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シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>最期までキミと一緒に。

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 みんな、みんな、いなくなってしまった。母も。父も。家族は誰もいなくて。友達だって。
(悲しい。つらい。寂しい)
 そんな言葉はずっと届かないと思っていた。独りだったから。
 けれど、そんな言葉を友達であったエメス・パペトアは拾ってくれたのだ。
『――ねえ、僕にはキミしか居ないように、キミにも僕しか居ないんです』
 ああ、なんて嬉しい言葉だろう!
 エメスにとって自分しかいないということは、エメスは絶対に自分だけを見てくれるということだ。他の人へ離れて行ったりなんてしない。永遠に、死ぬまで、俺のもの。
 1人が約束してくれたから、独りではなくなった。
(でも、ごめんね、エメス。俺は強欲なんだ)
 1人じゃ足りない。もっと欲しい。いればいるだけ嬉しくて不安も減る。不安は完全に消えないけれど、それでもその大きさは段違いだ。
 もっとたくさんの人に約束してもらうには焦りすぎてはいけない。実際に会ったら自分が嬉しくなってしまうから自制している、という部分もあるけれど、相手を焦らせば焦らすほど自分のことを見てくれるはずだから。何もしていない、怠惰だなんて言っちゃあいけない。
 ねえ、俺は次どこに現れると思う?
 ねえ、俺は何をしていると思う?
 考えて、探して、見つけて。そうしてくれたら、俺はそれだけでもすごく嬉しいんだ――。


 エメスが帰ってくるとグリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)がぱっと嬉しそうに笑う。ただいま、と言ってエメスは微笑んだ。
「今日は何をしてきたの?」
「混沌の様子を見に行っていたんですよ。終わりが近いので」
「Case-Dがもうすぐなんだよね」
 ええ、とエメスは頷く。もうじきその時がやってくる。誰もが気づいていることで、それ自体はグリムも認識していた。
 とはいえ、すぐさまその時が来ないのはひとえにイレギュラーズたちの貯めたパンドラのせいでもあるだろう。嗚呼、早くその時が来ればいいのに。
「でも、Case-Dが来たら……エメスの人形は完成しないね」
 グリムがそう呟く。残念そうな声音だ。
「悲しいですか?」
「うん。だって友達が作ろうとしているものが未完成で終わるなんて、悲しいよ」
 頷いてうつむいたグリムの頭をなでて、エメスは大丈夫ですよと告げた。
 Case-Dの顕現はこちらの領域にある。イレギュラーズたちはそれを何としても阻むため、ラスト・ラストへ乗り込んでくるだろう。そこにはきっと、グリムが待ち望んでいるイレギュラーズも来るはずだ。
「Case-Dが来る直前に、完成させてしまえばいいんです。グリムくんも手伝ってくれるならきっと完成させられますよ」
「俺も手伝えるの? それに……来てくれるかな?」
 嬉しい、とグリムの表情がほころんだ。友達のことが大好きなのだ。
 準備しなくちゃ、とグリムは杖の手入れを始めた。2人でならきっとうまくいくだろう、そう信じて。


「Case-Dの顕現先が『影の領域』と確定しているそうなのです!」
 一大事なのです、と『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がざんげの齎した情報を拡散する。
 ついにその時が近づいているのだ、ということはこれまで混沌各所へ現れたバグ・ホールやワームホールでひしひしと感じさせていた。しかしCase-Dの顕現先にイレギュラーズは慄く。
 影の領域――ラスト・ラスト。それは魔種の勢力が存在する領域である。敵の本陣ど真ん中、というわけだ。『顕現』をどうすれば世界が救われるのかはイレギュラーズにも誰にも答えは無かったが、敵陣の真ん中では何をするにしても多大な妨害がある事は確実。
「皆さん、まだ諦めてはいけませんよ! 皆さんがこれまで積み上げてきたものが、さらなる奇跡を呼び込むかもしれないんですから!」
 ぴっとユリーカの指が立つ。
 ひとつ。顕現先は影の領域だが、そうすぐには顕現しない。これはイレギュラーズたちの溜めてきた空繰パンドラにより、顕現までの時間稼ぎが成されているからである。
 とはいえ影の領域へ到達するのも容易ではなく、到達するまでに顕現しないとも限らないが――ここでさらにユリーカの指がもう一本立つ。
「ふたつ。先日Bad End 8と一緒に現れたものが使えるはずなのです!」
 その名もワームホール。ご存じであろう、終焉獣たちが湧き出てくる『穴』である。
 あれは影の領域から混沌各所へ直接的に敵軍を送ってくるためのゲートであるが、つまるところ混沌各所から影の領域へ向かうこともできるはずなのだ。生身でまともに飛び込めば辿り着く前に狂ってしまうかも知れないというその通路の安全は、ざんげがパンドラで確保するという。
「出たとこ勝負はいなめないですが、やるしかないのです! ワームホールに飛び込んで、影の領域で悪い奴をボコボコにしてやるのですよ!」
 何がどうなるかもわからないけれど、ユリーカの言う通り『やるしかない』が現状だ。いかに絶望的な状況であったとしても、気持ちから負けてはならないというように、ユリーカはえいえいおー!と拳を天へ向かって突き上げたのだった。



