p004765)は自らの情報網に引っかかったそれを思い出しながら告げ、ふと店で見せられた小瓶を思い出す。
 叶うなら、故郷の街並みを──なんて。アクセルは緩く頭を振った。世話をかけっぱなしな診療所の事務員へ土産にしたいものだが、店主の様子だと予約しても暫くかかりそうだ。それに、今はその贈り物を作るための材料を調達せねば。
「じゃあ、もっと、奥、行く、して……えっと……アサツユ草と……アオゾラ水と……魔石……3しゅるい、見つける、持って、帰る、する!」
 目的を口にして再確認する『星頌花』シュテルン(p3p006791)。表情が乏しいながらも、彼女なりにやる気を持っていることが感じられた。腕を真っすぐ進む方向へ向かって伸ばし、シュテルンは空を見上げる。
 穏やかな天気の中、影が2つ。『魔法少女(物理)』イリス・フォン・エーテルライト(p3p005207)はシュテルンの示す先を確認すると、速度をあげて一同より先行した。探すのは目的物──空からなら主に池だろう──とロークと呼ばれるモンスターの索敵。地上を進む仲間たちの方向を意識しながらも、自らの出せる速度で仲間を中心に半径40mほどの周囲を見て回る。
(……あの小瓶はまるで、魔法のようだったが)
 店主は魔法少女ではないようだった──イリスは先日の対面を思い返し、小さく目を瞑る。だがすぐに銀の瞳は開かれた。
(何れにせよ、己の役目を果たすだけだ)
 魔法少女だろうとなかろうと、関係ない。今のイリスはイレギュラーズで──依頼の達成が最優先事項である。
 彼女と同じく空から探している『真白き咎鴉』閠(p3p006838)はイリスと正反対に頻繁に動くという事は無く──むしろ、速度は地上を移動する仲間たちとほぼ変わらない。その視界は既に黒布で覆われており、閠が頼りとするのは音。聴覚である。
(誰かにとっての、たったひとつを作るお手伝い。そして、初めての戦うお仕事)
 嗚呼、緊張することばかりだ。けれど皆の役に立ちたいから──自分にできることから始めよう。
 閠の耳に入ってくる音の反響は、脳裏に周囲の状況を描かせる。流れる風。揺れる鈴。重なり合う木々。下から聞こえる仲間の声。音をすべての頼りとして進み、聞き調べること暫し──。
「あっ!」
 森探検のようにワクワクと、けれど確りと感覚を研ぎ澄ませて周囲を見聞きしていたリュカシスは声を上げた。道端へ駆け寄ってその場にしゃがみ込み、そっと手で触れたのは不自然に倒れている草だ。
「これは、動物たちが踏んで行ったのでしょうか」
「そうかも! ちょっと聞いてみるね」
 そばでそれを見下ろしていたアレクシアが草と意思疎通を図る。その表情がぱっと華やぎ、彼女は一同を振り返った。
「皆、この先にあるみたいだよ!」
 空から探索する2人も伝えると閠がエコーロケーションで森の開けた場所を探り、イリスが先行して様子を見に行く。さほどの時間も経たず戻って来たイリスは、この先に青い水を湛える池があることを仲間へ伝えた。
 獣道を進んで暫し──宝石の如く煌めく池が、一同の前に現れる。
「すごい……!」
 池の近くに膝をつき、シュテルンは水を覗き込んだ。空の青、ではなく本当に水が青い。移り込んだ木々の緑が水と混じって複雑な色を作り出し、水面が揺らげばその色も変わって幻想的だ。
「この材料で……贈り物、作る、んだね……とっても素敵!」
「ああ。世界にたった1つの贈り物……きっと、何よりも美しいものだと思う」
 頷いたアクセルはシュテルンへ皮の水筒を渡した。店主から預かっていたものだ。他の面々にも渡し、それぞれが水を汲んで栓をする。
「戦闘で傷んだりしてもよくないから、回収した後は一旦安全な場所に置いとくのが良いかな」
 アレクシアは満たされた水筒を見ながら呟いた。店主から状態は問われていないが、これから戦闘があると分かっている状況なので可能なら自分たちから離しておきたい。
「シュテ、保護結界、使う……できる! 材料、守る、できる、よ」
 シュテルンがアレクシアへ両手を差し出す。アクセルもまた、荷運びにとHMKLB-PMを連れてきていた。品質落とすことも、持ち切れないという事もなさそうである。
「これでアオゾラ水はばっちりですわね! アサツユ草について、何か手掛かりはありますかしら?」
「日陰に生えると聞いたが……これだけでは特定しがたいな」
 タントの問いかけにアクセルが頤へ手を当てる。焔は頭の中の知識を掘り返し、「そうだ!」と声を上げた。
「大きな葉をもつ植物に隠れてることが多いはずだよ」
「では、それらしき葉を見つけたら捲ってみますわね!」
 焔に頷いてみせるタント。アレクシアが森へ植物の特徴を離して問い、返ってきた言葉と共に一同は移動し始めた。
「む、」
 道中薬草を見つけたアクセル、仲間とはぐれてしまわないよう手早く採取した。とは言っても量は程々だ。手間取りさえしなければあっという間に終わってしまう。
(生態系を破壊するのは良くないからな)
 採り過ぎてしまえば増える事は難しい。けれど適切な量を採取すればまた生え、更に増えて広がっていく。
「見つけましタ!」
 リュカシスの嬉しそうな声が響いた。顔ほどもある大きな葉を捲り、焔に確認を取る。
「うん、これだよ! 葉を採る時はね──」
 焔の言葉に従い、葉を破かぬよう慎重に採取する。手の中に収まった葉を見てリュカシスは嬉しそうに顔を綻ばせた。アサツユ草は群生する種類だったようで、周囲を探すと幾つも見つかる。
「まだ採取するなら、他の群生地を探した方が良さそうだな」
「そうデスネ。もっと必要になりそうデスカ?」
「量、言われる、なかった……けど、途中、見つける、したら、採る?」
 ロークの魔石さえ集まれば依頼の成功条件はクリアできる。量を求めるのは余裕がある時でも構わないだろう。
 一同は空の上の2人も伝えると、周囲を観察しながら鉱山の方角へ進んでいった。


