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シナリオ詳細

<刻印のシャウラ>兵は詭道なり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 蠍が動いた。ただの蠍ではない。尋常ではない大きな蠍。
 大討伐から逃げのびた小さな蠍――盗賊『砂蠍』のキング・スコルピオは、幻想の盗賊を着々と束ね、いまや軍もかくやたる大勢力へと成長していた。
 正体不明の資金力と人脈を遺憾なく発揮し成長しながら、盗賊らしく収奪を繰り返していた彼らだったが、その動きに変化が起きた。即ち――財を主目的としない幻想南部への大侵攻である。それは貴族領に留まらず、一般の町や村にも及んだ。
 幻想貴族も様々なれど、侵略をよしとする者はいない。彼らはすぐに部隊を派遣しようとしたのだが――『サリューの王』クリスチアン・バダンデールにより、悪い報せが届く。
 “間が悪い”事に、幻想北部の国境線にて、鉄帝が侵攻の兆しを見せているのだという。
 北の鉄帝、南の砂蠍。どちらを抜かれても、幻想の被害は小さくない。二面作戦を余儀なくされた貴族たちが頼ったのは――

●コード・イエロウ
「ある村を狙っている盗賊団がいるわ」
 『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はそう切り出した。切り出してから周囲を見回し……困惑している者を見て、少しだけ笑う。
「数が多いって顔をしてるわね。そう、今回はあなたたちにチームを組んで動いてもらおうと思ってるの。――守って貰いたいのは南方、山の麓にある村。色々混乱してるけれど……『赤い闇の盗賊団』……いえ、今は砂蠍の赤闇部隊というべきね。彼らがその村を狙っているという情報を掴んだわ。村に宝があるとか、富豪が住んでいるという話はないの。完全に侵略目的ね」
 嘆くようにプルーが頭を振る。そして気を取り直すと、さくさくと人員を振り分け始めた。

「さて」
 振り分けられた8名を見回すプルー。
「あなた達には、盗賊の迎撃を……いえ、奇襲をして貰いたいの。相手は15人の大人数よ。けれど、麓の村に行くためには、絶対に通らなければならない道がある」
 それが此処。と、プルーは広げた地図の一点を指さす。山に挟まれた峠道だ。
「地形の問題で、この道を通らなければ村へはたどり着けないわ。――あなた達はこの道で、赤闇部隊に奇襲や罠を仕掛けるの。巧く行けば全滅とはいかなくても相手の数を減らして、村で待っているメンバーに戦闘を引き継げるかも知れないわ」
 形の良いプルーの爪が、峠道を辿り村へ着く。それが、赤闇部隊の辿るルートだ。
「それから、赤闇部隊には当然引率しているリーダーがいる訳だけれど……彼らは狡猾だから、誰がリーダーなのか判らないように行動しているわ。もしこの奇襲でリーダーの顔が判れば、それは村で待っている皆への大きな助けになるでしょうね」
 つまり、そいつさえ叩けばあとは各個撃破でよいのだ。
 プルーは説明を待っているもう一つのグループを一度振り返り。
「前哨戦、なんていわないわ。叩けるだけ叩いちゃって頂戴。相手はもう盗賊団じゃない、……一種の軍隊よ。鉄帝とどうして同時期に動いたのかは判らないけれど、貴方達は貴方達に出来る事を、出来る限りでやって頂戴」
 いいわね。
 いつになく真剣に、色彩の魔女は一同を見る。そこには己もそうするのだという強い決意と、一縷の望みが託されていた。

GMコメント

 蠍の毒は、どこまで回っているのか。
 こんにちは、奇古譚です。
 こちらは同GMによる「<刻印のシャウラ>天網恢々」とのセルフ連動シナリオとなります。
 ※同時に両シナリオに参加する事は出来ません。ご注意ください。

●目的
 侵攻してくる盗賊たちを奇襲せよ

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●立地
 山に挟まれた狭い峠道です。道の両側は崖のような斜面になっていて、山側からは道を一望できます。
 村に至るまで幾本も獣道に枝分かれしていますが、基本的に一本道です。
 皆さんは「天網恢々」メンバーと共に村へ向かい、峠道で別れる形になります。
 数分後に敵集団がその道を通るとの予測がついています。

●エネミー
 砂蠍・赤闇部隊(15人編成)
  弓矢持ちx5(遠・中)
  剣持ちx10(至・近)

