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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>2分の1の勇気

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 神威神楽からやってきた少女の名前はそそぎと言う。
 獄人の一人であり、此岸ノ辺の管理者で当代の巫女――の片割れだ。
 忌子とまで呼ばれた双子であったが、神威神楽の問題解決後に、少女は新たな選択を迫られた。
 そう、進路である。
 双子である『つづり』が巫女としてあの地を管理することを決めたとき、一度は呪術によって身を侵食された娘は思い悩んだ。
 父や兄代わりである霞帝や中務卿には「好きにしていい」「国を出ることも許す」とまで言われていた。
「でも、好きな事って分からない」
 唇を尖らせたそそぎに「好きなことだよ」とつづりは言った。双子なのに、どうしてこうも彼女はしっかりと進路が決まったのだろうか。
 ちっぽけな気分だった。好きなことなんてないのが獄人にとっての当たり前であったからだ。
「セーメーはなにがしたいの?」
「俺はもう中務卿でいい歳だが」
「ふうん。賀澄は?」
「俺ももう帝だからなあ。だが、そうだな、そそぎが決められないなら各国を見て回るのはどうだ?」
「それは……」
 正直、恐かった。
 卑踏やカラカサを思い出すと脚が竦む。それでも、つづりの為にと戦いの場に出ることはあった。
 シレンツィオだって、勇気が出たのは彼女が目の前に居たから。
 一人きりだというのは恐い。つづりと一緒で無くては――そう考えてから『双子離れ』が出来ていないことにも気付いた。
「そそぎ」
「……」
「もし、それが恐ろしいなら比較的安全な場所に行かないか?
 俺の生まれ故郷に良く似ていて、そして『最も安全』だと思える場所がある。
 晴明も訪れた事があり、文化圏も豊穣をベースにしてる所がある。馴染みやすく、そして新しい物も多い。学びになる」
「……それは、やりたいことじゃ、ないし……」
「そこで勉強するんだ。中学校に行けば良い。学生の身分になり、学び、つづりの力になれば良いだろう。
 そこで新しい何かを見付けたならばそれでも構わない。どうだ?」
「……じゃあ、そうする」
 はじめは霞帝が進めるが儘だったが、今になってみればそそぎにとっては再現性東京の――希望ヶ浜の生活は悪くは無い。
 途惑いながらも決めた。沢山の人とも話した。それから、此処に来て良かったと思えた。


「外の話、聞いてる。バグ・ホール? 穴? 大変だって。
 カムイグラもでしょ。……セフィロトのドームの外も、そうだって」
 比較的『外』に対して寛容である希望ヶ浜の住民は少ない。そうした人間をも駆り出して対応に追われているのは仕方が無い事だろう。
 セフィロト・ドームであろうとも危険がないわけではないのが問題だ。何か大きな問題が起こらないようにドームの外に出て終焉獣を斥ける者も増えてきた。
「わたしも協力しようと思う。別に、わたしは外に対して不快感はないし、元々、外から来てるし。
 それに、国だったらつづりも、賀澄も晴明も頑張ってると思う。わたしが安全な場所で伸び伸びしてたらダメだと思う」
 はっきりとそそぎは言った。幾分か大人びた巫女の娘は「呪術くらいなら」と豊穣から持ち込んだ札を手にしている。
「危ないって止めないでね」
 そそぎは静かな声音で言った。離れていたってつづりとそそぎは繋がっている。だから、片割れが頑張るなら自分だって――そう想ったのだろう。
「世界がどうにかなっちゃったら、つづりを此処に呼んで、遊園地に行く夢がなくなっちゃう」
 唇を尖らせてからセフィロト・ドームの外に出た。空調管理が為されたドームの外は冷たく肌を刺す空気に満ちている。
 ちらちらと降る雪の気配に顔を上げてから「……寒い」とそそぎは呟いた。
「寒い、けど、頑張らなくちゃ」
 そそぎは真っ直ぐにイレギュラーズを見詰める。
「手伝って。あのへんの、終焉獣をどっかにやる。
 わたしも頑張って戦うから、戦い方、おしえて。……わたし、連携とか下手なんだ」
 カムイグラの双子巫女。忌み子と呼ばれた一人の獄人。
 彼女の『選択』は――大切な故郷と片割れを守る為に知恵と実力を付けることだった。

