PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ユメクイ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夢の中へ
 もう、イレギュラーズたちは夢の中だろうか。
 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)はふとそんなことを考える。けれど、部屋に行けばわかるだろう。
 手に持った茶色い小瓶を振ると、傾きに合わせて中の液体が揺れる。栓を抜いてもこれといった香りはない。
「……水?」
 ぽつりと言葉を零し、すぐさま脳内で否定する。
 これは水ではない。れっきとした薬品だ。人体に害はないものの、これからの実験がなければ飲みたくない部類の。
 シャルルは小瓶を傾け、その液体を嚥下した。
 何の味もない。幻想貴族間で嫌がらせに使われる物らしいが、成程これは気付かないわけだ。そのまま用意されても『ただの水』と判断するだろう。
 小瓶を空にすると、シャルルはローレットの近くに間借りされた一室へ向かった。そこには依頼の参加者──もとい、実験被験者と実験者がいる。
 ドアをあければ、いくつかのベッド。被験者が眠っており、その近くに不可思議な生物がいる。あれがきっと話に聞いた、夢を食べる妖精だろう。
「お、どーもどーも。早速始めよっかー」
 ドア付近で様々な電子機器を弄っていた、研究者の女性がシャルルに気付く。シャルルは頷くと空いているベッドに向かった。
 枕元にいる妖精の頭……らしき部位を撫で、横になる。目を閉じてほどなく睡魔が訪れた。
(一体、どんな夢を見るんだろう)
 現から離れていく意識の中。その問いに答える者はいない。
 そして起きても答えることはできない。忘れていなければ、この実験自体が失敗だ。
(どんな……悪夢を……)
 夢の中へ意識を沈めたシャルル。その寝顔を妖精が見下ろしていた。

GMコメント

●目的
 妖精を用いた『悪夢を忘れさせる』実験に参加します。

●概要
1.実験の被験者として薬を飲み、悪夢を見ます。
2.悪夢は過去の再現かもしれませんし、全く見た事もない、深層心理で恐れるものかもしれません。
3.被験者は目覚めた後、『絶対に』夢の内容を覚えていません。夢は食べられてしまいましたから。

●詳細
 皆様には『悪夢を見る薬』を貰ったその場で飲んでいただきます。その後寝れば確実に悪夢を見ることになるでしょう。遅効性の催眠作用があります。どうあがいてもシャルルが飲ませるので観念してください。
 夢の中で皆様は悪夢を見ます。メタ的に言えば『PCにとって悪夢であればなんでもあり』です。ただし全年齢でお願いします。
 夢を見ている間に妖精が皆様の悪夢を吸い取り、そのデータを研究者が取ります。
 目覚めた皆様は夢を吸い取られたことにより、絶対に(2回目)内容を覚えていないものとします。ただしほんの微か、断片的に覚えているような描写は可能かもしれません。

●NPC
 場合により『Blue Rose』シャルル(p3n000032)が登場します。彼女もまた被験者になりますが、基本的に描写はありません。

●ご挨拶
 愁と申します。
 悪夢だと思うものも、時としては良い兆しの示唆をするようですが……まあ悪夢を見たい人は少ないですよね。
 目覚めた後は絶対に(3回目)夢の内容をはっきりとは覚えていませんので、それだけはご注意ください。
 特に相談する事柄もないかと思いますが、相談期間は5日です。プレイングの白紙にはお気を付けください。
 そんなわけで実験協力、どうぞよろしくお願い致します。

  • ユメクイ完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年11月06日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

カタリヤ・8・梔(p3p000185)
唇に蜜
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
西條 友重(p3p001835)
贄の呼聲
ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)
性的倒錯快楽主義者
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
秋空 輪廻(p3p004212)
かっこ(´・ω・`)いい
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者

リプレイ

●明日はきっと、いつも通り
 ああ、寒い。急激に体温が下がっていく。
 ぼんやりと頭の中が霞んでいって、上手く考えられない。
 嫌だ、何もできなくなっていく。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ──嫌だ!!

