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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>深海より愛をこめて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●崩壊の時
 世界崩壊の時――。
 シレンツィオ近海の海でも、バグ・ホールと名付けられた超常現象はあちこちにより発生し、無謀にも近づいた船が飲み込まれ、そのまま帰らぬ、という現象も報告され始めていた。
 普段よりの航路が制限された結果、物流は滞り始めた。無論、今すぐどうこうなるようなものではないが、しかしこの状況が長引けば、世界の崩壊より先に都市機能に不具合が発生する可能性は充分にある。
「竜宮の船なら、わたしの加護も併せて、航路の安全を大部分確保できるはずです」
 と、メーア・ディーネーが言う。今や乙姫としての役割は終えたとはいえ、竜宮の力を行使する資格と使命を持っているのは、彼女と――彼女に劣るとはいえ、マール・ディーネーの姉妹のみである。
 そんなわけだから、メーアとマールは、竜宮の支援物資を乗せ、同時に通常流通の物資も引き受け、竜宮の船(亀のような不思議な形をした、潜水艦にも似たものだ)の船団を出発させた。深海より、親愛を込めて。近しい隣人であり、同じく世界に生きる仲間であるシレンツィオへと向けて、満載の資源を乗せての旅路である――。
 亀のような竜宮船が、ぷかり、と海上に顔を出す。無数のそれが、比較的落ち着いた海面を泳ぐ。安定しているとはいえ、ここは通常とは違う、開拓されていない航路である。乙姫の力なくば、何らかのトラブルが発生する可能性は高い。同時に、少し遠くを見れば、バグ・ホールの発生した海面もある。以前、危険が迫っていることに変わりはないのだ。
「メーア、大丈夫?」
 マールが少し心配そうに、妹へと尋ねる。
「これで何往復だろう……2,3日休みをもらってもいいと思う……」
 マールが心配する通り、メーアは往復する船団の加護のため、休まずに働いているようだった。航海は連日続き、はた目には祈りをささげているだけ、とはいえ、その精神と体力の消耗は激しいだろう。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
 ふふ、とメーアは笑った。
「それに、わたし、みんなの役に立てるのってうれしいの。
 ……もしかしたら、わたしはここにいなかったかもしれない。
 シレンツィオの皆や、ローレットの皆に助けてもらって、今がある。
 だったら、今こそ、その恩返しができる、って」
 普段は丁寧で落ち着いた口調の彼女も、姉であるマールの前では年相応のそれを見せる。そして、メーアの「恩返しがしたい」という気持ちは、マールも同じだ。マールもまた、シレンツィオの人々に助けを求め、ローレットの人々に助けてもらった。ならば、今こそその恩を返す時なのだ。
「でも、無理だけはダメだよ。
 倒れちゃったら、それどころじゃないんだから!」
 むむ、とマールがそういうのへ、メーアは微笑んだ。
「そういうお姉ちゃんも、ずっと私についてきてるんだから、休まなきゃだめだよ?」
「あたしは――」
 マールが視線をそらした。
「大丈夫だけど。でも、そうだね、メーアにいってて、あたしが倒れちゃったら意味もないから……」
 仲のいい二人は、船団の精神的支柱でもある。竜宮船には竜宮の民だけでなく、各国の商人たちなども乗船していたが、献身的に働く二人に、彼らもまた、活力と勇気をもらっていたのだ。
「今のところトラブルはないけど、何が起きるかは……!?」
 そう、マールが言った瞬間、船が揺れた。見れば、空より無数の『何か』が飛来して、海へと落下していた。それは、星が降ってくるかのような、不吉な光景であった。
「なに、あれ……!?」
「お嬢さんがた、気を付けてくれ!」
 護衛の戦士が言う。
「星海の獣だ! 急に降ってきやがった!」
 叫ぶ。すると、大きく船が揺れた。頑丈な外壁に、ザリガニのような形状をした星海獣が、そのハサミで以って殴りかかってきたのだ!
「わわわ!」
 マールが慌ててメーアを抱きしめる。揺れる船内で、メーアは叫んだ。
「み、皆さんもお気をつけて!
 状況は解りますか?」
 竜宮の船員に叫ぶと、船員のバニー男子が声を上げる。
「囲まれてます! 戦士団と、護衛の皆さんで何とか退けてみます……!」
 大慌てで戦士たちが駆けだしていくと、やがてほどなくして外で激しい剣戟の音が鳴り響いた。
「わたしたちも、おびえてばかりじゃいられない……!
 お姉ちゃん、力を貸して! 結界を張って、みんなのサポートしなくちゃ!」
 力強くメーアが言うのへ、マールもうなづいた。少しだけ気弱だった女の子は、きっと英雄たちの戦いを見て、少しだけ強くなれたのに違いなかった。

