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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>星空より来る毒、シルヴァリィ:Side Black

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●星降る
 星海獣。
 それは、空に凶星が輝くときに、訪れるとされる災厄――。
 無差別にエネルギーを喰らい、取り込み、進化する、恐るべき終焉に来る獣――。
 それは、ピュニシオンの森に存在する、『ザビアボロス一族の領域』にもまた、その魔手を伸ばしつつあった。
 それは、本来ならば、小さき甲殻類のごとき姿であった。ザビアボロスの領域に落ちた星海獣のうち、その多くは『領域に存在する毒素』によって衰弱、死に絶えていったが、しかし一部の獣は、その死骸を、死にかけた仲間を喰らい、さらに強力、凶悪に、短期間に進化していった。
 やがて、そのうちの一匹が、ゆっくりと身を起こす。さながら蟲毒の壺のなかめいた状況から、今まさに人の形へと成ったそれは、病的なまでに薄い色素と、漆黒のような長い髪を持った女のように見えた。
「う、い、あ」
 それが、ぼそぼそとうなる。まるで出来立ての声帯を試すかのような仕草は、急速な進化による『慣れ』を覚えるようにも思える。やがて、それがすっきりと息を吸い込むと、
「食べる。この地の毒を、すべて」
 そう、言った。知能も獣のそれから一瞬にして進化したと思われる。毒の地より生まれたそれは、今まさに世界を喰らう猛毒となって、この世界に生誕した。

「厄介だな……」
 そう、ムラデンは言う。現在ヘスペリデスとピュニシオン近辺をラドネスチタたちが守護しているわけだが、その眷属の一人から、急遽連絡がもたらされたのである。
 曰く、ザビアボロス一族の領域に、星の獣現る。
 突如として現れ、蟲毒の果てに急速進化したその人型の個体は、周辺の亜竜たちを滅びのアークによって狂わせ、『滅気竜』として自身の配下に置いた。そして、新たなる領域の長シルヴァリィを名乗り、ザビアボロスの領域から零れ落ちようとしているらしいのだ。
「……私、あそこにいい思い出は、ないけど」
 ストイシャが言う。
「お菓子作ってたら、先代に怒られたし。
 でも、お姉さまの、場所だから」
「そうだな。できれば取り返したい。
 ラドネスチタに任せっきりってのもしゃくだものね」
 二人の従者がそういうのへ、ザビーネ=ザビアボロス――本来の領域の主はうなづく。
「ムラデンは、残ってもよいのですよ。
 お嫁さんが、いるのでしょう?」
「いや、嫁じゃないけど」
 ムラデンが眉をしかめた。
「嫁じゃないの……?」
 ストイシャが言うのへ、
「結婚は、まだ」
「『は』」
 ふひひ、とストイシャが笑う。ムラデンがかぶりを振った。
「それに、そんなことで逃げてる僕は、あいつは好きにならないでしょ……じゃなくて!
 とにかく、僕らで……と思ったけど、正直僕とストイシャは、まだ本調子じゃないんだよね」
「申し訳ありませんが、私も」
 ザビーネが、静かにうなづく。三人は、前回のヘスペリデスの戦いでの消耗が癒えていない。多少はマシになったとはいえ、かつての十全の力を出すことは困難だ。
「そ、それに、眷属の亜竜を使うのも危ない。
 終焉獣? っていうのに寄生されたり、滅びのアークの影響で滅気竜になっちゃっても困る……」
 ストイシャのいうことはもっともだ。今現状、最も利用できるのは眷属であるザビアボロスの領域の亜竜だが、彼らが敵に利用される可能性は充分以上にあった。
「実際、戦闘能力の高いアドヴァルグとフライレイスの二匹が滅気竜にされちゃったからなぁ。
 ナイトシーカーより、忠心があっていいんだけど、仇になっちゃったか……」
 ムラデンが名を上げた二匹は、眷属の中でも特に強力な種の内の二匹だ。かの群れは、侵略者たるシルヴァリィに果敢に戦いを挑んだが、そのうちの一匹ずつを滅気竜にされてしまい、撤退をしたのだという。
「敵はほかにも滅気竜の群れがいるんだ。どうしようかな?」
「そう、ですね」
 ザビーネが言う。
「領域の中でなら、私は、権能を使って内部の毒素を兵隊にすることができます。
 ……本調子ならば、そのまま戦うこともできたのですが。
 今は、おそらく、毒素の兵を維持することで精いっぱいでしょう」
「膠着状態にはもっていけるけど、親玉は倒せない」
「……前の時と、一緒、ね」
 ムラデンとストイシャが、うん、と声を上げた。
『なら、また、みんなに力を借りればいい』
 同時にそういう。二人は長い交流の果てに、人間――ローレット・イレギュラーズたちへの信頼の心を持ち合わせていた。それは、ザビーネも同様に持ち合わせていた気持ちだった。
「……では、彼らの力を借りましょう。
 私たちの、故郷を取り戻すために」
 そういうザビーネの言葉に、二人はうなづいた――。

