シナリオ詳細
<刻印のシャウラ>危険区域を進む影
オープニング
●ローレットにて
「今、幻想が危機にさらされているのです。とーっても危ないのです! イレギュラーズの出番なのですよ!」
えいえいおー、と拳をつきあげる『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。
北では鉄帝国の侵攻する兆し。南からは『新生・砂蠍』の襲撃。挟撃となったのはただ運が悪かったのか、それとも──。
「新生・砂蠍と鉄帝国が手を組んでいるのかは、わからないのです。でも接点はないはずですし、あの国はそういったことが嫌いだと思うのですよ」
だから、あくまで偶然だったと今は考えるべきだろう。その真偽を確かめるより、この状況を切り抜けなければならないのだから。
「今、幻想貴族の皆さんが北部に戦力を集中させているのです。その間、イレギュラーズの皆さんは南から来る盗賊達を迎え撃ってもらいます。ただ……今回皆さんの行ってもらう場所は危険なところなのです」
普段、その場所は閉鎖されている。片や崖、片や谷となっている道は常に風が吹き抜け、荷馬車などが通るには危険だからだ。
戦闘のために広がるなら3人が限度。それ以上並べば満足に交戦できず、場合によっては谷へ落ちてしまう可能性もあると言う。
砂蠍に与したある盗賊達はその道を進んで、幻想南部に侵入して来ようとしているのだ。
「閉鎖されている場所を過ぎたら、近くの村までそこまで遠くないのです。それに広大な森もあったりして隠れられてしまいます」
叩くなら閉鎖区間、というわけだ。
1人のイレギュラーズが敵の情報を問う。
「はい、盗賊達のことですね。全部で12人、砂蠍の元につく前はカメレオン盗賊団という名前だったのです。割と有名みたいで、そこそこ情報が集まったのです」
剣、槍、弓、杖持ちと至近距離から遠距離までに程よく対応した構成。周囲の把握能力に長け、連携した行動で略奪を繰り返していたという。
尚、メンバーは全員飛行種らしい。間違ってもカメレオンの獣種とかはいないとのこと。
「戦うにはとても危険な場所ですが、それは向こうも変わりません。幻想市民のためにも、どうか追い払ってほしいのです!」
●風の抜ける道
ひゅぅ、と風が音を立てて抜けていく。
常に流れる風は匂いを消し、その音は微かな足音をかき消すだろう。
暗色の外套を纏い、彼らは影から影へと忍んでいく。視界を悪くするほどではない。けれどせり出した崖の作る日陰は、ある程度近くなければ彼らを見つけ難くしている。
坂の天辺は日が差していたが、さっさと通り過ぎてしまえばよい。残るは緩やかな下り坂だ。
あと半分だ、と彼らの1人が小さく呟く。それは自分達の内に湧き上がるだろう油断に、あらかじめ釘をさしておくための一言だ。
先の見えない曲がり角が幾つか続き、そのたびに彼らは注意深く先を伺う。
坂は緩く続くが、それもあと少しの事だろうと思わせた。
- <刻印のシャウラ>危険区域を進む影Lv:4以上、名声:幻想10以上完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年11月15日 21時15分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●崖沿いの道
風が道に沿うようにしてひゅうひゅうと音を鳴らしている。少なくとも地を踏みしめている今は煽られることはなさそうだが、天候が悪ければその限りでもないのだろう。
(通れさえすれば、強襲する為の移動経路として確かに有用な場所ですね)
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は進みながらそう思う。
