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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>星空より来る毒、シルヴァリィ:Side Blue

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●星降る
 星海獣。
 それは、空に凶星が輝くときに、訪れるとされる災厄――。
 無差別にエネルギーを喰らい、取り込み、進化する、恐るべき終焉に来る獣――。
 それは、ピュニシオンの森に存在する、『ザビアボロス一族の領域』にもまた、その魔手を伸ばしつつあった。
 それは、本来ならば、小さき甲殻類のごとき姿であった。ザビアボロスの領域に落ちた星海獣のうち、その多くは『領域に存在する毒素』によって衰弱、死に絶えていったが、しかし一部の獣は、その死骸を、死にかけた仲間を喰らい、さらに強力、凶悪に、短期間に進化していった。
 やがて、そのうちの一匹が、ゆっくりと身を起こす。さながら蟲毒の壺のなかめいた状況から、今まさに人の形へと成ったそれは、病的なまでに薄い色素と、漆黒のような長い髪を持った女のように見えた。
「う、い、あ」
 それが、ぼそぼそとうなる。まるで出来立ての声帯を試すかのような仕草は、急速な進化による『慣れ』を覚えるようにも思える。やがて、それがすっきりと息を吸い込むと、
「食べる。この地の毒を、すべて」
 そう、言った。知能も獣のそれから一瞬にして進化したと思われる。毒の地より生まれたそれは、今まさに世界を喰らう猛毒となって、この世界に生誕した。

「厄介だな……」
 そう、ムラデンは言う。現在ヘスペリデスとピュニシオン近辺をラドネスチタたちが守護しているわけだが、その眷属の一人から、急遽連絡がもたらされたのである。
 曰く、ザビアボロス一族の領域に、星の獣現る。
 突如として現れ、蟲毒の果てに急速進化したその人型の個体は、周辺の亜竜たちを滅びのアークによって狂わせ、『滅気竜』として自身の配下に置いた。そして、新たなる領域の長シルヴァリィを名乗り、ザビアボロスの領域から零れ落ちようとしているらしいのだ。
「……私、あそこにいい思い出は、ないけど」
 ストイシャが言う。
「お菓子作ってたら、先代に怒られたし。
 でも、お姉さまの、場所だから」
「そうだな。できれば取り返したい。
 ラドネスチタに任せっきりってのもしゃくだものね」
 二人の従者がそういうのへ、ザビーネ=ザビアボロス――本来の領域の主はうなづく。
「ムラデンは、残ってもよいのですよ。
 お嫁さんが、いるのでしょう?」
「いや、嫁じゃないけど」
 ムラデンが眉をしかめた。
「嫁じゃないの……?」
 ストイシャが言うのへ、
「結婚は、まだ」
「『は』」
 ふひひ、とストイシャが笑う。ムラデンがかぶりを振った。
「それに、そんなことで逃げてる僕は、あいつは好きにならないでしょ……じゃなくて!
 とにかく、僕らで……と思ったけど、正直僕とストイシャは、まだ本調子じゃないんだよね」
「申し訳ありませんが、私も」
 ザビーネが、静かにうなづく。三人は、前回のヘスペリデスの戦いでの消耗が癒えていない。多少はマシになったとはいえ、かつての十全の力を出すことは困難だ。
「そ、それに、眷属の亜竜を使うのも危ない。
 終焉獣? っていうのに寄生されたり、滅びのアークの影響で滅気竜になっちゃっても困る……」
 ストイシャのいうことはもっともだ。今現状、最も利用できるのは眷属であるザビアボロスの領域の亜竜だが、彼らが敵に利用される可能性は充分以上にあった。
「実際、戦闘能力の高いアドヴァルグとフライレイスの二匹が滅気竜にされちゃったからなぁ。
 ナイトシーカーより、忠心があっていいんだけど、仇になっちゃったか……」
 ムラデンが名を上げた二匹は、眷属の中でも特に強力な種の内の二匹だ。かの群れは、侵略者たるシルヴァリィに果敢に戦いを挑んだが、そのうちの一匹ずつを滅気竜にされてしまい、撤退をしたのだという。
「敵はほかにも滅気竜の群れがいるんだ。どうしようかな?」
「そう、ですね」
 ザビーネが言う。
「領域の中でなら、私は、権能を使って内部の毒素を兵隊にすることができます。
 ……本調子ならば、そのまま戦うこともできたのですが。
 今は、おそらく、毒素の兵を維持することで精いっぱいでしょう」
「膠着状態にはもっていけるけど、親玉は倒せない」
「……前の時と、一緒、ね」
 ムラデンとストイシャが、うん、と声を上げた。
『なら、また、みんなに力を借りればいい』
 同時にそういう。二人は長い交流の果てに、人間――ローレット・イレギュラーズたちへの信頼の心を持ち合わせていた。それは、ザビーネも同様に持ち合わせていた気持ちだった。
「……では、彼らの力を借りましょう。
 私たちの、故郷を取り戻すために」
 そういうザビーネの言葉に、二人はうなづいた――。