●Side Black
 ピュニシオンにほど近い亜竜種たちの集落。そこに集められたの『あなた』たちローレット・イレギュラーズたちは、今回の依頼の主……ザビーネ=ザビアボロスの一礼による迎え入れを受けた。
「この度は、みなさまのご助力に感謝を。
 ……信頼できる方に、お声がけをしたつもりです」
 それは、世辞か、鼓舞か。いや、どちらの機微も、ザビーネは未だ持ち合わせてはいまい。
「状況は」
 そういう仲間の一人に、『あなた』もうなづく。ザビーネはうなづくと、簡単に現在の状況を説明し始めた。
 曰く、ザビアボロスの領域に、星海獣、シルヴァリィが現れたのだという。彼女(?)は領域内のあらゆるものを喰らいながら、亜竜を滅気竜へと変え、外へと侵攻を始めようとしているのだそうだ――。
「私は、自らの権能を使い、領域の毒素を用いて『毒竜兵』を作り上げます。簡易な使い魔のようなものですが、そこは竜の魔術ですので。ご信頼ください。
 ですが、私は先の戦いより消耗し、未だ十全とは言えぬ身。
 おそらくは、この毒竜兵を維持し、木っ端の滅気竜を退けるのが精いっぱいでしょう」
 無論、最大限のサポートは行う、としたうえで、
「皆様にお願いしたいのは、星海の獣、シルヴァリィの撃破です。
 かの獣の性能はわかりませんが、おそらくは恐るべき相手のはずです。
 皆様には、最も危険な敵に相対してもらうこととなります」
「大丈夫ですよ」
 と、仲間の一人が言った。
「このくらいなら、いつものことですから!」
 そういうのへ、『あなた』もうなづく。様々な修羅場をくぐってきた。それに、今は世界の危機。この程度の相手にしり込みをしている余裕などはない!
「それでは、参りましょう。
 皆様、くれぐれも、ご無理はなさらぬよう」
「貴方もな」
 そういう仲間に、『あなた』も笑って頷く。ザビーネは不思議そうに小首をかしげて、笑った。
「……ムラデンやストイシャ以外から、このように心配される経験は少ないのですが。
 良いものですね」

●星の獣、シルヴァリィ
 それは――本能のままに喰らう怪物である。
 この地の毒素を。この地のすべてを。この地の主を気取る竜を――。
 喰らい。破滅をもたらすための。
「私はシルヴァリィ。この地のすべてを、喰らいます」
 どこか、ザビーネにも似たようなその相貌を――。
 戦場に到着したる、『あなた』たちへと、向けた。

GMコメント

お世話になっております。洗井落雲です。
星の獣を撃破します。

●成功条件
 すべての敵の撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●連動依頼について
 『星空より来る毒、シルヴァリィ:Side Black』、『Side Red』、『Side Blue』の3シナリオは連動シナリオとなっており、それぞれのシナリオ成否がそれぞれに影響します。
 (結果のみの緩い連動ですので、シナリオ間で連携をとる必要などはありません。ので、お気軽にご参加ください)
 また、それぞれの3シナリオは排他設定がなされているため、『この三つの中から、同時に二つ以上のシナリオに参加できません』。ご了承の上ご参加ください。

●状況
 ピュニシオンの森に存在する、ザビアボロス一族の領域。毒素の渦巻くその場所に、星の獣、星海獣が現れました。
 彼らの大半は領域の毒で死に絶えましたが、しかしわずかに耐性を持つものが蟲毒のように食らいあい、一匹の怪物を生み出します。
 それが、『空よりの毒』、シルヴァリィです。ザビーネ=ザビアボロスにもどこか似た雰囲気を持つ彼女(?)は、迎撃に出たザビアボロスの眷属亜竜を返り討ちに、それどころか、滅びのアークを中て、滅気竜へと変えてしまいます。
 今や領域を乗っ取らんとする彼女たちの軍勢ですが、それを許すわけにはいきません。
 皆さんは、ザビーネ=ザビアボロスとともに、このシルヴァリィを撃破するのです。
 作戦決行エリアはザビアボロスの領域。
 特に毒に関与したデバフが蔓延する場所ですので、対策はしっかりとしていきましょう。

●エネミーデータ
 空よりの毒、シルヴァリィ ×1
  ザビアボロスの領域の毒素を飲み込んで生まれた星海獣です。完全人型に進化しており、その姿はザビーネ=ザビアボロスにも似ています。
  人型ゆえの高い知能を持ち合わせており、会話も可能です。が、基本的には「空腹を訴え、この地のすべてを喰らう」ことくらいしか話さないでしょう。
  この領域で生まれただけあり、『毒素』に関する能力に特化しています。様々なBSを付与し、皆さんを弱体化。じわじわとなぶり殺しにしてくるでしょう。
  半面、純粋な戦闘能力は抑え目です。一気呵成で倒してやるのも一つの手でしょう。

