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シナリオ詳細

<Je te veux>偽者のアイに制裁を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●終末論なんて
 バグ・ホールや怪物の出現。
 更には、先日の色欲冠位とその配下による騒ぎもあった。
 立て続けに起こる事態に、終末を予感する者が現われるのも無理はない。
 終末論などという話とほぼ同時に、以前とある噂を耳にした事を思い出す者もいる。

 リーベ教。
 「死こそ救いである」を教義とし、死を望む者に教祖自ら眠るように死なせてくれるという、天義で生まれた新興宗教。

 最近の彼等の話を聞いたりはしないが、叶う事なら現われてほしい。
 そう望む者が出てくるのも止むなしであろう。
 同時にそれを悪用する輩も。

●偽物のアイ
 天義領内にある小さな村。最近は雪も降ってないとはいえ、地面のあちこちに僅かながらも残っている。
 少々濡れた地面。広場らしき場所にて佇むローブの女。だが、そのフードは深く被っていた。周りに侍らせている男達の格好はおおよそ騎士とはかけ離れた姿であった。野党が小綺麗になったような、そんな印象を受ける。
 彼等はリーベ教を名乗る一行だった。
 冬を迎えたこの村に、蓄えは僅かしかない。終末を迎えるとしか思えない出来事の話を聞き、とても冬を乗り越える自信が無い所に、現われたのが彼等である。
「あなた方を死で救いましょう」
 その言葉に縋りつきたくなったのも致し方ない事だろう。
「ですが、その代わりと言っては何ですが、食糧などを恵んでいただけませんか?」
 彼女の言葉はまるで取引であった。噂では無償であったと聞いたはずだが。
 生じた違和感。
 だが、本物を知らない者達には違和感の正体を証明する手立てを持たない。
 言われるがままに村の食糧を差し出した。
 おつきだという男達の一人がそれをひったくる。
 年老いた村長が震える声で問う。
「それで、お約束のは……?」
「ええ。死で救いを与えましょう」
 目に期待の輝きを湛えた村長の首が飛んだ。
 「え……?」と呟いたのは、彼か村人か。
 男の振るった剣が村長の首を撥ねたのだと気付いたのは、たっぷりと十秒以上経ってからだった。
 血しぶきを上げて倒れる身体を見て、悲鳴が上がる。
「一撃で死ねば、苦しまずに楽に死ねるだろう?」
 フードを外した女の顔はかなり歳を重ねたもので、本来のリーベとは似ても似つかぬ悪の顔をしていた。
「お前達! 村人達を全て一撃で死なせるんだよ!」
 その号令の直後、お付きの男達から歓喜の声が上がる。
 あちこちで聞こえる阿鼻叫喚。虐殺と呼ぶに相応しき光景を、ローブの女は笑って見ていた。
 お付きの一人がニヤニヤと笑いながら女に話しかける。
「リーベ教様々ですな。意外な使い道があったもんだ」
「そうだね。おかげで食糧を施してもらえる」
「けど、良いんですかい? こんな事をして、本物のリーベ教とやらが出てきたら……」
「本物の教祖は死んだらしい。それに、仮に本物を慕う騎士とやらが出てくる事は無いよ」
「どうしてそう言えるんです?」
「そりゃそうさ。出てくれば、否が応でも私らと戦わなくちゃならなくなる。そうすりゃどっちが勝とうが、『リーベ教はやはり野蛮なんだ』って悪評になるだろうよ」
「なるほど、そりゃ本物は出てこれねえですな」
 響く下卑た笑い声。
 悲鳴と共に、赤い花が地面に咲いた。

