PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Je te veux>観測データ005『child』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想王国に置いて『冠位色欲』による襲撃が行なわれていることを練達は把握している。
 その上で、ラサの南部砂漠コンシレラに姿を見せた『ベヒーモス』と識別された存在に対しての観測を終焉の監視者『クォ・ヴァディス』達と協力して行って来た。
 その観測対象に動きがあったのだ。
 その日、ベヒーモスは微動だにしていなかったが背中側が『剥がれた』。
 それから、ずるりと剥けるように何かが溢れ落ちてくる。
 ぼろぼろと落ち続けるそれは『小型のベヒーモス』だ。驚かんばかりに、それは似通った姿をして居た。
 そして、それらは姿を消す。
 何処に消えたか、追跡のための調査が始められ――

「皆さん、どうも。みゃーこですよ。希望ヶ浜の外に居るの、珍しいですか?
 ふふ。もう猫の手も借りたいとの事で外勤です。まあ、セフィロト・ドームの外にも被害がありそうなので……」
 少し警戒をしているのだと告げるのは澄原 水夜子だった。鮮やかな紫色の瞳に、灰色の髪を有する女子大生は普段は希望ヶ浜にて怪異の調査を行って居る。
 外界への知識があること、そして其れ等に対して不快感を示さない事からセフィロトにて調査業務に携わっているのだろう。
 ――と、いうのも事態が急変したのだという。
「実は、南部砂漠コンシレラで微動だにしなかったベヒーモスに動きがありました。ええ、本当に突然。
 その背中から小型のベヒーモスが現れ空間を転移し、各国への進軍を始めたのです。
 その目的は『パンドラ収集器』――つまりは、皆さんが手にしている者と同じです。イレギュラーズなら思い入れのある品がそう成り得ますよね?」
 そうした品は各国に点在している。魔種が活動するだけで滅びのアークが蓄積されるようにイレギュラーズが活動すれば自らのパンドラ収集器にパンドラが重なり、それから空中庭園のざんげが所有する空繰パンドラに蓄積されるのだ。
 現状では各国に点在するパンドラ収集器が狙われているのだという。
 例えば、素晴らしい功績を収めたとされる英雄の私物。それを天義では聖遺物と呼ぶ事もある。
 例えば、何気なく手にしている懐中時計。思い出の品だと旅人が持ち歩いていることもあろう。
 例えば、質に流れてきたネックレス。何らかの事情があって、持ち主の手からは慣れてしまったのかも知れない。
 例えば、――あなたが持っている『それ』だ。
「そうした品を奪われてしまえば、ベヒーモスの糧になる可能性があります。
 まるで、パンドラを吸って、滅びのアークを吐いているようですね。実に嫌になります」
 水夜子はにっこりと笑ってからテーブルの上に置いてあった資料を差し出した。
「これは調査の為のものではありますが、私と一緒に南部砂漠へ向かってくださいますか。
 大丈夫です。移動には手間取らないように色々と準備はしておりますから。ええ、安心してください」
 ベヒーモスの程近くて、小型のベヒーモス――通称をちっさくんと呼ばれたのは愉快なことだ――がパンドラ収集器を前にしてどの様な反応をするのか、というのが観察のポイントなのだそうだ。
 それらを観測し、データ化して練達に蓄積する。時が来たれば終焉に踏み入れて其方の調査も行なうつもりなのだそうだ。
 現状にして、何も解らない。
 だが、『パンドラ収集器』を狙って現れるというのは分かり易い構図だ。
「分かり易い内にさっさとお引き取り頂かねばなりませんしね」
 にっこりと笑ってから水夜子は「では、ターゲットポイントは此方で」と地図をとんとんと叩いた。
「あ、先に行って下さいね。出向くことを従姉達にも伝えてきます。皆忙しいですから」