「海か……全剣王より賜ったこの破鎧、さびないといいけどなぁ~~~~」
 巨大な甲殻類のような、星海獣。その背に乗りながら、陰鬱そうな男が言った。
「この最強の頭脳を持つ僕が出張るほどの仕事かなぁ~~~~……。
 所詮ウサギのかっこうした痴女二人。
 乙姫だか竜宮だか知らないけれど、我々不毀の軍勢にはかなわないだろうしさぁ~~~~」
 間延びした様子の言葉で、彼は言う。
 不毀の軍勢。全剣王に付き従う、『最強』を名乗る彼らは、今や各地でも攻撃を行っていた。
「ま……こんな船団、すぐにつぶして見せましょうかね~~~~……僕最強に頭いいしさぁ……」
 そうつぶやく男は、足元の星海獣にけりを入れた。ぐぎゃぎゃ、と奇声を上げる星海獣がハサミをふるうと、周辺の星海獣が、さらに激しくうごめきだした。

 竜宮船団、襲われる。
 その緊急速報が、シレンツィオで待機していた『あなた』たちローレット・イレギュラーズへ届いたのは、つい先ほどのことだ。各々手段を用い、最速で現場に到着した『あなた』たちを待ち受けていたのは、激しい戦いを繰り広げる竜宮・シレンツィオの合同戦士軍と、それを指揮するマール・メーアの二人の少女。
 そして、彼らに攻撃を加える星海獣と、指揮を執っていると思わしき、巨大な星海獣と、不毀の軍勢――。
「あー! みんな!」
 マールがぴょんぴょんと飛び跳ねて手を振る。
「み、みなさん! 助けに来てくださったのですね……!」
 メーアの表情がほころんだ。が、すぐにしっかりと口元を結び、
「ええと、護衛の戦士団の皆さんで、小型の星海獣は対処できます!
 みなさんは、リーダーの二体の相手を……!」
「なんだい、きちゃったのかぁ~~~」
 メーアの言葉を遮るように、不毀の軍勢の男が声を上げる。
「僕はノスタルバック。最強の知性を誇る、魔術師――。
 そして、この破鎧は最強の水中性能を持つ鎧。
 まさに鬼に金棒。君たちが勝てるとは思えないけどなぁ~~~~」
 そう、ノスタルバックが言うのへ、ぎゅいいぎゅいと、足元のロブスターのような星海獣が声を上げる。
「ああ、君もいたね。
 こいつは星海獣、ハイランズ。
 硬い、早い、強い、の三拍子のそろった怪物さ。
 僕たち二人には勝てないよ」
 そう、ノスタルバックは笑う。
 そう言われて引き下がるようなローレット・イレギュラーズではない。
 『あなた』は仲間とともに武器を抜き放ち、敢然と敵へと立ち向かうのだ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 海上戦闘になります。

●成功条件
 ノスタルバックとハイランズの撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●フィールド・竜宮近海
 このシナリオの舞台は、竜宮の近海として扱われます。
 竜宮近辺で効力を発揮する携行品などは、問題なく効果を発揮します。