 全員男性です。
 一人リーダーがおり、部隊を統率しています。
 ただし、どの男がリーダーなのか判らないように動いています。

●アテンション!
 こちらのシナリオの鍵は「情報とダメージ」です。
 奇襲が巧く行けば敵の頭数を減らしたり、リーダーが判明する事もあるかもしれません。如何に敵に気付かれず罠や攻撃を仕掛けるか、です。
 また、手に入れた情報を村のイレギュラーズに届ける手段も考える必要があるでしょう。


 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写します。
 では、いってらっしゃい。

  • <刻印のシャウラ>兵は詭道なり完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月15日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
江野 樹里(p3p000692)
ジュリエット
アト・サイン(p3p001394)
観光客
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)
トラッパーガール
瑞泉・咲夜(p3p006271)
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵

リプレイ


 ごとごと、ごとごと、馬車の中。すこし嫌な臭いがする幌の中で、一同は『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)が話を切り出すのを待っている。それは彼女のギフトの恩恵ではなけれども――
「さて」
 されど、彼女は切り出した。
「今回の作戦は極シンプルだ。罠を仕掛けて、まずは相手を遠距離から奇襲……近付いてきた相手が罠に掛かったところを追い撃ち。凝った作戦ではないが――戦果を出すだけなら作戦はシンプルな方が良い。ボクたち“16人”を悩ませる謎を解くためにもね」
「村への連絡手段――ファミリアは既に渡してあるわぁ。あとは情報を受け渡すだけよぉ」
 『酔興』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がふんわりと、場に似合わぬ優雅さでウィンクする。場を侮っている訳ではない。平常心、つまりそういう事だ。
 シャルロッテは頷き、各人へと視線を遣る。
「罠を作れる者は到着次第作ってくれ。奇襲と追い撃ちを主に担当する者はその手伝いをしてくれれば構わない」
「ええ、全力を以てトラップを作ってみせますわ。……全員落とし穴に落としてしまっても、構わないのでしょう?」
 『落とし穴作りの達人』ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)が言う。彼女はギフト、スキル、その他知識諸々がトラップ作成に特化している。今回の依頼は適任といえるだろう。
「私はトラップ作成の知識はないので……皆さんのお手伝いを、します。気分が高まるおまじないなど出来ればと」
 『ジュリエット』江野 樹里(p3p000692)が言う。トラップ作成の知識はないが、彼女は攻撃で真価を発揮するタイプである。例えば魔法をぶっ放したり、魔法をぶっ放したり、魔法をぶっ放したりそういう感じだ。更にギフトの効果を使って、士気を高めることも出来る。
 『水底の冷笑』十夜 縁(p3p000099)が頭の後ろで腕を組みながら、気だるげに言う。
「俺もトラップの知識はないんで、設置した後に隠れられる場所でも探して置こうかね。8人全員じゃなくても良いんだろ?」
「ああ。そんなに離れていなければ、ばらけて隠れても全然構わない。罠を仕掛ける場所も一か所では芸がないからね。満遍なく置くべきだ」
 シャルロッテが頷き……それにしても、と。
「この酷い匂いは一体? ラノール君が酷い顔だ」
「まあ、あの、大体想像は付きますけど……つらい……」
「ああ! ごめん。それは僕の持ち物だね。泥水と馬の糞尿でカクテルをちょっと」
 シャルロッテが視線を送る先、『砂狼の傭兵』ラノール・メルカノワ(p3p000045)がすっかりグロッキー状態になっていた。平然と言ったのは『観光客』アト・サイン(p3p001394)。示した先は幌の奥に置いてある大樽だ。中に何が入っているかは、彼が説明してくれた通りだ。想像はお任せする。
「あ、何ならトイレがわりにする? 量はあった方が良いからね!」
「遠慮しとく……うっぷ」
「……こほん。兎に角、最初に述べた事が作戦の全てで、あとは各々が宣言してくれた通りに動いて欲しい。宜しく頼むよ」
 是、と皆が頷くのを、瑞泉・咲夜(p3p006271)はじっと見ていた。シャルロッテが一瞬こちらを見た気がしたが、その視線にメッセージは込められていないように感じられた。彼女は咲夜がする事をちゃんと判っている。するべきことをするのだと、まるで掴まれているように思われて……咲夜は僅か、眉を寄せた。
「(……出来る事を、出来る限り、か)」
 彼女らを此処へ送り出した情報屋の言葉を反芻する。そうだ、いつだって咲夜はそうしてきた。いつだって、何度だって、そうしてきた。けれど、それで幾つのものが救えて来ただろう。数えるのが怖いのは、まだ足りないと己の心が叫ぶからか。
 ――己の弱さが嫌いだ。強くなければ、殺されて、奪われるだけだ。
 ――けれど、強さを振り翳し、弱きを襲う者を許しては置けない。

