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シナリオ詳細

<Butterfly Cluster> 蠍共よ死地にて踊れ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想南部に突如侵略した『新生・砂蠍』を名乗る大盗賊団。まるで計ったように勃発した『鉄帝国』による南征と予期せぬ挟撃を受けた『幻想』であったが、ローレットの力添えもあって無事切り抜けることが出来た。
 しかも、『新生・砂蠍』軍に至っては首魁たる『キング・スコルピオ』を討ち取るという大手柄だった。

 それから暫く。『新生・砂蠍』の残党がその姿を捕捉された。
 場所は『幻想』から遙かな西方、『アルダハ遺跡』。――そこは『ラサ傭兵商会連合』のそのまた南部に存在する無人の廃墟であった。
 彼らを捕捉したのはラサが誇る有力な傭兵団『黒之衆(クロノス)』であった。
 幻想にもラサにも居場所を失った残党が無人の廃墟を根城とするのは当然の帰結といえた。
 無論、荒野に遺構が残る程度の遺跡群で食料調達など望めるはずもなく、近隣の村落へと略奪が開始された。
 そもそも、ラサの傭兵達にとって『砂蠍』は逃した獲物である。傭兵団の長達は直ちに会合を開き、残党達の討伐を決定。しかし、進撃の手筈を整えていく中、ラサの傭兵達は彼ら残党の中に魔種の姿を確認する。
 馬は馬方、蛇の道は蛇。魔種を相手取るとなれば専門家――そう、ローレットである。
 もちろん、生半な戦士など傭兵達としても『噂のローレットと共闘してみたい』と素朴な下心があったことは否めない。


 砂漠の夜は冷たい。それが冬となれば、それこそ痛いほどに。
 街灯などあるはずもなく、一塊になった残党達の見張りが灯す光だけ。
「むっ?」
 一人の残党が闇の中に目を凝らし、少し不思議そうな顔を見せた後、気のせいかと視線を別の場所に向ける。
 しかしその直後、ピシッと彼の首筋に銀が走り、崩れ落ちていく。気づけば周囲には数人の影。
 残党が松明から手をはなすよりも前にそのうちの一人が松明の手を取った。
 やがて男の着ていた者が剥ぎ取られた。その後に誰か一人が男の着ていた者を着込む。
 頷きあった後、一人を残して姿を消し――残った一人が深く息を吸った。
「敵襲――!!!!」
 その直後、一斉に残党達を囲むように松明の輝きが灯り始め――遺された一人は真っすぐ集団の奥の方へと走り、幾度となくそう告げていく。
 更には別の方向から同じような声が上がる。動揺が集団全体へと伝播するのに、時間はかからなかった。やがて動揺は焦燥へ変わり、恐怖へと塗り固められていく。
 流れを決定づけたのは、周囲を取り囲むようにして灯された松明の方から聞こえてきた突撃の声。
「ドロレス様! お逃げください!!」
 男が駆け抜けていく最中、一際大きな天幕からそんな悲鳴にも似た声が聞こえた。
 どたばたと慌ただしさを見せる天幕の様子を見て止めると、男はその場で気配を押し殺す。
 長い髪の女が、周囲に視線を散らせながら逃亡していった。
 裏地に独特な模様の刻まれた一枚のローブを纏った女が夜襲に慌てふためく人々の様子をやや離れた所で冷たく見下ろしていた。
 女はその様子を少しばかり眺めた後、隣にいる人物に後を託して空へと舞いあがってその場を去っていった。
 これと同じような事態がこの日、複数の場所で発生していた。慌てふためき、恐れ、後ろからくる謎の大軍勢を恐れた残党達は、真っすぐに敵がいない方向へと逃亡を繰り返す。
 ――まさかそれが、仕組まれた作戦であるなど微塵にも思わずに、彼ら残党は破れかぶれに落ち延びていった。

「デューク様! あっこに避難できそうな遺構が!」
 一人の残党兵が叫んだ。ただでさえズタボロの彼の服は砂漠の砂で煤と汚れている。
「あぁ!? ちっ。追っ手もすぐに来るか、しゃぁねぇ! てめえら、あそこで態勢を立て直すぞ!!」
 鋭い目つきをした男が指示を飛ばせば、疲労が目に見えている残党達が安堵と歓喜に震えて一目散にそこへ向かって駆けだした。
 切り立った崖に直接彫り込まれた造形美のある大きな建造物。
 静かにたたずむそこへ、残党達は入って行く。それを何の感情も見せることなく涼しげに見るのは銀翼の女だった。


