PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ジーニアス・ゲイム> 帝国の花形の頭をふっとばせ!

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「そうね。現在の幻想南部の状況はインディアンイエロー。これっぽっちも安心できないわ。少なくない街や拠点が『新生砂蠍』の手に落ちたの」
 『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー (p3n000004)の表情は険しい。
 赤を排除しきれない黄色信号。
「陥落せしめた拠点を橋頭堡に幻想王都メフ・メフィートに侵攻されてるわ。もちろん貴族軍もそうはさせじと考えてる。でも、最悪のタイミングで北部戦線の名将ザーバ――鉄帝国の軍勢も動き出そうとしてるのよ。違うわね。動かそうとしている何者かがいるんじゃないかしら。冬を前にして戦争なんてあまりに無謀よ。あるいは、冬を前にしていて、まだ冬でないからこそ動かねばならないのっぴきならない事情があるのでしょうね」
 プルーは、一同をぐるりと見回した。
「鉄帝国からも依頼は入ってるわ。もちろん、レオンが口を酸っぱくして言っている通り、ギルド条約はローレットの生命線よ。正式に請われれば政治的な中立を保つ他はない。そうでしょう? ローレットは『どちらも受諾する。それがローレットがローレットとして成立する最低条件』 ローレットは常に中立。もちろん、ローレット戦力同士が直接ぶつかる代理戦争のような依頼は端からはじいているから安心して。その分、受けた依頼は全力で果たしてもらうわよ。だから、わだかまりなく、クリアウォーターの気持ちで受けられる仕事を選んでちょうだい」
 プルーによるレオンの真似は全然似ていなかった。
 北部戦線幻想側、北部戦線鉄帝側、そして南部新生砂蠍への対応――イレギュラーズの直面する依頼はかつてない程に複雑な状況を見せるだろう。結末はまだ、見えない。


「じゃあ、詳しいことを話すわね。北部戦線で鉄帝国と戦ってもらうわ。当然、向こうは意気軒昂。あなた方には、ハイライト的にブライトホワイトになってもらうわ」
 情報屋がイレギュラーズに輝けと言っている。
「あなたたちのメイン任務は狙撃よ。主力になる幻想貴族軍と鉄帝国侵攻軍の実力はほぼ拮抗。指揮官の能力もほぼ拮抗。後、差が出るのは士気の維持」
 メンタル大事だ。臆病風に吹かれたら、勝てる戦も勝てなくなる。
「それでね。先方にいい感じの旗振り鉄騎種が数人いるのよ。実際に旗を振っているわけじゃないわよ。こう、司令官の意図を組んで全軍を鼓舞し、最前線でがっつり働いて大将首上げてくるようなのいるでしょう? そう。スカーレットだったりピュアホワイトだったりジェットブラックな感じの。 ちょうど三騎いるのだけど」
 三倍速かったり、硬かったり、攻撃の射程が長かったりする系ですか。
「それらが仕事する前に、狙撃してもらうわ。主戦場になるだろう場所のやや鉄帝国側。切り立った崖がある辺りを通るため、隊列が細くなる場所があるの。もちろん向こうだってバカじゃないから、警戒しているでしょうし、肉盾も、肉体強化なんてのもしてくるでしょうね。だから、司令官も狙いつつとか、前後で陽動行動するとか工夫してね。直接攻撃だと――目的は果たせるでしょうけど、そのまま帰ってこられなくなるでしょうね。犬死にはお勧めしないし、弔い合戦と士気を上げられては本末転倒だわ。はたはたと三騎が総崩れになって部隊をペールブルーに叩き込むのがお仕事よ」
 一騎当千を始末できるなら、千の味方を助けるに等しい。
「得手不得手があるでしょうから、役割調整は任せるわ。射手の強化、防衛、不確定要素の排除。やることは山積みよ。射手以外の防御は捨てて、オフェンスあるのみ。一撃即離脱。撃ち合いになって位置を特定されたらこちらが全滅するわ。反撃されるようなら失敗と思ってちょうだい。まあ、手勢がこちらに回って戦力バランスは崩れるかもしれないけれど、そこまで義理立てする必要はないわ。ローレットは政治的に中立でなくてはならないのだから」
 プルーは言う。あくまで仕事であると。
「どれが対象やら見分けがつかないってことはあるかもしれないけれど、花形には隠し切れないオーラってものがあるじゃない? 何かあったら、あなたたちだって出すでしょ、いろいろ。ラメやフレアやレイヤー的ななにかを」
 オフホワイトやカーマインやディープグレーに引っかからないでね。と、情報屋は言った。誤認厳禁。