「ええ……? ほとんど真っ暗ですね」
 鏡禍・A・水月(p3p008354)は影の領域に降り立ち、困惑したようにあたりを見回す。続いたTricky・Stars(p3p004734)、ヴェルグリーズ(p3p008566)たちも同じように周囲を見た。
 非情に薄暗い世界だ。遠くに大きな城が見えるが、あそこが本拠地ということだろうか。雰囲気も相まって魔界のようなイメージを想起させる。
 何より、ここは非常に薄暗く滅びのアークの気配が蔓延していた。気分の良い場所ではない。
「……進もう」
 ヴェルグリーズの言葉に一同は頷いた。立ち止まっていて魔種や終焉獣たちに襲い掛かられても面倒だ。どうせエンカウントするのであれば、少しでも先へ進みたい。
(ここには、知っている魔種もいるんだろうか)
 ヴェルグリーズの頭の中に、これまで遭遇して打ち倒すことのできなかった魔種たちが思い浮かぶ。嗚呼、特に――グリムや、エメス。彼らは何としても葬らなければと思っていたが、混沌でグリムの姿はついぞ見かけていない。
 どこへ潜んでいるのかと考えたが、前人未到の地にいたというのならば見つからないのも納得だ。
(……絶対に倒す)
 次なんてありはしない。相手にも、自分たちにも。
 これが真実、最後の戦いだろうから――。

GMコメント

 愁です。これがきっと最後。全力で臨みましょう。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●成功条件
 魔種すべての撃破

●フィールド
 影の領域(ラスト・ラスト)。常に薄暗く、魔界のような場所ですが、混沌で見る墓地のような場所が今回の舞台となります。
 ちゃんと誰かが整備している綺麗なとても広い墓地です。ただし、墓の下にちゃんと埋まっているかはわかりません。掘り出したらわかるかも。掘り出す前に出てきちゃうかも。
 夜も見通すような視覚能力があれば有利になる可能性があります。

●エネミー
・グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
 イレギュラーズでしたが、エメス・パペトアにより反転しています。お願い事をしたようで、まだ瞳は彼自身のものです。人間だった時の戦い方などは影響を受けているようですが、時間を経てより魔種の力になじんでいると思われます。
 杖を媒介に神秘系の攻撃を仕掛けてきます。ただし、杖は木製に見えて非常に硬く、剣を受け止めることも、鈍器として使うこともできそうです。主に手数で仕掛けてきますが、その一撃は決して軽くありません。全体的にステータスは高く、自身へ向かってくる人は喜んで相手します。
 会話という『言葉のキャッチボール』ができるかは怪しいです。自分の望みへの執着が強いです。
 彼は彼だけを見てくれる人が欲しいようです。できれば沢山。いればいるほどいいんですって。独りは嫌だからずっと一緒にいてくれる人が望ましい。一緒の存在になってくれてもいいし、そうでないならエメスへお願いして綺麗な人形にしてもらいましょうね。

・エメス・パペトア
 グリムさんの友達。強欲の魔種です。元オールドワンの魔種で、性別不明の人形師です。
 世界で一番きれいな人形を作るためにパーツ集めをしています。素材は色んな人間や遺体の部位。グリムさんの目もそのうちの一つ。でも彼は彼を見てくれる人と"半分こ"してほしいんですって。
 無数の人形を使って仕掛けてきます。攻防共に人形が行うようです。人形はキャラクターを羽交い絞めにしようとしたり、攻撃してきたり、エメスの盾になったりと多彩な動きを行うでしょう。
 なお、このフィールドはエメスのテリトリーです。何も居ないように見えても、人形を何らかの方法で出現させることができるようです。ただし、それぞれが違ったパーツを使って"作られている"ことから、無尽蔵ではないと想定されます。(非常に多くはあるでしょう)

・変容する獣×15
 体の中身が透き通っている蒼白い終焉獣です。二足歩行の姿をしています。対話能力はありませんが、多少の知性を付けてきているようです。
 エメスに従ってイレギュラーズへ襲い掛かってきます。エメスのように杖を持って戦う遠距離型と、エメスの人形を模して近接戦闘を仕掛けてくる近接型にわかれているようですが、いずれも魔種よりは弱く、エメスの人形よりは余程強いです。
 また、戦闘中にイレギュラーズの戦い方を学んで進化する可能性があります。

●魔種
 純種が反転、変化した存在です。
 終焉(ラスト・ラスト)という勢力を構成するのは混沌における徒花でもあります。
 大いなる狂気を抱いており、関わる相手にその狂気を伝播させる事が出来ます。強力な魔種程、その能力が強く、魔種から及ぼされるその影響は『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』と定義されており、堕落への誘惑として忌避されています。
 通常の純種を大きく凌駕する能力を持っており、通常の純種が『呼び声』なる切っ掛けを肯定した時、変化するものとされています。
 またイレギュラーズと似た能力を持ち、自身の行動によって『滅びのアーク』に可能性を蓄積してしまうのです。(『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と逆の効果を発生させる神器です)