 負けるものか。咲夜は思う。
 それは此処にいる8人の――いや。村で準備をしている8人と合わせて16人の総意だった。



 紅黒い衣に身を包んだ一団が、山道に入る。その足は素早く、けれど足音がない。脚を覆った布で、足音を消しているのだ。
「……了解」
 男の一人が呟く。
「村に動揺は見られないな」
「夕食の支度をしてやがる。暢気な事だ……む、了解」
「了解」
「了解、このまま潜行する」
 一団が音もなく走りながら口々に呟くさまは、どうみても普通ではない。まさに隠密。影の行軍。それは一つの村を葬り去るため。葬り去り、新たな蠍の巣として作り変える為に。
 上がる口元を抑えられない。自分の領地。ただの賊でしかなかった自分たちに、領地が出来る。どうしてくれよう。住民はみな奴隷にして、牛馬のごとく働かせよう。子どもは使えないから、配膳係にでもしよう。そして女は――
「ぐっ!?」
「!」
 一条の稲妻が、その思考の罰だというように、先頭の男を打ち据えた。肩に直撃を食らい、思わず膝を突く。
「敵襲!」
「敵襲!」
 声を掛け合い、状況を確認する。立ち止まり、背を護るように円形に布陣した。

「ふむ……」
「どうかしたかい?」
 ライトニングを放った己の手を見つめる咲夜に、シャルロッテが小声で問いかける。いや、とかぶりを振る咲夜。
「今まで魔法というものに興味がなかったものでな」
「そうかい。便利だろ?」
「ああ。だが、こういう時にしか使う事はないだろうな」
 鍛えぬいた一撃にこそ。咲夜の信念は揺るがないが、奇襲という状況下では神秘攻撃は余りにも有利だ。
「ふっふっふ、さあ、そんなところにじっとしてないで、おいでませおいでませ……! 私達の努力の集大成、存分に楽しんで下さいな……!」
「……ケイティさんには、祈り花は必要ないようですね。では、私も」
「お、やっちまうか。じゃあ俺も一緒に」
 そうだね、これだけテンション上がってたら必要なさそうだね。樹里はウンと頷くと、縁とタイミングを合わせ、真魔砲杖に祈りを捧げる。天まで届け、地に轟け。立ちはだかる全てを貫き食い破れ――

「敵襲! 敵……うわああ!」
「ぐああああ!」
 獣道より放たれた魔砲2発。真正面から浴びて、賊たちはついに散り散りになる。これは奇襲だ! 遠距離から狙われている! そう気付くのには十分すぎる。
 それぞれが剣と弓矢を抜いて、構える。僅かな距離だと思われた山道だが、長い道程になりそうだ。
「……反対だ、ボス! このまま動かなかったら、相手の攻撃に嵌るだけだ!」
「俺も反対だ! 至近距離にさえ入ればこっちのもんだろ!」
 賊の足並みが乱れ始める。反対と口々に声を上げる男たち。また、ある男たちはまるで酒に酔ったようにふらつき始める。魔砲の影に、酒精の吐息。“パルフェ・タムールの囁き”だ。
「俺は行くぜ! 此処を抜けたら俺たちにも領地が手に入るん、」
 だ。
 勇気ある彼の言葉は不幸にも、汚水の中にお陀仏する。枝葉が張り出す細い山道。そこに紛れたトラップは、汚水の海と尖った枝。危ないし臭いし不衛生だ、残念。
「ごぶごぼぼ!」
「うわ! きたねえ!」
「トラップだ! くそっ、聞いてねえぞ!」
「ボス! 命令だ、命令をく……あぁー!?」

「よっしゃあ!」
「ケイティ君、口調、口調」
「あら、失礼あそばせ。嬉しくてつい…」
 命令を請う男が落ちたのは、ケイティお手製のトリモチスライム入り落とし穴だ。どんなに硬い地面でもらくらく掘れる魔杖スプンナの努力のたまものである。
「本当はもっと岩が落ちてきたり地形が変わったりするくらいの罠を仕掛けたかったのですけれど……さて」
「ぼちぼち俺たちも行くとするかね」
「ああ。相手をさらに驚かせてやろう!」