 滅気竜、グランザズ ×2
  ザビアボロスの眷属亜竜の内の一種類です。何匹かが滅気竜となってしまっています。
  ほとんどの滅気竜は、ザビーネの術式で対応していますが、そのうちシルヴァリィの直掩にいたのがこの二匹です。亜竜ゆえの高い生命力と攻撃力を持ち合わせながら、それが滅気竜となったことでさらに強化されています。
  シンプルに強い前衛、といったイメージです。うまく足止めしなければ、シルヴァリィに近づくことは難しいはずです。

●味方NPC
 ザビーネ=ザビアボロス
  バシレウスが一つ、強力な竜種です。
  現在彼女は、ザビアボロスの領域のみで使用できる竜言語魔法を用いて、『毒竜兵』を多数生み出し、周辺の滅気竜への対処を行っています。
  ザビーネがいる限り、周辺の滅気竜への対処をする必要はありません。放っておけば全滅させてくれるでしょう。
  また、シルヴァリィとの戦闘面でも手伝ってくれます。敵全体に毒系列をはじめとしたBSを付与してくれたり、学びたてですが簡易な回復術で援護してくれるでしょう。
  とはいえ、ザビーネが万が一でも戦闘不能になれば、毒竜兵が消滅し、周辺の滅気竜がなだれ込んでくるはずです。
  頼りにしつつ、時に守るような戦い方が必要でしょう。

 以上、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <グレート・カタストロフ>星空より来る毒、シルヴァリィ:Side Black完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年01月29日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

サポートNPC一覧(1人)

