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シナリオ詳細

<悪性ゲノム>胞子の王国

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある子供達の話
「イレギュラーズだ! 覚悟しろ!」
 ――いつの世も、子供達の心をつかむのは、英雄である。
 それは男女を問わず、子供達の憧れであり続けるものだ。
 ここ最近の子供達にとっての英雄とは、イレギュラーズと呼ばれる者たちだ。
 幻想を蝕みし、邪悪なるサーカス団を壊滅させた英雄。
 幻想の人々を一つに繋ぎ、暴虐なる魔種を退きし先導者。
 この村に住む子供達にとってもイレギュラーズとは英雄であったし、広場で自身をイレギュラーズに見立てて体を動かす――いわゆるごっこ遊びも、子供達の日常であった。
「そーいやさ、森に変なトカゲが出たって知ってる?」
 そんなイレギュラーズごっこの最中、一人の少年が声をあげた。
「変なトカゲって言うか、あのウスノロがきょうぼうになった、ってお母さんが言ってた」
 別の少年が答える。ウスノロ――森を遊び場にする少年たちに名付けられた、原生のトカゲである。この地方には広く生息している大型の爬虫類であり、子供達にウスノロと呼ばれる通り、のんびりとした気性を持つ、鈍重な生物である。
 肉食性ではあるが、その獲物は概ね昆虫や超小型の動物の類であり、少なくとも人間にとって害になるような生物ではない。
「きょうぼうってなに?」
 少女が首を傾げた。
「そりゃお前……がーって暴れる事だよ」
「暴れるの……?」
「暴れるけど……でもウスノロだろ? 何でそんなことで森に入っちゃいけないんだ?」
 子供達にとって、ウスノロ達は害たりえない。ウスノロが脅威たりえることなど、想像の外の事なのだ。
「大人はビビりだからさ。ちょっとでも変な事があると、すぐ禁止するんだ。……あ、でもさ、そのウスノロ退治に、イレギュラーズを呼んだって話だぜ?」
 イレギュラーズ、という言葉に、子供達は色めきだった。
「マジで? 今? どこにいるの? やっぱ村長(ジジィ)ん家?」
「そ。でも、邪魔になるからとか言って、俺らが来ないように見張ってやがんの」
「えー、私もイレギュラーズさんとお話ししたいのに」
「ずりーよな。きっといろいろ面白い話とか聞いてるんだぜ……」
 期せずして英雄たちが身近に現れたという興奮と、自分達を封じ込める大人たちへの怒りがない交ぜになって、子供達を高揚させていた。憧れの言葉と文句の言葉を口々に言い合っていた子供達であったが、その中の一人の少年が、良い事を思いついた、とでもいう風に、口を開いたのである。
「あ。そうだ。イレギュラーズ達が大人と話してるうちに、俺達でウスノロをやっつけちゃおうぜ」
 突然の提案――しかし、集団の熱気に浮かされていた子供達にとって、それは魅力的な提案に思えた。
「そうだよ、だってウスノロだぜ? 大人たちはビビってるけど、あんなの怖くねーもん」
「それでやっつけてさ、イレギュラーズさん達に報告するんだよ。絶対褒めてもらえる。勇気ある、ってさ。それに、もしかしたら、俺達もイレギュラーズの一員にしてくれるかもしれない」
「やったじゃん!」
「凄い! えへへ、私も皆と一緒にましゅをやっつけたりできるんだね!」
「じゃあ、決まりな! さっそくいこうぜ。あ、ちゃんと武器と防具は持ってくるんだぞ!」
 子供達はそう言って、一度解散した。
 数十分後、各々『最強装備』で武装した子供達が、意気揚々と森へと向かって行ったのである。
 子供達を責める事は出来まい。
 この時、彼らの常識の遥か外、子供達にはとても想像もつかぬようなおぞましいモノが、この村を襲っていたのだから。