●Side Blue
「み、みんなの力を貸して……」
 と、ストイシャは普段の様子とは異なり、まっすぐな瞳でそう『あなた』たちへと告げた。
 彼女の言によれば、ピュニシオンの森に存在するザビアボロス一族の領域に、星海獣が現れたのだという。
 その名はシルヴァリィ。ザビーネ=ザビアボロスにも似た姿のその怪物は、領域内のすべてを喰らいながら進化。ザビアボロス一族の眷属亜竜に滅びのアークを中て、滅気竜として支配下に置き、さらに領域から外へ出ようとしているのだという。
「……このままだと、外の皆に、迷惑をかけちゃう。
 そ、それに、あそこ、私は嫌いだけど、お姉さまの大切な場所だから」
 まもらなきゃ、と、ストイシャは言う。
「そうだな。手伝うよ」
 そう、仲間が言うのへ、『あなた』もうなづいた。
「わ、私たちは、滅気竜になっちゃったフライレイスをやっつけるの。
 ふ、フライレイス、いい子たち、だったんだけど……」
 しゅん、と肩を落とす。フライレイスは、眷属亜竜の中でも強力な種で、果敢にもシルヴァリィに戦いを挑み、しかし敗北。群れの一匹が滅気竜となってしまったらしい。
「フライレイスは、毒のブレスが得意な亜竜で。
 普通に吐き出すほかにも、うぉーかーかったー? みたいにして切り付けてきたり、散弾銃? みたいにばらまいたりするの」
 どうやら、遠距離攻撃のエキスパート、といったところだろうか。なかなか厄介な相手のようだ。
「た、大変な仕事、だけど。
 み、みんなのこと、信じてるから」
 ストイシャの瞳はまっすぐで、こちらへの信頼が伝わってきた。それが、これまでのローレット・イレギュラーズたちの働きの結果だと思うと、誇らしくも思うものだ。
「大丈夫。必ず、作戦を成功させよう」
 そう、仲間が言うのへ、『あなた』もうなづく。ストイシャはほっとした様子でうなづくと、
「そ、それじゃ……いこう。
 みんな、気を付けて……」
 そう、『あなた』たちを戦場へと導くのであった。

●毒煙の狂騒フライレイス
 もはやそれに元の意識はない。 
 ただ、ただ、滅びをまくだけの装置と化してしまった。
 哀れなるは、毒煙の狂騒よ。フライレイスよ。今は気高き魂もそこにはない。
 ただ……目につく獲物(あなた)へ、滅びをもたらさんとするのみだ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 滅気竜、フライレイスを撃破します。