●状況
 シレンツィオへと向かう、竜宮の船団。
 中には物資や食料などを乗せ、不安定となった航路を安全に進むべく、マール・メーアの姉妹も同船し、危険な海を何往復もしておりました。
 そんな何度目かの航海の中、突如敵が襲い掛かります。
 敵は、星海獣と、不毀の軍勢、ノスタルバック。
 彼らは、この船団を壊滅させるべく襲来したようです。
 その知らせを受けた皆さんは、彼らを撃退すべく戦場へと駆け付けます。
 さて、この地で深海からの親愛を守るべく、皆さんの戦いが始まるのです。
 作戦エリアは、海上となっています。
 通常は、小舟などを利用して、問題なく移動などを行うことができます。
 水中や水上などで行動するスキルや、個人の船などを持ち込めば、さらに有利に立ち回ることができるでしょう。

●エネミーデータ
 破鎧闘士ノスタルバック ×1
  自称最強の知性を持つ、不毀の軍勢。魔術師タイプです。
  また、破鎧と呼ばれる特殊な装備を持ち、破鎧の力で『最強の水中行動性能』を持ち合わせています。
 破鎧は『高い攻撃力を持つ一撃』をぶつけることで破壊することが可能で、破鎧が壊されると泳げないのでおぼれて機動力や回避能力などが著しく減少します。狙ってみるのもいいでしょう。
 基本的には魔術師タイプなので、強力な遠距離攻撃や、様々なBSを付与して攻撃してきます。破鎧の力で機動力や反応、EXAなども高くなっています。破鎧は破壊されれば、これらの能力を失うは前述のとおりです。

 星海獣ハイランズ ×1
  巨大なロブスターのような星海獣です。
  シンプルなタンク役+アタッカーといった性能をしています。反応などは低いですが、ノスタルバックをかばったり、皆さんの攻撃をひきつけたりしつつ、強力なはさみによる一撃を加えてくるでしょう。
  なお、特殊ルールとして、『火炎』系列に弱点を持ち、ハイランズが受ける『火炎』系列のダメージは2倍になります。なので、焼いてしまうのも一つの手でしょう。食材適性も持ってますので。

●味方NPC
 マール・ディーネー&メーア・ディーネー
  ご存じ竜宮のディーネー姉妹。かつて乙姫と呼ばれた少女たちで、今は普通の女の子。
  ですが、乙姫としての力は健在であり、現在も今回の船団をまもる結界を張っています。
  また、マールとメーアの加護により、毎ターンの初めに、皆さんのHPは微小回復するほか、BSを一つランダムで解除してくれます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <グレート・カタストロフ>深海より愛をこめて完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年02月08日 23時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

サポートNPC一覧(2人)