「ローレットの特異運命座標。私にも貴様らの力を見せて貰おう」
 その背に美しい白銀の翼を持った女――竜胆・カラシナは翼と同じく白銀の髪と凛とした美貌をフードで少しばかり隠したまま、イレギュラーズ達を見据えていた。
 外見だけでいえば、二十歳をいくつか超えたぐらいの、まだまだ若い彼女は、これでもラサにおける有力な傭兵団の一つ、『黒之衆』の代理団長を務める。
「砂蠍の残党を捕捉し、ローレットに依頼を持ちかけたことは知っているだろう。私と私の部下でこの残党のいくつかを纏めて誘導した。この地で奴らを一人残らず一網打尽にする」
 カラシナは事前に製作しておいた地図をイレギュラーズへと手渡して、戦場となる場所を簡潔に説明していく。
「既に私の部下の数人が残党軍の中に入り込んでいる。彼らをどう使うかも貴様らに任せよう」
 そう言うとカラシナは静かに感情の見えぬ瞳で君達を見渡した。
 ラサに名高き傭兵団の一つ、その長は君達に何を思うだろうか。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 さて、この依頼は竜胆・シオン(p3p000103)様の関係者である竜胆・カラシナさんが登場します。それ以外は他の『新生・砂蠍』残党討伐戦と何ら変わりません。
 それでは、さっそく詳細をば。

・オーダー
 アルダハ遺跡の一部へ追い込んだ砂蠍の残党を討伐する。

・戦場
 アルダハ遺跡の一角、切り立った崖に直接彫り込まれた形状の遺跡の中。
 神殿だったのか、等間隔で柱が並ぶ長方形型の遺構です。
 入り口は一つで天井がかなり高く、また一部が崩れ落ちています。飛行能力を有す人であれば天井の外から奇襲するのも可能です。

・味方戦力
『竜胆・カラシナ』
 下記の傭兵団の代理団長を務める女性です。
 冷徹、無情であり作戦等において全てを計算し迅速に処理する人物です。

『黒之衆(クロノス)』
 カラシナを代理団長とする諜報活動を主体とするラサにおける有力な傭兵団です。30人います。
 また、下記の敵戦力内に数人、紛れ込んでいます。どんなタイミングで埋伏兵を用いるかも戦いに影響するかもしれません。
 皆さんの実力がどれほどのものか見たいと思う者、皆様と共闘してみたいと考えている者など、皆様に好意的です。

・敵戦力
『デューク』
 下記のデューク盗賊団部隊の大将、強敵です。
 馬鹿でかい大斧を持った大男です。
以下スキル
【デス・ストライク】
物近貫 威力大 万能 失血 致命
【デッド・バイ・ハリケイン】
物自域 威力大 崩れ 体勢不利 窒息
【ブレイク・ショット】
物遠貫 威力大 万能 麻痺 呪縛

『デューク盗賊団部隊』
 20人ほどいます。士気はかなり低く、追い詰められています。
 破れかぶれで逃げ延びてきています。
 それほど強くはありませんが、窮鼠猫を噛むなんてこともあるかもしれません。油断は禁物です。

『ドロレス』
 下記のドロレス盗賊団部隊の大将、強敵です。
 刃物を連ねて作った鞭のような武器を両手に持つ、長い髪の女です。
以下スキル
【ポイズン・アウト】
物近扇 威力中 猛毒 致死毒
【ポイズン・スプラッシュ】
物自域 威力中 猛毒 連
【ポイズン・ショック】
物遠貫 威力中 連 氷漬

『ドロレス盗賊団部隊』
 20人ほどいます。士気は低く、追い詰められています。
 破れかぶれで逃げ延びてきています。
 それほど強くはありませんが、窮鼠猫を噛むなんてこともあるかもしれません。油断は禁物です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Butterfly Cluster> 蠍共よ死地にて踊れ完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月24日 22時35分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
焔宮 鳴(p3p000246)
壊世の焔
ラダ・ジグリ(p3p000271)
剣砕きの
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
ニル=エルサリス(p3p002400)
アルム・シュタール(p3p004375)
鋼鉄冥土
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者
アオイ=アークライト(p3p005658)
機工技師