GMコメント

 田奈です。
 実力伯仲の戦線のバランスを崩すため、狙撃してもらいますよ。
 圧倒的オフェンス。値千金の一撃を期待します。
 どれだけ射手の命中があげられるか、どれだけ対象の回避を下げられるか、射手のみならず観測手、強化手の腕の見せ所です。
 作戦にかけられるわずかな時間を最大限に生かしてください。

*皆さんが作戦にかけられるのは、軍勢が前進するほかないほど作戦領域に入り突破するのに必要な6ターンです。ごくわずかな時間しかありません。それ以上その場所で粘ると皆さんが鉄帝国の追っ手に槍衾にされて、そのまま幻想に突入されて、皆さんの死骸を見た幻想の部隊は士気低下、瓦解というろくでもない結末に直結します。

*攻撃対象:武力が高い鉄騎種。
「真紅の騎士」
 兜に羽飾り。
 回避能力が非常に高く、一撃必殺を評価されています。敵を挑発し、相手の頭に血を上らせて、判断力を奪う戦術を得意とするようです。

「純白の騎士」
 非常に防御に長け、攻撃を食らっても鎧に傷がつかないのが自慢です。その分、盾に年季が入っているということです。

「漆黒の騎士」
 黒い重甲冑、巨大な騎士槍持ち。
 超遠距離攻撃持ち。

イレギュラーズとしては、対象が中距離から超遠距離の範囲を通過する間が作戦範囲です。
 この三騎は互いにカバーできるよう遠距離を保っています。他の二人がやられたら、即離脱して司令官と合流し、部隊を鼓舞して幻想に襲い掛かるでしょう。やられた二人は殉国の英雄です。

*場所:渓谷
*風なし、天候、晴朗。
*渓谷の幅、20メートル。歩兵と騎兵が入り混じり、上方からの遠距離攻撃に警戒しながら進軍しています。割り込もうと思えば、馬で前に出られる幅を維持していますが、パニックになったらそれも困難になるでしょう。
 イレギュラーズは渓谷の上に陣取って、谷底を進む鉄帝国軍を見下ろす状態に布陣します。少数精鋭行動なので、友軍は離れたところにいます。作戦終了後合流・離脱する手はずになっています。本作戦に直接の支援はありません。
100名ほどが攻撃範囲に入りますが、必須攻撃対象はあくまで三名です。ただし、他を攻撃するなということではありません。効果的に攻撃してください。欲張りは禁物です。
*大半は歩兵ですが、鉄種鎧の色が、赤・白・黒は比較的ポピュラーです。まず、軍勢の中に多数いる鉄騎種のどれが該当者か判別する必要があります。
 例えば、観察は最も隠密性が高まり、敵の警戒も低いですが、時間がかかりますし、誤認の可能性もあります。
 また、挑発は、すぐに対象がヒーロー的行動に出て判別は容易になりますが、敵の警戒が強固になりますし、当然位置がばれたら攻撃されます。
 他にも方法はあるでしょう。得手不得手を相談して、倒す順番、スキルやギフトを駆使して最適解を構築してください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●戦果につきまして
 このシナリオは成功失敗の他に『戦果』を数字判定します。
 これは幻想側と鉄帝側の有利にイレギュラーズがどれだけ貢献したかを示す数値であり、各GMが判定を行います。
 全ての対応シナリオで積み上げられた数字によって北部戦線の最終戦闘結果に影響が出る場合があります。