マール・ディーネー(p3n000281)
竜宮の少女
メーア・ディーネー(p3n000282)
竜宮の乙姫

リプレイ

●知力と食力
「はぁ……鬱陶しいものだねぇ~~……」
 気怠そうにそういう男の名はノスタルバック。不毀の軍勢の内の強力な個体、破鎧闘士が一人だ。
 最強の知力を誇る魔術師、と語る彼は、星海獣ハイランズ、そして無数の星海獣たちとともに、竜宮より出発したシレンツィオへの物資運搬船を襲撃した。激しい戦いが繰り広げられる中、ローレット・イレギュラーズたちはその現場に到着。物資運搬船を指揮するマール&メーアと合流した――という状況である。
「星海獣がもう少し強かったらさっさと終わってたのかな? まぁ、いいか。全剣王様の部下じゃない星海獣の力なんて、そんなにあてにしてなかったからねぇ~~~~……」
「やれやれ、そんなものはいいわけだろう?」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が肩をすくめて見せた。
「使えない部下がいるなら、使って見せるのも智将というやつじゃあないのかい。
 まぁ、最強の頭脳、なんて言っているやつが、本当に頭がいいかは疑問だけれどね?」
「おっとぉ~~~……そいつは嫉妬かなぁ……?」
 ノスタルバックが言い返すのへ、『シャドウウォーカー』バルガル・ミフィスト(p3p007978)がふむん、とうなった。
「前向きなのは事実のようですね。あるいは、減らず口、か。
 まぁ、いいでしょう。バニーさんたちの危機ならば、どの様な小物が相手でも駆けつけましょうとも」
 ふっ、といつもの様子に笑って見せるバルガルに、あちこちで奮闘するバニーさんたちから投げキッスが飛ぶ。
「ありがとう、全部終わったらお店に遊びに来てね~!」
 ひらひらと手を振って見せる女性バニーさんが、しかし大慌てでほかの仲間に援護の術式を投げ続ける。戦闘は、当然のことながらノスタルバックとハイランズ相手というだけではない。その他、星海獣の中でも、何とか戦士団たちが対応できるものは、彼らが必死に応戦している。
「おやおや。俄然やる気が出てくるというものですね。
 さて、ノスタルバックさんでしたか。
 逃げ帰れ、とは言いません。
 バニーさんの敵、世界の敵ならば、ここで殲滅させていただきます」
「随分と強気だねぇ~~~~……」
 ふん、とノスタルバックは笑った。
「僕の魔術。そして最強の水中行動を与える破鎧。そして最強のハイランズ。
 君たちが勝てる要素ってないと思えるけどね~~~……」
「いくら最強を騙っても、それを悪いことにつかうのならば、メイたちは絶対に、負けないのです!」
 『ひだまりのまもりびと』メイ・カヴァッツァ(p3p010703)が、一生懸命に相手をにらみつけるように見据えた。
「この船は、シレンツィオの皆さんへの、食料や生活物資を届けるもの。
 大変な世界の中でも、いつも通りに日常を過ごしてほしいっていう、優しさのこもった大切なものを運んでいるのです!
 それを沈めようとするなんて、絶対に、絶対に、許せないのです!
 世界が滅ぶなんて不安を、みんなに抱かせないためにも!
 メイは、あなたを、やっつけてみせます!」
「その通りっすよ」
 『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)が、じろり、と視線を向ける。
「竜宮だって大変なのは変わらないっす。それを、一緒に手を取り合って助け合おうとする……そんな優しさを踏みにじろうというのならば、どれだけアンタが強かったとしても、俺たちは負けないっす」
「随分とウェットだねぇ……そこらのバニーなんて恥ずかしいかっこしてるやつらに、なんか思い入れでもぉ~?」
 あざけるように言うノスタルバックに、慧はかぶりを振った。
「あの衣装は、彼女たちの、彼らの、歴史と想いと愛の積み重ねっす。
 侮辱は許さない。
 ……確かに、少し目のやり場には困るときはあるっすけど、それもまた愛嬌っすよ」
「ふん。じゃあ、その愛の積み重ねみたいなのを、このハイランズのハサミでぐちゃぐちゃにしてあげようかなぁ~……」
 そういって、ノスタルバックが足元のハイランズを小突く。すると、ハイランズが応じるように、ハサミをガチャガチャと鳴らした。
「……ロブスターだな」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が、ふ、と笑う。
「ゴリョウ。どう見てもロブスターであろう。
 で、どうだ、実際? 御主の目から見て、あれは――」
「食える」