●成功条件
 毒煙の狂騒フライレイスの撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●連動依頼について
 『星空より来る毒、シルヴァリィ:Side Black』、『Side Red』、『Side Blue』の3シナリオは連動シナリオとなっており、それぞれのシナリオ成否がそれぞれに影響します。
 (結果のみの緩い連動ですので、シナリオ間で連携をとる必要などはありません。ので、お気軽にご参加ください)
 また、それぞれの3シナリオは排他設定がなされているため、『この三つの中から、同時に二つ以上のシナリオに参加できません』。ご了承の上ご参加ください。

●状況
 ピュニシオンの森に存在する、ザビアボロス一族の領域。毒素の渦巻くその場所に、星の獣、星海獣が現れました。
 彼らの大半は領域の毒で死に絶えましたが、しかしわずかに耐性を持つものが蟲毒のように食らいあい、一匹の怪物を生み出します。
 それが、『空よりの毒』、シルヴァリィです。ザビーネ=ザビアボロスにもどこか似た雰囲気を持つ彼女(?)は、迎撃に出たザビアボロスの眷属亜竜を返り討ちに、それどころか、滅びのアークを中て、滅気竜へと変えてしまいます。
 今や領域を乗っ取らんとする彼女たちの軍勢ですが、それを許すわけにはいきません。
 皆さんは、ストイシャとともに、滅気竜へと堕してしまった眷属亜竜、フライレイスを撃破する戦いに身を投じます。
 作戦決行エリアはザビアボロスの領域。
 特に戦闘ペナルティは発生しないものとします。

●エネミーデータ
 毒煙の狂騒フライレイス ×1
  滅気竜と化してしまった、ザビアボロス一族の眷属亜竜の内一匹です。
  もともとは穏やかな亜竜だったようですが、滅びのアークにあてられた今は、すべてを滅ぼさんとする狂気の亜竜となってしまっています。
  主に毒のブレスを変幻自在に使い分けた遠距離攻撃を得てとします。ウォーターカッターのように吐き出して薙ぎ払ったり、散弾のようにばらまいて範囲攻撃をしたりなど。
  半面、近距離面では穴があります。できれば近づいて戦いたいところです。

 滅気竜 ×3
  滅気竜と化してしまった亜竜のうち、フライレイスの直掩についているものです。
  比較的『弱め』の滅気竜であり、雑にいってしまうと『取り巻き』になります。
  フライレイスの弱点を補うよに動き、特にタックルを多用して皆さんを吹き飛ばしてくるでしょう。
  うまく攻撃をひきつけ、フライレイスを攻撃するメンバーの邪魔をさせないようにしましょう。

●味方NPC
 ストイシャ
  レグルス竜がひとつ。ザビーネ=ザビアボロスの家族であり、従者竜です。
  やや引っ込み思案で人見知り気味。また、先の戦いで消耗しているため、現在は『皆さんと同等か、少し強いくらい』の性能しか発揮できません。
  とはいえ、充分に強力な援軍です。頼ってもいいでしょう。
  主に『氷』を利用した強力な遠距離攻撃を行ってくれます。自分たちの攻撃のサポートに使用したり、t系の足止めを頼んだりしてもいいでしょう。頑張ってくれます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <グレート・カタストロフ>星空より来る毒、シルヴァリィ:Side Blue完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年01月29日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
シラス(p3p004421)
超える者
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)
アリカ(p3p011038)
お菓子の魔法使い

サポートNPC一覧(1人)