●キノコトカゲ
「た――大変だ!」
 村長宅に男が駆けこんできたのは、依頼を受けたイレギュラーズ達が、村長らと事前の打ち合わせを行っていた時である。
 そもそもの発端は、幻想の西部にある、とある山村にて起きた事件である。
 この近辺に生息している野生の大型爬虫類、メフトオオトカゲは、2m近い全長の、まさにオオトカゲと言った風情であるが、性質は非常に温厚、のんびり屋で、肉食ではあるものの、その鈍重さから狩りなどできず、もっぱら死肉や、動きの遅い昆虫や等を取って食う、ある意味で付近の風物詩ともいえる存在であった。
 だが、ここ数日、そのメフトオオトカゲに異変が発生したという。目撃証言によれば、体長はさらに一回り大きく、筋肉なども肥大化し、手足の爪や牙なども恐ろしく巨大化。どこか愛嬌のあった顔は醜く、そして濁った瞳へと変貌を遂げていたのだという。
 中でも異常性を際立たせていたのが、全身にびっしりと生えた、菌類――キノコのような物だ。絶えず胞子のような噴煙をまき散らかしており、遭遇者は、誤ってその胞子を少し吸った際に、とてつもない息苦しさと脱力感を覚えたという。慌てて逃げ出す最中に後ろを見てみれば、その胞子を吸ったためか、一羽の鳥が落下してきて、それにメフトオオトカゲがかじりついていたとか。
 余りにも異常な変貌――突然変異とでも言うべき状況に、村ではイレギュラーズへ助けを求める事にしたのだ。
「ど、どーしました? まさか、キノコトカゲが襲い掛かってきました?」
 気まぐれから、イレギュラーズと共に山村へとやってきた『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)の言葉に、男は荒い息を吐きながら、
「ち、違う……子供達だ! 子供達が森に行っちまった!」
「な、なんと……!」
 イレギュラーズと同じテーブルについていた老齢の村長が、思わず声をあげた。
「子供達には森に入るなって言ってたんだが……すまねぇ、目を離した隙に……」
「……マズいですねぇ」
 むむ、と、ファーリナが唸った。言うまでもなく、今の森は、危険だ。狂暴化したメフトオオトカゲの物理的な脅威はもちろん、件のトカゲは、大人ですら近寄っただけで体調をおかしくする謎の胞子をばら撒いているのである。体力のない子供が相手では、この胞子がどう影響するか、分ったものではない。
「……子供達の事は、我々の責任です……! ご迷惑をおかけする事になってしまい、申し訳ない……!」
 村長は絶望を隠さず、そう言って頭を下げた。
「依頼は……依頼そのもは変わりませぬ。異常なトカゲを討伐してほしい。トカゲさえ駆除していただければ、報酬は満額お支払いいたしますことを約束します」
 ですが、と、村長は血を吐くような面持ちで、付け加えると、
「可能であれば……可能であれば、で構いませぬ。どうか……どうか、子供達を……!」
 強く、強く、テーブルに打ち付けんばかりに、頭を下げた。
「……私からは、どうしろとは言えません。体はるのも、命はるのも皆さんですからね……二兎追う者は一兎をも得ず、ってどっかの世界では言うらしいですし。この事件の結末がどう転ぼうと、それは一つの結果です」
 ファーリナはそう言ってから、ニッ、と笑うと、
「ですが、皆さんなら、ちゃっかり二兎狩ってくる、って信じてます。……ご武運を!」
 そう言って、ファーリナはイレギュラーズ達を送り出したのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 山村の危機であり、子供達の危機です。
 異常な生物を撃退し、この地に平和をもたらしましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度は『B』です。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●成功条件
 異常化メフトオオトカゲの撃退
 (子供達の生死は、成功条件に影響しないものとする)

