PandoraPartyProject

シナリオ詳細

カミカゼ

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●ワタシハ
 マシェリ・ランプが殺人を犯したのは彼女が十五の時だった。マシェリはある時、美しいメイドを殺してしまう。その顔には冷たい笑み。
「……貴女が悪いのよ、メニー。貴女が私を侮辱したのだから……仕方ないじゃない」
 マシェリは首が折れ曲がった女を見下ろす。メイドを待ち構え、階段から突き落としたのだ。
「私より美しいものはイヤ。許されない、許されないの」
 マシェリは鏡を見ることも、鏡の前に立つことすら嫌悪している。騒然とする屋敷。それでも、マシェリはじっと女を見つめている。
「ああ、いい気味ね……」
 不出来な顔、目はとても小さく、沢山のホクロが浮かぶ。両親はそんなマシェリを溺愛してくれる。だが、彼ら以外の視線がマシェリは恐ろしかった。
 探るように動く目玉達──
『おかしいね、おかしいじゃないか。どうして、フォードとアイリスの子供なのに……』
 その意味を理解したのはいつだったのだろう。噛み締める唇。
『おや? うーん、似てないねぇ。でも、瞳は美しい、美しいなぁ』
 人々は言う。そのときだけ、マシェリの心は満たされる。瞳は、瞳だけが誇れるのだ。グレイの瞳は光によって、ブルーやグリーンに変わる。ただ、それは一瞬のこと。すぐに美しい夢は散る。彼らの言葉はマシェリの心を簡単に噛み砕く。視線は蛆虫のように残酷で、笑い声は猛毒。マシェリはよろけ、震える。
『マシェリ?』
 ハッとする。沢山の顔、全てがマシェリを見つめている。
「ああ……誰も私に構わないでッ──」
 呟く声は悲鳴に変わる。
「ああ……」
 眩暈がする。やがて、マシェリは引きこもり、銀色の仮面を付けるようになる。仮面からは美しい瞳だけが見える。醜い顔は覆い隠されたのだ。人々はマシェリの言動に怯え始めた。
『あの子はもう……』
 マシェリは耳を塞ぐ。誰もいない部屋に声だけが響く。
『病院には連れて行ったのかね、アイリス?』
『困ったねぇ、君達の育て方が悪いのでは』
『ああ、無気味……とっても気持ち悪いわ!』
『止めてくれ。仮面を外したまえ、マシェリ! 君は美しい、美しいんだよ! だから、さぁ、早く!』
「あっ、あっ……」
 マシェリは怯える。誰かの手がマシェリを掴もうとする。
 それは触手のように恐ろしく──
「いや! ああ、止めて! 私を縛らないで、自由にさせて……見ないで……こんな私を!!」
 唾が散る。
(ああ、苦しい。満たされない……私は……何を……どうして、此処に……)
 手はマシェリを追いかける。目を見開く。グリーンの目玉が浮遊する。
「あっ、あっ……見ないでぇ! 見ないでよ! ううっ、どうしてッ!? あああああっ!!!」
 マシェリは喘ぎ、震える手で椅子を掴み、振り回す。
「あああああああっ、消えろ!! 消えてしまえ!!!」
 屋敷にはマシェリの声が響く。
「マシェリ……」
 アイリスは呟き、フォードがアイリスを抱き締める。屋敷の鏡は全て割られている。

 それから──
「ああ、目が覚めた?」
 湿った牢には、マシェリと女が一人。女は四肢を鎖で繋がれている。彼女が動く度にきぃきぃと鎖が泣きわめく。女の身体は濡れ、水が滴る。
「羨ましい、羨ましいの……何もかもッ!!」
 マシェリはけらけらと笑い、バケツの水を女にかけ続ける。女はむせ、泣きわめく。
「ああ……」
 息を吐く。女はもう、動かない。マシェリは呻き、白い手を眺める。
「私は……」
 マシェリは呟く。この手でどれ程の罪を犯してきたのだろう。
「それでも……」
(この手を止めることは出来ない……)
 マシェリは泣きそうな顔で斧を掴み、女の身体を切断し始める。
「誰か……救って……こんな私を……誰か……」