ザビーネ=ザビアボロス(p3n000333)
バシレウス

リプレイ

●空より、来る
 うっそうと生い茂る森林の中を、一行は駆ける。
 ばしゃばしゃと足元を濡らす毒々しい沼の毒素は、ザビーネ=ザビアボロスの魔術によって一時的に押さられていた。
 空を見てみれば、ぎゃあぎゃあと悍ましい声を上げ、らんらんと光る狂気の瞳をのぞかせる、狂気の亜竜――滅気竜、が存在する。滅びのアークに汚染されたそれは、ぎちぎちと膨れ上がった体に狂気と絶望を乗せ、毒の地を飛び回っていた。
「前に来た時より、にぎやかですね!」
 『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)が、両手で頭を押さえながら叫ぶ。ばさり、とおちてきたのは、おそらく滅気竜が切り裂いた巨木の枝か何かだろう。それが毒の沼に落下して、ぶすぶすと溶けていくのがわかる。
「こういうにぎやかさじゃなくて、もっと明るいのが良かった気もしますけれど!」
「ええ、そこはまことに、申し訳ございません」
 いつも通り、どこかふわふわとした様子でザビーネが言う。
「わがままを申し上げれば――彼らもまた、この地を守ろうとした眷属のなれの果て。
 容赦をお願いするわけではありませんが、少しだけ悼んでいただければ」
「そうか、滅気竜は、滅びのアークに汚染された、ザビーネさんの眷属の亜竜たちなんだね……」
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が、悔しげにつぶやいた。確かに、今上空を飛ぶ彼らは、この地に落ちた星海獣を討つべく飛来した、ザビアボロスの眷属亜竜たちの成れの果てだ。何度も説明するようになってしまうが、滅びのアークに汚染された彼らは、もはや元の亜竜とは似ても似つかぬ、悍ましい怪物たちへとなり果ててしまった。
「……助けることは、できないんだよね」
「……ええ」
 ザビーネがそう告げるのへ、ヨゾラは悔しげに唇をかんだ。きっと、ザビーネが本調子であったとしても、彼らを元に戻すことはできなかっただろう。
「悼む、ッスか。そういう言葉が、あなたから出る……」
 少しだけ複雑そうな表情で、『まずは、お話から。』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)は言った。どの口が、というべきか。理解できたのか、というべきか。いや、今はそんなことを言っている場合ではないだろう。
「……イルミナ」
 ザビーネが声を上げたのへ、イルミナはかぶりを振った。
「いいえ。ただ『呼べば来ると思ったッスか!?』って、ちょっと文句を言っただけッスよ、ザビーネ!
 イルミナのことを、便利屋か何かだと思ってないッスか!? イルミナだって、忙しいんスからね!」
「ええ。イルミナなら、来てくれると」
 ためらいなくそういうザビーネに、イルミナはまた表情をゆがめた。
「うわー、ほんっと、やりにくいッスね! ザビーネは!」
「もうしわけありません。今度また、ソチャでもご馳走いたします」
「別にソチャはいいッス!」
「やりづれぇよなぁ、こいつ……」
 『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が苦笑した。
「とにかく、お前が万全なら、星海獣なんざひと捻りだったろうが――、
 まぁいい、どのみち空から異物と聞いちゃ俺も黙っては居られん。
 『領域は』守ってやるよ。”お姫サマ”」
「アルヴァ。私は、王族というわけではいので、お姫様では――」
「回復術もいいが、今度はジョークくらい学んで来い!
 ああ、もういい! で、空に飛んでるやつらの対抗策があるんだったな!?」
 アルヴァが無理やり会話を打ち切ったので、少しだけザビーネが頬を膨らませた。
「ええ。私は未だ若輩ゆえに、この領域でのみ展開できる竜言語魔法ですが。
 毒竜兵を召喚し、上空の敵の排除に当たらせます」
 そう言って、ザビーネが何事かをつぶやく。おそらく竜の詠唱であるそれが空気を振るわせるや、あちこちの毒沼が隆起して、竜とも人ともつかぬ怪物が生み出され、咆哮を上げた。無数のそれが、背の翼をはばたかせ、一気呵成に上空へとかけていく。間髪入れず、あちこちで獣同士がぶつかり合う戦音が鳴り響いた。
「……すごい術ですね」
 『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)が感心したように声を上げる。上空の滅気竜たちは、なるほど、毒竜兵たちに抑えられ、イレギュラーズたちを狙うことは全くできないようだ。
「いえ、ザビーネさんのことは、いろいろと伺っていましたが。
 やはり、竜なのですね」
「ええ、恥ずかしながら、バシレウスの末席を」
 ほんわりと告げるザビーネ。だが、
「とはいえ。今はあれの制御に、力の大半を割かねばならぬ状態です。
 おそらく、付近に潜むアドヴァルグとフライレイスは、今の私の毒竜兵程度なら簡単に迎撃できるでしょう。
 そこは、ムラデンと、ストイシャ、二人と、そのお友達たちにお任せしていますが――」
「心配、ですか?」
「……お恥ずかしながら。もっと二人の力を、二人の信じる友を、信頼してあげればよいのですが」
「それは、恥ずかしいことじゃないでしょ」
 『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)が笑った。
「大切な人だから、心配なんだ。
 大切な人だから、不安なんだよ。
 だって、危険な場所に送り出すんでしょ?」
 その言葉に、ザビーネが小首をかしげた。
「……そういうものでしょうか? 竜とは強きものです。強くて、当たり前のものなのです」
「強くたって、心配しちゃいけない理由はないよ。
 ザビーネさんはきっと、私より強いかもしれないけれど。
 それでも、私だって心配してるんだから。
 とにかく! その気持ちは正しくて! でも、信じてあげて! 矛盾に感じるかもしれないけど!」
「いえ。ご助言、ありがとうございます」
