シナリオ詳細
<刻印のシャウラ>赤いあの子の足跡は
オープニング
●ある町人の証言
『新生・砂蠍』と言うんですか。へえ、あの旗がね……。
私の町が占領された日に高く掲げられていましたよ。
町を治めてる貴族様とその兵隊がこぞって北へ行くって言うんでね、うちの弁当を沢山作って持たせたんです。ええ、いい人たちですから。私らにもよくしてくれて。
詳しい話はサッパリ理解できなかったんですがね、どうも鉄帝の人らが沢山攻めてくるっていうんで、急いで守りに行かなきゃならんそうで。
え? いやあ、大丈夫でしょう。国を守ることは私たちを守ることにつながるって、貴族様も兵隊さんがたも張り切ってましたから。
……へ?
なにかおかしいですか?
あー……話を続けますよ。
兵隊さんたちが出払ってからすぐでしたね。砂蠍っていうんですか。あの軍勢が攻めてきて。ちょっとは兵隊も残っていたんですが、なんといっても数が多すぎて……。
はは。ええ、殺されてしまいました。みんな。ははは。
あっはっはっは、ははは! ははははは!
……え?
いやあ、失礼。なんだかどうにも美味しそうだったもので。
砂蠍が町を占領した所までは話しましたっけ。ええ、もう皆おびえてて。私も命だけは助けてくださいって、持ってる金も食料も全部差し出したんです。妻は随分前に他界していて、これ以上喪うものもないのが救いでした。
その……すこし後でしたかねえ。
うちの店に盗賊たちが入り浸って、酒や料理を作らされていた時でした。
店の扉がぎいっと音を立てて開いたんです。
『お料理屋さんはこちらかしら?』
なんて、小さな子供の声がしたんです。女の子でした。
おかしいじゃないですか。盗賊に占領されて根こそぎ奪われた町に女の子だなんて。
盗賊たちもそう思ったんでしょうね。飲み残した良酒を見つけた気分で女の子を取り囲みました。
下卑た言葉をかけていたんだと思います。
ええと……あっはっは!
そのあと、女の子、なんて言ったと思います?
あっはっは!
『前菜はこいつらでいいわ』
ですって!
あっはっは!
あっはっはっはっは!
そう! 食べたんですよ! みんな!
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!
――これ以降、店主の男は笑うばかりで何も語らなかった。
――店の中は細切れにされた人間死体の一部がちらほらと落ち、店中は血を含む人間の内容物で汚れ、店主もまた首と胴体を残して全て何かに食いちぎられていた。
――砂蠍に占領されたはずの町。サブンタールは……どこもこんな有様だった。
●赤いあの子の足跡は、赤く赤く――。
「間違いないわ。魔種のしわざよ」
きわめて重大そうなこのニュースに先んじて。
幻想国家をおそった重大ニュースを、まずは語らねばなるまい。
盗賊が結集した大軍隊『新生砂蠍』。その『案山子屋部隊』が幻想南部の町サブンタールを襲った。
鉄帝によるきわめて間の悪い襲撃によって北部に兵を集中せざるを得なかった貴族たちはその隙を突かれた形となり、一部地域の占領を許してしまった。未だ抵抗を続ける所もあるがそれも時間の問題。ゆえにローレットは貴族の兵が届かぬ今ピンチヒッターとして砂蠍討伐を求められていた。
……と、そんな中で、この事件は見つかった。
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)が資料を片手に顔をしかめる。
「サブンタールは確かに、砂蠍の部隊に占領されていたわ。
その後に末端の情報屋を使って敵の情報を探ろうとしたんだけれど……その時には既に盗賊のほとんどが、そして町の住民のほとんどが惨殺されていたの」
殺され方は全員共通。
目撃証言もほぼ同一。
「全員、赤い服をきた少女に食い殺されたそうよ。
盗賊の軍隊が束になっても、まるでケーキバイキングでも楽しむみたいにあしらって全て食い尽くした……と」
それだけの人数を物理的に消化できる時点でおかしい。たった一人の少女が住民を惨殺した上に盗賊団まで惨殺していったなどと、疑わしいことだ。
だが……。
「ハッキリしてる事実は二つだけあるわ。
盗賊団の部隊も住民もほとんどが殺されていること。
生き残った部隊のリーダーと側近数名が発狂した状態で隣町へ侵攻しようとしていること。
放置すれば恐ろしい虐殺がおきることが……容易に想像できない?」