●ナニ?
 ローレットで 『ふらり、ふらりと』青馬 鶇(p3n000043)はフォード・ランプとアイリス・ランプを見つめている。彼らの顔はとても深刻で──
(いったい、何を依頼しようと……)
「あ、あの!」
 アイリスが口を開く。
「私達の娘、マシェリを……殺してくださいませんか?」
 アイリスは震える。
「どういうことだい?」
 鶇は眉を寄せる。
「娘であるマシェリ・ランプは殺人を犯しているんだ」
 フォードは悲しそうな顔をする。
「最初はそう、メイドがマシェリに鏡を渡したことから始まりました。マシェリは鏡に映る自分の姿に嫌悪していたの……あの子は苦しんでいる、それなのに……私達は彼女を癒すことが出来ないんです……私達は彼女の罪を隠すことでしか彼女を助けられなかった……それでも、もう……」
 アイリスは嘆く。
「何度も伝えたんだ、僕達は君を愛しているって。それに……容姿のことだって……でも、彼女は……僕らすら拒絶して……お願いだ、娘を! この世界から解放して欲しい……」
 フォードは言う。彼の顔は蒼ざめ、唇は震えている。
「それと……マシェリは……恐ろしいモノを作っているの」
 アイリスは震える。
「恐ろしいモノ?」
 鶇は訊ねる。
「そう、遺体を縫合したオブジェを……あれを一緒に破壊して欲しい。僕らはもう、解放されたいんだ……ごめん、ごめんよ、マシェリ……」
 両親は乞うようにイレギュラーズ達を見つめ、冷たい涙を流していく。

GMコメント

 ご閲覧いただきましてありがとうございます。

●依頼達成条件
 マシェリ・ランプの殺害と遺体を縫合したオブジェの破壊。

●依頼人
 マシェリ・ランプの両親(美男美女) 50代
 彼女を今も愛しているが止まらない殺人衝動に疲弊し、ローレットに依頼しました。屋敷にはマシェリ・ランプしかいません(屋敷の入り口は施錠されておりません)

●対象者
 マシェリ・ランプ
 20代後半で女。今まで数十人を殺害している。容姿は仮面+ドレス。常に片手斧とボーガンを所持し、鏡に映る自分の姿に怯えている。引きこもりで激情型。殺人能力に優れ、成人男性であっても殺害してきた。一撃が重い。遺体を縫合したオブジェを見つめ、心を落ち着かせている(己より不出来なものがあると)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●時刻
 昼間から夜中まで。
 どのタイミングで踏み込んでも大丈夫です。屋敷の地図は前もって人数分渡されています。

●場所
 2階建ての屋敷で、マシェリ・ランプは2階の部屋または地下牢にいます。部屋には鍵がかけられています。地下牢の一番、奥には遺体を縫合したオブジェ(2M程)があり、異臭を放っています。ただ、遺体を縫合したオブジェはしっかりと鍵がかけられ、切断しにくい鎖が扉に巻きついています。

  • カミカゼ完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月21日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
ラクリマ・イース(p3p004247)
協調の白薔薇
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
ウィートラント・エマ(p3p005065)
Enigma

リプレイ

●昼間の屋敷
「僅かにマシェリと血の臭い……一階と地下牢にはいないようだぜ」
 ランプ夫妻から預かったマシェリのハンカチを嗅ぎながら『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103) は目を細める。
「ジェイク様の話の通りでごぜーますなら、いきなり、あそこの扉から飛び出してくることはないということでありんすねえ」
 『Enigma』ウィートラント・エマ(p3p005065) はくすくすと笑い、『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247) は口と鼻を腕で押さえながら湿った地下牢の階段を覗く。
「ああ、凄い状態ですね……」
 弧を描く、漆黒の霊魂。ラクリマは扉を閉め、今度は晩餐室に。

「ああ……なんだ、ここはトイレでごぜーましたね。失敬したでありんす。くふ、くふふ、くふふふ」
 ウィートラントはつまらなそうに扉を閉じようと──
 そもそも、捜索自体、ウィートラントは乗り気ではない。
「いや、待て。何か音がする」
 舞踏室から出てきた『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007) が制する。小首を傾げるウィートラント。マカライトは耳をそばだてる。定期的なリズムと足音。仲間の足音は既に把握している。
「中を見てこよう」
 マカライトはウィートラントに声を掛け、中へ入っていく。