 砂漠地帯に一つの遺跡がある。無名だ。名前は何もない。
 その場所に砂避けのマントを羽織った水夜子がにこにこと手を振って立っていた。
「これ、夜妖を封じ込めた剣です。私は便宜上『雪芽ちゃん』と呼んでいます。
 まあ、簡単に申せば雪女みたいな夜妖を閉じ込めてある剣ですね。これで戦いますので、ご心配なく」
 微笑む水夜子はこの遺跡の内部にパンドラ収集器がある事を観測したのだという。
 その理由は単純だ。一人の旅人が此処で暮らし、最近亡くなったのだという。それ故に、無人。奪うには持って来いだとされていた。
「ユリーカさん……ローレットはパンドラ収集器を回収して、その上でパンドラのみを委譲、収集器自体は元の持ち主返して欲しい、とのことでしたが」
 悩ましげに呟いた水夜子。この場合は埋葬かな、なんて明後日のことを考えて居たのだろう。
「これは、ある意味で調査を兼ねてのことです。申し訳ありませんが、ちっさ君さんたちは有象無象です。
 それらの様子を、それから倒れたときのデータを私に下さい。練達も協力体制だという事ですよ」

GMコメント

 夏あかねです。宜しくお願いします。

●成功条件
・『ちっさ君』を退けて『懐中時計』を確保すること。
・データを水夜子に持って帰って貰う。

●フィールド
 とある無名の遺跡です。探索をすると何らかのお宝が残っているかも知れません。
 練達は其方には興味がありませんので、終った後に探索をしてみては如何でしょうか。
 出入り口からやや入ったところに旅人であっただろう男の死骸が転がっています。白骨化しています。
 その傍には古びた懐中時計が落ちているようですが……。

 戦闘時には迎撃が可能です。しんと静まり返ったその場所で迎撃を行ないましょう。
 ちっさくんを撃破し、懐中時計を守り切りましょう。ざんげに持って行けば懐中時計そのものは返して貰えます。
 また、無名の旅人(白骨化した彼)の処遇はお任せ致します。放置でも、埋葬でもお好み方をお選び下さい。

●エネミー
 ・ちっさくん 15体
 デッカくんと呼ばれるベヒーモスという終焉獣の子達から溢れ落ちた獣達です。
 牙を持った狼の姿に変容しています。基本的には狼のモンスターとして取り扱って下さい。
 かなり数が多いのはベヒーモスに近いからなのでしょう。其れ等全てを退ける防衛線です。
 個体によって様々な能力の差があります。ヒーラーなども居るようですが……。
 これらの存在を撃退しながら行動データを水夜子に取って貰うのも今回の目的です。

●NPC
 ・澄原 水夜子
 希望ヶ浜大学に通う『怪異の専門家』です。調査を行なう事を好んでいます。
 基本的に他人との距離が近くニコニコとしています。みゃーこと呼んで下さいねと押してきます。

 ・雪芽ちゃん
 水夜子の剣です。雪女を思わせる怪異を封じた剣です。冷気を発します。
 また、冷気を手繰ることで防御行動も可能なようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <Je te veux>観測データ005『child』完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年02月13日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)
レ・ミゼラブル

サポートNPC一覧(1人)

澄原 水夜子(p3n000214)

