シナリオ詳細
<泡渦の舞踏>妖槍のルミーラは欲情のままに舞い踊る
オープニング
●招待状
海洋近海に発生した大渦。この大渦を発生させたのは、幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の残党たる魔種『チェネレントラ』で在る。
チェネレントラは『敗北の復讐(リベンジ)のため』この大渦を作り出したという。
大渦の下には古都ウェルテクスという古代都市の存在が確認された。大昔は海種の都として栄え、今は御伽噺として伝えられていた都だ。
そんな現況に置いて、ローレットではこの大渦近海に存在する『色欲』と『嫉妬』に連なる魔種の討伐計画が立てられた。
なぜか、それはチェネレントラよりの『招待状』が来たからだ。
――月夜の晩、皆様をお迎えに参ります。『色欲』と『嫉妬』の呼び声に乗せて――
「多くの魔種を動員し、海洋を『原罪の呼び声』で飲み込むつもりね。
イヤな乙女の復讐劇(リベンジ)だわ」
『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)はそう言って海洋近海の地図を睨む。
放置すれば大渦周辺に現れた魔種が海洋を襲うのは明白だろう。これを撃退することが肝要だと言うのがわかる。
「チェネレントラの最大の目的は『気持ち良く殺して貰うこと』みたいだけれど、狂ったものの考えは分からないわね」
ローレットであれば劇的に自身を殺してくれるはずだと考えて、こんなにも大がかりな舞台を用意したというわけだ。
そんな気狂いシンデレラの最悪で身勝手で癇癪のような勝手な都合で、海洋に多くの犠牲者を出させるわけにはいかないだろう。
「今回も練達特製装置『海洋戦闘用スーツ・ナウス』を借りてきているわ。
これを装備して、古き都で行われる狂った舞踏会に終止符を打ってきて頂戴」
リリィの手にした依頼書。この依頼ではチェネレントラの誘いに乗って舞踏会に参加した魔種の相手をすることになる。
チェネレントラを相手するわけではないが、同じ魔種が相手だ。油断一つとれば死に繋がる可能性もある。気を引き締める必要があるだろう。
「私のギフトで視た情報も記載しておくわ。
槍をもつ魔種の女との戦いになりそうよ。超常の力を操るでしょうし、気をつけてね」
リリィから依頼書を受け取ったイレギュラーズはさっそく海洋へと向けて出発する。
強力な敵との戦い。出来る事をしっかりと熟しておく必要があるだろう。
●
大渦の底。古都ウェルテクスの広場と思われる場所に、一人の女が現れた。
「チェレネントラに誘われたから来たけど、海の中になんか来るもんじゃないわね。
海水でお肌が荒れそう……ルクレツィア様にも様子を見てこいなんて言われたし、まあ我慢するしかないわね」
手にした槍をくるくる三回転し、来る待ち人を待つ。その前を大型の魚が横切ろうとした。
瞬間、真横に振られた槍が、三度曲がりくねってその魚を突き刺した。突き刺すと同時槍は曲がった事実などないかのように真っ直ぐな姿へと変わる。
「ふふ、さて、私の気分を高めて興奮させてくれるような者はくるのかしら。
身体がトロけてしまいそうになるほどの興奮……あぁはやく感じたいわぁ」
その感覚を思い出し、ウットリとした表情で海の底から空を見上げた。
女の名はルミーラ。『色欲』に連なる妖槍のルミーラだ。
- <泡渦の舞踏>妖槍のルミーラは欲情のままに舞い踊るLv:6以上完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年02月07日 22時15分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●妖槍のルミーラ
その魔種との戦いは、海中に響く突然の轟音と共に始まった。
奇襲、不意打ちでありながら、しかしまるで狙って外したかのように警戒中のイレギュラーズの側へと突き立てられた禍々しい槍の一撃。海中に飛び交う土煙の中、イレギュラーズは突き立てられた槍の側に立つ美しさすら感じさせる女を認識した。
「ふふ、いらっしゃいゲストの皆さん。
気概のありそうな良い顔つきだわ。長く楽しめそう、嬉しいわ」
「あまり上品とは言えない歓迎だね。
レディ、マナーについてはご存じかな?」
すぐに体勢を整える『世界の広さを識る者』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)が前衛を担当する仲間へと浄化の鎧を纏わせる。
「勿論よ。よく知っているわ。
獲物を狩るときは、ジワジワといたぶるように追い詰める……これから互いに奪い合う、その過程が最高に楽しいんですもの。一撃で終わらせるなんてつまらないわ」
妖艶に笑む女、その瞳はどこまでも狂気に染まっている。
「痛いものは痛いし恐怖は極限だ。そんな命のやりとりを楽しめるなんて、ちょっと羨ましい気もするよ」
女の行動が終わると見れば『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)が即座に動き出す。
側面上方より一気に接近し、槍へと姿を変えた武器を用いて『告死』による一閃を見舞う。命を刈り取る一撃なれど、女は愉快そうに喜色の笑みを浮かべ舌舐めずりを行った。
「いいわよ! 重たい一撃、確実に命を奪おうとする容赦の無い攻撃!