 ザビーネがほほ笑む。さて、このまま会話を続けられるのならば幸福だったかもしれないが、状況はそうはいかない。イレギュラーズたちが討伐すべき本命は、星海の獣なのだ。はたして進んだ先に、開けた場所が見えた。無論、開けたとはいえ、場所柄の特性なのだろうか、どこか陰鬱とした暗い雰囲気はそのままである。また、その広場の奥には、巨大な洞穴の入り口が見えただろう。荒れ野のよう岩山をくりぬいたのであろうそれは、竜がすっぽりと収まることができるような巨大なものだ。まるで森の終着点、その壁のような底からは、わずかにイレギュラーズたちが感じたこともある気配が、うっすらと漂っている。
「ハーデスの」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が、かつて己がその首を取った悪竜の名を呼ぶ。かの洞穴から漂っていたのは、ハーデス=ザビアボロスの気配に違いない。
「はい。寝所でした」
 ザビーネが言う。なるほど、ならば、その気配の残滓が、わずかにこびりついていても致し方あるまい。彼は悍ましい呪いを残してもいたし、もとよりザビーネよりも強大なバシレウスである。とはいえ、あくまで残滓は残滓。残り香のようなものであり、それ自体に大した力はもたない。
 いずれにしても、ここがザビアボロスの一族の神聖なる寝所というわけだ。同時に、この領域において、最も深く、最も毒素に満ちた場所でもある――。
「ということは、奴がシルヴァリィか」
 汰磨羈が身構えた。視線の外れにいたわけではないが、まるでその毒の景色の一部であるかのような錯覚を覚えるほどに、その存在はあまりにも希薄ではあった。
 枯れ幹に、黒い柳の枝が生えている木にも似ている。いや、よく見れば、それは薄白い肌をした、細身の女であることに気づいただろう。黒の髪は、ぴたりと濡れたように体に張り付いている。衣服はない。とはいえ、例えばへそのような、生物なら当たり前のように持っている器官は見受けられず、あらゆるものはのっぺりとしているようにも見えた。
 それでも奇妙なことに、顔は、人間の顔である。つるりと白い肌には、血色の悪い唇がぷくりと膨らんでおり、果たす手呼吸が必要なのかは不明ではあったものの、すっとした鼻がついている。相貌は、暗い穴の底を覗く様な黒であり、それはこちらをじつ、と見つめている。
「……御主に似ている、か」
 汰磨羈が、ゆっくりといった。些かあちらのほうが血色が悪いが、それでも、シルヴァリィの姿は、ザビーネのそれを想起させる。もししっかりと着飾らせ、隣に並べれば姉妹のようにも見えただろうか。
「私の一族は、竜の姿はほぼ同一です」
 ザビーネが言った。
「ああ。ハーデスめも、よく似ていた」
「で、あるならば。この毒の地で生まれた彼女も、なにか通ずるものあるのかも、しれませんね」
「そうか。ま、御主のほうが何倍も美人だ」
 ジョークのように言って見せる汰磨羈へ、ザビーネは、解ってか知らずか、「ありがとうございます」と答える。
「汰磨羈さんは、似てるって言ったけどさ。
 確かに、ザビーネさん風だけれども、でもぜんぜん似てないよ」
 『無尽虎爪』ソア(p3p007025)が、静かに声を上げた。
「だって、ザビーネさんのほうが、ずっとずっと、生きてる、って気配がある。
 あれは――」
 ソアが、その独特の感性で、しっかりと本質を見抜いている。
「生きてるんじゃない。滅ぼすための何かだ」
 シルヴァリィは確かに滅びをもたらす星海の獣である。で、あるならば、そのために生まれ、毒を飲み成長したあれは、果たして、生命であるのだろうか――?
 個体差があるのは事実だろうが、ソアにしてみれば、シルヴァリィはより無機質で、オートマチックな何かに思えた。きっと、そうなのだろう。シルヴァリィという怪物は、少なくともこの地でうまれたこの星海の獣は、
「――ああ、おなかが、すきました」
 喰らうことしか、考えていないのだ。
「まさしく滅びの化身、ですか」
 『黄昏の影』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)が、昏い瞳を向けた。
「なれば――ああ、私が対峙するのに、まったく、ふさわしい」
 懺悔か。悔恨か。その様な色が、その言の葉に見えた。あれは、世界の破滅だ。終焉の兆し。終わりの、兆し。
「ザビーネはん。
 ……あいつぶちのめせばええんやね。良し。任された」
 『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)が、しかし油断なく上空を見上げた。
「……追加でお出ましか」
 舞い降りたのは、二匹の滅気竜。グランザズだ。
「直掩、って奴やったんやね。意外と頭が回るもんや」
「人並みの知能ある、ってやつか」
 アルヴァが言うのへ、仲間たちがうなづいた。
「ま、知恵ついた獣がだから何だって感じだ。
 やることは変わらない」
「そうッスね。シンプルならば、要らないことは考えないで済む」
 イルミナが、身構えた。
「世界の危機ならば、倒して打開する。それだけッスよ」
「ええ、ええ! それに、あいつはザビーネさんとは似ても似つかないのが何か凄い癪に障りますね!
 ザビーネさんの方が圧倒的に強いし頭も良いし性格も良くて可愛いです!」
 ねねこがいささか鼻息荒くそういうのへ、彩陽が少しだけ笑った。
「そうやね。
 まがい物にはご退場ねがおか」
 言葉にあわせ、仲間たちが身構える。
 シルヴァリィが、ゆっくりと、その手を上げ、
「食らい殺します。行きなさい」
 死刑宣告のごとく、振り下ろした。とたん、二匹のグランザズが、雄たけびを上げて突撃!
「くるよ、みんな!」
 ルビーが叫ぶのへ、
「うん! グランザズ……助けてあげられないのは悔しいけれど! でも!」
 ヨゾラが応える。
「怒りはシルヴァリィのほうへぶつけてやれ! やるぞ!」
 汰磨羈の言葉に、仲間たちも一斉に駆けだした。
「ええ、始めましょう。これは私の罪なれば。これが私の罰なれば」
 ヴァイオレットが、自嘲を含めたような声色でつぶやく。
「ここまで紡いだ、竜との絆です。それを裏切るわけにはいかない!」
 ルーキスが叫び、刃を掲げる。はたして、それを合図に、戦いは始まった。