GMコメント

●成功条件
 エネミーの撃破

●フィールド情報
 練達。セフィロトドームの外です。ちらちらと雪が降ってきており、周囲は海に囲まれています。
 空からやってきて、原っぱに降り立つ終焉獣を撃破することが今回のオーダーです。

●エネミー情報
 ・終焉獣『ずんぐり』 5体
 大きな翼を持った終焉獣達です。何故か大きな翼の生えたトリケラトプスを想わせます。
 的としては大きく、あまり機動力はありません。が、堅牢です。
 体当たりなどを得意としています。遠距離攻撃には優れないため地上に直ぐに降りて来ます。

 ・終焉獣『むっくり』 4体
 大きな耳で空を飛ぶ小型のゾウを想わせた終焉獣です。
 非常に俊敏で、幅広いレンジの攻撃を繰返します。一撃は重くありませんが複数回の攻撃を行なうようです。
 ずんぐりが地上に居るうちには距離をとって降りて来ません。避けることも得意です、が、飛んでいるうちだけです。
 地上に降りると途端に動きが緩やかになります。

●NPC『そそぎ』
 此岸ノ辺の巫女。由緒正しき豊穣の巫女――ですが、双子は不吉だと迫害されていました。
 様々な事を乗り越えて今は霞帝の計らいで練達に留学中です。
 希望ヶ浜学園中等部に所属しているので、顔見知りの方も居るかもしれませんね。
 戦闘はやや出来るようになりました。呪符を使った遠距離攻撃が中心です。
 連携などは下手くそで、兄代わりの晴明には「もう少し他人に興味を持つべきだ」とも言われています。
 皆さんとの連携をがんばりたいようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <グレート・カタストロフ>2分の1の勇気完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年02月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司