たまらないわね、もっと、もっと互いに高ぶりましょう!!」
手にした槍を二回転、女がムスティスラーフへと槍を突き出す。直撃を避けようと防御を固めるが、しかし槍が突如二回折れ曲がり、防御を無視するようにムスティスラーフを傷つけた。
「変態ハーモニアめ、ちょっと珍しい槍持ってるようだな。――そう自由にはやらせねぇぞ!」
『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)が一気に女に肉薄し、その動きを止めるようにブロックする。
「あら、荒々しい良い男。私の相手をしてくれるのかしら?」
「冗談抜かせ変態魔種が! 曲がりくねるような妖しげな槍とまともに殺りあうかよ!」
アランが愛用の剣で女の槍を抑えつけるように鍔迫り合う。同時、アランの後方より『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)がアラン同様に女の動きを止めるために肉薄する。
「後は任せて!
血を見たいというのなら私が受け止めてあげる! やれるもんならね!」
「任せたぞ! どんな手段を持ってるかわからねぇ、注意しな!」
アレクシアとスイッチしてアランが女から距離を取る。女は至極残念そうに肩を竦めた。
「あら、もう行ってしまうの? まだなにもしていないのに。
でも次の相手はお嬢ちゃんね。ふふ、健気に挑発なんてして、楽しませてくれるのかしら」
女が自身の身体を軸に回転させる。周囲を巡った槍を突き立てれば瞬間、槍が無数に分裂――したように――出現し、女の周囲全天を自由自在に飛び交った。
「くっ……これは……!」
禍々しい槍の力に抵抗するアレクシア。その高い抵抗力を持って、槍の力に抵抗しきることは可能なれど、物理的なダメージは見逃す事が出来ぬほど大きい。
「狂気の波動を感じる。本能を犯す禍々しい波動だ。
僕は負けない。本能に、誘惑に、絶望に抗う事で、人間である事を証明してみせる。
――アレクシアさんが抑えてくれている今のうちに体勢を整えるんだ!」
マルク・シリング(p3p001309)が陣形の中心となって声をあげる。戦域を支配する戦場の指揮者は治癒の力を持って、アレクシアの体力を戻していく。
「いいわよ! しっかり回復なさい!