●滅気竜、そしてシルヴァリィ
 この時、真っ先に戦場に飛び込んだのは、ルビー。続いて彩陽となる。
「彩陽さん!」
「ああ」
 うなづきあう二人――シルヴァリィ目指すその先に、案の定グランザズが立ちはだかる!
「そうやろね。ただで通してくれるはずがない」
「けど、押し通るよ!」
 ルビーが、手にした大剣を鎌の形状に変化させた。そのまま身構えて、左手側のグランザズに襲い掛かる!
「で、や、ああっ!!」
 ふりあげた大鎌が、グランザズの体を打ち上げる。巨体が、はるかに小さなルビーのそれによって! 果たして、力か、技術か――いずれにしても、歴戦の勇者だからこそのなせる業。
「撃って!」
「任せ!」
 彩陽がうなづいた。その腕を振るえば、混沌の泥が世界より巻き起こり、二体のグランザズを飲み込んだ。だが、あふれる泥の中から二体はすぐに飛び上がり、体勢を立て直すと、シルヴァリィをかばう様に、イレギュラーズたちの前に立ちはだかる。
「……悔しいやろね。あいつの兵隊みたいに使われるんは……!」
「わたしの、へいたい、ですから」
 そう、シルヴァリィが声を上げる。
「滅びの力で、彼らはくわれた。くわれれば、わたしのもの」
「その声でしゃべんないでください! ちょっとむかつきます!」
 よく似た声のシルヴァリィに、ねねこが叫んだ。
「まぁ、そうッスね! その声は、こっちの一人で充分ッス!」
 イルミナが叫び、その両の手のエネルギーブレードを存分に振るい、グランザズに切りつけた。ばしゅ、と切り傷から血液のようなものが噴出し、しかしすぐに毒霧のようなものがそれをふさぐ。簡易な治癒術式か。とはいえ、そこはイルミナの斬撃。ノーダメージなどとはさせない。
 イレギュラーズたちの猛攻の一方で、シルヴァリィもただぼうっとしているわけではないのは確かだ。シルヴァリィはすぅ、と息を吸い込むと、
「あ、あ、あ、あ、あ」
 さながら歌か、あるいは竜のブレスかのように、強烈にそれを吐き出した。吹き荒れる其れは周囲の毒素と、シルヴァリィ自身の毒素を混ぜ込み縛毒化し、イレギュラーズたちを飲み込まんばかりに世界に充満する。
「なんという……!」
 チリチリと肌を焼く痛みにわずかな喜びを感じながら、しかしさすがのヴァイオレットも舌を巻く。強烈な毒素は、なるほど、今のザビーネのそれに勝るとも劣るまい。
「これが、私たちの前に立ちはだかっている破滅、ですか……!
 この苦しさも、辛さも……私が負うべき罪ならば……」
 グランザズの攻撃を引き受け続けたヴァイオレットの傷は深い。加えてシルヴァリィの攻勢が加算されれば、より困難な状況に陥るだろう。
「だからって、しょんぼりしてらんないでしょ!」
 飛び跳ねるソアが、グランザズの巨体を蹴り上げて跳躍――一気にシルヴァリィに肉薄する。
「こんにちは――あなた少しもおいしくなさそう……がおっ!」
 注意をひきつけるように吠えれば、果たしてその挑戦に乗ったのか、シルヴァリィが吠える。
「がお。あなたはおいしそう」
「ふふん、ボクを簡単に食べられるなんて思わないでよね!
 こっちは任せて!」
「任せた」
 アルヴァがうなづく。
「ヨゾラ、ねねこ、オヒメサマ! 回復支援は厚く頼む。
 手を抜いて何とかなる相手じゃねぇのは事実だ!」
 グランザズが、その脚部を振り下ろした。いわゆる翼竜タイプのそれは、変容して大木のごとくなった太い足と、鞭のようにも使える翼で、近づくものを打ち払う。アルヴァは華麗に飛び上がると、ひとまずぞの一撃を回避。
「まかせて! ザビーネさんも皆も、誰も倒れさせないよ……!」
 ヨゾラがうなづく。ヨゾラの無穢の愛が、荒れ狂う毒素を吹き飛ばすがごとく清浄なる風を吹かせた。
「お見事。私もまた未熟なれど――」
 ザビーネが竜の呪文を唱えると、ヨゾラのそれには及ばぬが、さわやかとも感じられる力が巻き起こり、毒素を中和していくのを感じられた。
「ほう――見事なものだな! ねねこの力添えか?」
 汰磨羈がそういうのへ、ねねこは得意げに笑った。
「ふふん、私は道を示しただけです。ザビーネさんの努力ですよ!」
「それは好い! 毒と薬は表裏一体。
 ザビーネ、もろもろが終わったら、練達で薬学も学ぶといい。
 口添えは私がしよう!」
「ありがとうございます、たまきち」
 ザビーネがほほ笑むのへ、汰磨羈は笑った。
「親愛の証として受け取っておいてやろう!」
 一気に踏み込む。シルヴァリィの毒の吐息と、グランザズの強烈な一撃。それらを回避し、受け止め、耐えながら、一気呵成にイレギュラーズたちは攻撃を続けている。
「戻せぬのなら、せめて……! 破竹の勢いで行かせて貰うとしよう!」
 汰磨羈がその刃を振るう。とたん、強烈な白日がグランザズの体に発生した。内より外へとはじき出されるような、力の本流。さながらビッグバンのごとき強烈な爆裂――!
「ぎゅ、い、い!」
 耐えるかのように、グランザズが吠えた。そこに飛び込んだのは、ルーキスだ。