「うわああ! 取れねえ! なんだこれ!」
「へへっ、悪いな……お前のおかげで俺はなんなく此処を通れそぐわあっ!」
 無理です。
 仲間を売ったゲスな盗賊の足に、ワイヤーの抱擁。ちなみにこれもケイティ考案である。このお嬢様怖い。
「おーっほっほっほ! いい感じですわ!」
「悪いな、此処から先は通行止めだ!」
「くそっ! お前らか、この罠を仕掛けたのは!」
 盗賊が顔を向けると、ケイティとラノールが道の奥で満足そうに一同を見ている。縁の姿はない。続いて、アトとアーリア、咲夜、樹里が姿を現した。賊とイレギュラーズ双方の間にはまだ距離がある。
「何の罪もない村を襲うあなた達には、お似合いの歓迎パーティでしょぉ?」
「ふざけるなこのアマ! エロい身体しやがって!」
「まず見るのが其処、という辺り、なんかもう救いようがないよね」
 アーリアの挑発にやすやすと乗る男。溜息をつくアト。だがアーリアが煽情的な肉体の持ち主であるのはちょっと否定出来ない。その気持ち、よく判るぞ。
 そんな漢……じゃなかった、男が怒りに任せ、剣を振り翳し駆け出す。ボスの命令なんて関係ねえ、ここまでコケにされて、黙っていられるか――!
「うわっ……ふぐっ」
「あーあ。ブービーは彼か。看板要らなかったかな?」
 そんな彼には永遠の沈黙がお似合いだ。一同へ向けて踏み出した彼は見事に落とし穴に嵌り――その中に仕掛けられた特大の杭で、胸を貫かれた。余談として、エルフ文字もどきを書いた看板も置いておいたのだが――怒りに我を忘れた彼には、見えなかったようだ。
「何人やられた!?」
「二人…三人だ! ボス、命令を……!? なんだ、何も聞こえねえ!」
「何だと!?」
 うろたえる男たちに、やはり、とイレギュラーズは視線を交わす。ラノールのジャミングが彼らが姿を見せると同時に働いている。この狼狽えようからして、恐らくリーダーから手下への命令手段はテレパス。……隠れているリーダーを露わにするなら、今!
「赤闇部隊、倣え!」
「っ!?」
「なんだ!?」
 不意に聞こえた声に、男たちは咄嗟に反応する。リーダーが異常に気付いて、肉声での命令に切り替えたのかと、視線を走らせた先は。
「……成る程」
 シャルロッテが、草むらから姿を現す。それは一同の最後方――奇しくも、相手側のリーダーと同じ。
「君がリーダーか。一番後ろの弓兵君」
「……何を慌ててやがる。今のは俺じゃあねえぞ」
 弓兵の中でも最も小柄な男は、他の男と違って冷静に呟いた。じゃあ誰が、とうろたえる男を見て、口元を抑えたのは樹里。
「ここまで効果があるとは思いませんでした」
「ありがとう樹里君。おかげで確信が持てた」
「……いいえ。私はただ、少し混乱させただけです」
「特徴が判りやすくて助かるわぁ」
 ラノールが一瞬だけジャミングを解除する。その間隙を縫って、アーリアがファミリア越しにリーダーの特徴を伝える。“最も小柄な弓持ちの男”――その言葉が伝わったとアーリアが頷けば、再びラノールがジャミングを開始する。リーダーを暴くという主目的は達成したが、出来れば相手方には混乱したままでいて貰いたい。
「さて」
 シャルロッテが語る。安楽椅子探偵の言には、誰もが耳を傾けずにいられない。例えそれが、判りやすい挑発であったとしても。
「大体の罠は君たちがご丁寧に踏んでくれた。心配せずとも、まっすぐ来てくれて構わないよ」
「こいつ……! ボス!」
「……信じるに値しねえ妄言だ。だが、俺たちはそれを信じるしかないんだろうな。……行くぞ。真っ直ぐに突破しろ」
「おう!」
 盗賊の言に、シャルロッテは笑みを深める。
 ――そもそも、なんで馬鹿正直に姿を現したのか、不思議に思うべきだったね。いや……此処にいる僕たち“だけ”が村の護りだと思っているから、疑いもしないのかな?