リプレイ


 風が吹き、砂塵が微かに衣服を汚す。
 アルダハ遺跡のはずれ、岸壁に直接彫り込められたような形状の遺跡がある。
 ぽつねんとたたずむその遺跡をひっそりと取り囲む40人ほどの影。
「あそこですわね?」
 いつものように聖句が刻まれた魔術戦用メイスを担ぐように持つ『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、件の遺跡を見て少しだけ祈りを捧げる。
 暑さを気にしてか一応半袖仕様で着てきた司祭服が、風に微かに流れてくすぐったい。
「倒さないわけにはいきませんわね」
 祈りを終えて立ち上がりば緑色の瞳が遺跡に注がれた。
「やっとラサでの仕事かと思えば残党狩りか」
 故郷たるラサにて漸く受けられたローレットでの初仕事に対して少しばかり物足りなさを感じる『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)だった。
(仕方ない、名を売り込む機会だと思おう)
 そう思案する。行商、交易を行なう武器商人でもあるラダは、顧客を取り付けるべく静かに機会を狙うのだった。
 同じようにラサを出身とする『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)はちらりと共同戦線を張る『黒之衆』の代理団長――『白銀の光』竜胆・カラシナを見る。
 ラサに轟く傭兵団が一つ黒之衆に一目置かれる、共同戦線を受けるというのは悪い気がしなかった。
(緋道の剣に泥を塗るわけにも、期待を裏切る訳には行かないし。普段以上に頑張らないと……かしら)
 軽く愛剣に触れながら、視線を遺跡の方へ。
「……まぁ、それはそれ、これはこれ。勿論、普段通り楽しませても貰うけれどね?」
 遺跡の中にいる敵を想って、佐那は笑みを滲ませた。
(砂蠍の残党狩りか、前の決戦で親玉は倒しても全滅とは行かなかったからな)
 新生・砂蠍との決戦にて、その親玉を相手にしてきた『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)は、ぽつねんとある遺跡を見ている。
(あいつらが残ってる限り略奪なんかの被害は止まらないか。なら……今度こそ一匹残らず狩らねーとな)
 愛用のウィンチェスターライフルに魔弾を込めて、背負っているジェットパックの位置を少しばかり調整する。
「お姉ちゃん……」
 普段ののんびりとした雰囲気が少しばかり薄れた様子のある『木の上の白い烏』竜胆・シオン(p3p000103)は、参加したイレギュラーズ達でまとめた要件をカラシナへ伝えていた。
「伏兵を暴れさせてからの奇襲か。良いだろう。そうだな、クロノスの羽飾りは目立たないように付けさせている。それ以前に、幸いというべきか今回の伏兵達は貴様が見たら分かるだろう。黒之衆にはこちらから言っておこう」
 シオンが伝えれば、静かにカラシナからの答えが返される。
 目の前に立つ姉は、普段通りの凛とした姿で立っている。身長の関係で見降ろされるようになっている。
 じりじりと照りつく太陽の下で『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)はその様子をやや遠巻きに見つめていた。
 どこか複雑そうな思いの入り混じっているような、それはきっと、彼女の心の中だけに秘められるのだろう。 
 その様子を少しばかり遠巻きに眺めているのはニル=エルサリス(p3p002400)だ。
(シオンちゃんのねーちゃん美人さんなんだぬ。あの子も成長したらあんな感じになるのかにゃ~なんて)
 久し振りかもしれない二人の再会を見ながら、ニルは思う。もちろん性別が違うのだからシオンがそうなることはまずないだろう。
(砂蠍の残党まだいたのね…何だか上手く利用されてる気もするけど、このチャンスを逃すわけにも行かないわね)
 またあんな事が起きる前に、ここで叩く。『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)は視線を遺跡の方へ向ける。
 そのまま岸壁をなぞるように視線を上に動かして、空へ舞うために翼をはためかせ調子を確かめる。
(一人たりとも逃さないの! 小さくても禍根を残さないためにも、ここで全員倒すの!)
 そうやる気十分にグッと拳を握るのは『緋焔纏う幼狐』焔宮 鳴(p3p000246)である。
「それでは、そろそろ参りましょうカ」
 捌くのど真ん中では若干ながら目立つと言えなくもないメイド服で『堅牢なる楯-Servitor of steel-』アルム・シュタール(p3p004375)は砂塵を払い立ち上がる。
 そのまま自然な姿でスカートの下からどう仕込まれていたのか直剣と大盾が姿を現わす。
 