そうして徐々に、お互いに力尽きていく様がもっとも楽しい瞬間なのだからね!」
女のそれはただの戦闘中毒者(バトルジャンキー)のようにも思える。だが、それ以上に自らの死すらも楽しむ、そんな刹那的な快楽に溺れているようにも思えた。
「その性格……反転前はどれだけ穏やかで優しい奴だったんだろうなぁ……」
イレギュラーズに、いや現時点で世界の誰一人として『原罪の呼び声』を受け入れた者を元に戻す術はない。
狂気に染まった魔種という存在は、世界を終焉へと導く存在だ。止めなければ多くの人が傷付き、世界は壊れていく。
「だから……私は止めるぞ、私の大事なモノを護るために」
『暴食の守護竜』ヨルムンガンド(p3p002370)は固く決意する。トラウマが蘇る事になろうと、自らに出来る事をするのだと。
「入れ替わり、立ち替わりね。
次の相手は貴方かしら。ふふ、強そうじゃない」
ヨルムンガンドの吹き付ける黒炎が、女の丸呑みし業炎に包み込む。それは同時に不運不吉を運び込み、敵対心を上昇させる。
「アレクシア、後は私が引き受ける……! 援護を頼むぞぉ……!」
「うん、ヨル君も気をつけて!」
度重なるスイッチは、ヨルムンガンドの怒り付与という形を作るための伏線だ。アレクシアが抑え込む間にヨルムンガンドが敵対心を増大させれば、一段固くなった壁役として機能する。
ここまでは想定した作戦は理想通りに展開できていた。
「やれやれ、確かに美女のお誘いではあるが、こういうお誘いはチトいただけんな。
……ま、別の意味ではいただきに来たと言えるか」
手にしたサイコロを握りしめ、『風来の博徒』ライネル・ゼメキス(p3p002044)が飄々と間合いを図る。
博打屋なれど、その立ち回りは堅実で、特に仲間との連携を意識した立ち回りだ。女の注意を逸らすように側面へと回り込みながら、遠距離術式を小出しに放っていく。それはまるで大博打を打つ前の布石を敷いているようでもある。
「わかってはいたけれど、攻撃が激しいわね。大丈夫、支えてみせるわ」
『毎夜の蝶』十六女 綾女(p3p003203)もマルク同様に回復を主体とし中距離を維持する。
女の射程に入らない位置から、傷付く仲間を癒やす。特に攻撃を集中されるヨルムンガンドの体力管理は重要だ。一瞬でも気を抜けば、想定以上のダメージが襲い来る。
仲間を倒れさせないために、冷静に判断しながら治癒の力を行使した。
「強大な力は槍にあると思うけれどぉ、本人にも着目してみるわぁ」
遮蔽物の裏から女を注視するのは『性的倒錯者で快楽主義者』ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)だ。未知を解析する力を持って、その力の根本を探ろうと試みる。
禍々しき槍、その力の根幹にあるのは女に感じる力だ。否、それはまさに女によって与えられた力のようにも感じた。
「槍自体も特別製だろうけどぉ、ほとんどが扱っているその女の力よぉ」
「あら、よく見てるわね。
でも、それがわかったところでどうにかなるようなものでもないわよ」
女の言うように、その力の在り方がわかったところで、実戦的な対処はまた別問題だ。複数に具現する槍、折れ曲がる法則、枝分かれする分岐への対処法。対応するには問題が山積みだった。
「まあ魔種なんだ。何してきたっておかしくはねぇ。
俺は俺に出来ることを、ただ必死こいてやるだけだ――!!」
”呼び声”による反転への恐怖を押し殺し、狂気渦巻く至近へと飛び込む『竜爪黒狼』葛城 リゲル(p3p005729)。全身を捻り回転力を上乗せした渾身の中段突きが女の身体をくの字に曲げる。
”海中”を地滑りする女がその痛みに喜ぶように口の端を釣り上げた。
「いいわ、やっぱりいいわよ、貴方達」
槍を突き立てその青から赤にグラデーションする髪をかき上げた女が爛々と輝く妖艶な瞳を見開いた。
「ふふ、興奮してきたわ。身体中が痺れて、お腹の下辺りが疼いてきちゃう。
ジワジワと痛めつけて、貴方達が絶望に沈んだら、きっと達してしまうでしょうね」
「ちっ、変態ハーモニアがッ!」
アランの放つ光芒をその身に受けながら、女は今一度笑みを浮かべ名乗りを上げた。
「名乗っていなかったわね、特異運命座標の皆様。
私はルミーラ、『色欲』に名を連ねし妖槍のルミーラ。
ふふ、きっと短いようで長い付き合いになるわ。魂が消えゆくその時まで、互いの疼きを解し合いましょう――!!」
●欲情の坩堝
高ぶる欲情を隠しもせずに、ルミーラは手にした禍々しき槍を縦横無尽に振るう。
クロスレンジにおけるルミーラの優位性は高く、イレギュラーズはこれを回避して戦う道を選んだ。
ヨルムンガンドがルミーラの敵対心を稼ぎその立ち位置を固定すると、中距離以上の間合いを取って攻撃を集中する。
近距離攻撃を主体とするムスティスラーフやリゲルはルミーラの行動をしっかりと確認してから至近へと肉薄、攻撃後再度間合いを取る事でクロスレンジを支配するルミーラの武槍全天を極力回避していた。
また封印スキルによる技の封じ込めも効果的だったと言えるだろう。
「近づいたり離れたり、あげく私の技を封じようなんて……もう焦らしてくるのね。
この溜まったフラストレーション、発散する場所がないわ!」
「そのまま苛ついていろぉ……!