 片や赤闇部隊15名、片やイレギュラーズ8名。
 数の上では不利のように見えるが、赤闇部隊は既に1名が死亡、1名がトリモチスライムにより脱落、2名が足を負傷している。更に、アーリアの術による魅了を受け、実質戦闘不能になっているものも未だいる。戦果としては上々、否、それ以上ともいえた。
「此処から先は通さないって、言ったろ!」
 ラノールのカプリースダンス。大戦槌を軽々用いた連続攻撃に、先程汚泥の棘を食らった男が大地に沈む。しかしその後を次ぐように飛来した弓矢、ラノールは飛び退る。
 こちらも負けてはいない。アトが投げた火炎瓶が、敵の侵攻を抑えようと破片を飛び散らせ、その様はまるで――
「いやー、まさに阿鼻叫喚だねぇ」
 その図を作っている本人が言っていい台詞かはさておいて、火炎に前衛を務めていた剣を持つ男たちはひるみ、足を止めざるを得ない。
「くそっ、此処さえ抜ければ……!」
 誰かが言った言葉に溜息をつきそうになるのを抑える。行ったところで彼らにあるのは捕縛か死しかない。けれど、それを表に出してはいけないのだ。寧ろ此処で食い止めれば、それはそれで安泰というもの。
「チッ……全員、此処を抜ける事に集中しろ!後ろの奴から行け、村は目と鼻の先だぞ!」
 敵のリーダーが声を上げる。成る程、的確である。確かに此処を抜ければ村はすぐそこだ。村は、だが。
「了解! 悪いな、また後で会おうぜ!」
「この……! 逃がすか!」
 弱まった火炎の間を抜けて走り出す弓矢持ちの男たち。彼らは攻撃を捨て、剣持ちが時間を稼いでいる間にすり抜ける作戦に出たようだ。
 咲夜が忌々し気に放ったライトニングが、空を貫いていく。
「ここで止めねば…! 後がないぞ!」
 ラノールも声を上げる。が、勿論演技である。後はあるのだ。心強い後が。
 皆が口々に「後がない」「行かせない」と叫ぶ。それを笑いながら走っていく盗賊たち。笑いたいのはこっちだ。

「へへ、トラップと不意打ちばかりで大した事……あん?」
「おっと。そんなに急いでどうしたんだい」
 先頭を走っていた男が、人影に気付いて立ち止まる。縁だ。煙を上げる煙管を咥え、まるで此処に通りすがったかのように話しかける。
「うるせえ! そこをどけ!」
「此処を? それは出来ねえな。此処は気に入りの場所なんだ、サボるなら別の場所で頼むぜ」
「こいつ……!」
 殴りかかる剣の賊に、ゆらりと水面のごとく縁の身体が揺らいだと思えば……衝撃が賊の身体を走り抜け、思わず膝を突く。
「おっと、つい手が出ちまった。悪いね」
「こいつ、さっきの奴の仲間だ! ボス!」
「慌てるな! 弓兵はそのまま行け、こいつは適当に片付けろ!」
「適当、ね」
 ちらりと後方に視線をやる縁。夕食の支度だろうか、煙が幾つか上がっている。恐らく仲間による偽装だろう。
 リーダーは判った。戦力も削った。あとは――こっちも“適当に”、奴らに任せるとするか。



「やあ、生きてるかい」
「……おう」
 縁が次に目を覚ました時、目に入ったのは猫のようなにやにや顔を浮かべるシャルロッテだった。あちこちが痛む身体を起こす。どうやらパンドラによる奇跡を起こしたは良いが、更にもう一度のされてしまったらしい。
「何処に行ったのかと思ったわぁ。一人で後ろにいるなんて、危ないわよぉ?」
「だーいじょうぶさ。そういや、俺をすり抜けてった奴らが悲鳴を上げてたけど?」
「まあ! それは私のマキビシですわね! やりましたわ! パーフェクトな成果ですわ!」
 心配するアーリア、喜ぶケイティ。彼らも傷は負っているようだが、自分程ではないようだ。まるで俺が一番一生懸命に戦ったみたいだな、と縁は笑う。ゆるくやったつもりなのだが、いかんせん一人だったので、傷は皆より多い。
「これだけ戦力を削っておけば、安心……ですか?」
「ああ。あとは村を受け持っている班に任せよう」
 樹里に返しながら、ラノールが縁に歩み寄り、肩を貸して共に立ち上がる。
「そろそろ馬たちもしびれを切らす頃だね。みんなが帰りやすいように道も元に戻しておこうか」
「そうだな。……あの汚水はどうするんだ。埋めるのか?」
「? うん、埋めればどうにかなるんじゃないかな! 土が水分を吸ってくれるよ」
 アトが咲夜の問いに頷く。咲夜はほっと息を吐いた。言わずにいたが、あの汚水と共に馬車で揺られるのはもう沢山だ。多分これは、此処にいる皆の総意だと思う。
「取り敢えず、僕らに課せられたミッションは終わった。後は任せよう」
 シャルロッテが村を振り返り、にやりと笑う。
 まるで彼女には、更に痛い目に合う賊どもが見えているようだった。

成否

大成功

MVP

アト・サイン(p3p001394)
観光客

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
いやー、皆さんすごいトラップでしたね!圧倒されました!
見事に戦力が削れたので、大成功です!
MVPは準備周到なアトさんへ!
また、称号『トラップハニー』をケイティさんに進呈します!ご確認ください!
ご参加ありがとうございました!

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