 シオン、アオイ、ユウの三人は岸壁に足を触れると共に蹴り飛ばすようにしてそのまま一気に天井に当たるであろう場所へとたどり着いていた。
(お姉ちゃん……俺頑張るからね)
 遺跡の上部は幾つか崩れ落ちてぽっかりと開いた穴が開いている。影ができないように気を付けながら、そろりと中を見る。
 眼下、二つの集団が若干の間を開けて存在している。超視力がないこともあり、流石にここからではクロノスの羽根は見分けがつかない。
 三人がそれぞれ自らの得物を構えた頃、遺跡の外から法螺貝の音がボォォと響く。遺跡内にいた者達が警戒したように立ち上がろうとしたとき、もう一度。それが途切れる少し前に三度目が、独特なリズムで鳴らされた。
 二度目の音に反応した敵の数人が、入り口に向かって走っていく。
 その直後に響いた独特な三度目と共に、敵陣の一部が動く。シオン達もそれに時同じくして天井から飛び降りた。
 敵陣、静かに、一人、二人と倒れ、銃声が乾いた空気に亀裂を作る。
「天国(あまくに)の黒光よ、響け」
 ぽつり。その瞬間、シオンが握る大太刀が、瞬くうちに黒雷を帯びた。
 グッと握る手に力がこもり、すさまじいスピードで降下すると、どよめく敵陣の一部へ流星のごとく飛び込み、周囲の敵を薙ぐように剣を払う。
 黒が爆ぜ、速度に合わせ踊った白い髪の向こうから、青と緑の瞳が敵陣を射抜く。
 その眼差しの先で、天井から降ってきた無数の氷結晶が数人の敵を貫いた。
「……死んじまいな」
 シオンの隣へ降りてきたアオイは、そのままシオンの背中側に群がる敵に向け、振るいあげた機械仕掛けの大鎌を一気に刈り取った。
 撫でるように刈り取られた敵の数人が、その身体に致命的な傷を残す。
「とりあえず、黒之衆と合流しないとね。道は明けても止まっていてはふさがってしまうし」
 氷結晶を黒之衆の伏兵と自分達を結ぶルートを形成する様に打ち込んだユウに、二人も同意しつつ、一直線に暴れはじめた黒之衆であろう方角へ走り出す。

「戻ってもらおうか」
 入り口方向へ近づいてくる敵を察知したラダは、静かに大口径ライフルの引き金を引いた。凄まじい衝撃と共に撃ち込まれた放たれた魔弾が、入口へ接近しようとしていた敵を貫いていく。
 その狙撃を始まりとして、イレギュラーズと黒之衆本隊は遺跡の中へと踏み込んだ。
「て、敵だぁ!」
 一番入り口側にいた一人が叫びながら後ろを向き――こちらに向かって後ずさりする。黒之衆と奇襲部隊による攻撃にやっと気づいたのだろう。
 二つの敵グループは混乱の中でどちらがどちらか上手く判別がつかなくなりつつある。
 レイチェルはその様子を見て、自らの変化能力を解放する。
 レイチェルの美しき銀色のそのままに、その姿はやがて獣へと変生する。
 美しく、恐ろしき闇夜における一つの王の形。金銀妖瞳の銀は静かに敵の方を見据え――
『ォォォオォォオオオ!!!!』
 放たれるは狼王の咆哮。
 魔力を帯び、衝撃波となったソレは、入り口近くへ着ていた賊兵達の身体を侵食し、その身体に呪いを刻みつける。
「主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え」
 王への畏怖か、或いは本能的な死への恐怖か。はたまたそれ以外か。
 動きを止めた盗賊達に向かうようにして、ヴァレーリヤは静かに聖歌が一節を口ずさむ。
 メイスの頂きにて燃えあがる聖火が踊りだす。静かに振り下ろせば、それは濁流と呼ぶに相応しき濃密な業火の奔流となって敵達へ押し寄せる。
 罪を、魂を、その全てを飲み込み、灰燼にきす一撃に飲み込まれた数人が、悲鳴ごと焼き消えていく。

「――うるせぇ!!!! 死にてえ奴以外は覚悟キメて前向きやがれ雑魚ども!!」
 不意の声と床を砕くような音がした。その瞬間、浮足立った盗賊団の一部の意識がそちらに向かう。
「向かうべき場所はたった一つ。やることは決まってんだろうがボケども!! 吠えろ! 喚け! 死んでも前へ突き進め!!」
「あれがデュークなんだぬ?」
 ニルは怒号の如き大きな声で指示らしき何かを告げた大男を見る。
 未だ混乱を続けている者もいる一方で、その声で我に返った者も一定数いる。
 その一定数の盗賊達が、自分達を――その遥か後ろ、唯一の出入り口を見据えたのがはっきりわかった。
「あいつは強そうなんだぬ」
「では、あちらにドロレスがいそうですネ」
 隣、アルムはもう一つの集団に視線を向ける。
 そちらの方は、伏していた黒之衆の攻撃を受けて明らかな混乱を残したままだ。
「ドロレスはワタクシにお任せくださいネ――ト言いたいところですガ、どうやら彼女をおびき寄せるにも邪魔者がいますネ」
 剣を構え、名乗り口上を挙げたアルムは、自分へ数人の盗賊が意識を向けたのを感じ取った。
 数人の黒之衆を従えるようにして、アルムはドロレスがいるであろう方の塊へと突っ込んでいく。
 ニルはアルムの様子を横目にしながら、自分は先に動き出している数人の黒之衆の傭兵達に紛れるようにしながら敵陣へと突っ込んだ。
 軽やかに舞うようにして手短な一人へと至近すると、そのまま足をしならせて蹴りを放つ。竜が尾を振るうが如き、速く、鋭く、重い一撃が、盗賊兵を、そのボロボロな鎧の上から強烈に打ち据える。
 敵の身体から、ボキッという音が鳴って、その盗賊兵は吹っ飛び、隣にいた者を巻き込んで地面に倒れた。
 そんなニルからやや離れた所でも、前衛同士による衝突は始まっていた。