 イレギュラーズ達の目的は、二つの鍵とマシェリの心に響くモノ。

 二階捜索班は、長い螺旋階段をゆっくりと上り、マシェリを警戒する。呼吸にすら気を付け、辿り着いた廊下。
「おや? 酷い臭いがする。これは困った、シャワーも浴びていないようだよ」
 『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は頭部の翼を動かし、肩をすくめる。
「うん、駄目だね。臭いがこもっているみたいだ」
 マルベートは地図を見る。二階はL字型となり、ゲストルームや図書室、プライベートルームになっている。
「もしかしたら、突然、出てくるかもしれません。見つかるのはしょうがないとしても、先手を取られるのは大変ですからね」
 『女三賊同盟第一の刺客』エマ(p3p000257) は気配を殺しながら、仲間とともに歩く。
「日記のようなものがあるといいんですが……ひひ……」
 笑うエマ。その横には──
「エっちゃん、聞こえる? いたね」
 『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390) がエマを見た。エマは頷き、立ち止まる。カタラァナはずっと足音に紛れる程の音を出している。
「暴れているね。心がとても苦しいのかな」
 カタラァナは反響から、エマはカタラァナの音とは異なる音を把握する。
「マシェリは私室に引きこもっているようだね」
 マルベートがふわりと前に出る。音はマルベートの耳にも届いている。
『来るのか?』
 『穢翼の回復術師』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593) を操る神様が呟く。
「どうなのかな?」
 ティアが小首を傾げ、「何処かの部屋に隠れた方がいいのかもしれないね」と言った。
「……大丈夫です、聞こえなくなりました。ではでは」
 エマはさっと動き、フォードとアイリスの寝室の鍵をそれぞれ、解錠する。
「探すのはこの二つくらいかな? 図書室も探す? 何も見つからなかったら図書室に向かった方がいいかな?」
 カタラァナの言葉に皆が頷き、行動を開始する。エマとカタラァナはフォードの寝室、ティアはアイリスの寝室に。両部屋とも、緊急に備えて扉は開けてある。
「地下牢に行こうとしなければ良いけど」
 マルベートは廊下の先を見つめる。探索中の遭遇は何としても避けたい。
「それはとても嫌なことだね」
 ティアが顔を出し、マルベートを意識する。カタラァナの助言の元、絶対に1人にならないよう、行動するのだ。

「わっちが念の為、見張っていたでごぜーます。どうでありんす?」
 戻ってきたマカライトにウィートラントが声を掛ける。
「ああ、蛇口から水が流れていただけだった。だが、洗面台にこれが」
 マカライトはバケツを掲げ、ウィートラントはああと笑う。
 一方、ジェイクは厨房で呟く。
「ないな、見つからないぜ。別の場所を探すか。ん?」
 目に留まる室内収納庫。ジェイクは優れた嗅覚でそこにワインボトルが納められていることを知り、引き戸に触れる。
「おっ、工具箱だ。ラジオも時計もあるぜ。雑多な感じだ。ここにあれがあるかもしれないな」
 ジェイクは床に物を次々と置いていく。

 ラクリマは晩餐室で一人、息を漏らす。アンティークなテーブルや椅子には、さりげなく施された美しい彫。ラクリマは立ち止まる。メイドの魂が青白く光り、ラクリマの前へ。
「どうして、彼女に鏡を見せたのです?」
 ラクリマは問う。
『悪気は無かったのです。お嬢様も鏡を見たがっていました。あの時、旦那様と奥様がお嬢様の容姿をお褒めになったのです。だから、持っていた鏡を見せてしまった……本当は訊ねれば良かった。久々に嬉しそうにしていたお嬢様を見て、私はなんて愚かなことを……ああ……鏡を見せなければ……私は……』
 ラクリマはオブジェについて問う。だが、メイドは答えない。いや、正確には答えられない。彼女の記憶に、オブジェは存在しないのだ。ただ、メイドはさめざめと泣き、ラクリマは黙り込む。
 
『これは日記だろうな』
 ティアを操る神様がアイリスの寝室で呟く。
「うん、そうだね。マシェリのことばかり書いてあるよ」
 ティアは文字を追う。
「文字が震えてる」
『ああ、そうだな。使用人の遺体を処理したことが記されている』
「うん。最初は切断は行われていないんだね」
 ティアは目を細め、気が付く。黒く塗り潰された文字。そこには小さく、『死んで欲しい』と震える字で書かれている。