リプレイ


 セフィロトより遠く離れた砂漠地帯へとやってきた澄原 水夜子(p3n000214)は「砂漠って良い旅行先ではありますよね」なんて言葉を零した。
「何時かラサに水夜子君と一緒に来たいなどと言った気もするが。どうせなら、もっと色気のある話になるとよかったな。
 ……まぁ、この状況を何とかしなければ『次』も無くなりそうだ。さっさと仕事を終わらせて、何か食べに行こう。ラサは甘い物も沢山あるからね」
「サンド・バザールに行ってみたいですね」
 にこりと微笑んだ水夜子に『縒り糸』恋屍・愛無(p3p007296)はこくりと頷いた。彼女が『外』に出てくる事は珍しい。
 再現性東京202X街の人間とは大体がその街で一生を終えようとするのだ。それだけ、外の世界と彼女達の常識が乖離しているからである。
 それでも情報通と自らを称するフィールドワーカーの水夜子は何らかの情報を先んじて得ておきたいと自身の希望を持って、ついでに言えば『人手を借りたいという声に応えて』此処までやってきたのだろうが――
「……実際のところ、少なからず驚いたのは確かです。
 とはいえ……考えてみれば。夜妖の作り出す異界の経験が多いみゃーこなら、初めて体験する外世界に存在する過酷な環境への適応も早い……か?」
 じいと『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は水夜子を見た。にこにこと微笑んで居る灰色の髪の少女は相変わらず自らの本音を見せない。
 それが処世術であることはよく分かって居るのだが、此度の仕事に対して彼女はどう思っているのか。
「何なら命の危険という観点で見れば砂漠より異界の方が余程危険ですし……確かに、貴女は適任なのかもしれませんね」
「冬佳さんがそう言って下さるなら私は適任という事です」
「ええ、そうしておきましょう。外の世界と本物の砂漠、如何ですか?
 澄原先生は微妙な顔をしたかもしれませんが……私達もついていますし、良い経験になればと思います」
 従姉は妙な顔をしたことだろう。引き攣った表情で「行くのですか」なんて聞く彼女の身内は簡単に想像も出来よう。
「で、目的はちっさくんです」
「ちっさくん……名前は可愛いのに、やることは全然可愛くないわね!」
 パンドラ蒐集器を撮りに来るだなんて、と『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は呟いてからはたと思い出した。
「っていうか、ベヒーモスの背中から剥がれて出てくるなんてキモ――こほん、失礼」
「否定は出来ない、だろうね。でっかくんはともかくちっさくんはROOではなかった動きでもあるから」
 それにしたってベヒーモスこと『でっかくん』だ。R.O.Oで見たあの生物には『ちっさくん』が出てくることも無かった。『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は記憶を辿ってから「注意深く観察しておかなくては」と呟いた。
「これからの魔種との戦いにおいてパンドラは重要だ、そう簡単に奪われるわけにはいかない。
 不明なことが多すぎて相手がどう出てくるかも分からないからね、水夜子殿も無理はしないようにね」
「そうだね、滅びのアークとパンドラ。私達からは切っても切り離せないものだ」
『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)は自らが手にしていた懐中時計をじいと見詰めてから目を伏せる。
「結局は滅びのアークとパンドラの、この二つに集約されるのかな。
 パンドラ収集器を奪取すれば、そこに集まったパンドラは空繰パンドラへ蓄積されずに済む。
 一方、ベヒーモスとかの糧にもできるなら、あちらさん達からしたら好都合だよね」
 自らの持ったパンドラ蒐集器は大切な人から貰った懐中時計だ。刻んだときが思い出になる代物。だからこそ、それを渡したくは無い。
 そして、目の前の白骨化してしまった彼だって、その懐中時計を大切にしていたことだろう。持ち主と共に時を刻むからこそ、肌身離さず『パンドラを集める』為にも役に立ったのだろう。
「蒐集器に引き寄せられてくる、か。案外私達にもくるのかな?
 それにしたって、見た目と言いどう見ても例のゲームに居たアレなんだよねぇ。
 ……あの子達パンドラが好きなんだっけ? どうやって食べるんだろうとか気になることは多々あるけど」
 実に興味深いとでも言いたげに『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は呟いた。喰われそうなものを野放しにするメリットも無く、データ蒐集を行なっておくことは此れからにも役立つはずだ。
「みゃーこちゃんにしっかりデータを取って貰って、遺体も丁寧に弔ってあげて――
 ……ね、ねえ、あの骨、いきなり起き上がったりしないわよね……?」
 怯えたジルーシャにそういうの得意ですとでも言わんばかりに水夜子は微笑んだ。