君を楽しませる為に戦っている訳じゃないからなぁ!」
これは短期決戦だ。
ヨルムンガンドの敵対心保持は反動を伴う諸刃の剣であり、ルミーラの攻撃も合わせて受ける以上そう長くは持たない。
被害を極力減らし、少ない回復と多くの攻撃を行い、短時間による撃破を狙う。
イレギュラーズの選択は奇しくも敵をジワジワと追い詰めるルミーラの戦闘スタイルに反する形であり、噛み合う事のない戦況はルミーラにストレスを与えていた。
「雷撃は得意そうだが……自ら味わってもらうのも一興だろう」
イシュトカがライトニングを放ちルミーラを痺れさせる。抵抗が落ち、黒炎による効果が最大限極まったのを確認したヨルムンガンドは、その狙いをルミーラの腕へと集中させる。
「あら、私の腕がお好み? いいのかしら? 腕ばっかり狙ってても槍が勝手に貴方を刺しちゃうかもしれないわよ?」
ルミーラの戯れ言を、しかし分析を続けていたマルクが否定する。「
「間違いなく槍が曲がったり分裂するのは彼女の能力だ。槍が自意識を持って攻撃することは絶対にない!」
マルクの言葉に、まるで興醒めだと言わんばかりに落胆の色を見せるルミーラ。槍を四回回転させて、槍を有らぬ方向へと突き刺した。何も無い空間を槍が四度曲がって警戒していたヨルムンガンドの背を突き刺す。
「そうか! ヨル君、槍を回した回数だ! 回した回数と曲がる回数はいつも一致している!」
アレクシアの言葉にルミーラは「あはは」と声をあげて笑う。
「正解! でもそれがわかった所で防ぎ用はないわよ!」
「イカサマの種さえわかっちまえば、対処のしようはあるさ」
「まずはその槍持つ手を自由にはさせないよ!」
ライネルがとっておきを披露するかのように精神力によって生み出した弾丸を放つ。一時的な恍惚がルミーラの意識を奪い、そこをムスティスラーフが自らの最大攻撃である得意技むっち砲を放った。
「オラァ! ご自慢の槍で防げるもんなら防いでみろや!」
畳みかけるように光芒を放ったアランが一足飛びに肉薄し、その槍持つ腕――ではなく、その動きを支える細い首元にある鎖骨のラインへと愛剣を突き刺した。
「は、はは――ッ!! そうよ、そうこなくっちゃ!!」
狂気に染まる瞳が見開かれる。微々たる手の動きながら槍は自在にルミーラの身体を軸に回転する。
「離れて! 武槍全天(あのやり)が来るわ!」
言いながら、綾女はすでに回復の体勢を整えている。
ルミーラの放つ縦横無尽の槍が仲間達を傷つけ吹き飛ばすと同時、凹んだ体力を瞬間的に回復した。
「もらった――ッ!」
大技の硬直をヨルムンガンドが狙っていた。変幻自在の自己流体術が身構えたルミーラの槍を弾く。
そして、ガラ空きとなったルミーラの右腕を、ヨルムンガンドは覚悟のままに噛みちぎった。
「あ”アァ――ッ!!」
絶叫が海中に響き渡る。だが悲痛な絶叫を上げながらもルミーラは恍惚な表情を浮かべる。
魔種とはいえ人の肉であることに変わりは無い。トラウマに気分を悪くしたヨルムンガンドが地に落ちた槍を踏みつけ抑えた。
「これで槍は抑えたぞ……勝負はあったなぁ……!」
「ふふ、ふふふ。
右腕まるまる食べられるなんて……すごいわ、思わず意識を持って行かれるところだったわ」
右腕を失い、武器たる槍をも抑えられてしかし、ルミーラは余裕を持っていた。
「何を企んでるか知らんが、やらせるものかよ――!」
「なくした腕が痛いでしょぉ、麻酔をあげるわぁ」
先手をとってリゲルが飛び込む。援護するようにニエルが麻酔注射を放った。
極限の集中力から放たれるリゲルの貫手がルミーラの胸部を突く。確かな手応えがある――が、致命傷へとは至らない。
背筋を犯す”悪い予感”にリゲルは咄嗟に間合いを取る。
「はぁ……ひさしぶりよ、この感覚。命を奪い合う、その刹那の攻防。