  • <ジーニアス・ゲイム> 帝国の花形の頭をふっとばせ!完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月12日 21時55分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

シルヴィア・テスタメント(p3p000058)
Jaeger Maid
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
那木口・葵(p3p000514)
布合わせ
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
那須 与一(p3p003103)
紫苑忠狼
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
シラス(p3p004421)
竜剣
ケドウィン(p3p006698)
不死身のやられ役

リプレイ


「出来ればこうなる前に砂蠍とは決着をつけておきたかったのだが……」
『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)の嘆きは全く持ってその通り。どこかの誰かさんは最悪のタイミングで舞台の幕を開けるのだ。
 崖の上にはイレギュラーズが陣取り、一度作戦に入ったら離脱まで三分かけない電撃戦だ。敵に悪夢を見せるのが仕事だ。三人殺して、数百の兵を木偶にする。
「花形で御座いますか。舞台でいえば、主役級ということで御座いますね」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)の視界は彼女の頭の中で速やかに固定され、区分され、胡蝶の夢が地図の形をとって現界する。
「主役級のいない舞台など、舞台として成立させるのは不可能。華麗な舞台にあがる前に御退場願いましょうか」
 舞台に上がる花道の途中で撃ち落としてしまおう。
「アタシこれ知ってる。殺し間ってヤツだな」
『Jaeger Maid』シルヴィア・テスタメント(p3p000058)の呟きは、ある者の耳には十字砲火と聞こえ、クロスファイアと聞こえただろう。
「暗殺? 奇襲? まあなんでもいいや」
『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)は、鉄帝国の軍列の流れを見ている。呼ぼ薬袋歩兵の流れの中に力場を発する鉄騎種が魚のように見える。
「交戦前に敵を削る、効率的だねー」
 幻から渡され地図に目を走らせ、問題ないと手ぶりすると玄は速やかに全員にはかない地図を手渡した。
 その地図が消え去る前に作戦は終了していなくてはならない。
「士気を挫く、正しい戦術だわ。負けないために万全を尽くすのも。始めましょう」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は、攻撃区域をできるだけえんきょる範囲に入れられる場所に移動する。
 南方に砂蠍という死に至る毒を抱えている以上、幻想は兵の消耗を最低限に抑える。そのための戦術だ。
「ローレットの依頼とはいえ、交流のある国と戦うというのは少し悲しくはありますね……」
『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)は、ぬいぐるみを大量に用意している。どれもこれも高性能。
「この子達にには観察や敵軍前後への囮、陽動や撤退支援などお願いします。仕事というからには手加減できませんよ」
 こうもりは、結局どちらの陣営を追い出されるのだ。
 両方とうまくやるなら、情ではなく万国共通の「報酬」を理由として最善を尽くさなくてはならない。
 進軍中の敵の斥候に見つかっては元も子もない。 としても塹壕を掘る時間はない。パラリと土塊一つ落としたら、集中砲火を食らうこと必定だ。
 仕方ない。粘る必要はない。撃ったらとんずらだ。立つ鳥跡を濁さずで逃走経路を悟られぬように隠ぺいするのは当たり前だ。
「山間部用のギリースーツとか欲しくなるよな……、上に着れるヤツ」
 シルヴィアが射撃姿勢に入る。
「周囲に溶け込むの大事だよね」
『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は、作戦地域の岩肌に溶け込む服を着用して臨んでいる。
『殺括者』ケドウィン(p3p006698)は双眼鏡をのぞきっぱなしだ。
 先ほど近くの部隊からと観測機材が回ってきた。
「俺の古いツレの好意だ。これまできたか。重畳だ。いいもん食わしてやらないとな。そのためには死んでもらうわけにはいかない。俺は俺の仕事を忠実に果たし、仲間の戦功を心より願うものである」
 