勿論、すすんで通りたくなどない。盗賊達もよく通る気になったものだが──そんな動きを察知したことこそ、流石と賛辞すべきだろう。
「なかなか見つからないね……」
「うむ。見事に隠れておるのか、我らの想定より進んでおらぬのか……」
『煌きのハイドランジア』アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)と『解華を継ぐ者』エリシア(p3p006057)はファミリアーを飛ばしながら難しい表情を浮かべる。
飛んできた野鳥と意思の疎通を試みる『世界喰らう竜<ワールドイーター>』ヨルムンガンド(p3p002370)も表情は芳しくない。
「動く何かがいた、って言っても盗賊とは限らないからなぁ」
「すんなり道を歩いてくるとも限らぬな」
『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)は視線のみを動かして谷を見下ろした。
彼の研ぎ澄まされた感覚では、まだ谷の方に引っ掛かりを覚えるようなものは感じられない。しかし何にせよ、向かってくる方角はわかっているのだ。
(待ち伏せをする以上、物陰に潜んでおきたいところでござるが)
このような場所で10人が潜めるだけの物陰もない。敵を見つけだして先手必勝、である。
「この辺りは曲がり角が多いみたいダ。奇襲攻撃するならそういう場所がいいかもネ」
『水葬の誘い手』イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)の事前調査の通り、曲がってもすぐにまた曲がり角。『エブリデイ・フェスティバル』フェスタ・カーニバル(p3p000545)が温度視覚を用いて死角に人がいないか確かめる。さらにファミリアーの扱える者に角の先を確認してもらい、影色の外套を纏って注意深く覗き込んで──。
「……大丈夫。進もっか」
誰もいないことを確認し、一同は再び歩き始めた。いつでも戦闘できるように、と武器を構えていた『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)も一旦武器を降ろす。
『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)は足元の石を軽く蹴りつけ、谷へ落としてみた。石は谷底へ吸い込まれていき──落下音は聞こえない。
厄介な戦闘場所、そして相手は全員飛行種の盗賊『カメレオン部隊』。最大限の注意が必要だろう。
(ま、やることはいつもと同じか)
全力でサポートしていくのみだ──とアオイは視線を正面へ向けた。
不意に「あっ」とアリスが短い声を上げる。盗賊達を見つけたのだ。暗色の外套を纏った彼らは影から影へと移動している。運悪ければ見逃していただろう。
「あとどれくらいかな?」
「まだ見つかる程じゃないけれど、これまで以上に曲がり角で気をつけた方がよさそうだよ」
ムスティスラーフの言葉にアリスが答え、フェスタが「あ、それなら」とヨルムンガンドと『黒の死神』天之空・ミーナ(p3p005003)に手招きする。
「2人に幸運がありますように」
それぞれの手を優しく取り、甲にキスを送るフェスタ。
前衛を担う2人に、どうかささやかな幸運が訪れますように──そう願い、祈る。
●影から影へ
随分と下ったように思う。けれども、まだ幻想の地は見えない。
(だが……それほど遠くはなさそうだ)
鳥の姿が多い。餌になるものが向こうにある──餌の育つ場所、幻想国が近いということだろう。
曲がり角に気付いた先頭の男が足を止めると後ろも倣った。
まだ角からは十分に離れている。けれどもひゅうひゅうと風の音が絶え間なく響き、足音はあろうとなかろうと聞こえない。