ストイシャ(p3n000335)
レグルス

リプレイ

●悲しみの黒い空
 空に、無数の滅気竜が飛び回っている。
 ピュニシオンの森、その一区画にある、ザビアボロス一族の領域。
 毒素漂う黒き森――空を舞う無数の破滅は、かつてこの地に住んでいた亜竜の成れの果てだ。
「全部が全部、仲が良かったわけはなかったけど」
 ストイシャが言う。
「お姉さまを、裏切ったり。先代のいうことばっかり聞いたり。
 手を出したらかみついてきたのも、いたけど」
 けど、と。ストイシャは言う。
「それでも、一緒に生きてきたやつら、か」
 『つばさ』零・K・メルヴィル(p3p000277)が、そういうのへ、ストイシャはうなづいた。
 滅気竜。それは、滅びのアークに汚染された亜竜だ。状況を簡単に説明すれば、先日、この地に落ちてきた『星海獣』によって、それらの伝播する滅びのアークに汚染されたこの地の亜竜たちは、その星海獣、シルヴァリィの手足となってしまったのである。
 無論、すべての眷属亜竜が汚染されたわけではないが、それでも、そのショックはストイシャには大きいのだろう。人間で例えるならば、飼っていた家畜がある日突然不治の病によ手凶暴化して襲い掛かってきたような気持だろうか。
 ストイシャは、あまりこの場所に良い思いではないと語った。それでも、ここはムラデンやザビーネとともに暮らした地であることは確かだ。ザビーネの計らいによって、ヘスペリデスで過ごすことが多かったとしても、ここには、ムラデンと、ザビーネと暮らしていた、家(すみか)、がある。
「……悲しい、ですよね……」
 『お菓子の魔法使い』アリカ(p3p011038)が、消沈した様子で言う。アリカは、どこで誰に作られたのかも、どのような経緯で誕生したのかもわかっていないレガシーゼロである。だからこそ、故郷や、家のようなものの気持ちは、大切だということが分かっているし、それに付随する存在である眷属亜竜たちが汚染されてしまったことの悲しみも、理解したいという気持ちがあった。
「……けど、みんなは、気にしないで。
 倒さないとならないなら、躊躇はしないで」
 そう、決意したように言うストイシャに、アリカは、そしてほかの仲間たちもうなづいた。結局は、倒さなければならないのならば。倒すことが救いであるのならば、やるしかない、のだ。
「……! 空のアレは……!」
 『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が声を上げる。見れば、人とも竜ともつかぬ無数の兵隊が飛び上がり、上空の滅気竜たちと大立ち回りを演じ始めた。激しい戦音が鳴り響く。
「ザビーネさんの竜魔術だね……! あれだけの使い魔を……!」
 さすがのスティアも驚いたようである。充分に戦闘能力を持った使い魔を、あれほど大量に展開できるのは、さすがは竜の魔術といったところか。しかし、今のザビーネでは、このザビアボロス一族の領域という限定された場所でしか使えず、その維持に力の大半を割いてしまう大技だ。
「味方の内はありがたいな、竜ってのは」
 『竜剣』シラス(p3p004421)もさすがに舌を巻く。だが、これから相対する敵は、消耗したとはいえ、その竜が助けを求めてきた相手であることもまた事実だ。
「もちろん、助けを求めてきたやつにおんぶ抱っこなんてのはナシだ。
 さっさと片付けよう。
 ほかの方面にも、仲間が進んでるはずだからな。俺たちのせいで総崩れなんてのは避けたい」
 もしこのチームが撤退するようなことがあったら、ほかのチームに生き残ったフライレイスや滅気竜が襲来するだろう。そうなれば、そのチームへの負担になってしまう可能性もある。
「しかし、あの使い魔……竜毒兵、でしたか。それに、この地の毒素も、すごい力ですね」