 と、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は言った。
「俺が思うに――多分食材適性++++++くらいはついてるな!」
「おう! じゃあ超高級品か!」
 じゅるり、と汰磨羈が舌なめずりをして見せた。
「いやいや、有難う、最強のなんたらよ。
 こちらもいろいろと、食料の輸送問題なんぞも抱えていてな!
 まさか超高級食材を差し入れで持ってきてくれるとは! 全剣王とやらも粋な計らいをする。
 今度お中元でも贈ってやらんとなぁ?」
「おう、まったくだぜ! ここまで活きのいい食材はそうそうお目にかかれねぇ。
 焼くか、ゆでるか。あるいは生か――いい食材を有難うよ! 料理人冥利に尽きるってな!」
 豪快に笑って見せるゴリョウに、メーアは目を丸くして、マールは楽しげに笑った。
「ふふ、やっぱりゴリョウさんは頼りになるね!」
「皆、食い意地が張ってるようで何より。
 そのくらいの気概で行った方がまぁ、明るくていい。そうだろ、マールとメーア?」
 『傲慢なる黒』クロバ・フユツキ(p3p000145)が笑いかけるのへ、マールも笑って返した。
「うん! ……クロバさんも、来てくれてありがと……!」
「ああ。君のヒーローだ。必ず駆けつけるとも」
「クロバさん、ありがとうございます……!」
 メーアが顔をほころばせるのへ、クロバはうなづいた。
「さぁて、ロジャーズ、君も準備はいいだろう?」
 クロバが言うのへ、『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)は笑って見せた。
「兎は跳ねるものだ。渦へと身投げするものではない。
 文字通りに、兎角、私を壁と定めるが好い!
 世界の破滅を阻止した暁には私が破滅の化身と成って魅せるのだよ。
 Nyahahahahahaha!!!」
「頼りにしてるぜ、ロジャーズ!」
 ゴリョウが構えて見せる。合わせるように、仲間たちも構えた。
「任せよ――今は、兎の友達、だ。
 なれば、今は友として、この身崩壊を食い止める壁としよう」
「ありがと! メーアとあたしも頑張るからね!」
 マールがメーアの手を取って、ぴょんぴょん飛び跳ねる。メーアは少しびっくりした様子を見せつつ、しかしすぐに表情を引き締めると、
「できる限り皆さんも援護します! その、ほかの皆さんを守る結界も維持しないといけないので、本当に、できる限り、なのですけれど……!」
「ええ、それでも十分っす。
 心遣い、ありがとうっすよ」
 慧が笑う。
「ええ。応援していただけるだけでも百人力というもの」
 バルガルもまた、力強く笑って見せた。
「メイも頑張るのです!
 だから、メーアさんとマールさんも、どうかあきらめないで頑張ってほしいのです!」
 メイは、二人を勇気づけるように微笑み。
「うむ――終わったらロブスターでパーティと行こう。あれだけデカいのだ、船員全員を腹いっぱいに食わせることもできよう」
 汰磨羈も笑う。
「……まぁ、おなかは壊さないだろう。心配しないでおいてくれていい」
 ゼフィラは苦笑しつつ、
「さて、最強さん。始めようか。
 私はおこがましくも『最強の頭脳』なんて名乗るつもりは毛頭ないけれどね。
 お手柔らかに頼むよ」
 少しばかり挑発の色を乗せてそういうのへ、ノスタルバックは不快そうに表情をゆがめた。
「へぇ~……うぬぼれるなよな? いい加減、君たちの顔を見るのも飽きてきたところだよ」
「ハッ。それはこっちのセリフだ。
 不毀の軍勢だか何だか知らないが、この世界を終わらせるわけにはいかない」
 クロバがゆっくりと身構える。
「渦に沈むのはそちらだ」
 ロジャーズが言う。
 ノスタルバックがその手を上げた。
「いいとも。じゃあ、そろそろそこの兎ともども、海に沈んでもらうからさ……」
 ハイランズが、ぎちぎちとハサミを鳴らす! 同時、ノスタルバックが海上へと飛び降りた。破鎧の力で水上に立つ彼は、悠々とした姿勢でこちらを睥睨する。
「さぁ、いけ、ハイランズ……こっちは後ろから何とかするからさ……」
 そういうと、さっそく魔力を集め、術式を編み始める。
「……最強、というだけの力はあるようなのです……!」
 メイが警戒を呼び掛ける。なるほど、敵が集める魔力の量は、確かに強大ではある。
「……でも、負けたりはしないのです!」
 メイが決意とともに頷くのへ、バルガルはうなづく。
「ええ。当然。
 この後は、バニーさんとのパーティが待っていますので」
「よし。では、軽く蹴散らしてやるとするか!」
 味方を鼓舞するように、汰磨羈は声を上げた。
 果たして、それを合図にするように――一行は、戦場へと飛び出した!