「パンドラを奪って滅びのアークを排出してくるというのは穏やかではありませんね。
 実際にそういうことをしてくれるのであれば、世界に散らばっているかもしれないパンドラ収集器を集めなければいけませんし……」
「イレギュラーズなら手にしていますしね」
「はい。ですが、それも荒唐無稽な話です。データ収集が目的ということですし、頑張りましょう。みゃーこ様にも喜んで頂きたいですから……」
『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)の言葉に「あら」と水夜子が笑った。随分と表情が柔らかくなったように思える彼女を見ていると水夜子もついつい嬉しくなるのだ。
「そろそろ相手が来そうですけど、いいですかね?」
「みゃーこ」
 呼び掛ける『レ・ミゼラブル』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)に水夜子がくるりと振り返った。
「『相変わらず』ですね」
 そう肩を竦めてミザリィは狼を模した相手がやってくることに些かの辟易を覚えていた。どうしてもこうしても狼というのは何時だって悪役だ。
 それを嘆いていては仕方が無いし、『善き狼』として成せることを成せば彼女の役にも立つのだ。余りに戦い慣れていないくせに、猪突猛進で前線に向かう事が好きな彼女は『雪芽ちゃん』なんて名付けた夜妖の剣を手にしてきたのだから。
「回復はおまかせを。思いっきりやっちゃってください、みゃーこ」
「勿論ですとも。では『私が簡単に死なないための情報収集』です!」
 その情報収集で深追いしそうだとはミザリィは敢て口にはしなかった。ハリエットは白骨化した遺体に軽く黙祷を捧げる。足音と、パンドラの気配を求めてやってくる餓えた獣の息遣いが聞こえてくる。
(直ぐに倒せそうな相手かな。産まれたばっかりだからか、それともリソースを割いていないのかな……?)
 じいとそれを観察することに決めたのは、それらが個体差があるからだ。パンドラ蒐集器の気配を察知しているようだが、それに直接的に飛び込まないのは警戒か、それとも場所を理解していないのだろうか。
「此方には警戒していないように思えるのは腹を空かせているからかな?」
 明るい声音を弾かせたルーキスは一番に近い個体の位置に気付いたように立ち上がった。それとも、『イレギュラーズにも興味を持っているのか』は定かでは無い、が、どちらかと言えば後者だろう。イレギュラーズもパンドラを宿し、パンドラを蒐集できる。
 ルーキスが一瞥すれば水夜子がこくりと頷いた。戦闘開始の合図だ。遺跡の保護を行なっていたジルーシャは後方の白骨化した遺体に怯えた様子で「いいのね?」と何度も繰返す。
「うーんこの誘蛾灯感、本能で引き寄せられてるのかな? 餌にご執心なのは良いことだけど足元がお留守だよ」
 足元から狙うようにルーキスの魔力が伸び上がった。続き、接近して行くちっさくんに向けて柔らかな香りが望郷の気配を漂わせる。
「みゃーこちゃん、データを宜しく頼むわよ!」
「ええ。もう少し近付いてみたいですが!」
 じりじりと接近しようとする水夜子に「何が欲しいのか、言ってくれれば構わない」と愛無は告げる。接近することは無いようにしていた。それは『観察時間』をより得るためだ。接近した者から、皆で狙い撃ち、抜け出た者を愛無が纏め上げる。
「水夜子君、夜妖以外との実戦経験は少ないだろう? 『せんぱい』には頼ってくれ」
「ふふ。では、一杯引き寄せて下さいね」
 まるで信頼しているようで、何も考えて居ないような軽やかな声音だ。簡単に言ってくれると思いながらも彼女と立った戦場は愛無にとって楽しみその物だ。
 ひらりと舞うようにスカートを揺らし、リュティスが地を蹴った。踊るような蝶々と共に、パンドラ蒐集器に向かって行こうとするちっさ君達の標的がブレていることはリュティスのみならず誰もが分かる。
「みゃーこ様、私達も餌なのでしょうか」
「そんな気がしますよね」
「……そうですね、そんな気がします」
 余りに困った表情を浮かべたリュティスに水夜子がくすくすと笑った。周囲を囲まれないようにと気を配ったヴェルグリーズは「寧ろ標的がバラけたと言うべきだろうか」と首を捻る。
「一先ず、一体頂いても構わないかな?」
「どうぞ」
 ヴェルグリーズが知っておきたかったのは体力だ。敵が何れだけの体力を有しているかで今後の戦い方も変わるだろう。それが個体差があるのかも見極めておきたい。
 後方で息を潜めるハリエットと、サポート役として立ち回るミザリィならばヴェルグリーズの攻撃を受けた際のちっさ君達の動向はより深く観察出来る筈だろう。
「個体差があるのは屹度確かだよ。傷を癒やそうとする個体も居る。ベヒーモス自体の能力が個体にばらけているなら面倒だね」
「……それも、有り得ない話ではなさそうですね」
 ハリエットに渋い表情を浮かべたミザリィは嘆息した。