●『パンドラ』の加護
 このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
 影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。

  • <終焉のクロニクル>最期までキミと一緒に。Lv:60以上完了
  • 俺だけを探してくれた?
  • GM名
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年04月06日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
御子神・天狐(p3p009798)
鉄帝神輿祭り2023最優秀料理人
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

●ずっと一緒にいようね
 ねえエメス、とどこか楽し気な声がエメス・パペトアを呼んだ。
「どうしたんですか? グリムくん」
 グリム・クロウ・ルインズ (p3p008578)――いや、彼であったモノ。魔種グリムは少年のように瞳をキラキラと輝かせてエメスを見上げた。
「皆来てくれるかな? 俺たちと一緒になってくれるよね?」
「ええ、きっと。寂しくなくなりますよ」
 確たる証拠もないのに、エメスは唄うようにグリムの欲しい言葉をかける。そんな言葉を疑う様子もなくグリムはうれしそうに笑った。
 だってエメスの言葉は裏切らない。独りにしないという言葉だって守ってくれている。世界が終わるまで一緒にここへいてくれる。世界が終わったら俺は永遠に独りじゃなくなるから、嬉しい。
 そのすぐそばにイレギュラーズが、かつての仲間がいたならば、もっと嬉しいに違いない。彼らが俺のことをずっと気にかけてくれるなら、なおさら。
「ねえエメス、もう来るかな?」
「そうですね――頃合いでしょう」
 早く来ないと世界が滅亡してしまう。それはイレギュラーズにとって最も避けるべき事象である。
 だから必ず彼らは『ここ』を通る。彼らの終の棲家。世界が終わるその瞬間まで共にある場所。影の城が存在するラスト・ラストの地を。

 ――ねえ、イレギュラーズ。皆、俺たちと最後の瞬間まで一緒にいようね。ずっとだよ?