●海上決戦
 さて、海上戦闘の始まりである。基本的にはあたりには『足場』となるような残骸や小舟の類が浮いているため、通常の移動ならどうにか事足りるが、当然のことながら、水上・水中を自由に動けるほうがもろもろと勝手が良いことは確かだ。その手段は、例えば使い慣れた自身専用の小舟を持ち込んだり、シンプルに水中などで行動が可能な技能を持ち込む、等だろう。これを後者で解決したのが、ノスタルバックの持ち込む『水中行動の破鎧』にあたる。
 イレギュラーズたちも、当然のごとく様々な手段によってこれに答えを出した。
「よろしく頼みますよ」
 そうってみせるバルガルなどは、竜宮イルカを用いての水上・水中行動を利用しているわけだ。他のメンバーの詳細は割愛するが、各々が対策を持ち込み、十全に己の力を発揮する戦法を運用している、これだけは確かである。
「さて――どこから攻めますかね」
 バルガルが声を上げる。シンプルに、今回の標的は『三つ』である。一つ。ノスタルバック。二つ。ハイランズ。そして三つめが――。
「破鎧、か」
 そう、ゼフィラが言う。そう、ゲームのように例えれば、『破鎧』は第三のターゲットであり、ノスタルバックの部位破壊ポイント、ということができようか。そして、その恩恵は実は大きい。
「ノスタルバックという人は、どうも泳げないみたいなのです」
 メイの言う通り。破鎧が水中行動能力を持たせているのであり、ノスタルバック自体はそのような能力を持ち合わせていない。というか、敵の言動を考えてみれば、間違いなく『カナヅチ』であり、おそらくその行動を大幅に制限することが可能だろう。
「けど……破鎧を破壊することは、もしかしたら難しいのかもしれないのです」
 その言葉通り、ただ攻撃すれば破壊できるようなやわなものではないだろう。おそらくかなり強烈なダメージをたたきださなければ、破壊は困難だ。
 加えて、そもそものノスタルバック本体と、ハイランズの攻撃は続く。となると――。
「それでも、狙う価値はあるっすよ」
 慧が言った。
「あと、微妙に、アイツはムカつくんすよね」
「ああ、まぁ、解るぜ。
 俺たちのアイドルを馬鹿にしてるわけだからな?」
 クロバが笑ってみせる。竜宮のバニーさんたち、ひいてはマールやメーアを馬鹿にした態度をとったのはあちらだ。
「ならば……その鼻っ柱、へし折ってやるのはどうだ?」
「おう、俺は構わんぜ?」
 ゴリョウが豪快に言って見せるのへ、ロジャーズがうなづいた。
「異論はない」
「よし。では、クロバ、私と御主で一気に決めるとしよう」
 汰磨羈が言うのへ、皆がうなづく。
「ゴリョウ、ロジャーズ、御主たちは盾役だ。いつも通りに」
「任せよ」
 ロジャーズが深くうなづく。
「メイ、御主はマールとメーアの直掩を頼む。
 残るメンバーで、攻撃に転ずるぞ」
「はい!
 マールさん。メーアさん。メイはお二人の傍で一緒に皆さんのサポートをするのですよ!」
「うん! よろしくね、メイさん!」
「頼りにさせてもらいます……!」
 マールとメーアが、メイに笑いかける。さて、方針は決まった。ならば、あとは最後まで一気に駆け抜けるのみ、だ!
「では、サポートと行こうか!」
 ゼフィラが叫び、術式を編み上げた。祝福の宝冠が仲間たちに聖なる力を託す。その聖性を確かに感じながら、イレギュラーズたちは突撃を開始!
「わたしたちも、頑張ります!
 メイさん、力を貸してくださいね……!」
 メーアの言葉に、メイはうなづいた。共に手をつなぎ、乙姫の力を借りながらの支援術式を展開する。メイと、メーアと、マールと、暖かな祝福を感じながら、仲間たちは一気に怪物たちに立ち向かうのだ!
「さて、クロバ! あの痴れ者の口上を聞いてやるつもりはない。一気に鎧をしとめるぞ!」
 じゃきん、と後付けうささ耳を装着しながら、汰磨羈が言う。クロバがうなづき、刃を構えた。
「お先にどうぞ」
「うむ、では一番槍は私だ、ヒャッハーッ!!」
 一気に飛び込んだ汰磨羈が、水上を飛び回るノスタルバックをとらえた! その刃を切り上げるように振るう。降りぬかれた陰の太刀は、ノスタルバックの内部に強烈な衝撃を与え、
「自分で最強の『水中性能』とバラしたらダメだろう? ……という事で、御主には海上へ出て頂く!」
 その言葉通りに、上空へと弾き飛ばす!
「な、んですとぉッ!?」
 その威力には、さすがの魔術師も驚いたものか、だが、とすぐに体勢を立て直したところは、さすがに人外の怪物といったところだろう。だが――。
「悪いな。君の講釈も聞いてやりたいところだが――校長先生の長い話は寝てしまうタイプなんだよ」
 ふ、とジョークを交えつつ、上空で待ち構えていたクロバが強烈な斬撃をたたきつける。
「陸壊空裂――この見せ場だけは譲れないな。故に、この一刀を以て真理を示す!」
 斬! その一撃が、ノスタルバックの破鎧を切り裂いた! その切り傷から、崩壊するように破鎧が砕け散っていく!
「ば、かな……計算外……!」
「なんでだろうな。君みたいなやつは、良くそういうよな!」
 オマケとばかりにけりつけてやると、ノスタルバックが水中へとたたきつけられる。情けない動きでバシャバシャと動き回るそれに、先ほどまでの自信はない。
「ロジャーズ! ああはなったが、奴の魔術は健在だ」
「ああ、問題ない。
 貴様――!
 世界破滅の危機だ。
 貴様の『エネミースキャン』、しばらく借りるぞ。
 何? 世界が破滅するところを傍観していたいだと?
 確かに、貴様は私だった!
 だが、滅ぼすのは私よ、私自身でなければ成らないのだ。
 貴様ならば理解出来ると信じているのだよ、私!」
 何事かをささやきながら、しかしロジャーズは小舟を飛び跳ねてノスタルバックへと接敵。そのまま敵の攻撃を引き受け始める。
「ここが貴様のデッドエンドだ。
 たやすく浮き上がれると思うな――」
 一方で、残るメンバーによるハイランズ攻略は続いている。
「食材だ! なぁ! お前食材適性持ちだろう!?
 ヒャッハー! 新鮮なロブスターだぁッ!」
 巨体の怪物ロブスターに臆することはない! ゴリョウはその体躯を最大限に課し、ロブスター、いや、ハイランズを抑えにかかる。同時に、火炎盾から吹き上がるスチームが、強烈な熱と炎をハイランズへとたたきつける!
「ボイルか? ガーリック焼き? グリル、直火、蒸し焼きもいい!
 お好みのソースで飾ってやるぜ? チーズか、トマトか、クリームか?」
 ぶははははっ、と挑発がてらに叫ぶその言葉に、ハイランズは怒りをあらわにした。たたきつけるように振るわれるハサミは、確かに強烈なそれであるが、ゴリョウは、にぃ、と笑ってそれを受け止めて見せる!
「ハ――活きのいい食材だ」
「では、血抜きと行きましょうか」
 バルガルが声とともに、その手にした鎖ナイフをハイランズへと突き刺した。ぎぃ、と悲鳴を上げて、ハイランズがのたうつ。
「……血抜き、ってするんでしたっけ……? エビとかかにとかは?」
「血は抜かないまでも、締めはするはずっすよ」
 慧がいう。
「俺は、調理の知識はないんで……そこのおぼれてる馬鹿野郎の足止めを」
「おう、じゃあ、こっちはコックさんがロブスターの締め方を教えてやるか」
 ゴリョウが、豪快に笑う。
「バルガル! 腹から神経が通ってる! そいつを割いちまいな!」
「ええ、では、こういう感じですかね!」
 イルカとともに水中にもぐったバルガルが、ハイランズの腹を割く様に、鎖ナイフを振るった。さん、と静かな音が響いて、ハイランズの殻、そして体を切り裂いた。ぎゅあ、と悲鳴を上げたハイランズが、一息に絶命して、海原にその身を投げ出す。わずかに波を感じながら、ゴリョウは笑った。
「おう、見事だ! んで、その鎖、悪いがその辺の船に括りつけといてくれねぇか。食材が流されないようにな!」
「カロンも、こんなことにつかわれるとは思わなかったでしょうねぇ」
 バルガルが笑った。