後ろの盗賊達はそのままに、先頭の男はゆっくりと曲がり角に近づき始める。1歩、2歩──。
「ふん、盗賊風情が国をひっくり返そうなどとたいそれた夢を抱きおって……神の雷は我が怒りと知れ! 喰らうが良い!」
飛び出してきた影に、反射的に身を引く男。
しかし後退しきるより早く、道を光が埋め尽くした。
●刃をかわす
広くはない道に走る電撃と緑の閃光。数人は辛うじて回避したようだが、それでも敵の大多数を巻き込めた。
「敵だ! 応戦しろ!」
誰かの言葉と共に盗賊達が武器を構える。その間にイレギュラーズは隊列を入れ替え、斉射要員のすぐ後ろに控えていた2人が飛び出した。
(やれやれ。どうにも盗賊ってのはいけすかない連中ばかりだよなぁ)
「かつてアサシンだった私が言えた義理でもねーんだろうけど……な」
自らの思いに小さく呟きを零し、ミーナはなりそこないアンデッドを盾として召喚しながら敵陣へ飛び込む。ヨルムンガンドもそれに続こうとするが──。
「うわっ……!」
翼の魔石で上からの飛び込みを狙ったヨルムンガンドは風に煽られた。その隙を敵は見逃さない。前2列ほどにいた盗賊たちは2人の間をすり抜けていき、残っていた盗賊たちがヨルムンガンドへ襲い掛かる。
竜の腕で反撃に転じるヨルムンガンド。その近くでぶわり、と意図的に作り出された風が巻いていく。
ヨルムンガンドを巻き込まず、しかし敵は巻き込める絶妙な距離で起きた暴風域。盗賊達は標的をミーナへ定めた。
その頭上を魔力の弾丸が飛んでいく。杖持ちを狙ったそれは不思議なベールによっていくらかスピードを落としたものの、盗賊達の外套と薄皮を焦がした。さらにエリシアの放った殺傷の霧が弓持ちを苦しめる。次いで降りかかったのは──。
「──破壊のルーン『H・ハガル』」
アリシスの唇が言葉を紡ぐと同時、いくつもの雹が盗賊達へ降り注いだ。
「4人来るヨ! 気をつけテ!」
イーフォの声が上がる。
ヨルムンガンド達の間をすり抜けていった盗賊達は片手剣持ちと槍持ちがそれぞれ2人か。彼らは、真っすぐに後ろへ控えていたイレギュラーズ達の方へ向かって行く。
「やあやあ我こそは『井之中流』河津 下呂左衛門! 遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!!」
下呂左衛門は名乗り上げながら、自らの闘志によって武者鎧を形成させた。しかしすぐさま盗賊達の中から声が上がる。
「惑わされるな! 自らの役目を全うしろ!」
その言葉に正気を取り戻す盗賊達。彼らの前に立ちはだかったのはフェスタだ。
「これ以上先には進ませないよ!」
双盾を構えて1人を足止めしたフェスタ。ムスティスラーフもまた迎撃に立ちはだかる。
(略奪者は嫌いなんだ。大事なモノを奪っていく)
脳裏に浮かび上がるのは嫌な──召喚される以前のこと。思い出したくもない記憶。
もう誰も失わないように。ムスティスラーフはその思いを胸に、剣持ちの男へ斬りかかる。ムスティスラーフの剣は敵のそれで受け止められ、横へと流されて──。
「なに……っ」
次の瞬間、敵はムスティスラーフの脇を通り抜けていく。その先にいるのは後衛の仲間だ。
「容易に近づけると思うでないっ、身の程を知るが良い!」
エリシアの衝術が襲い掛かるが敵は体を捻ってそれを避け、剣を勢いよく振り回す。攻撃を受けた数人の内、アリスの体が傾いだ。
「……っ」
自らの飛行力で体勢を立て直したアリス。反撃と言わんばかりに片手剣持ちの男へ、さらには後ろから近づいていた槍持ちの敵も巻き込んで電撃を放つ。
(負けられない……私の後ろには守るべき人達がいる)
今、自らの力を揮う理由はそれだけで十分だ。
電撃を受けた槍持ちはその身のところどころを焦がしながらアオイへ肉薄しにかかる。アオイは接近される前に、と全力の衝撃波を放った。