●鉱山の麓にて
 人の形をした、人ならざるものが当てもなく徘徊する。その上空を飛びながら閠は耳に入る音を頼りに、ロークの密集度を調べていた。ひと通り巡ると仲間の元へ戻り、あまり密集していない場所を伝える。
「鉱山の近くにはいっぱいいるんだね」
 焔はやっぱり、と言ったように呟いた。増えても倒す者がいなければ増え続ける。鉱山から現れるならその付近は大量に出現していると予想していたのだ。
(よほど近くじゃなければ、周りに分散しているみたいだけど……)
「ローク、怖い、岩? モンスター、シュテ、採れる、かな……」
 小さく眉尻を下げるシュテルンに、閠は目を瞬かせた。
(緊張も……不安も、ボクだけじゃない)
 仲間も同じだと思えば、なんだか自分のそれが少しだけ軽くなったような気がして。閠はシュテルンへと口を開いた。
「大丈夫です、きっと。ボクも頑張ります」
「……うん。攻撃役、初めてだけど……シュテも、頑張ってみるっ!」
 頷き合う2人と共に、一同は森を抜けて鉱山の麓へと足を踏み入れた。
「さあ皆様! じっくりとハンティング致しますわよ!」
 1番に飛び出していったのは焔。緋色の軌跡を描き、加速した攻撃はビートを刻むようにロークへ叩きつけられる。その体は見た目と違わず硬い。焔の方を向いたロークを中心に赤い花が咲いて──否、花の如き魔力の塊が生成され、炸裂する。周囲のロークも巻き込んだその攻撃は、範囲内の1体を光るアレクシアへと引きつけた。
 アクセルは全力移動でロークの元まで近づき、その集中力を研ぎ澄ませる。彼の行動は普段と変わらず、診療所にいる時と同じように怪我人を治療するのみ。
(孤独な歌は……気持ちが悲しくなる。あまり、歌う、したくない……だけど……)
「皆、守る、為……頑張って、歌う、する、ね!」
 シュテルンの透き通るような声が絶望の海を歌う。暗く、昏い、呪いの歌。それは頑強なロークの体を蝕むように、岩の隙間から忍び込むが如く。さらに閠のナッシングネスがロークを包み込んだ。それらを踏みきり、ロークは──ロークたちはイレギュラーズへその硬い拳を振り上げる。
 その攻撃を躱し、時に急所を避けながらリュカシスはロークへ肉薄した。その拳は衝撃波を帯び、岩の肌へと撃ちこまれる。
(魔石は心臓のあたり? 脳のあたりかな? もっと違う場所?)
 自らの知識から推測するならば、心臓か脳か──あるとすれば丹田に当たる部分か。倒すまでに質が落ちぬよう、当てる場所は気をつけた方がよいかもしれない。
「オーッホッホッホッ!」
 高らかな声と共にクリティカルブリリアントキューティポーズをキめるタント。その煌めく額から指の軌跡を辿り、一条の煌めきがビシィッと刺さる!
 その傍らへ空からイリスが一直線に降り立ち、大型弓をロークへ構えた。空中で溜めに溜めた、己の反動を顧みぬほどの力を一気に解放させる。圧倒的な威力の技が複数のロークを飲みこみ──1体のロークが力を失った。