 誰か、俺を助けてクレ。まだ消えたくナイ。助けて、タスケテ。
 叫びたいのに叫べない。誰にも俺の声が届かなイ。
 自我が薄らいでいク──。

 『自称、あくまで本の虫』赤羽・大地(p3p004151)──赤羽であり、大地であるもの。
 死にたくない、消えたくないという思いは互いの手を取らせ、生き延びて──2人は赤羽・大地となった。

 2人が1人になったところで、場面が変わる。
 客観的に見た赤羽・大地がいる。彼は突然血を吐いて、その場に崩れ落ちた。その体が限界を迎え、朽ち果てていく。
 また場面が変わると、今度は通り魔の女──首切り兎が再び赤羽・大地に襲い掛かるところ。首を切られ、深手を負わされる瞬間。
 場面が切り替われど、1度救われた魂が再び死に飲みこまれようとする瞬間であることに変わりはない。
 まるで未来を示唆するかのようだ。この先、もしかしたら今のように──体が限界を迎えたり、また首を切られるかもしれない。

 ──……だけど、大丈夫だ。
(そうダ。所詮、そんなのハ)
 ──俺の、
(俺達ノ)
 ──妄想に、
(悪い夢にすぎなイ)

 ──この夢から覚めたら、きっと、明日もいつも通りに生きていける。
(……死なずにいられル、筈ダ)

 ──そうだよな?
(……そうだト、言ってくレ)


●久方の雨は死を運ぶ
「ま、起きタラ何も覚えてないラシイし、気楽にイこうか」
 『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)は依頼内容を聞いて軽く肩を竦め、依頼人へストローを要求した。なにせ飲もうにもガスマスクが外れない。
 小瓶にストローを差し、薬を飲むジェック。彼女が見るのは──過去の夢だ。

 その日はどんよりとした曇り空だった。人々の表情も天気をそのまま映したかのように──と言いたい所だが、生者は全員汚染対策のマスクをしているので表情はわからない。
 まあマスクをしなくて良いとしたら、皆暗い面持ちだっただろう。大気汚染が進み、荒廃した世界で明るく振る舞える人間はそうそういない。可能性としては、僅かな水源を手に入れた人間くらいなものか。
 原型を留めていないコンクリートの建物、その下にできた辛うじて屋根のある場所。そこでジェックは歩く人々を、ずっと眺めていた。
 道の真ん中で子供が倒れる。その唇は『みず』と1度だけ形を変えて、動かなくなった。
 水源から湧き出る澄んだ水は非常に高価で、全員にいきわたる事は無い。では空から降る水──雨はと言えば、ここ数年降っていなかった。
 以前は1年に1度は降っていたと思う。その前は数ヶ月に1度。さらにその前は1カ月に1度。さて、次はいつ降るか。
 ──ふいに、動かなくなった子供の頬へ水滴が落ちた。

「雨だ」
「降ってきた」
「いきられる」

 建物に隠れていた影がぞろりと動き、外へ出ていく。しかしジェックは動かない。ただ彼らを見つめるだけ。
 雨は外へ出てきた人間へ平等に降る。けれど人々は少しでも多くと口を開き、手を皿のように差し出した。
(その雨は、ノめないよ)
 ジェックと、外へ出ていかなかった何人かは気づいている。誰も指摘しないのは、何の思惑があってのことか。
 何年も降らなかった雨。酷くなる大気汚染。──汚染物質が濃縮された、雨。そのまま飲んだら、肌に触れたら、何が起こるか。
 間もなくして人々から苦悶の声が上がった。倒れる人間の体を、肌を、雨が焼いていく。
 苦しみながら爛れた肉の塊と化していく人々。それをジェックはガスマスク越しにただ眺めていた。


●失ってしまったモノ
(悪夢……悪夢ですか)
 微睡みながら『贄の呼聲』西條 友重(p3p001835)は思う。
 きっと、昔のことを夢に見るのだろうと。だって今の私にとって、それ以上の悪夢は──。