 綺麗な黒髪を靡かせ、佐那は敵陣へと走り抜ける。右手に集められた力が、黒魔の刀身へと伝達されていく。
「それじゃあ、たっぷり楽しませてもらおうかしら」
 佐那が自然な動作で剣を振り抜くと、その瞬間には至近距離にいた複数の盗賊兵達を焼き払う。
 傷ついた盗賊兵士達へ、後方から黒之衆による砲撃がぶちまけられていく。
 視線の先、盗賊兵の向こう側、恐らくはデュークであろう大男は、盗賊兵達へ告げた事とは別に、入り口ではない方向へと進んでいる。
「伏兵をねらってるのね」
 いっそ清々しいほど真っすぐに向かう先は、こちらへの合流をはかる伏兵の黒之衆だ。
 距離的にこちらと合流するより早く、デュークの方が辿り着くか。

 鳴は戦場を走り抜けた前衛たちを巻き込まない場所を把握すると、静かに呪文を紡いでいた。それはやがて遙か敵陣にて、呪詛の込められた炎として顕現し、複数の盗賊達を巻き込んで燃え盛る。

 イレギュラーズと盗賊部隊がぶつかり合う中、カラシナは的確に部下を動かしながら、自らはあまり動いていない。その視線は静かにイレギュラーズの戦いを観察しているようで。
 自らに向かってくる流れ弾を僅かに最小限の動きで躱している辺り、盗賊――特に雑兵からの攻撃など意に介してさえいない。
 そんなカラシナが徐に緋色の水晶剣を掲げる。水晶が一際大きな輝きを発し、斬撃が敵陣の一部を裂いた。


 シオンの視界に大男が入る。こちらに背を向けた男の向こうでは、伏兵だった黒之衆の姿が見えた。
 二つの奇襲で始め、緒戦の勢いは明らかにこちらにある。しかし、デュークであろう大男はあからさまに脳筋風である割りに、動揺している部下達を一喝した後、伏兵の黒之衆に狙いを定めて反撃を始めている。
 この点、未だに混乱したままで乱戦に突入したもう一つの集団とは明らかに違う。

 こちらに背を向け、巨大な大斧を振り回して暴風を巻き起こすデュークを、シオンは後ろから斬り下ろした。
 衝撃で動きを止めた瞬間、体勢を崩していた伏兵達が素早く間合いを開ける。
「チッ――もう来たか、ローレット!」
 デュークが視線を向けてくる。振り上げられた大斧に対して、シオンは大樹の剣を構えながらも、やや身体を動かした。
 その直後、シオンが避けた場所を抜けて、氷の薔薇がデュークの腕へと巻き付いていく。
「俺達が相手だ……!」
「ひぃ、ふぅ、みぃ……へぇ、じゃあ、まずはてめえらからか」
 薔薇の毒と凍傷を受けながら、差ほど様子が変わっていないのは、まだ余力があるからか。
 自らの神秘性を高めたアオイは後方から迫る敵を再び機械仕掛けの大鎌で刈り取りながら、他の7人と合流しやすいよう、徐々に道を探していく。
「流石に深くにきすぎだな」
 思いのほか敵中深くに来てしまったのは、デュークが伏兵の方へとすぐに移動を開始したせいだ。
 伏兵達と合流することが同時に敵陣の深くへ突き進むことになってしまった。とはいえ、元より最終的には彼から狙う予定だった。焦るほどではない。
 伏兵達を回収して、徐々にデュークから離れるように、三人は移動を開始していく。