(ここが影の領域……世界には、こんな暗くて冷たい場所がありましたのね)
 『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はあたりを見回す。非常に薄暗くて、不気味な場所。そして滅びのアークが蔓延する場所。
 まるで異世界にでも来たようだが、ここも紛れなく混沌の一部なのだ。
「また会いましたね、エメスさん」
 『夜鏡』鏡禍・A・水月(p3p008354)の視線にエメスはああ、と目を細める。
「お久しぶりです。……嗚呼、そちらの方は」
「ええ。エメスさんも大事な人と一緒にいられるようで何よりです」
 『高貴な責務』ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)の傍らに立つ鏡禍に、エメスはどのような関係なのかすぐ理解をしたようで。鏡禍は頷きながら一歩前に出た。
(同じ気持ちだったエメスさんと、大事な人と一緒にまた会うことになるなんて)
 大事な人に会いたい――その気持ちは鏡禍も理解できるものであり、しかし許してはならないものであった。
 なぜなら、『彼ら』は魔種だから。人々を狂わせ、愛し合う者同士を引き裂かざるを得ない者たちだから。
「二人の世界ってヤツ? なんだか妬けちゃうわねぇ」
 終焉獣は二人の世界を護るための番犬、とでもいうべきか。
 『祝福の風』ゼファー(p3p007625)は終焉獣たちへむけて得物を手に握る。尤も、と2人へ視線を滑らせて。
(……何かがすれ違っている様な気がしなくもだけど、ね)
 違和感。前もって知っていることが前提としてあるだけに、余計そう思えてしまうのか。
 ともあれ、すべきことは変わらない――魔種2人の討伐、そしてこの先へと進むことだ。
「ヴェルグリーズ君! 来てくれたんだね! ずっと待ってたんだよ!」
「もしやと思ってはいたけれど……本当に出会えるとは思わなかったよ、グリム殿」
 『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)の姿にぱっと表情を輝かせるグリム。反してヴェルグリーズの表情は浮かない。
(出会いたかったというべきか……出会いたくなかったというべきか)
 いや、より厳密にいうなれば『この時が来てほしくなかったのかもしれない』。出会ってしまえば斬らないわけにはいかない。
「キミがこれ以上の罪を重ねる前に――別れの剣の名の下に、俺が斬る」
「それなら俺は斬られる前に、キミが一緒にいてくれるように頑張るね!」
 無邪気な笑顔。しかしその瞳の奥にはほの暗い感情がちらついているのが見える。
 ――ねえ、独りは嫌なんだ。
 ――ヴェルグリーズ君、僕を見てよ。
 ――僕だけを見て、僕だけのことを考えて!
 声なき声がヴェルグリーズを呼ぶ。けれど、その声に応えてあげるわけにはいかない。
 出会ったからには、ここが最期なのだ。
「全てを終わらせよう。そのために来たのだから」
「ああ、キミたちも来てくれたんだね! こんなにいっぱいだなんて嬉しいなあ、ね、エメス!」
 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)の姿にグリムが表情を輝かせる。同じようにグリムの声が彼らを刺激すれど、グリムと、グリムを変えてしまった元凶を討つと決めている彼らにその声は効かない。
 同じ側に立てないのなら――殺して、世界が滅亡したあとに一緒になるしかないのだ。
「最初からクライマックスじゃな! いくぞ!」
 『鉄帝神輿祭り2023最優秀料理人』御子神・天狐(p3p009798)はその身にパンドラの力をおろし、さらに自身の戦い方を最適化させる。運命さえも手にできるならば天狐の力は敵を一掃できるだろう。
「超電磁うどん砲、発射なのじゃ~~!!」
 天狐の力を吸い取った超電磁うどん砲が2度、3度と放たれ、終焉獣の一部を消し飛ばしていく。しかし1度目の攻撃こそ受けたものの、そこから学んだ終焉獣たちは2度、3度の攻撃で回避せんと動いていく。
(ふむ? そこそこに知恵が働くようじゃな)
 だがまだ人には及ぶまい。知能がさらに上がる前に仕留めてしまわなければ、よりこの場での戦いは困難となるだろう。
「さ、ここが最後の大一番よ……!」
 ルチアの落とした雷が蒼白い終焉獣たちを刺激する。それは確たるダメージを与えながらも、挑発させるかのように。
(どこまで鏡禍に引っ張られるかは分からないけれど……鏡の妖力よ、力を貸しなさい!)
 鏡妖が自らの所有物だと示すため、鏡の一部を埋め込み刻んだ証。罅のような幾何学模様が妖気を帯びる。
 ここでの負けはすなわち世界の敗北だ。鏡禍と共にあるためにも、ここで気張らなければならない。
「それじゃあいきましょうか」
 ルチアのひきつけた敵へ、ゼファーの槍が大きく薙がれる。舞うようなその動きに敵の悲鳴がかぶる。流れるような乱撃の嵐に、しかし終焉獣たちもただ蹂躙されるだけではない。パワーで近接が押し込み、その後ろで練り上げられた魔法がイレギュラーズへ襲い掛かる。
 それをしのぎ、準備の整ったヴァレーリヤがメイスを振りかぶった。
「どっせえーーい!!!」
 炎を纏ったメイスが終焉獣へ叩き込まれる。しかし数が多い。一発でカバーしきれないのは必然か。
「ならもう一発! 喰らって行きなさい!」
 再び炎の通ったその道を、稔の放った堕天の輝きを帯びた呪いが飛んで行く。パンドラの力をその身に宿し、最初から全力で。
(グリムにエメス……思う所はあるけど、倒さないと)
 『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は高度に組み上げた掌握魔術を終焉獣たちへ向ける。
「糸よ、獣達を切り裂け……みゃー!」
 終焉獣の動きを縛り、切り刻まんとする気糸の斬撃。暗闇も今はしっかりと見通せているから狙いは外さない。
(今回は、見逃すわけにはいかない。ここで終わらせるんだ……!)
「未来を勝ち取るために――行きましょう!」
 パンドラの力とさざめく色をその身に載せて、『竜域の娘』ユーフォニー(p3p010323)は彩波揺籃の万華鏡で終焉獣たちを蹂躙していく。高速詠唱で息つく間もなく放つそれは、ともすれば魔種まで届きそうな勢いだ。
「オレが相手してやるよ! てめえこそ、こっちを見ろ!」
 左翼に誇りを、右翼に愛を。パンドラの力を得た『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)は綺羅星のごとくグリムへ肉薄して喧嘩殺法を仕掛けていく。それらを躱したグリムは嬉しそうに笑った。
「本当? 俺を見てくれる? 俺だけを見てくれるんだね! 早くヴェルグリーズも呼んでこなくちゃ!」
「おっと、そうはさせねえ」
 ヴェルグリーズの方へ向かおうとするグリムの前に立ちはだかると、恨みがましい目で見られる。まるで子供のようだ。
 俺を見てくれる人のところへいきたいのに。ねえどうして邪魔をするの? じゃあ代わりにずっとずっと一緒にいてくれるのかな――?