「ここには沢山の薬があるよ。眠れないのかな?」
 フォードの寝室でカタラァナが言う。
「そうかもしれませんね」
 エマは答える。カレンダーには、通院の文字が記されている。
「あ、エっちゃん。日記はなかったけど、手帳ならあったよ」
 カタラァナの声にエマは振り返る。
「はい。とても綺麗な字だったよ」
 手帳をエマに手渡す。
「ありがとうございます。さて、どんなことが」
 見ると手帳には、×印。その横には肩と記入されてある。
「………?」
 エマは首を傾げた。分かるのは、 夫妻かマシェリしかいない。

●最期の時を
 合流したイレギュラーズ達は息を潜める。奥から大きな音と怒鳴り声が何度も響いている。癇癪を起こしたのだろうか。中の空気が毒のように漏れていく。ジェイクとマルベートが堪らず、顔をしかめた。他の者でさえ不快な臭いを知る。エマが音に紛れるように解錠し、皆、耳を澄ます。音は止まない。イレギュラーズ達は安堵し、タイミングを見計らう。マルベートがともに前衛で戦うエマに触れた。贈ったのは一時的な肉体再生能力。自らの身体には、既に暗黒への贈り物を。
 ふと、音が止む。イレギュラーズ達は、頷き合う。

 ──今だ!
 
 ドアノブを掴み、絨毯を強く蹴る。疾風のようにイレギュラーズ達は部屋に踏み込んだ。
「はっ!?」
 椅子に腰かけていた彼女はバネのように飛び上がり、裂けんばかりに両目を見開いた。
「ねぇ、どうかな?」
 先手を取ったのは中衛のティア。手には手鏡。仮面の目玉が血走り、不自然に震える。
「出来るだけ早く休ませてあげるね」
 ティアは全力攻撃で穢翼・白夜を放った。生命力を奪う魔法がマシェリを貫く。
「うっ!? うううううううううっ!」
 不吉と苦鳴に顔を歪ませるマシェリ。ふらつく足元、掴む斧。突然の攻撃に身体が反応しない。
「えひひ……がら空きですよ!」
 真横から飛び出したのは、エマ。
「依頼主から、この世から解放してあげろとのお達しです……来世に期待してくださいな」
「──ッ!?」
 避けることすら出来ずに音速の殺術がマシェリを突き抜ける。攻撃集中によって、頭をかぐりと垂らし、凍結に震える。
「ああっ、痛い! 痛くてどうしようもないの!」
「マシェリ!」
 叫ぶジェイク、舞う録音再生機器。
「なに……これ……?」
 足元で録音再生機器が静かに回り、マシェリの視線が不安げに揺れる。
『ああ、準備は出来たかい? さぁ、歌ってごらん? ふふ、とても綺麗だ。マシェリ』
 笑い声。その声は父であるフォード。
「あっ、あっ……いっ、いやああああああああっ!」
 痙攣を起こすマシェリ。ジェイクは目を細める。夫妻から聞いた思い出の品。
「聞いただろう? 両親に愛されていた事を胸に抱いて死んでいけ」
 低く唸る声。憐憫を含んだ瞳がマシェリを捉えた。
 ──撃たれる。
  片耳を押さえたジェイクが転がる様に筒口を向ける。 脳裏に浮かぶ死、マシェリはその身を強張らせる。
「ああ、歪んだ心に狼の口づけを」
 銃声。呻く声、舞い上がる赤。崩される防御。
「あ……」
 喉を鳴らす。今度はラクリマが動いたのだ。中距離から振り下ろされる、冷血なる贖罪。苦しまぬようにという、ラクリマの願いが込められている。
「あああああああっ!?」
 血の鞭が華麗にしなる。鞭はマシェリを打ち付け、蔦のように絡み、柔らかな身体を引き裂く。ぼたぼたと出血するマシェリ。
 
 それでも──

「助けて! 誰が助けて!」
 鮮血のドレスを重く揺らしながら、マシェリはイレギュラーズ達の動きに食らい付く。 誰かが舌を鳴らす。マシェリは攻撃の刃をぎりぎり避け、可憐に笑う。
「あら、そこにいたの?」
 イレギュラーズ達はどきりする。マシェリの瞳は涙で濡れ、視線の先にはカタラァナ。マシェリは惹きつけられ、吸い込まれていく。選んだのは、ボーガン。
「──ッ!」
 マシェリは勢いよく、ボーガンを放った。鋭い怒鳴り声が重なり合う。酷く、耳障りな音。
「あっ……──」
 カタラァナから漏れる吐息。身を捻り、避けたはずだった。禍々しい殺意がカタラァナに食い込む。
「あははははははははははっははははははっ!!! 当たった、当たったの!」
 マシェリは腹を抱えて笑う。