●舞台について
 幻想西部、とある山村にある森の中です。
 時刻は昼。当たりは明るく、森林内行動に関するペナルティも特にない物とします。
 森林内には、異常化メフトオオトカゲが徘徊しています。
 また、6人の子供達も森林内を彷徨っています。
 トカゲ、子供達、そのどちらも森林内のどこにいるか、どのように行動しているかなどは不明です。
 そのため、トカゲとの戦闘中に子供達がやってくる可能性もありますし、子供達を救出している最中にトカゲがやってくる可能性もあります。

●エネミーデータ
 異常化メフトオオトカゲ ×1

 特徴
  硬い鱗による非常に高い防御力
  通常では考えられない、異常に高い生命力
  非常に低い運動性・亀のように鈍重
  物理属性攻撃のみを行い、神秘属性の攻撃手段を持たない

 特殊スキル
  ファンガス
   パッシヴスキル。異常化メフオオトカゲの行動開始時に強制発動。
   自身を中心とした半径5m以内に存在する、異常化メフトオオトカゲを除く全ての生物を対象に、特殊抵抗判定を行う。
   判定に失敗した場合、猛毒&苦鳴を付与する。
   体に生えた『キノコの胞子』による攻撃の為、対策できると思わしきスキル・アイテム・戦法を用意すれば、特殊抵抗判定にその程度に応じた有利を得るか、付与されるBSが1ランク下がるものとする。

●NPCデータ
 子供達 ×6

 特徴
  一般的な子供
  メフトオオトカゲの攻撃には耐えられないだろう。(耐えて1、2撃)
  メフトオオトカゲの放つ胞子には耐えられないだろう。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加お待ちしております。

  • <悪性ゲノム>胞子の王国完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月06日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ユーイリア=ク=ジャイセ(p3p000309)
天の愛し子
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
アベル(p3p003719)
未来偏差
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼

リプレイ

●胞子の森で
「ラッド君! マールちゃん!」
 『運を味方に』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の声が、深い森へと吸い込まれていく。
 イレギュラーズ達は、二人一組の4チームに分かれ、広大な森の探索を開始した。子供達の事を考えれば、時間との勝負である。
 シフォリィは再び、子供達の名前を呼んだ。反応はない。焦りと疲労から、額に汗がにじむのを自覚した。
「……やっぱり、そう簡単には見つからないわね」
 『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)が言う。森は広い。だが、急がねば、子供達が『トカゲ』に遭遇する可能性もある。
 エスラはファミリアーとして小鳥を呼び出した。空へと飛ばし、辺りを遊よくさせる。
「まだのろしもあがっていないみたい」
 のろし――トカゲ・子供達の発見を知らせるための合図は、未だ放たれてはいない。
「このまま南の方を探しましょう」
 シフォリィが頷いて、言った。2人は探索を再開する。

 なにがしかの異常を、子供達は感じ取っていた。
 それは本能的な物か、或いは日頃からこの場を遊び場としているが故に見つける事の出来た、小さな違和感だ。
 だが好奇心と油断、そして功名心が、それを塗りつぶした。
 子供達は、森を行く。

「――死骸だ」
 『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)が声をあげた。口元を大きく覆うマスクに手をやりながら、目にした鹿と思わしき死体を調べるため、膝をつく。
「オオトカゲの仕業、でしょうか」
 『天の愛し子』ユーイリア=ク=ジャイセ(p3p000309)は、ラルフの肩越しにその死骸を見つめながら、問いかけた。ラルフは「そうだろうね」と返した。
「食べ残しだろうな。みたまえ、肺組織に――」
 言いかけて、ラルフは一つ、咳払いをした。
「いや、見ない方がいい。些かショッキングだ」
 その言葉に、ユーイリアは従った。目を背けつつ、辺りを警戒する事にする。
「簡単に言えば、肺が胞子で埋まっている。胞子で溺れたのだ」
「それが、窒息の原因……」
 思わず顔をしかめるユーイリア。自ら肩を抱き、身震いした。対策を施していなければ、自分達の肺も侵されていたのだろうか。流石にぞっとする。
 同時に、何も準備をしていないであろう子供達の事を思う。手遅れになる前に、見つけ出さなければ。
「……子供達の事をしっかりイメージできれば、ギフトで見つけられたのですが……」
 ユーイリアの言葉に、ラルフは首を振った。
「適材適所だよ。君のギフトは、仲間達の位置を把握するのに一役買っている。……では、探索を続けようか」
 ラルフの言葉に、ユーイリアは頷いた。ラルフは微笑で返しつつ、しかしその瞳は鋭く、鹿の死骸を見つめていた。