●本物は
 イレギュラーズは村にやってきていた。
 天義領内にあるこの村は、本物のリーベ教教祖であるリーベが助けた者達とかつて彼女を護らんとした騎士達が身を寄せ合って暮らしている場所だ。
 今は村の名前を「アポートゥ」としているらしいが、さておき。
 彼等は村の集会所にて、元騎士達と対面していた。リーダーはこの中で最も年齢の高い男。
 イズマ・トーティス(p3p009471)の方から口を開く。
「久しぶりだな。改めて、依頼を確認させてくれ。
 ――――偽物のリーベ教が現われているというのは間違いないんだな?」
「はい。天義領内にて、貧しい村などが標的にされているようです。
 彼等の首領も女性である上に、食糧や金品などといったものを請求しているらしく」
「リーベ様も私達も、決してそんな事を報酬にしなかったのに!」
 割って入った若い元騎士を、リーダーが手で制する。
 もう一つの事を確認するように、水月・鏡禍(p3p008354)が口を開く。
「そして、彼等は村の人々を全て殺している。……そうですね?」
「はい。情報によれば、皆一撃で死んでいるそうで。リーベ教の教義に沿ったような動きだそうですが、そんなもの、リーベ様の望むものではない」
「あの方は、『傷つかず、せめて眠るように』と願っていた。苦しみを与えずに死なせる事を考えていた。
 それなのに、そいつらは……!」
「くそっ! 俺達が行ければ!!」
「お前達、忘れたのか。『この村を守ってほしい。出来れば皆笑顔で生きていてほしい』というのが、あの方の最後の命令だろう」
「わかってる!! だから、イレギュラーズに依頼したんだろう!!」
「そうだ。……すまない、血の気が多いのは勘弁してほしい」
 若い元騎士達を宥めるリーダーの謝罪に、鏡禍は短く「いえ」と返す。
 控えていた雨紅(p3p008287)の方から怒気がする。友を悪用されて怒るなという方が無理だ。それは鏡禍もイズマも同じ思いだった。
 リーダーが頭を下げる。
「図々しいお願いだとは承知している。だが、どうか、俺達の代わりに討伐してくれないだろうか。
 本来なら俺達が出るのが筋なんだろうが、出れば確実にリーベ教の悪評が広まるだろう。もうリーベ教は無くなったんだ。偽物達を討伐し、少しでも悪評が広がるのを防ぎたい。悪評が広まれば、この村に影響が出ないとも限らないからな」
 頼む、と再び頭を下げたリーダーに倣い、若き男達も深く頭を下げる。
 それまで黙って聞いていた松元 聖霊(p3p008208)が、口を開く。
「俺は、『死が救い』だなんて認めねえ」
「聖霊さん」
「……けど、教義を悪用するのはちげえだろ」
 寂しげに笑った彼女の顔を思い出す。散々泣いて、それでも自分なりの信念を持って立った女が掲げた教義を、何も知らない他人が悪用するのは、癪に障る。
「患者の名誉を汚されてたまるかよ」
「……はいっ!」
「そうだな。リーベさんに関わっていた以上、この依頼を受けない理由が無い」
「ええ、ええ。彼等には後悔をさせねばなりませんね。彼女の苦悩を全く知らない人達が悪用するなんて、許せません!」
 リーダーをはじめとする元騎士達が立ち、改めて深く礼をする。
「どうか、よろしくお願いします」

●そして出会う
 新たな標的……もとい、救いの対象の村にやってきた偽物一行は、いつものように村人達に食料や金品を強請る。
 ありったけのものをかき集めるのを眺めていると、新たに訪問者がやってきた。
 それは、一言で言い表すならば軍勢だろうか。
 磨かれた銀製の鎧を纏う彼らの数はザッと数えて十ほど。
 剣を携えし彼らの軍靴が止む。リーベ教を語る偽者達の前で足を止めた彼らに、リーダー格の女が問う。
「一体何の用だい?」
「我々は最強の全剣王に従っている者達である」
「はぁ?」
 怪訝そうに眉を顰める。最強の全剣王と言えば、鉄帝の歴史の中で最強の皇帝と呼ばれた伝説の存在の筈。だが、彼の言葉の真偽を確かめる術は彼らに無く、ある者は薄く笑って馬鹿にする。
 ただ、女は全く油断する様子もなくもう一度尋ねる。
「それで? 何の用な訳で?」
「我々はあの方と同じように終焉を望む。故に、この場の命は全て刈り取ろう」
「じゃあ、この村の命はあんた達にやるよ。私達はもう行くんでね」
「何を言っている」
「は?」
「お前達も含む、全てを、だ」

GMコメント

 リーベ関連は落ち着いたはずですが。
 終末論と教義って相性良いよね、じゃあならず者達が悪用することも有り得るね☆
 というわけで、リーベ教の偽物が現われました。討伐しましょう、というシナリオです。
 リーベ教を知らなくても全く問題ありません。
 イレギュラーズは全剣王に従っているという軍勢と偽者達が戦い始めた所に遭遇する所から始まります。

⚫︎成功条件
・偽リーベ教の討伐
・不毀の軍勢の撃退(半数以上倒せば撤退します)
・村人達の生存(全部で40人近くが住んでおり、半数以上生存している事が望ましい)