 兜から下がる赤い羽根は連なるようにしてマントの上にかかっていた。
「該当者発見、グリットE10オーバーに赤到達」
 戦術区域全体を捕捉していたリンネの鼓動が赤を帯びてメトロノームのように戦士の拍子を合わせる。
 赤だ。赤をまとって、敵の赤を粉砕する。
「こっちも赤をグリッドE列で捕捉だ。リンネ。お前さんの観測結果を支持するぜ。狩場突入まで推定1ターン。作戦開始だよ。現状進行速度は通常移動。3ターンで通過と予想だ」」
 誤認防止の一手間を惜しまず、冷静確実に的を絞るケドウィンの確認。
「式からの情報から、グリットE10オーバーを赤と確認します。式は引き続き白と黒を探します」
 葵の上位練達式による情報でさらに情報が補強される。
 射手たちの準備は進む。
「ねえ、ルチアーノ? 逆に聞くんだけど私みたいなのを戦場で頼りにするって――この国、大丈夫かしら」
 下から見上げる鉄帝国軍の視界に入らないよう、身を低くして移動するルチアーノにイーリンは問いかける。
 イーリンの赤紫の髪が夕日が夜を帯びるように青を覚えて花の色に変わる。
「相変わらず謙虚だね」
 臨界を迎えようとしているイーリンの後ろを通り過ぎながら、自己評価が周囲とねじれ気味の聖女の認識をただす。
「イーリンさんは幻想の精鋭。無くてはならない人材さ。敵に回られたら、僕だって困っちゃうくらいだよ?」
 ゲオルグが生んだ青空に浮かぶ青い月は凍てつく定め。
 刹那に砕けて、青白いイーリンの頬を照らし、崖下で浴びた者を凍てつかせる。
「氷結によって、敵進軍停止。足止めには十分だ。先頭部から赤まで浮足立つぞ。花形どもに仕事をさせるな」
 ケドウィンの観測。先頭から取って返して司令官の元へ走ろうとする伝令兵の動きが式から警告される。
「いいねいいね」
 シルヴィアは、足の下で何が起こったか把握しようとしている鉄帝国の奮闘に口角を上げる。
 熱狂する鼓動とは別に確実に食うための効率計算。
「他に気を取られた隙にデカい一撃を叩き込むのが効率がいい」
 馬を前方に過労とした刹那。花形が馬を動かさんと動いた刹那。自分の命を惜しまず動いた刹那。
 ルチアーノとシルヴィアの自立自走の爆裂弾頭が、各観測手の連携によりわずかずつ位置と時間ををずらして、赤の騎士が緊急離脱できない位置に着弾する。
「さて、お仕事の時間でござるな」
 那須 与一(p3p003103)が重火器をとりまわして、一撃を放つ。最高スペックで運用するには少し皆から離れる必要があるが問題はない。
 爆裂四散、周囲の兵や鉄騎種、軍馬の焼ける血が細切れな肉片の雨が、そのまま花形の心身を痛めつける。まるで「彼のとばっちりで」砕けって散ったようにぽっかりと開いた軍列。
「神がそれを望まれる」
 それはイーリンの現在の生をつぎ込み貫く一撃。涅槃の際を見る代償にもぎ取ってくる万能。
 乙女よ。戦旗の紋章をこの時ばかりは幻想に染めよ。
 降り下ろされる光は、色をなくして白しか知覚できない。
 違う次元で息の根を止め切ることを念入りに成し遂げる稼業に従事していた二人が撒いた殺意の檻から赤い甲冑だけは逃げられない。
 誇らしげに揺れていた赤い羽根は虚空に溶けた。
「赤、撃破確認! 観測手は白・黒を索敵。狙撃役以外は連携させずに下の連中をかき回してねー」