「簡単には寄らせねーからな」
槍をかざして庇い、大したダメージとはならなかったものの後方──ムスティスラーフ達の方まで吹き飛ばされる盗賊。アオイは前衛へメディカルケアをしに行くべく走り始める。
もう1人の槍持ちと相対したのはイーフォだ。
「山は山賊、海は海賊……ココは何賊になるのカナ?」
「さぁな。盗賊は盗賊のままなんじゃねぇか?」
盗賊の言葉にイーフォはそれもそうか、と納得する。結局のところは何だっていいのだが。
イーフォは半身引いて急所への直撃を避け、薄い笑みを浮かべてみせた。
「賊には賊なりの矜持があるのだろウ? ならばおれ達は相応の礼儀をもって迎え撃ってやらねばネ」
想定していた陣形とは異なるが、自衛の手段を持ち合わせないものばかりではない。
イーフォから漆黒の閃光が撃ち放たれる。盗賊の後方から下呂左衛門やムスティスラーフも駆けつけ、その一帯で乱戦が始まった。
「まだ倒れるべき時ではないぞ、戦士達よ」
エリシアがミーナへ回復をかける。さらにイーフォのキュアイービルが毒を取り除き、膝をついていたミーナは再び盗賊へ立ち向かった。
そんな姿を盗賊はあざ笑う。
「さっさと逃げ帰ったらどうだ? 女がそんな無茶するもんじゃねーぜ」
(……そんなの知ったもんか)
溜めた活力を力に、ミーナは双剣を旋回させ始めた。
「無茶? 無謀? ……それを決めるのはお前らじゃねぇんだよ!」
吹く風に盗賊が顔を歪め、1歩足をずらす。──ささやかな幸運がミーナに訪れたのだろうか。その先に足場はなかった。
盗賊の表情が驚きに彩られる。男の背から翼が生えたものの、元々吹く風に流されるようにして谷へ落ちていった。
「まずは1人……!」
確実な成果に声を上げたミーナ。しかし、その背後で悲鳴が上がった。
「アオイさん!」
メディカルケアをかけるために戦場を駆けていたアオイ。敵陣の中をも向かっていけば、蓄積するダメージは誰より多かった。
しかし、アオイの意思はまだ折れていない。
「まだまだ倒れるわけにはいかねーからさ……」
パンドラの力でもって立ち上がったアオイ。自らに回復をかけ、全力のサポートをするべく再び駆けだす。
(蠍も残党だ何だと今まで言われてたが、もはやただの盗賊とは思わない方がいいな……)
ヨルムンガンドは敵の攻撃を受けながらそう感じた。今更だが──いや、今だからこそ思う。敵の強さと連携力を肌で感じるからこそ、侮れない。
弓持ちの盗賊が複数の矢をつがえ、一斉に放った。空で孤を描いたそれらはイレギュラーズの後衛へと降り注ぐ。それらから逃れるように下がった盗賊へ降り注ぐのは回復の範囲魔法だ。
(盗賊団という割には随分と手堅いですね)
アリシスは矢のお返しにと光る蝶を放ちながら、相手の行動に目を眇めた。
部隊としての戦闘に慣れ、それこそ訓練された軍兵にも劣らない。ここを通らせるのはあまりにも危険だ。
瞑想で活力の回復を試みるアリシス。その耳にフェスタの悲鳴が入る。
見ればフェスタの体が谷側へと傾ぎ、道にはフェスタに動きを封じられていた盗賊のみがいた。
「フェスタさん!」
アリスが咄嗟に谷へと地を蹴り、フェスタの投げたロープを掴む。
「大丈夫?」
「うん、まだいけるよ!」
無事を確認しながら飛行で戻るアリス。落ちる時は重力に身を任せればいいものの、上がる時は落ちる時以上の時間を要する。その時間はアリスを焦らせるようだ。
一方、アリス達の戻らない路上ではまだ戦いが続いている。
アリシスの近術やエリシアの衝術が飛ぶ中、イーフォは視線を前衛の方へ向けた。そしてこちらへ戻す。
(……ここでの空中戦闘は危険みたいだネ)
空を飛んでくる敵がいれば迎撃するつもりであったが、敵は依然として地に足を付けている。わざわざ危険な道を進んでくるのだ、地形や戦闘になった際のことは十分に調べ、考えて来ているのだろう。