⚫︎敵情報
・偽リーベ教×10人
 リーダーはローブを着た年嵩の女性で、斧使いです。パワータイプで、一撃は相当に重いです。
 仲間達は剣、弓、スリングなどを使用してきます。リーダーと同じくパワータイプで、あまり戦略を得意としません。

・不毀の軍勢×10人
 剣を腰に下げる、鎧姿の者達。
 非常に反応が速いタイプと非常に攻撃に長けたタイプが半々で居ます。
 全剣王に従っているというだけあり、剣を得意としますが、剣の大半はロングソードや大剣(両手で持つタイプ)です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

それでは、よろしくお願いします!!

  • <Je te veux>偽者のアイに制裁を完了
  • 終焉が近づくというのなら、ね?
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年03月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
雨紅(p3p008287)
愛星
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ

●怒りを戦いの力に変えて
 イレギュラーズが到着し、交戦する事でその場は混戦状態となった。蚊帳の外になってしまったとはいえ、何の力も持たない村人達にとって、目の前で行なわれた大きな喧嘩は、恐怖でしかないだろう。
 恐慌状態の村人達へ呼びかける事で、少しでも犠牲者を出さないように努める。
 村人に迫ろうとした軍勢の一人に、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)の放った気功弾が黒豹の姿になって食らいつく。
「助けに来たよ! この場から離れて!」
 大声で叫ぶも、村人達はすぐに動けないようだ。
 彼等の意識を避難へと向ける為に、『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)と『紅の想い』雨紅(p3p008287)が移動しつつ声を張り上げる。かなりの広範囲に響くその大声は、村中に届いていたはずだ。
「落ち着いてください。僕たちはイレギュラーズです。場をおさめにきました」
「助けに来ました、建物の中に閉じこもり自衛を!」
「彼女の言う通りに、建物の中へ! 壊させたり侵入させたりしません。建物の中に逃げてください」
「隣人を、大切な方を、守ってあげてください!」
 この混乱の中、どこまで伝わるかは分からないが、少しずつ動きだすのが見えてきた。
 それでも、どこへ移動すればと迷う者も居る。そういった者達へは『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)が対応した。
 彼の背にある緑の翼を広げ、まだ動けぬ村人達の前に降り立つ。
「安心しろ、すぐ終わる。
 俺達が必ず助けてやるから、安全な場所で待っててくれよ」
 「だから、こいつらと一緒に避難してくれ」と出来るだけ厳かに言いながら、召喚した猫を二体降ろし、彼等の誘導を任せる。
 白猫と黒猫に導かれるように避難していく背中を見ながら、改めて己の姿を見て溜息をつく。
(やれやれ、悪霊には随分似つかわしくねえな)
 けれど、これで彼等の命を守る手助けが出来るならば易いものだ。
 避難しようとする彼等へ迫る鎧姿へ、雨紅は虹の軌跡を描く星を放つ。決して近づけさせはしない。
 敵を識別。その上で範囲に妖力の炎。鏡の妖怪が持つ力で広げた炎は、鎧の姿と、それからリーベ教を騙る偽物達を燃やさんとする。炎に触れた村人は、己を全く焼かない事に不思議がりながらも近くの建物を目指す。
 少しずつこの場から村人達が減っていく。
 クウハも一助する。呼ぶ声を発する事で、敵の怒りの矛先が自分に向いたのが分かった。このまま彼等を引きつけていかねば。
(それまでどうにか一人でも多く逃げてくれるといいんだがな)
 切実な願いを抱えて、クウハは鎧姿の敵達と対峙する。
 賊の方も、対処はどうにかなっただろうか。