でもね、奪われるだけはごめんよ。私にも奪わせてちょうだいな」
失った右腕の切断部を愛おしそうに撫で上げたルミーラはそうして左手を真横に広げた。
「ふふ、槍を奪ったと喜んでいたようだけれど――その槍は決して奪う事なんてできないわ。
だってその槍は特別製。私の根源を支える力だもの。
――私は妖槍。
妖槍ルミーラよ。何人たりとも、私と槍は切り離す事はできないわ――!」
瞬間、ヨルムンガンドが踏みつけ抑えていた槍が溶けて消える。
そして、ルミーラの左手に同じ禍々しき光を湛えた妖槍が復元した。
「さあ、極限のステージよ! 耐えて見せなさいな!!」
――妖双展開。
掲げた槍が、肥大化、分岐、分裂、散らばって戦場を囲うように配列された。その全てがイレギュラーズに死を突きつけていた。
「みんな、避けて――!」
逃げ場などないというのに、アレクシアの必死の叫び声が遠く響いた。
●更なる興奮のために
海中が紅く染まる。
戦場を蹂躙した妖槍は、その姿を元の姿――一本の槍――へと戻し、ルミーラの左手に収まっていた。
「なんて力なの……すぐに回復を……!」
「アレクシアを見てやってくれ……! 俺を庇いやがって、バカがッ!」
綾女が満身創痍の面々へと治癒の力を放つ。アランを庇って倒れたアレクシア、そして槍の直撃を受けたニエル、最も苛烈に攻撃を集中されたヨルムンガンドは酷い怪我だ。
パンドラの輝きを宿しながら立ち上がる面々に、ルミーラは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「あぁ……最高よ。まだ立ち上がり向かってくる。そうこなくっちゃね。
腕一本、なくても困らないけれどその借りはしっかり返したいもの。まだまだ楽しむわよ」
「愉しさは分からないけどさ……負けたくない!」
ムスティスラーフは傷付いた身体を押して、ギフトで掴んだ武器――槍――を振るう。
「あら、面白い。そうやって槍を振るえたらさぞかし楽しいでしょうね」
ムスティスラーフの槍を受けながら、返すように槍を回転させ突き刺す。
圧倒的に防御技術に劣るムスティスラーフはダメージレースとなれば勝機が薄い。今はただ仲間達が立ち上がる時間を稼ぎ出す他ない。
「ムスティスラーフさんを倒させるわけにはいかない――! 最後まで戦線は支えてみせる……!」
やはり多くの傷を負ったマルクが飛び出し、ムスティスラーフを庇う。そうして傷付く姿をルミーラは心底楽しそうに笑った。
「二人とも無茶するんじゃねぇ! ええいジリ貧だがやるしかねぇ!」
「俺だって、まだ戦える……!」
傷を押してアランとリゲルも戦線に復帰しようとする。だがそれを牽制するように稲光湛える雷槍が域を支配する。
ルミーラは決して余裕というわけではない。イレギュラーズと同様満身創痍に他ならない。
だがルミーラの戦闘スタイルその本質は、命尽きる瞬間その時まで持てる力を出し続けることに他ならない。
つまるところ、短期決戦を望んだイレギュラーズの考えは正解であり、同時に短期決戦で打ち倒す事ができなかった時点で、イレギュラーズの敗北は必至と言えた。
(……逆転の目はないか)
目を細めたイシュトカが戦況を冷静に判断した。
あとはどう撤退するか。自己犠牲を伴わなければ、この狂気にそまる妖槍の間合いから離れる事は難しいだろう。
「賭けるんなら、全員生存だ。そっちのほうがリターンがでかい」
察するように言葉を零したライネル。「確かに」とイシュトカはそれを肯定した。
全滅も見えていたこの戦い。
不可解に終わりを告げたのはルミーラ本人だった。
「ふふ、もう終わりが見えてるのにまだ死んでない目。
今ここで終わらせてもいいけど、逃がしたらきっとまたいつか戦う事もできるわね。