 ここは私達の王国。
 私達は此処で生き、殖え、栄える。
 眼前に、生物がいる。
 私達の王国。その活動には、エネルギーが必要だ。
 王国に必要なエネルギーを得るためには、生物の死骸を得る必要がある。
 私達は、手助けをしてやる。そうすると、生物は苦しみだし、生命活動を停止する。
 その屍をエネルギーとし、私達の王国は活動し続ける。
 ここは私達の王国。
 永遠に続く、私達の世界。

「消えた……!」
 『破片作り』アベル(p3p003719)が声をあげた。ギフトにより作成した自身の分身が、何らかの理由により消失したのだ。
「子供達が見つかったんですか?」
 『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)が尋ねる。
「いえ……」
 アベルは頭を振った。
「まだわかりません。ですが、何かがあったのは確かです」
 アベルはそう言って、ある方向へと視線を移す。
「あっちです、行きましょう」
 アベルの言葉に、ノースポールは頷いた。駆け出す。
 草木をかき分け、泥を踏みしめ、二人は森を駆け抜ける。しばしの時間。走り抜けたその先で、それは2人の目の前に姿を現した。
「――ッ!」
 ノースポールが、息をのんだ。
 巨大なトカゲである。
 だが、外見は一般的な生物の物と言うよりは、フィクションなどで描かれる、恐竜や怪獣といった趣が強い。巨大な口からは白い息を吐きだし、牙の合間から滴り落ちる粘性のよだれが、生理的な嫌悪感を抱かせる。
 眼は巨大ではあるが白く濁り、うっすらと見える黒目は焦点を合わせていない。
 そして、身体の至る所にびっしると生えた細長いキノコが、ゆらり、ゆらりと揺れている。
「なに、アレ……」
 ノースポールが、思わず呻いた。
「本当に、生きてるの……?」
 直感的な物ではあったが、そのトカゲからは、およそ生命の息吹を感じられなかった。まるで人形か、或いは死体が動いているかのような違和感。それはアベルも、同様のおぞましさを感じていた。
「ポーちゃん、のろしをお願いします!」
 アベルが叫ぶ。トカゲのおぞましい雰囲気を吹き飛ばす様に。そしてノースポールもまた、その叫びにより拘束を解かれたように、動き出した。
 ふところから発煙筒(のろし)を取り出した。火を点けて放り投げると、黄色い煙がもくもくと空へと昇る。
 それを見上げるように、トカゲが首を振った。
「アンタの相手はっ!」
 アベルが銃を抜き放った。放たれた一撃がトカゲに突き刺さる。だが、悲鳴、或いは痛みに反応するような仕草は見受けられない。
 ダメージになっていないのか。それとも――。
 トカゲはゆっくりと歩みを進めた。どし、どしと歩むごとにゆらり、ゆらりとキノコが揺れ、煙のような胞子がまき散らされる。
「こっち! 私達が相手だ!」
 ノースポールが手にした『メアレート』で殴りかかる。打撃はトカゲをとらえるが、皮膚、鱗により防御したのか、やはり今一つの反応を見せない。
「ちいっ! 効いてるんだか効いてないんだか、よくわかりませんね……!」
 アベルが舌打ち一つ、銃撃を繰り返す。鱗に弾かれ・あるいは直撃するも、トカゲはのそりのそりと歩みを止めない。
 トカゲは身体を震わせ、ぼわり、と大量の胞子をまき散らした。ノースポールが胞子に包まれる。埃のようにゴーグルにこびりつく胞子を指で拭い、
(対策してなかったらとんでもないことになってたなぁ……)
 胸中でぼやくノースポール。もし無策で戦っていたならば、おぞましい事になっていたに違いない。
 胞子の噴煙を切り裂いて、トカゲのしっぽが力強く振るわれた。鞭のような、或いは横薙ぎの斬撃のようなそれは、ノースポールの体をとらえ、強烈な一撃を食らわせる。
「う……うっ!?」
 ノースポールがうめき声をあげた。