 祭壇の上で、祭司たちが2人を囲んでいる。囲まれているのは私と、──兄。
 これから友重は生きる意味と目的を、兄の手によって果たすのだ。
 いいのか、と兄が小さく問うた。まるで、囁くように。
「どうして?」
 友重は聞き返し、大丈夫だとでもいうようににこりと笑ってみせる。
 村の平穏と安寧のための『贄役』である自分の人生に疑問を持った事は無いし、不満もない。大好きな兄に斬られて殺されることを本望にすら思っていた。
 ──けれど、兄は違ったのかもしれない。
「っ、あぁああぁぁああぁっ!! 痛い、いたいっ!!」
 鋭い刃が友重の体へ吸い込まれ、本来味わうはずなかっただろう極度の痛みと死ぬ恐怖心が友重の中に生まれる。
 即死で終わるはずだったその一太刀。それは斬り込みが浅く、かつ刀が途中で止まってしまったのだ。
 痛い痛い痛いいたいいたい、死にたくない──生きていたい。
 死の恐怖を味わって、ようやく友重は生を求め始めた。
「いたい、しにたく、ない……たすけて……おにい……さま」
 助けを、救いを求めたのは目の前にいた最愛の兄。
 激痛と共に、ゆっくりと視界が霞んでいく。このままだと死んでしまう。
 見上げた兄の表情は見えないまま──視界が暗転した。


●最悪をもう1度
 見たことのある部屋だ。──見慣れていた、部屋だ。
 『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は瞬きを1つして、依頼を受けて眠ったことを思いだす。これは明晰夢というものか。
(……本当に?)
 あまりにも違和感がなさ過ぎて、逆にイレギュラーズとなったことが夢だったのではないかと考えてしまいそうだ。
 お座敷に出て、お客さんをお迎えして。舞踊やお酒の席に出れば、それは以前と寸分違わずいつもどおりの光景だ。
(もしかして、元の世界に戻って来たんやろか)
 夢と思えない世界に内心首を傾げる蜻蛉。
 ──けれど、どうしても記憶と違うことが1つあった。
(……あの人が居てる事や)
 本来ならばいないはずの人。気にしなければ良い夢で終わったのかもしれないが、蜻蛉は思わず声をかけてしまった。
「あんさん……死んだはずやのに……どうして?」
 そう、この人──蜻蛉の恋人は、追手から蜻蛉を庇って亡くなった筈だ。
「ああ、そうだよ。なぁ……あの時の傷が痛むんだよ、なんで嬢ちゃんみたいなのに出会っちまったんだろう」
 どろり、と恋人の腹部から鮮血が落ちる。とめどなく落ちるソレが座敷まで届くと同時、景色は暗転した。
 どこからか雨の音が聞こえる。暗闇の中で聞く雨音は、あの時を思い出させるようで。
 恋人の体を抱き留めると、温かいものが蜻蛉の両手を濡らした。

 何もできなかったあの日。冷たくなる体を抱きしめ、泣くことしかできなかった──それは夢でも変わらない。
(うちと出逢わんかったら、こうなってなかったのに)
「せっかく逢えたと思たのに……ごめんなさい」
「なんでお前は生きてるんだ? ……なぁ?」
 目を見開いたまま呟く亡骸に、蜻蛉からは「ごめんなさい」としか言えなくて。

 段々と遠ざかる意識の中、雨の音が最後まで耳に残った。


●人が最も恐れるであろうもの
 『性的倒錯者で快楽主義者』ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)がこの依頼を受けたのは興味本位だ。
 どのような夢を見るのだろう。悪夢と言うからには恐れるものだ。人が、恐れるもの。
 滅びか。喪失か。退屈か。いいや、人が恐れるものは──。

 ある実験があった。
 用意するものは人を1人。それと、殺風景な白い背景の部屋を1室。内容は簡単、人をその部屋へ放置するだけ。
 被験者は実験だと理解しているし、外に人がいることも知っている。──それでも、孤独は人を狂わせるのだ。
 しかし、ニエルが夢に見ている光景はその実験とは少し異なる。
 彼女1人であることは変わりない。異なる点と言えば外に誰もおらず、モノすら全てなくなってしまっただけ。──滅びた世界に1人、取り残されただけ。
 喉がかひゅっと引き攣れる音。呼吸が浅くなる。
 ニエルが恐怖を覚えたのは世界の『滅び』ではない。人は例外なく死を迎えて滅びるもの。受け入れてしまえば死も世界の滅びも恐れるに足らない。
 かといって、『喪失』でもない。日常は喪失に満ちている。挫けてしまったとしても差し伸べられる手があるかもしれない。『退屈』だって恐るべきものではない。人は数多の遊びを発想する生き物だ。

 人が真に恐れるのは──『孤独』だ。
 死後を託す者は居ない。
 喪失を癒す者も居ない。
 退屈を凌ぐ物も、自分以外のモノもない。

 本来──元の世界であれば意識も定かでなく、はっきりとは感じ得なかった孤独。それが今、意識の確かなニエルへ襲い掛かる。
 鼓動が痛いほどに鳴っていた。精神的な負荷は身体的な負荷へと変わって、苦しくて仕方がない。
 どうしたらこの『苦しい』から解放される?
 どうしたら私は孤独でなくなる?
 どうしたら──私は死ぬことができる?