 響く金属音。鎧姿の敵が持つ剣と、盗賊の持つ剣がぶつかり合う音。
 彼等が互いに戦ってどちらかが自滅してくれれば良いのだが、依頼の件がある以上、そうもいかない。
(まずは引き離さねばだな)
 魂を核とした妖刀を構え、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が鎧姿の方を吹き飛ばす。重力など関係ないかのように放たれた一撃は、人の少ない所へと、受け身も取れぬ様子のまま着地する。中に入っている者が居るならば、かなりのダメージになっていることだろう。
 響く音の行方を見届ける前に、『冥府への導き手』マリカ・ハウ(p3p009233)へと斬りかかってきた賊。だが、彼女に攻撃は通らない。その為の魔法を己に掛けた。
 ダメージが通らなかった事に動揺するその者へ、マリカの反撃が行なわれる。敵味方の区別を付けてから放たれた技の威力は、周囲へと撒き散らす。同時に、賊の命を刈り取らない事を選択する。
(殺さない選択肢があるのならば、殺したくない)
 かつての己の悪行はひどいものだった。リーベ教とやらの教義を悪用した賊とどう違うのか。そんなもの五十歩百歩だろうと、思う。
 けれど、もうこれ以上命を奪う真似はしたくないのだ。だからこそ、こうして救う為に一歩でも多く踏み出そうとしている。
「……これ以上私に後悔の元を増やさせないで」
 小さく呟いた彼女の言葉は、多くの戦闘音でかき消されていく。
 『二人の秘密基地』Lily Aileen Lane(p3p002187)も、賊ではなく不毀の軍勢を選択した一人だ。
 本音を言えば、賊の方に今すぐ殴りかかりたいぐらいであったが、見過ごせない敵が賊を狙っているというのならば致し方あるまい。棺型に偽装した執行兵器に怒りを込めて、彼女は蒼き彗星の力で敵を貫く。
 怒り心頭。今すぐにでも暴れ回る心積りなれど、そのせいで村人達まで巻き添えにするわけにはいかない。賊が巻き添えになるのは構わないとさえ思うけれど。
(彼女の教義に理解はしませんが……それを悪用する輩は許せないし、赦しません)
 今でも脳裏に蘇る、遂行者の寂しそうな笑顔。
 思い出せば思い出すほど、リーベ教を騙った賊達が許せない。
 赤い瞳に怒りを燃やして、至近距離に迫った不毀の軍勢の一人に、赤い闘気を叩きつけた。
(敵は戦闘中の者で全部か?)
 周囲を深く観察する中で、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は人数を数えていた。
 今彼が見ているのは斧を扱う女が不毀の軍政と戦う姿だ。
 割とパワータイプなのが見てわかる。かといって、手数や武器に頼った戦い方はしていない様子。実力で黙らせてきた、という感じの戦闘スタイルのようだった。
 不毀の軍勢と戦う、女を含めた賊を見て、正直な所怒りが湧かないといえば嘘になる。
 迫る軍勢の一人を神聖秘奥の術式でもって穿つ。
「手助けかい? 助かるよ」
 女が大きな声で笑う。見たところ、賊の中に女が一人。それでいて周りはどうもリーダーらしくない。とすれば、この女がリーダーだろうと思われる。
 これが善人であったならば、彼は普通に接しただろう。
 しかし、彼女は悪である。リーベ教の教義を悪用し、罪なき弱気人々から物資を搾取し、命を意味なく刈り取った。教義など理解はしないが、教祖であった彼女の名誉を汚す真似をした。その事が、イズマの心に怒りの火を点ける。
「お前達は命を何だと思ってるんだ?
 リーベさんは命の重さを知ってたが、お前達は知らない。
 故にお前達は悪意に満ちた偽物だ。報いを受けろ」
 周囲によく通る声で、偽リーベ教であった賊達を詰る。
 女の目が細められる。それはとても冷ややかで、瞬時に笑みを顔から消した。
「……はっ。青二才が吼えてんじゃない、よっ!」
 両手で握りしめた斧を下から振り抜く。彼女の攻撃をかわし、一撃を入れんとする鎧姿の敵へ、イズマは再び神聖秘奥の術式を叩き込む。
 今度はもう何も言わない。言葉を交わしたくもない。
 だからただ、武器を振るい続けた。
 視界の端で倒れる賊の一人。その賊を助けに入るものの、間に合わなかったモカが鎧姿から一撃を貰ってしまったのだけが、見えた。