「ジェイク様、のろしが上がりました」
 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が声をあげる。静かに、しかし緊張の色を含ませて。
「そうか、つーことは」
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)の言葉に、幻が頷き、
「はい。トカゲと遭遇したようですね」
 その言葉にジェイクは頷き、視線を前へ戻した。
 その先には、村の子供達の姿がある。
 超嗅覚により、子供達の匂いをある程度嗅ぎ分ける事のできたジェイクは、見事子供達の姿をとらえることに成功したのである。
「よし、緑ののろしを頼む!」
 ジェイクの頼みに、幻は頷いた。懐から発煙筒(のろし)を取り出し、放ると、緑色の煙が空へと立ち上る。
「さて……」
 それを見届けると、ジェイクは子供達を睨みつけた。子供達はおびえたように、身をすくませる。出発までの自信は何処へやら。とは言え、流石に大人――しかもイレギュラーズだ――に睨まれては、こうなるのも仕方はあるまい。
「良いか、テメェら。テメェらのやった事は、ダメな事だ」
 ジェイクの言葉に、子供達が改めて身をすくませる。ジェイクは唸りつつ、
「準備もせず、相手も知らず――戦いに出るのは失策だ。油断して戦場に出れば、後は死ぬだけよ」
 ジェイクの迫力に、涙目になる子供達。幻は苦笑を浮かべつつ、
「ジェイク様も、貴方達を心配してこう言っている……という事は分かりますね?」
 その言葉に、子供達はブンブンと頷く。
「なら、結構です。お説教は、この後のお楽しみにしましょう。さて、まずは村に戻りますよ」
「で、でも」
 幻の言葉に、子供達が声をあげた。
「他のイレギュラーズさん達、戦ってるんでしょ?」
「そうですね」
「僕達だけで帰れるから、お兄さんたちは助けに――」
「だめです」
 と、幻は首を振った。
「今やここは、危険地帯の真っただ中です。そんな中に君達だけを放り出すなど、出来るはずがありません。仲間達は心配ですが――」
 幻の言葉を、ジェイクが引き継いだ。
「俺達はプロだ。引き際は分かってる。……俺達を心配してくれるなら、きびきび歩け。お前らが無事に帰ったってわかりゃあ、俺達も全力で戦えるってもんだぜ」
 ジェイクの言葉に、子供達は頷いた。村へと向けて、二人と子供達はゆっくりと歩き出す。
「……とはいうものの、心配ではあるな」
 子供達に聞こえぬよう、ジェイクは静かに言った。幻はゆっくりと頷くと、
「今は仲間を信じましょう。子供達を無事戻らせるのが、今の僕達の役目です」
 そう返した。ジェイクは頷く。
「おら、行くぞテメェら! 転ぶんじゃねぇぞ!」
 内心の不安をかき消すように、ジェイクは子供達に向けて、声をあげた。