 『その毒は守るために』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)はそういった。毒の精霊種を名乗るジョシュアである。そういったものへの知見は深い。
「まさか、これほどの毒の中で星海獣が生き残り進化したなんて……にわかには信じがたいですが、上空に飛ぶあれだけの滅気竜を見れば、疑いようもないです。
 それに、僕たちを信じてくれたストイシャ様のためにも、ただ驚いているだけなんてのは駄目ですからね」
 うん、と覚悟を決めるようにうなづくジョシュアに、大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)は力強くうなづいた。
「うむ。信じたくしてくれた友の期待には、応えねばならんからな!
 さぁ、行こう。この先が――」
「うん。フライレイスの気配がある」
 ストイシャの言葉に、果たして一行は駆けだし――やがて止まった。開けたその場所は、されどうっそうとした気配をたたえていたが、開かれた暗い空からさす光は、一匹のおぞましくも美しい滅気竜の姿を照らしていた。
「あれが、フライレイスか――」
 武蔵が言う。どこかたおやかさすら感じさせるそれは、しかし冒涜的な悍ましい生物的な何かを感じさせる。おそらく、肉が、内部が、心が破滅に支配されてしまったのだろう、と、それは本来のフライレイスを知らない武蔵や、仲間たちにも理解できることだった。
「……! なんてことを……!」
 『笑顔の魔女』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)も、思わず声を上げる。その痛々しくも恐ろしく、悲しくも悍ましい姿は、ヴェルーリアの表情を悲しげにゆがませる。
「ごめんね……倒すことしかできない、けれど……!」
「それしか、ないのです」
 『二人の秘密基地』Lily Aileen Lane(p3p002187)が、声を上げる。
「……ストイシャさん。辛かったら、下がっていても……」
「大丈夫、リリー」
 ストイシャが、言った。
「ヴェルも、ありがとう。
 私も、頑張る。フライレイスの、ために」
 ストイシャが、ゆっくりと身構える。
 同時――上空より、包囲を抜けてきたのであろう、三匹の滅気竜が落下してきた。それは、まるで翼の先端を拳のように打ち付ける、おそらくは近接攻撃タイプのそれであろうか。
「お客さんか。見た目通りのタフそうなやつだ」
 シラスが言うのへ、スティアがうなづいた。
「……厄介かもね。さて、どう戦おうか?」
「放っておいては近づけないと思います。まずは、滅気竜を倒すことでよいかと」
 ジョシュアが言うのへ、
「同感だ」
 シラスがうなづく。
「ストイシャさんは――」
 スティアが言うのへ、零が続いた。
「滅気竜の方は任せていいか? やりやすい方法で戦う方がお前も多分やりやすいだろうし……。
 フライレイスのほうは、俺に任せてくれ」
「うん。零、ありがとう。
 スティアも、シラスも。気を付けて」
「任せな。百戦錬磨のイレギュラーズでな」
 シラスが笑う。スティアも微笑んだ。
「この場所も、ストイシャさんも、絶対に守るよ!」
「では、始めるか」
 武蔵が言うのへ、ヴェルーリアがうなづく。
「いこう……こんな悲しいこと、終わらせないと!」
 その言葉に応じるように、仲間たちは一気に身構えた。その攻撃意志を感じ取ったのか、フライレイス、そして滅気竜たちが、一斉に咆哮を上げる!
「……待ってて、ください。必ず……!」
 Lilyがそういうのへ、アリカがうなづいた。
「静かに……眠らせて、あげますから……!」
 その言葉を合図に――。
 両者は、はじかれたように飛び出した――。