●怒りを飲み込み、糧として
 戦いも終わり、残っていた偽リーベ教もとい賊達を捕縛する。
 村人達の様子も確認したが、被害はどうにか最小限に防げたようだ。村人や賊を含めて数人程の犠牲を出してしまった事は胸が痛いけれども。
 怪我をしているイレギュラーズをクウハが出来うる限り癒す。それが終われば、賊達を村の中央に集め、イレギュラーズが取り囲んだ。
 部下らしき者達の中には、彼等を見て怯える様子を見せるのも居たが、リーダー格らしき熟れた女は違った。
「はっ、ローレットの奴らがお出ましとはね」
「依頼を受けて貴方達を討伐するよう言われたわ。けれど、あなた達は捕らえる事にしたの。突き出す所に出す必要があるから」
「甘ちゃんだねえ。イレギュラーズってのは皆そんなものなのかい?」
「……私は、あなた達に反省なんて期待しない、罪を償えとも言わない。
 これ以上は、言うだけ無駄だわ」
 マリカはそれだけ言うと背を向けた。村人達の無事を見ておきたくて、早々に立ち去る。
 女は肩をすくめようとして、縛られているので上手く出来ない事に気付くと、一つ嘆息した。
 そんな彼女にイズマと鏡禍が進み出て、思いを吐露する。
「リーベ教を悪用とは、よくもやってくれたな」
「リーベさんは信念を持って行動していたのに、ぽっと出の何も知らない偽物に汚されるのはずいぶん腹が立ちますね」
 どちらの目も冷静な怒りの炎を宿している。
 二人の怒りを前にして、女は得心がいったように頷く。
「なるほどね。あんた達、リーベ教の関係者か。ってこたぁ、依頼人はリーベ教の元騎士辺りかね」
「関係者と言いますか、諸事情で少しご本人と交流があったものでして」
「まあ、関係者といえばそうかもしれないな」
 概ね同意するような物言いのイズマに鏡禍も頷く。
 女は二人の答えを聞くと、大きく笑い出した。
「やっぱり、リーベ教の騎士ってやつは腰抜けだねえ! あたしらが憎くてしょうがないだろうに、悪評が怖いからってローレットに依頼とはね!」
「……今の言葉、撤回してください」
 Lilyが静かに武器を構える。
「この期に及んで反省してないなら……悪さが出来ないように……手足を刺しても、良いですよね?」
 実行しようとする彼女を止めたのは、肩を掴んだ雨紅の手で。振り向いたLilyに向けて静かに首を横に振る雨紅の赤い唇は何も動かない。
 だというのに、顔を向けた雨紅の雰囲気は、誰が見ても明らかに怒っているそれだ。
 友と皆の決断に泥を塗った事への怒りは、そう、『腸が煮えくりかえる』ような思いであり。
 けれど、彼女が選んだ道は予想を超える。
「死んで終わりにはさせません。……どうすべきかは、依頼人に確認した上になりますが、きっと、死は免れないでしょう。……少しの間でも、迫る死を恐れ、悔いなさい」
 生きていなければ、報いで苦しみ続ける事は出来ない。
 故にこそ、雨紅は敢えてそれを選んだ。死なす道より生かす道を。例えその道が期限付きだとしても。
 鏡禍が、彼女の意思を察して溜息をつく。それはとても、深く、長く。
「……雨紅さんが、そう選択するのならば」
 友の名誉を汚そうとした賊達に情け容赦など一切かける義理は無い。彼としては命を奪うまでしても良かったのではと思うのだが、自分と同じかそれ以上に怒気を放つ彼女がそれを選択したのならば、尊重したいと思った。
 イズマも彼女の言葉に同意を見せてくれた。Lilyは仕方ないという風であったが、それでも同意してくれた。
 汰磨羈は彼女達の選択を見ていたが、その中に居るイズマに問う。
「私としては、見せしめの為に極刑と考えているが、どうだ? 『半分落とせば』、極刑の言い訳は立つか? この人数を当初の数より一人二人少ないとはいえ、全員連れて行くのも一苦労だろう」
 賊の中の一部が震えるだけでなく情けない声を上げるのも聞こえてくる。その声を無視して見つめ合う汰磨羈とイズマ。時間にして一分にも満たぬ内に、イズマは静かに被りを振った。
「俺は依頼主の意志を汲み、討伐を想定するが。生きて償わせる事が望まれるなら、依頼主の説得を試みよう」
「……そうか。ならば、雨紅やお前達の意思に従おう。
 運が良かったな。お前達」
 言葉だけなら優しさが滲むが、その声色は冷ややかなものだ。睨みつける青の目には、隠しきれぬ怒りが滲んでいる。
 モカは彼等の選択に口を出す事無く見守っていた。正直な所、リーベ教とやらは関わりが少ない為にその教義について本人がどう思っていたのかを知る由は無い。知っても共感など出来ようはずも無いのだが。
 けれど、この偽物達はその教義を悪用し、多くの弱き者達を虐殺した。そんな彼等は法で裁いてもらうのが良いだろう。
 尤も、雨紅の言う通り、極刑になる可能性は高いだろうが。
 彼等を見張る役目を自ら負う事を宣言し、任に着く彼女は少し離れた場所に居る村人達へと視線を移す。
 賊に奪われていた食糧等を村人達に返す仲間達の姿が、そこにあった。