発狂した店主の様子は、まるで虐殺が楽しくて仕方ないといった様子だった。
もし手足があったなら、情報屋に食らいついて『赤い少女のまねごと』をしていたことだろう。
「盗賊たちもきっと同じ状態よ。彼らが『赤い少女のまねごと』をする前に、全員を倒して止めて頂戴」
- <刻印のシャウラ>赤いあの子の足跡は完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年11月15日 21時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●サブンタールの残骸
町の惨状を一言で表わすことは難しい。
巨大な肉食獣が乱暴に食い散らかした後にも見えるし、全員が発狂して自殺したようにも見えるし、なんならあちこちで爆弾が破裂して皆吹き飛んだようにも見えた。
しかしそのいずれにも当てはまらないのは、バラバラにされた人々がヘラヘラと笑い、まるでその様子が嬉しくて仕方が無いかのように見えたことだ。
首と胴体だけの人間両足がもぎ取られた人間。看板に突き刺さって動けない人間。そのどれもがあちこちに散らばる人間の残骸に色めきだっている。
「あー、俺は別に良い子ちゃん系ではないけどよ、さすがにこれは、なぁ」
狂気に犯されるという、ある意味死ぬよりおぞましい光景に、『幻獣の魔物』トート・T・セクト(p3p001270)は顔をしかめた。
「終わったらちゃーんと皆、見送ってやるからな。もう少しだけ、ここで我慢してくれよ」
拝むように手を翳し、目的のポイントへと急ぐ。
その横をで、車いすをひとりでにかたかたと前進させる『ブラッディ・バール』宮峰 死聖(p3p005112)。
「可愛らしい女の子に人生を狂わされるのなら本望だと思っていたけど……人って理性を失ったら同種まで食べようとするんだね」
どの人格のどの立場からの発言かいまいち分からないことを言って、死聖は小首を傾げた。
「困ったなぁ、この身体は借り物だから、食べさせてあげる訳にはいかないんだけど……」
圧倒的な暴食。
禁忌の暴食。
感染する暴食。
まさしく、魔種の足跡だ。
指先をかたかたと震えさせる『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)。
「人を殺して、更にそれを食べるなんて……決して許されることではありません! 隣町への進行を食い止めることで、せめて負の連鎖を断ち切れればいいのですが……」
「殺されてから食べられるなら、まだ良いでしょう」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)がぼんやりと虚空を見つめている。
「あの店主は生きたまま食べられ、それを受け入れているかのようでした。想像もつかない出来事です……」
人間社会の安寧が長く続くと、自らが血と肉でできていて、それが分解可能なものであることを忘れそうになる。平たく言えば、自身も食べられる側にあることを忘れる。
肉食の動物は抵抗を奪い、そして喰うだろう。残虐性や悪意とは全くことなる、ただの生命のサイクルとして。
しかし今回のコレは、そんなサイクルから逸脱したものだった。
「どれほどの苦痛。どれほどの無念。そしてどれほどの屈辱だったことでしょう……」
まさに、暴食。
「やっぱり魔種って困った人達なのです。もし会えたら、食べ残しは良くないって文句言わないと!」
あちこちに転がった残骸を横目に『トリッパー』美音部 絵里(p3p004291)が小さく顎を上げる。
風景のひどさに、『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)は顔をしかめていた。
「それにしても『赤い服の少女』……随分食い意地が悪いのね。相対したら楽しめそうだけれど……まぁ、また今度の機会か」
惨状とその原因について、思うところは人によって異なるものである。
『狩りは食こそが喜び!』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)はそんな中でも密かに、同情と共感と、そしてどこか慈愛に似た感情を抱いていた。
(飢える事は悪くない。生きている証拠だからね。本能の侭に動くのも悪くない。人は皆獣の如く生きてこそだ。けれども……)