●竜と、人と、亜竜と、
「フライレイスは――」
 シラスが叫んだ。
「遠距離攻撃が得手なタイプか!?」
 その言葉に、ストイシャがうなづく。
「うん……!」
「なら、周りの滅気竜はガードだ! どっちにしても、あいつらが道を邪魔してくるんだろうな!」
「シラス君、道を開ける?」
 スティアが訪ねるのへ、シラスは獰猛に笑って、その手をふるった。
「誰に向かって言ってるんだ?」
「ふふん、そうだったね!」
 シラスが突撃する――同時、空中に飛び上がり、その両手で空中を掻くようにふるう――すると、どうだ! その奇跡に沿って放たれた魔力糸が、滅気竜たちを切り裂き、そして吹き飛ばす!
「道は開いた! 行け!」
 叫ぶシラスに答えたのは、この時、二名。零、そしてヴェルーリアだ!
「なるべく早く合流するのです!」
 Lilyが叫ぶのへ、零とヴェルーリアがうなづいた。果たして、二人の前には、どこか気品さすら感じさせるフライレイスの姿がある。フライレイスの口元に魔力と毒素が凝縮された。レーザーカッターじみたそれが解き放たれ、零とヴェルーリアを狙う。ヴェルーリアが、魔術障壁をとっさに展開して、それを受け止める。
「貴方の相手は私だよ!
 零さん、攻撃お願い!」
「任せろ!」
 火の玉ガントレットによる、残影の一撃――いや、多撃! 放たれたそれが、フライレイスの皮膚をたたき伏せる。
 さて、一方で、残されたメンバーによる滅気竜との戦いも続いている。戦場の真ん中に位置どる形で、スティアは回復手を担当し、二つの戦端の維持を続けていた。
「悪い子になってしまったのなら……!」
 アリカが叫ぶ。その掲げた手から放たれる黒の顎が、滅気竜に食らいついた。ぎゅうああ、と悲鳴を上げる滅気竜が、しかしアリカに強烈な体当たりをぶちかました。
「……っ!」
 たまらず受け止め、転がるアリカを、ストイシャが受け止める。
「だ、大丈夫……!?」
「はい! 大丈夫、なのですっ!」
 傷つきながらも、力強く立ち上がる。
「……ストイシャさん。終わったら、このあたりを……ストイシャさんの住んでいた場所を、案内してほしいのです」
 そう、微笑んでお願いした。友達のために、アリカができる全部を、ここでやるために。そして、その決意を固めるための約束を、ここに。
「……うん」
 ストイシャもうなづいた。
「その意気はいいが、しっかり体勢は立て直すのだぞ!」
 武蔵が叫び、天羽々斬の斬撃をたたきつける。ぎゅう、と吠える滅気竜が、その獰猛な瞳を武蔵にたたきつけた。
「我々は独りではない、のだからな。
 ……それに、私も……ムラデンのことを、義父上殿、と呼ばねばならんかもしれないし……」
「ああ、お嫁さんの……」
 ストイシャが、なにかを納得したように言った。多分ムラデンが居たら、まだ嫁じゃない、というのだろうがさておき。
「とにかく! 敵は武蔵がひきつける! 総員、抜びょう! 砲撃戦用意!」
「ええ、了解です。砲撃ではありませんが、遠距離攻撃なのは事実です!」
 ジョシュアが声を上げ、その手をふるった。放たれた毒粉が、滅気竜の体をむしばむ。ぎゅう、ぎゅうと悲鳴を上げ、それがわずかに膝をつく――。
「ごめんなさい、なのです……!」
 Lilyが赤の闘気をたたきつける! 果たして、それをまともに受けた滅気竜が、断末魔を上げて生命活動を停止した。
「いい調子だ、次を狙うぞ! 吹っ飛べ!」
 シラスが叫び、再び魔糸を展開する。うまくフライレイスを守ろうとする滅気竜は、シラスの戦場を支配するかのような戦術に翻弄されるばかりだろう。
「こっちは順調……だけれど、ヴェルーリアさんは大丈夫!?」
 スティアが訪ねるのへ、ヴェルーリアはうなづいた。
「うん! まだまだ!」
 そう言って見せるが、疲労の色は濃い。おそらくそう遠くないタイミングで交代が必要だろう。スティアがそれを察し、シラスにアイコンタクトをする。シラスはうなづいた。
「一気に決めようぜ。長引かせるのは相手にも悪い!」
「そうなのです!」
 アリカが叫び、黒の顎をたたきつける。間髪入れず、Lilyが赤の闘気をたたきつけて、武蔵が刃を突き刺した。
「二体目!」
 うまく攻撃を重ねる仲間たちに、滅気竜は確実にその数を減らしていく。時折、フライレイスのブレスが戦場を毒で焼くが、ダメージは小さくないとしても、しかしイレギュラーズたちの戦意を砕くほどのものではない。無論、決死ともいえる滅気竜の反撃も、イレギュラーズたちの決意を崩壊させるほどのものではなかった。