敵の攻撃を受け止め、イーフォはタロットをかざした。
「なめんじゃねーヨ、ってネ!」
当たる寸前に身を翻した盗賊。しかしその背後から渾身の殴打をくらう。
「ただいまっ、加勢するよ!」
双盾を構えたフェスタ、再び敵の1人をマークしにかかった。地に降り立ったアリスも前衛へ加勢すべくマジックミサイルを放つ。
後衛へ攻撃がやや手薄になったことで回復の手が回り始める。エリシアの回復を受けたヨルムンガンドは竜種を思わせる腕を敵へ振り下ろした。相手の杖持ちが張ったベールによって思うほどの威力ではないが、確かにダメージは蓄積されている。
敵へ毒の霧を吹きかけながら、下呂左衛門は内心彼らの動きに舌を巻いた。
彼らは実力のある者達だ。個々が戦闘に関して多少なりとも考えられ、それこそこちらと同じように作戦立てて刃を交えている。他にもこのような盗賊団が幻想へ攻め入っており、それを盗賊王が纏めているとなればまさしく『軍』と呼べるような組織力だ。
(商売に生かせば血を流さずとも財を成せたでござろうに)
けれども彼らは方法を間違ってしまった。幻想の民に害を為すつもりならば立ち塞がり、迎え撃つのみ。
「……こっちも手段を選ぶ気はないんだ、悪いな」
よろけた盗賊へアオイが衝撃波を叩きこむ。盗賊は槍を構えて耐えたものの、回復を受けるためか一旦下がった。
これで後方に残るは片手剣の男1人のみ。──しかし。
不意に、男の口元が笑みに歪む。イーフォの背筋が粟立った。
「皆、気をつけ……っ」
気をつけテ、と言い切る前に体に衝撃が走る。体から飛び散るアカ。衝撃のままに押し出され、浮遊感に包まれる。
イーフォは咄嗟にロープを投げた。長いロープは落ちる軌跡を残すように伸びて、途中に生えていた木の枝に引っかかる。勢いよく落下を止めた体が悲鳴をあげ、イーフォは小さく眉根を寄せた。
だが、すぐに落ちてくる影を見て反射的に手を伸ばす。相手もイーフォに気付いたように手を伸ばして──けれど、ほんの僅か届かない。
「アオイ!」
頭上から追いかけるように緋色の少女──エリシアが飛んでいき、さらに矢が彼女を狙って追いかけていく。
イーフォはそれを見ながら、ばき、と何かの折れる音を聞いた。
後衛への攻撃を少しでも減らそうと緑の閃光を放ったムスティスラーフは、風に紛れた音を耳にしてはっと上を見上げた。下呂左衛門は咄嗟に後ろへ回避したが、複数の矢がムスティスラーフやフェスタ達へ降り注ぐ。
攻撃により一瞬膝を砕けさせたフェスタ、敵の攻撃を咄嗟に盾で庇うもののだんだんと押し負けていく。短い悲鳴に思わず視線を向ければ、そこにいたはずのムスティスラーフがいない。
再び救い上げるべく谷へ向かったのはアリスだ。しかし、間一髪手を掴んだところで上方からの矢を受ける。
肩に刺さった矢を睨みつけながら、アリスとムスティスラーフは谷底へ──。
「ミーナ!」
敵陣の真ん中で戦い続けていたミーナが崩れ落ちる。ヨルムンガンドは咄嗟に彼女と盗賊の間に割り入り、腕で攻撃を受け止めた。
一瞬視線を後ろへ向けるものの、ミーナの反応はない。さらに後方もやけに人数が少なくなっている。
「よそ見なんてしてる場合か?」
はっと視線を戻すと、再び盗賊の杖が振るわれた。躱せないとも一瞬思ったがミーナの体を咄嗟に抱きかかえて間一髪回避し、端へミーナを横たえる。
(今この中でダメージを受けてるのは、杖を持った敵だな……)
たとえ逆境になっているとしても、1人でも確実に倒さなければならない。
ヨルムンガンドは単身盗賊達へ突っ込んでいった。
フェスタは目の前の相手が後衛へ向かおうとしていないことに気づき、マークを解いた。
(少しでも可能性があるなら、掴み取らなきゃ!)