「悲しいことだね。私達と敵対しているが故に、殺さないといけないなんて」
「狂気に堕ち、人を喰らう獣になってしまうとは。もはや眠らせるしかないのでしょう」
首を傾げて語る『虚空繋ぐ聖女』メルディナ・マルドゥーネ(p3p006099)。
「この惨状。これも人に仇なす悪魔の仕業。もはや人間の範疇で収まる身体能力ではない、気をつけろ……と、我が主は仰ってます」
角をまがれば、もうすぐだ。
案山子屋ジャリス。新生砂蠍の下部組織でリーダーをつとめた男。
その、なれの果て。
●赤い少女のまねごと
楽しそうな集団だった。
こちらと同じ八人組。
まるで串焼きにしたバーベキューのように誰かの腕や足を剣に刺しては、食いちぎりながら歩く。ビールジョッキに血をためて、飲み干しては笑う。
見ようによっては、オクトーバーフェストにうかれる男たちの様子であった。
残虐きわまる風景と、彼らの飲み食いする物体と、その返り血のおぞましさを除いたならば。
……いや。
「ンー……? まだ歩いてる奴がいるなあ」
振り返る『案山子屋』ジャリス・パーソン。
その目には、もはや常人の正気は見えなかった。目の光りは歪んで濁り、他者が食べ物に見える。
さしずめ、ワゴンに乗せたごちそうが運ばれてきたように見えているのだろう。
唇についた血と肉片をゆっくりとなめとり、ジャリスは笑った。
「おかわりだ、野郎ども」
振り向く男たちが、一様ににたりと笑った。
一足先に飛び出す部下の盗賊たち。子供の手足が四本まとめて串刺しになったサーベルを勢いよく振って手足を押しのけると、佐那へと斬りかかる。
対する佐那は刀の柄を握って気を集中させた。
「同情はしないでもないけれど。因果応報って言葉もあるのだし。……さ、狂気の中で踊りましょう。せめて最期に」
斬りかかるより一瞬早く。
「楽しませて頂戴ね?」
抜刀と共に刃と鞘の鯉口をこする部分から火をおこし、眼前の盗賊を炎に包み込んだ。
炎を抜け盗賊の緩んだ笑み。突きつけられる刃の鋭さ。
それが肩に刺さるのを確認した所で、トートはリュートを弾き鳴らした。
『勇壮のマーチ、我に続け、静寂とバラード』と三曲続けてひとつなぎになるように演奏していく。
「勇敢なる御霊に加護を!」
「あわわわ、なのです」
絵里はぴょんと飛び退いてレイピアを振ると、自らの腕に一筋の傷を作った。吹き上がる血が鎌のように形を変え、盗賊の腕や胸に突き刺さっては新たな血を吹き上げる。
自らに刺さった血の刃を素手で掴み、笑いながら舐める盗賊。
その様子に、トートたちはいっそう顔をしかめた。
「僕に出会えて貴方方は大変幸運で御座いますね。魔種の呪縛から解放されるのですから」
幻は分厚い本を開くと、描かれた挿絵を撫でて架空の物体を召喚。攻撃性の高いなにかに変換して盗賊たちへと襲いかからせる。
対抗するように、盗賊たちが銃撃を仕掛けてきた。
拳銃による数発の弾丸が幻の肩や胸を貫いていく。
その一方で、ユーリエは可愛らしいびっくり箱を投擲。
うちに込められた呪いの声が爆発し、盗賊たちを包んでいく。
黒い煙のように吹き上がる呪いの力。それを切り裂くようにして、ジャリスがまっすぐに突撃してきた。
槍使いが相手を切り裂こうとして……の突撃ではない。
舌をだらしなく出し、目と口を大きく開いて嬉しそうに飛びかかってきた。
「肉ゥ!」
「――」
ジャリスの振り込んだ槍が、マルベートの巨大なテーブルフォークによって受け止められた。
絡めるように固定し、巨大なテーブルフォークをそえて無理矢理に矛先を下げさせる。
「お腹を空かせた可愛らしいジャリスよ。互いの血肉を饗し合う最後の宴と行こうじゃないか!」
「は、ははは……!」
ジャリスは大きく口を開け、マルベートの肩に食らいついた。
多くの人間は、自らの肩の肉を全力で噛み千切られたことは無いはずだ。その痛みや感覚を、直感することは難しい。
ストンと筋がたちきられたような感覚の後に、片腕の力が落ちる。
しかしマルベートはどこかうっとりとした笑みを崩すこと無く、肩の傷口を逆回し映像のように再生していく。
「命はね、ちゃあんと食べてあげなきゃいけないよ。食べてあげれば、こうして還ってくるんだ」
「さて、と」
死聖が車いすの後部からジェットを噴射。