 見られている視線に気付かないほど、彼等は村人のケアに集中していた。
 怪我している者達へ治癒を施しながら、クウハは彼等の言い分を聞いていた。
「どうして死なせてくれなかったんだ」
「もう世界は終わりなんだろう? なら、死なせてくれよ」
 悲観に暮れる彼等に向けるクウハの視線は優しさを孕んでいた。
「死に救いを求める事を、俺は否定しない。だが、今死ぬにはまだ早い。助けが欲しけりゃ呼べばいい。出来る限り助けてやるよ。
 それでもどうにもならなけりゃその時は、俺が眠りにつかせてやるさ」
 死が救いとか、そんな事は知らない。出来るなら死んでほしくはない、なんて、悪霊らしからぬ思いだ。
 肩を竦めそうになる己の横に、雨紅が立つ。先程まで膨らませていた怒気は鳴りを潜めている。
「治療をありがとうございます」
「どういたしまして」
 簡単な会話の後、彼女は村人達に語りかける。
「……望みを咎めることは出来ません。ただ、まだ守りたいものがあるなら、大事な人の側にいてあげて欲しいです」
 赤い唇を通して伝える想いは、村人達に伝わってくれただろうか。
 後悔しないでほしい。生を諦めないでほしい。
 その二つを彼女が何故抱いているのかを、クウハは知らない。だから、ただ願う。
 彼女の想いを村人達が真摯に受け止め、そしてこの先も生きる事を諦めないでくれる事を。

●怒りを飲み込み、未来へと
 あの後、元騎士達をアポートゥ村の近くまで呼び出して賊達について相談をした。
 雨紅をはじめとしたイレギュラーズが、しかるべき所へ突き出しての彼等の生存を提案する。正しき法の下に照らせば、彼等は間違いなく極刑である可能性も話した。
 年若い騎士達の中には死を望む声もあったが、それをまとめ役の男が一喝する。
「俺らがそれをやって、リーベ様に報告したら、あの方は笑ってくださるか?」
 彼女の性格を知っている元騎士達には、その一言が効果覿面であったようだ。すぐに謝罪した彼等に、イレギュラーズは首を横に振る。
「私の我儘で申し訳ありません」
「いや、雨紅さんのおかげで一つの機会を提案出来たと思うよ、俺は」
「機会ですか?」
「ああ。怒りに囚われない事もまた、笑顔で生きるために必要だから」
 イズマの言葉に、元騎士達がハッとした顔をする。
 Lilyも彼等と同じ顔をした。彼等に対して制裁を下そうとした自分を思い返す。あの時の自分は怒りに囚われていたと気付いて、武器を握る手に力を込める。
 マリカは小さく息を零す。己の未熟さを痛感する思いだ。彼の言うように出来たらと思うが、果たしてそれは出来るだろうか。
(彼等がそれで溜飲が下がるなら、それでいいと思うよ)
 クウハに支えられながら、モカはそんな事を思う。
 鏡禍は黙ったまま、何も言わない。雨紅の意見に同調した自分はこれ以上文句を付ける立場には無い。ただ、イズマの言葉は自分にも当てはまるな、なんて思ったぐらいだ。
「どうした?」
「別に」
 汰磨羈からの問い静かに返す。素っ気ない返事であったが、汰磨羈は別に気にしていないようで、短く「そうか」とだけ返した。
 この後、賊達は然るべき場所へ行くのだろう。極刑は免れないだろうが、彼等の生きる時間が少しでもこれまでの人生を振り返り、後悔する事を願うばかりだ。
 ふぅ、と息を吐く。白いもやとなって空気に溶けたその先で、雪に塗れた道が見えた。
 春が、近付いている。

成否

成功

MVP

雨紅(p3p008287)
愛星

状態異常

モカ・ビアンキーニ(p3p007999)[重傷]
Pantera Nera

あとがき

お疲れ様でした。
賊の命は期間限定となりました。
彼らは極刑が施行されるその時まで命乞いをしたり後悔したりしていましたが、リーダー格の女だけは一切取り乱した様子は無かったそうです。

MVPは、怒りを飲み込み、皆に願った貴方へ。

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