「こちらの人形は壊しても良いのでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。グリムくんの瞳以外は『失敗作』なので」
 ならば挑発で狙うべきはエメス本人か。
 鏡禍の召喚した大きな鏡、その向こう側で鏡禍の妖力がエメスを絡めとらんとする。パンドラで押し上げられた力が鏡の中のエメスを締め付けた。
「全力でかからせてもらいます。大事な人と、この先もずっと一緒にいるために」
「奇遇ですね。僕も手を抜くわけにはいきません。この世界の滅びは邪魔させませんよ」
 その言葉に――いや先ほどから――何か、引っかかった。鏡禍は内心首をかしげながらも、人形を乱撃で打ちのめしていく。
「ちっ、存外やるな……」
 牡丹もグリムの攻撃を受け流しながら周囲を見――ようとして、グリムからの追撃を咄嗟に避ける。
 人形を看破するために十全な準備をしてきたものの、魔種の攻撃を真っ向から受けている状態ではなかなか見るものも見られないか。だが多少雑に隠されている程度はすぐに看破できるので、ないよりは断然良い。
 墓石の裏に隠れた人形の攻撃をなんなく回避し、自身へ付与をかけなおしていく。もう少しで仲間達も合流か。
 炎のメイスが終焉獣を蹂躙する。だが、まだまだ敵の数は多く、
「ああもう、面倒ですわね……。ゼファー、ちょっと攻撃を引き受けて頂いてもよろしくて?」
 いいわよ、と前へ躍り出るゼファー。
「さあさ、鬼さん此方。かかってらっしゃいな?」
 ルチアの方へ寄っていない敵をゼファーがひきつける。下手に知能のある生き物である分、挑発にもかかりやすい。
(けど、結構耐えるじゃない)
 無穢のアガペー。ルチアは自らをいつくしみ、傷を癒す。かみさまへおねがいをし直して、ルチアは気合を入れた。
 まだまだ戦いの序盤。もう少しで終焉獣は倒れるだろうし、まだ魔種たちも残っている。早々に弱音など吐けるものか。
「ねじ切られなさい!」
 ルチアの力で魔空間が生じ、終焉獣が吸い込まれようとする。もがく終焉獣がルチアに牙を剥くが、その程度でやられるわけにいかない。
 極限の集中状態へ入り、ルチアの集めた終焉獣を掃討せんと得物を繰り出していくヴェルグリーズ。あたりにいる人形もまとめて巻き込んでいく。
「ヴェルグリーズさん、行けるようになったらすぐ行って大丈夫です」
 ユーフォニーの力が音を操る。名もなく漂うばかりであった音の数々が力を宿し、砕かれた水晶のような無数の破片を形作る。鋭利に、細かなそれらが終焉獣たちを飲み込まんとしていく。
(次は……『彼』か)
 稔は視線を巡らせていく。もう終焉獣たちとは決着がつきそうだ。となれば、次に狙いを定めるのは魔種――グリムとなるだろう。
 もう誰も悲しい思いをしなくて済むように、ここで必ず決着をつける。
 堕天の輝きが射線にいるエメスの人形たちへ向けられる。護っているつもりかもしれないが、その程度でイレギュラーズを遮ることは難しい。数は厄介だが、個はそこまででもなさそうか。