恐ろしいスピードで乱戦状態の中へ食い込むと、ホイールをひとりでに動作させて急速スピン。きわめて都合の良い『ジャリスの目の前』という位置から盗賊の部下を含めて三人をラインに納め、両手でしっかりと持ったレーザーガンのトリガーを引いた。
最大出力で放たれたビームがジャリスたちをまとめて吹き払う。
……急に細かい話をするようだが、魔砲をはじめとする長距離貫通攻撃を使用する際に『薙ぎ払う』『まとめて倒す』と表現されることが多く、その理由は想像にかたくない。しかし多くの敵を攻撃射程内に収めるには必然的に接近せざるをえず、攻撃射程のまとまった敵や群れでブロックを仕掛けてくるに対してはかえって有効性が低いことがある。更に言えば敵に接近した状態で手番を終えるためかなり危険な攻撃方法であるとも言えた。
が。
「スピードには少々自信があってね」
ビームを発射後クイックチャージからのもう一発を発射。即ターンをかけると、ジェット噴射による移動で戦域そのものから急速離脱をはかった。
これがどういう理屈で行なわれているのかはまたの機会にとっておくとして……これが魔砲のきわめて有効な運用方法の一つであると言えるだろう。
「まずは数を減らすべき……と、我が主は仰ってます……」
そうして大きな損害を与えたラインの途中に後から割り込んでメルディナは追撃の魔砲を放った。
「私たちでは貴方を満たす事は叶いませんが……。せめて、二度と飢えないように……」
盗賊の部下たちの上半身が吹き飛んで無くなるほどの衝撃に晒される。
盗賊たちの上半身は道ばたをバウンドしたり酒場の看板にぶつかったりしながら、それでもからからと笑った。
「おなかがすいた。おなかがすいたよう……」
知性までも失われつつあるのは血が流れすぎたがゆえだろうか。盗賊はぼんやりと呟きながら、徐々に意識を閉ざしていった。
●ディナータイム
車いすからのジェット噴射で急速に割り込み、高出力レーザーの発射を試みる死聖。
が、トリガーをひいた時点で明後日の方向にぶれた重心が天空のみを貫いた。
「おっと、やっぱり操作が難しいな。それに折角の砲撃も打ち止めだ」
繊細で一発勝負感の強い戦闘スタイルに、この大ぶり(高ファンブル値)な武器はあまり会わなかったのかもしれない。
が、ノーダメージで二発も撃てれば上出来だ。
「さて、ここからが本番だね」
セーフモードに切り替えて射撃を継続する死聖。
車いすをバック走行させて引き撃ちをかける一方、追撃をはかろうとする別の盗賊にメルディナが割り込みを書けた。
「主よ。人の心を失いし者たちに、せめて安らかなる眠りを」
祈るように手を組み、魔力撃を発射する。
相応の命中能力とトートの支援能力によって補正をうけた魔力の塊は盗賊に直撃。
振り上げた腕をもぎ取って遠くの屋根へ飛ばすほどには相手を損壊した。
バランスを失って転倒する盗賊に、トートが追撃の魔力放出を仕掛けていく。
「悪ぃ……本当、怖いよな。狂気っつーのは――うお!」
直後、ジャリスの槍が飛んできた。
咄嗟に防御姿勢をとった死聖に直撃。
そのまま宿屋の壁に縫い付けられる。
「おいマルベート、こりゃどういう……!」
振り返ると、マルベートが別の盗賊に組み付かれていた。
腕に噛みつき、ナイフを胸にざぶざぶと突き立てて暴れる盗賊に、マルベートは動きを制限されていた。その一方で自由になったジャリスがこちらへの攻撃にシフトしたらしい。
「すぐにそっちへ行くよ。すこし耐えていてくれるかな?」
マルベートは自らの腕の肉を食いちぎっていくう盗賊の頭をあえて優しく撫でてから、相手の身体をフォークとナイフで切断した。
「ひどい怪我……任せて」
駆け寄ってきたユーリエが治癒能力を凝縮したポーションを投げてきた。
血まみれの手でキャッチ。首のあたりをへし折るようにして開封すると、口の上に持って行ってがぶ飲みした。
「……うん、美味しいじゃないか」
「ほ、ほんとに?」
控えめにいって毒みたいな色をしていたポーションをもう一度見てから、ユーリエは首を傾げた。
幻そっと寄ってきて、メガヒールの魔術を施し始める。
終わりの時間が近づいているのが分かるのだろうか。幻はジャリスへと目を向けた。
「もし貴方が今心の底から人を生きたまま食べたいと思っているとしたら大きな勘違いですね。それは、ただ単に魔種が思ったことを貴方が真似ているに過ぎないのですから。猿真似というとお猿様に申し訳が立ちませんね。劣化コピーと称するのが正しいでしょうか。……劣化コピーの皆様、廃棄のお時間ですよ」