「幻想の攻撃だ! うろたえるな。戦列を整えろ!」
 目の前を進んでいた連中に空から降ってきた青いかけらに触れた途端、ビキバキと音がして手足がびっしりと霜でおおわれ、それが凝結して氷に変わる。
 背後から飛んでくる声に浮足立った軍列が収まりかかる。
 ああ、頼もしい赤い甲冑。実力をだれもが認める戦士だ。
「待ってろ、今、俺が崖から撃ってくるような腰抜けの幻想を引きずり出して――」
 馬を狩り崖上に向けて転進しようとした彼の周囲を爆裂が襲う。前が見えない。閃光と爆炎と血風。飛び散る血と骨と革と鉄。
 それでも倒れない赤い甲冑。ああ、ああ、負けない。そうだ。我らは、鉄帝国は、いや、俺はまだ負けていない。
 転進だ。敵は崖の上にいる。そこに攻撃を集中させて――。
 その時、怒涛のごとく押し寄せる色のない光を見た。それに触れたらただでは済まない圧倒的な光の奔流を見た。


 青い月が登っては、鉄帝国の兵を逃げ惑う群衆に変えていく。
「グリッドB-8ポイント。鉄騎種の密集陣形構築中。固まりきる前に頼んだよー」
 赤撃破の余韻はそのまま白撃破の推進力に切り替えられる。
 ゲオルグが作戦区域に降り散らしている凍てつく青い花びらで、分断された鉄帝国兵はあちこちで吹き黙っていた。前進もならず後退もならず。それらが吸い寄せられるように白い盾を持った騎士を中心に、動ける鉄騎種が密集して分断を防ぐための中継点から反撃に転じる要塞を形成しようとしている。放置したら、ひとたまりもない。
 掲げられた年季の入った盾。まさしく反撃の前の忍耐の旗印にふさわしい。
「盾」
『特異運命座標』シラス(p3p004421)の薄い唇から、ハハッとひきつれた笑いが漏れた。
「俺の術にそんなもん効かねえ」
 練られた魔力はいつも黒い顎の属性を帯びる。撃ち出されたシラスの念が実体化し、翼を広げて空を滑り標的に喰らいつく。
「鉄帝の連中は戦いの中に名誉を見出すんだろう? たとえ死んだってさ。けれど敵兵でもない獣に喰い殺される覚悟は出来てるかな?」
 滑空する害意。盾によじ登り鎧の隙間から牙を立て刹那の生を謳歌せんと肉をむしり取る。
「死ねよ、何を得ることもなく、ただ汚らしく散らばっちまえばいい!」
 術を行使するときの異常な高揚感は、後で彼の心の柔らかい部分を自らえぐることになるだろう。
「固められちゃ困るんだよね」
 ルチアーノは忙しい。
 銃口から煙が途切れぬうちに走りざま、恐ろしく軽やかに鞘から抜き放たれた青白い刀身が補足された白い騎士に飛ぶ。
 谷底からは、砕けて積もる青い花びらに紛れていたかもしれない。
 とっさに掲げられた年季の入った盾をはじいて、馬上の将を崩す。
 心得よ。こちらの射線が通るなら、向こうの射線も通る。与一の肩を貫く漆黒の槍。
 少し前に出すぎた? どこからだ? 痛みと体に大穴をあけられた衝撃にぐらつく視界。奥歯をかみしめやり過ごす。
 通常作戦なら隊の誰かが癒し手で傷はすぐにふさがれるが、ほんの一分の作戦時間。誰もが回復を度外視している。
 薄れゆく意識。後は、仲間に託す。
「袖で不意の登場をなさるのは、いささか往生際に難ありとお見受けいたします」
 幻が谷底に送ったのは、蝶の形をしていた。くるくると撒いた口吻を伸ばして鎧の隙間から白い騎士に突き刺す。
 白い騎士が、盾を振り上げ、彼が守るはずだった瀕死の鉄帝国の鉄騎種に叩きつけた。崖の上には音など聞こえはしなかったが、動揺がさざ波のように広がるのは上から見て取れた。
「ご乱心! ご乱心!」
 味方に回れば頼もしいものは敵に回れば何より恐ろしく、庇護してくれたものに傷を負わされたものはそれが一時のこととしても不信という泥が腹中にたまる。
「全力攻撃!」
 死神が精魂込めて作り出す弾丸は、正しい輪廻へと騎士を誘ってくれるだろう。位階の髪の誘いを受ける恍惚をとくと味わい、速やかに逝け。
「息の根が止まるまで」
 かりそめの命を持った蝙蝠と蝶は、白い騎士が仲間の頭をもう一つかち割ったところでその役目を終えた。