「悪いがもうしばらくオレと付き合ってもらおうか!」
「そればいいけど、ヴェルグリーズ君も、皆も呼んでくればいいでしょ? 俺は俺だけを見てくれる皆と一緒にいたいんだ!」
 英雄の鎧を身につけながら、牡丹はその言葉にすっと目を細める。
(自分の事を見てもらえると信じて疑わないんだな)
 彼の友(ヴェルグリーズ)はそうかもしれないが、自分をはじめとした他の者はそうとも限らない。誰か1人を見続けるというのは存外難しいことだ。
「安心しな、慌てねえでもてめえのダチは来てくれるよ――ほら」
 噂をすれば、という牡丹の言葉と共に何人かの姿が。そう、終焉獣を片付けたイレギュラーズがグリムたちのもとへ駆けつけていく。
「ヴェルグリーズ! 受け取って!」
 駆け寄ったルチアにより特殊支援を施されたヴェルグリーズ。その身の動きがより最適化されていくのを感じながら地を力強く蹴った。
 誰も見破れぬ虚ろにして現の技。自身の最大火力で叩き込んでいくヴェルグリーズはグリムの瞳を睨み据える。彼の、彼自身の瞳を。
(ここのような墓地を見る度にグリム殿のことを思っていた。会いたかったのは本当で、……会いたくないとも、思っていたと思う)
 会ってしまったら、心を決めなければならなかったから。こうして剣を交える瞬間、もう『彼を斬るのだ』と戒めなければならなかったから。
「グリムさん、貴方を倒しに来ました」
 ユーフォニーの凪色万華がグリムを苦しめる。透明に見えて透明ではないもの。たとえ全てが凪いだとしても、世界にあふれているものすべてがユーフォニーの味方だ。
「今はグリムさんだけ見てますよ。これで満足ですか?」
「本当? それならもっと俺を見て。俺だけを見て! ねえ、その心も全部俺に頂戴!」
 それは、とユーフォニーは口ごもった。
 彼女が与えられるのは中身のない視線ばかり。彼を満たすことは、できない。
 彼の杖が無数の火球を生み出し、無差別に飛来する。あたりの墓石も吹き飛ばしていくその威力は、イレギュラーズだったころとは比にならないほどに強い。
「貴方とはもっと、別の形で巡り会いたかったのだけれど」
 そうであれば、違う結末もあったでしょうに――残念ですわ。
 そう呟いたヴァレーリヤのメイスが熱と光を帯びる。苛烈な炎が立ち上り、グリムへ向けて襲い掛かった。
「別の形だったら俺だけを見てくれた? 別の形じゃなくても見てよ! 今も俺だけを見て、俺だけのことを考えて!」
「それは難しいですわね」
 ばっさりと切り捨てて、ヴァレーリヤはグリムの攻撃を避けていく。
 魔法を連発するグリムへ肉薄し、無双の連続武闘で叩きのめさんとするゼファーは、どこか悲しそうにグリムを見た。
「そんな身体になっても……いえ。そんな身体になってでも、なのね」
「俺は俺だよ。ずっと独りは寂しかった。だから俺だけを見てくれる人がいてくれてすごく嬉しいんだ! ねえ、キミも俺だけ見てくれる? 俺だけ見てよ、ずっと、世界が終わるまで!」
 遠距離戦に長けているかと思ったが、存外近接攻撃も受け流し杖で戦ってくるグリムは、全身から『自分を見てくれる人が好き』と伝わってくる。
(大好きに溢れてて、少し眩しくなっちゃうな)
 全員がそんな風に伝えられるわけではないから。ゼファーは目を細めた。
「最大火力で行くのじゃ!」
 超電磁うどん砲に更なる力を注ぎ、グリムへ向けて発射する天狐。グリムは咄嗟に障壁を築くも、衝撃ばかりは防げない。
(しかし……思っている以上に力を持っていかれる)
 まだ魔種が2人残っているというのに。しかしここで攻撃をやめれば魔種たちはすぐさま反撃してくるだろう。
 完全にガス欠とならないよう、仲間の傍に近づいて気力を回復させながらうどん砲を放つ。
「随分と壊してくれましたね」
「失敗作とのことだったので。それとも、『彼』のように大事に扱っていたんですか?」
 多少息を切らせながら鏡禍が問う。その言葉にエメスは少し考えた。
「……まあ、それなりには。失敗作もこうして使えますから、ね?」
 にこ、と微笑むと同時。鏡禍の足元から突然手が生えて、その足を掴む。動かせなくなった足に気を取られていた鏡禍は、眼前からくる攻撃を咄嗟にのけぞって回避した。
「ッ、と」
 態勢をどうにか立て直した鏡禍は足元の手を引きはがして後退する。
 エメスの言う『失敗作』は、エメスの芸術基準に満たないというだけで兵士としての役割はしっかりと果たす。むしろ意思のないそれらはただの兵士より操りやすいだろう。
「大事な人といるにはあまりに寂しい場所かと思っていましたが、彼らが居れば賑やかかもしれませんね」
「……ええ、そうですね」
 一呼吸の間。違うのだろうか? とは思ったものの、人形の攻撃に鏡禍の意識が持っていかれる。
(元イレギュラーズであり、魔種となった人……さすがに強いですね)
 ユーフォニーは疲弊をにじませながら光彩変華を放つ。これ以上はさすがに深追いせず、ダメージディーラーに専念すべきか。
 心、想い、願いを――護り、届け、叶えるためならば。どんな彩にも、どんな光にも、時には闇にもなるのだと。自らへの反動を顧みず、魔種を倒さんとする力でグリムを攻め立てていく。
「……ここで倒すよ、魔種グリム。無限光の彼方に吹き飛べ……!」
 祝音の放った無限の光がグリムを照らす。眩しい、とグリムが顔をしかめた。
「俺のこと嫌い? 独りにする?」
「……反転はできない。僕は、反転も狂気もお断りだから……!」
 一緒にはいけないという祝音の言葉にグリムが悲しそうな顔をして。けれどいくらそれに胸痛めようと、攻撃の手をやめることはできないのだ。
(反転前の彼と、同じ依頼で頑張った事もあったのに)
 それは遠い記憶のようで、鮮明に思い出せることもある。あの瞬間がもう来ないなんて、信じたくもなかったけれど。
 今、ここで彼は魔種として立っている。ここで自分はイレギュラーズとして立っている。それが事実であり、全てなのだ。
(……ごめんね、グリムさん。僕は君を倒すしかない)
 どうかせめて、心安らかにいけますようにと。そう願いながら傷つけるしかないのだ。
 稔の縦横無尽に操る呪鎖により、グリムに葬送が刻まれる。苦しみの表情を浮かべるグリムに胸が痛まないわけではない。しかし彼が魔種だと思えば、手加減などできるわけもない。
「ここでお別れだ」
「お別れなんて嫌だよ! 一緒にいてよ! 独りは、寂しいのは嫌だ……!!」
 切実な声に、しかしイレギュラーズは誰一人として首を縦に振れないのだ。世界の存亡がかかっている今、反転するわけにはいかないから。
「ごめんなさいね、其の生き方には賛成出来ないのよ」
 ライアーフェイクヴォイドブルー。真なる極点がグリムの背を裂く。
「ヴェルグリーズ君、皆……! どうして俺と一緒にいてくれないの? 皆でいたら絶対楽しいよ!」
「グリム殿。……俺たちは、キミを斬って先に進むんだ」
 せめて斬るのは縁故のある自分が良いだろうと思っている。魔種の様々な『事情』を知る者が討つべきだと。
 どうして? どうして、どうして、どうして!!!
 泣き叫ぶような声を上げながらグリムが魔法を連発する。その中をかいくぐり、肉薄したヴェルグリーズが得物を振りかぶる。