 イリスが再び空へ舞い上がる前に、ロークが頑強な体で体当たりをくらわす。地面を転がった彼女へ素早く駆け寄ったのはアクセルだ。
「大丈夫か」
「問題ない。私は魔法少女だ」
 手早い治療に立ち上がるイリス。アクセルはその様子を見て別の仲間の元へと走り去っていく。
 防御面での強さを誇るロークたちだが、イレギュラーズたちのパーティは回復の厚さが強みだろう。アクセルが走り回って治療を続け、タントとシュテルンがその補佐を行う。
「ありがとうございマス!」
 ダメージの蓄積に一旦後方へ退いたリュカシスはアクセルの治療を受け、再び前線へ。膝をつきかけた閠はタントのブレイクフィアーで持ち直す。しっかりと地を踏みしめた閠は鈴の音と共に前を向く。
(みなさんに比べたら──けど、ボクだって!)
 ナッシングネスがロークへ襲い掛かり、その体を包み込む。不意に閠の耳へ囁くような唄が届いた。
「そっと 目を閉じて……♪」
 優しい歌が癒しの光をもたらし、シュテルンの周りにいる仲間を癒していく。アレクシアは再び誘争の赤花を放ち、焔は髪先に炎を灯しながらロークへ肉薄していった。アクセルビートを叩きこみながら焔は周囲へ視線を走らせる。
(大丈夫、まだ囲まれてない)
 退路を確認し、焔はロークへさらに攻撃を重ねた。
「アクセル様、魔石の回収はできそうデスカ?」
 リュカシスの言葉にアクセルは周囲を素早く見渡した。徐々に魔石を内包する岩と化したロークが散見されるようになっている。動けるロークもあと少し──。
「タント、シュテルン、」
「ええ、任せて下さいまし!」
「大丈夫。皆、癒す……できる!」
 タントとシュテルンへ頷き、アクセルはリュカシスと共に倒したロークのそばへ近づいた。リュカシスは素早く辺りを見て、戦況を観察する。
(一応、留まっていたほうが良いでしょうか)
 極めて追いつめられているわけではないが、圧勝できるほどの余裕は持っていない。リュカシスはアクセルに向き直り、その知識から推測される魔石の位置を順に教える。
「……ふむ、魔石は腹部か」
「体の中心ということでしょうカ。他のロークも同じかわかりませんが……」
 採れた魔石は血のようなルビー色。色の違いが採れる部位なのかそれ以外か、そもそも採れる部位は異なるのか。1体だけでは不確かだが、少なくとも他の魔石を回収する際の参考にはなるだろう。
 アクセルとリュカシスは次の魔石を回収するべく、仲間の戦う横を駆けて行った。