 みにくい あひるは すくわれて 
 せむし おとこの あすはなく
 それでも あしたの かねはなる♪

 カタラァナが歌う。茫然とするマシェリ。
「ねえ。そんなに見られるのが嫌いなら、一番に取っちゃえばよかったのに。その首。なのに、なんで他の人を殺したの? 本当の気持ち、ぜーんぶ教えてほしいな」
 カタラァナは言う。マシェリから受けた傷は浅い。マシェリの目つきが変わる。仮面の下で蒼ざめ、赤く染まる。
「黙れ! 貴女に、貴女には分からない! この顔で生きていく辛さが! え……?」
 マシェリはぽかんとする。気がつけば吹き飛ばされていた。
「くふ、くふふ、くふふふ。ああ、可笑しいでごぜーますねえ?」
 ウィートラントが笑う。不可思議な縄がマシェリを弾き飛ばした。
「うん、これなら具合が良いね」
 声。仮面へと伸びる腕は、触手のように、残酷で──
「なんだ、可愛いじゃないか」
 マルベートは仮面を失ったマシェリに、問いかける。
「自身の姿を認め、愛し、誇りを持つ事は出来ないのだろうか?」
「仮面を返せえぇ! 私の! 私の大切な仮面を!」
(ああ、やはり、駄目か)
 マルベートは眉を寄せながら右足を軸に、身を捻った。
「自分で自分も愛せないなら、獣でも人でもないのなら、愚かで哀れな君を殺そう」
 紫雷を帯びた双槍が空気を巻き込む。
「いっ!?」
 攻撃集中によって、ドレスに隠された肉が無惨に切り刻まれる。
「ううううう」
 血飛沫が舞う。握り締める斧。全身は冷たい汗に支配されている。マルベートは双槍に付着した血液と肉片を指先で拭い、舌先で味わう。

 揺れる、揺れる。振り子のように。マシェリは顔を上げ、口から血を零した。足音が散る。イレギュラーズ達は、誰ひとり欠けることなく、マシェリを確実に傷つけていく。イレギュラーズ達は視線を交わす。

 ──このまま、押し切る!

『怖い。私はあの子が恐ろしい。何を間違えてしまったのだろう。ああ、神様! マシェリは本当に私達の子だろうか。ああ、私は悪魔のように願ってしまう。彼女のいない世界を。もう、手に負えない』
 ティアを操る神様がアイリスの日記を朗読する。
「そういうことみたいだよ?」
 ティアが目を細めた。マシェリが過呼吸を起こす。苦しげに見開かれる美しい瞳。そこにはジェイク。
「倒れろ」
 引かれる引き金。凄まじい速度で放たれる光柱。転がるマシェリ、その身は汚れた布のように心許なくて──
「ひっ!?」
 マシェリは息を呑む。施される簡易封印。
「ああ、苦痛に歪む瞳は宝石のように綺麗でごぜーます」
 ウィートラントが言い、飛びかかるマルベート。笑いながら、マシェリの血肉を喰らう。定まらない視線、震える唇。
「ああっ!?」
 マシェリは嫉妬の鏡に映った自らの手に仰け反る。鏡を向けたのはラクリマ。自らの痛みのように顔をしかめ、眼帯に触れる。そこに眼球は無く、今でも眼帯は人前で取ることが出来ない。欲したのは気を逸らすこと、それ以上の事は望んでいない。
「え?」
 強い視線。マカライトの悪意なき瞳が、マシェリの心を乱す。
「どうして、あの視線じゃないの。どうして!?」
 マシェリはぞっとし叫ぶ。
「どうした、何を怯む?」
 ライフルが火を噴き、ばったりと倒れるマシェリ。迅速な抜き撃ち。
「ううっ……この痛みをあなた達に!」
 呻き、立ち上がる。
「駄目。次は僕だよ」
 カタラァナが掻き抱くブライニクル。歌ならぬ魔術が致命傷に近い傷をマシェリに刻む。
「あっ、やだ! 痛い、痛い、嫌! この、まま、しに、たくない……!」
 マシェリは髪を振り乱し、跳躍する。
「ああああああああっ!」
 斧を真横に回転させる。同時に裂けていく身体。
「──!」
 前衛と中衛の者達が飛び退く。
「……嘘」
 エマが壁を蹴り、背後からソニックエッジを攻撃集中で強引にねじ込み、マカライトが踏み込む。
「さよならだ」
 マカライトはマシェリに盾を振るう。つんざくような悲鳴と鈍い音が聞こえた。
「……」
 美しい瞳は光を失い、戦闘でひしゃげた二つの鍵がポケットから飛び出す。