リプレイ


 天を覆ったドームの外に出れば、懐かしい香りがした。若草の上を転げ回って生きてきた少女にとって、セフィロト・ドームは狭苦しくて少し億劫だった。
 端から見れば狭い島国ではあるがそれでも少女にとっては自然豊かなあの世界が己にとっての一番だった。
 自分は何が出来るだろう。どうすればいいだろう。そんなことを考えて留学を決意した。そして、世界の変化を目の当たりにしたのだ。
「うー、しゃみぃー!」
 悴む両手を擦り合わせてから『音呂木の蛇巫女』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は白い息を吐いた。
「冬だし雪降ってるし、氷ばりに冷えてひえひえだー。そそぎんを温めてあげるしかないな! あっついウチがハグ役で! だめ? ダメか! ガハハ!」
「駄目」
 首を振ったそそぎに秋奈は「元気元気」とその頭をぽすぽすと撫でた。「ちょっと」と非難がましく言う彼女の目尻は赤い。緊張と、それから不安が滲んでいたか。
「そそぎさん、久しぶりだね。こんにちは。元気してた?」
「……まあね」
 ふい、と視線を逸らしたり。どこか途惑いながらも人を傷付けない言葉を選ぶ。それは実に彼女らしいのだと『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)は知っている。
「そんな顔しないでたしかに初対面みたいなものだけど」
「ちっ、違う。ただ、……結構、口が悪いって言われるから、気にして」
「はは。大丈夫。気軽にね。で、連携を学びたいんだね。とてもいいことだね。俺みたいな初対面相手でも合わせられるようになったらいい感じになるよ」
 史之は戦場では誰と合わせるかは分からないからね、と告げた。学生証を首から提げセフィロトの関係者である身分を表しているそそぎをまじまじと見詰めてから「今園……」と『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)は呟いた。
「賀澄の苗字。此処では一応、縁者扱いして貰えるし」
「……そう、ですか。良いこと、ですね。そそぎさまがご自分で見つけた、やりたい事……ええ、お手伝い、させて下さい」
 えいえいおーと拳を振り上げてみせるメイメイにそそぎも倣うようにそろそろと腕を振り上げた。彼女の苗字と、それから今を見ていれば微笑ましい。
 霞帝はまだ年若い巫女を守る為に自らの苗字を名乗らせ『豊穣郷の重鎮である』と示したのか。それが権力者の出来る縁者の守り方だ。
(……沢山の方に愛され、育まれた方。
 ……双子巫女のおふたりを大切に想う晴さまを見てきたから、自身で答えを導き出した、そそぎさまの成長が、わたしも嬉しい)
 彼女は随分と大人びた。にんまりと笑う『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が「そそぎちゃん」と手を振って走り寄ればそれに答えて「何よ」とつんけんどんに返してくれる程度には人と話すことにだって慣れてくれたのだ。
「練達を、ここで暮らしてる皆を守りたいって思ったんだよね。うん! それが今そそぎちゃんのやりたいことなら、全力でお手伝いするよ!
 これから先、もっともっといっぱいのやりたいを見つけるためにも、ここは守り通さないとだもんね!」
『やりたいこと』は山ほどあるのだ。だからこそ、守り抜かないと行けない。守れば何か変わるとそそぎだって信じている。
「私は頑張る人の味方だよ! そそぎさん、分からないことがあったらなんでも聞いてね。
 それに、連携が苦手だって自覚しているなら直すのは簡単なはず!
 皆の動きを見たり、言葉を聞いたりして少しずつ学んでいけばいいかなって思う」
 落ち着いて学ぶ時間が無いのは少し困った話だけれど、と。『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は困ったように笑う。
「実践の方が、いいのよ」とそそぎは言うが、指先がかたかたと震えていた。実戦経験が乏しく、その上で『何かを喪う可能性に直面した時だけ戦ってきた』という彼女にとって、戦場に出ることは重く苦しい事だった。
『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はじいとそそぎを見てから「そそぎ」と呼ぶ。
「緊張した時の対策としては、雄叫びを上げて地面をダァンと踏みつけるとイイよ! 声が出て足が動けばショウブは仕掛けられる!」
 軽やかな青年の声にそそぎはぱちりと瞬いてから「出来るわよ」と鼻を鳴らした。少し、緊張が解けたのだ。