 幸か不幸か、敵の軍勢は一緒にこちらに対応するということはしてこない。
「お目にかかれましたカ。貴方がドロレスですネ」
 まだ茶目っ気さえ見せながら、アルムは見えてきた長い髪の女に告げる。
「さっきからピーピー啼いてたのはアンタかい! 鬱陶しいったらありゃしない! これでもくらいな」
 対して女――ドロレスがその手に握る鞭のような武器を振り下ろした。盾で弾くこともできるソレを、アルムは敢えて受けた。
 首筋を浅く裂いた刃物から、じわりと毒が入ってくる。しかし、その効力は発揮されない。
「生憎とお得意の毒とやらはワタクシは効かぬようですわネ?」
 騎士が受ける大いなる加護が、浴びた毒性を無意味なものへと叩き尾落とす。
「そうかい!」
 再度の振り下ろし。次いでの攻撃をアルムは盾で弾くと、更に近づいていく。
 本来の鞭と違って、彼女の武器は全部が刃物。鞭のように手繰り寄せて近くの敵と戦うには不得手なのだろう。
 至近したアルムは、盾で敵の攻撃を弾いた直後、直剣をドロレスへと振り下ろした。
 取り巻きの盗賊兵と、合流した伏兵を含む黒之衆がぶつかり合い、互いを大将から引きはがすように動きを続ける中で、二人は戦いを続けていく。

「どっせえーーい!!!」
 気合の咆哮と共に、ヴァレーリヤは炎を纏ったメイスを振るう。
 地面すれすれから振り上げるようにして殴りあげれば、盗賊兵の鳩尾あたりを尋常じゃない力で打ち据える。
 魔術と鉄騎の馬力を加えた強烈な一撃は、その盗賊兵をあっという間に沈めてしまう。
 そんなヴァレーリヤの背後を取った盗賊兵の頭部を、更に後ろからニルの脚が捉えた。
「ありがとうございますわ」
 どたりと崩れ落ちた敵の音に気付いて振り返ったヴァレーリヤはぺこりと頭を下げる。
「無事ならいいんだお。今どれくらい倒したんだぬ?」
「分かりませんけど、そろそろ任せても良い頃かしら」
 そう言いつつ、ヴァレーリヤはニルにヒールを施した。

 佐那は位置を整えながら再び剣を閃かせ、爆裂を打ち込む。立ち上がってきた複数の盗賊兵を再び沈めていく。しかしその中の一人が再び立ち上がる中、佐那は至近すると、そいつを一刀のもとに切り捨てた。

 ラダは入り口からやや戦場の奥の方へ進みつつあった。ある程度進んだところで、自立自走式爆弾を取り出すと、それをぽいっと敵がある程度まとまっているところへ投げ込んだ。
 爆弾は着弾すると、ぼむっと音を立てて爆風をまき散らす。二つの盗賊団を区別なく蹂躙した爆弾の着弾を見るよりも前に、ラダは既に移動をし始めていた。元々いた場所に、敵の砲撃が放たれ、微かにヒビが割れていく。
 レイチェルもまた、ラダと同じように戦場の奥へと進みつつある。狼王に変化しての咆哮を放ち、ドロレスの相手を取るアルムの方へ援護を放つ。
 元々士気の低い敵が徐々に遺跡の奥へ進むように、イレギュラーズも黒之衆も前へ進むのだ。もちろん、それまでの間に黒之衆もレギュラーズも多くの傷を受けてはいる。
 最早、窮鼠である盗賊たちには猫を噛む気力さえ、ほぼ存在していないだろう。
 そろそろかと、レイチェルは自分より若干ながら前を進むラダへハイテレパスをつなぐ。刹那的に振り返り、彼女からの首肯を見たレイチェルは、今度は黒之衆の方へ振り返った。
『これから俺達は敵団長を狙う』
『良いだろう。貴様らのお手並みを拝見するとしようか。雑兵共はこちらで片付けよう』
 振り返り、カラシナの返答を受け取った時だった。
 敵の方向から、奇襲班だった三人が恐らくは伏兵であろう盗賊風の姿をした者達を引き連れてイレギュラーズの前線へと躍り出てきたのだ。