「白撃破! 戦域離脱までもう2ターン!」
 何もかもが一度に起きる。
 二度とは帰れぬ任務を帯びた葵のぬいぐるみは敬礼を持って送り出され、「隊列の前後から敵が来る」と叫んで回った。愛らしいぬいぐるみから鉄帝国の戦士にありがちの声が響くのはなかなか地獄絵図だ。
 状況把握が速い。谷底から届く攻撃。鉄帝国もやられっぱなしというわけではない。
 散発的ではあるが超遠距離攻撃が開始され、その中には当たったら狙撃に支障をきたすレベルの攻撃が混じっている。
 あっという間に物量に押しつぶされるのは目に見えている。位置を気取られたら負けだ。
 射手達が止まるのは、撃破対象に弾丸をぶち込むときだけ。敵後方を射程に収めるため侵攻していく。
「花形なんだろ、そんな奴は戦場で良くも悪くも目立つもんだぜ。薄暗い場所で生きている俺にとっちゃ、眩しくて見分けやすくて助かるけどな?」
 与一が攻撃を食らった射角にケドウィンが抜け目なく目を向け、グリッドを指定する。観測手全ての結果が一致した。
「――良い的よ、貴方」
 判断材料を握りしめ天啓を受けたイーリンが、黒の居場所を特定する。
 長大な騎士槍。黒い鎧。両手両足の指の数を数えるより先にあの世に旅立ってもらわなくてはならない。
 もはや一切の猶予はなく。もとより微塵の容赦もない。
 谷底を色のない光が飲む。死に絶えられるものは幸いであり、死に暮れぬものは地獄である。持てる力のすべてを使い切らなければ谷底から這い上がってきたものに殺されるといわんばかりに爆裂音が谷底を鳴動させ続ける。
「下がってるな? いいぞいいぞ」
 シルヴィアは時間と移動という二種類のチップをカジノテーブルに積み上げながらぎりぎりまで待った。
「まあ、あれよ。お相手が誰だろうが、戦争だっていうなら仕事はするさ。アタシ的にはどっちに加勢してもいいっていうのは気楽な立場だしな」
 バストするぎりぎりで完成する役は、グリッドラインしか残らぬ弾幕攻撃だ。
「だから、これはサービスってやつだよ!」
 伝令も送れない混乱状態。
 司令官に直接報告しようと後方に下がった黒とおまけの司令官がギリギリ同一線上に並ぶのを待っていた。
 あとは体重と同じだけの弾丸を谷底中に響き渡る途切れない銃声と一緒にプレゼントだ。
 まさしく蜂の巣のように、黒い線でつながった殻のような甲冑を残して、黒は国境線の土にかえった。司令官は辛うじて生きてはいるようだが、それなりの深手を負わせるのに成功した。谷底には、うめき声があふれている。
「はい、時間。 帰るよー」
 リンネは、てきぱきと加熱した銃身と頭を冷やすのでいっぱいいっぱいのイレギュラーズを先導する。
「帰るまでがお仕事だからね、怪我でもしたら面倒だものって――やれやれ」
 作戦区域離脱に戦闘不能者がいるとなると少々脱出に骨が折れそうだ。ルートの変更を余儀なくされる。
 リンネは善神の使徒である。ここにいる者はまだ死にゆく流れに乗っていない。少なくとも今は。
「あ――」
 そうこうしている内に幻の作った地図がはらはらと砕けて散った。
 まさしく刹那の悪夢。
 谷底の下に地獄を作り出して、イレギュラーズは戦場を後にした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
この結果で、この地域の幻想の兵力は期待通り温存されました。
ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。

PAGETOPPAGEBOTTOM