 危ないって止めないでね、と。彼女は言った。双子のかたわれと遊園地に来て街歩きをして。そんな事を目標にして居たのだ。
『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)と『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)にとってその変化は何よりも嬉しい。
「誰が止めるものか。そそぎ。自由を得た今、再び選ぶその戦うという選択こそが尊いのだと……だと……
 もうだめじゃあ~、立派になりおってからにぃうぉんうぉん! 我は嬉しいぞぉ~!」
 感極まって泣き始めるクレマァダの傍で目頭を押さえ「ああ、そそぎも逞しくなったなあ……あ、目頭が熱く…」と呟く風牙。
「クレマァダ! 風牙! わたしは、子供じゃ無い!」
「じゃ、じゃが……嬉しいんじゃぞ」
 姉気分で見守ってきたクレマァダに悪い気はしない。風牙だって、本当に信頼できる相手だと自分を見てくれているのだろう。
「ん、よし! それがそそぎの「今やりたいこと」だっていうなら、全力で応援する!
 一人の『戦友』として、一緒に戦おう! いくぜそそぎ! 世界を、未来を護りに!!」
「風牙も、クレマァダも泣いてて転ばないでよ」
 ほら、恥ずかしそうにそっぽを向く彼女は何時も通りだ。そそぎの安全第一で傍に立っているスティアは「よく見て居てね」と微笑んだ。
 終焉獣を見て「ずんぐりむっくりしてる」と言ったそそぎに従うように一方は『ずんぐり』、もう一方は『むっくり』と呼ばれている。
「じゃあね、そそぎさん、まずはずんぐりから倒していくよ。そのあとむっくりね」
 前線に出る史之は「誤爆しないように気をつけてね。打つときはよく狙ってね」と告げてからぴたりと立ち止まった。
「俺じゃないよ? 敵だよ?」
「……あ」
 驚いたような顔をしたそそぎに史之が「リラックス」と告げた。地上に降りて来ているずんぐりに勢い良く肉薄したのはイグナート。
 ずんぐりたちを地で倒しきればむっくりたちも降りてくるはずだ。後衛側に抜けられないようにとイグナートの視線が一度後方へ。
「おけおけ! 雪積もってんねー? 雪合戦したいけれどさ! ま、それは後のオタノシミ的な?
 そそぎん楽しそうすぎね? ほんとかわわ! と思うわけよ。それはそれとして! やっつけるの始めてみっか!
 私ちゃんらになら、きっと、それができるはずだから――雪合戦したいけど! というわけでー戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! いざ参る!」
 雪を踏み付けて、秋奈が前線に飛び込んだ。敵を討伐、あとは流れで、とさらりと告げる秋奈に「どういうこと!」とそそぎが慌てた様に声を上げた。
「地上からって事だよ。そそぎ、支援頼む! あと、空の敵から注意を離すなよ!
 ……焦らなくていい。深呼吸して。オレ達仲間を信じろ。オレも、お前を信じてるぞ」
「難しい、がんばる」
 風牙は任せたぞと笑った。秋奈が惹き付ける終焉獣達へと槍を向ける。その真剣な眼差しに焔にこりと笑った。
「焦らないでね。連携ってのは……うん、ボクも気付いたら何となく出来てたんだよ。だからまずはボクの方で合わせるからね!」
「焔や風牙を見てれば良い?」
「うん。前に行った秋奈ちゃん達もそうだよ。皆の動きが一体になれば勝てる!」
 焔の瞳がきらりと輝いた。そそぎの動きに合わせるならば彼女の行動の後が良い。
「連携……基本は、役割分担、でしょう、か。誰が、どんな動きをするのか。
 他の人の事も、自分の事を知るのも、大事、です。わたしも、まだまだ手探りですけれど……」
 慌てなくても良いと告げるメイメイに「やってみる」とそそぎが攻撃を放ち、焔がそれに合わせる。まじまじと見詰めていたクレマァダは仲間達を巻込まぬように叩き込み、波濤の魔術の気配をその身に宿す。
「とまあ、基本は味方を巻き込まないことじゃなあ。連携は下手と言うが、我もあまり上手くはないのじゃよなあ」
 そそぎを守る為に他の対象にも目を光らせるスティアに、そそぎの攻撃その物を支えるクレマァダと焔。フォローを行なうスティアに任せることもこれまた『連携』なのだと告げてからクレマァダは迫り来る終焉獣を真っ向から見据えていた。