それまでこの高ぶる疼きを我慢していたら、きっとものすごい快感に違いないわ」
それは見逃すという事か。
「次相まみえるまで、この右腕はそのままにしておくわ。
ふふ、今度は全員万全の状態でくることね。種は割れているもの、全力だったらきっと私を殺せるわよ。じゃあね」
それだけ言って、ルミーラは立ち去った。
見逃されたという悔しさと、命を失わずに済んだ安堵の狭間に置かれながら、イレギュラーズはそっと武器を下ろした。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
澤見夜行です。
結果はリプレイの通りです。
作戦や個々のプレイングは悪くなく、判定の際のダイス目も決して悪いものではありませんでしたが、短期決戦を挑むにあたり全員の明確な殺意があと一歩足らなかったように思えます。
レベル制限はなくとも難易度相応の相手ではありますので、多少厳しめの判定となっていますので、ご理解頂ければとおもいます。
結果は残念でしたが、その腕を喰らいルミーラに貸しを与えたヨルムンガンドさんにMVPを贈ります。怒りの付与もほとんど成功していて見事でした。
依頼お疲れ様でした。これに懲りず磨き上げたプレイングで次回も臨んでみてください!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
魔種からの招待状。
決着の時が近づいて来ています。
●依頼達成条件
魔種・妖槍のルミーラの撃破。
●情報確度
情報確度はBです。
想定外の事態が起こる可能性があります。
●注意事項
この依頼に参加する純種は『原罪の呼び声』の影響を受け、反転する危険性があります。
また、この依頼では”パンドラの残量に拠らない死亡判定”があり得ます。予めご了承の上、ご参加ください。
●妖槍のルミーラについて
ハーモニアの女で年齢不詳。青から赤に変化している長い髪を持つ。
妖艶な雰囲気に凜々しさを併せ持ち、傍目に美人ではあるが命を奪い合うことに性的興奮を覚える変態である。
その戦闘行為が残虐であればあるほど興奮するらしい。その為、彼女と戦うものは両者ともに生半可な傷では済まなくなるようだ。
情報屋リリィのギフト及び遭遇することで把握できた情報は以下の通り。
・武槍全天(物特レ特・流血・失血・致命・封印)
特殊レンジ:近距離以下にいるもの全てに効果が適用される。
・雷槍乱舞(物超域・流血・失血・感電)
・狂気拡散(物特レラ・狂気)
特殊レンジ:遠距離以下は全て射程となる。
・EX妖槍展開(物オールレンジ・不明)
ルミーラの能力か、はたまた手にする槍の力か。その槍の一撃は回避困難にして防御を無視する力を持つ。
この能力は使用するスキルにも適用される。
使用する槍は一本のようだが、複数に見えたり、その矛先が幾重にも分岐して敵を襲うなど、槍の範囲を逸脱しているようにも見える。
ルミーラは一気に止めを刺すことはせず、ジワジワと追い詰めるのが好みのようだ。
●海中戦闘用スーツ・ナウスについて
この装置のお蔭で、特にスキルやアイテムの用意をすることなく、水中での戦闘行動が可能となります。
海種の方は着る必要はありませんが、着てもいいです。
●想定戦闘地域
大渦内古代都市の広場での戦闘になります。
ある程度の広さがあり戦闘は問題なく行えます。崩れかけた壁などを障害物として利用できそうです。
そのほか、有用そうなスキル(特に水中用)には色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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