 一瞬、敵の姿が眼前から消える。どうやら、敵の包みを抜けたらしい。アオイは振り返る。
「大丈夫か?」
 そう言って問いかけた相手の傷は多い。もう何度目かの問いかけだ。
「まだ大丈夫だよ」
 奇襲班で唯一の前衛だったシオンの手傷は相応に多い。身体中にはいくつかの痛々しい痕が残っている。
 シオンへハイ・ヒールをかけつつ、アオイは敵の方を見た。
「――しつけぇなぁ、餓鬼がよ」
 そういうデュークにも、少なくない傷が刻まれている。
 デュークが強敵であるという以上に、どちらかというと味方との合流を第一としていたが故の差だ。
「俺は負けられないんだ」
 シオンが再び剣を構えた時、後方から銃声が響いた。風がシオンの頬を走り、デュークの右肩辺りで爆ぜる。
「ちっ、いつの間にやら前に出ちまったか」
 右肩を抑えたデュークの言葉がした直後、シオンの両脇を走り抜けるようにして、二人の女性が駆け抜けた。
 猛スピードで踊り込んだニルが、その速度を乗せたように、体重ごと乗せた強烈な一撃を叩きこむ。大柄なデュークに向けて撃たれた一撃が、人体的な急所を捉えて貫いた。
「ぐっ!?」
「ひとまずは少しだけ下がった方がいいと思うわ」
 よろめいたデュークへ追撃を叩きこんだ佐那はちらりとシオンを見て言う。
「分かった……」
 下がっていったシオンへ向けて、ヴァレーリヤによるヒールが重なるように施されていく。
「殺し損ねることになりそうだなぁ」
「代わりに私達が殺してやろう。盗賊の墓代わりには上等だろう?」
「くはっ、違いねぇ!」
 ラダの返答にデュークは笑いながら大斧を担ぎなおす。どうやらそれが彼にとっての構えのようだ。
「音に聞く黒之衆に殺されるだけかと思ったら、まさかイレギュラーズもくるたぁ上等だ。墓場に行くにしたって土産の一つくれぇは欲しいところだが?」
 嗤って、直後に男は大斧をその場で振り下ろした。尋常じゃない膂力と魔力が込められた一撃が床へとぶちまけられ、その衝撃派が床をえぐりながら走り抜け――動きの鈍かった鳴へと炸裂した。
「誘われちまったあの瞬間から、楽しみにしてたんだ」
 その言葉と共に、デュークが走る。デュークの行きつく先を先読みして、レイチェルは狼王へと変化し、咆哮を上げた。衝撃に煽られて、デュークが動きを止める。
「俺から逃げられると思うなよ?」
「はっ、元より逃げ道なんてくれねえだろ!」
 痺れたような様子を確かに見せながらも、デュークが笑っていた。 

 ユウは本隊とも呼ぶべき戦友達とデュークの戦闘開始を見届けると、少しばかり後ろ髪が引かれる気持ちを持ちつつ、飛び上がった。
 明らかな激闘を予見できるとはいえ、ここだけが戦場ではないのだ。
「お待ちしておりましたヨ。ほとんど一人で倒してしまうところでしタ……なんテ」
 向かった先でそう言うアルムの様子を見て、そういう冗談が言えるぐらいには元気になのだと理解しつつ、ハイヒールをかけていく。
「ちっ、いつまでたっても倒れないばかりか、なんども回復しやがって」
 苦虫を潰したような顔を浮かべるドロレスが、味方を巻き込むことなど関係なしにむやみやたらに武器を振り回す。
 アルムがそれを盾と剣を器用に駆使して最低限の被害に抑え込む。その見事な捌きの間、アルムは一歩もその場から動いていない。
「今度はそっちが苦しむといいわ」
 ユウはアルムへの攻撃に対する報復とばかりに権能をわずかに開放し、術を発動する。氷の薔薇が咲き、仕返しとばかりに今度はドロレスを猛毒で蝕んでいく。

 デュークとの本格的な戦闘開始からやや時間が経過した。イレギュラーズは苦戦を強いられていた。
 自由な身動きを取らせてもいいとは、残念ながら言えない敵だった。幸い回復を行なう者が数人いることもあって、戦線崩壊とはまではいかないが、その代償は安くはない。
「……バケモンかよお前ら。それ、全員もってんのか」
 デュークが頬を引きつらせた。パンドラの加護による復活を彼が見たのは二度目だ。
「さっきの嬢ちゃんのことを考えれば、二回つぶしゃあいいんだろ」
 そういう彼の声は低い。最初の頃の死ぬ前の戦いに対する歓喜のようなものは確実になりを潜めている。
「今度はこっちの番だぬ!」
 タンと独特のステップを結んだニルはデュークに向けて駆け抜けると、飛び上がり、両足で噛みつくような動きを見せる。
「ちっ!」
 デュークに振り払われながらも、彼から体力を吸収する。
 続けるように駆け抜けたヴァレーリヤが炎を纏ったメイスで殴りつける。大斧で防がれこそするものの、炎がデュークの身体をわずかに焼く。
 レイチェルは続くように近づいて闇の爪痕でデュークをがっつりと裂いた。
 言葉も少なに武器を振るうデュークに、佐那の剣閃が閃く。
「ぉぉぉぉぉおおお!!!!」
 雄叫びと共に、デュークは前衛のイレギュラーズを避けるように動き、ニルめがけて再び床をえぐりながら進む衝撃波を放つ。ニルはよけきれずに衝撃波に打ち据えられた。
 対応するように放たれたラダの魔弾が、今度はデュークの右目を打ち抜いた。右目を抑え、呻きながら二歩、デュークが後退する。
 シオンは敵の様子を見ながら、霊樹の大剣を握りなおす。一気に駆け抜けて、全身の力を刀に籠める。
「絶対に倒す……!」
 普段は眠たげな双眸に珍しく力を宿して、シオンはデュークの懐へと潜り込む。真っすぐ、華やかに、ただねじ伏せるだけの一太刀が男へと吸い込まれていく。
 対応するように、デュークが構えた大斧をさっくりと叩き折り、そのまま肉を、骨を真っすぐに砕く。
「くそったれ……」
 尻もちをつくようにして倒れたデュークは、そんな一言を漏らして倒れていった。
「死んだか……あと一人だな」
 アオイは少しばかり安堵にも似た息を漏らして、周囲を見る。気づけば、周囲の盗賊兵はあらかた倒されつつある。
 黒之衆の矛先は、デューク盗賊団の多くを捕縛し、ドロレス盗賊団の方へ向かいつつあるようだ。