「うぇいうぇい! ウチらしか勝たんニューイヤー!」
 楽しげに言葉を響かせて。溌剌とした秋奈の表情とは裏腹に刀を握るその手は傍若無人に動き回る。
 前線を蹂躙する秋奈を見れば、そそぎは「すごい」と呟くだけだ。
「そそぎんはかわいいからなー?」
 狙われてしまわぬように。秋奈が後方を見た。「すちー」と呼ばれたスティアが頷く。『もしも』が内容に振る舞うのも『パイセン』の役目なのだ。
 ずんぐりたちを相手にしながらも、風牙が背を向けていられるのはそそぎの肩にファミリアーを置いていたからだ。
 彼女がリラックスするように促して、何かあればサポートが出来るようにと気遣った。それは信頼をして居ないからじゃない。
 何よりも彼女が大切だからだ。
「厄介な奴らだな。地上に引き摺り下ろしてやろうぜ」
「はい」
 こくりと頷いた。乙女の勘を利用して、上空の動きを警戒していたメイメイは神翼の加護を――いいや、可愛らしい(╹v╹*)を顕現させて攻撃を繰返す。
「そそぎさま、最後にその呪符で仕留めて下さい…!」
「わかった」
 その愛らしさに目を奪われて等居られまい。メイメイの指示に従って、スティアのサポートを受けながらそそぎは的確に終焉獣を蹴散らして行く。
(よし、よくやった……!)
 心の中でガッツポーズをする風牙にイグナートは楽しげに笑った。『ミンナで的確に一体ずつ倒す』を心掛けている。
「オレは後衛との連携はトクイじゃないけれど、出来るだけそそぎが戦いやすいようにするってのも面白いね!」
 これも戦い方を更に考える機会になるか。イグナートに「わたしの、この戦い、無駄じゃ無い?」とそそぎは震える声で聞いた。
「え?」
「……足を引っ張ってないかなって」
 呟くそそぎにイグナートはぱちりと瞬いた。傍に居た史之が可笑しそうに笑う。ああ、きっと、彼女はそんなことばかりを心配していたのだ。
「大丈夫だよ。よくやっている。
 ああ、そうそうつづりさん。うっかり誤爆しそうなときはこうやって他のスキルを使うのもいいよ。練習する? やってみる?」
「……やってみる!」
「その連携を俺達もして、学びになるから。だよね?」
「モチロン!」
 前線を行くイグナートと史之の言葉にそそぎの表情が晴れた。その顔を見てからスティアはにんまりと笑う。
「じゃあ、そそぎさん、ここからも頑張ろう!」
 やる気を漲らせるスティアにそそぎは大きく頷いて。
 地を走る終焉獣を追い遣った。空より来たる其れ等を一瞥していたスティアがむっくり達から視線を逸らしたのは地のずんぐり達の数が漸く減ったからだ。
「例えばほれ、風牙なぞ。
 お主を絶対傷つけぬように立ち回っておるから、正面は堅い。故に敵はそれを躱そうとするから、こちらに集まる。
 そこに叩き込む。のう?」
 そのやり方は分かる。後衛に居るそそぎに攻撃が飛ばないようにと風牙が気をつけてくれていることは分かる。
 けれど、クレマァダのその言葉には妙な気恥ずかしさが浮かんで仕方が無いのだ。そそぎは「そ、そうねえ」と唇を震わせてから困ったように視線を逸らした。
 ――如何すれば良いのか教えて貰ったのに、風牙が『絶対傷付けぬように立ち回る』という言葉だけで嬉しくなったのだ。
 その人は、家族のように思って居た。「そそぎちゃん、こっちだよ!」と笑う焔の事も、クレマァダの事も。
 それだけ大事にしてくれている人が居るのだ。だから、頑張る勇気になる。
「わたしは、風牙や秋奈が集めたところに、叩き込む」
「その通りじゃ」
 クレマァダは頷いた。彼女のように圧倒的に全てを消し飛ばすことは出来ないけれど。メイメイのように細かな部分を見詰める事も、焔のように『どの様に動くか』のレクチャーを出来るほどにそそぎは戦いに離れていない。
「焔」
「どうしたの? そそぎちゃん」
「次は、あそこを狙うから」
 見ていてほしいと思った。焔が『吹き飛ばさない』ように気を遣って、射線にまで注意してくれていることには気付いた。
 だって、戦いやすかった。スティアが庇ってくれる。秋奈が全ての敵を巻込んで、イグナートや風牙、史之が此方には進ませぬようにと選んでいる。
 周辺対応を確認してくれるメイメイも、此方に気遣ってくれるクレマァダも。誰もが自分が戦いやすいようにしてくれている。
(でも、それがお客様のような状態じゃ、駄目なんだ)
 そそぎはすうと息を吸ってから「焔、こっち」と静かに言った。走る脚が縺れぬように、そそぎが符を手にする。魔力を乗せた。
 終焉獣が顔を上げる。その隙に焔の炎がその首を裂く。消え失せる終焉獣の代わりに飛び込んだか、もう一体を風牙の槍が弾いた。
 弾かれた隙にクレマァダが潮騒の気配を纏い叩き付ける。「おっけぃ」と秋奈は笑う。
「入れ食いじゃあ」と声を上げて笑った。楽しげな秋奈に頷く史之とイグナートは全ての殲滅を心掛けた。
「上だよ!」
 スティアにそそぎは頷いた。この人は何れだけ傷付こうとも、屹度、前を向いて笑っていられる。
 強い。強い人だ。そそぎだって、何も持っていないわけじゃない。巫女として育った教養がある。ただ、それだけでは戦えない。
 この人達のように前を向きたいから。何があったって、自分がこの場所を守ったと――昨日の自分に誇りたい。
「まかせて、わたしが倒す」
 そそぎはすうと小さく息を吸った。一人分の勇気をここには持って来れなかった。『かたわれ』がいないから。でも、はんぶんこでも――きっと大丈夫。
「見ていて」
 見ているよ、と風牙が返した。大丈夫だよ、と焔が笑った。
「そそぎ!」とクレマァダの呼ぶ声がする。俯いているだけの女の子じゃ、なくなるから。
 光の下に飛び出すように符に満ちた魔力は終焉獣を撃ち払った。