突きの攻撃を躱し、その勢いのまま盾で殴りつける。急所に入ったその攻撃に、盗賊はよろけて足を踏み外しかけた。
「……っ、落ちて!」
畳みかけるように攻撃を加え、谷へ敵を落とすフェスタ。小さくなっていく影に顔を一瞬歪めて、けれどもそんな場合ではないと踵を返す。
「女子ばかりを狙うとは何事か! 先に拙者を倒してみせよ!」
下呂左衛門の声にアリシスを狙っていた盗賊達が視線を向ける。注意を引いた下呂左衛門は再び武者鎧を形成させ、かかってこいと言わんばかりに刀を構えた。
一斉に向かってくる攻撃に耐える下呂左衛門。アリシスはヨルムンガンドの援護に回り、フェスタは下呂左衛門へ加勢する。
必死の応戦。──しかし前衛のヨルムンガンドが力尽きたことで勝敗は確かなものとなる。
「終わりだ、イレギュラーズ!」
イレギュラーズの血に濡れた刃が鈍く煌めいた。
静かになった戦場で、盗賊達は動くものがなくなったことを確認すると足を踏み出す。
──しかし、背後から声。
「待、て……! お前達は蠍から、何の命令を受けている……! 何故このタイミングで……」
ヨルムンガンドがふらりと立ち上がる。体は傷だらけでも、その瞳から戦意は消えていない。
しかし次の瞬間、ヨルムンガンドの目の前に盗賊が肉薄した。被ったフードごしに笑みを見て、同時に谷へと押し出される。
「──生きていれば知れるかもよ? じゃあね、」
男の言葉は落下によって遠ざかっていく。ヨルムンガンドは魔石を握ったものの、そのまま意識を暗闇へ沈ませた。
成否
失敗
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。
転落対策に対して、飛行は勿論のことですがロープを用いた方法も工夫が効いていて良かったかと思います。
いずれ再戦もあることでしょう。それまで暫しの休息をお取りください。
またご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
GMコメント
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●成功条件
新生砂蠍・カメレオン部隊の撃退
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
崖と谷に挟まれた道です。緩やかに上り、緩やかに下ります。おおよそ幅は10m程度。3人程度なら十分に広がって戦えますが、無理すると谷に落ちます。
崖は頭上で谷側へせり出しており、道に日陰を作ります。崖上からの狙撃は角度的に難しいでしょう。
また、崖にそってそこそこ強い風が吹いています。敵味方関係なく、遠・超遠距離攻撃に関して命中にマイナス補正、回避にプラス補正がつきます。スキル【飛行】(もしくはそれと同等のスキル)での飛行でなければ戦闘はできません。ご注意ください。
谷へ落ちる際の判定は回避と特殊抵抗によって判定します。プレイングで有効と思われる手段を取ると判定に補正が入る場合があります。
●新生砂蠍・カメレオン部隊(12人)
飛行種のみで構成されています。おかしな名前ですが、実力は本物です。
警戒心が強く、いずれも周囲の把握能力に長けています。連携するような行動も目につきます。
杖以外の武器には毒が付与されています。(通常攻撃・物理スキルに【毒】)
詳細を以下に記します。
・盗賊(片手剣×4人)
武器には毒が付与されており、空いている手には小型の盾を装備しています。
投げ道具を持っていたという証言もありますが、今回も持っているか定かではありません。
全員小柄で、回避に優れます。
振り回す(物特レ):自らを起点として武器を振り回します。敵味方の区別がつかない至近範囲攻撃です。【飛】【毒】
攻勢(自付与):物理攻撃力と命中を上げます。【副】
・盗賊(槍×2人)
武器には毒が付与されています。
防御技術に優れます。
薙ぎ払い(物列中):横に薙ぎ払います。【毒】
カウンター(P):至近、近距離で攻撃を受けた場合、30%の確立で相手へ通常攻撃を行います。【崩れ】
・カメレオン部隊(弓×3人)
矢に毒が付与されています。中~遠距離の攻撃を主とします。
命中に優れます。
一斉射撃(物範遠):1点の中心を定め、複数の矢を一度に放ちます。【毒】
洞察力(自付与):反応を上げます。【副】
・カメレオン部隊(杖×3人)
杖を持っています。援護と回復を主とし、AP数値がとても高いです。
神秘攻撃力、EXA、EXFが優れています。物理攻撃はそれほどでもありません。
回復(神中単):1人を回復します。
集団治癒(神遠範):範囲内の味方のみを回復します。回復量は単体回復より劣ります。
守りのベール(神中列):味方に守りのベールを張ります。回避と防御技術が上がります。
充填(P):APを一定量回復します。
●ご挨拶
愁と申します。
谷に落ちたら重傷待ったなし、最悪の場合の考えられますので本当にお気をつけください。
ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
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