 絶望を瞳に焼き付けて、ニエルは糸が切れたように意識を手放した。


●残るは、あと1つ
 長いこと夢なんて見ていなかった。
 『唇に蜜』カタリヤ・8・梔(p3p000185)は「触ってもいい?」と聞いてから妖精の頭を撫でる。
「私の夢が美味しかったら、教えて頂戴ね」
 なんてね、と冗談のように最後を付け足して。カタリヤは小瓶のコルクを抜くと匂いを嗅ぎ、そして舐める。無味無臭のそれは水のようだ。
 腹を決めて小瓶を煽ると、ふわりと睡魔がおりてきた気がした。気づいたことがあればメモを──なんて思う間もなく、カタリヤの体はベッドに沈む。

 沢山の目がカタリヤを見る。幼いカタリヤを逃がさまいと、人間種が取り囲む。
「ねこじゃないか」
「ねこだ」
「うそつきのけだものだ」
 人間種の大人たちは、幼い獣種の少女を睨みつけるように見下ろす。その瞳に宿るのは恐怖と、疑心。
 ちがう、という言葉はカタリヤの喉で突っかかったまま出てきてくれない。
「こいつらがきたからおかしくなった」

 ──ちがうの。

「おまえが」
「きっとおまえが」
「絶対におまえたちのせいだ」

 ──なんで?

 これまで仲良く暮らしあっていたはずなのに、どうして。
 人間種の1人が拳を振り上げた。
「猫には9つ命があるんだろう」
 ある時は嬲られ、ある時は吊られ。裂かれ、焼かれ、沈められ、埋められ──まるで、増えすぎた猫の子を減らすように、何度も人間種たちはカタリヤを甚振って殺す。
「ウヌス」
 やめてという声は届かない。
(おねがい、もう──もうわたしには、1つしか残ってない)
 おしえてよ。わたしが──わたしたちが。いったい何をしたって言うの?

 はっと目を見開いたカタリヤは、汗でべたつく体に顔を顰めた。
 起き上がると枕元には変わらず妖精がいた。カタリヤは再び妖精の頭を撫でる。
「私の夢、食べでが無かったら御免なさいね」
 そう告げて、カタリヤはシャワーを借りるべく立ち上がった。


●『俺』のいない世界
 急速に五感が鈍る。それは、意識が現実から離れていく感覚だ。
 薄れていく意識の中、『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)はふと先日の依頼を思い出した。
 記憶を消す魔種と、悪夢を食べて消してしまう妖精。『記憶の消去』という点で似ていたのかもしれないが──そんなことを深く考える前に、ウィリアムの意識は夢へ沈んでいった。

 靴越しに感じるのは良く知る道。視界に広がるのは見慣れた幻想の町。
 ウィリアムはすれ違う人々の中に知人の顔を見つけ、軽く挨拶でもと近づいた。
 ──けれど。
「あなた、誰?」
 頭に冷水でも浴びせられたような感覚。
 ウィリアムに冷たい視線を投げかけた相手は、声をかけた彼に大した興味を湧かせることもなく立ち去った。
(……どうして)
 本当の相手なら、ウィリアムの記憶にある相手なら、初対面の相手にだってもう少し。
「いや……」
 よく似た別人だったのかもしれないと自分に言い聞かせ、足を進めるウィリアム。けれどもその考えは早々に打ち砕かれた。
 投げかけられる視線が、浴びせられる『知らない』という言葉が。幾つも幾つも重なって、次第にウィリアムの心を追いつめる。
「なんで、なんでだ。誰か、俺のことを覚えてないのか……!」
 ウィリアムは足元の揺らぐ様な感覚を振り切るように走り出した。向かうのは友人の家。今の時間なら家にいる筈だ。
 息を切らせながら扉を叩けば、見知った顔が扉の隙間から覗いた。
「俺のことを……知らないか」
 息を整えながらウィリアムは問いかける。
(頼む、知っていると言ってくれ──)
 ──けれど、世界は残酷だった。
「きみの事なんて、知らないけど」