一方で、盗賊の部下と共にこちらの戦力を食いちぎっていくジャリス。
それ以上の乱暴を許すまいと、絵里が自らの血を鎖がまのように飛ばして割り込んだ。
「私もくうくうお腹が空きました。だからあなたの血をくださいな、なのです」
ジャリスと近距離で激しい打ち合いに発展する。
互いの武器と武器を打ち合わせ、弾きあう。ジャリスの身体能力は異常というほかなく、常識離れした絵里でもしのぐのが困難であった。
それに、なんだろう。見えたり聞こえたりしているわけではないが、周囲の残留思念が絵里の肉をよこせと訴えかけてくるように思えた。
常人ならそこで忌避感を抱くところだが。
絵里はにぱっと笑って周囲の残留思念を吸い上げた。
「いっしょにあそびましょう。お友達、たっくさーん!」
絵里の全身の傷が次々と開き、鮮血がシャワーのごとく吹き上がる。
吹き上がった血はまるで人々の頭のような形をとり、ジャリスめがけて殺到した。ありもしない腹を満たそうとする、無限の食欲がゆえか。
「駆け引きも何もない、粗だらけの捨て身戦法。美しくはないけれど……ふふ。そういう荒々しいのも、嫌いじゃないわね!」
もはや獣と化したジャリスたち。
佐那は急速に距離を詰めると、刀を地面すれすれのラインから振り上げた。
斜めに走った閃きがジャリスの腕を通過。一瞬遅れて腕が切断され、握っていた槍ごと飛んでいった。
リーチ問題はこれで解決。などと油断する佐那ではない。
ジャリスはどこか嬉しそうにぐわぐわと叫ぶと、佐那に噛みついた。
手首をもっていかれる。
そう、相手はもはや獣だ。それも生きるためではなく喰うために動く狂った獣だ。
「えぇ、えぇ。その奪い合い、受けて立ちましょうとも」
ぶらりとした手で刀は握れない。逆手かつ片手持ちで刀を握り込むと、肘を添えて無理矢理に振り込んだ。
ジャリスの首が……半分まで切断される。
それでもまだ食い足りないというのか、がちがちと歯を鳴らしながら佐那へと迫った。自らに刃が食い込み、更に切れ、血が壊れたスプリンクラーのように吹き出しているとしてもだ。
「狩りとはこうでなくてはね? 分かるかい、ジャリス。何事も楽しまなければ」
「――」
ごぼごぼと吠えるジャリス。
その後頭部を、マルベートはわしづかみにした。
押し込んだ佐那の刃へ逆からも押し込むようにして首を切断すると、マルベートはそれを高く掲げた。
「ああ、なんて愛しい……」
血を浴びながら笑うマルベート。正義ならざるが破滅を喰う。これぞまさに、運命の特異点。イレギュラーズ。
●きっとあの子も巡り逢える
狂気の残骸と化した町と、イレギュラーズたちは思い思いの方法で向き合った。
弔う者、背を向けて去る者。鎮魂の歌を捧げる者。
「終わりましたね……。ええ、惨たらしい戦いでございました」
「御霊よ、安らかに眠っておくれ。来世に光あれ」
そんな中で、ごく一部の者は『赤いあの子』の足取りを追おうとした。
町に突然現われた魔種。
誰もそれが何者であるか分からぬまま、ただ喰われ、狂い、そして死に絶えた。
だがもし。
もし。
あなたがきわめて類似した魔種を知っていたなら。
彼女が何者で、どこからやってきたのか。
そして何を目的としたのか。
気づくかも、しれない。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
――clear
――go next
GMコメント
【成功条件】
・残存盗賊部隊の全滅
【フィールドデータ】
町中。あちこちに死体があり、どの死体もひどく損壊している。
【エネミーデータ】
・『案山子屋』ジャリス・パーソン
案山子屋部隊のリーダー。完全に発狂状態にある。
人間としてのタガが外されており、戦闘力が異様に高い。
そのかわり生存に全く執着しておらず、捨て身の攻撃を行なう。
素のCT値が高く、個体としての戦闘力が高い。主な武器は槍。
『人肉飢餓』状態にあり、生きた人間を殺して喰いたがる性質をもつ。
・部下の盗賊たち
7人ほどの傭兵。戦闘力はそこそこ。遠距離攻撃、近接攻撃、味方の回復が可能。残しておくと厄介な連中。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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