「どうだったそそぎさん。ひとりじゃない、みんながいるってのは。
 ……俺たちみんなそそぎさんのために集まったんだよ。あなたの熱意は届いているよ。
 だから安心して――カムイグラの未来のためにもこれからがんばろうね」
 史之をじいと見詰めてからそそぎは俯いた。きっと、自分は出来る事は少ないのだ。彼らの様に前を見据えて進むことだって恐ろしい。
 けれど、そんな彼等が応援してくれるのならば、きっと大丈夫だ。
「どうしたの?」
 スティアは真っ直ぐに見詰めてきたそそぎにこてりと首を傾げた。不思議そうな顔をしたスティアを見たのは彼女が傍に居たからだ。
「わたしの戦い方は、どうだった?」
「ん。そうだねえ、そそぎさんはどうだった?」
「わたしは……熱意を感じて貰えたならうれしい。でも、悔しくもある」
「そうだね。それは大事なことだよ。でもね、自信を無くしちゃだめなの。
 自信を持つのは大事だし、その為に振り返りもとっても勉強になるよ! 私で出来るアドバイスがあるならなんだってするしね」
 えへんと胸を張った彼女に「ありがとう」とそそぎは小さく返した。まだまだ素直になれない自分だけれど、進む道はあるはずだ。
「ま、こういう戦いの道もひとつの選択肢ではあるけどな。……で、どうだ? この道に進んでみるか?」
 風牙が問い掛ければそそぎはどこか神妙な顔をして「つづりを、守るという意味なら」と静かに言った。
「ははーん? なぁるほど。そそぎん、戦いたくは無い?」
「クレマァダとか、心配しちゃう」
 秋奈は「確かに?」と笑った。「すちーと私が何時でも居るわけじゃあないからねん」と言う秋奈にスティアがこくりと頷く。
 クレマァダが「そ、そんなに心配はせんが!」と言うが危機迫るそそぎを思えば慌ててしまうのも禁じ得ない。
「お疲れさまでした、そそぎさま……見て下さい。貴女が、守った場所、です、よ。
 敵も退けました、し、此処は寒いです、から。ドームの中に戻って暖かいものでも、飲みましょう、か」
 メイメイがそっとその肩にショールを掛けてからにこりと微笑んだ。
「そうだね。寒いよ! 皆で遊びに……じゃなくて、反省会も兼ねてご飯とかいこっか!
 そそぎちゃんがこっちでどんなことしてるのかとか、他にもやりかいことがないかとか。色んな事いっぱいおしゃべりしたいし!」
 焔をじいと見たそそぎは「いいけど」とぽつりと呟いた。
「よし、そそぎ! 打ち上げに行こうよ! 勝利の美酒をイッショに味わうのも大事なことだからね! そそぎはノンアルでね!」
 イグナートに肩を叩かれてからそそぎは「わたしの方がお店知ってるんだから、案内させて」と唇を尖らせた。
 誰かの役に立ちたいと願った少女の大いなる一歩。もしも、将来の道を今決めるというならば。
 少しだけ待っていて――もう少しだけ、皆の傍を走り抜けていきたいの。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 豊穣の一件が終ったことも知ったそそぎは「じゃあ、あとは混沌が平和になればつづりと遊べる」と言ったそうです。
 その時は皆で遊園地に行きましょうね。

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