「――俺の全力で、キミを討つよ」

 一閃。グリムの放っていた魔法が止む。
「ヴェル、グリー、ズ……くん」
 その瞳がヴェルグリーズへ向いて、一筋、涙がこぼれて。
「……お別れだ、グリム殿」
 倒れる前に涙もろとも砂になって消えていく様を、ヴェルグリーズは何とも言えない表情で見送った。
「あばよ、そう経たないうちにエメスもあの世へ送ってやるさ。最後にダチに見送られ、一番一緒にいたい相手と死後も一緒にいられるんだ。満足だろ」
 その言葉へ返す者はもういない。
 けれど代わりに「……グリムくん?」といなくなった彼の名を呼ぶ声が、牡丹の耳に届いた。



「グリムくん」
 応えはない。
「グリムくん……?」
 消えてしまったから。当たり前だ。
 あの笑顔も、綺麗な瞳も、なにもかも。砂になって掻き消えた。
 嗚呼、と零れ落ちる吐息とともに、迫り来るイレギュラーズの攻撃を人形が受け止める。血抜きも内蔵処理もされた人形の体は切断されても飛び散るものはなく、ただボトリと重たい音が落ちるだけ。
 それをどこか上の空で聞きながら、エメスの瞳はグリムであったモノへ注がれていた。

 綺麗な瞳が目的だった。あの瞳が欲しかった。あの瞳『だけ』があれば良かった。……最初はそうだったはずなのに、彼が反転した後も傍にいるのはどうしてだろうかと、自らに問いかける事があった。
 瞳だけもらって離れて行けば、グリムはその孤独を埋めようとして混沌中を回り、原罪の呼び声で『自分だけを見てくれる人』を増やそうとしただろう。世界の滅びのためにはその方が良いはずだ。
 或いは依存させきったところで『僕、キミのこと大して好きじゃなかったんですよ』なんて言って、さらに絶望する瞳をもらうのも良いと思っていた。
 そう考えていたのに、この最終局面に来てなおいずれも実行に移せなかったワケは。
 彼の傍で、彼の理解者で在り続けてしまったワケは。

「――グリムくん。僕は思っていたよりもずっと、キミに情が移っていたようです」
 墓石が持ち上げられてどうと倒れる。ちゃんと埋められていたその遺体の腕は片方が綺麗に切断されていた。
 壊れた墓石が寄り集まって形をとる。不格好な顔のくぼんだ眼窩に妖しい光が宿った。