 一方、こちらも決着はつこうとしていた。いかに強力な術師といえど、その動きを封じられ、クロバや汰磨羈、ロジャーズや慧といった面々に張り付かれては、どうしようもないだろう。
「く、くそ……こんなはずでは……!」
 情けなく吐き出すノスタルバックへ、慧は冷たい目を向けた。
「は、みっともないっすね最強とやら。
 どうやら、乙姫や船を狙う余裕もない様子。
 俺たちの友、竜宮に喧嘩売った代償は払ってもらいますよ」
 無論、これはイレギュラーズたちの猛攻に加え、メイの直掩や慧の警戒があったが故だが、マールとメーアへの被害はない。これもまた、ノスタルバックのプライドを傷つけるには十分な事実だ。
「く、くそ、くそ……!」
「お得意の舌も回らぬか」
 ロジャーズが言いながら、ノスタルバックを抑えにかかる。もはや彼が、自由に動くことはできない。
「では、退場願おうか!」
 汰磨羈が再び、陰の剣を振った。その強烈な衝撃が、ノスタルバックにたたきつけられる。
「さっさとロブスターパーティに移りたいのでな。そろそろ沈んで貰うぞ!
 今度は上がってこないでいいからな。海の底で永遠に寝ているがいい!」
 斬撃。そして、強烈な衝撃。それが、ノスタルバックを海の底へ向けてたたきつけた――!
「ぐ、ご、ば!」
 悲鳴とともに、ノスタルバックが海中へと没していく。魔力で作られたその体が、海の泡と混ざって消えるのに、そう時間はかからなかった――。