「おっと」
 じらりと見詰めたルーキスは「みゃーこちゃん? どうする?」と問うた。
 水夜子と呼び掛ければみゃーこと呼んで下さいなんて言う練達のフィールドワーカーにルーキスは『みゃーこちゃん』と柔らかに呼び掛けたのだ。
「ええ、随分集まりました。そろそろ良いですよ」
「了解」
 怒りが効くことは検証できた。引き寄せることは出来よう。だが、どちらかといえば獰猛な獣そのものであることが分かって仕舞ったことは残念だ。
「データは欲しいといったけど、食べていいとは言ってないよ。会話できるような理性はやっぱり持ち合わせてないんだね」
「ええ。会話は難しいのでしょう」
 冬佳は頷いた。適度に生き残らせた獣達の動きを見ていれば回復行動には優れるが回避行動はとらない。バッドステータスを扱う事は稀。どちらかといえば堅牢だ。
 ヴェルグリーズの攻撃を受けて倒れはしたが、ぎりぎりを凌いだ者も居た。それは個体差なのであろう。冬佳は「それにしたって避けませんね」と呟いた。
「ああ。余りに避けやしない。それに……。
 懐中時計を優先するのか。それとも敵の撃破を優先するのか。僕らもパンドラや収集器を持っているしな。
 もしちっさ君が、敵の撃破を優先するならば、と思ったが、どうやら攻撃に反応しただけだな。
 パンドラの量に反応するワケでもなく、連携もとれていない。知性はあまりないのだろう。『出て来た手だから』かもしれないな」
 愛無は呟いた。愛無は「水夜子君は後ろにいて欲しい。玉の肌に傷でもつけたら、面目が立たないからな。責任ならば幾らでも取るけどね」と戯けるように言って見せた。
「あら、責任をとって私と此の儘ランデブーですか?」
「悪くはないが、しないだろう?」
「ええ。楽しみに見ているドラマがありますので」
 そんな水夜子に「ドラマに負けてしまったか」なんて揶揄うように言える程度には余裕があった。ヴェルグリーズが踏込みちっさくんを打ち払う。
 その様子を惹き付けて眺めて居る愛無は「簡単に倒れる。本当に餌に寄ってきただけか」と呟いた。
「それも厄介ですね。滅びのアークを吐いているわけではありませんが、存在その物が滅びのアーク。
 小さな個体だからこそ、あまり影響はありませんが何らかの不快感を生じさせる可能性はありますね」
 リュティスが呟く、地を蹴った。ふわりと跳ねてちっさくんを斬り伏せる。倒れかけたそれが未だ牙をぬらりと光らせた。
「纏う香りがアタシの武器――狼の姿をしたアンタたちにはどう感じるかしら?」
 艶やかなその香りが鼻先を眩ませる。ジルーシャの纏う濃い紫苑の気配。それは穏やかでありながら、その意識を奪い続けた。
「みゃーこ」
 ミザリィが眉を吊り上げた。何を持ったのかこそこそと彼女が前に行くのだ。ハリエットは「行かない方が良いんじゃない?」と声を掛けたが聞くような性格ではないのだろう。
「……あのときは私が手当てをしてもらいましたからね。恩返しのようなものですよ。
 恩が無くなっても、私は私の意思で貴女を気に掛けますけれどね」
「あら、嬉しい」
 飄々とする水夜子に「貴女を優先するのだから」と言い含めるミザリィに「私をヒロインに仕立てて貰っては申し訳ありませんし」と水夜子は後方に下がりハリエットの傍に鎮座した。
「何か解りましたか?」
「ヒーラータイプは堅牢に輪を掛けてる。だから、今残っているのは全部ヒーラーだよ」
「成程」
 水夜子が頷けば、ハリエットはその情報はもう必要ないのだろうと引き金に指を添えた。撃ち抜く、その体がふわりと舞い上がったようにして消える。
 その刹那に滅びのアークが霧散する気配をヴェルグリーズは感じていた。
「滅びのアークそのもの、ですね」
 再度、リュティスが呟いた。終焉獣だからこそ遺体も残らない。塵芥もなにもない。
 だが、その場に漂った滅びのアークの気配だけが嫌になるほどに場にこびり付いているように思えたのだ。
「まさに終焉の使者、かな?」
「ええ、まさに、ですね」
 ルーキスに頷いてから冬佳は「厭な存在ですね」と消え失せていくちっさ君達を見詰めてぽつりと呟いた。
 その場には深々と静まり返った空気だけが満ち溢れていた――