「ここで決着をつけよう、エメス殿」
 敵は減った。しかし相手が魔種というだけで警戒する理由となる。絶対に逃がしてなるものかと剣を構える。
「ええ、そうですね。ここを通すわけにはいきませんから」
 そう告げるエメスは、しかし別の事へ気を取られているように見えた。そう、グリムの消えてしまった場所へ。
「……先ほどの答え、訂正します」
「え?」
「『大事な人といるにはあまりに寂しい場所かと思っていた』……いいえ、そんなことはなかった。寂しい場所だなんて思ったことはなかった。
 彼が、僕がいたから孤独でなかったように。僕も、彼が居たから孤独ではなかったんです」
 鏡禍は虚を突かれたように彼をみて、それからそうですか、と呟いた。
 世の中には様々な幸せの形がある。彼らはきっと、本当に互いさえいればどこだって良かったのだろう。幻想の街であろうと、海洋の無人島であっても、影の領域の墓場であったって――変わりはしない。
「その言葉を聞いたら、負けられない。負けられるわけがないんです……!」
(僕にできることは、ここで倒しきる手伝いをするだけ)
 ここでエメスを倒したなら、きっと"向こう側"でグリムとまた会えるだろうから。
 絶気昂で自らを奮い立たせた鏡禍はきっとエメスを睨み据える。
「鏡禍、待たせた!」
 牡丹が並び立ち、共にエメスをひきつけにかかる。
(エメスは自棄っぱちになっては……いなさそうか)
「なあ、おい。死んだグリムの眼はてめえが惹かれた眼のままだったか?」
「眼は……どうでしょうね。彼の体は、消えてしまったので」
 困ったように笑って、エメスが人形を仕掛けていく。その数は少なくなったものの、墓石で出来たゴーレムの力は強力だ。
「人形作りも人形遊びも、もうおしまい。ここで潰えろ……!」
 エメスへ気糸の斬撃が伸びる。人形をぐしゃぐしゃにしてもエメスは大して表情を崩さない。
 いや、もう崩れているか。笑みを絶やさなかったエメスの表情にそれはなく、ただ無表情にこちらを見据えている。これ以上変わるものなんてないのだ。
「邪魔するものは蹴散らします」
 彩波揺籃の万華鏡がエメスの操る人形へ向けて放たれる。ユーフォニーは早く、と仲間たちをエメスのもとへ促した。
 そこまで大量の気力は残されていないが、仲間が多少の回復はしてくれる。あとはその回復が早いか、敵からのダメージ蓄積が早いかというだけだ。
「さあ、最後だ」
 稔の言葉と共に、エメスの四方の土が盛り上がる。周囲の墓石も散らばった人形も巻き込んで、土壁がエメスを文字通りに土葬しようと迫っていく。
 だが、グリムがいなくなったからと自失するわけではない。エメスが閉じ込められる前に墓石で出来た人形が壁をこじ開け、粉砕した。
「いいや、最期なのはキミたちですよ。一人残らず、グリムくんのところへ送ってあげましょう。そうしたらきっと彼も寂しくないですから」
「そんなことはさせないわ。人形師の仕事はそろそろ終幕よ」
 鏡禍の傷を癒しながらルチアはそう言い放ち、すぅと息を吸い込む。神秘を纏った幻想的な歌はどこまでも響き、周囲の仲間の気力を回復していく。
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』――!!」
 濁流のごとく炎がエメスのもとへ押し寄せる。立ちふさがった人形が溶けて消える。
「ああ、消えてしまいましたか」
「……一応聞いておくのだけれど。その趣味の悪いお人形、材料はどうやって集めたのかしら?」
 ジトリとヴァレーリヤが睨みつければ、エメスはこれですか、と人形を持ち上げる。
 ……人形の内部は、どう見ても肉だ。腐敗防止処理を施され、血抜きをされているようだが。
「各地を転々としたんですよ。墓所や街をめぐって、これはいけるのではないかと持ち帰ってみるのですが……グリムくんの瞳ほど良いものには終ぞ出会えませんでしたね」
「……そう」
 ヴァレーリヤは静かに呟いて、そしてメイスを構えなおす。
「それを聞いて安心致しましたわ。だって、これで何の遠慮もなく貴方を壊せるんですもの! 貴方を壊して、私達は先に進みますわ!」
「世界が滅ぶかどうかなんて、どうでもいいんです。ただ、キミたちを全員殺す。それが今の僕がすべきこと」
 ぐわりと人形たちが起き上がる。エメスの全力だと言わんばかりに、圧巻されるほどの人形たちがイレギュラーズへ向かっていく。
「誰も倒れさせない。皆、大切な人達だから……!」
 仲間たちを回復させながら、祝音はエメスを真っ向から見つめる。負けない。たとえエメスがこれ以上の力を出してこようとも、自分とルチアで仲間たちをもたせてみせる!
(守りきる……絶対に手を差し伸べて見せる!)
 ルチアのいつくしみが仲間達へ届く。もうひと踏ん張りだと、その想いも共にのせて。
 人形たちを切り払い、攻撃を受け流しながら前進するイレギュラーズ。その刃がエメスへと近づいていく。
「理想を追い求める気持ちは少しだけ、分かっちゃうんだけれどね」
 ゼファーの槍がエメスを捉える。苦悶の表情にゆがんだエメスの顔を見て、ゼファーは目をすがめた。
「理想って、純粋に追い求めるだけじゃダメなのよ。多少は『自分も寄せる』ぐらいが丁度良いんじゃない?」
「自分も寄せる、ですか……ハハ、もっと早く知っていれば違ったかもしれませんね」
 乾いた笑みを浮かべて、エメスの体が地面に沈む。その体にゼファーが刃を突き立てると同時、ぴたりと人形たちの動きが止まった。それこそ、不気味なほどに。
「……嗚呼、見てみたかった……理想の人形……グリムくんと、一緒に……」
 エメスの瞳が濁って、脱力する。人形たちが次々と倒れていく様は――イレギュラーズの勝利を示していた。

 静かになった墓場で牡丹は瞑目する。もともとここで眠っていたかもわからないが、人形にされた人間の体はここで眠ることになるだろう。
 影の領域で安らかに眠ることができるかは定かでなかったが、それでもできる限り安らかに眠ってくれるようにと祈りを捧げる。
「本当にごめんね……おやすみなさい、グリムさん」
 祝音もまた倣って黙祷を始める。戦いの終わった墓地は驚くほど静かだ。
 この静けさの中で、グリムとエメスはずっと過ごしてきたのだろうか。この静寂は寂しいようでありながら、2人きりという紛れもない証拠にも感じられた。
 グリムが魔種の間に幸せだったかどうか、他人である自分たちには見当もつかない。けれど、今は――眠りの先では幸せであるようにと、そう願うのは己のエゴだろうか。
(……ねぇ、グリム殿。もしキミとの出会いがもっと早かったのなら。もしもっと強い友情を育めていたのなら……こうはならなかったのかな)
 ヴェルグリーズは振り返って、グリムが砂と消えた場所を見つめる。命尽きる前に、手を握っていることすらもできなかったけれど。違う結末もあり得たのだろうかと思ってしまう。

 ――せめて、キミの最後が孤独なものではありませんように。

成否

成功

MVP

ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

状態異常

ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
鏡花の癒し
鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
鏡花の盾
御子神・天狐(p3p009798)[重傷]
鉄帝神輿祭り2023最優秀料理人

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。

 さあ、先へ。世界を護るために進みましょう。

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