 ドロレスの攻撃をほぼ無効化でき、なおかつ支援も期待できるようになったアルムは、ドロレスとの戦いを長引かせることを完璧なまでに熟していた。
「悪い、遅くなった」
 アオイはユウの支援を受けてヒールを浴びていたアルムに自らのヒールを重ねる。
「皆さんご無事で……はなかったようですネ」
「なんだ、あの図体のでかいやつは死んだのかい」
 イレギュラーズの集結を見て止めたドロレスが嘲笑を浮かべる。
「アンタもすぐに地獄に行くんだぜ」
 レイチェルは金銀妖瞳で告げながら、すぐさま獣へと姿を変え――咆哮を放つ。その衝撃に煽られたドロレスに向けて、ラダは遠距離から魔弾を打ち込んだ。精密狙撃がドロレスの足元を打ち抜き、動きを縫い留める。
「くっ、元気がよろしいことね!」
 ドロレスが放った刃物は、鞭のようにしなりながらアルムを超え、ニルの肩口を貫いた。
「構わず、やるんだぬ!」
 回復しようとしたアオイを制して、ニルは叫ぶ。
「あぁ、すまん」
 幾度目かになる機械仕掛けの大鎌を振るい、ドロレスめがけて振り下ろす。それをドロレスはもう片方の手に持つ刃物を巻き付けて防いだ。
「待ってたわよ」
 両手を封じたことでがら空きとなった懐へもぐりこむと、佐那は静かに刀を抜き放つ。ばっさりとドロレスの腹部を切り裂いた。それに続くようにして、ユウが氷の薔薇を使って彼女の動きを縛り付ける。
 最後に躍り出たシオンが剣が、大上段からドロレスを裂いた。
「くそくそくそ!!」
 短い悲鳴の後、叫ぶドロレスに対して、ヴァレーリヤが駄目押しとばかりにメイスを叩きこんだ。傷口が開き、流血があふれ出す。
「終わりだ」
 息も絶え絶えなドロレスに向けて、レイチェルがイーヴィルクローを放てば、それを最後に女も息絶えた。


 二人の団長を討ち果たしたことで、盗賊団の兵士達の士気は致命的になった。
 抗戦を続けていた両盗賊団の兵士達も心が完全に折れたのかあっという間に降伏していったのだ。
「お姉ちゃん、俺は成長してるかな……」
 戦いを終えて遺跡を出たところで、シオンはぽつりと声を漏らす。その視線の先でカラシナは部下に指示を出している。
 一通りの指示を出したのか、カラシナは振り返ってイレギュラーズの方へ近づいてきた。
「荒いところはあるが、これならばもっと大きな仕事を任せても良さそうだ」
 少し考える様子を見せてから、カラシナはイレギュラーズに告げる。
「正直、二人の団長を両方とも討ち取れる可能性は五分五分といったところだった」
 着飾るという事をせず、淡々と事実のみを告げるような言葉だった。
「また会える時を楽しみにしている」
 そう言ったカラシナは一瞬、シオンの方を見て、小さく口を動かした。
(もっと強くなって、いつか――)
 言葉に出されないそれの結びは、砂漠の風に乗って消えていく。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

焔宮 鳴(p3p000246)[重傷]
壊世の焔
ニル=エルサリス(p3p002400)[重傷]

あとがき

お疲れ様です、イレギュラーズ。
淡々と処理させていただきました。

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