●オブジェ、そして、未来
 ティアは皆とともに黙祷を捧げた後、カタラァナの傷を癒していく。

 マカライトはカンテラの炎で地下牢を照らし、「凄い臭いだ」と呟く。ジェイクがサイバーゴーグルで足元を見つめ、「そこ、どろどろしてるぜ」と鼻を摘まみながら指さす。
「うげげ!」
 エマは瞬時に後方へ。地下牢は、死臭に支配されている。
「ああ、奥に行く度に臭いが!」
 エマは身震いする。そして、震える手でオブジェの鍵を解錠し飛び退く。扉には鎖。不自然に縫合された人体。マカライトは見上げる。
「下腹部には沢山の耳と舌がぶら下がっている。あちこちに萎んだ眼球……」
 マカライトはオブジェの指先に埋まるルビーを知る。宝石は濁った液体に濡れる。とても、正気の沙汰ではない。
「うっ、眼窩から腕が生えてやがるぜ……」
 ジェイクが顔をしかめる。
「鎖ごと焼くでありんす」
 バケツを持ったウィートラントがオブジェを見上げ、異能の炎で鎖とオブジェを焼いていく。オブジェは瞬く間に汚れた空気を呑み込みながら燃え盛り、マカライトが迅速にオブジェを抜き撃ち、ジェイクが光柱を放つ。凄まじい音とともに鎖は炎によって色を変えていく。
「今でごぜーます!」
 ウィートラントはタイミング良く、バケツの水を放った。じゅ、肉と鉄が焼ける音が聞こえる。
「ああ、終わったでごぜーますね」
 ウィートラントは脂汗を拭う。腐った身体は炎に愛撫され、やがて骨だけが残った。ふと、牢が冷たく鳴った。千切れた鎖が散らばっていく。

 ラクリマは歩く。マシェリを抱き抱え、オブジェの骨達を背負いながら。左目が新緑に触れる。高くそびえたブナの木が風にざわめく。冷え冷えとした空気が全ての生き物をそっと撫でている。沢山の霊魂が泳ぐ。ラクリマは前を見据えたまま、白き歌の呪文を口ずさんだ。

 ジェイクは夫妻に、遺品であるコロンを手渡した。
「机の引き出しにしまってあったんだ」
 途端にアイリスは目を見開く。
「あの子はこれを大切にしていたんですか……」
 アイリスはジェイクにすがり付く。驚くジェイク、アイリスをフォードが抱き抱える。
「止めないか、アイリス! はしたない」
「は、はしたない? ああ、貴方はいつだって……でも、これは! 貴方がマシェリに旅先で買ったコロンなのよ! どうしましょう! ねぇ、私達の! 私達の選択は間違ってなかったのよね? マシェリは死んでしまった、死んでしまったの! ああ、マシェリ!」
 アイリスは泣きわめく。唖然とするフォード。
「……貴方達は娘をしっかりと本音で叱ってあげましたか? 可愛い、可哀そうと優しく対応するだけじゃありませんでしたか?」
 ラクリマが不意に問う。その顔と声には怒り。夫妻は呻いた。
「罪を隠し続け、殺人を放置したあげく殺しを依頼。親として恥ずかしくないのですか? すべての死者のために隠さずしっかりと償ってください。二人が殺した可愛い娘のためにも」
 ラクリマの言葉に夫妻は改めて、マシェリのいない世界を実感する。

 ──もっと早く、行動していたなら。

 アイリスはコロンを抱き締め、フォードは静かに涙を溢した。
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 カミカゼ
 ──あなたを救う。

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