「武蔵さんも無理しないで!」
 スティアからかけられた回復の光を受けながら、武蔵は痛む体に鞭をうって立ち上がる。
「問題ない。武蔵は沈まん!」
 決して楽な戦いとは言えない。傷は確実に増えていったし、可能性の箱をこじ開ける者もいた。ただ、先述したとおりに、それがイレギュラーズたちの心を砕いたかといえばNOだ。
 イレギュラーズたちは立ち続ける……この戦いの場に!
「ごめんね……!」
 ストイシャが、冷気の爪を作り上げ、滅気竜を切り付ける。ばぎばぎ、と体が固まるような強烈な冷気が、滅気竜の動きを鈍らせた。
「ラストアタックはもらうぜ」
 シラスがその言葉通りに、滅気竜にとどめの一撃を放った。その拳にまとう魔力は、強烈にして苛烈。その一打一打すべてが必殺の一撃となるであろうそれは、まさに竜剣の斬!
 打ち込まれた拳が、滅気竜の体を砕くかのような衝撃を与えた。ぐるん、と白目をむいて滅気竜が大地に落下する。
「次だ!」
 シラスが叫ぶのへ、ジョシュアが続く。
「ヴェルーリア様が限界です、スティア様!」
 ジョシュアの言葉通りに、ヴェルーリアは流石に限界を迎えつつあった。ぐらり、と片膝をつこうとするヴェルーリアを、零が抱きかかえて離脱。
「スティア、頼めるか!」
「まかせて、交代!」
 霊の言葉に、スティアがうなづく。果たして新たな敵を発見したフライレイスが、きゅうあ、と鳴く。
「……竜ではない亜竜とはいえ、あなたは気高いものだったんだね」
 スティアの瞳が、悲しみに彩られた。
「……祈りを。悼みを。傲慢でも、これからあなたを殺す者として」
 構える。フライレイスが、わずかに、その瞳に理性の青を戻し、そして消えた。
 たん、と、フライレイスが飛び上がる。くああ、と息を吸い込み、強烈な毒のブレスを吐き散らす!
「来ます、防御を!」
 ジョシュアが叫んだ。一斉に身構えるイレギュラーズたちを、激痛が襲う!
「みんな……!」
 ストイシャが叫ぶのへ、零は笑って見せた。
「大丈夫だ。約束しただろ」
 それは、この場にいるすべてのものが。
 必ず、この戦いを終えて見せると、約束したのだから。
 守る。
 その言葉を!
「いくよ、みんな!」
 スティアの叫びに、仲間たちはうなづいた。
「砲撃をぶつける! ジョシュア、貴様もだ!」
「解ってます! でも、僕のは砲撃ではないですからね!」
 ジョシュアがその手を振るい、ベラドンナの毒をまく。暗闇に閉ざされたように動きの鈍ったフライレイスを、武蔵の砲撃が一度、二度、狙い撃った!
「修正必要なし、角度良し!
 本当のゼロ距離射撃身を見せてやろう!」
 放たれる砲弾! それが爆風とともにフライレイスを穿つ! ぎゅうああ、と悲鳴を上げつつ、しかし反撃とばかりに強烈なブレスを吐き出す!
「ストイシャさん!」
 アリカがとっさに、ストイシャをかばった。激痛が、アリカの意識を吹き飛ばす。
「アリカ……!」
「大丈夫、守ってあげて、この場所を……!」
 そう告げるアリカが倒れ伏すのを、ストイシャは辛そうな瞳で、しかしその意をくんで逸らした。
「フライレイス……!」
 ストイシャが、様々な感情を乗せながら、息を吸い込む。同時、苛烈な氷のブレスがフライレイスをたたいた!
「はっ、防寒着でも持ってくりゃ良かったな!」
 すぐ横を吹きすさぶ嵐に笑いながら、シラスがジョークを飛ばす。体制を整えたヴェルーリアが駆けだし、
「少しでも攻撃に参加するね!」
 叫ぶ。同時に手を振るえば、上空の毒竜兵にも負けず劣らぬ勢いの軍勢が召喚され、フライレイスに一斉に組み付く!
「Lilyさん! 続いて!」
「任せてほしいのです!」
 痛む体を押して、Lilyが再び赤の闘気をたたきつけた! ぎゃあ、と甲高い悲鳴を上げたフライレイスが、ゆっくりと飛び上がろうとするのを、
「飛び回るんじゃねえ、おすわり!」
 シラスの魔糸が、それを許さない! たたきつけられたフライレイス、その眼前に、霊が飛び込んだ!
「こいつで――!」
 ぐわおうん、と。強烈な拳の一撃が叩き込まれる。ぎゅあ、と、フライレイスが悲鳴を上げ、大地に横たわった。ずん、と強烈な地響きが響き渡る。ストイシャが、少しだけ苦しそうな顔をした。
「……」
 わずかに、フライレイスが、声を上げた。
「……ごめんなさい、と」
 ジョシュアが、そう、伝えた。
「……あなたは、悪くないよ……フライレイス……」
 ストイシャが、涙をこらえるように、そういった。きゅう、と最後に声を上げて、フライレイスが力なく横たわった。