『かんぱーい!!』
 と、船のあちこちから声が上がった。同船していた商人から提供された飲み物をジョッキになみなみと注ぎつつ、あちこちからロブスターのよいにおいが漂ってくる。
「ヒャッハー! ゴリョウのロブスター料理だァーッ!!」
 汰磨羈は子供のように目を輝かせながら、大量のロブスター料理をよそい始める。大変な毎日だからこそ、こういう「当たり前」はあまりにも輝くものだ。
「メイさんも、いっぱい食べてくださいね」
 メーアがメイへ山盛りのロブスターを渡すのへ、メイがわたわたしながらそれを受け取った。
「遠慮はするなよ! 港の作業員に土産で渡すくらいの量はあるからな!」
 ぶははっ、とゴリョウが笑う。
「うーん、バニーさんと美味しいごはん。役得ですねぇ」
 バルガルもにっこりと笑って、バニーさんからお酌をしてもらっている。
「……よかった、っすね」
 慧が、お皿のロブスター越しに、ディーネー姉妹を見つめていた。楽しそうな二人の顔は、これまでも、これからも、守っていくべきものだった。
「よく頑張ったな、一先ずは休むのも立派な仕事の内だぞ。
 なに、まだ俺達がいるから存分に甘えていいさ。
 恩とかそういうのも大事なのはそうだけど、やっぱり俺もマールとメーアには元気でいてほしいしな」
 クロバがマール、そしてメーアへいうのへ、マールはうれしそうに笑った。
「えへへ、おかげさまで。
 ……いつもありがと、大変な時ばっかりに頼っちゃって」
「君たちの幸せを守るのもヒーローの役目、だろ?
 だからいつでも呼んでくれれば、馳せ参じるさ。
 いつもながら、竜宮の太陽を守るためにな」
 そう言ってウインクするクロバに、マールとメーアは、ほんとうに、太陽のような笑顔を返してくれた。
「さて、兎よ――随分と厄介に巻き込まれる。
 釈迦に食われようと火の中に飛び込んだのも兎だったか。
 自己犠牲は感心するが感心せん」
「えーと……む、無理はしていないのですよ? 本当です!」
 わたわたとメーアが言うのへ、マールも苦笑した。
「というわけで、許して! ほら、ロジャーさんもロブスターたべて!」
 と、マールがロジャーズの口へロブスターをあーんしたので、ロジャーズはそれをぱくりと食べた。
 それはたぶん、この世界で生きるすべての人たちを、勇気づけるような味がしたはずだ。

成否

成功

MVP

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 ひとまずの平穏と、親愛をあなたへ。

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