 あてもなく、町を歩く。
 ──誰も俺を覚えていない。
 思い出されるのは冷たい視線と無関心な言葉。
 ──誰も俺の知り合いじゃない。
 まるで、世界から嫌われてしまったように。
 ──俺は独りになってしまった。
 世界からウィリアムという存在が消えてしまった。

 ──なら、もう。

「……何の意味もないじゃないか」
 はは、と乾いた笑いが風に乗っていく。
(そうだ。こんな世界、何の意味もない)
 心の中が黒いナニカで満たされていく。それの、なんと心地よいことか。
(俺には魔術が──力がある。これを思うが儘に振るうのも、悪くない)
 口元が、歪んだ笑みを浮かべた。


●どうか、抱きしめさせて
 まず『ナインライヴス』秋空 輪廻(p3p004212)は依頼人に確認を取った。
「目覚めた時、私はそれを覚えてないのよね?」
 ああ、と頷く依頼人。それを聞くと、輪廻は素直に薬を飲みほした。
 覚えていない悪夢。それは質の悪い風と同じで、通り過ぎるだけのもの。ならば、心当たりのあることだとしても──別に構わないだろう。

「姉さま」
 あの子が呼びかけている。偶に万屋へ来てくれていた、妹のような、娘のような子が。
 濃厚な闇が辺りに満ちていて、声はするのにあの子の姿が見つからない。
「どうして約束を破ったの」
「あの時、確かに私と約束をしたのに」
「どうして、私を1人にしたの」
 ふいに、視界が開ける。
 見えたのは金髪の少女。顔立ちからして外国人だ。輪廻は彼女のことを知っている。共に万屋を経営していたのだから。
 少女はいつも笑顔であった筈なのに──その面影はどこにもない。自室で膝を抱えて蹲り、ずっとずっと泣いている。
 次に見えたのは青年だ。彼も共に万屋を営んでいて、先ほどの少女はこの不愛想だけど心優しい青年のことが大好きだった。
 そんな彼も、椅子にすがって泣いていた。その口が紡ぐのは輪廻の名。その椅子は──私がいつも座っていたもの。

(……苦しい)
 輪廻は胸元を押さえた。
 自分が苦しいのも、痛いのも耐えられる。耐えがたいのは彼らの──大好きなあの子達の苦しんでいる姿。
 痛々しい、心が締め付けられるような姿は見ていられない。皆の元へ行って、抱きしめて、撫でてあげたい。
 願わずにはいられない。──けれど、それはもう不可能な事。
(だって……私は、もう……元の世界では──)


●現実世界へ
「アー……寝過ぎたカナ、キモち悪……」
 ジェックが起き上がる横で、ウィリアムは寝ぼけ眼。暫しして依頼で悪夢を見ていたのだと思いだす。悪夢を覚えていないところを見ると、枕元の妖精が食べたのだろう。
「……なんだ?」
 起き上がったウィリアムはふと胸元を押さえた。
 不安、と言うのだろうか。怪我でも、痛みでもなく。ただ漠然と、言葉にできない何かがわだかまっている。
 そこへシャワーを浴びたカタリヤが戻ってきて「気分はどう?」とウィリアムへ問いかける。彼女は記者らしくメモとペンを取り、ウィリアムの話を聞きたがった。
「ホントに覚えてない? 覚えてないこと、残念だとは思わない?」
「さぁ……ただ、覚えてないとしても。悪夢なんて、望んで見るものじゃないな」
 小さく溜息を1つ。ウィリアムは「お前は?」と聞き返す。
「私? 私は、そうねぇ……」
 良かれ悪しかれ、夢は、見ないの。
 カタリヤはそう言って、自分の枕元にいた妖精へ視線を向けた。
 一方目覚めた蜻蛉は頬に伝わる雫に気付く。どうやら、泣くような夢を見ていたらしい。次に気が付いた輪廻も同様だ。
「何を見たのか、全く覚えていないけれど……」
 涙を流すようなことなんて、限られている。
(あの子達は……元気に、しているのかしらね……)
 輪廻は小さく息を吐いて、元の世界に思いを馳せた。

 ──おかえりなさい、現実世界へ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 あなた方の夢は、妖精が美味しく戴きました。ごちそうさまでした。おかえりなさい。

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