「えっと、竜の作法とか、あるのかな?」
 スティアが訊ねる。戦いを終えたイレギュラーズたちが取り組んだことといえば、戦った滅気竜とフライレイスたちを弔うことだった。
「ううん。ニンゲンのやり方でいいと思う」
 ストイシャが応える。
「……みんなが、弔いたいって言ってくれたから。
 皆の気持ちが一番伝わるので、いいと思う」
「そっか……」
 スティアが、微笑んでそう言った。
 あの巨体を、すべて埋めることは困難だ。だから、大半は焼却処分しつつも、角や牙などをシンボルにして、この地に埋めることにしたのだ。
「ニンゲンは、こういう時に、死後の安らぎを、祈るの」
 スティアがそう言って手を組むのへ、ストイシャもまねた。仲間たちも、それに準ずる。
「……フライレイス、良い子たちだったんだよな、ストイシャ」
 零が言うのへ、ストイシャはうなづいた。
「ん……」
「……忘れず覚えていれば記憶の中にはいるんだ。
 俺はそうするつもり」
 そう、あたまをぽんと撫でてやる。ストイシャは涙をこらえるように、うなづいた。
「さて、ひとまず戻ろうか」
 シラスが提案する。
「そうですね。傷ついた方もいますから、今はひとまず安全を確保できる場所へ」
 ジョシュアもうなづいた。調査を行いたいところだが、ここでは明確な答えは出ないだろう。
「そうだね。アリカさん、大丈夫? 歩ける?」
 ヴェルーリアが訊ねるのへ、アリカは苦笑した。
「は、はい。大丈夫ですよ!」
「ご、ごめんね、アリカ……」
 ストイシャが慌てたように言うのへ、アリカは笑った。
「えへへ、力になれて、良かったです!」
「うん。ストイシャは、友達、ですから」
 Lilyもまた微笑む。
「うむ……こう、私もいとこ? 叔母? になるわけだからな……」
 複雑な家系図を思い描きつつ、武蔵が言った。
「じゃあ、帰ろうか」
 スティアの言葉に、皆はうなづいた。空はすっかりと静けさを取り戻していて、ほかのチームも無事に作戦を終えたことを、仲間たちに知らせていた。
 ザビアボロス一族の領域で起きた事件は、こうして静かに、幕を下ろしたのである――。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 故郷は、取り戻されたのです――。

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