「……少しだけ宜しいですか」
 そっと膝を付いてからミザリィは旅人の死骸に向かって語りかけた。
 このような場所で息を引き取ったのには何か理由があったのではないか。志半ばで冒険を終えたのであれば、その希望を聞いてやって上げたい。叶えられるのであれば叶えてやりたいと願ったのだ。
 霊魂の男は各地に旅をしたいと告げた。だが、その実力は伴わずこの砂漠で息を引き取ったのだ。モンスターに襲われた旅人がこうして人知れず亡くなることはよくあることだろう。
「なら、私が連れて行って上げましょうか」
「……みゃーこ?」
 あっけらかんと告げる水夜子に冬佳はぱちくりと瞬いた。冬佳はこの場所を拠点としていたのだろうと考えた。それだけ旅人の個人的な品が点在していたからだ。
「あなたは此処に住んでいたわけではなのですか?」
 冬佳の問い掛けに霊魂は『此処から動けなくなって此処を終の棲家とした』と言った。懐中時計を回収してからそれと共々此処で埋葬することをイレギュラーズは決めて居た。水夜子が連れて行くと告げた言葉には己に憑かせるつもりかという再現性東京らしい反応であったのかと驚いたのだが――
「何か、武器のようなものを借り受けて冒険に出ても良いですよ。守って下さればいいですし」
「はは、それは先達の加護を得るという事かな?」
 ルーキスが「よさそうだ」と笑えば愛無は「構わないが」とまじまじと見詰めた。大切であっただろう懐中時計は持って行けやしないが、武器ならば、考えたのだ。
「生きた証という事で借り受けても構いませんか?」
 穏やかに告げるリュコスの言葉を代弁するミザリィに霊魂は然うして欲しいと答えたのだろう。
「……それでは、ここで別れを告げますが、貴方の思いだけは私達がお預かりします」
 ミザリィは回収し、処理を終えたら懐中時計もここで共に、と告げた。パンドラ蒐集器というのは大抵の人々が大切なものを『そう』している。
「ね、ねえ」
 オバケというものは苦手だ。唐突にミザリィが壁に話しかけたのではないかとおっかなビックリしていたジルーシャがそろそろと近付く。
「あのね、ラベンダーの香りはお好きかしら。アンタが気に入ってくれるなら良い眠りになると思うわ。
 この懐中時計もパンドラ収集器になるくらい思い入れのある品で、きっとアンタとたくさんの冒険をしてきたのよね。
 もう狙われることはないから……安心して、どうか静かに眠って頂戴ね」
 オバケ相手では無くて、旅人を相手に。柔らかに声を掛けたジルーシャに『何か空気が揺らいだ』気がした。
 水夜子はその様子を微笑ましげに眺めてからふと、データを眺める。
(個体差はあるが、いずれにしても全て平均的と言える。本当にでっか君の能力が各々に分れているだけだったとすれば――)
 あの巨大な終焉獣は自己回復を行なう事が出来るのか。堅牢であるのは確かだろうが、攻撃力に劣っている可能性はある。
「……ご冥福を」
 静かに呟いたハリエットは彼の短剣を水夜子に手渡してからゆっくりと立ち上がる。
 何にせよデータを解析せねばならないかと水夜子はタブレットを仕舞い込んでから「さ、サンドバザールに行きましょうよ」と普段通りの笑みを浮かべて見せた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 ちっさ君達……沢山溢れ出すと、いやですね。

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