「申し訳ありませんが、覚悟を!」
 斬撃が、グランザズを貫いた。同時、行き場を失った力が爆裂するように、グランザズの体がはじけ飛び、間髪入れずにそのすべてが爆裂の中に消滅する。
「防壁に穴が開きました!」
 ルーキスが叫ぶ。
「続いてシルヴァリィを墜とします!」
「任せ!」
 彩陽がうなづいた。
「残りは引き寄せる――その間に、本命を!」
「ああ」
 汰磨羈がうなづいた。
「行くぞ、皆のもの! ここからが正念場だ!」
 その言葉に、仲間たちは一気に踏み込む。果たしてシルヴァリィを抑え込んでいたソアが、にっこりと笑う。
「結構早かったね!」
「このメンバーッスよ!」
 イルミナが言った。ソアがもう一度笑う。
「かもね! やっつけちゃおうって思ってたのに!」
「できそうだから怖いんですよね……!」
 ルーキスが苦笑する。さておき、改めて、イレギュラーズたちはシルヴァリィと相対する形となった。毒素の地より生まれた、毒素をつかさどるもの。なるほど、それもまた、ザビーネと似ているのかもしれない。ただ、こちらは毒を帯びても誇り高き竜。あちらは、ただ食らうだけの魔だ。
「……歪でも、まるで人間だ。こんな短期間に、人の姿にまで進化するとは……!」
 ルーキスが、いささかの恐れを抱きつつもそういう。星海獣、それは底なしの恐ろしい怪物であった。
「だが、頭の中は食うことでいっぱいなんだろうぜ」
 アルヴァが言う。
「お友達にはなれそうにないタイプだね、こいつは」
 ヨゾラが言うのへ、イルミナがうなづく。
「敵なんてそんなのでいいッスよ。そのほうが楽ッス。
 ぶちのめせば、それで終わる」
 身構える。シルヴァリィが、ゆっくりとその漆黒の目をイレギュラーズたちに向けた。
「おいしそう、ですね」
「べー、だ。食べさせてあげませんよ! 私も、ザビーネさんも!」
 ねねこが舌を出して見せるのへ、ヴァイオレットもうっすらとうなづく。
「罰を受ける身なれど。
 それを与えるのは屹度、あなたではありません」
「シルヴァリィ。ここは、私にとっては様々な……思い出のある場所」
 ザビーネが言った。
「退去を」
「わたしが、ここの主。
 ここから、すべてを、たべます」
 シルヴァリィの持つ気配が、ぞわり、と恐ろしいものになった。
「本気で来るよ……!」
 ルビーが言う。
「彩陽もずっとグランザズの相手ができるわけじゃないからね。一気にやっつけよう!」
「うん! いくよ、みんな!」
 ソアの言葉に、一気に仲間たちが踏み込む――。シルヴァリィは、しかし泰然自若とした様子で、イレギュラーズたちを迎え撃った。
「たべ、ます」
 ふるう、その腕を。ソアが足を止めて、その一撃を受け止めた。グランザズに比べれば軽く感じたかもしれないが、しかし、その毒手からしみだす毒が、ソアの体をむしばんでいくのがわかる。
「もう、こればっかり!」
 アルヴァが相槌を打つ。
「オヒメサマと似たタイプだ。ま、ポっと出が、ザビアボロスの毒の方が痛いし強かったがな!」
「ありがとうございます?」
 ザビーネが小首をかしげるのへ、
「脱力しちまうから、援護に専念しててくれ!」
 飛び込んで狙撃銃をふるうアルヴァ。シルヴァリィが、それを受け止めた。反撃にとブレスを吐き出すのを、アルヴァは身をよじって回避。
「全部は避けてられねぇからな、ヨゾラ!」
「うん、誰も死なせたりはしないよ!」
 負けじと吹き放つ清浄なる愛が、シルヴァリィの毒を削る。一方で、ルーキス、イルミナが追撃を見舞う。
「イルミナからは、お前にかける言葉はないッスよ!」
「同じく、です」
 レーザーブレード、そして斬撃が、シルヴァリィを左右から襲う。シルヴァリィは、両手を振るってそれを受け止めた。つ、と走った傷跡は、しかし得体のしれない体液がこぼれるのみだ。
「……見た目だけですね、人間的なのは。中身はやはり、怪物だ」
「うすっぺらいッスよ!」
 サイドの一撃をふるうイルミナに、シルヴァリィはそれを厭うた。思いっきり腕を振り払い、イルミナ、ルーキスを振り払う。一方で、足止めとばかりに放たれたヴァイオレットの鋭い爪の一撃が、シルヴァリィの体を薙いだ。
「……大切な人を殺めたこの手は、最早命を奪う事しか……出来ないのです……。
 されど、それが贖罪となるのならば、私が朽ちるまでに、一匹でも多くの魔を」
「りかいできません。空腹ならば、たべればいい」
「其れで満たされるものならば、どれほど……!」
 ふるう邪神の爪が、シルヴァリィを薙ぐ。後方へと飛びずさったシルヴァリィに、ルビーの斬撃が見舞われた。
「そう、生きてる限り想いは紡がれて思い出となる。
 覇竜領域は私たちがぶつかり合って解かり合えた思い出の場所。ハーデス・ザビアボロスの件をはじめ、ザビーネさん達の色んな想いだって共有してきた。
 それだけじゃない。練達、再現性東京でムラデンとストイシャと楽しい思い出だって作ったし彼らとかけがえのない絆を結んだ人たちだっている。それらは全部尊い宝物と呼べる大事な物だと私は思う。