●王国の崩壊
「いかんな……! シフォリィ君、奴の足を止めるぞ! 2人は援護と、ノースポール君達の治療を頼む!」
 ラルフ&ユーイリア、そしてシフォリィ&エスラのチームは、トカゲ遭遇ののろしの上がった地点で合流。そこで見たものは、強かに痛めつけられたアベル、そしてノースポールの姿であった。
 流石に二人のみで抑えきるのには無理があったか――対策を講じていたとはいえ、じわじわと体を蝕む毒素も、二人の体力を削ぐ原因であった。
「はぁぁぁっ!」
 シフォリィの気合の声と共に、しかし華麗に舞うかのような刃の乱舞が、トカゲを切り刻む。身体中に傷を作り、体液と思わしきものがしみ出すものの、トカゲは濁った瞳をシフォリィへと向ける。
「くっ……面妖ですね……!」
 泡立つようなおぞましさを感じ、シフォリィが思わず声をあげる。
 ラルフが左腕の義肢から、激しく魔力の炎を迸らせた。まさに、文字通りの『灼滅の腕』――炎がトカゲの体を舐めまわす。そしてその時初めて、トカゲが明らかな、忌避の反応を見せた。
「やはりか……!」
 ラルフの言葉に、
「何か分かったのですか……?」
 シフォリィが尋ねる。2人は武器を構えつつ、油断なくトカゲを見据え、
「オフィオコルジケプス科……昆虫寄生菌だ」
 その言葉に、エスラが息をのんだ。
「冬虫夏草……! セミタケやクモタケって言うのも聞いたことがあるわ。でも、トカゲに寄生するなんて……!」
「うむ。本来ならあり得ん事だ。そもそも冬虫夏草の類は、寄生した生物を養分にする程度……だが、奴は明らかに、炎に対する忌避感を見せた」
「……こっちの攻撃は、ほとんど無反応……でも炎は、『背中のキノコに被害が及ぶから嫌った』……守らせた、って事ですか……」
 ラルフの言葉に、声をあげたのはアベルだ。身体を走る痛みに顔をゆがめつつ、体を起こそうとする。
「いけません! とてもではありませんが、戦闘に復帰できる傷では……!」
 ユーイリアの言葉に、アベルは苦笑しつつ頷いた。
「早々にリタイアしちゃってすみませんね……」
「いいえ。お二人が耐え、ここにトカゲを止めていてくれたおかげで、合流して攻撃を行うことが出来たんです。それに、子供達を見つけたというのろしもあがりましたから……!」
 シフォリィの言葉に、アベルは微笑を浮かべつつ、頷いた。
「それは重畳で……ポーちゃんは無事です?」
「はい、すぐに目を覚ますはずです。ですが、やはり戦列に復帰するのは……」
 ユーイリアが答える。
 一方、シフォリィとラルフ、そしてエスラは、トカゲへの攻撃を継続する。炎と剣戟、そして胞子が舞い、戦場を駆け巡った。
「胞子とは本来、生殖、繁殖のための物。それをこいつは、明らかに狩りの道具として使っている」
 ラルフの言葉。ユーイリアの脳裏に、胞子で溺れ死んだ鹿の姿が浮かんだ。
「断定できたわけではないが――コイツの本体は、キノコだ。トカゲが異常肥大化した原因はわからないが、それはこの際、問題ではない。このキノコは、何らかの手段でトカゲの体に寄生し、そのコントロールを得たのだ。いうなれば、このトカゲはキノコの領土。移動する『胞子の王国』――!」
 トカゲの爪が緩慢に振るわれた。シフォリィはそれを剣で受け止める。重い一撃が、腕を痺れさせる。
「という事は……背中のキノコを焼き払えばいい、という事ですか?」
「いいえ」
 シフォリィの言葉に、エスラが答えた。
「菌類は、表面だけでなく、内部に深く根を伸ばすの。たぶん、トカゲの内部にも、深く巣食っているハズ……!」
「――っつう事は、答えはシンプルだな?」
 声が響いた。イレギュラーズ達が視線をやれば、その方向に居たのは、ジェイク。
「トカゲもろとも、息の根を止めちまえばいいわけだ。何、予定通りじゃねぇか」
 そして、
「子供達は、無事に村へ帰したよ。遅くなってしまって申し訳ない」
 幻だ。
 2人がトカゲへと視線を移す。トカゲは、体中のあちこちに傷をつけていた。イレギュラーズ達の攻撃の成果は、着実に出ている、という事だ。
「あと一歩、って所だな。俺達の出番が危うくなくなる所だったぜ」
 笑うジェイク。2人が戦列へと加わるのへ、
「心強いです。さぁ、これでお終いです。決めましょう!」
 シフォリィが声をあげ、イレギュラーズ達が頷いた。
 イレギュラーズ、最後の総攻撃が始まる。シフォリィが放つ剣舞がトカゲの体を再び切り刻み、ジェイクの銃弾が激しく撃ち込まれる。
 衝撃によろけるトカゲに、ラルフの義肢が撃ち込まれた。
「菌類は体内の水分をよく吸い上げる。良く燃えるだろう?」
 言葉と同時に放たれた魔炎が、内部で爆発するように燃え盛る。傷口から出血のように炎を吹き散らすトカゲに、
「寄生されただけの貴方にはかわいそうだけれど……!」
 エスラが呟き、放った殺意の霧が、トカゲの体をさらに深く傷つけた。
「子供達を救い、村の危機を救う。奇術師は奇跡を起こすものですよ。そしてこれで、ショウはお終い」
 幻が放つ見えぬ糸が、トカゲを切り裂いた。濁った眼がぐるり、と上を向くと、声をもなく、トカゲが地に倒れ伏した。
 それは、まるで見えぬ糸に操られていた人形、その糸が断ち切られた様にも似ていた。