「春の星、煌めく、空、降る!」
 シュテルンの頭上で一条の光が走り──それは流星のようにアレクシアの引きつけるロークへ落ちる。地に伏した敵を見て、しかし閠は重たい足音を耳にしてはっとそちらを向いた。当然黒布が視界を遮っているため見えはしない。だが実際に見ているように聴覚が音を感じ取り、新たなロークの接近を知らせる。
「増援が来るみたいです」
「一時撤退ですわね! リュカシス様、ロークをお願いいたしますわ!」
「お任せください!」
 筋力に自信のあるリュカシス、そして数人が倒れたロークの体を運んで戦線を撤退する。森の中まで戻った一同は小さく息をつき、魔石を回収した。
「わぁ……! とっても綺麗!」
 並べられた魔石にアレクシアが歓声を漏らす。どれも発見された場所は同じだったが、その色はどれ1つとして同じものがない。光の反射で色を変えるものもあれば、強く1色に煌めくものもある。特段質が低い、というものはなさそうだ。
 そして皆の余力はと言えば──可もなく、不可もなくといったところか。同じだけのロークを倒し、魔石を選別するまでの余力はなさそうかもしれない。
「休息を取ればまだまだいけますわ!」
 少しずつ体力気力を回復させていくタント。それは瞑想するイリスも同じだろう。
「ボクは無理の無い範囲での参加になりそうです」
「無理せず、けどちょっと頑張って……余裕を持って撤退したいデスネ」
 閠とリュカシスの言葉にアクセルは考え込む。回復手は自分とタント、シュテルンの3人。治療でカバーするとしても、余裕を持つならば──。
「あと2,3体……多くても5体ほど倒したら撤退でどうだ」
「それくらいなら」
「最初に15個って言いかけてたから、それくらい集められたらいいんじゃないかな」
 一同の同意を得て、休憩を挟んだイレギュラーズたちは鉱山へ視線を向け──すでに降りて来たであろうロークの元へ駆け出して行った。


●各々の見たい世界
「森がそろそろ、終わりそうですネ」
 リュカシスが視線を向けた先には建物の屋根。焔も「ほんとだ!」とぴょんぴょん跳ねる。
「無事に届けられそうだな」
 アクセルもどこか安堵した様子でそれを見上げ、鈴の音を鳴らしながら歩いていた順は小さく首を傾げた。つられて鈴がりりん、と違った音を奏でる。
「ボクも……ペンダントにして、持ち歩けるような小さな星空、とか」
 欲しいなぁ、という続きの言葉は大勢の声にかき消された。
「いいね! 私もなにか1つ、贈り物を作ってもらいたいなあ」
「ボクも! このお仕事が終わったらお願いしてみようかな」
「わたくしも欲しいですわー! 御天道きらめく世界の瓶詰めっ!」
 声を上げない面々も、欲しいと思う者は多いようで。シュテルンは『世界にたった1つの贈り物』という言葉を思い出して小さく口元を綻ばせた。
「たった1つの贈り物……シュテも……昔、とても昔……貰った事、ある、気がする。
 言葉、響き、懐かしい、思ったの!」
 それは記憶になくとも、心に残っている贈り物なのだろう。
 会話も弾めばあっという間に瓶詰め屋『エアインネルング』の店が見えてくる。シュテルンはたた、と駆けだすと店の扉を開けて──。

「──ミーロ! 材料、持ってきた!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 以下、ミーロより。

『材料の納品、ありがとねー。これで作業が続けられるよー。
 皆にも作ってあげたいけどー……すぐは難しいかなー?
 でも、そのうち時間と材料をとって。皆も作れるように準備するよー。
 その時はよろしくよろしくー』

 またお目にかかれましたら、どうぞよろしくお願い致します。

PAGETOPPAGEBOTTOM