 そんな想いを、命を全く考えずに存在その物を歪めたり食らいつくそうなんて絶対に許さない。私は正義のヒーロー! 終焉に来る獣なんて倒してみせる!」
 決意と、勇気と、叫びとともに、ルビーは紅の月をたたきつけた。ぐ、とシルヴァリィが圧される。
「……!」
 その時、初めてシルヴァリィの顔がゆがんだ。不利に立たされている、それをシルヴァリィが理解した瞬間だった。
「……どうして。わたしは、この領域の主――」
「あとから勝手にやってきて、えらそうなことを言わないでください!」
 仲間たちの背中を支えつつ、ねねこはいう。
「ここは、ザビーネさんたちのいろいろな思い出のある場所です! ここからでていけ!」
 ねねこの治療術式が、仲間たちの背中を支え、押した。一気呵成の攻撃に、シルヴァリィの生命は千々に消えていく。
「……そんな。おなかがすきました。これほどまでに……!」
「べーっだ! あなたはもう、おなか一杯に食べることなんてできないよ!
 ボクには、お姉さまもついている! この結晶は、ボクの心を満たしてくれる!」
 ソアが駆ける――追い詰められてこそが獣の本領。窮鼠猫を噛むのならば、虎は魔をも噛み殺そう!
「これは狩りじゃない! 殺すための、一撃!」
 ソアが、シルヴァリィに組み敷く! 同時――その体から放たれたすさまじいまでの雷撃が、シルヴァリィを焼いた!
「! ! !」
 声にもならぬ断末魔を、シルヴァリィが上げた。仮に声帯のようなものがもされていたとしても、ソアの雷は瞬く間にそれを焼いて、声を上げることすらできなくしていただろう。いずれにしても、ソアのそれは、シルヴァリィを徹底的に焼き、穿ち、『殺し』た。
「――」
 言葉を上げることもできない。空より落ち、毒を喰らい、生まれた魔の生命体は、この世界で生まれた雷によって焼き尽くされ、その生命を終わらせたのだ。
 黒焦げになった体が倒れ伏し、すぐにチリになってきえた。
「一息をついている暇はないぞ!」
 汰磨羈が叫ぶ。
「そうだ! 彩陽君、無事!?」
 叫ぶヨゾラに、彩陽はうなづく。
「まぁ、まだまだや」
 とはいえ、さすがにここまでグランザズを押さえた被害は大きい。痛みに顔をしかめつつ、そういう彩陽へ、
「引き継ぎます」
 ヴァイオレットがバトンタッチをする。
「さて、あとはこの子だけッスけど……!」
 イルミナが身構える。仲間たちの傷は深いが、しかしここにきて逃げ出すわけにはいかない。士気も覚悟も、まだまだ充分だった。
「終わらせてやるよ――グランザズ!」
 アルヴァが飛び込む。高く飛び上がり、狙撃銃のストックで叩きつけた。衝撃が、グランザズを地に叩き落す。グランザズが、ぐ、う、と呻くのへ、上空から飛び込んできた汰磨羈が、刃をたたきつける。がああ、と、グランザズが雄たけびを上げた。だが、勢いよく立ち上がると、グランザズは最期の咆哮を上げる。
「魔に堕ちたとて、その力は顕在か――すまんな、ザビーネ。私はどうも、御主からは、なにかを奪ってばかりな気もするよ」
「いいえ。いつもあなたは、辛い役目を背負ってくれましたから」
 そう、ザビーネは優しく笑った。
「彼も、辛いのでしょう。最期を」
「任せてほしいッス」
 イルミナが、ゆっくりと構えた。その両手に、青く輝く光の刃が躍る。
「おやすみなさい」
 たん、と、イルミナが踏み込んだ。そのまま、両の手をふるう。グランザズには、これは流石に耐えられる一撃ではなかった。す、と首筋に線が走り、そのままごろりと頭部が落ちて転がった。
「おわった、のですか?」
 ルーキスが言うのへ、ザビーネがうなづいた。
「ええ。ムラデンとストイシャたちも、うまくやってくれたようです。
 他の滅気竜も……もう」
 果たしてその言葉通りだろう、森はいつも通りの静けさを取り戻していた。決して爽快感のある場所ではないが、それでも、先ほどまで充満していた滅びの気配よりはずっとましだ。
「……すこしは、気が晴れた?」
 ソアが訪ねる。ザビーネは、一瞬、不思議そうな顔をしてから、笑った。
「ええ、ソア。すっきりしました」
 ふふ、と笑うのへ、ソアも笑って見せる。
「なら、いったん戻ろか」
 彩陽がそういって、
「申し訳ないけど……のんびりって場所とは違うからね」
「ええ。では、フリアノンに戻りましょう。
 おごり? をしますよ。
 ソチャでよければ」
「そこはいいのを用意してくれよ」
 アルヴァが鼻を鳴らした。
 いずれにしても、領域を襲った魔はは祓われ。
 再び、静寂の地は、静けさを取り戻した――。

成否

成功

MVP

火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 星の獣は散り、ただ、いつも通りの静寂が。

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