●平穏の訪れ
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「痛いよね、ごめんなさい! 私達のせいで……うぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「あはは、大丈夫、大丈夫」
 泣きながら謝罪の言葉を次々と口にする子供達に、ノースポールは微笑を浮かべつつ答えた。
 トカゲの撃退に成功したイレギュラーズ達であったが、受けた傷は決して浅いものではなかった。速やかに村へと引き返し、休息をとることしばし。
 回復したイレギュラーズ達の元へ、既にしこたま叱られて、大泣きの子供達は、大人たちに謝罪のために連れてこられたのである。
「まったく、これでちったぁ、無謀なことしたってのが分かったか、てめぇら!」
 ジェイクの言葉に、子供達が泣きながら頷いた。
「でも、勇気があるのはいい事。ただ、ちゃんと自分の実力は把握しなきゃだよ」
 と、ノースポール。
「まぁ、きっといつか、この冒険が君達の支えになるサ」
 アベルは優しく、子供達の頭をなでるが、それはそれで感極まった子供達が泣きだしてしまうので、アベルは苦笑を浮かべるのである。
 そんな仲間達と子供達の様子を見ながら、幻はくすり、と笑うのであった。
「……森に、同様のキノコの痕跡はありませんでした」
 一方、シフォリィは静かに、仲間達へと声をかけた。祝勝ムードの村人たちの雰囲気を削ぎたくないという事、そして要らぬ不安を与えぬように、という配慮の為だ。
「だろうね。とてもではないが、自然発生するような物とは思えないよ」
 ラルフの言葉に、エスラは、
「……なら、人為的、ね」
 そう言って、目を伏せた。
「こんなおぞましい事を、人の手で……?」
 ユーイリアはショックを受けた様子で、眉をひそめた。
 生態系をも弄ぶ、底知れぬ何かの意思。
 未だ見つからぬ、その根源。
 その存在をイレギュラーズは感じつつ――。
 ひとまず、助ける事の出来た命の重さを、噛みしめるのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、村も、子供達も、救うことが出来ました。
 ある種架空の存在でもあった子供達にとっての英雄(イレギュラーズ)は、
 実在する本物の英雄として、皆様の姿で、子供達の心に刻まれるのでしょう。

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